1. こんぶの あじの しょうたいは、なんだったの?
1. 昆布だしの味の正体を、池田菊苗はどうつきとめたのか
1. 1908年、昆布だしの味がグルタミン酸と特定された
こんぶの だしの あじは、むかしから みんな しって いました。でも、あじの もとが なにかは、1908年まで わかって いませんでした。
つきとめたのは、いけだ きくなえ という 学者です[1]。いけだ さんは、こんぶの だしを あじわううちに、あまい、しょっぱい、すっぱい、にがいの どれとも ちがう あじが ある、と たしかめました[2]。
その あじの もとは、グルタミン酸と いう ものでした。いけだ さんは、この あじを 「うま味」と なづけました。いまも つかわれる ことばです。
「つまが かって きた こんぶが きっかけ」と いう おはなしも あります。でも、いまは ちがう かんがえも あるようです[1]。
では、かつおぶしの あじも、おなじ ものなのでしょうか。
昆布だしの味は昔から親しまれてきましたが、その味が何でできているのかは、長いあいだ分かっていませんでした。池田菊苗は1907年に昆布のうま味の研究を思い立ち、翌1908年に、昆布のうま味成分がグルタミン酸だとつきとめました[1]。
池田は、昆布だしを味わううちに、甘味・塩味・酸味・苦味のどれとも違う味があると確信したと伝えられています。その味を「うま味」と名づけたのも池田です[2]。グルタミン酸はアミノ酸の一種です。
研究のきっかけについては、「妻が買ってきた昆布を見て思い立った」という話が長く知られてきました。ただ、近年は否定する説もあり、幼いころから昆布だしに親しんでいたので若いころから昆布のうま味に目をつけていた、という説明も出ています[1]。どちらが本当かは、ここでは決められません。
はっきり言えるのは、昆布のうま味の中心がグルタミン酸だという点です。では、もうひとつのだしの材料、かつお節のうま味も同じ成分なのでしょうか。それを知るには、かつお節がどんな食べものなのかを、先に見ておく必要があります。
昆布だしの味の正体は、1908年にグルタミン酸と特定された。突きとめた池田菊苗は、1907年に昆布のうま味成分の研究を思い立ち、翌年に成果を得ている[1]。グルタミン酸という物質そのものは、それより前の1866年にドイツで見つかっていたとされる。池田の仕事は、その物質が昆布の味を担っていると示した点にある。
池田は昆布だしを味わううちに、甘味・塩味・酸味・苦味の4つの基本味とは違う味があると確信し、グルタミン酸がその成分だと見いだして「うま味」と命名した[2]。この資料は味の素グループの企業史であり、国立国会図書館の資料と合わせて読むと、着想の年(1907年)と発見の年(1908年)が区別できる。
研究のきっかけは、「妻が買ってきた昆布を見て思い立った」という偶然の話として長く知られてきた。しかし近年は、これを否定する説もある。幼いころから昆布だしに親しんでいたため、若いころから昆布のうま味に着目していたというものだ[1]。どちらの話も決め手はなく、はっきりしているのは、グルタミン酸が昆布のうま味の中心だという点である。
ここで疑問が出る。だしの材料は昆布だけではない。かつお節のうま味も、グルタミン酸なのか。それを考える前に、かつお節がどんな食べものなのかを押さえておく。
2. かつおぶしは、どうして かたく かわいて いるの?
