1. ねて いる イルカは、目が どう なって いるの?
1. 眠るイルカは、片目を閉じている
1. 半球睡眠と反対側の目
イルカの ねむりを しらべた 研究では、いつもと ちがう ことが わかりました。脳の 半分だけが ふかく ねむり、もう 半分は おきて いる ときの ようすを 見せたのです[1]。
これを 「はんきゅうすいみん」と いいます。
目は、脳と 左右が 入れかわって つながって います。右の 脳が ねむると、左の 目が とじたり、半分 とじたり します。おきて いる ほうの 脳と はんたいがわの 目は、ほとんど ひらいて いました[2]。
たとえば、へやが ふたつ ある 家で、かた方の 電気だけ けして いる ような ものです。ただし 本当の 脳は、電気の スイッチほど かんたんでは ありません。
イルカやクジラの仲間の睡眠を脳波で調べると、脳の片方の半球だけが深い眠りの波を出し、もう片方は起きているときに近い波を出していました[1]。これを半球睡眠といいます。
目は、脳と左右が交差してつながっています。右の半球が眠ると左目が閉じ、あるいは半分だけ開いた状態になります。起きているほうの半球と反対側の目は、ベルーガとバンドウイルカの記録では95〜98%の時間、開いていたそうです[2]。
別の研究チームも、この深い眠りの波は反対側の目の閉じ方と必ず結びつき、飼育されたイルカは少なくとも片目を閉じていれば眠っているとみなされてきた、と述べています[4]。
家の片側の部屋だけ電気を消して、反対側はつけておくようなものです。ただし、実際の脳はスイッチのように切り替わるわけではありません。
2. ずっと 半分だけ ねて いるの? およぎながら ねむるの?
2. 泳ぎながら眠る ── 眠りの大半は半球睡眠
2. 半球睡眠の割合と持続時間
クジラや イルカの なかまの ねむって いる 時間の うち、7わから 9わは はんきゅうすいみんだと いう 研究が あります[2]。1日の 7〜9わを ねむる、という 意味では ありません。
りょうほうの 脳で 同時に ふかい ねむりの 波が 大きく 出る ことは、ふつうの ようすでは 記ろくされて いません。
はんきゅうすいみんは、ゆっくり およぎながらでも、水面に うかびながらでも、プールの そこで じっと しながらでも おきると いわれます。プールの そこで じっと して いた イルカでは、いきを しに 水面へ 出る たびに、少し 目が さめる 記ろくが あります。
バンドウイルカの 1回は、4分から 132分までで、へいきんは 42分でした。これは、かって いる イルカの じっけんの 数字です[2]。
クジラ類の眠りの70〜90%は半球睡眠だった、という記録があります[2]。「1日の70〜90%を眠る」という意味ではなく、眠っている時間の中での割合です。高電圧の深い眠りの波が両方の半球に同時に出る状態は、ふつうの条件では記録されていません。
半球睡眠は、ゆっくり泳ぎながら、水面に浮きながら、プールの底で静止しながらのどれでも起こるとされます。ただし、プールの底で静止していたバンドウイルカでは、息つぎのために水面に出るたびに、短く目が覚める記録があります[2]。
バンドウイルカの半球睡眠は、1回が4分から132分で、平均は42分でした。これは飼育された個体での実験の値で、野生のイルカの決まった数字ではありません[2]。野生では脳波を測りにくく、記録の多くは飼育下のものです。
3. 「いきは いしきして する」って、本当?
