1. かんを たべるって、ほんとう?
1. 「缶を食べる」は本当か
1. 「缶を食べる」という評判と、ヤギが実際にしていること
やぎは なんでも たべる、という うわさが あります。かんを むしゃむしゃ たべる えも よく みます。
でも、アメリカの えいようの せんせいは「かんは たべられません」と はなしています。やぎは、かんの なかに たべものが はいっていれば、それを とりだして たべるのだそうです[6]。
やぎは、はじめて みる ものを まず くちで たしかめる くせが あると いわれます。ようじが なんでも くちに いれて みるのと にています。だから「なんでも たべる」と おもわれたのかも しれません。
では、ほんとうに たべる ものは なんでしょう。ある こうえんで、やぎを つかった くさとりが ありました。
「ヤギは缶まで食べる」という話は、マンガやイラストでおなじみです。けれども、アメリカの農業雑誌『モダン・ファーマー』が取材した栄養学者は、ヤギは缶を食べられないと答えています。容器の中に食べ物があれば、それを取り出して食べる、ということのようです[6]。
同じ記事は、アメリカのFDA(食品医薬品局)の資料にも「ヤギは缶を食べない」という節がある、と紹介しています。そこでは、ヤギは小さな子どものように、見慣れない物を口で確かめる癖があると説明されているそうです(雑誌記事を通した紹介です)。
つまり「何でも食べる」は、「何でも口に入れてみる」が少し変わって広まったのかもしれません。では、口に入れたあと、ヤギは何を食べ、何を残すのでしょうか。手がかりは、公園の除草にありました。
「ヤギは缶まで食べる」という通説は、少なくとも栄養学者の説明とは合わない。モダン・ファーマー誌の記事で、オーバーン大学の栄養学者は、ヤギは缶そのものを食べられず、容器の中に食べ物があれば取り出して食べるのだと述べている[6]。同記事は、米FDAの資料にも同趣旨の節があり、ヤギは幼児のように見慣れない物を口で確かめる癖があると説明されている、とも伝える。これは記者を通した紹介である。
だとすると、「何でも食べる」という印象は、口に入れて確かめる行動が、食べる行動と混同されて広まった可能性がある。確かめた結果として何が選ばれ、何が残されるのかを知るには、食べ残しを数えられる場面が要る。その一つが、公園の除草でヤギを使った観察である。
2. くさとりの やぎは、なにを さきに たべた?
2. 除草の現場では、好物から先になくなった
2. 除草の観察:好物から先に消え、イネ科は最後に回される
よこはま市の こうえんで、やぎに くさを たべて もらう 「くさとり」が おこなわれました。
やぎが いちばん すきだったのは、くずの はっぱです。そのつぎは、しらかしという きの はっぱでした[1]。
ところが、いねの なかまの くさは、すきな ものが なくなった いちばん さいごに、やっと たべ始めるそうです。
だから、くさとりを たのむ ひとは、どの くさが のこるかを 見ておく ひつようが あります。
では、やぎは くさより はっぱが すきなのでしょうか。
横浜市の土木事務所は、公園の除草にヤギを使った様子を紹介しています。ヤギが一番好んだのはクズの葉で、マメ科の植物が好きなようです。次に好まれたのはシラカシの葉でした[1]。
一方、イネ科の植物は、好物がなくなった最後に手をつけるのだそうです。ススキもあまり進んで食べなかった、と書かれています。ヤギを除草に使うときは、好物から消えて、イネ科が残りやすいと知っておく必要があります。植えた木の皮が角ではがされることにも注意が要る、とも書かれています。
ただし、これは一つの現場の観察です。高知大学が耕作放棄地(もう使われなくなった畑や田)で行った放牧の研究では、ススキはクズと並んで好まれていました。しかも、生後半年に満たない子ヤギはほぼクズとススキしか食べず、半年を過ぎると食べる草が広がったと報告されています[2]。場所や年齢で、好みは変わるようです。
ここまでで見えてきたのは、「ヤギは草よりも木の葉やつる草を好む」という傾向です。世界の研究では、これはどのくらい当てはまるのでしょうか。
横浜市土木事務所の報告によれば、公園の除草に使われたヤギが最も好んだのはクズの葉で、マメ科を好む様子がうかがえる。次がシラカシの葉で、ススキはあまり進んで食べられなかった。イネ科は好物が尽きた最後に手がつけられるという[1]。この報告では、植栽した樹木の皮が角ではがされる点も、除草に使う際の注意として挙げられている。
ところが、この好みは場所によって同じとは限らない。高知大学の耕作放棄地での放牧研究では、クズ・カラムシ・ススキ・ヤマグワへの嗜好性が高く、ススキが好まれた。他方、ヨウシュヤマゴボウなどの有毒植物や、カキドオシなどシソ科の草はほとんど食べられなかった。また、生後半年未満のヤギは主にクズとススキを食べ、半年を過ぎると食べる草本が広がった[2]。ススキの扱いが二つの報告で食い違うのは、年齢、季節、周囲にほかの植物がどれだけあるかが関わるためかもしれない。
いずれにせよ、好物の順位は固定ではなく、状況に応じて動く。では、その幅は世界の研究ではどの程度なのだろうか。
3. やぎは、くさより はっぱが すきなの?
