1. ドングリは、どうして しぶいの?
1. 粒のまま水に2〜3か月浸けても、渋みは抜けなかった
1. 渋みの正体はタンニン ── 粒のままでは抜けにくい実験結果
ドングリを なまで 食べると、口の 中が きゅっと しぶく なる ことが あります。しぶさの もとは、タンニンと いう 成分です。ミズナラや コナラの 実にも ふくまれて います[1]。
タンニンは 水に とけます。それなら 水に つけて おけば いいはず です。ところが ある 実験では、コナラと アラカシを つぶの まま 水に 2〜3か月 つけても、しぶみは ほとんど ぬけませんでした[2]。
水に つける だけでは、だめ。では、どう すれば いいのでしょう。
2. わって、くだいて、粉に すると?
2. 割る・砕く・粉にすると、日数が大きく縮んだ
2. 水に触れる面と脱渋の日数 ── 丸・粗割り・粉の比較
たとえば、角ざとうを 水に 入れる ときを 思い出して ください。かたまりの まま だと なかなか とけません。でも 粉に した ざとうは、すぐ とけます。水に ふれる ところが、ふえるからです。
ドングリも にて います。ある ほうこくでは、クヌギを つぶの まま 流れる 水に つけると 117にち かかりました。あらく わると 82にち。粉に すると 15にちでした[2]。
ただし ほんとうは、ざとうの ように とけるのでは なく、しぶみの もとが 実の 中から 水に ぬけて いきます。それに、水や ドングリの しゅるいで 日にちは 大きく ちがいます。この 数は、あくまで 一つの 例です。
こまかく しすぎると、大切な デンプンも 水に ながれて しまいます[2]。ほどよい 細かさが 大事 だったようです。
水に触れる面を増やす
粒のままではほとんど抜けなかったドングリも、割ったり砕いたりして水に触れる面を増やすと、渋みははるかに出やすくなります[2]。たとえるなら、角砂糖より粉砂糖のほうが早く水に溶ける、という感じです。ただし本当は、溶けるのではなく、渋みの成分が実の中から水へ出ていきます。
同じ論文が紹介する、鈴木忠司さんの実験の数字を見てみましょう。谷川の流水に浸けたクヌギは、粒のままで117日、粗く割って82日、粉にすると15日でした。117日が15日になったので、およそ8分の1です。アラカシの粉は流水で23日、瓶の溜まり水でも1週間から1か月ほどでほぼ渋みが抜けました[2]。
細かすぎてもだめ
ただし日数は、水の条件や種類によって大きく違うので、「ドングリは何日で食べられる」とは言えません。それに、細かくしすぎると、渋みと一緒に大切なデンプンまで流れ出てしまいます[2]。ほどよく砕くことが大事だったようです。
さて、粉にするには、それ用の道具がいります。
水溶性のタンニンなのに粒のままでは抜けにくいのは、水に触れる面が小さいためと考えられる。増田・黒坪は、細かく砕いて表面積を増やすとアクは格段に出やすくなると述べる。ただし細かすぎるとデンプンが流れ出る[2]。
この論文が紹介する鈴木忠司氏の実験では、谷川の流水で、クヌギは粒のままで117日、粗割りで82日、粉で15日だった。粗く割るだけで約3割短くなり、粉にすると117日が15日、約8分の1になる計算だ。アラカシは粒のままで3か月以上、粉で23日。瓶の溜まり水でも、粉なら1週間から1か月ほどでほぼ渋みが抜けた[2]。
ただし日数は水の条件・樹種・実験者で大きく変わる。数字は一つの実験の例で、「ドングリは何日で食べられる」とは一般化できない。そしてこの結果は、砕く・粉にする道具が、アク抜きの前提になる可能性を示す。
3. 縄文の 人は、粉に する 道具を もっていた?
