1. きいろい 実の 下に、なにが あるの?
1. 黄色い実の下に、白い殻がある
1. 種子を包む二つの層 ── 外種皮と内種皮
いちょうの 木の 下に おちて いる、まるい きいろい もの。あれが、ぎんなんの 「外がわ」です。さわると ぬるっと して、においも あります。
この きいろい ところを とって あらうと、中から 白くて かたい 殻が 出て きます。この 白い 殻を、いちょうの 「種を つつむ かわ」と 考えます[1]。
「ぎん」は、この 白い 殻の 色の ことだ という みかたが あります[2]。きいろい 外がわでは なくて、においの 下に かくれて いる 白の ほうなのです。
ただし、ことばの 由来は、はっきり きまって いる わけでは ありません。「という みかたが ある」と 思って 読んでください。
いちょうの実は丸く、熟すと外側の層(外種皮)が黄橙色になります。その内側には、白い殻になった内種皮があり、これが種子を包んでいます[1]。道で踏んでしまうのは、外種皮のほうです。
ぎんなんを食べるときは、黄色くてにおいのある外種皮を取り去り、殻の中の「仁」を食用にします。内種皮は白くて堅く、2〜3本の稜(とがった筋)があります[1]。なお、専門の資料では、この硬い白い殻を「中間層」、その内側の薄い膜を「内種皮」と区別します。
ここで、「銀」の問いに戻ります。アメリカのオレゴン州立大学の植物解説は、「銀色」に見えるのは果肉のような外側の層ではなく、白く硬い種皮のほうだという解釈を紹介しています。研究者のキルシュナーとシーによるものです[2]。
ただし、これはあくまで「そう見る説がある」という段階です。辞書は「銀」の由来をはっきり決めてはいません[1]。
イチョウの果実(種子)は球形で、外種皮は熟すと黄橙色になり悪臭を放つ。内種皮は白色の堅い殻となって種子を包み、2〜3本の稜をもつ。食用にするのは、この殻の中にある種子の核(仁)である[1]。なお辞書は白い殻を内種皮と呼ぶが、植物学の専門資料では、硬い白い殻を中間層(sclerotesta)、その内側の薄い膜を内種皮(endotesta)と区別する。
では「銀」は、どの層の色なのか。オレゴン州立大学のランドスケープ植物の解説は、キルシュナーとシー(Hsieh)の解釈として、「銀色」に見えるのは果肉状の外側ではなく、白く硬い種皮(sclerotesta)だと紹介する[2]。外種皮は黄橙色で、名前の色とは合わない。そのため、辞書でいう白い内種皮(専門資料でいう硬い白い殻)が銀に見立てられたと考えるのは筋が通る。
ただしこれは大学サイトの引用による二次的な紹介で、辞書は「銀」の由来を確定していない[1]。以降は、この見方を軸に置きつつ、「杏」と読みの側から名前を確かめる。
2. 「ぎん」の 次の 「あん」は、なんの こと?
2. 「銀」の次の「杏」は、何を指すのか
2. 「杏」の字は何の種を指したか ── 銀のアプリコットか、銀のアーモンドか
ぎんなんは、「銀」と 「あん」と 書きます。「あん」は、あんずと 読む 字です。あんずは、うすい だいだい色の くだものの 名前です。
でも、ぎんなんと あんずは、にて いません。あんずの 実は あまくて やわらかいのに、ぎんなんの 外がわは くさい においが します。
中国の ことばを しらべた 研究者は、この 「あん」は、もとは 「あんずの 種の 中身」を さす ことばから 来たと 考えました。その ことばの 意味は、今では アーモンドの 種の ほうに うつって います[3]。
そこで この 研究者たちは、「銀の アーモンド」と 言う ほうが、今の ことばとして ふさわしい と しめして います[3]。ただし、これは 研究者の ていあんで、みんなが 使って いる いい方では ありません。
「杏」と聞くと、果物のあんず(アプリコット)を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが、ぎんなんの外種皮は甘くもやわらかくもありません。なぜ、この字がついたのでしょうか。
ハワイ大学の機関リポジトリにある論文(キルシュナーとシー、2012年)は、現代中国語の「銀杏」を、英語では「silver apricot」と訳すのが一般的だと述べます[3]。
同じ論文によれば、「杏」の部分は、中国医学で殻つきの杏の種(杏仁)を指す用語に由来します。その「杏仁」の意味は、現代では殻つきのアーモンドの種へ移りました。このため著者らは、「silver almond(銀のアーモンド)」のほうが、現代の訳として適切だと主張しています[3]。
これは著者らの提案で、広く定着した説ではありません。それでも、「杏」が果肉ではなく「殻つきの種」を指していたという考え方は、先ほどの「白い殻が銀」という見方とうまくかみ合います。
キルシュナーとシーの論文(2012年、Ethnobotany Research and Applications 10: 321–328)は、現代中国語の銀杏を「silver apricot」と訳すのが通例だと述べる[3]。しかし外種皮は甘くも柔らかくもなく、アンズの果肉とは性質が離れている。
同論文の要旨によれば、「杏」は中国医学で殻つきの杏の種(杏仁)を指す用語に由来し、その意味は現代では殻つきのアーモンドの種に移っている。そのため著者らは「silver almond」のほうが適訳だと主張する[3]。
この主張は著者らの提案であり、通説として確立したものではない。ただ、「銀」が白い種皮、「杏」が殻つきの種を指すとすれば、「銀杏」は「果肉ではなく、白い殻に包まれた種」を指す名として一貫して読める。ここで述べたのは論文の要旨にもとづく読みである。
3. 「ぎんなん」と 読むのは、どうして?
