1. 「100ばい」は ほんとうなの?
1. 測ってみると、ヒトよりわずかに上だった
1. 感度の測定 ── 10〜100倍という推定の見直し
むかしは、ふくろうの 夜の 目は、ヒトの 10ばいから 100ばいと 思われて いました。
1977ねんに、イギリスで モリフクロウの 見える ぎりぎりの 暗さが はかられました。けっか は、ヒトより 少し 高い だけでした[1]。むかしの 見つもりは、少なくとも 10ばいは まちがって いたかもしれない、という ことです。
イギリスの 鳥を しらべる 会も、モリフクロウは ヒトより 少し 高い くらいと 話して います[2]。
ただし これは、おもに 1しゅの モリフクロウの はなしです。ぜんぶの ふくろうが 同じとは 言えません。
では、ヒトより 少しだけなのに、どうして 夜の 森で えものが とれるのでしょう。
以前は、フクロウの夜の視力はヒトの10〜100倍ほどと推定されていました。1977年、イギリスの研究者が、強い夜行性のモリフクロウで「見える最も暗い光」を測りました。結果は、ヒトよりわずかに高い程度でした[1]。
この研究は、わずかな差が網膜の感度の高さではなく、目の光学的なつくりで説明できるとしています。昔の推定は、少なくとも10倍は不正確だった可能性があるといいます[1]。英国鳥類学協会(BTO)も、モリフクロウの感度は平均してヒトよりわずかに高いと説明しています[2]。
注意したいのは、これが主にモリフクロウ1種の測定だということです。すべてのフクロウに同じ値が当てはまるとは、言えません。
では、感度がそれほど変わらないのに、フクロウの目は何がちがうのでしょうか。
フクロウは夜に狩りをするため、網膜の感度がヒトの数十倍あると考えられてきた。しかし1977年にMartinがモリフクロウで暗所の絶対閾値を測ると、感度はヒトよりわずかに高いだけだった。しかもその差は、網膜の感度が上がっているからではなく、光学的要因で説明できるとされた[1]。
この結果から、従来の「10〜100倍」という推定は、少なくとも10倍は過大だった可能性が指摘された[1]。英国鳥類学協会も、モリフクロウの視覚感度は平均してヒトよりわずかに高いと説明している[2]。
ただし測定は強い夜行性の1種についてのもので、フクロウ全体の値とはいえない。倍率を正確に言い切れる資料も、ここでは使っていない。
残る問いは、網膜の感度が主役でないなら、何が夜の見え方を支えているのか、である。
2. 目の かたちが、光を 集めるの?
2. 筒の形の大きな目が、明るい像をつくる
2. 光学的要因 ── 角膜の大きさと筒型の眼
ふくろうの 目は、頭に くらべて とても 大きいです。まるい ボールでは なく、ほねの つつに おさまった、細長い かたちを しています[2][3]。
この かたちだと、目の おくに うつる 絵が 大きく、明るく なります[2]。
目の まえの 丸い ところ(かくまく)も、目の 長さに くらべて 大きい とされます。夜に うごく 生きものは、光を たくさん とり入れやすい かたちを して いるのです[4]。
たとえば、ひろい まどの へやは、光が たくさん 入ります。ふくろうの 目も、光の 入口が 大きいと 考えると わかりやすいです。ただし ほんとうは、かんたんな まどでは なく、光を 曲げる しくみが あります。
でも、うつった 絵を 受け取る 目の おくには、どんな つくりが あるのでしょう。
骨の筒におさまった目
フクロウの目は、頭の大きさに比べてとても大きく、硬い骨の筒におさまった筒型をしています[2][3]。この形は、網膜に落ちる像を大きく、明るくするのに役立つとされます[2]。筒の長さが、目の奥に映る像の大きさと明るさに関わっている、というわけです。
大きな角膜
夜行性の種は、眼の長さに比べて角膜(目の前面の透明な部分)が大きい傾向があります。光をたくさん取りこむための特徴だと説明されます[4]。
