1. しんだ むしを みせても、たべないの?
1. 虫かごに死んだ虫を入れると、食べないことがあるのはなぜか
1. 「動き」は獲物を見つける合図か、食べる条件か
かまきりを むしかごで かって、しんだ むしを いれた。それなのに、ぜんぜん たべない。そんな はなしを よく ききます。
かまきりは、うごいている むしに ひかれると いわれます[3]。かたちや いろよりも、うごきが たいせつな あいずらしいのです。
でも、うごかない えさを ぜったいに たべないわけでは ありません。高校生が かって しらべたら、くちに えさを ちょんと さわらせると、いきて いない えさでも たべたと ほうこく されています[4]。
つまり、うごく えさを このむ と いわれる 一方で、うごかない えさも くちに さわらせると たべた かんさつが あるのです。ただし これは 高校生の 小さな かんさつです。
では、みつけた えものは、なんでも たべるのでしょうか。つぎは、たべものが おおきさで かわる はなしです。
カマキリを虫かごで飼うと、死んだ虫を入れても食べないといわれます。飼育の解説では、カマキリは生きている昆虫を好み、獲物が動かないと距離がつかみにくいとされます[3]。動く餌を好む、という飼育上の説明です。ただし、これは一般向けの解説で、絶対の決まりとは言えません。
群馬県立自然史博物館の報告集には、高校生の飼育観察が載っています。カマキリに餌を与えるとき、生きた餌でなくても、口に触れさせると食べることが分かったそうです[4]。
この2つを合わせると、動く餌を好むとされる一方で、動かない餌も口に触れさせると食べた、という観察があるわけです。ただし高校生の小規模な観察で、他の種や野外でも同じとは書かれていません。
見つけた獲物なら何でも食べるのでしょうか。次は、食べるものが体の大きさで変わる話です。
飼育の解説では、カマキリは生きた昆虫を好み、獲物が動かないと距離をつかみにくいという説明が多い[3]。動く餌を好む、という飼育上の説明だ。ただしこれは飼育上の傾向を述べた説明で、一般向けの解説であり、実験で確かめた結果ではない。
これに対し、群馬県立自然史博物館の報告集にある高校生の飼育実験では、生きた餌でなくても口に触れさせると食べることが報告されている[4]。動く餌を好むとされる一方、動かない餌も口に触れさせれば食べた、という観察になる。ただし規模の小さい観察で、飼育個体での結果にとどまる。野外のカマキリが死んだ虫を食べるかどうかは、この報告からは言えない。
見つけたあとの狩りは、次章の大きさの問題につながる。何でも食べるのではなく、体の大きさに合った相手を選んでいるように見えるからだ。
2. ちいさい ときと おとなで、たべものは ちがうの?
2. 小さい幼虫はアブラムシ、成虫はセミやバッタを狙う
2. 脱皮のたびに獲物が変わる ── アブラムシから大型のイモムシ・セミまで
かまきりの あかちゃんは、ようちゅうと よばれます。うまれた ばかりの ときは、とても ちいさい からだです。
この ころは、アブラムシや、ちいさな ガの ようちゅうを たべます[2]。からだが おおきく なるにつれて、カメムシ、イナゴ、おおきな イモムシなどに かわります[2]。
ようちゅうは、6〜7かい だっぴして、七月ごろに せいちゅうに なります[1]。じき は ばしょや としで かわります。
おとなに なると、セミ、チョウ、バッタ、ハエなども まちぶせして つかまえます[1]。おとなの からだの ながさは、おすで 約7〜9センチ、めすで 約8〜10センチほどです[1]。
かまは ちかづく えものに、およそ 10ぶんの 1びょうで とびだすと いわれます[3]。これだけ はやく、つよい からだなら、もっと おおきな えものも ねらえるのでしょうか。
幼虫は、体の大きさに合わせて獲物を変える
カマキリの赤ちゃんは幼虫と呼ばれ、小さいうちはアブラムシや小型のガの幼虫を食べます。大きくなると、カメムシやイナゴ、大型のイモムシなどを食べるようになります。茨城県牛久市の広報資料は、幼虫のときから体のサイズに合わせて獲物を変える、と説明しています[2]。
成虫は、待ち伏せで大きな獲物を捕らえる
オオカマキリの幼虫は6、7回の脱皮をへて、7月ごろに成虫になるとされます。体長はオスが68〜92mm、メスが77〜105mmです[1]。成虫になる月は地域や年で変わるので、目安として読んでください。
成虫は、セミ、チョウ、バッタ、ハエなどを待ち伏せして捕らえます[1]。鎌のような前脚は、獲物が近づくと約10分の1秒で打ち出される、という解説もあります[3]。
体長10cm前後のカマキリが、さらに大きな相手を狙うことはあるのでしょうか。
牛久市の広報資料によると、オオカマキリは幼虫の時期から体の大きさに合わせて獲物を変える。小さいうちはアブラムシや小型のガの幼虫を、大きくなるとカメムシ・イナゴ・大型のイモムシなどを食べる[2]。大きくなるのは脱皮による。幼虫は6、7回の脱皮をへて、7月ごろ成虫になるとされるが、地域や年によって前後する[1]。
成虫の体長はオス68〜92mm、メス77〜105mmで、セミ・チョウ・バッタ・ハエなどを待ち伏せて捕らえる[1]。メスのほうが大きいので、狙える獲物の上限も上がるはずだが、この資料にそうした比較はなく、ここでは推測にとどめる。
前脚の打ち出しは、獲物が射程に入ってから約0.1秒という解説がある[3]。一般向けの記事に基づく数字で、測定条件は分からない。鎌の速さそのものは既存の別のメモが扱うので、ここでは深追いしない。
体長10cm前後のカマキリが待ち伏せで捕らえる獲物の「上限」は、どこにあるのか。次章は、その上限を試したような記録を扱う。
3. かまきりが、じぶんより おもい とりを つかまえた?
