1. 石の 中の、ちいさな つぶ
1. 植物の最古の手がかりは、体ではなく胞子だった
1. 最古級の陸上植物化石 ── オルドビス紀中期の胞子
りくに 上がった 植物の、いちばん 古い しょうこは、なんと 植物の 体では ありません。とても 小さな 「ほうし」の かせきです。
ほうしは、コケや シダが ふやす ために 出す、こなのような つぶです。オルドビスきの まんなかごろ、およそ 4おく7500万年 まえの 石から 見つかった ものが、広く みとめられて います[1]。
コケの なかまに 近い 植物から 出たのかも しれない、と いわれます。つぶは 石に のこりやすいのに、体は くさって しまいやすい からでしょう。
石に残ったのは、粒のほうだった
陸上植物の化石証拠のうち、広く認められている最古のものは、オルドビス紀中期(約4億7500万年前)の地層から見つかった微小な胞子です[1]。胞子は、植物が仲間をふやすために出す、ちりのような粒です。
コケ類に近い初期の植物から出たものかもしれない、とされています。ただし、見つかったのは胞子で、植物の体そのものではありません。
陸上植物の化石証拠として広く受け入れられている最古の報告は、オルドビス紀中期(Llanvirn、約4億7500万年前)の岩石から得られた微小な胞子である。コケ類に近い初期の植物に由来する可能性が指摘されている[1]。
これは胞子の年代であり、植物体そのものの最古ではない。ここでの年代は、化石が確認できる下限にすぎず、植物の出現時期そのものとは別の問題である。
2. 「とけい」は、もっと 古いと いう
2. 分子時計は、化石より古い年代を示す
2. 分子時計による起源推定 ── 化石記録との乖離
ところが、もっと 古い じだいを しめす ものが あります。「ぶんし どけい」という 方ほうです。
いきものの いでんしは、ゆっくり かわって いきます。その かわった 分だけ、いつ わかれたのかを 計算します。ろうそくの ながさを 見て、いつ 火を つけたか 考える ような ものです。ただし 本当は、ろうそくの もえる はやさが 一定とは かぎりません。
この 方ほうでは、りくに 上がった 植物の はじまりは、カンブリアきの まんなかから オルドビスきの はじめごろと 出ました[2]。ほうしの かせきよりも 古い じきです。
ただ、すうじには はばが あります。ひとつの 年ごうで 言いきれる ものでは ありません。
遺伝子から逆算する
分子時計は、生きものの遺伝子の違いの量から、いつ枝分かれしたかを逆算する方法です。ろうそくの長さから点けた時刻を考えるようなものですが、ろうそくの燃える速さが一定でなければ、時刻はずれます。
2018年の研究は、陸上植物全体の起源をカンブリア紀中期からオルドビス紀前期のあいだ、維管束植物(根や茎に水の通り道をもつ植物)の起源をオルドビス紀後期からシルル紀のあいだと推定しました[2]。どちらも胞子の化石より古い時期にあたります。
数字には幅がある
これらは推定で、幅をもった範囲として示されています。化石が見つからない時期に、植物がいなかったとは言えません。逆に、推定が確定した年代というわけでもありません。二つの手がかりの間にすき間があること自体が、今も調べられている点です。
分子系統解析に基づく2018年の年代推定では、陸上植物(Embryophyta)の起源はカンブリア紀中期〜オルドビス紀前期、維管束植物の起源はオルドビス紀後期〜シルル紀とされた[2]。いずれも、胞子化石の年代(約4億7500万年前)より古い側に幅が及ぶ。
分子時計は、遺伝子の変化の速さが系統によって同じとは限らないため、推定値に幅が出る。化石が無い時期を「植物がいなかった時期」と読むことも、推定値を確定年代として読むことも、どちらも避けるべきである。