カメラでいえば、大きなレンズで光をたっぷり集め、そのぶん奥行きのある筒で大きな像を結ぶようなものです。ただし、これはわかりやすくするためのたとえで、実際の目はカメラとは別のしくみです。
では、その像を受け取る網膜の側は、どうなっているのでしょうか。
フクロウの目では、光を集めて網膜に届けるしくみが、夜の見え方を支えている。眼は頭に対して非常に大きく、強膜でできた硬い筒に収まっている[3]。この筒型の形状が、網膜上の像を大きく明るくするとされる[2]。
加えて、夜行性の種は眼軸長に対して角膜の直径が相対的に大きく、取りこめる光の量が増える[4]。ここで述べた筒型の眼と大きな角膜は、いずれも「入ってくる光をどれだけ集め、どれだけ大きな像にして網膜へ渡すか」の話であり、受容細胞の感度そのものとは別の層に属する。
ただし、角膜が大きいほど明るくなるという関係は、光の通り道を大きくするという一般的な理解であり、本記事ではこれを定量的には扱わない。
では、その像を受け取る網膜の側は、夜に向いた構成になっているのか。
3. 目の おくの 細ぼうは、どう ちがうの?
3. 網膜は暗さに強い細胞が大半を占める
3. 桿体優位の網膜 ── 暗さへの強さと引きかえになるもの
目の おくの もうまくには、光を とらえる 2しゅるいの 細ぼうが あります。うす暗い ところで はたらく「かんたい」と、色を わける「すいたい」です[4]。
よる うごく ふくろうの もうまくは、ほとんどが かんたいだと いわれます。ひる うごく 鳥では、すいたいが 8わりほども ある ことが あります[4]。
ふくろうは 暗さに つよい かわり、色や こまかい ところは にがてかも しれません。ただし 目の くわしい はなしは、しゅによって ちがう ことも あります。
こんなに 大きくて 明るい 目は、体の 中で うごかせるのでしょうか。
4. 目は うごかせないの?
4. 動かせない目の代わりに、頭を回す
4. 固定された眼球と両眼視 ── 近くの苦手さ
ふくろうの 目は、かたい つつの 中に おさまって いて、ほとんど うごかせません[2][3]。
だから、見る むきを かえる ときは、首ごと まわします。首の ひみつは、べつの きじで しらべて あります。
りょうほうの 目は、顔の まえに ならんで います。ものを りょうほうの 目で 見る はんいが、ひろいのです。そのかわり、すぐ ちかくの もの(数センチ)には、ピントが あいません[3]。
つまり ふくろうは、とおくの えものを 見つける ことが とくいな 目、と いえます。
大きな目を硬い筒で支える形には、代わりに失うものもあります。フクロウは目を、いろいろな方向に動かすことができません[2][3]。そのため、見る向きを変えるときは頭ごと回します。首のしくみは、別の記事で扱っています。
フクロウの目は、鳥の中でも特に前を向いています。両目で同じものを見る範囲が広く、立体感をつかむのに向いています。一方で、数センチ以内の近くには、ピントが合いません[3]。視野の角度は、出典によって数字が合わないため書きません。
夜の狩りに必要なのは、遠くの獲物を見つける力です。近くが苦手でも、困らない形になっているのかもしれません。
ところで、光がまったくない闇では、この大きな目は役に立つのでしょうか。
この光学系の代償が、眼球の固定である。眼球は強膜でできた硬い筒に収まっており、動きが厳しく制限される[2][3]。そのため注視の向きは、眼ではなく頭部の回転で変える。頸の構造は別記事で扱っているので、ここでは触れない。
両眼は頭部の前方に並び、両眼で見える範囲が広い。ただし、数センチ以内の近い対象にはピントが合わない遠視である[3]。視野角については、出典間で数値が一致しないため記さない。
大きな目を前向きに固定し、遠くを見る。この組み合わせは、止まって獲物を待ち伏せる狩りの形と整合的に見える。ただし、これは資料から読んだ筆者の推測であり、狩りの方法との対応は、使った資料が直接述べたものではない。
では、光がまったくない場所では、この目はどこまで働くのか。
5. まっくらな ときは、どうするの?