3. 「ぎんあん」が「ぎんなん」になった理由
3. 「ぎんなん」の読み ── 連声と唐音
「銀あん」は、むかしは 「ぎんあん」と 読んだ ようです。でも、「ぎんあん」より 「ぎんなん」の ほうが、口に 出しやすい ですよね。
国語じてんは、「ぎんなん」は 「ぎんあん」が かわった もの だと せつめいします。この 変わり方を 「れんじょう」と いう、と 書いて あります[1]。
また、「あん」を 「あん」と 読むのは、むかしの 中国の 音が 入って きた ものです。この 音を 「とうおん」と いいます[1]。
ためしに、「ぎんあん」と 3回 言ってから、「ぎんなん」と 言って みて ください。言いやすさが ちがうのが 分かります。
「銀杏」は、本来は「ぎんあん」と読む語です。それが「ぎんなん」になったのは、連声(れんじょう)という現象によるものと、国語辞典は説明しています。「あん(杏)」は唐音とよばれる、中国から伝わった読み方です[1]。
読みをたどると、「ぎんあん」という漢字音を、人が言いやすい形に変えてきたことが見えます。「ぎんなん」という柔らかい響きは、長い間の話し言葉の中で生まれたものです。
「ぎんなん」は「ぎんあん」の連声で、「あん(杏)」は唐音である、と辞書は記す[1]。
「杏」を「アン」と読むのは唐音で、中国から伝わった読み方の一つだ。つまり「ぎんなん」は、中国の音を借りた「ぎんあん」が、日本語の口に合う形へ変わった語だと読める。
読みも、中国由来の名を考える手がかりになる。
4. 「いちょう」と 「ぎんこう」の 名前は どこから?
4. 「いちょう」「Ginkgo」の名前も、銀杏からたどれる
4. 鴨脚から銀杏へ、そして Ginkgo へ
いちょうの 木の 名前は、いつ 生まれたのでしょう。むかしの 中国では、いちょうを 「あひるの 足」という 意味の ことばで よんで いました。
「ぎんなん」の 名前が 今のように 使われるように なったのは、さらに あとの 時代です。ろんぶんは、そうの 時代(960〜1279年)に なって 「銀あん」と いう 名前が 出てきて、古い 「ヤーチャオ」に かわった と のべます[3]。
また、国語じてんは、「いちょう」の 名は、この 「ヤーチャオ」から 来たと する みかたを のせて います[1]。
そして、世界で 使われる 木の 名前 「ギンクゴー(Ginkgo)」も、日本語の 「ぎんなん」が もとに なって います。きっかけは、ドイツ人の ケンペルが 1712年に 本に のせた つづりでした[4]。
木そのものの名前も、銀杏と深くつながっています。論文によると、現代中国語の「銀杏」という名は宋代(960〜1279年)に現れ、古い名の「鴨脚」(アヒルの足の意味)に置き換わっていきました[3]。
「いちょう」の語源は、江戸時代から「一葉」と考えられてきました。しかし国語辞典の補説は、「鴨脚」の宋音(ヤーチャオ)に由来し、歴史的仮名遣いは「いちゃう」が正しいとする説を紹介しています[1]。
英語や学名の Ginkgo は、「銀杏」の日本語読みを、ドイツ人のケンペルが1712年の著作に書きとめたつづりが定着したものです。のちに学名 Ginkgo biloba に使われました[4]。なお、つづりの理由は諸説あり、誤記と断定はできません。
「いちょう」も、世界の「Ginkgo」も、たどると中国の名前に行きつくという説明です。道で踏んだ実の名前は、海をこえて広がっていました。
中国では古くは、イチョウを「鴨脚」(アヒルの足の意味)と呼んだ。キルシュナーとシーの論文は、現代中国語の「銀杏」という名が宋代(960〜1279年)に現れ、古名の「鴨脚」に置き換わったとする[3]。つまり「銀杏」は、古い名にかわって現れた新しい呼び名だった。
「いちょう」の語源は、江戸時代以来「一葉」と説かれてきた。しかし国語辞典の補説は、「鴨脚」の宋音ヤーチャオに由来するもので、歴史的仮名遣いは「いちゃう」が正しいとする[1]。通説と新しい説が併記されている点に注意したい。