3. 「呼吸は意識してする」という昔の説と、その反論
3. 随意呼吸説(Lilly 1964)と麻酔実験(Mukhametov)
昔は、「イルカは、いきを 自分の 気もちで して いる。だから ねむると おぼれる」と 考えた 人が いました。1964ねんの Lilly という 人の 考えです[2]。
でも 1969ねんに、McCormick という 人が、イルカの いきも、血の 中の さんそや 二さん化たんその ぐあいに あわせて 起こると しめしました[2]。
その あと、くすりで りょうほうの 脳を ふかく ねむらせる じっけんが ありました。イルカの いきが とまり、じんこうこきゅうが ないと 死んで しまう ようすに なりました。この じっけんから、「いきを つづけるには、少なくとも かた方の 脳が はたらく ひつようが ある」と いう 考えが 出ました[2]。
けれども、いまの まとめの 論文には、「ねむって いる あいだに、おきている ほうの 脳が いきを 動かす 場所を コントロールして いる という しょうこは、今のところ ぜんぜん ない」と 書かれて います[2]。
「イルカの呼吸は自分の意思でするもので、眠ると溺れてしまう」という説は、1964年のLillyという研究者が「ほとんど、完全にではなくても、随意的だ」と推測したことから広まりました[2]。
ところが1969年、McCormickという研究者は、イルカの呼吸も、血液中の二酸化炭素や酸素の量を感じ取る体の仕組みで動くと示しました[2]。意識しなくても、体が息をさせるということです。
その後、麻酔薬で両方の半球を深く眠らせる実験がありました。イルカの呼吸は止まり、人工呼吸をしなければ死んでしまう状態になりました。Mukhametovらはここから「呼吸を保つには、少なくとも片方の半球が働く必要がある」と結論しました[2]。
ただ、いま読める総説は、眠っている間に起きている半球が脳幹の呼吸の回路を制御している証拠は、今のところ全くないと書いています[2]。「呼吸のために半球睡眠になった」と言い切れないのは、このためです。
「イルカの呼吸は随意的で、睡眠すれば溺れる」という説は、Lilly(1964)の「完全にではなくとも、ほぼ随意的」という推測に始まる。しかしMcCormick(1969)は、イルカの呼吸も末梢・中枢の化学受容器(CO₂・O₂)に駆動されうることを示した[2]。
ペントバルビタール麻酔で両半球を深い徐波睡眠にすると、呼吸が停止し、人工呼吸なしには死に至った。Mukhametovらはこの結果から、呼吸の維持には少なくとも片半球の活動が必要と結論した[2]。他方、同じ総説は、半球睡眠中に覚醒半球が脳幹の呼吸回路の制御に関わるという証拠は現時点で全くない、とも記す[2]。したがって、麻酔実験の結論と現在の見解には食い違いがあり、「呼吸のために半球睡眠が進化した」とは断定できない。
4. なぜ 半分ずつ ねむるように なったの?
4. 半分ずつ眠る理由は、まだ決着していない
4. 機能仮説 ── 遊泳・見張り・保温
くわしい 理由は、まだ きまって いません。せつめいの 一つに、こんな ものが あります[1]。
おきて いる ほうの 脳が、およぐ ことと、いきを しに うかぶ ことを うけもつ。あいて いる 目で、てきが いないか 見はる。ひれや しっぽを 動かして 水面の ちかくに うかび、からだを あたたかく たもつ。
どれも 「そうかもしれない」と いう かんがえです。しょうこが そろった 理由としては、書かない ほうが いいでしょう。
半球睡眠の役目については、いくつかの説明があります。起きているほうの半球が、泳ぐことと息つぎに浮かび上がることをうけもつ。開いている片目で、敵が近づいていないか見張る。ひれや尾を動かして水面近くに浮かび、体を温かく保つ[1]。
これらは「そうかもしれない」という説明で、証明された理由ではありません。呼吸が主な理由という説明にも、前の章で見たように慎重な見方があります。半球睡眠がなぜ生まれたかは、まだ研究者の間で決着していません。
半球睡眠の機能としては、覚醒半球が遊泳と呼吸のための浮上を担い、開いた眼で捕食者を監視でき、ひれや尾を動かして水面近くに浮かぶことで体温を保てる、といった説明が紹介される[1]。ただしこれらは機能の説であり、実証された理由として扱うべきではない。
呼吸説が主因として決着していないことは3章のとおりで、半球睡眠の適応的意義は現在も議論の途上にある。
5. うまれた ばかりの 子は、ねむらないの?