5. 光がないとき、フクロウの耳が目をおぎなう
5. 暗黒下の狩り ── 聴覚が視覚を補う
どんなに 大きな 目でも、光が まったく なければ、ものは 見えません。
メンフクロウは、光の ない、音の しない へやでも、音だけで えものの いばしょを あてて つかまえた ことが あります。ずれは たて・よこ とも 1.5度ほどでした[6]。
ひるは 目で 見られても、まっくらな ときは 耳が たすけます。ふくろうは、目と 耳を、場面に あわせて つかいわけて いるのですね。
耳の しくみは、ほかの きじで くわしく のって います。
光が一つもない場所では、どんなに大きな目でも像をつくれません。そこでフクロウが頼るのが耳です。
スタンフォード大学の鳥類サイトの記事によると、メンフクロウは光のない防音室でも、音だけで獲物の位置を突きとめて捕まえます。位置の精度は縦横とも約1.5度です[6]。昼は目で見られますが、暗闇では聴覚が見えないところをおぎない、その場所をよく知っていることが仕上げになる、と説明されています[6]。
耳のくわしいしくみは、別の記事で扱っています。この記事で言えるのは、暗さが深まると、耳が目をおぎなう場面もある、ということです。
ところで、フクロウの目には、まだ分かっていないことがあるのでしょうか。
光学で集められるのは、あくまで入ってくる光である。光がない場所では、像はできない。この限界を補うのが聴覚である。メンフクロウは、まったく光のない防音の部屋でも、音だけで獲物の位置を突きとめて捕らえる。その位置の精度は、縦横とも約1.5度とされる[6]。
昼は視覚が使えるが、暗闇では聴覚が視覚の不在を補い、さらに生息地を熟知していることが狩りを完成させる、と同資料は述べる[6]。音源定位の詳細は別記事に譲る。
ここまでで、目の役割は「光がある範囲で、大きな明るい像をつくる」ことだと整理できる。完全な暗闇での狩りは、目と耳の分担で説明される。
それでは、目そのものについて、まだ分かっていないことは何か。
6. まだ わかって いない ことは あるの?
6. 遺伝子から見えてきた、まだ仮説の話
6. ゲノム研究 ── 網膜のしくみに関する仮説
あります。2020ねんの けんきゅうで、ふくろうの なかまでは、32この 遺伝子が はやく かわって きた ことが わかりました[7]。
この 遺伝子は、DNAを ちいさく たたむ しごとに かかわります。夜に うごく ほにゅうるいでは、目の おくの さいぼうの 中が、光を あつめる レンズの ように はたらく ことが しられて います。ふくろうも、それに にた しくみを もって いるかも しれません[7]。
でも、まだ たしかめられて いません。ふくろうの 目に レンズが ある、と 言うことは できません[8]。
目のつくりの説明は、ほぼここまでです。でも、研究は終わっていません。
マックス・プランク鳥類学研究所の2020年の研究では、フクロウの系統で、DNAの収納や染色体の凝縮に関わる32の遺伝子が速く進化していたことが分かりました[7]。夜行性の哺乳類では、網膜の細胞の核が光を集めるレンズのように働くことが知られています。フクロウも、それに似た仕組みを独自にもつのではないか、というのが仮説です[7]。
ただし、この仕組みは鳥ではまだ観察されていません。日本語の解説記事も、各DNAの働きは未解明だと伝えています[8]。「フクロウの目にはDNAのレンズがある」と言い切ることは、できません。
光学と網膜の構成だけでは説明しきれない点について、ゲノムからの仮説がある。マックス・プランク鳥類学研究所の研究(2020年)は、フクロウの系統で、DNAの収納や染色体の凝縮に関わる32遺伝子が、速く進化していたことを報告した[7]。
夜行性の哺乳類では、網膜の細胞核が、光を集めるレンズのように働く仕組みが知られている。フクロウも、独自に似た配置をもつのではないか、というのが研究者の見立てである。この特徴は、これまでどの鳥でも観察されていない[7]。日本語の解説も、各DNAの詳しい働きは未解明としている[8]。
したがって、「フクロウの網膜にレンズ状の核がある」とは断定できず、仮説段階である。ここまで見てきた光学・桿体・聴覚の説明と同じ強さでは扱えない。
7. おうちで 目と 耳を ためして みよう
7. 暗い部屋で、目と耳の役わりを試してみる
7. 目と耳の分担を、身近な条件で試す
おうちの 人と いっしょに、へやを 少し 暗くします。ころんだり ぶつかったり しない、ひろい ところで やりましょう。
