1. 牛は、草だけで どうして 大きく なれるの?
1. 草しか食べない牛が、どうして大きく育つのか
1. 草を栄養に変えられるのはなぜか ── 第一胃の微生物と、仕上げのえさ
牛は、草を もぐもぐ 食べて、大きく なります。人は 草を たくさん 食べても、牛のようには なれません。ふしぎですね。
牛の おなかには、胃が 4つ あります。いちばん 大きい 胃の 中には、たくさんの 微生物が すんでいます。この 微生物が、草の かたい すじ(繊維)を こなして、牛が 栄養に できる 形に かえて くれます[1]。
牛が 食べる ものは、草だけでは ありません。大きく 育てる ときには、さいごの 数か月に 草を 中心に する 方法と、こくもつを 多く あげる 方法が あります。この 「しあげの えさ」の ちがいで、お肉が かわります。
おもに ちがうのは、あぶらの 色、あぶらの 成分、あじや しもふりです。ただし、ちがいは 思う ほど はっきりとは しません。まず、いちばん 目に 見えやすい、あぶらの 色から 見て みましょう。
草しか食べないのに、牛はなぜ大きな体になれるのでしょうか。理由は、牛の胃にあります。牛には4つの胃があり、いちばん大きな第一胃には多くの微生物がすんでいます。微生物が草の繊維を分解してくれるので、牛はそれを栄養として吸収できます[1]。
牛が食べる物は草だけではありません。肉用に育てる牛では、仕上げの時期のえさを、草を中心にするか、穀物を多くするかで飼い方が分かれます。この仕上げのえさのちがいで、肉の脂肪の色、脂肪の成分、味や霜降りの入り方にちがいが出ると報告されています。
ただし、そのちがいは「草のほうが体によい」といった単純な話ではありません。数字の見かたで印象が変わり、研究によってばらつきもあります。まず、目で見て分かる脂肪の色から確かめます。
2. あぶらの 色が 黄色く なるのは、なぜ?
2. 牛の脂肪が黄色くなるのは、何のせいか
2. 脂肪の黄色は何に由来するか ── β-カロテンと、稲ワラ給与約4か月の試験
草を 中心に 育った 牛は、体の あぶらが 黄色みを おびやすい、と 言われます[2]。
日本の 研究所(のうけんきこう)では、日本たんかくしゅと いう 牛を 約 6か月、草の はえた 土地に 出して 育てました。そのあと、いねの ワラを 食べさせて 小屋で かうと、お肉の 中の 成分(β-カロテンと ビタミンE)が へり、あぶらの 黄色みも 下がったと まとめられています[3]。
黄色の もとは、β-カロテンでした。ニンジンの 色と 同じ なかまの 成分で、草に ふくまれて います。小屋で 4か月ほど かうと、あぶらの 黄色みが 下がった、と 書かれて います[3]。
これは 日本たんかくしゅの 牛での 試験なので、ほかの 牛すべてに あてはまるとは 言えません。色の ほかにも、草と こくもつで かわる ものは あるのでしょうか。つぎは、あぶらの 中身を 見ます。
草を中心にした飼い方で育った牛は、皮下脂肪が黄色みを帯びやすいことが知られています[2]。では、この黄色は何でしょうか。
農研機構は、日本短角種の去勢牛を約6か月放牧し、そのあと稲ワラで舎飼いする試験をしました。すると、牛肉のβ-カロテンとビタミンEが減り、皮下脂肪の黄色みも下がりました[3]。黄色の原因はβ-カロテンで、量と黄色度のあいだに関係があったと報告されています。ニンジンの色と同じなかまの成分で、草にふくまれています。
この試験では、約4か月の稲ワラ給与で、脂肪の黄色度が下がったと報告されています[3]。同じ牛でも、食べるえさを変えるだけで脂肪の色が変わるわけです。
ただし、これは日本短角種の去勢牛での試験です。牧草で育った牛すべてに同じ数字が当てはまるとは言えません。色のほかに、脂肪の中身はどう変わるのでしょうか。
牧草を中心にした粗放的な飼育では、枝肉の脂肪が黄色みを帯びやすい[2]。この黄色の正体を、日本の肉用牛で調べた例がある。農研機構は、日本短角種の去勢牛を約6か月放牧した後に稲ワラで舎飼いし、牛肉のβ-カロテンとビタミンE含量が減ること、皮下脂肪の黄色度も下がることを報告した[3]。
この成果情報によれば、黄色化の原因はβ-カロテンで、含量と黄色度には有意な相関がある。β-カロテンは植物(牧草)に多い色素である。この試験では、放牧のあと稲ワラを与えた牛で、β-カロテン量と黄色度が下がったと報告されている[3]。
限界もある。これは日本短角種の去勢牛での試験であり、牧草飼育全般に一般化はできない。脂肪の色は目に見える違いにすぎず、次は、脂肪酸という成分の違いが栄養の面でどれほどの差になるのかを見る。
3. 草の 牛は、からだに よい あぶらが 多いの?
