1. ネズミは、いつから 人の そばに いたの?
1. 人が畑を作る前から、ネズミは村にいた
1. 農耕より前に始まった同居 ── ナトゥーフ文化の集落とハツカネズミ
いま わかって いる いちばん ふるい 「人の そばの ネズミ」は、ハツカネズミです。1万5000ねんほど まえ、いまの イスラエルの あたりの むらに いました[1]。
その むらでは、人が ずっと すんで いました。人の いえと たべものが あって、ネズミには すみやすい ばしょだった と かんがえられて います[2]。
はたけを つくる ようになる 3000ねん いじょうも まえの はなしです[2]。ただし、人が ネズミを かった わけでは ありません。ネズミが かってに すみついた のです。
では、ネズミは どうして この むらに きたと わかるのでしょう。のこって いたのは、ネズミの 歯の かせきでした。
1万5000年前の村で見つかったもの
いま分かっている中で最も古い「人にそって暮らすハツカネズミ」は、約1万5000年前、レバント地方(現在のイスラエルのヨルダン渓谷など)にあったナトゥーフ文化の集落にいました[1]。長く定住した狩猟採集民の村です。
農耕の始まりより3000年以上前のことで、人の住まいと食べ物が、ネズミにとって利用しやすい条件をつくったと考えられています[2]。人がネズミをやとったわけではなく、ネズミが一方的にその場所を利用した関係です。
ネズミの歯が教えてくれたこと
研究者は、20万年分にわたる遺跡の地層から出たネズミの化石を調べました。奥歯の形を画像で測り、ハツカネズミと、もともとその土地にいた別種のマケドニアハツカネズミを見分けたのです[1]。
この研究では、人が長く住み続けた時期にハツカネズミが増え、人の動きが増えると野生の種が戻ったと報告されています[1]。ネズミのすみかは、人の暮らし方で変わっていたことになります。
Weissbrodらの2017年のPNAS論文は、レバント地方の約20万年分の堆積から出たネズミの臼歯の形を、画像で測って比べ、ハツカネズミ(Mus musculus)と在来のマケドニアハツカネズミ(Mus macedonicus)を見分けた[1]。その結果、約1万5000年前の長期定住の狩猟採集民の集落(ナトゥーフ文化)に、最古の「人にそって暮らす」ハツカネズミがいたと示された[1]。
これは、農耕が始まるより3000年以上前のことだ。論文の発表を伝えた大学のニュースも、そう伝えている[2]。この集落については、農耕で穀物がたまったからネズミが来たとは説明できない。農耕が始まる前から、定住した集落で同居が始まっていた。人の住まいと食べ物が、利用しやすい条件をつくったと考えられている。一方的に得をする関係であり、人がやとったわけではない。
では、集落にハツカネズミがいたと、どうして言えるのか。化石の臼歯の形が、種によって違うからだ。この研究では、人が長く住み続けた時期にハツカネズミが増え、人の動きが増えると野生種が戻った[1]。ただし、これは一つの地域の遺跡の記録であり、世界のすべてのハツカネズミの歴史を表すわけではない。
2. おうちの 中でも、いる 高さが ちがうの?