3. 草より木の葉を好む。でも、まわりに何があるかで変わる
3. 木の葉を好む「中間型」:食べる割合は環境で4%から93%まで動く
せかいの けんきゅうでも、やぎは くさより、きの はっぱや、ちいさな えだが すきだと いわれます[4]。
ただ、はっぱしか たべない わけでは ありません。ある けんきゅうでは、かわいた とちで やぎが たべた じかんの ほとんどが はっぱでしたが、まわりに きが すくない ところでは、ずっと すくなく なりました[3]。
つまり、まわりに なにが あるかで、たべる ものは かわります。
もし すきな はっぱが すくない ところに、やぎが たくさん いたら、どうなるでしょう。のこった ものを たべ つづけて、つちが あれて しまう ことが あるそうです[7]。
国連の食糧農業機関(FAO)の報告書は、ヤギを「木の葉や低木を好む、中間型の選択採食者」と位置づけています。選択採食者とは、手当たり次第ではなく、食べるものを選ぶタイプという意味です。
報告書にある乾燥地の例では、ヤギは採食時間の73〜93%を木の葉や低木に使っていました。ところが、人が管理する灌漑地(水を引いた土地)では、年間を通した割合が4〜93%と大きく動きました。4%という低い値は、人の管理と木の少なさが影響した異常な例だとされています[3]。草を全く食べないのではなく、まわりに何があるかで食べ方が変わるのです。
アメリカ・ジョージア大学の資料には、ヤギは食事のうち草を20〜30%ほどにとどめたがる、とあります[5]。これは米国での目安で、季節や場所で変わります。日本のヤギにそのまま当てはまる数字とは限りません。
日本の百科事典も、ヤギは木の葉を好み、高い枝に登って葉を食べることもあると述べています。さらに、草の乏しい場所で飼いすぎると、土地が荒れることがあるとも述べています[7]。好物の少ない場所でヤギが増えると、残った植物への負担が大きくなるということです。
それにしても、ヤギはどうやって「いい部分」を選んでいるのでしょうか。
FAOの報告書は、ヤギを「木の葉・低木を好む中間型の選択採食者」とする。中間型とは、草だけを食べる牛や羊のような草食型でも、葉だけを食べる専門型でもない、という意味合いである。報告書にある乾燥地の例では、ヤギは採食時間の73〜93%を木の葉や低木に費やしていた。これに対し、灌漑地では年間の割合が4〜93%と幅があり、4%の値は人の管理と木の少なさによる異常値とされる[3]。つまり木の葉への傾きは強いが、固定された性質ではなく、利用できる植物の量に左右される。
米国獣医マニュアルも、ヤギは草よりも木の葉と小枝を好み、多くの飼料で消化しやすい部分を選ぶ傾向があると述べる[4]。ジョージア大学の普及資料は、ヤギは牛よりも選り好みが強く、唇で植物の質のいい部分を選べると説明し、食事に占める草は20〜30%程度を好むとしている。食べ方は牛よりもシカに近いという[5]。この20〜30%は米国での目安であり、日本のヤギや季節の違いを含めた一般値ではない。
この選択性には、環境への帰結がある。日本の百科事典は、樹葉を好む性質が強く、低木をかじり、高い枝に登って葉を食べることもあるため、植生の乏しい場所での過放牧は土地を荒らすことがあると述べる[7]。好物から先に消えるなら、好物の少ない土地ほど、残った植物への圧力が増すことになる。
では、選別を可能にしているのは何か。有毒な成分を含む植物を、ヤギはどう避け、あるいは扱うのか。
4. どうして えらべるの? くちと はなの はたらき
4. 唇で選び、においと雨にも敏感
4. 質のよい部分を拾う採食:唇による選別と、雨にぬれた草
やぎは、くちびるを じょうずに つかって、しょくぶつの いい ところだけを えらびとれる と いわれます[5]。うしより、しかに ちかい たべかただそうです。
はっぱ、め、きの かわも たべます[8]。そして、あめで ぬれた くさは、たべない と されています。ぬれた ところは すきでは ないようです。
さて、やぎが すきな はっぱには、にがい あじの もとが はいっている ことが あります。からだは だいじょうぶなのでしょうか。
ジョージア大学の資料によると、ヤギは唇を使って、植物の質のいい部分を選び取れるそうです。牛よりも選り好みが強く、食べ方はシカに近いと説明されています[5]。米国獣医マニュアルも、ヤギは消化しやすい部分を選ぶ傾向があるとしています[4]。
沖縄県の計画書には、ヤギは木や草の葉・芽・樹皮を食べ、高い所を好むとされています。湿気や雨が苦手で、雨にぬれた草は食べないとされる、という記述もあります[8]。「とされる」という書き方なので、ぬれた草は絶対に食べない、とまでは言えません。
こうして見ると、ヤギの「えらびや」は、気まぐれではなく、栄養のある部分、食べやすい部分を探す行動に見えます。ただ、木の葉には、食べにくくする成分が含まれることがあります。それをヤギはどう乗り切っているのでしょうか。