3. 草の牛は、脂肪の成分がちがうのか。数字を同じ条件で比べる
3. 脂肪酸の差は「脂肪あたり」か「100gあたり」か ── 8件の比較研究の総説から
草で 育てた 牛の お肉は、脂肪(あぶら)の 中の 成分(CLAや n-3)が、多いと 言われます。ただし、これは 「あぶらの 中の わりあい」の 話です[2]。
では、お肉 100グラム あたりでは どうでしょう。8つの 研究を まとめた 論文では、n-3脂肪酸は 100グラム あたりでも、草の 牛の ほうが 多めでした[4]。ただ、どれだけ ちがうかは、何と くらべるかや 研究によって 見え方が かわります。
しかも、草の 牛は あぶらの 量が もともと 少ない ため、100グラムの 差には あぶらの 量の ちがいも まざります[4]。論文は、こくもつの 牛の お肉を 少し 多く 食べれば、同じくらいの n-3脂肪酸を とれる 場合も ある、と 注意して います。
牛の 種類で 結果が かわる ことも あります。韓国の 牛(ハヌウ)では、こくもつの 牛の ほうが 魚の あぶらに 多い 成分(EPAと DHA)が 多かった という 報告が あります[4]。「草が かならず 多い」とは 言えないのです。
草で仕上げた牛肉は、脂肪の成分(脂肪酸)のうち、CLA、トランスバクセン酸、n-3脂肪酸などが多いと報告されています[2]。ここで大切なのは、これが「脂肪1グラムあたり」の比べ方だという点です。
肉100グラムあたりで比べた数字もあります。8件の比較研究をまとめた総説では、n-3脂肪酸は100グラムあたりでも牧草飼育の牛肉のほうが多めでした[4]。ただし、単位が「脂肪あたり」か「肉100グラムあたり」かで、差の見え方は変わります。
さらに、牧草で育った牛は脂肪が少なめです。総脂肪、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸は、穀物飼育のほうが多い結果でした[4]。つまり100グラムあたりの差には、脂肪の量のちがいも混ざっています。総説は、穀物飼育の肉を少し多く食べれば、長鎖のn-3脂肪酸の摂取量は似た値になりうる、と注意しています。
品種で結論が逆になる例もあります。韓牛では、穀物飼育のほうがEPAとDHAが多かったという報告があり、総説は「牧草が必ず多い」とは言えない例として挙げています[4]。ただし数値は総説の中で食いちがう部分があり、追加の研究が必要とされています。
牧草仕上げの牛肉は、脂肪1gあたりでは、CLA(共役リノール酸)、トランスバクセン酸、n-3脂肪酸が穀物仕上げより多い[2]。ただし、この比較は「脂肪あたり」であり、肉100gあたりの量とは別である。研究ごとに単位がそろわず、直接比較しにくい点にも注意が要る。
肉100gあたりでは、8件の比較研究をまとめた総説で、n-3脂肪酸は牧草飼育のほうが多い傾向にあった[4]。ただし単位が違えば差の大きさも変わる。さらに、牧草牛は脂肪自体が少ない。総脂肪、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸は穀物飼育のほうが多く、100gあたりの差には脂肪量の違いが混じる[4]。そのため総説は、穀物飼育の肉を多めに食べれば、長鎖n-3脂肪酸の摂取量は同程度になりうると述べる。
品種による例外もある。韓牛では穀物飼育のほうがEPA・DHAが高いと報告され、牧草が常に多いとは言えない根拠として総説に挙がっている。ただし総説内で数値に食い違いがあり、傾向としてのみ受け取るべきである[4]。なお、n-6とn-3の比は研究間のばらつきが大きく、平均値を採用できないとされる。健康への効果を「良い・悪い」と言い切れる材料はこの範囲にはない。では、味はどうなのか。
4. 味は、どっちが おいしいの? こくもつが 使われるのは、なぜ?