2. かつお節は、なぜ煮て、いぶして、カビまで付けるのか
2. かつお節づくり:煮熟・焙乾・カビ付けで水分を減らす
かつおぶしは、さかなの かつおから つくります。まず、かつおを 80度ぐらいの おゆで、1時間から 1時間はんほど にます[4]。
つぎは、けむりで いぶしながら かわかします。これを 10回から 20回ほど くりかえします[4]。
そこへ、カビを つける しごとが くわわります。いぶして かわかす ことと カビを つける ことを くりかえして、水分を ぎりぎりまで へらすと、びせいぶつが そだてない ように なります。こうして できた かつおぶしは、水分が 26%いかです[3]。およそ 4ぶんの 1ぐらいです。
カビを 2回いじょう つけた ものは、「ほんかれぶし」と よばれます[4]。かたくて かるい かつおぶしは、ほぞんしょくでも あるのです。
さて、この かつおぶしの あじは、なにから できて いるのでしょう。
かつお節は、かつおの身を煮て、煙でいぶしながら乾かしたものです。水分が26%以下、およそ4分の1ほどになるまで乾燥させます[3]。
農林水産省の資料によると、作り方はこうです。まず、約80℃で60〜90分ほど煮ます。これを煮熟といいます。そのあと、煙でいぶして乾かす焙乾を、10〜20回ほど繰り返します[4]。
ここで、カビが登場します。焙乾とカビ付けを繰り返して水分を減らし、極限まで乾燥させると、微生物が育てない環境になり、保存性が高まるとされています[4]。カビ付けを2回以上した節を「本枯節」と呼びます。本枯節は、表面を削ってカビを付け、4〜6か月ほど熟成させるそうです[3]。カビ付けや熟成の期間は資料や作り手によって違うので、ここでは農林水産省のページの書き方をそのまま紹介しています。
つまりかつお節は、おいしさのためだけでなく、魚を長く置いておくための工夫でもあります。固くて軽いのは、水分がそれだけ少ないからです。それでは、この固い節に残っているうま味は、何という成分なのでしょうか。
かつお節の作り方を読むと、工程のほとんどが「水分を減らす」ことに向けられている。農林水産省の資料では、かつおを煮て焙乾を繰り返し、水分が26%以下になるようにしたものがかつお節である[3]。26%という数字は、およそ4分の1にあたる。
最初の工程は煮熟(しゃじゅく)で、約80℃で60〜90分ほど煮る。続く焙乾(ばいかん)は煙でいぶしながら乾かす作業で、10〜20回ほど繰り返される[4]。そこへカビ付けが加わり、2回以上カビ付けした節は本枯節(ほんかれぶし)と呼ばれる。
カビ付けの意味について、同じ資料は、焙乾とカビ付けの繰り返しで水分量を減らし、極限まで乾燥させることで、微生物が成育できない環境となり保存性が増すと説明する[4]。つまりカビは、傷みの原因の微生物を寄せつけない状態にするための工程の一部として使われている。カビがだしの風味にどう関わるかは、この資料には書かれていない。
本枯節は、表面を削ってカビを付け、4〜6か月程度熟成させるとされる[3]。別の資料にはカビ付けや熟成の期間が違って書かれたものもあり、期間は製法や作り手でも異なるため、数字を1つに決めない。いずれにせよ、かつお節は魚を長く保存するために磨かれた形でもある。
では、その乾いた節の中に残っているうま味は何か。昆布のグルタミン酸と同じなのか、それとも別の物質なのか。
3. かつおぶしの うまみは、だれが みつけたの?
3. かつお節のうま味は、昆布とは別の成分だった
3. 1913年、かつお節のうま味成分としてイノシン酸が見つかる
かつおぶしの うまみの もとは、グルタミン酸では ありません。「イノシン酸」と いう、べつの ものです[5]。
1913年に、こだま しんたろう という 人が、イノシン酸の なかまが うまみを もつ ことを みつけました。かつおぶしの あじの おもな もとは、このイノシン酸だと されて います[5]。
こんぶの もとは グルタミン酸、かつおぶしの もとは イノシン酸。ふたつは ちがう ものです。
では、ちがう もの どうしを あわせると、どうなるのでしょう。
かつお節のうま味の中心は、イノシン酸という成分です。昆布のグルタミン酸とは別の物質です。かつお節の味の主成分はイノシン酸だと、日本大百科全書はまとめています[5]。
見つけたのは、小玉新太郎だとされています。1913年に、かつお節のうま味成分のひとつとして、イノシン酸のヒスチジン塩にうま味があることを発見しました[5]。池田菊苗が昆布の研究をしてから、5年ほどあとのことです。
昆布のグルタミン酸と、かつお節のイノシン酸。名前も、もとの食べものも違う2つの成分が、日本のだしの二本柱になっています。2つを一緒にすると、味の強さはどう変わるのでしょうか。
かつお節の味の主成分は、5'-イノシン酸である[5]。昆布のグルタミン酸(アミノ酸)とは別の物質で、だしの2つの柱は、化学の面でも別々の成分だということになる。
この発見は1913年である。小玉新太郎が、かつお節のうま味成分のひとつとして、イノシン酸のヒスチジン塩がうま味をもつ物質であることを見いだした[5]。池田が昆布の研究で成果を得た1908年から、5年ほどあとにあたる。ここで読んだのは日本大百科全書の項目であり、小玉の論文そのものではないため、発見の細部は原典で確かめる余地がある。
昆布はグルタミン酸、かつお節はイノシン酸。別の成分を出す材料を同じ鍋に入れたとき、味の強さは単純に足し合わさるのか。それとも、それ以上のことが起こるのか。次の章では、学校給食の資料などから、この点を読む。
4. ふたつを あわせると、あじは どう かわるの?
