1. にがい あじの センサーは、いくつ あるの?
1. 苦味センサーの数は、ヒト26、カモノハシ7、ハリモグラ3
1. 苦味受容体遺伝子は、ヒト26種類に対しカモノハシ7種類・ハリモグラ3種類
たまごを うむ ほにゅうるいは、カモノハシと ハリモグラです。ほかの どうぶつと ちがって、たまごから 子どもが うまれます。
にがい ものを 口に 入れると、からだの センサーが 「にがいよ」と しらせます。この センサーを つくる もとの 「いでんし」が、ヒトでは 26しゅるい あります。
カモノハシは 7しゅるい、ハリモグラは 3しゅるいしか ありません。ヒトの 4ぶんの 1ぐらいと、9ぶんの 1ぐらいです。
では、センサーが すくない カモノハシは、にがい あじが わからないのでしょうか。
卵を産む哺乳類を単孔類といい、カモノハシとハリモグラがその仲間です。苦いものを口にしたとき、体は苦味受容体というセンサーで知らせを受け取ります。このセンサーを作る遺伝子の種類が、ヒトでは26あります。
国際単孔類ゲノムプロジェクトの結果によると、カモノハシは7種類、ハリモグラは3種類しかありません[1]。論文でも同じ数字が示されています[2]。ヒトを26として割ると、カモノハシは約4分の1、ハリモグラは約9分の1です(7÷26と3÷26を計算した値)。
センサーの種類が少ないなら、苦味に気づきにくいのではないかと考えたくなります。本当にそうなのでしょうか。
卵を産む哺乳類である単孔類には、カモノハシとハリモグラが含まれる。苦味は、細胞の表面にある苦味受容体(TAS2R)が苦味物質を受けとることで感じ取られ、その受容体を作る遺伝子がヒトには26種類ある。これに対して、国際単孔類ゲノムプロジェクトの解読では、カモノハシは7種類、ハリモグラは3種類しか見つからなかった[1]。
同じ数字は論文本文にも示されている[2]。ヒトを26として割ると、カモノハシは約27%(約4分の1)、ハリモグラは約12%(約9分の1)になる。ゲノム論文では、一般的な真獣類が25種類以上を持つことが述べられ、アリを食べるセンザンコウとの収斂進化にも言及がある[3]。
ただし、遺伝子の種類が少ないことと、苦味を感じる力が弱いことは、同じではない。受容体1つが反応できる物質の幅が広ければ、数が少なくても補えるからだ。実際はどうなのかを、細胞実験が調べている。
2. 1つの センサーで、はんぶんの にがさに はんのう?
2. 数が少ないのに、1つで半数の苦味物質に反応する
2. 培養細胞での実験:24種類中18種類に反応し、1つの受容体で12種類を受け持つ
おどろく けっかが 出ました。北海道大学の けんきゅうです。さいぼうの 中で センサーを はたらかせて、24しゅるいの にがい ものに はんのうするか しらべました。
カモノハシは、24しゅるいの うち 18しゅるいに はんのうしました。しかも、たった 1この センサーが、その はんぶんの 12しゅるいに はんのうしたのです。
この センサーは、たとえば マスターキーに にています。1本で たくさんの へやが あく かぎです。ただし ほんとうの センサーは、かぎ そのものでは ありません。
けんきゅうチームは、こういう センサーを 「ばんのうがた」と よんでいます。すくない センサーを、1つで ひろく つかう つくりです。
では、カモノハシは なぜ そんなに ひろい にがさを しる ひつようが あったのでしょう。
北海道大学が発表した研究では、単孔類の苦味受容体を培養した細胞で働かせ、24種類の苦味物質に反応するかどうかを調べました[1]。
結果は、カモノハシが24種類のうち18種類に反応するというものでした。さらに、論文によると、TAS2R811という1つの受容体だけで24種類中12種類に、TAS2R813Aは7種類に反応しています[2]。12は24のちょうど半分です。研究チームは、このように幅広く反応する受容体を「万能型」と呼んでいます[1]。
たとえるなら、1本で何部屋もの扉が開くマスターキーです。ただし、受容体は鍵そのものではないので、あくまで反応の幅の広さを伝えるたとえです。調べた物質は24種類で、自然界の苦味物質のすべてではありません。
種類が少ないのに、カモノハシは幅広い苦味に対応できる受容体を持っていました。この万能型は、どんな暮らしの中で役に立っているのでしょうか。
北海道大学の研究グループは、単孔類の苦味受容体を培養細胞に働かせ、24種類の苦味物質に対する反応を調べた[1]。その結果、カモノハシは24種類のうち18種類を検知できた。注目すべきは受容体ごとの内訳で、論文本文では、TAS2R811が24種類中12種類に、TAS2R813Aが7種類に反応している[2]。12種類は調べた物質の半数にあたり、プレスリリースはこれを1つで半数を検知する「万能型」と表現している。
数え方には注意が要る。「18種類」はカモノハシの全受容体を合わせた数で、「12種類」は最大の1受容体だけの数であり、混同できない。また、24種類は実験に選んだ物質であって、自然界の苦味物質の全体ではない。
論文は、カモノハシの受容体は全体としてハリモグラの受容体より反応の幅が広いとも述べる[2]。遺伝子の数ではヒトの約27%にすぎないのに、反応の幅では見劣りしないという食いちがいが、この研究の面白さである。では、その幅広さは暮らしのどの場面で使われるのか。
3. にごった 水の 中で、なにを たべるか どう きめる?
