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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

乳酸にゅうさんは、つかれの もとでは なかったの?

「疲れのもと」と呼ばれた乳酸にゅうさんは、走る体の中で何をしているのか:乳酸シャトル説の見方

疲労物質とされた乳酸は、なぜ燃料として細胞間を行き来するといわれるのか:1980年代の乳酸シャトル説と、疲労の原因をめぐる議論

分野:からだ

しんじられない ような はなしですが、「つかれの もと」と いわれて きた 乳酸にゅうさんは、はしって いる さいちゅうに、ほかの 場所で つかわれる 力の もとだ、という かんがえが あります。

どうして わるものだと おもわれたのでしょう。それなら、つかれの ほんとうの わけは なんなのでしょう。この メモを よむと、乳酸にゅうさんの ほんとうの はたらきと、つかれの わけの いまの かんがえが わかります。

運動で疲れると筋肉にたまる、疲労物質の乳酸。この考え方は約100年前に広まりました。ところが1980年代に入ると、細胞から細胞へ乳酸を受けわたすという「乳酸シャトル説」が出され、乳酸は走っている最中にとなりの筋肉や心臓、脳で使われる燃料だと見る説が提唱されました。

なぜ、「疲れのもと」だと思われた物質が燃料と見なされるようになったのでしょう。では、疲れの原因は何なのでしょう。この記事では、乳酸シャトル説の中身と、疲労の原因をめぐって今分かっていることが分かります。

乳酸は約100年前から疲労物質とされ、20世紀の多くの間、酸素が足りない筋肉で生じる解糖の「行き止まり」の老廃物と見なされてきた。しかし1980年代初めに乳酸シャトル説が提唱されると、乳酸は筋肉・心臓・脳の燃料であり、肝臓で糖の材料にもなる物質として見直された。

なぜ見方が変わったのか。そして、乳酸が主犯でないなら疲労の原因は何か。この記事では、乳酸シャトル説の主張と、今も議論が残る点を、確かなことと提唱者の見解とに分けて読むことができる。

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1. どうして 乳酸にゅうさんは、つかれの もとに されたの?

1. 乳酸はなぜ疲労物質と見なされたのか

1. 乳酸はなぜ疲労物質と見なされ、その見方はどう崩れ始めたのか

たくさん はしると、あしが おもく なります。むかしの ひとは、「乳酸にゅうさんが たまったからだ」と かんがえました。いまから 100年ほど まえの ことです。

ヒルさんと マイヤーホフさんは、筋肉きんにくが ちぢむ ときの ねつや、乳酸にゅうさんの かがくを しらべて、ノーベルしょうを もらいました。ヒルさんは、はげしく うごいた あとの いきぐるしさを、「酸素さんその かりを かえして いる」と とらえ、「さんそふさい」と なまえを つけました。

こうして、乳酸にゅうさんは 酸素さんそが たりない ときに できる ごみで、つかれの もとだと、ながく おもわれました。ただ、いまの けんきゅうでは、この かんがえは 見なおされて います。

全力で走ったあと、足が重くなるのはなぜか。約100年前には、「筋肉に乳酸がたまるから」と説明されました[1]。

その背景にあるのが、筋肉の熱や乳酸の化学を研究したイギリスのA.V.ヒルとドイツのO.マイヤーホフです。二人は1922年のノーベル生理学・医学賞を共同で受賞しました(資料によって1923年と書かれることもあります)。ヒルは1920年代初めの研究で「酸素負債」という言葉を使い、運動後に安静時を上回って使われる酸素を説明しました[2]。ヒルが乳酸を悪者にしたと言い切ることはできませんが、のちの議論の出発点になった研究です。

こうして20世紀の多くの間、乳酸は、酸素が足りないときの解糖(ブドウ糖を分解してエネルギーを取り出す反応)の行き止まりにある老廃物で、酸素負債や筋疲労、酸性化による組織の傷みの原因だと考えられました[3]。

しかし1970年代以降、この見方を見直す動きが「乳酸革命」とも呼ばれるようになり、低酸素で乳酸が増えるのはむしろ例外だと考えられています[3]。では、乳酸は本当は何をしているのでしょうか。

約100年前、乳酸は疲労物質とされ、筋肉が疲れるのは乳酸がたまるからだと説明された[1]。この説明を支えたのが、筋収縮の熱や乳酸の化学を研究したA.V.ヒルとO.マイヤーホフである。二人は1922年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した(資料により授賞年は1923年とも書かれる)。ヒルは1920年代初めの研究で「酸素負債」という語を使い、運動後に安静時を上回って消費される酸素を説明した。乳酸の一部が酸化されるとも考えた[2]。ただし、ヒル個人が乳酸を悪者にしたと断定する根拠はなく、のちの論争の出発点として位置づけるのが妥当である。