3. 粉にするための石の道具が、縄文時代に増える
3. 石皿・磨石の出土量 ── 旧石器時代との比較にもとづく推論
ドングリを 粉に するには、石の さらと、その 上で すりつぶす 石が ひつようです。
この 論文を 書いた 人たちは、こう 考えました。もっと むかしの、石の 道具が 中心の 時代は、そうした さらや 石が とぼしく、ドングリを つぶの まま 水に さらすしか ありません。それは ほとんど できなかった はずだ、と[2]。
縄文の 時代に なると、どきが つくられ、おなじ ところに すむ 人が ふえました。ドングリを すりつぶしたと みられる 石の さらや 石が、もっと 古い 時代より 多く 見つかります[2]。
ただし、むかしの 人が ドングリを 食べなかったと 決まった わけでは ありません。これは、この 論文の 考え方です。
4. にる? はいを 使う? 水に さらす?
4. 煮る・灰と合わせる・水にさらす ── 地域で分かれたやり方
4. アク抜きの三つの型と民俗例の地域差 ── トチの灰あわせを例に
しぶみを ぬく やり方には、三つ あります。にる。灰と あわせる。水に さらす。この 三つが 知られて います[2]。
どれを つかうかは、ところに よって ちがいました。東北の ほうの ナラの なかまでは、木の 灰と にる やり方が 多く、西や 南の カシの なかまでは、水に さらすのが 中心だったと 聞き取りで 伝わります[2]。ただし これは、ずっと 後の 時代に 聞いた 話で、縄文の 手じゅんと 同じとは いえません。
トチの 実の 例を 見ましょう。ドングリとは ちがう 木の 実ですが、縄文の 時代から 食べられて きました[3]。福島県の ただみまちで 聞いた 今の やり方は、こうです。水に 3日 つけて 皮を むく。ながれる 水に 2日 さらす。灰を かけて あつい おゆを そそぎ、ひと晩 おく。そのあと 水が すむまで にて、水を かえるのを 10回ほど くりかえします[3]。
すごい 手間です。それでも 食べ物に してきた 人たちが いました。
三つの方法と、地域の違い
アク抜きの方法には、煮る(加熱)・水にさらす・灰を合わせる、の三つが知られています[2]。
民俗例を整理すると、東北日本のナラ類(コナラ・ミズナラ)では木灰と煮るなどの加熱が多く、西南日本のカシ類では水さらしが中心で、加熱はみられない、という見方があります[2]。木の種類ごとの森の違いが、やり方の違いに表れたという考えです。ただしこれは近代の聞き取りで、縄文時代の手順がそのままだったとはいえません。
トチの実に残る、手間のかかる灰の技
トチノキの実は、ドングリとは別の木の実ですが、縄文時代から食べられてきました[3]。福島県只見町の只見町ブナセンターだよりに、今のやり方の聞き書きが載っています。水に3日浸けて皮をむき、流水に2日さらす。同量から2倍の灰をかけて熱湯を注ぎ、一晩置く。水が澄むまで煮て、水を替えるのを約10回くりかえす、という工程です。ナラを燃やした重い灰がよく効くそうです[3]。
これは現代の聞き書きで、縄文時代のやり方の証拠ではありません。それでも、渋い木の実を食べるために、これだけの手間をかける暮らしがあったことは伝わります。
アク抜きの方法は、加熱(煮沸が主)・水さらし・灰あわせに大別される[2]。民俗例では、松山利夫氏の見方として、東北日本の冷温帯落葉広葉樹林帯(ナラ類)は木灰と煮るなど加熱が多く、西南日本の照葉樹林帯(カシ類)は水さらし中心で加熱はみられない。樹林帯の違いが方法の違いに表れるとの理解だ[2]。ただし近代の聞き取りにもとづくため、縄文時代の手順と直結はしない。
灰あわせの具体例として、トチノキの実の聞き書きがある。トチはドングリと別の木の実で、縄文時代から食べられてきた。現代の只見町では、水に3日浸し、皮をむき、流水に2日さらす。同量〜2倍の灰を掛け、熱湯をかけて一晩置き、水が澄むまで煮て水替えを約10回行う。ナラを燃やした重い灰がよく効くという[3]。灰がなぜ効くのかという化学的な仕組みは、ここで使った資料では扱われていないので、方法の紹介にとどめる。
いずれも現代の記録で、縄文時代の手順そのものが遺跡から見つかったわけではない。ただ、渋い木の実を食料にするために手間を重ねる暮らしの型を、今に伝える。
5. しぶみを ぬくと、虫が つかない?