Ginkgo の綴りは、ケンペル(E. Kaempfer)が1712年の著作 Amoenitatum exoticarum に日本語読みを書きとめたものが定着し、リンネが学名 Ginkgo biloba に採用した、と説明される[4]。綴りが「Ginkyo」ではなく Ginkgo になった理由は諸説あり、誤記と断定する根拠は示されていない。
ここから、ぎんなんの名は、中国の名「銀杏」と日本語読み「ぎんなん」、世界語の「Ginkgo」の三つが連なっていることが分かる。語源の一部は確定していないため、断定を避けて読む必要がある。
5. ぎんなんの 殻を、手に とって 見て みよう
5. 殻つきのぎんなんで、「銀」を確かめる
5. 殻つきの実を手に取り、三つの資料を読み比べる
おうちの 人と、お店で 売っている 殻つきの ぎんなんを 見て みましょう。殻の 色は 白っぽく、ふくらんだ 形です。
よく 見ると、ふくらみの ふちに、とがった すじが 2本か 3本 あります[1]。「ぎん」は、この 白い 殻の 色の ことだと 考える みかたが あります。
ひろった ばかりの 実の きいろい 外がわは、手に つくと かぶれる ことが あります。かならず おうちの 人に まかせて、手ぶくろを して ください。
ためして みたら、この 白さを 「ぎん」と 見たのかな、と 思いうかべて みましょう。「ぎん」の 由来には、まだ きまって いない ところが あります。
お店で売っている殻つきのぎんなんがあれば、手に取って眺めてみましょう。白っぽい殻のふちに、2〜3本の稜が見えるはずです[1]。これが「銀」の指すと考えられている部分です。
拾ったばかりの実の黄色い外種皮は、肌に触れるとかぶれることがあります。観察には、お店で売っているもののほうが向いています。外種皮のにおいや毒性は、別の記事(ぎんなんのにおいの記事)で詳しく扱っています。
殻の色を見ると、「銀」の説を思い浮かべる手がかりになります。「銀」が果肉のにおいの下の白さを指すかどうかは、ことばの由来として、まだ決着のついていない部分です。
もっと読みたくなったら、国語辞典(デジタル大辞泉)の項目[1]と、キルシュナーとシーの論文の要旨[3]を読み比べてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:国語辞典、大学の植物解説、論文の要旨、辞典サイトを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- デジタル大辞泉「いちょう」「ぎんなん」(コトバンク)。https://kotobank.jp/word/銀杏 (果実の構造、食用部分、読みの成り立ち、「いちょう」の語源について)
- Oregon State University Landscape Plants「Ginkgo」。https://landscapeplants.oregonstate.edu/ginkgo (「銀」の色の解釈について。二次的な紹介)
- Kirschner & Hsieh「Ginkgo, apricot, and almond」(Ethnobotany Research & Applications 10:321-328, 2012)要旨。https://scholarspace.manoa.hawaii.edu/items/57abcbe2-f1bb-4eb3-999d-e2588c95eb1f (「銀杏」の名の変遷と「杏」の意味について。要旨のみ)
- Wiktionary「Ginkgo」。https://en.wiktionary.org/wiki/Ginkgo (英語名 Ginkgo の由来について。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
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