4. 味と霜降りは、どちらが上か。穀物で仕上げる理由
4. 味の評価と霜降り ── 穀物仕上げが使われる理由
あじを 食べくらべた 研究も あります。くんれんを 受けた 人たちが しらべた 研究では、草の 牛の お肉は、かおりや あじ、やわらかさで、こくもつの 牛より このまれにくい という 結果が ありました[2]。
でも、「草の 牛は まずい」と いう ことでは ありません。牛の 種類、年れい、あぶらの 量、お肉を ねかせる 日数で、結果は かわります。
こくもつを 使う 理由は 二つと 言われます。一つは、牛を 太らせる 日数を 短く できる こと。もう一つは、お肉に あぶらが こまかく 入る 「しもふり」が ふえやすい ことです[2]。
同じ 血すじ、同じ 年れいなら、こくもつで しあげた ほうが 等級が 高く なりやすい と いわれます。ただ、いつも そう なるとは かぎりません。こくもつは、牛の おなかには 大きな 負たんにも なります。つぎは、その 話です。
味はどうでしょうか。Daleyらのレビューが紹介する研究の一つでは、訓練された評価者の食べ比べで、牧草牛は風味ややわらかさで穀物牛より好まれにくい、という結果でした[2]。
とはいえ、「牧草牛はまずい」という意味ではありません。差は牛の種類、年齢、脂肪の量、熟成の方法などで変わり、研究ごとの結果はばらつきます。
穀物で仕上げる理由は、飼育日数を短くすることと、霜降り(脂肪が筋肉の中に細かく入ること)を増やすことだと説明されています[2]。同じ遺伝、同じ年齢であれば、穀物仕上げのほうが等級が高くなる傾向があるといわれます。ただし等級の傾向は、ここでは概要の確認にとどまります。
穀物を多く食べさせるのは、生産する側にもメリットがあります。一方、牛のおなかには負担が出ます。その負担をどう減らすのか、日本の農家の工夫を見ます。
Daleyらのレビューが紹介する研究の一つでは、訓練されたパネルによる官能評価で、牧草牛は風味とやわらかさで穀物牛より嗜好性が低いとした研究がある[2]。ただし、この差は品種、年齢、脂肪量、熟成などの条件で変わり、結果は研究間でばらつく。「牧草牛は不味い」という結論にはならない。
穀物(濃厚飼料)による仕上げは、肥育日数を短縮し、マーブリング(霜降り)を増やす目的で行われる。同じ遺伝・年齢なら、穀物仕上げのほうが格付けが高い傾向があるとされる[2]。もっとも、格付けの傾向は概説的な記述にとどまり、この記事では個別の数値までは追っていない。
日本の肉用牛でも、霜降りを入れる肥育は濃厚飼料に支えられている。しかし穀物は、牛の胃にとっては負担のある食べ物でもある。その負担と、農家の対処を次に見る。
5. こくもつは、牛の おなかに 負たんに ならないの?
5. 穀物を急に増やすと、牛のおなかで何が起きるのか
5. 穀物の増給と第一胃のpH ── 微生物を守る肥育の工夫
こくもつは、でんぷんが 多く、牛の いちばん 大きな 胃の 中で 速く 発酵して、酸が ふえます。なれて いない 牛に 急に たくさん あげると、胃の 中が すっぱく なりすぎて、体の 調子を くずす ことが あります[2]。
すると、草を こなす 微生物の はたらきも 落ちて しまいます。草を 食べる 力が、弱く なるのです。
そこで 日本の 農家や 研究所では、こくもつを ふやす ときに、一気に ではなく、少しずつ 回数を 分けて ふやします。牛の おなかの 中が きゅうに かわらないように、気を くばって いるのです。
牛の 胃の 微生物を 大切に する ことが、おいしい お肉づくりの 土台に なって いるのです。
穀物のでんぷんは、第一胃で速く発酵して酸を増やします。慣れていない牛に急に多く与えると、第一胃のpH(酸性かアルカリ性かを表す数字)が下がり、アシドーシスという不調になることがあります。pHが下がると、繊維を分解する微生物の働きも落ちます[2]。
目安として、pHが5.6を下回ると問題になるといわれます。ただしこの値は目安で、牛や飼い方によって変わります。
そこで日本の肥育農家は、濃厚飼料を一度に増やしません。第一胃の環境が急に変わらないよう、濃厚飼料を少しずつ、回数を分けて増やしていきます。
草を分解する微生物は、穀物で仕上げる牛にとっても大切な働き手です。霜降りを目指す飼育では、牛の第一胃の状態に気を配り、えさを少しずつ増やします。
穀物のでんぷんは第一胃で急速に発酵し、有機酸が蓄積する。順応していない牛に急に多給すると、第一胃のpHが目安として5.6未満に下がり、アシドーシスになりうる。pHが下がると繊維を分解する微生物の活性が落ちる[2]。ただし5.6は目安であり、牛や飼養条件で変わる。また、この記述は大学・獣医資料などの概要の確認にとどまる。
この性質を踏まえ、日本の肥育では増給の仕方が工夫される。ルーメン内の急激な環境変化を抑えるため、濃厚飼料の増給は少しずつ、回数を分けて行われる。