3. ねも はも ない、ちいさな 草
3. 根も葉もない、数センチの植物クックソニア
3. Cooksonia ── 初期の陸上植物化石(シルル紀)
体の かたちまで わかる、いちばん 古い なかまの 一つが 「クックソニア」です。シルルきの 石から 見つかって います[3]。
せは 数センチ ほど。ストローを たてた ような すがたで、ねも 葉も ありません。えだわかれした くきの さきに、ほうしを 入れる ふくろが ついて います。
ある しゅには、空気の 出入りする 小さな あなが ありました。水の とおり道らしい すじが 見つかった しゅも あります。ただし、それが ない しゅも あります[3]。
ストローのような草
クックソニアは、体のつくりが分かる最古の維管束植物の化石として知られ、シルル紀の地層(イギリスのウェールズなど)から見つかっています。背丈は数センチで、根も葉も花もなく、枝分かれした茎の先に胞子を入れる袋がついていました[3]。
年代は、資料によって約4億3300万年前から3億9300万年前までと幅があります。「4億数千万年前の草」とだけ言うのが、いちばん確かな言い方です。
全部が同じではない
一部の種には、空気の出入りに使う気孔があり、水を運ぶ組織らしい暗い筋が見つかった種もあります。一方で、水を運ぶ組織のない種もあります[3]。「最初から陸の暮らしの道具がそろっていた」とは言えません。
4. 石に とじこめられた 村
4. 石に閉じこめられた、4億年前の生態系ライニー
4. Rhynie chert ── 初期陸上生態系の保存例と植物‐菌の共生
スコットランドの ライニーという むらの 近くには、およそ 4おく700万年 まえの 「チャート」という 石が あります。その 中に、植物も 虫も 小さな 生きものも、まるごと 入って います[4]。
いつの まにか 石に なった、ちいさな 森の ようです。ただし 「さいしょの 森」では なく、「よく のこって いる 森の 一つ」です。
植物の 体の 中には、きんが 入りこんだ あとも ありました。おたがい 助けあう ような つくりで、生きて いる うちに 入った と 見られて います[5]。植物の 体に、きんと いっしょに 生きて いた あとが のこって います。
石になった小さな森
スコットランドのライニー・チャートは、約4億700万年前(デボン紀前期)の岩石で、植物・節足動物・菌類・微生物が一緒に保存されています。初期の陸上生態系の保存例として、もっとも状態がよいものの一つとされています[4]。「最初の生態系」ではなく、「よく残った初期の例」です。
氾濫原のわずかな地形の違いで、乾いた陸から淡水までの環境が続いていました。陸の節足動物と並んで、淡水にすむ小さな甲殻類の休眠卵まで残っています[4]。
植物の細胞にいた菌
ここの植物の細胞には、菌が入りこんで養分をやりとりしていたような構造が残っています。相手の菌は、二つのグループの可能性が報告されました[5]。昔は一つのグループが祖先的な相手と考えられてきましたが、この見方は問い直されています。
共生の証拠が残っていることと、菌が植物を陸に上げたことは別です。後者は、今のところ確かめられていません。
Rhynie chert(ライニー・チャート、スコットランド)は約4億700万年前(デボン紀前期)のチャートで、植物・節足動物・菌類・微生物が保存され、初期の陸上生態系のきわめて完全な保存例とされる[4]。「最初の陸上生態系」ではなく、保存状態が最良の初期例という位置づけである。氾濫原の微地形の差により、陸から淡水までの環境が生じ、淡水性の鰓脚類Lepidocarisの休眠卵も保存されている[4]。