2. 家の中では、ドブネズミは低く、クマネズミは高いところにいる
2. 家屋内の垂直方向の住み分け ── ドブネズミは水と地面、クマネズミは乾いた高所
ネズミには、おうちに すむ なかまが 3しゅるい います。ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミです。
ドブネズミは、げすいや だいどころの ながしの まわりなど、水が とれる しめった ところが すきです[4]。ゆかしたや いしがきの まわりなど、ひくい ところに います[6]。
クマネズミは、ビルや てんじょううらなど、かわいた たかい ところが すきです[5]。でんせんや 水道かんを のぼりおりして、うごきます[6]。
みわけるときは、しっぽ(尾)を みます。ドブネズミの しっぽは からだより みじかく、クマネズミは からだより ながい と、まちの しりょうに あります[6]。
水のそばか、乾いた高いところか
国立環境研究所のデータベースによると、ドブネズミは下水、台所の流し、ごみ捨て場、地下街など、水を十分にとれる湿った場所を好みます。下水管の破損部やコンクリートの下の空間、土手の斜面にも巣を作ります[4]。
クマネズミは、ビルや天井裏など比較的乾燥した高所で暮らし、高さも幅も10cmほどのすき間を巣に好むとされます[5]。
道を歩くネズミと、柱を登るネズミ
仙台市の資料では、ドブネズミは床下・下水・石垣のまわりなど低い所で、下水やマンホールを使って平面的に動きます。クマネズミは天井裏・ダクト・はりなど高い所で、配電線や水道管を垂直に上り下りします[6]。
見分けの手がかりは尾です。ドブネズミの尾は体長より短く、クマネズミの尾は体長より長いと説明されています[6]。長い尾は、高い所でバランスをとるのに向いていそうですが、そうした働きは、この資料には書かれていません。
日本の家屋にすむネズミのうち、ドブネズミ(Rattus norvegicus)とクマネズミ(R. rattus)は、利用する高さが分かれる。国立環境研究所の侵入生物データベースによれば、ドブネズミは下水・台所の流し・ごみ捨て場・地下街・食品倉庫など、水を十分にとれる湿った場所を好み、下水管の破損部やコンクリート下の空間、土手の斜面に巣を作る[4]。クマネズミはビルや天井裏のような比較的乾燥した高所にすみ、高さと幅が10cmほどの空間を巣に好む[5]。
ここに運動の仕方が加わる。仙台市の資料では、ドブネズミは床下・下水・石垣周辺の低所で、下水やマンホールを使って平面的に動く。クマネズミは天井裏・ダクト・はりなどの高所で、配電線・水道管・ガス管を垂直に上り下りする[6]。尾の長さも対応していて、ドブネズミは体長より短く、クマネズミは体長より長い[6]。長い尾を高所での移動と結びつけたくなるが、尾の働きを述べた資料ではないため、因果としては断定しない。
横浜市の資料も、ドブネズミは下水周辺・床下・庭、クマネズミは屋内・天井裏・ビル内と、同じ傾向を示す[7]。なお体長は資料で幅があり(ドブネズミ20〜25cm、クマネズミ17〜22cm前後)、1つの数字だけで見分けるのは難しい。尾との比べ方が手がかりになる。
クマネズミの扱いにも注意がいる。データベースは、伊豆諸島や小笠原諸島では森林にもすむと記す[5]。「クマネズミ=高い所」は、家屋での傾向であって、すべての環境の決まりではない。
3. いちばん ちいさい ハツカネズミは、どこに いるの?
3. いちばん小さいハツカネズミは、家の外にも広がる
3. ハツカネズミの生息環境 ── 家屋から砂丘地まで、資料ごとの記述の差
3しゅるいの なかで、いちばん ちいさいのが ハツカネズミです。からだの ながさは 6〜9cmで、ドブネズミの 20〜25cmより ずっと ちいさく できて います[7]。
ハツカネズミは、人の いえの ほかにも、たんぼや はたけ、くさち、かわらなどにも います[3]。くさはらでは、あなを ほって くらします。
むかしは むらの なかに いた ネズミが、いまは いろいろな ところへ ひろがって いる、ということです。
体長6〜9cm、家から草むらまで
横浜市の資料では、ハツカネズミは人家や農耕地にすみ、体長は6〜9cmと、3種の中で最小です。ドブネズミは20〜25cmとされています[7]。20÷9と25÷6を計算すると、ドブネズミは体長で2倍から4倍ほど大きいことになります。
国立環境研究所のデータベースは、ハツカネズミのすむ場所を、家屋、水田、畑、積み藁、土手、草地、河川敷、荒地、砂丘地など多様な環境として挙げています。野原では穴を掘って暮らします[3]。
ただし、自治体の資料の間では、ハツカネズミの住み場所の書き方に差があります。仙台市の資料ではクマネズミと似た高所の書き方で、横浜市の資料とは同じではありません[6][7]。細かい居場所は、地域や建物で変わるのかもしれません。
ハツカネズミ(Mus musculus)は、国立環境研究所のデータベースで、家屋・水田・畑・積み藁・土手・草地・河川敷・荒地・砂丘地などにすむと記される。原野では穴を掘って生活する[3]。1章の化石の話と合わせると、集落に入った小さなネズミが、いまでは農地や河川敷まで、広い環境にいることになる。
横浜市の資料は、ハツカネズミを人家・農耕地・農村にすむ種とし、体長は6〜9cmで最小とする。ドブネズミは20〜25cmだ[7]。割り算(20÷9≒2.2、25÷6≒4.2)をすると、ドブネズミは体長で約2〜4倍になる。
ただし自治体の資料には差がある。仙台市は、ハツカネズミの住み場所をクマネズミと似た記述にしている[6]。横浜市の記述とは一致しないので、「ハツカネズミは地面近く」「高所」のどちらかに断定せず、地域や建物の条件で変わりうると読むのが妥当だ。なお、日本への侵入経路は交易などとされるが、年代はデータベースでも整理中であり、ここでは述べない[3]。
4. 森の ネズミは、どこに いるの?
