1. 12人で くらべた 船の ぐんい
1. 12人の船乗りで6つの治療を比べた軍医
1. 比較はすでに行われていた ── 1747年、軍艦の上のリンド
むかし、長い 船旅では、たくさんの 人が かいけつびょうと いう 病気に なりました。
1747年、ぐんかんの ぐんい リンドは、12人の 病人に 6つの ちがう ちりょうを して、どれが きくか くらべました。いちばん よく きいたのは、オレンジと レモンでした[2]。
これは とても 大切な 一歩でした。でも、人数は 12人だけで、なぜ その 6つを えらんだのかも 書かれて いません。だれが どの ちりょうを 受けるかを どう 決めたのか、くじを 使ったとは、しりょうに 書いて ありません[2]。
ランダム化比較試験(RCT)とは、対象者を2つ以上のグループにランダムに分けて、治療などの効果を比べる方法です[1]。その祖先のような比較が、約280年前の船の上にありました。1747年5月20日、軍医ジェームズ・リンドは軍艦ソールズベリー号の上で、壊血病の患者12人に当時行われていた6つの治療を試し、どれがよく効くかを比べ始めました。結果は、オレンジとレモンなどの柑橘類がいちばん効いた、というものでした[2]。同じ船、同じ時期という条件をそろえた、計画的な比較として知られています。
ただ、この実験には限界もありました。人数は12人と少なく、治療の選び方の理由も示されていません。どの患者にどの治療を割り当てたかを、ランダムに決めたという記述も資料にはありません[2]。
つまり「比べる」という発想は、すでに江戸時代の中ごろにあったのです。残った問いは、「だれをどちらの組に入れるか」を、どうすれば公平に決められるのか、でした。
ランダム化比較試験(RCT)は、研究の対象者を2つ以上のグループに無作為(ランダム)に分け、治療などの効果を比べる方法だ[1]。この発想の前段として、まず「比べる」こと自体が先に実践されていた点に注目したい。
軍医ジェームズ・リンドは、1747年5月20日にソールズベリー号の上で、壊血病の患者12人に当時行われていた6つの治療を比べる前向きの実験を始めた。結果は、柑橘類(オレンジとレモン)がもっとも効いた、というものである。同じ船・同じ時期という環境の統制がされていた点で、計画的な比較として評価される[2]。
しかし、この実験はRCTではなかった。人数は12人にすぎず、治療の選び方の理由は示されておらず、ランダムに割り当てたという記述も資料にない[2]。割り当てを偶然にゆだねる発想は、この実験には見られない。ここから、比較の「入口」にあたる問い、すなわち患者をどのグループに入れるかをどう決めるか、が設計上の最初の穴として浮かぶ。
2. じゅんばんに わけると、つぎが 先に わかって しまう
2. 「交互に割り当てる」と、次が分かってしまう
2. 交互割り付けの穴 ── 次の割り当てを予測できる
では、どう わければ いいでしょう。「1人めは A、2人めは B、3人めは A…」と、じゅんばんに わける ほうほうが あります。
でも、これだと、つぎの 人が どちらに なるか 先に 分かります。もし くすりを 出す 人が、「この 人は 元気そうだから、A の くすりの ぐみに 入れたいな」と 思ったら、じゅんばんを 見て、その 人を よぶ 日を ずらせて しまうかも しれません[5]。
わるい 気は なくても、気づかない うちに えらんで しまう ことが あります。ここが、さいしょの あなです。
1,2,1,2、と順番に割り当てる方法を「交互割り付け」といいます。簡単で、一見公平ですが、次の人がどちらの組になるかが前もって分かってしまうという弱点があります。参加者を集める側が、無意識のうちに、あるいはよかれと思って、特定の患者を片方の組に誘導できてしまうのです[5]。
たとえば、新しい薬の組に入るのが次の人だと分かっていたら、重い症状の人を後回しにして、軽い人を先に呼びたくなるかもしれません。そうなると、2つの組は最初から同じ条件ではなくなります。
そこで考えられたのが、くじのような乱数で分ける方法でした。乱数なら、次がどちらになるかを予測しにくいからです。実は、これを採り入れたヒル教授自身、以前は交互割り付けを支持していた人物でした[5]。
