1. はちみつと みつは、なにが ちがうの?
1. さらさらの蜜と、とろりとしたはちみつは、何が違うのか
1. 蜜とはちみつの違いは、水分の量にある
花の みつを スプーンに のせて かたむけると、さらさら ながれます。はちみつは ゆっくり ねばって おちます。この ちがいは、ふくまれる 水の りょうから きます。
花の みつは、水が 7わり から 8わりも あります。できあがった はちみつは、水が 2わりに とどきません[1]。
たとえば 花の みつ 100グラムから、水を 7わりぶん すてると、のこるのは 30グラムくらいです。みつを 4ぶんの 1から 3ぶんの 1ほどに へらす しごとを、ミツバチは して いるのです。
では、その 水は いつ、どこで へらして いくのでしょう。
花の蜜をスプーンですくって傾けると、さらさらと流れ落ちます。はちみつは、ゆっくり糸を引くように落ちます。この差を作っているのは、おもに水分の量です。
英語版ウィキペディアによると、花の蜜の水分はふつう70〜80%で、完成したはちみつは約18%前後です[1]。日本語の資料では、ミツバチが集めた段階の蜜の糖度は40%未満で、巣で水分が飛ぶことで糖度は80%前後に上がると説明されています[2]。水分の割合と糖度は別の指標なので、数字は同じ単位では並べられません。それでも、蜜の水が大きく減ることは、どちらの資料でも同じです。
ここで検算をしてみます。水分75%の蜜100gには、水が75g、糖などが25g入っています。水を除いた重さは25gで、これは変わりません。水分が18%になったとき、この25gが全体の82%にあたるので、はちみつは25÷0.82で約30gです。水分が70%なら約37g、80%なら約24gになります。つまり蜜の重さは、4分の1から3分の1強にまで減る計算です。
ミツバチはこの水を、どの場面で減らしているのでしょうか。
蜜とはちみつの違いを、まず水分で整理する。英語版ウィキペディアは、花の蜜の水分を一般に70〜80%、完成したはちみつを約18%前後としている[1]。一方、日本語版は採集された段階の蜜の糖度を40%未満、できあがったはちみつの糖度を80%前後と書き、成分は果糖約50%、ブドウ糖約42%、水分約2割と説明する[2]。水分70〜80%と糖度40%未満は、同じものを別の指標で表したというより、花や条件による幅を含む別々の数字なので、一本の線には並べない。
それでも、水が大きく減ることは確かである。ここで重さを検算する。水分75%の蜜100gは、水75gと糖などの固形分25gでできている。固形分が変わらず、水分が18%に下がると仮定すれば、できあがる重さは25÷0.82で約30gである。水分70%なら約37g、80%なら約24gとなる。蜜は、重さにして4分の1から3分の1強まで減る計算になる(上限と下限を仮定した筆者の計算で、実測値ではない)。
捨てる水は、蜜100gあたり60〜75g前後にのぼる。では、これだけの水をミツバチはいつ、どの段階で減らしているのか。
2. 巣に つく まえから、もう はじまって いるの?
2. 巣に着く前の、飛んでいる間に何が起きているのか
2. 巣に戻る前の採集バチの口で、すでに濃縮が始まっている
花から みつを すいとった ミツバチは、おなかの 中の ふくろに ためて、巣へ かえります。かえる とちゅうで、口の さきで みつの 水を すこしずつ とばして いる ようすが、見つかって います[3]。
マカダミアという 木の はたけで しらべた けっか、巣に もどった ミツバチの みつは、花の みつの 2ばいほど こく なって いました。もとの 水の 4ぶんの 3が とられて いた ばあいも ありました。これは 花から とった みつを ふくろに ためて いる とちゅうの すうじで、巣の 入口に つく ころには、もっと すすんで いると されます[3]。
ふくろの 中では、だえきなどに ふくまれる こうそも まざります。この こうそが、さとうを べつの あまい もの2つに わけはじめます[1]。
はたけの ミツバチだけの はなしです。ほかの 花でも 同じとは、いえません。