4. 森では、アカネズミは地面、ヒメネズミは木の上
4. 森林の垂直利用 ── アカネズミ(地上中心)とヒメネズミ(半樹上性)
ネズミは、おうちだけに いるのでは ありません。もりの なかにも います。もりには、アカネズミと ヒメネズミが います。
アカネズミは、もりの 地めんが くらしの ばしょです。木の上にも のぼりますが、ほとんどは 地めんの 上です。ひるは ねて、夜に うごきます[8]。どんぐりや ブナの みが すきで、いしの したなどに ためこみます。
ヒメネズミは、しっぽが からだより ながく、そのしっぽで バランスを とって 木のぼりが とくいです。地めんから 10メートル いじょうの たかさでも、えだから えだへ うごきまわると いわれます[9]。
おなじ もりでも、アカネズミは 下、ヒメネズミは 上と、くらす 高さが ちがうのです。
地面で木の実をためる、アカネズミ
富士市の資料によると、アカネズミは森林で暮らし、木の上でも活動しますが、活動の中心は地面の上です。日没から日の出まで活動する夜行性で、ドングリやブナの実を好み、石の下などに集めます。静岡県内では、海岸部から富士山頂まで捕獲の記録があります[8]。
長い尾で枝を渡る、ヒメネズミ
ヒメネズミは、尾が頭と胴を合わせた長さより長く、その尾でバランスをとって木登りが得意です。地上10m以上の高さでも、枝から枝へ活発に動きまわると説明されています[9]。地上10mは、ビルの3階あたりの高さです。体重は大きくても26g程度と軽い、ともあります[9]。
鳥取県の芦津渓谷で、2009年から4年間、巣箱をかけて調べた報告では、ヒメネズミが巣箱を営巣場所として利用したことが記録されています[10]。木の上の巣箱を使うことから、半樹上性の動物とされています。
同じ森林でも、日本のアカネズミ(Apodemus speciosus)とヒメネズミ(A. argenteus)は、利用する高さが異なる。富士市の資料は、アカネズミを「森林で生活し、木の上でも活動するが、活動の中心は地面の上」とし、夜行性で、ドングリやブナの実を好み、石の下などに貯える。静岡県内では海岸部から富士山頂まで捕獲の記録がある[8]。
これに対しヒメネズミは、尾が頭胴長より長く、その尾でバランスをとって木登りが得意とされる。地上10m以上の高さでも枝から枝へ活発に動き、木の上で活動することが多い。体重は最大でも26g程度だ[9]。10mは建物の3階ほどの高さに当たる。体が軽いことと、細い枝を渡ることの間には、関係がありそうだと読めるが、資料はその因果までは述べていない。
鳥取県の芦津渓谷で2009〜2013年に行われた巣箱調査は、ヒメネズミが巣箱を営巣場所として利用したことを記録している[10]。
ただし、ここで使った樹上性の資料は自治体の解説と調査の要旨で、森の高さごとのネズミの数を測ったものではない。「アカネズミは下、ヒメネズミは上」は、活動の中心を表した言い方であり、アカネズミが木に登らないという意味ではない。
5. 水の ない さばくでも、ネズミは くらせるの?