4. 合わせると強まる「相乗効果」と、混合だしの作り方
4. 相乗効果:2倍以上という説明と、資料での倍率の違い
こんぶの グルタミン酸と、かつおぶしの イノシン酸が いっしょに あると、うまみが ぐんと つよく なります。これを 「そうじょうこうか」と いいます[6]。
かわさき市の きゅうしょくの しりょうは、あわせると 2ばい いじょうに なると せつめい して います[7]。ほしした しいたけの グアニル酸も、うまみの もとです[6]。
この しりょうに のって いる つくりかたは、こうです。水 1.2リットルに、こんぶ 4グラム、かつおぶし 40グラムを 30分いじょう つけます。わきたつ すこし まえに、こんぶを とりだします[7]。
この つくりかたの 大きさは、おおぜいぶんです。おうちでは 4ぶんの 1に して、水 300ミリリットル、こんぶ 1グラム、かつおぶし 10グラムに すれば、くらべられます。
昆布のグルタミン酸と、かつお節のイノシン酸が一緒にあると、うま味が強まります。これを「うま味の相乗効果」と呼びます[6]。干ししいたけのグアニル酸も、うま味の成分のひとつです。
強まる大きさについて、川崎市の学校給食の資料は、昆布とかつお節を合わせた混合だしは「2倍以上にうま味が増す」と説明しています[7]。倍率の言い方は資料によって違うといわれますが、この記事で紹介するのは、この川崎市の資料にある「2倍以上」です。2倍とは、感じ方を数えたものではなく、資料の説明をそのまま紹介した数字です。
同じ資料には、混合だしの作り方も出ています。水1.2Lにこんぶ4gとかつお節40gを入れ、30分以上つけておきます。沸騰する直前に昆布を取り出す、という手順です[7]。
この量を4分の1にすれば、家庭向けの小さな分量になります。水300mL、昆布1g、かつお節10gです(4分の1にした数字は、この記事での計算です)。昆布の4gを4で割ると1g、40gは10gなので、比も同じです。
では、味の違いを、自分の舌で比べてみるには、どうすればよいのでしょうか。
昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸が一緒にあるとき、うま味は単純な足し算以上に強まる。これが「うま味の相乗効果」である[6]。宝酒造の調味料の知識のページでは、倍率の記載はなく、「飛躍的に強まる」という書き方にとどまる。
倍率を示すのは、川崎市教育委員会の混合だしの資料である。こんぶのグルタミン酸とかつお節のイノシン酸を合わせると相乗効果が生まれ、2倍以上にうま味が増すと説明されている[7]。倍率は資料によって「2倍以上」のほか、もっと大きい数字を挙げるものもあるとされる。それを一次の文献で確かめられていない以上、この記事では「2倍以上」を、学校給食向けの説明として紹介するにとどめる。
そのうえで、同じ資料の作り方は、水1.2Lにこんぶ4g、かつお節40gを30分以上つけ、沸騰直前にこんぶを取り出すというものだ[7]。昆布は4÷1200=約0.33%、かつお節は40÷1200=約3.3%の濃さになる(水1mLを1gとみなした計算)。昆布の約10倍の量のかつお節を使うことになり、比は1:10である。家庭で小さく作るなら、4分の1の水300mL・昆布1g・かつお節10gで、濃さも比も変わらない。これはこの記事での計算である。
なお、干ししいたけのグアニル酸は、昆布・かつお節とは別の第三のうま味成分である。発見の年は資料で食い違うため、ここでは年を書かない。
相乗効果が起こる理由、つまり分子のレベルで何が起きているのかは、今回使った資料には書かれていない。読者が次に調べるなら、そこが入り口になる。
5. おうちで、あじを ひとつずつ くらべて みよう
5. 家で、だしの味を1つずつ比べる
5. 家で確かめる方法と、原典の読み方
だしを つくるときは、かならず おとなと いっしょに やりましょう。おゆは あついので、やけどに きを つけて ください。
こんぶだけ、かつおぶしだけ、ふたつ いっしょ。この 3つを、水 300ミリリットルずつで つくって、なめて くらべます。あじを かんじる ときは、しおなどを いれないで、そのまま かくにんして みましょう。
あじの かんじかたは、人ごとに ちがいます。「2ばいに なった」と かんじなくても、まちがいでは ありません。ちがいが あるか、ないか、ぜひ しらべて みて ください。
3つのだしを味わって比べる