5. アク抜きした実は、虫がつかなかった ── 一つの実験の気づき
5. 保存性とデンプン加工 ── 増田・黒坪の観察と、イチイガシの民俗例
この 論文の 人たちは、ドングリの から を むいて、しぶみを ぬかないで かわかして おきました。すると、はるの はじめに 虫が つきました。
ところが、少しでも しぶみを ぬいた ドングリには、虫は つきませんでした[2]。これは、この 実験で 気づいた ことで、いつでも 同じとは かぎりません。
むかしの 話では、イチイガシと いう ドングリを 水に さらすだけで デンプンを しずめ、あたためて かためた 「イチゴンニャク」の ような 食べ物に したと 伝わります[2]。
しぶみを ぬく ことは、おいしく する ためだけでは なく、ためて おく ためにも 役に 立った のかも しれません。では、どこに ためたのでしょう。
6. 東名いせきで、ドングリの 貯蔵穴が 155こ 見つかった
6. 東名遺跡で見つかった、155基の貯蔵穴
6. 東名遺跡の貯蔵穴群155基 ── 低湿地の保管施設という解釈
さがけんの 東名いせきは、縄文の 早い ころ(今から やく 7000年 まえ)の いせきです。ひくくて しめった 土地に、貯蔵穴が 155こ 見つかりました[4]。
穴は ふかさ 1メートルほど。まるい 形で、はばは 40〜70センチです。中から イチイガシや クヌギ、ナラガシワの 実が 出た ことから、ほとんどが ドングリを しまう ための ものと 考えられました[4]。
わきみずの ある ところに ドングリを しずめて おくと、ネズミや 虫から 守れ、あたらしさも たもて、しぶぬきにも 役に 立つと 考える 人が います。冬の ための 入れものだった という 見方です[2]。ただし、家の 近くに ある 穴は、しぶぬきを まつ あいだの 短い しまい場所と みる 人も います。ほんとうの つかい方は、はっきり 決まって いません。
155基の穴の中身
佐賀市の東名遺跡は、縄文時代早期末葉、約7000年前の遺跡です。低湿地から、貯蔵穴が155基見つかりました。深さは約1メートル、直径は70〜40センチの円形で、イチイガシ・クヌギ・ナラガシワの実が出土することから、大多数がドングリの保存用と判断されています[4]。
水に沈める理由
増田・黒坪は、湧き水のある低湿地の貯蔵穴を、ネズミや虫の被害を防ぎ、鮮度を保ち、アク抜きにも有効な冬の保管施設だったと考えます。一方で、住居の近くに多数ある屋外の貯蔵穴は、加工を待つあいだの短期保管施設とする見方もあります[2]。どちらも推定で、使い道が一つに決まっているわけではありません。
ところで、これほど古い時代の穴の中身が、なぜ今も残っているのでしょうか。
佐賀市の東名遺跡(縄文時代早期末葉、約7000年前)では、低湿地に貯蔵穴155基が確認された。深さ約1m、直径70〜40cmの円形で、イチイガシ・クヌギ・ナラガシワの実が出土することから、大多数がドングリ保存用と判断されている[4]。年代は国指定の説明にそろえ、較正年代で約8000年前とする資料の表記とは混ぜない。
用途について、増田・黒坪は、湧き水のある低湿地の貯蔵穴は、ネズミ・虫害を防ぎ鮮度を保てるうえアク抜きにも有効な冬の保管施設とみる。一方、住居近くの多数の屋外貯蔵穴は加工待ちの短期保管施設とする見方もある[2]。いずれも推定で、用途は断定されていない。
では、なぜ7000年前の穴の中身が今も残るのか。
7. ふつうは のこらない かごが、のこった
7. 海面上昇のあと、粘土層が編みかごを覆った
7. 有機物の遺存 ── 海面上昇・水成粘土層・地表下5〜7m
この いせきからは、あみかごが 700こ いじょう 出ました。国内では いちばん 古い ほうの かごと いわれます。ドングリを しまう ための かごと 考えられて います[5]。