5. 水がほとんどない砂漠で、水を飲まずに暮らすネズミ
5. 乾燥環境への適応 ── カンガルーネズミと代謝水
アメリカの さばくには、カンガルーネズミが すんで います。ひるは 地めんの したの あなで ねて、夜に うごきます[11]。
この ネズミは、みずを ほとんど のみません[11]。たべるのは、かわいた たね。その たねを からだの 中で つかうと、水が できます。これを「たいしゃ水」と いいます。
ただし 「ひとしずくも のまない」とは かぎりません。「ほとんど のまない」が ただしい いい方です。
水が ない ばしょでも、からだの つくりが あれば、ネズミは くらせる のです。
水をほとんど飲まずに、生きていける
アメリカの国立公園局の資料では、カンガルーネズミは乾燥した砂地の砂漠にすみ、昼は地下の巣穴で過ごす夜行性とされています。乾燥した環境にとてもよく適応していて、水をほとんど飲まないか、飲むとしてもまれだと書かれています[11]。
水の元になるのは、食べる乾いた種子です。種子を体の中で分解するときにできる水を、代謝水といいます。この水で、体に必要な水の多くをまかなっていると説明されています[11]。
なお、「一滴も飲まない」は言い過ぎで、資料は「ほとんど」と書いています。耳で熱を逃がすフェネックのように、砂漠の動物は別々の方法で暑さや乾きに合わせています。
北米の砂漠にすむカンガルーネズミは、水に頼らない生き方の例になる。アメリカ国立公園局(White Sands)の資料は、乾燥した砂地にすみ、昼は地下の巣穴で過ごす夜行性で、水をほとんど、あるいはまったく飲まないほど乾燥環境に適応していると述べる[11]。「ほとんど」であって「一滴も飲まない」ではない点は、資料の表現どおりに読む必要がある。
水の出どころは、食べる乾いた種子を体内で分解してできる代謝水で、飲み水のかわりをまかなう。昼の乾いた空気を避けて地下で過ごし、活動を夜に集めることと、水の節約とは組み合わさって働くと考えられるが、資料が定量的に示す範囲には限りがある[11]。
ここまでの種は、環境と体のつくり・行動が対応している。ドブネズミは水の近く、クマネズミは乾いた高所、ヒメネズミは細い枝の上、カンガルーネズミは乾いた地下だ。ただ、環境が行動を決めたのか、行動の違いが環境を選ばせたのかは、資料からは分からない。結びつきは、「よく合っている」という程度に読むのが無難だ。
6. おうちの ずを かいて、ネズミの いばしょを かんがえよう
6. 家の断面図を描いて、ネズミの居場所を考える
6. 出口 ── 家の断面図で整理し、原典の資料へ
かみに、おうちを よこから みた ずを かきます。やねうら、てんじょううら、ゆかした、だいどころ、にわを かきましょう。
そこに、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミが いそうな ところを、えんぴつで しるします。たかい ところ、ひくい ところ、みずの ちかく。この メモで よんだ ことを おもいだして、かんがえて みます。
ほんものの ネズミを さがす ひつようは ありません。野生の ネズミには、ぜったいに さわらないで ください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:学術論文、大学のニュース、国立環境研究所のデータベース、自治体の解説、鳥取県立博物館の報告、アメリカ国立公園局の資料を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Weissbrod L. ほか (2017) Origins of house mice in ecological niches created by settled hunter-gatherers in the Levant 15,000 y ago. PNAS. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5402403 (最古のハツカネズミの集落、歯の形での比較について)
- ワシントン大学セントルイス校ニュース (2017) https://source.washu.edu/2017/03/mice/ (農耕より3000年以上前という点について)
- 国立環境研究所 侵入生物データベース「ハツカネズミ」。https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10130.html (ハツカネズミのすむ環境について)
- 国立環境研究所 侵入生物データベース「ドブネズミ」。https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10110.html (ドブネズミのすむ環境について)
- 国立環境研究所 侵入生物データベース「クマネズミ」。https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10120.html (クマネズミのすむ環境について)
- 仙台市「ネズミの生態」。https://www.city.sendai.jp/sekatsuese/kurashi/anzen/ese/sumai/gaichu/nezumi.html (高さによる住み分けと尾の長さについて)
- 横浜市「ネズミの生態」。https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/seikatsu/kokyo/gaichu/nezumi.html (3種の住み場所と体長について)
- 富士市 環境マップ「アカネズミ」(PDF)。https://www2.city.fuji.shizuoka.jp/kankyomap/image/pdf/honyuu_rui/akanezumi.pdf (アカネズミの暮らしについて)
- 富士市 環境マップ「ヒメネズミ」(PDF)。https://www2.city.fuji.shizuoka.jp/kankyomap/image/pdf/honyuu_rui/himenezumi.pdf (ヒメネズミの樹上での動きについて)
- 小林朋道 (2014) 鳥取県立博物館研究報告51(PDF)。https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1072772/8585.pdf (巣箱をヒメネズミが使った記録について)
- US National Park Service, White Sands「Kangaroo Rats」。https://www.nps.gov/whsa/learn/nature/kangaroo-rats.htm (カンガルーネズミの暮らしと水について)
なおした ところ
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