植物AglaophytonとHorneophytonの細胞には、菌根様の共生構造(樹枝状体・菌糸コイル)が保存され、感染時に細胞が生きていたとみられる。相手はGlomeromycotinaとMucoromycotinaが報告された[5]。従来はGlomeromycotaが祖先的な共生相手とされてきたが、この見方は問い直されている[5]。共生の化石証拠から、菌が上陸を可能にしたという因果を結論することはできない。
5. 足あとと、ヤスデの かたがき
5. 足あとの記録と、ヤスデの「最古」の肩書き
5. 節足動物の歩行跡と Pneumodesmus の年代改定
虫や ヤスデの なかまは、「せっそくどうぶつ」と よばれます。かれらの あしあとも、りくに 出た じきの てがかりに なります。
カナダの すなの 石には、その あしあとが のこって います。りくへの さいしょの 上りくの きろくを、さいだい 4000万年 さかのぼらせた と 2002年に ほうこくされました[6]。ただ、すこし あるいた だけかも しれません。
スコットランドの ヤスデ「ニューモデスムス」は、空気を すう 生きものの、いちばん 古い れいと されて きました[7]。ところが 2017年、石の 年代を はかりなおすと、およそ 1400万年 新しく なり、「いちばん」では なくなった と ほうじられました[8]。
そのあと 2023年の けんとうでは、また 古い じだいだと されました[11]。年代は、けんきゅうで わかれて います。
砂に残った足あと
節足動物の歩行跡は、植物の化石とは別の、陸に出た時期の手がかりです。カナダの砂岩には、カンブリア紀からオルドビス紀にかけての節足動物の歩行跡があり、陸への最初の上陸の記録を最大で4000万年さかのぼらせたと2002年に報告されました[6]。
ただ、足あとは「短い遠出」だったかもしれず、そこに住んでいた証拠とは限りません。年代にも幅があります。
ヤスデの肩書きが動いた
スコットランドのヤスデ「ニューモデスムス」は、体の外側に、空気呼吸のための気門をもち、空気呼吸する陸上動物の最古の例とされてきました。従来の年代は約4億2800万年前(シルル紀)です[7]。
2017年に化石の入った層の年代を測り直した研究は、約4億1370万年前(誤差プラスマイナス440万年、デボン紀最前期)という値を出し、肩書きを失ったと報じられました[8]。ところが2023年の再検討は、この層をシルル紀後期としています[11]。どちらが正しいか、今も割れています。
節足動物の歩行跡は、植物の化石記録とは別の手がかりとなる。カナダNepean層(カンブリア紀〜オルドビス紀)の砂岩の歩行跡は、陸への最初の上陸記録を最大4000万年さかのぼらせると2002年に報告された[6]。ただし歩行跡は短期の遠出の可能性があり、定住の証拠ではない。
ヤスデPneumodesmus newmani(スコットランド、Cowie)は、気門をもつ最古の空気呼吸動物とされ、従来は約4億2800万年前(シルル紀)とされた[7]。2017年のジルコンU‑Pb年代測定は約4億1370万年前(±440万年、デボン紀最前期)を示し、従来より約1400万年新しいとして肩書きを失ったと報じられた[7][8]。一方、2023年の再検討は、同層を後期シルル紀(Wenlock後期)と結論した[11]。2017年の報道[8]はデボン紀最前期を示し、2023年の研究[11]はシルル紀説を支持しており、年代は研究間で割れており、デボン紀・シルル紀のどちらとも確定できない。
6. 「さいしょの 虫」は、あごだけ?