花で蜜を吸ったミツバチは、蜜を体の中の「蜜胃」というふくろにためて巣へ戻ります。ここで、唾液腺などから出る酵素が蜜に混ざり、ショ糖が分けられはじめると説明されています[1]。
水の話は、巣に着く前から始まっています。南アフリカのマカダミア畑でセイヨウミツバチを調べた研究では、採集バチは巣に戻る前から、口先で蜜の水分を蒸発させていました[3]。採集の途中の蜜は、花の蜜の約2倍の糖濃度で、多いときには、もとの水分の75%がすでに取り除かれていたと報告されています。巣の入口に戻る時点では、濃縮はさらに進んでいると推定されています[3]。
採集の途中の値で考えても、水分70%の蜜からその75%を飛ばしたとすると、蜜の重さは半分より少し軽くなる計算です(水が約52g減って約48gになる、という筆者の検算です)。
これはマカダミア畑という一つの場所での観察なので、どの花でも、どの地域でも75%、とは言えません。それでも、「はちみつ作りは巣の中だけの仕事ではない」ことが分かります。では、巣に着いたあとは、どうなるのでしょうか。
水の話は、巣の外から始まる。ミツバチは花で吸った蜜を蜜胃にためて運ぶ。この間に、唾液腺や下咽頭腺から分泌される酵素が蜜に加わり、ショ糖をブドウ糖と果糖に分け始める[1]。呼び名は資料によって揺れるが、ここでは「だ液にふくまれる酵素」程度の理解にとどめておく。
ところが水の面でも、同じことが起きている。南アフリカのマカダミア畑で行われた研究(Nicolson ほか、2022年)は、採集バチが巣に戻る前に、口器で蜜の水分を能動的に蒸発させていることを観察した[3]。この論文の要旨が言う「舌の上での能動的な蒸発」は、巣の換気や羽ばたきによる「受動的な蒸発」と対になる仕組みとして書かれている[3]。採集中の蜜(蜜胃の中)の糖濃度は花の蜜の約2倍で、最大では元の水分の75%が取り除かれていた。巣の入口に戻る時点ではさらに濃縮が進み、論文本文では平均81.5%の水分が除去されたと推定されている[3]。
採集中の最大値(75%)を重さに直すと、元の水分が70%の蜜100gなら、水は約52g減り、残りは約48gになる計算で、巣に戻る前に重さが半分ほどになる場合がある(筆者の検算)。
ただし観察は、マカダミア畑のセイヨウミツバチでのものである。75%は「最大で」であり、どの花・どの地域でも当てはまる一般則ではない。それでも、濃縮は巣の中の仕事だけではなかった。では、巣に着いた蜜は、そこからどう仕上げられるのか。
3. 巣の 中の ミツバチは、口で みつを どうするの?
3. 巣の中のハチは、蜜を口でどう仕上げるのか
3. 巣の中では、蜜を口から出し入れして濃縮を早める
巣の 中の ミツバチは、みつを 口から だして、また 口に ひきこむ ことを くりかえします。すると、みつが あわのように ふくらみます。こうして、しょうかと こさを あげる ことが はやく なると いわれます[4]。
みつの しずくを 口の さきで のばす うごきも 見られます。「した の うごき」と よばれ、数じかんの うちに さとうの こさが 10から 25パーセントほど あがる ことが ありました[4]。
みつを 口から だしたり、また すいこんだり する うごきで、ミツバチは 口で あわを つくる、と おぼえて おきましょう。
巣の中でも、蜜はすぐには置かれません。巣の中のハチは、蜜を口から出したり吸いこんだりして、泡をつくります。この動きは、消化と濃縮を早めると説明されています[4]。
もう一つ、舌の動き(英語で「tongue lashing」)と呼ばれる行動があります。巣のハチが、口から出した蜜のしずくを口器の動きで濃くする行動です。観察された例では、数時間のうちに蜜の糖濃度が10〜25%上がることがありました[4]。
身近なもので似た場面をさがすと、洗濯物を広げて干す動きに近いかもしれません。かたまりのままより、広げたほうが乾きやすいからです。ただし、ハチは布ではなく蜜を、自分の口で動かしています。
口だけでも、かなりの水が減ります。それでも、巣の中の蜜はまだ水が多いままです。ここから先は、巣全体での仕事になります。
4. 羽ばたきの かぜは、なんの ために あるの?