3. 自分の約3倍の重さの渡り鳥を、日本の島で
3. 番組が紹介した「鳥を狩るカマキリ」── 約3倍という見積もり
2022年5月、テレビばんぐみ「ダーウィンが きた!」が、「かまきりが とりを かる」ようすを しょうかい しました[8]。ばんぐみは、「世界はつさつえい」と つたえて います。
日本の しま(へくら じま とされます)で、おおかまきりが わたりどりの キクイタダキを つかまえたのです[9]。とりの おもさは、かまきりの およそ 3ばいと しょうかい されました[9]。ただし 3ばいは、ばんぐみ がわの みつもりです。
かまきりは、とりの くびのあたりを ねらい、かまで はさんだ といいます[9]。くびの あたりで はさんだと つたえられて います。じぶんより おもい あいてに いどんだ、と しょうかい されたのです。
でも、これは めずらしい できごとです。ふだん かまきりが たべているのは、とりでは ありません。
では、こんな はなしは、せかいで どれくらい あるのでしょうか。
2022年5月8日、NHK総合の「ダーウィンが来た!」は「世界初撮影!カマキリが鳥を狩る」を放送しました[8]。「世界初」は番組の表現です。
紹介によると、日本の島(舳倉島とされます)で、オオカマキリが渡り鳥のキクイタダキを捕らえました。バードウォッチャーの渡部良樹さんが目撃したと伝えられています[9]。鳥の重さはカマキリの約3倍と紹介されましたが、これは番組側の見積もりです。
カマキリは、鳥の首元を狙い、鎌で挟んだと紹介されています[9]。体の重さで勝てない相手に、首元で鎌ではさんだと紹介されています。ここでは、短い紹介にとどめます。
この話は、日本だけの出来事なのでしょうか。世界の記録を集めた論文があります。
NHK総合は2022年5月8日、「ダーウィンが来た!」で「世界初撮影!カマキリが鳥を狩る」を放送した[8]。「世界初」は番組の表現であり、学術的な「世界で初めての記録」を意味するとは限らない。実際、次章で扱う総説は、2017年の時点で小鳥の捕食例を100件以上集めている[5]。
報道によれば、日本の島(舳倉島とされる)でオオカマキリが渡り鳥のキクイタダキを捕らえ、バードウォッチャーの渡部良樹さんが目撃したという。鳥の重さはカマキリの約3倍と紹介されるが、番組側の見積もりで、測定値ではない[9]。首元を的確に狙い、鎌で挟んだとされる[9]。
日付や場所、人物の細部は、番組紹介と報道に基づく。「番組が紹介した事例」として読むのがよい。ここで大切なのは、この場面が単独の出来事なのか、それとも過去の記録の続きなのかという問いだ。
4. とりを ねらう かまきりは、ほかにも いるの?