では、なぜ20世紀を通じて乳酸は老廃物とされ続けたのか。レビュー論文によれば、乳酸は低酸素によって生じる解糖の行き止まりの産物とみなされ、運動後の酸素負債、筋疲労、酸性化による組織障害の主な原因と考えられていたからである[3]。

この前提が崩れ始めたのが1970年代以降で、同論文は「乳酸革命」と呼ぶ。低酸素による乳酸の増加はむしろ例外だと理解されるようになったためだ[3]。次の問いは、乳酸が酸素不足の産物でないなら、どこで何のために作られるのか、である。

2. はしって いる さいちゅう、乳酸にゅうさんは だれに わたされるの?

2. 筋肉の細胞どうしで乳酸を受けわたす乳酸シャトル説

2. 速筋が作った乳酸を遅筋が燃料にする:細胞間で乳酸を受けわたす乳酸シャトル説

1980ねんだいの はじめ、ブルックスさんは「乳酸にゅうさんシャトルせつ」を となえました。シャトルは、いったり きたり する ことです。

筋肉きんにくには、白い ところと 赤い ところが あります。白い 筋肉きんにくの 細胞さいぼうは、ブドウ糖とうなどを 乳酸にゅうさんに かえて、そとに だします。それを、となりの 赤い 筋肉きんにくの 細胞さいぼうが 燃料ねんりょうとして つかう、と いうのです。

たとえば、おとなりの おうちから おすそわけを もらって、ごはんの おかずに するような ものです。ただし、細胞さいぼうが 手わたしを するのは、おかずでは なくて、からだの 力の もとです。

ブルックスさんは、「乳酸にゅうさんは 酸素さんそが たりない ときに できる」という かんがえを、「れきしてきな まちがい」と よんで います。

乳酸シャトル説を1980年代初めに唱えたのは、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のブルックスです。放射性のトレーサーを使ってブドウ糖と乳酸の代謝を追う研究の中で出された説で[4]、乳酸が細胞から細胞へ行き来する流れを「シャトル」と名づけました。

筋肉でいえば、白い「速筋」の細胞がグリコーゲンやブドウ糖を乳酸に変えて外へ出し、となりの赤い「遅筋」の細胞がそれを燃料に使う、という受けわたしです[5]。ごみを捨てるのではなく、燃料を渡すという見方です。

ブルックスは、「乳酸は筋肉に酸素が足りないときに作られる」という考えを「歴史的な間違い」と述べています。乳酸の産生は、代謝にかかった負担(ストレス)を補うための、ひずみへの反応だという説明です[5]。

このシャトルでは、乳酸は少なくとも3つの役をもつとされます。主なエネルギー源、肝臓で糖を作る材料、そして細胞に合図を伝える信号分子です[4]。ここまでは筋肉どうしの話でしたが、受けわたしの相手はほかにもいるようです。

乳酸シャトル説は、カリフォルニア大学バークレー校のブルックスが、放射性トレーサーでグルコースと乳酸の代謝を調べる研究のなかで、1980年代初めに提唱した[4]。核心は、乳酸を老廃物とせず、細胞から細胞へ移動するエネルギーの運び屋とみる点にある。筋肉では、白い速筋の細胞がグリコーゲンやグルコースを乳酸に変えて細胞外へ出し、隣り合う赤い遅筋の細胞が燃料として使う[5]。

この立場に立つブルックスは、「乳酸は筋肉に酸素が足りないときに作られる」という従来の理解を、歴史的な間違いと評した。乳酸の産生は、代謝にかかる負荷を補うための「ひずみ(strain)への反応」だという[5]。つまり、乳酸の増加は酸素不足の証拠ではなく、体が代謝の需要に応じている結果として読み替えられる。ただし、これは提唱者本人の見解である。

では乳酸は、何のために行き来するのか。同説は少なくとも3つの役を挙げる。①主要なエネルギー源、②糖新生(肝臓で糖を作る反応)の主な前駆物質、③シグナル分子である[4]。次に、この「受けわたし」が筋肉の外にも及ぶのかを見る。

3. 心臓しんぞうや 脳のうも、乳酸にゅうさんを つかうの?