3. 目や耳や鼻に頼りにくい水中で、カモノハシはどう食べ物を選ぶのか
3. 視覚・聴覚・嗅覚に頼りにくい潜水:電気と接触で探し、苦味で食べるか判断する
カモノハシは、みずうみや 川に すんで、水の 中の 小さな いきものを たべます。
水に もぐると、目や 耳や はなは あまり やくに たちません。それでも くらくて にごった 水で、くちばしを つかって えさを さがせます。
くちばしには、えさの きんにくが 出す 小さな 電気を かんじる ところが あります。さわった ことを かんじる ところも あります。
そして、つかまえた えさを たべるか どうかを きめる ときには、にがさも つかって いると かんがえられて います。
カモノハシの センサーが ひろく はたらく わけは、まだ すいそくの はんいです。では、おなじ なかまの ハリモグラは どうでしょう。
カモノハシは湖や川で、水中の小さな無脊椎動物を食べます[1]。潜水中は、目・耳・鼻の感覚を使いにくくなります。
見ても聞いても嗅いでも頼りにならない状態で、どうやって獲物を見つけるのでしょうか。くちばしには、獲物の筋肉が出す弱い電気を感じる電気受容器と、触れたことを感じる機械受容器があります。この2つで、濁った水の中でもエビや昆虫の幼虫を探せるといいます[4]。
見つけたあとは、食べてよいものかどうかの判断が必要です。北海道大学は、この判断に苦味の感覚も使っていると考えられるとしています[1]。
万能型の受容体が水中の暮らしと結びついているのかは、今のところ推測の範囲です。同じ卵を産む仲間のハリモグラは、まったく別の場所で暮らしています。
カモノハシは湖沼や河川で、水中の無脊椎動物を食べる[1]。潜水中は視覚・聴覚・嗅覚を使いにくい。代わりに、くちばしの電気受容器が獲物の筋肉から出る微弱な電気を捉え、機械受容器が接触を感じ取る。これらによって、濁った水中でもエビや昆虫の幼虫を探し出せるとされる[4]。
探し当てた相手を食べるかどうかの最後の判断については、北海道大学が、苦味の感覚も利用していると考えられると述べている[1]。苦味が、目も耳も使えない暮らしの最後の関門になっているなら、万能型受容体が1つあることは理にかなう。ただしこれは、食性と受容体を結びつけた推測であり、直接に実証された結論ではない。
ハリモグラは同じ単孔類でも、水ではなく陸で暮らす。その食べ物と苦味受容体は、どう違うのか。
4. ハリモグラは、なぜ もっと センサーが すくないの?