つまり、穀物で仕上げる牛も、基本は草を栄養にする微生物に支えられている。「草か穀物か」を二つに分けて考えるより、「微生物を保ちながら、どこまで穀物へ切りかえるか」という連続した調整と見るほうが、実際の飼育に近い。そして、消費者として牛肉の差を見るときも、色・成分・味のどれを基準にするかで答えが変わる。その見かたを、最後に確かめる。
6. 売り場で、お肉の あぶらの 色を 見て みよう
6. お肉売り場で、脂の色を観察して考える
6. 色と成分と味は別の問い ── 観察の道すじと、原典の読みかた
お肉売り場に 行く ときが あったら、牛肉の あぶらの 色を 見て みましょう。見るだけで、さわりません。白っぽい あぶら、少し 黄色みの ある あぶらが あるかも しれません。
おうちの 人と 行った とき、店の 人の じゃまに ならない ように、ラベルの 産地や 育て方も 見て みましょう。ただし、色だけで 草の 牛か こくもつの 牛かは 決められません。この ノートで 見たように、色は えさの ほかの 条件でも かわる ことが あるからです。
もっと 知りたく なったら、のうけんきこうの ホームページを 見て みましょう。「ほうぼくごの いねワラきゅうよと 牛肉の カロテン」の 研究の 発表が のって います。大人に てつだって もらって、さがして みてください。
お肉売り場へ行く機会があったら、牛肉の脂の色を見比べてみましょう。見るだけで、触る必要はありません。真っ白に近い脂と、少し黄色みのある脂があるかもしれません。ラベルに産地や育て方の記載があれば、色といっしょにノートに記録します。
ただし、色だけで「草の牛」か「穀物の牛」かを決めることはできません。この記事で見たように、色は牛の種類や飼い方など、ほかの条件でも変わる可能性があります。観察は、疑問のきっかけにとどめます。
さらに調べたくなったら、農研機構の研究成果情報で「放牧後の稲ワラ給与と牛肉のカロテン及びビタミンE」を探せます。家にある食品の栄養成分表示では、「100gあたり」と「1食分あたり」で同じ成分の数字がちがいます。両方を見比べると、単位で数字の印象が変わることが確かめられます。脂肪酸の比較の原典は、Nogoyらの総説(出典[4])です。
観察は、牛肉売り場で脂の色を見て記録するだけでよい。触らず、パッケージのラベルにある産地や飼育の表示を、色とあわせてノートに書く。色の差は飼料以外の要因(品種、年齢、脂肪量、肥育期間など)でも変わりうるため、色だけから飼料を推定することはできない。この観察は、仮説を立てる入口にとどめる。
原典に当たるときは、まず農研機構の研究成果情報「放牧後の稲ワラ給与と牛肉のカロテン及びビタミンE」(平成14年度)で、色の話を確かめられる。次に、Daleyら(2010)とNogoyら(2022)で、脂肪酸の比較の単位(脂肪あたりか肉100gあたりか)を見分ける。この区別が、数字の印象を大きく左右する。
残る問いは、日本の牛肉の流通で草飼育が占める割合や、日本で売られる牛肉の飼育方法の内訳である。農林水産省の「畜産統計」や、「牛肉 grass-fed 国産 割合」といった語で探せる業界団体の資料が手がかりになる。色、成分、味はそれぞれ別の問いであり、「どちらが上か」ではなく、「何を基準に比べるのか」から考えるのが、この題材の入り口である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。研究結果は牛の品種や条件で変わるため、原典で確かめるときは各ページの内容を見てください。
- 農畜産業振興機構(ALIC)消費者コーナー https://alic.go.jp/koho/kikaku03_001316.html (第一胃の微生物のはたらき)
- Daley et al. (2010) Nutrition Journal 9:10 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2846864/ (脂肪の色、脂肪酸、味、仕上げの理由、第一胃のpH)
- 農研機構 平成14年度 研究成果情報「放牧後の稲ワラ給与と牛肉のカロテン及びビタミンE」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/H14digest-16.pdf (β-カロテンと脂肪の黄色度)
- Nogoy et al. (2022) Food Science of Animal Resources 42(1):18-33 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8728510 (8件の比較研究にもとづくn-3脂肪酸の量、韓牛の例)
なおした ところ
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