3. 心臓や脳も、乳酸を燃料にして動いているのか

3. 心臓と脳は乳酸を燃料にするか:ブルックスの見解と運動時の脳

ブルックスさんに よると、脳のうと 心臓しんぞうは、ブドウ糖とうより 乳酸にゅうさんを 燃料ねんりょうに した ときの ほうが、うまく 力づよく はたらくと いいます。ブルックスさんの かんがえです。いつも 乳酸にゅうさんが いい、と いう わけでは ありません。

はしると、からだの ブドウ糖とうが へって いきます。すると 脳のうの 細胞さいぼうは、かわりに 乳酸にゅうさんを 燃料ねんりょうに する、と せつめいされて います。

乳酸にゅうさんは、血液けつえきの なかに はいる はやさが、ブドウ糖とうの およそ 2ばいだそうです。いちばん 多く なるまで、乳酸にゅうさんは 15分、ブドウ糖とうは 30分と いわれます。いそいで とどけたい ときに べんりな 燃料ねんりょうかも しれません。

ブルックスは、条件によっては、脳と心臓はブドウ糖より乳酸を燃料にしたときのほうが効率よく力強く働くと主張しています[6]。これは提唱者本人の見解で、「いつも乳酸のほうがよい」という意味ではありません。

運動で体のブドウ糖が減ってくると、脳のエネルギー源も減ります。その代わりに、脳の神経細胞が乳酸をエネルギー源として使うと説明されています。強度の高い運動を、休憩をはさみながら行うと乳酸が増え、認知機能が高まるとも紹介されています[1]。

乳酸が血液中に入る速さは、ブドウ糖の約2倍だとされます。ピーク(いちばん高くなるとき)に達するまでが乳酸は15分、ブドウ糖は30分です[6]。30÷15で2倍ですから、必要なときにすばやく届く燃料だといえそうです。

では、使いきれなかった乳酸はどうなるのでしょうか。

ブルックスは、条件によっては脳と心臓はグルコースより乳酸を燃料としたときのほうが効率よく力強く働くと主張する。これは提唱者本人の主張で、「常に乳酸のほうが優れる」という意味ではない[6]。

運動中の脳については、体内のグルコースが減ると、代わりに乳酸が脳の神経細胞のエネルギー源になると説明される。強度の高い運動を休憩をはさんで行うと乳酸が増え、認知機能が高まるとも紹介されている[1]。これは大学の研究者へのインタビューでの説明である。

では、なぜ乳酸が燃料として都合がよいのか。ブルックス側の資料は、血中に入る速さがグルコースの約2倍だと述べる。ピークまでが15分対30分で、30÷15=2という計算である[6]。ただしこれは運動中のエネルギー供給の速さの話で、疲労の原因とは別の問いである。

筋肉・心臓・脳で燃料として使われた残りの乳酸は、どこへ行くのか。

4. つかいきれなかった 乳酸にゅうさんは、どこへ いくの?

4. 乳酸は肝臓で糖に作りかえられ、運動中にも値が変わる

4. 乳酸は肝臓で糖に作りかえられ、運動中にも値が変わる:糖新生と競技終了時の乳酸値

乳酸にゅうさんの 一部は、かんぞうに はこばれて、糖とうに つくりかえられます。その 糖とうから、また 力の もとが つくられます。ごみに なるのでは なくて、ぐるっと まわって もどって くる のです。

マラソンや サッカーの おわりごろには、乳酸にゅうさんの 多さは、むしろ だんだん へって いくと いう せつめいが あります。

つまり 乳酸にゅうさんは、筋肉きんにく、心臓しんぞう、脳のう、かんぞうを まわる、おたがいに わたし合う ものだと かんがえられて います。これが「シャトル」の 名まえの わけです。

運動で使われるエネルギーのもとになるのは、グリコーゲンがATP(細胞が使うエネルギーの通貨)に変わる反応です。その途中でできた乳酸の一部は、肝臓に運ばれて糖に作りかえられ、再びATPを作る材料になります[7]。

この「乳酸から糖を作る」働きは、糖新生とよばれ、乳酸シャトルの3つの役のひとつです[4]。つまり乳酸は、筋肉でできて、心臓や脳で使われ、肝臓で糖に戻って、また筋肉で使える形になるという、体の中の循環に加わっています。

マラソンやサッカーでは、試合や競技の終わりに近づくにつれて、血中の乳酸値がむしろ少しずつ低くなっていくという説明もあります[7]。「疲れるほど乳酸がたまる」という単純なイメージとは、食いちがう場面です。

それなら、疲れの原因は何なのでしょうか。

乳酸の行き先の一つは肝臓である。グリコーゲンがATPになる過程でできた乳酸の一部は、肝臓に運ばれて糖に作りかえられ、ATPを作る材料として再び使われる[7]。これが前章で触れた糖新生であり、乳酸シャトルの3つ目までの役が、一つの循環として結びつく[4]。

この見方が正しいなら、運動を続けるほど乳酸が増え続けるとは限らない。実際、マラソンやサッカーの終了時には、乳酸値はむしろ徐々に低くなるという説明がある[7]。これは一般向け講座での説明である。

乳酸が燃料として使われ、肝臓で糖にも戻るなら、疲労物質という説明は何を見誤っていたのか。次に疲労の原因の現在の理解を整理する。

5. それなら、つかれの ほんとうの わけは?