5. 生まれたての子と母親は眠らない? ── Natureで交わされた論争
5. 新生児と母親の睡眠 ── 2005年の報告と2006年の反論
2005ねん、Lyamin という 人たちが、シャチと バンドウイルカの 生まれた ばかりの 子と おかあさんについて、Nature という ざっしに 書きました。うまれてから 1か月ほど、じっと うごかずに 休む ようすが ほとんど、または まったく 見られず、24時間 うごきつづけて、じゃまな ものを さけて いた という 記ろくです[3]。
休む 時間は、数か月かけて 大人と 同じ くらいまで ふえ、大人を こえる ことは ありませんでした。
すると 2006ねんに、ほかの 研究チームが 「ちがうのでは」と 書きました。バンドウイルカの おやこ 3くみを 見た ところ、水中で ゆっくり およぎながら 休む 「スイムレスト」を、見て いた 時間の 25%から 41%ほど して いた と いう のです。水中では かた目か りょう目を とじ、いきの ために うかぶと 目を あけて いました[4]。
水面での 目だけを 見て いると、水中の 休みを 見のがす かもしれない、という 指てきです。この あとも あらそいは つづきました。
2005年、Lyaminらはシャチとバンドウイルカの新生児と母親について、Nature誌に報告しました。出産後およそ1か月間、じっと動いて休むような典型的な睡眠行動をほとんど、または全く見せず、24時間動き続けて障害物を避けていた、という観察です。休む時間は数か月かけて大人の水準まで増え、それを超えることはありませんでした[3]。
「眠らない」と断言した報告ではなく、「典型的な睡眠行動が見られない」という観察です。
翌2006年、同じNature誌に別の研究チームが反論を載せました。バンドウイルカの親子3組を観察すると、子も母親も「スイムレスト」(ゆっくり泳ぎながらの休息)を観察時間の約25〜41%とっていました。水中では片目か両目を閉じ、息つぎで浮上したときは目を開けていたそうです[4]。水面での目の状態だけを見ると、水中での休みを見落とす、という指摘です。
数字は、子について調べた親子2組の値の範囲です。
Lyaminら(2005)は、シャチとバンドウイルカの新生児と母親が、出産後約1か月間、典型的な睡眠行動をほとんど、または全く示さず、24時間活動して障害物を回避したとNature誌に報告した。休息時間は数か月をかけて成獣の水準まで増加し、それを超えなかった[3]。「睡眠がない」ではなく「典型的な睡眠行動が見られない」という観察である。
2006年、同誌の別の研究チームは、バンドウイルカ親子3組の観察で、新生児と母親がスイムレスト(遊泳を続けながらの水中での睡眠行動)を観察時間の約25〜41%示し、水中では片眼または両眼を閉じ、呼吸のための浮上時には開眼していたと反論した。Lyaminらは水面での眼の状態しか見なかったために見落とした可能性が指摘された[4]。数値は新生児2頭の観察範囲(約31〜41%、約25〜33%)である。
6. どれくらい ずっと おきて いられるの?