6. 最古の昆虫は、大あごだけの化石だった
6. 分子系統が示す昆虫の起源と、Rhyniognatha の再解釈
では、虫の なかまの 「こんちゅう」は いつ 出て きたのでしょう。ライニーの 石から、大きな あごだけが のこった 小さな かせきが 見つかって います。
2004年には 「いちばん 古い こんちゅう」と されました。ところが 2017年に、もう いちど よく 見ると、こんちゅうよりも ムカデの なかまの ほうが あって いるかも しれない、と いう けんきゅうが 出ました[10]。
いでんしを つかった すいていでは、こんちゅうの はじまりは、4おく7900万年 まえごろでした[9]。かせきより 古い すうじです。かせきと すいてい、どちらも まだ ゆれて います。
あごだけ残った虫
ライニー・チャートからは、大あごだけが残った化石(学名 Rhyniognatha)が見つかっています。2004年に最古の昆虫とされ、約4億700万〜3億9600万年前と見積もられました。
しかし2017年の再観察は、新たに見えた構造は昆虫とは合わず、多足類(おそらくムカデの仲間)とみるほうが自然だとしました[10]。「最古の昆虫」という呼び名は、論争中です。
遺伝子は、もっと古いと言う
1478個の遺伝子を使った2014年の分子系統解析は、昆虫の起源をオルドビス紀前期(約4億7900万年前)、飛ぶ能力の起源をデボン紀前期(約4億600万年前)と推定しました[9]。化石より古い値ですが、推定の一つで、ほかの推定も存在します。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
コケを 見つけたら、しゃがんで 見て みましょう。さきに 小さな 「ほうしの ふくろ」が ついて いる ものが あります。ほうしが 石に のこった、大むかしを 思いうかべて みます。
ルーペが あれば 近くで 見えます。ころばない ように、また 口に 入れないように しましょう。
本を さがすなら、図書かんで 「こせいぶつ」の 本を 見て みましょう。本を 2さつ えらんで、おなじ かせきの 年だいの 書きかたが ちがわないか、くらべて みましょう。
今日できること:公園や道ばたでコケを探し、先に胞子を入れる小さな袋がのびているものがないかを見てみましょう。ルーペがあれば、細かい形まで見えます。胞子が化石になって最古の証拠になった、という話が身近になります。地面に顔を近づけるので、足元や虫に気をつけてください。
公式情報:図書館で古生物の本を探すと、化石の年代の考え方が日本語で読めます。2冊くらべて、同じ化石の年代の書き方がちがわないかを見るのもおすすめです。
ここでの「最古」は、研究のたびに動いてきた。入り口には、図書館の古生物の本がよい。日本語の本を2冊選び、同じ化石の年代の書き方がちがわないか、化石そのものの年代と推定の年代が書き分けられているかを比べてみるとよい。
菌との共生については、原典が示すのは共生の化石証拠までで、上陸を助けたかどうかは未確定である点に注意したい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:論文・公的な研究機関の資料・百科事典を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Wellman, C. H. et al. (2003) "Fragments of the earliest land plants", Nature. https://www.nature.com/articles/nature01884 (最古の胞子化石について)
- Morris, J. L. et al. (2018) "The timescale of early land plant evolution", PNAS. https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1719588115 (分子時計による陸上植物の起源について)
- Wikipedia「Cooksonia」。https://en.wikipedia.org/wiki/Cooksonia (クックソニアの姿・気孔・年代の幅について)
- Strullu-Derrien, C. et al. "Chytrid fungus in the Rhynie chert" (PMC5156353)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5156353/ (ライニー・チャートの年代と保存された生きものについて)
- Strullu-Derrien, C. et al. (2014) New Phytologist. https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.12805 (植物と菌の共生の構造について)
- MacNaughton, R. B. et al. (2002) "First steps on land", Geology. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2002Geo....30..391M (節足動物の歩行跡について)
- Suarez, S. E. et al. (2017) Pneumodesmus の U‑Pb 年代(PMC5489152)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5489152/ (ヤスデの化石と年代の測り直しについて)
- ScienceDaily (2017)「Oldest land animal...」。https://www.sciencedaily.com/releases/2017/07/170705132945.htm (年代の改定の報道と、その後の再検討について)
- Misof, B. et al. (2014) Science, 昆虫の系統と年代。https://digitalcommons.memphis.edu/facpubs/844/ (昆虫の起源の分子推定について)
- Haug, J. T. & Haug, C. (2017) "The presumed oldest flying insect: more likely a myriapod?" (PMC5452959)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5452959/ (大あごだけの化石の再解釈について)
- Wellman, C. H. et al. (2023) "Age of the basal 'Lower Old Red Sandstone' Stonehaven Group of Scotland", Journal of the Geological Society. https://doi.org/10.1144/jgs2023-138 (ヤスデの化石層を後期シルル紀とした2023年の再検討について)
なおした ところ
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