4. 羽ばたきの風と、巣房の天井の蜜は、何をしているのか
4. 羽ばたきの風と巣房の天井が、水の逃げ道を作る
巣の 中では、ミツバチが はねを ぶるぶる うごかして、かぜを おこして います。この かぜが、みつの 上を ながれ、水を うばって いきます[1]。
みつは、巣の へやの てんじょうに ぬりつける ように おかれ、あとから 口の さきで たしていく ことも あります[4]。ひろく ひらいた みつの ほうが、かぜに あたって 水が とびやすく なるのでしょう。
水と いっしょに 巣の 中の あつい 空気も、そとに でていきます[1]。
巣の中のハチが羽を動かすと、風が起きます。この羽ばたきが風を起こして、蜜の上に空気を流します。蜜から水分と熱が奪われ、巣の換気によって、余分な水と熱が外へ出ていくと説明されています[1]。
蜜は巣房の天井に塗りつけるように置かれ、あとから口先で足されていきます[4]。広く薄く置くほうが、風にふれる面が増えます。
巣房ごとに、蜜がたまる速さも糖濃度も違いました[4]。同じ巣の中でも、まだ薄い蜜の房と、濃くなった蜜の房が混ざっています。
では、いつ「できあがり」としてよいのでしょうか。
口での濃縮が一滴ずつの作業なら、羽ばたきは巣全体の水を外へ運び出す。英語版ウィキペディアによれば、ハチが羽ばたきで湿った蜜の上に空気を流し、水と熱を引き出す。巣の換気がやがて余分な水と熱を外へ追い出す[1]。南アフリカの観察でも、能動的な蒸発(口)と受動的な蒸発(換気・羽ばたき)が合わさって蜜がはちみつになると書かれる[3]。
巣房では、蜜は天井に塗りつけるように置かれ、後から口先で足される[4]。ここで重要なのは、巣房ごとに蜜の量も糖濃度もそろっていないことである。Eyer らの観察では、巣房によって蜜がたまる速さも濃度も違った[4]。濃度の違う巣房が混在することで、一つの巣の中に「まだ薄い蜜」と「ほぼ完成した蜜」が同時に存在する。
では、どの時点が「できあがり」で、何が蓋の合図になるのか。
5. ろうの ふたは、いつ するの?
5. ろうの蓋をするのは、いつなのか
5. 蓋をする時期は、水分だけでは決まらない
水が へって、はちみつが できあがりに ちかづくと、ミツバチは 巣の へやの 口を ろうで ふさぎます。水の わりあいが 15.5から 18パーセントくらいに なった ころが 目やす、といわれます[1]。
ある 観察では、30こ しらべた へやの うち 25こが、4から 7日で ふたを されました。のこりは 11から 12日ほど かかりました[4]。ただ、これは 一つの 巣の はなしです。いつも 同じ 日数とは かぎりません。
ふたを した あとも、すこしずつ こく なる ことが あります[4]。
水分が15.5〜18%まで下がるころが、一般に蓋をする目安とされます。ミツバチは完成した巣房にろうで蓋をします[1]。ただし、はっきりした糖濃度のしきい値は見つからなかった、という観察もあります[4]。
ただし、日数は一定ではありません。ある群れを観察した研究では、最終的に蓋をされた30房のうち25房が4〜7日で、残りは11〜12日で満杯になりました[4]。これは一つの群れの観察であり、何日で必ず完成する、とは言えません。
また、蓋の途中でも熟成は進みます。糖濃度は、蓋がけの途中の巣房で約81%、蓋が完成した巣房で約85%でした[4]。「水分が18%になったら蓋」という単純な決まりではなく、蓋をしながらも、さらに濃くなっていく場合があるようです。
こうしてできたはちみつは、なぜ長持ちするのでしょうか。
蓋の合図は、水分の数字だけでは決まらない。英語版ウィキペディアは、蒸発が最終的な水分15.5〜18%に達するまで続き、ハチは完成した巣房にろうで蓋をするとする[1]。この15.5〜18%は一般的な目安であり、Eyer らは明確な糖濃度のしきい値を報告していない。観察では、巣房ごとに事情が異なった。最終的に蓋をされた30房のうち25房(83.3%)は4〜7日で満杯になり、残りは11〜12日を要した[4]。
さらに、蓋の途中でも熟成は続く。糖濃度は、部分的に蓋をされた巣房で81.1±3.2%、蓋が完成した巣房で84.8±3.3%と、統計的に有意な差があった[4]。ここで気をつけたいのは、糖濃度と水分は別の指標であることと、これが一つの群れの観察である点だ。「水分が18%になれば自動的に蓋」という単純な話ではなく、蓋をする時期の幅も大きいことが、この結果から分かる。
では、こうして仕上がったはちみつは、なぜ長期間腐りにくいのか。
6. はちみつは、なぜ くさりにくいの?