目を とじて、おうちの 人に、すずを ならして もらいます。どの むきから 音が するか、ゆびで さして みましょう。
目を あけると、どう かわるでしょう。ふくろうの 目と 耳の ちがいを、ちょっと だけ 思いだせます。
ふくろうの目と耳の分担を、家の中で小さく試せます。
今日できること
家の人と一緒に、物にぶつからない広い部屋を少し暗くします。目を閉じて、鈴や小さな音を鳴らしてもらい、音のする向きを指さしてみます。目を開けたときと、指さしの当たり方を比べます。
もっと知りたいとき
倍率の数字や網膜の細胞の比は、出典によって食いちがいがありました。気になる数字を一つ選び、この記事のどの説明に使われているかを、下の「参考にした情報源」の説明書きと見比べてみると、数字の出どころが見えてきます。
薄暗い広い部屋で、家族に鳴らしてもらった音の向きを、目を閉じたときと開けたときで指さし比べてみる。物にぶつからない場所で行い、鈴や手拍子など小さな音を使う。これはフクロウの実験の再現ではなく、視覚と聴覚の役割を体感するための遊びである。
ここで使った説明は、感度の測定、光学、網膜、聴覚、遺伝子仮説の5層に分かれていた。倍率や桿体・錐体の比、視野角のように出典で食いちがう数字は、記事中でも採用しなかった。感度の数字(Martin 1977, Nature)は要旨にもとづく。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
使った資料と、使った事実の対応。英語の資料が中心です。
- Martin GR (1977) Absolute visual threshold and scotopic spectral sensitivity in the tawny owl Strix aluco. Nature 268:636–638. https://www.nature.com/articles/268636a0 (感度の測定・要旨にもとづく)
- British Trust for Ornithology「Owl vision」 https://www.bto.org/our-science/projects/project-owl/learn-about-owls/owl-vision (感度・筒型の眼・動かない眼)
- Wikipedia「Owl」 https://en.wikipedia.org/wiki/Owl (眼の大きさ・両眼視・近くが苦手)
- Shalaby et al. (2024) BMC Veterinary Research https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11605891 (角膜の大きさ・桿体と錐体)
- Animal Diversity Web「Strix aluco」 https://animaldiversity.org/accounts/Strix_aluco/ (視力)
- Stanford Birds「How Owls Hunt in the Dark」 https://web.stanford.edu/group/stanfordbirds/text/essays/How_Owls_Hunt.html (暗闇での聴覚)
- McGrath C (2020) Highlight: Adaptations That Rule the Night. Genome Biology and Evolution 12(10):1909–1910. 紹介されている原著論文:Espíndola-Hernández P et al. (2020) Genomic evidence for sensorial adaptations to a nocturnal predatory lifestyle in owls. Genome Biology and Evolution, doi:10.1093/gbe/evaa166. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7566332/ (遺伝子の仮説・原著論文の紹介記事にもとづく)
- ナゾロジー「フクロウの網膜研究の紹介」 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/72316 (同じ研究の日本語の紹介)
なおした ところ
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