6. 15日間、見張りを続けたイルカ
6. 長時間の警戒課題と睡眠不足の兆候
アメリカの 研究で、2とうの バンドウイルカが、音を 出して まわりを さぐる 力を 使い、目じるしの 音を 見つけつづける しごとを しました。2006ねんの 実験では 5日間、2012ねんの 論文では、2とうの 5日間の 実験に つづいて、1とうが 少なくとも 15日間、ほとんど まちがえませんでした[5]。
5日間の 実験では、ねむたさの しるしや、そのあとの ねむり ぐあいの 大きな かわりは 見られなかった そうです。
ただし 15日間の 研究では、ねむりを はかって いません。はんきゅうすいみんが この 力を ささえたのかは、書いた 人たちも 「しょうこは 足りない」と 考えて います。
アメリカの研究で、2頭のバンドウイルカが、ランダムに鳴る目標の音を、エコーロケーションで探して報告し続ける課題に取り組みました。2006年の実験では5日間(120時間)、2012年の論文では、2頭を対象とした5日間の実験に続き、1頭を対象とした少なくとも15日間の実験で、途切れず正確に報告し続けたとされます[5]。
5日間の実験では、行動や血液の指標に睡眠不足の兆候も、その後の目立つ睡眠のやり直しも見られなかったそうです。
ただし、睡眠のやり直しがなかったのは5日間の実験の話で、15日間の論文では睡眠自体を測っていません。半球睡眠がこの長い見張りを支えたのかどうかは、論文の著者も、半球睡眠が支えたと示す証拠は足りないと認めています。
Ridgwayら(2006)の実験では、2頭のバンドウイルカがランダムに提示される目標音を、5日間(120時間)連続で高い検出率で報告した。Branstetterら(2012)は、2頭を対象とした5日間の試行に続き、1頭を対象とした少なくとも15日間の試行で、エコーロケーションによる警戒を続け、目標を正確に報告したと述べる[5]。5日間の実験では、行動・血液指標に睡眠不足の兆候や、その後24時間の顕著な睡眠リバウンドは見られなかったと報じられている。
ただし、リバウンドなしの結果は5日間の実験のもので、15日間の論文では睡眠を測定していない。半球睡眠との関係は、半球睡眠が長時間の警戒を支えたと示す証拠は不十分だと、著者自身が述べている。
7. 水族館で イルカの 目を 見て みよう
7. 水族館で、目と泳ぎ方を見てみる
7. 出口 ── 目の開閉を見る/原典に当たる
水族館に 行く ことが あったら、イルカを ゆっくり 見て みましょう。
目を とじて いる イルカは いますか。右の 目ですか、左の 目ですか。その イルカは、どんな ふうに およいで いますか。いきを しに うかぶ とき、目は どう なりますか。
見ただけでは、ねむって いるか どうかは、本当は わかりません。それでも、この 記事で 読んだ ことを たしかめる ヒントに なります。ガラスを たたいたり、フラッシュを 使ったり しないで、水族館の きまりを まもって 見て ください。
水族館でイルカを見る機会があれば、目の様子と泳ぎ方に注目してみてください。片目を閉じている個体はいるか。閉じているのは右か左か。そのとき、どんな泳ぎ方をしているか。息つぎで浮かぶとき、目はどうなるか。
目の様子だけで眠っているかどうかは断定できません。それでも、この記事で読んだことを、自分の目で確かめる手がかりにはなります。ガラスをたたく、フラッシュをたくなどはせず、施設のきまりを守って観察してください。
もっと調べたいときは、飼育員さんの解説や、水族館の公式サイトの説明を読むのもよい方法です。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
アクセス日はいずれも2026-09-29。Nature誌の公式ページは確認できないものがあり、その場合は大学が公開している論文の本文に基づく。
- Scientific American「Meet the Animals That Literally Sleep with One Eye Open」。 https://www.scientificamerican.com/article/meet-the-animals-that-literally-sleep-with-one-eye-open/ (半球睡眠のあらましと、役目についての説明)
- Lyamin & Siegel, Sleep in Aquatic Mammals (Handbook of Behavioral Neuroscience ch.25)。 https://www.semel.ucla.edu/wp-content/uploads/2026/01/19_aquatic_mammals_proof_lyamin_siegel.pdf (半球睡眠の割合・目の開閉・継続時間・呼吸説の経緯について)
- Lyamin et al., Nature 435, 1177 (2005)。 https://teams.semel.ucla.edu/sites/default/files/sleep/pdf/05-postpartum-cetacean-nature.pdf (新生児と母親の観察について)
- Sleep in continuously active dolphins, Nature 441, E9 (2006)。 https://www.nature.com/articles/nature04898 (2005年の報告への反論について)
- Branstetter et al., PLoS ONE (2012)。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0047478 (長時間の見張りの実験について。5日間の実験は検索結果の抜粋のみ確認)
なおした ところ
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