6. 完成したはちみつは、なぜ腐りにくいのか
6. 腐りにくさは、糖度・酸性・酵素の三つから説明される
はちみつは、水が すくなくて、とても あまく、すこし すっぱい ものです。そのうえ、はちみつの 中の こうそが つくる 小さな ものも、くさりにくさに かかわると いわれます[2]。
こうした 3つが かさなって、はちみつは くさりにくく なると 考えられて います。
日本語版ウィキペディアは、はちみつの保存性を、高い糖度、pH3.7程度の酸性、酵素が作る過酸化水素の三つで説明しています[2]。三つがそろうと長持ちしやすい、という説明です。
ここまでの全部を合わせて、ミツバチは、蜜をはちみつに変える仕事を、巣に着く前の口から、巣の中の泡と風、最後のろうの蓋まで、順番にこなしています。
腐りにくさは、三つの要素の組み合わせとして説明される。日本語版ウィキペディアは、高い糖度、pH3.7程度の酸性、酵素(グルコースオキシダーゼ)が作る過酸化水素の三つを挙げる[2]。三つが重なると腐りにくくなると説明される。
これらの数字は、蜜が口で、泡で、風で、そして蓋の下で水を失っていった結果である。はちみつが蜜と違うのは、水を捨てた量だけではなく、その後の化学的な性質まで変わっているという点にある。
7. おうちで たしかめて みよう
7. 台所のはちみつで、水分の差を確かめる
7. 台所で確かめる:流れ方の違いと、ラベルの定義
おうちの かたと いっしょに、スプーンを 2本 よういして みましょう。1本には 水、もう1本には はちみつを 少しだけ のせます。2本を ゆっくり ななめに すると、水は すぐ おち、はちみつは ゆっくり おちます。この ちがいが、水の りょうの ちがいです。
はちみつの ふくろや びんの ラベルを 見ると、「みつばちが 花の みつを あつめ、へやに ためて 熟成した」と いう せつめいが あることが あります[5]。
確かめ方は、台所でできます。同じ形のスプーンを2本用意し、1本に水、もう1本にはちみつを少量のせます。お皿の上でゆっくり傾けて、落ちはじめるまでの時間と、落ちるときの形を比べます。水とはちみつの違いが、手の動きでも見えてきます。熱いお湯は使わず、はちみつのあたたまり方は比べません。
はちみつの表示のルールも見てみてください。東京都の資料(東京都消費生活条例にもとづく、はちみつ類の品質表示の基準を説明したもの)では、はちみつ類は「みつばちが植物の花みつを採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質」と定義されています[5]。全国共通の表示ルールというわけではありません。「熟成」の中に、この記事で見た口、泡、風、蓋の流れが入っていると考えると、ラベルの一行が少し違って見えます。
この記事の数字は、観察した群れや畑での結果が多く、どれも一般則ではない。自分で確かめるなら、2本のスプーンに水とはちみつを少量ずつのせ、同じ角度に傾けて、落ちはじめるまでの時間と落ち方を比べる方法がある。水とはちみつの粘り気の差は、水分の差と糖の濃さの差から来る。
もう一つの手がかりは表示である。東京都の資料(東京都消費生活条例にもとづく「はちみつ類品質表示基準実施要領」の定義で、適用範囲は同条例の枠内)は、はちみつ類を「みつばちが植物の花みつを採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質」としている[5]。この「熟成」という一語が、口での蒸発、巣の中での加工、羽ばたきによる換気、蓋がけの下の変化を指していると読むと、表示の見え方が変わる。
家にはちみつが何種類かあれば、ラベルの「原材料名」と「内容量」を読み比べ、さらに指で少量をすくって、とろみの違いを比べる方法もある。この記事で見た水分の話と、ラベルの言葉がどう結びつくかを自分で探せる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数字の条件(観察した畑・群れ)は、各出典の説明に合わせて書いています。
- Wikipedia (English), "Honey". https://en.wikipedia.org/wiki/Honey (蜜とはちみつの水分、羽ばたきと換気、蓋がけ)
- Wikipedia(日本語)「蜂蜜」 https://ja.wikipedia.org/wiki/蜂蜜 (糖度、成分、保存性)
- Nicolson et al. 2022, Scientific Reports(プレトリア大学リポジトリの要旨) https://repository.up.ac.za/handle/2263/88117 (巣に戻る前の濃縮)
- Eyer et al. 2016, PLoS ONE, "A Look into the Cell". https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4999132 (巣房の中の熟成、泡、舌の動き、蓋がけ)
- 東京都保健医療局「はちみつ類品質表示基準実施要領」の資料(PDF) https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/hyouji/files/youryou_hachimitsu.pdf (はちみつの表示上の定義)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
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