5. 乳酸以外に、疲れにはどんな原因があるのか

5. 疲労の原因の現在の理解:水素イオン、グリコーゲンの減少、そして残る議論

いまの かんがえでは、つかれの わけは、いくつか あると いわれます。ひとつは、すいそイオンの えいきょうなどで、からだが すこし 酸性さんせいに かたむく こと。もうひとつは、力の もとの グリコーゲンが へる ことです。

くわしく しらべた ひとは、乳酸にゅうさんが できる はんのうは、むしろ 酸性さんせいに なるのを おくらせる、と いう 考えも だして います。ただし、この 見かたには ろんそうが あって、きまった わけでは ありません。

はげしい うんどうで ふえた 乳酸にゅうさんは、30分から 1時間ほどで、ふだんの 多さに もどる、といわれます。これは めやすで、ひとや うんどうで ちがいます。つかれの ぜんぶの わけは、まだ きまって いません。

東京都の資料が筋疲労の原因として挙げるのは、水素イオンなどの影響で体がやや酸性に傾くことと、エネルギー源である筋グリコーゲンの蓄えが少なくなることです[8]。乳酸には、筋肉からカリウムが漏れて収縮が妨げられるのを防ぐ働きがあるともいわれます。

酸性になる原因を、もっと細かく見た研究者もいます。ロバーグスは、ブドウ糖が2個のピルビン酸になる途中で4個のプロトン(水素イオン)が出て2個が消費され、ピルビン酸が乳酸に変わる反応でさらに2個が消費されるので、乳酸の産生は酸性化をむしろ遅らせると論じました[9]。ただし、この見方にも議論があり、乳酸が酸性化と無関係だとは言い切れません。

強い運動で上がった血中の乳酸は、運動後30分〜1時間ほどで安静時の水準に戻るとされます[8]。この時間は目安で、人や運動の種類で差があります。同じ資料は、乳酸を筋肉疲労を起こす悪い物質ではないと考えています。

疲労の原因は、乳酸以外も含めて複数あり、今も完全には決着していません。

では、疲労は何で起きるのか。東京都の健康長寿関連の資料は、①水素イオンなどの影響で体がやや酸性に傾くこと、②エネルギー源である筋グリコーゲンの蓄えが減ること、を挙げる。また、乳酸には筋肉からカリウムが漏れて収縮が妨げられるのを防ぐ働きもあるとされる[8]。

この「水素イオン」の出どころについては、ロバーグスが別の説明を出している。ブドウ糖が2個のピルビン酸になる途中で4個のプロトンが生じ2個が消費され、さらにピルビン酸から乳酸への反応で2個が消費されるため、乳酸の産生は酸性化を遅らせる、という論である。プロトンの出どころは主にATPの分解だとされる[9]。ただしこれは一つの見方であり、乳酸と酸性化が無関係だと決まったわけではない。

血中乳酸の推移については、強い運動で上がった値が運動後30分〜1時間ほどで安静時の水準に戻るとされる[8]。この時間は目安であり、個人や運動で差がある。同資料は乳酸を筋疲労を起こす悪い物質ではないと考えるが、乳酸と酸性化の関係には上のとおり議論があり、疲労の原因は複数で、全体は決着していない。

6. ほかに まだ わかって いない ことは あるの?