かごや 木の どうぐは、ふつうは 土の 中で くさって なくなります。ところが ここでは、海の 水が 急に あがって、人が はなれました。その あと、ねんどが すぐに いせきを おおいました。地面の 下 5〜7メートルに あった ため、中身が のこったと 説明されて います[6]。
水に しずめた 穴と、そこに のこった かご。縄文の 人の くらしが、そのままの 形で 土の 中に ねむって いた のです。
700点を超える編みかご
東名遺跡の貯蔵穴群からは、700点を超える編みかごが出土しました。国内では最古級とされ、ドングリを貯蔵するための専用容器と考えられています。遺物の残りがきわめて良く、2016年10月に国指定史跡になりました[5]。
なぜ残ったのか
松井章さんの報告によると、この遺跡は急激な海面の上昇で放棄され、水成の粘土層がすみやかに遺跡全体を覆いました。そのため、普通の遺跡では残らない編みかごや木器などの有機物が残りました。貝塚や貯蔵穴群は、地表下5〜7メートルに分布します[6]。
粉にする道具、水に沈めた穴、編みかご。ドングリを食べ物にするための暮らしの跡が、一つの遺跡にそろって残っていたことになります。
8. てんじで、石の さらと かごを さがして みよう
8. 展示で、石皿とかごを探してみる
8. 出口 ── 展示の見どころと、資料の読みどころ
まず、おねがいが あります。公園で ひろった ドングリは、なまで 食べないで ください。しぶい うえに、虫が 入って いる ことも あります。
その かわり、縄文の 展示が ある 博物館に 行ったら、石の さらと、すりつぶす 石、あみかごを さがして みましょう。
見つけたら、「これで ドングリを 一つぶ 粉に するのに、なん回 すったかな」と 考えて みて ください。手間の 大きさが、すこし 見えて きます。
もっと 知りたく なったら、この メモの 出典の 論文[2]や、東名いせきの 説明[4]を、おうちの 人と 開いて みて ください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:論文、公的機関の資料、遺跡の公式データベースを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 森林総合研究所 所報(アカネズミとタンニンの研究)。https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/shoho/documents/068-4.pdf (渋みの成分タンニンについて)
- 増田・黒坪「ドングリのアク抜き方法に関する一考察」京都府埋蔵文化財論集第6集。https://www.kyotofu-maibun.or.jp/data/kankou/kankou-pdf/ronsyuu6/01masuda-kurotubo.pdf (アク抜きの実験、石皿・磨石、民俗例、貯蔵穴の解釈について)
- 只見町ブナセンターだより No.7(2010年11月)。https://www.tadami-buna.jp/img/no.7.pdf (トチの実のアク抜きの聞き書きについて)
- 文化庁 国指定文化財等データベース「東名遺跡」。https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/00003955 (貯蔵穴の数・大きさ・年代について)
- 文化遺産オンライン「東名遺跡」。https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/273882 (編みかごと史跡指定について)
- 松井章「佐賀市東名遺跡の年代とその問題点」名古屋大学年代測定。https://www.nendai.nagoya-u.ac.jp/tande_report/2006/matsui2006.pdf (有機物が残った理由について)
なおした ところ
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