家に昆布とかつお節があれば、大人と一緒に、3つのだしを作って比べられます。水300mLずつに、昆布だけ(1g)、かつお節だけ(10g)、両方(昆布1gとかつお節10g)を入れ、それぞれ30分以上つけます(川崎市の資料の「30分以上つける」にならいました)。そのあと火にかけるときは、必ず大人が火を使い、やけどに気をつけてください。沸騰する直前に昆布を取り出す、という川崎市の資料の手順に合わせます[7]。3つとも同じ手順にそろえると、比べやすくなります。
塩などは入れず、少しずつ味見して、違いを言葉にしてみてください。味の感じ方は人によって違うので、「2倍」と感じなくても間違いではありません。昆布だけ、かつお節だけの量は、川崎市の分量の考えを使った、この記事の試し方です。
原典を読む
池田の発見については、国立国会図書館の「ほるぷ 日本の科学者」のページが読めます。かつお節の作り方は、農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」に出ています。川崎市の資料は、混合だしの作り方をそのまま確かめられます。出典欄から探してみてください。
家庭で確かめるなら、水300mLを3つ用意し、昆布1g、かつお節10g、その両方をそれぞれ使う。川崎市の4gと40g、水1.2Lを4分の1にした分量である[7]。それぞれ30分以上つけ(川崎市の手順にならう)、そのあと大人が火にかけ、沸騰直前に昆布を取り出す。3つとも同じ手順でそろえる。味を見るときは塩を足さず、少しずつ口にする。
昆布だけ・かつお節だけの試し方は、資料に直接書かれた手順ではなく、この記事が混合だしの分量を応用した方法である。「2倍以上」を測る実験にはならず、感じ方には個人差が出るため、ちがいがあるかを自分の言葉で書き残す程度に考える。
原典は、国立国会図書館の「ほるぷ 日本の科学者(うま味の発見)」、農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」の「かつお節」と「節類」、日本大百科全書のイノシン酸の項、川崎市教育委員会の「混合だし」の資料である。特に、かつお節の製法は農林水産省の2つのページで書き方が少し違うので、読み比べると、期間や回数が資料ごとに違うことを自分の目で確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。うま味の相乗効果の倍率やかつお節づくりの期間は、資料や作り手によって違う場合があります。
- 国立国会図書館「ほるぷ 日本の科学者(うま味の発見)」 https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/17/3.html (池田菊苗とグルタミン酸、きっかけの説)
- 味の素グループ「創業の物語」 https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/aboutus/history/story/01/ (うま味の命名)
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑 かつお節」 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/menu/katuobusi.html (かつお節の定義、本枯節の熟成)
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑 節類」 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/bunrui/fushirui.html (煮熟・焙乾・カビ付け)
- 日本大百科全書「イノシン酸」(コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%83%B3%E9%85%B8-3143279 (かつお節のうま味成分)
- 宝酒造「調味料の知識 うまみ」 https://chomiryo.takarashuzo.co.jp/knowledge/detail/113 (相乗効果)
- 川崎市教育委員会「混合だし(こんぶとかつお節)」 https://www.city.kawasaki.jp/880/cmsfiles/contents/0000125/125035/kongoudasi.pdf (2倍以上の説明と作り方)
なおした ところ
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