4. アリを食べるハリモグラは、万能型の受容体を失っていた
4. ハリモグラでは機能する TAS2R811 が失われ、受容体全体の検知範囲も狭い
ハリモグラは、りくに すんで、土や かれ木の 中の アリや シロアリを たべます。
しらべると、カモノハシが もつ ばんのうがたの センサーは、ハリモグラでは なくなって いました。ほかの センサーも、はんのうする にがい ものの しゅるいが すくない ようでした。
カモノハシと ハリモグラが わかれたのは、5460万年ぐらい 前と かんがえられて います。
どうして ハリモグラは こうなったのでしょう。アリと シロアリだけを たべるので、であう にがい ものが かぎられて いるからだと かんがえられて います。ただし、これは すいそくです。
ハリモグラは陸で暮らし、土や枯れ木の中にいるアリやシロアリを主食にします[1]。
同じ実験をすると、ハリモグラはカモノハシが持つ万能型の受容体を失っていました。ほかの受容体も、カモノハシよりも検知できる苦味物質の数が少ない傾向にあります[1]。ただし「苦味を感じにくい」と言い切れるわけではなく、分かったのは、検知できる物質の種類が少ない、ということです。
カモノハシとハリモグラが分かれたのは、約5460万年前と推定されています[2]。
ハリモグラで万能型が失われた理由は、アリやシロアリに特化した食べ物では、出会う苦味物質が限られるためだと考えられています[1]。これは推測で、食べ物が原因だと決まったわけではありません。ゲノム論文は、嗅覚受容体の遺伝子がカモノハシ299、ハリモグラ693と大きく違うことにも触れ、電気感覚に頼るカモノハシと、地中の獲物を探すハリモグラの違いと関連づけています[3]。
食べ物や暮らしが変われば、使う感覚の組み合わせも変わるようです。では、数が減っても残った苦味受容体は、何を見分けているのでしょうか。
ハリモグラは陸生で、土や枯れ木の中のアリ・シロアリを主食にする[1]。実験の結果、ハリモグラはカモノハシの万能型受容体に相当するもの(機能する TAS2R811)を持たず、残る受容体も、検知できる苦味物質の数がカモノハシより少ない傾向にあった[1]。「苦味を感じにくい」とまでは言えず、確かなのは検知できる物質の種類が限られる点である。
両者が分岐したのは約5460万年前と推定されている[2]。その後それぞれが別の暮らしに適応する中で、ハリモグラの側で万能型が失われたことになる。北海道大学は、その理由として、アリ・シロアリに特化した食性のために遭遇する苦味物質が限られるからだと考えられるとしている[1]。ただし、食性を原因と断定する根拠はなく、一因として考えられるという段階である。
ゲノム論文は嗅覚受容体の遺伝子についても数を比べ、カモノハシ299、ハリモグラ693と、苦味受容体とは逆にハリモグラのほうが多いことを示した。論文はこれを、電気感覚に頼るカモノハシと、地中の獲物を探すハリモグラの違いと関連づけている[3]。この解釈も、因果が実証されたものではない。
感覚の使い方が暮らしごとに偏るとすれば、減った苦味受容体の中に残っているものは、よほど大事なはたらきを担っているのではないか。
5. すくなく なっても のこった センサーは、なにを まもる?
5. 植物の毒を苦く感じる力は、2億年近く前から受け継がれたのか
5. βグルコシドに反応する受容体:単孔類と胎生哺乳類の分岐前にさかのぼる可能性
のこった センサーの 中には、しょくぶつの どくの なかまに はんのうする ものが ありました。ハリモグラの センサーにも、カモノハシの センサーにも、あります。
ほかの ほにゅうるいにも、おなじ しごとを する センサーが あります。そして その ほにゅうるいも、おなじ どくの なかまに はんのうしました。
この 力は、とても むかしから うけつがれて きた かもしれません。たまごを うむ なかまと、ふつうの ほにゅうるいが わかれたのは、およそ 2おく年ぐらい 前と いわれて います。
にがさは、からだを まもる ための あいずだった のかもしれません。
数が減っても、植物の毒を見分ける力は残っているようです。北海道大学の研究によると、ヒトなどの有胎盤類のTAS2R16に近い受容体が、カモノハシとハリモグラにもあり、その一部は植物などが持つ毒のなかまの配糖体(βグルコシド)に反応しました[1]。有袋類や有胎盤類の対応する受容体も、同じように反応しています。βグルコシドだけに反応するわけではなく、ほかの物質にも反応する受容体が含まれます。
単孔類と、胎生の哺乳類が分かれたのは約1億8700万年前、おおよそ2億年前とされます[3]。もし分かれる前の共通の祖先がすでにこの力を持っていたなら、植物の毒に気づく力は、2億年近い年月を受け継がれてきたことになります。研究はこの可能性を示唆するものです。
植物の毒の見分け方は、苦味受容体の中でも古い役目の1つなのかもしれません。