4. 小鳥の捕食例は報告で147件── 多くはアメリカの庭
4. 総説が集めた147件 ── 報告件数の偏りと、食べ物の「まれ」な部分
2017年に、かまきりが 小鳥を つかまえた れいを あつめた ろんぶんが あります。ぜんぶで 147けん。13の くにと、みなみきょくを のぞく すべての たいりくで、ほうこく されて います[5]。
その 7わりいじょうは、アメリカです。たくさんは、にわの ハチドリの えさ入れや、ハチドリが みつを すう はなの ちかくで おきて います[6]。ハチドリは とても 小さい とりです。
かまきりは、はなの そばで じっと まちぶせし、5〜10センチに ちかづいたら、まえあしで うちます[6]。
ただし、これは「ほうこく された れい」の わりあいです。のはらで ほんとうに どれくらい おきて いるかは、わかりません。
ふだんの かまきりが たべるのは、おもに むしや クモです。カエルやトカゲなどを たべる れいも ありますが、めずらしいと いわれます[7]。
集めてみると147件あった
2017年に発表された総説は、カマキリが小鳥を捕らえた事例を147件集めました。13か国、南極以外のすべての大陸で記録され、12種のカマキリが関わり、獲物は24種・14科の小鳥でした[5]。
多くはアメリカの庭、ハチドリの近く
事例の7割以上はアメリカで、庭のハチドリ用の餌台や、ハチドリが蜜を吸う花の近くが多いと報じられています。報道では、最も多い鳥はルビーノドハチドリとされています[6]。カマキリは待ち伏せして、5〜10cmに入ったら前脚で打つといいます。
ただし、7割は「報告された事例」の割合です。庭は人の目が届きやすいので、野外での実際の頻度とは限りません。
鳥は、あくまで例外
カマキリが主に食べるのは、昆虫やクモなどの節足動物です。カエル、トカゲ、サンショウウオ、ヘビといった小さな脊椎動物を食べた観察もありますが、まれだと説明されています[7]。
鳥や小動物は、普段の食べ物ではありません。では、毎日の食べ物は、カマキリの暮らしにどう関わるのでしょうか。
Nyfflerらの2017年の総説は、小鳥の捕食例147件を集めた。13か国、南極を除く全大陸、カマキリ12種、獲物は24種・14科(アマツバメ目とスズメ目)である[5]。
報道によれば、事例の7割以上がアメリカで、庭のハチドリ用の餌台や、ハチドリが蜜を吸う花の近くが多く、最多の鳥はルビーノドハチドリとされる。カマキリは待ち伏せ、5〜10cmに入ると前脚で打つ[6]。ただしこれは報告件数の割合で、野外の頻度ではない。餌台は人が観察しやすい場所なので、観察の偏りが数字に表れた可能性もある。偏りの原因までは、手元の資料で確かめていない。
報道による紹介では、カマキリは主に節足動物を食べ、カエル・トカゲ・サンショウウオ・ヘビなどの脊椎動物を食べるのは、まれにしか観察されていない[7]。147件は多いが、カマキリの食べ物全体から見れば例外の話であり、「鳥もよく食べる」とは読めない。
食べ物の中身は、量だけでなく質も効くのではないか。次章は、餌のたんぱく質と産卵数の実験を扱う。
5. たべたものは、たまごの かずに かんけい するの?
5. 食べた餌のちがいで、卵の数が2倍以上変わった
5. マクロ栄養素と産卵数 ── Pseudomantis albofimbriata の実験
オーストラリアの かまきりの なかまで、おもしろい じっけんが ありました[10]。めすに あたえる えさの りょうは おなじ。ちがうのは、たんぱくしつが おおいか、あぶらが おおいか、だけです。
たんぱくしつが おおい えさを たべた めすは、あぶらが おおい えさの めすの 2ばいいじょうの たまごを うみました[10]。
ただし、これは オーストラリアの べつの しゅるいの かまきりです。日本の かまきりも おなじだとは いえません。
かまきりは、田んぼや はたけの がいちゅうも たべるので、むかしから「えきちゅう」として したしまれて きました[2]。
カマキリの餌が、卵の数にまで関わることを示した実験があります。オーストラリアのヒメカマキリの仲間(Pseudomantis albofimbriata)の成虫メスを、たんぱく質の多い餌と、脂質の多い餌のグループに分けて育てました。餌の総量は同じです[10]。
結果は、たんぱく質の多い餌を食べたグループが、脂質の多い餌のグループの2倍以上の卵を産んだというものでした[10]。同じ量を食べても、中身で卵の数が変わったのです。
ただし、これはオーストラリアの別の種での結果です。日本のオオカマキリなどに、そのまま当てはまるとは書けません。
カマキリは、田畑の害虫も食べるため、昔から益虫として親しまれてきました[2]。餌の中身は、卵の数にも関わることがあるようです。
Barry と Wilder(2013、Oikos)は、オーストラリアのヒメカマキリの仲間 Pseudomantis albofimbriata の成虫メスを、高たんぱく質の餌と高脂質の餌の2群に分けた。与えた餌の総量(バイオマス)は同じだった[10]。結果は、高たんぱく質群が高脂質群の2倍以上の卵を産んだ、というものだ[10]。
同じ量を食べても、成分の割合で産卵数が変わる。それなら、野外で獲物が変われば、産む卵の数も変わるかもしれない。ただし、この実験は1種で、飼育下の条件で行われた。日本のオオカマキリに当てはまるかどうかは、この論文からは言えない。
オオカマキリが田畑の害虫を食べるため、昔から益虫として親しまれているという牛久市の資料の記述も合わせると[2]、食べ物は個体の成長だけでなく、次の世代の数や人の暮らしとも結びついている。ただし資料どうしを結ぶ因果の道筋は、読む側の仮説だ。
6. かまきりを みつけたら、なにを みよう?