6. 議論が続いていることと、研究が進んでいること

6. 細胞内シャトルをめぐる議論と、乳酸の点滴という研究段階の応用

まだ はっきり しない ことも あります。細胞さいぼうの なかの ちいさな 工場で 乳酸にゅうさんが つかわれるか どうかは、ろんそうが ありました。

いまは、乳酸にゅうさんを てんてきで からだに いれる ちりょうが、心臓しんぞうの びょうきや 脳のうの けがで けんきゅうされて います。脳のうの けがの 人に てんてきした ところ、3か月 あとに かんがえる 力が かなり もどった れいが しょうかいされて います。まだ けんきゅうの だんかいです。

細胞の中のミトコンドリアで乳酸が燃料として酸化される(細胞内シャトル)という考えには、議論がありました。取り出したミトコンドリアで乳酸が酸化されにくいという結果は、取り出すときに網のような構造がこわれるという実験上の影響だとブルックスらは説明しています[4]。

乳酸を点滴で入れる治療も、心不全や脳の損傷などで研究されています。脳損傷の人に点滴したところ、3か月後に認知機能が大きく回復した例が紹介されています[4][1]。ただしこれは研究の段階で、治るとは言えません。

「疲れのもと」から、細胞の間で使われる燃料と見る説へ。そして治療の候補へ。同じ物質への見方が、約100年で大きく動いてきました。

乳酸シャトル説には、細胞内でも乳酸がミトコンドリアで酸化されるという主張(細胞内シャトル)が含まれ、これには議論があった。単離したミトコンドリアで乳酸が酸化されにくいことは反論の根拠とされたが、ブルックスらは、単離の過程でミトコンドリアの網状構造が壊れる実験上の影響だと説明する[4]。これは提唱者側の解釈で、反対側の論点とあわせて読む必要がある。

応用面では、外から乳酸を点滴で入れる治療が、心不全や外傷性の脳損傷などで調べられている。脳損傷の人に点滴したところ3か月後に認知機能が大きく回復したという例が紹介されているが、研究段階であり、治療効果が確立したと断定はできない[4][1]。

約100年かけて、乳酸の位置づけは疲労物質から燃料へ、さらに治療の候補へと動いた。ただし、疲労の原因は複数あり、今も決着していないという点は、ここまでの章と変わらない。

7. 乳酸にゅうさんの はなしを、にほんごの しりょうで たしかめて みよう

7. 乳酸の話を、日本語の資料で確かめる

7. 乳酸の見直しを、原典に当たって確かめる

しらべる とき

りつめいかん大学の インタビューや、東京都の 「うんどうの きそ」の ページに、乳酸にゅうさんの はなしが のって います。おうちの ひとと いっしょに、「つかれの もと」と かかれて いる ところと、そうでない ところを さがして みましょう。

資料を読み比べる

立命館大学のインタビュー[1]、進学ネットの講座[7]、東京都の運動の基礎のページ[8]は日本語で読めます。同じ「乳酸」でも、「疲労物質」と呼んだ時代の説明と、今の説明とで、どこが変わっているかを探してみてください。読み比べると、「乳酸が主犯ではない」という点と「疲労の原因は決着していない」という点が、別の話だと気づけます。

原典を読むなら

日本語では、立命館大学のインタビュー[1]、進学ネットの講座[7]、東京都の健康長寿の資料[8]がある。原典としては、疲労物質とする見方を「乳酸革命」と整理したレビュー[3]、提唱者によるコメンタリー[4]、酸性化についての議論[9]がある。提唱者の見解([4][5][6])と、批判的な見方を並べて、どこまでが確かでどこからが議論中かを自分で分けてみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。

  1. 立命館大学 スポーツ健康科学部 インタビュー「乳酸」. https://www.ritsumei.ac.jp/shs2022/why/interview02.html (疲労物質とされた時期、脳の燃料)
  2. Sportscience: A.V. Hill. https://sportscience.sportsci.org/news/history/hill/hill.html (ヒルとマイヤーホフの研究)
  3. Gladden LB (2004) Lactate metabolism: a new paradigm for the third millennium. J Physiol 558:5-30. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1664920/ (乳酸の見方の変遷)
  4. Brooks GA, commentary on the lactate shuttle. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7498666 (乳酸シャトル説の提唱と3つの役、議論、点滴の研究)
  5. UC Berkeley News (2018) Rehabilitating lactate. https://news.berkeley.edu/2018/05/23/rehabilitating-lactate-from-poison-to-cure/ (速筋と遅筋のシャトル、提唱者の見解)
  6. ScienceDaily (2018) UC Berkeley. https://www.sciencedaily.com/releases/2018/05/180523145845.htm (脳と心臓の燃料、血中に入る速さ)
  7. 進学ネット「乳酸は疲労物質?それともエネルギー源?」. https://telemail.jp/shingaku/academics-research/lecture/g008196 (肝臓での糖新生、競技終了時の乳酸値)
  8. 東京都健康長寿 運動の基礎「乳酸」. https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/nyusan.html (疲労の原因、乳酸値の回復)
  9. Robergs RA (2001) Sportscience. https://sportsci.org/jour/0102/rar.htm (酸性化と乳酸の議論)

なおした ところ

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