選別の道具になるのは主に唇だと説明されている。ジョージア大学の資料は、ヤギは唇で植物の質のいい部分を拾えるため、牛より選択性が高いとする[5]。米国獣医マニュアルも、ヤギが多くの飼料で消化しやすい部分を選ぶ傾向を指摘する[4]。ただし口の作りそのものを詳しく扱った学術資料は、今回の資料の中には含まれていない。
採食の対象と条件についても資料がある。沖縄県のノヤギ対策計画は、ヤギが木や草の葉・芽・樹皮を食べ、高い所を好み、湿気や雨を好まず、雨にぬれた草は食べないとされると記す[8]。「されている」という伝聞形である点に注意が要る。
選別が栄養や消化のしやすさを基準にしているなら、木の葉を主食とすることには代償もある。木の葉は植物が身を守るための成分を多く含むからだ。
5. にがい はっぱも だいじょうぶ? まだ わからない ひみつ
5. 渋い葉をどう食べるか:唾液の仮説はまだ決着していない
5. タンニンの代償と恩恵:唾液による中和という仮説の位置づけ
きの はっぱには、しぶい あじの もとが はいって います。「タンニン」と いいます。たべると、たべものの こなれ方が わるく なる ことが あります[4]。
ところが、ふしぎな はなしも あります。タンニンを ふくむ しょくぶつを たべると、おなかの 中の ちいさな むしが へる のに やくだつかも しれない、というのです。
やぎが こうした はっぱを たべられるのは、すこしずつ なれて たべるからだと いわれます[3]。
くちの なかの つばで しぶみを けしている、という せつも あります。でも、やぎが ほんとうに そうしているかは、けんきゅうしゃの 中でも いけんが わかれています[9]。
つばが しぶみに どう はたらくかは、まだ はっきり して いません。
木の葉には、植物が食べられないように身を守るための成分が含まれます。その代表がタンニンです。米国獣医マニュアルは、タンニンがたんぱく質と結びついたり、酵素の働きを妨げたりして、飼料の消化を下げると説明しています。その一方で、タンニンを含む植物を食べることが、家畜の体内の線虫(寄生虫)を減らす助けになるかもしれない、とも述べています[4]。
FAOの報告書によると、牛や羊のような反すう動物(食べ物をいったん胃に戻して、かみ直す動物)は、有害物質の多い木や低木を食べるのに比較的向いています。ただし、それは少しずつ慣れながら食べる場合だとされています[3]。
もう一つ、有力な説があります。木の葉を食べる動物は、タンニンと結びつくたんぱく質を唾液にいつも持っているのではないか、という説です。ところが、ヤギが実際にそのたんぱく質を作るかどうかは、研究者の間でも意見が分かれています[9]。ヤギが唾液で毒を消している、とは言い切れないのです。
高知大学の研究では、ヨウシュヤマゴボウなどの有毒植物が、ほとんど食べられませんでした[2]。ヤギは、食べられるものとそうでないものを、経験を重ねながら分けているのかもしれません。
木の葉主体の食事の弱点は、防御物質の多さである。Lamyらの総説は、ブラウザー(木の葉を多く食べる動物)の食事にはタンニンなどの植物二次代謝物が多く、それが欠点だと述べる[9]。米国獣医マニュアルによれば、タンニンはたんぱく質と結合し、酵素の働きを妨げて飼料の消化を下げる。他方で、タンニンを含む植物の摂取が、家畜の消化管内線虫の制御に役立つ可能性もあるという[4]。つまり、タンニンは単純な有害物質ではなく、消化を下げる代償と、寄生虫を減らす可能性という恩恵の両方を持つ。
適応のしかたとして、FAOは反すう動物が有害物質の多い木や低木の消費に比較的向いていることを挙げるが、条件を付ける。少しずつ慣れて食べる場合である[3]。急に大量に食べさせてよいという意味ではない。
さらに、唾液中にタンニン結合性たんぱく質(TBSP)を常に持つ、という仮説がある。ブラウザーとしてのヤギも持つはずだと論じる立場がある一方、ヤギが実際にそれを作るかについては、研究の間で意見が分かれる[9]。したがって「ヤギは唾液で毒を消す」とは書けない。高知大学の放牧では、ヨウシュヤマゴボウなどの有毒植物がほとんど食べられなかった[2]。避ける行動があることは確かだが、その仕組みが唾液なのか、経験なのかは、ここでは決められない。
6. やぎの ごはんを 見に いくと、なにが 見えるかな
6. ヤギの「食べ残し」から読めること
6. 食べ残しは何を語るか:自分で観察するときの見どころ
やぎを 見る きかいが あったら、やぎが なにから たべるか、なにを のこすかを 見て みましょう。ちかくで 見るときは、えさやりの ルールを まもって、やぎの 口の まえに ゆびを 出さないように します。
かんの うわさとは ちがう、やぎの すききらいが 見えて くるかもしれません。