受容体の数が減る中でも、残った受容体には共通の役割がうかがえる。有胎盤類のTAS2R16と近縁な単孔類の苦味受容体の一部が、植物などが持つ配糖体の一種、βグルコシドを受けとる[1]。有袋類・有胎盤類の対応する受容体も同様に反応した。ただし、これらの受容体はβグルコシドだけに反応するのではなく、ほかの物質にも反応する[2]。
単孔類と胎生の哺乳類(有袋類・有胎盤類)が分かれたのは約1億8700万年前で、カモノハシとハリモグラが分かれたのは約5460万年前と推定されている[3][2]。そのため、両方の単孔類と胎生哺乳類に同様の受容体があるなら、最も新しい共通祖先の時代からこの機能が受け継がれてきた可能性がある。約2億年前というのは概数であり、機能が維持されたことは示唆の段階にとどまる。
カモノハシとハリモグラは野外での継続的な観察が難しく、生態には多くの謎が残る[1]。培養細胞で受容体の働きを調べる方法は、観察しにくい動物の感覚に近づく手がかりになる。
6. つぎは なにを しらべる?
6. 7と3の先:動物の食べ物から、感覚を想像してみる
6. 次の問い:食性と受容体は、ほかの動物でも結びつくのか
カモノハシと ハリモグラは、おなじ たまごを うむ なかまです。でも、たべるものが ちがうと、にがさの わかり方も ちがって いました。
じぶんの すきな どうぶつを 1ぴき えらんで、ずかんで 「なにを たべるか」を しらべて みましょう。
そして、「その たべものを えらぶ とき、どんな かおり、あじ、さわりごこちが てがかりに なるかな」と そうぞうして、ひとこと かいて みてください。
こたえが わからなくても だいじょうぶです。そうぞうした ことを、ひとこと のこせます。
食べ物が変わると、苦味の感じ方も変わる。この記事で分かったのは、そこまでです。
今日できることは、好きな動物を1種類選び、図鑑や動物園の解説で食べ物を調べることです。そのうえで、その食べ物を見つけるとき、目・鼻・触覚のどれを手がかりにしていそうか、一言だけメモします。カモノハシのように、目を使わない動物も見つかるかもしれません。
公式情報としては、北海道大学の発表が日本語で読めます。研究の背景にある単孔類ゲノムの話にも続いています。7つと3つの先に、ほかの動物ではどんな組み合わせがあるのでしょうか。
本稿の流れは、遺伝子数が少なくても受容体の守備範囲が広ければ補える、という点にあった。カモノハシでは1つの受容体が調べた物質の半数に反応し、ハリモグラではその受容体が失われていた。この違いが食性に由来するという説明は、今のところ推測である。
自分で確かめるなら、北海道大学のプレスリリースを日本語の原典PDFで読み、24種類のうち18種類・12種類という数字がどの実験の数かを自分で追うのがよい。論文(Itoigawa et al. 2022)は英語だが、受容体ごとの反応数が本文にあり、プレスリリースの数字と見比べられる。
ほかの動物で、食べ物と苦味受容体の数や幅はどう結びつくのか。センザンコウのように、ゲノム論文が似た傾向に触れる動物もいる[3]。比べたくなるときの出発点になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の[番号]は下の出典に対応します。
- 北海道大学プレスリリース「カモノハシとハリモグラの苦味受容体」2022年6月10日(原典PDF) https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/220610_pr2.pdf (苦味受容体の数・万能型・食性・βグルコシド・野外観察の難しさ)
- Itoigawa et al. 2022, Molecular Biology and Evolution(PMC) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9161717 (受容体ごとの反応数・分岐時期)
- Zhou et al. 2021, Nature(PMC) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8081666 (単孔類ゲノム・分岐時期・嗅覚受容体の数)
- St. Louis Public Radio「On Science: How does a platypus hunt with its eyes shut?」2008年5月27日 https://stlpr.org/health-science-environment/2008-05-27/on-science-how-does-a-platypus-hunt-with-its-eyes-shut (潜水中の感覚・電気受容器)
なおした ところ
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