6. 草むらのカマキリを見かけたら
6. 一次資料を読むなら ── 観察の手がかりと原典
かまきりを みつけたら、さわらずに、すこし はなれて みて みましょう。おおきさと、そばに いる むしを みくらべます。
この かまきりは ようちゅうかな、おとなかな。からだが 小さい ときは、アブラムシのような むしを たべる ことが あります。おおきければ、バッタやチョウを たべる ことも あります。
うごく むしが ちかづくと、どう なるでしょう。そっと みていると、まえあしが さっと のびる ところが、みられるかもしれません。
くさむらに はいる ときは、むしに さされない ふくそうで、道ろにも きを つけましょう。むしを つかまえて、むりに うごかそうとするのは、やめましょう。
今日できること
カマキリを見かけたら、触らずに少し離れて、体の大きさと周りの虫を見比べてみましょう。小さいときはアブラムシのような小さな虫、大きければバッタやチョウなどを食べることがあります。
獲物になりそうな虫が近づいたとき、カマキリがどう動くかも、そっと観察できます。草むらに入るときは、虫刺されや道路に気をつけてください。
もっと調べるなら
牛久市の「牛久の生物」(オオカマキリ)は、成長で変わる獲物がまとまっています。身近なところでは、カマキリを見かけたら、近くにいる虫との距離や動きを、離れた場所から見比べてみてください。
観察では、個体の大きさ(幼虫か成虫か)と、周囲にいる虫を記録しておくと、本文の「獲物は大きさで変わる」という話と照らし合わせられる。草むらでは虫刺されや道路の安全に注意し、カマキリには触れず距離をとって見る。
原典を読むなら、小鳥の捕食例の総説(Nyffeler ほか、2017、Wilson Journal of Ornithology)の概要が出典欄にある。英語だが、件数・国数・関わった種数の数字は概要で確かめられる。餌の栄養と産卵数の実験(Barry と Wilder、2013、Oikos)も、概要が公開されている。
本記事で未確認の点は、舳倉島や渡部良樹さんの細部(番組紹介・報道に基づく)、動きへの反応の一般化(飼育解説と高校生の観察に基づく)である。ここから先は、読者が原典で確かめてほしい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の[ ]は下の番号に対応します。番組紹介や報道は、出どころの確認用です。
- Honda 生きもの図鑑「オオカマキリ」 https://www.honda.co.jp/outdoor/knowledge/adventure/picture-book/ookamakiri/ (体長・脱皮・成虫の獲物)
- 牛久市 広報資料「牛久の生物」(オオカマキリ) https://www.city.ushiku.lg.jp/data/doc/1695970777_doc_257_0.pdf (幼虫から変わる獲物・益虫)
- はぐくみ「カマキリの飼育」解説 https://hugkum.sho.jp/159150 (動きへの反応・打ち出しの速さ。一般向けの解説)
- 群馬県立自然史博物館 高校生研究報告(群馬県立高崎女子高等学校) https://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/report2019-1.pdf (生きた餌でなくても食べる観察)
- Nyffeler et al. (2017) Bird Predation by Praying Mantises: A Global Perspective, The Wilson Journal of Ornithology 129(2):331-344. BioOne (147件・13か国・12種・24種の小鳥)
- Newsweek日本版の記事 https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/50320 (ハチドリの餌台・7割以上がアメリカ。報道)
- idw-online(上記総説に関する報道) https://idw-online.de/de/news677584 (主な獲物は節足動物。脊椎動物はまれ。報道)
- THE TV「ダーウィンが来た!」2022年5月8日放送回の番組情報 https://thetv.jp/program/0000813711/747/ (放送日・題名)
- 現代ビジネス「ダーウィンが来た!」の記事 https://gendai.media/articles/-/95014 (約3倍の重さ・首元を狙う。報道)
- Barry & Wilder (2013) Macronutrient intake affects reproduction of a predatory insect, Oikos (Macquarie University) https://researchers.mq.edu.au/en/publications/macronutrient-intake-affects-reproduction-of-a-predatory-insect/ (餌の成分と産卵数)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
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