もしも こうえんの くさとりが 近くに あるなら、やぎが いなくなった あとに のこった くさも 見て みましょう。
ヤギのいる動物園や牧場、公園の除草に行く機会があれば、ヤギが何から食べ、何を残すかを見てみてください。柵の外から眺めるだけで、観察になります。えさやりが決まっている場所では、そのルールを守ってください。
草地では、ヤギが入る前と後を見比べるのも手がかりになります。あとに残った草の種類を数えると、好物の順番が見えてくるかもしれません。ただし、横浜の観察と高知の研究でススキの扱いが違ったように、場所や年齢で結果は変わります。
唾液の仕組みのように、まだ決着していない問いもあります。図書館や大学の公開資料で、「ヤギ 嗜好性」という言葉を探すと、日本で行われた放牧の研究に出会えます。
一つの場所の観察から一般則を作らないことが、この題材では特に重要になる。ススキの扱いは、横浜市の観察と高知大学の研究とで食い違っていた。年齢、季節、周囲の植物の量のいずれが効いているのかは、同じ条件で比べて初めて分かる。
身近な場でできることは、ヤギのいる牧場や公園で、食べる順と食べ残しを記録することである。ヤギがいない日と、入った後の草地を見比べて、残った種類を数えれば、報告された「好物から先に消える」という傾向が、その場所でも見られるかを自分の目で確かめられる。放牧の研究は、国立情報学研究所の学術リポジトリなどで、「ヤギ 嗜好性」「耕作放棄地」といった語で探せる。
残る問いは、唾液や反すうの働きが、実際にどこまで有毒成分の扱いを支えているか、である。ここは研究が続いている部分で、断定できる段階にはない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
事実の確認に使った資料です。ヤギの食べ物の好みは場所や年齢で変わるため、数値は各資料の条件のもとでの値として読んでください。
- 横浜市 土木事務所「ヤギ除草」 https://www.city.yokohama.lg.jp/midori/kurashi/machizukuri_kankyo/jimusho/doboku-top/backnumber/md_doboku_yagi02.html (好物の順番、イネ科が最後に回ること)
- 高知大学「耕作放棄地における生後1年未満のヤギの放牧と除草効果」(要旨) https://kochi.repo.nii.ac.jp/record/6436/files/5-2.3.pdf (年齢と好みの変化、有毒植物が食べられなかったこと。要旨で確認)
- FAO "Small ruminant browse/grazing" (T0632E09) https://www.fao.org/4/t0632e/T0632E09.htm (中間型の選択採食者、木の葉の割合、少しずつ慣れること)
- Merck Veterinary Manual "Herbage and Browse Usage in Goats" https://www.merckvetmanual.com/management-and-nutrition/nutrition-goats/herbage-and-browse-usage-in-goats (木の葉を好むこと、タンニンの代償と恩恵)
- University of Georgia Extension Forage Team "More than a tin can" https://site.extension.uga.edu/forageteam/2018/06/more-than-a-tin-can-forage-systems-for-goats/ (唇で選ぶこと、草の割合の目安)
- Modern Farmer "No, Goats Do Not Eat Tin Cans" https://modernfarmer.com/2013/09/goats-eat-tin-cans/ (缶の誤解)
- 日本大百科全書「ヤギ」(コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%83%A4%E3%82%AE (樹葉を好むこと、過放牧)
- 沖縄県「ノヤギ対策計画」 https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/820/noyagiplan.pdf (葉・芽・樹皮を食べること、雨にぬれた草)
- Lamy et al. 2011, Molecules 16(4) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6260606/ (タンニンと唾液の仮説)
なおした ところ
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