グループ分けの方法が悪いと、比較は最初から傾く。たとえば交互割り付けでは、次の割り当てが予測できるため、募集する側が患者を片方のグループに誘導できてしまう。これは悪意の有無とは関係なく、割り当てバイアスと呼ばれる偏りの原因になる[5]。
乱数による割り付けは、この予測を難しくする。盲検化(治療の中身を知らせない)ができない試験では、特に有利だとされる。ただし同じ論文は、本当の鍵は乱数そのものというより、割り当て表を知られないようにすること、つまり表の識別を防ぐ注意だとも述べる[5]。
注目したいのは、この方法を広めた統計学者ブラッドフォード・ヒルが、以前は交互割り付けを支持し、まず同時期の対照群を使うよう医師を説得する立場だったことである。それが1946年に、英国医学研究会議(MRC)の委員会に乱数による割り付けを採用させた[5]。つまり、設計が改良された過程が、記録に残っている。では、乱数をどう使い、何を隠したのか。
3. ふうとうに 入れて、あけるまで だれも 知らない
3. 1948年の結核の試験 ── 封をした封筒で「次」を隠す
3. 1948年の結核の試験 ── 乱数と、封筒で隠す手順
1948年、イギリスで、けっかくという 病気の くすりを たしかめる 試験が 行われました。その ほうこくは、わけ方を 先に 知られないために とった やり方を くわしく 書いた 点で、大切だと されて います[3]。
ほうこくによると、わけ方の じゅんばんは らんすうで 作られ、ふうを した ふうとうに 入れられました。お医者さんも、まとめ役も、ふうとうを あけるまで 分からないように したのです[4]。
つまり、くじで わけた うえに、くじの 中身も かくした わけです。これで、先ほどの あなが ふさがれます。
1948年、英国医学研究会議(MRC)が行った結核の治療薬ストレプトマイシンの試験が、BMJ(英国医学雑誌)に報告されました[3]。この報告は、治療の割り当てに乱数を使ったことに加え、割り当てを事前に知られないようにとった手順を詳しく書いた点で、方法論の画期とされています。
報告の引用によると、割り当ては各施設で男女別に、ヒル教授が作った乱数による並びを使い、封をした封筒に入れて行われました。割り当ての並びの詳細は研究者や調整役に知らされず、患者を受け入れたあとで封筒を開けました[4]。
ここで大切なのは、「くじで分けた」ことと「次を隠した」ことが、別々の工夫だという点です。くじだけでは、表が先に見えてしまえば意味がありません。封筒は、その穴をふさぐ道具でした。
なお、この試験を「世界初のランダム化比較試験」と呼ぶ言い方には異論もあり、英国王立内科医会は、その称号を不当に得たものとみなしています[5]。ここでは、歴史的に重要な転機のひとつとして紹介するにとどめます。
MRCによるストレプトマイシンの結核試験は、1948年10月にBMJ(2:769-782)で報告された。治療の割り当てに乱数を用い、さらにこの報告は、割り当てを事前に知られないようにとった手順を詳しく記した点で、方法論上の画期とされる[3]。
手順は、試験報告を引く二次資料によれば次のようになる。割り当ては各施設で男女別に、ヒル教授が作った乱数の系列に基づき、封をした封筒に入れられ、並びの詳細は研究者や調整役に知らされず、患者を受け入れたあとで封筒を開けた[4]。割り当て表を作る人と、参加者を実際に選ぶ人を分け、封筒を開けた時点で初めて組が決まる、という設計である。
この試験の評価については、歴史研究者の間で見方が分かれる。Chalmers(2010)は、重要なのは乱数そのものより、割り当て表を知られないようにするための用心を記述した点だと論じ、統計理論が採用に関与したわけではないとする。[8]。また、「初のRCT」という呼び方には異論があり、英国王立内科医会は、その称号を不当に得たとみなしている[5]。
以上から、RCTの設計は「乱数」と「隠蔽」の二つの要素で構成される、と整理できる。では、その隠蔽が弱いと、結果はどれほど変わるのか。
4. かくし方が よわいと、くすりが よく きいた ように 見える
4. 隠し方が弱いと、効果が大きく見える
4. 割り当ての隠蔽が弱いと、効果はどれだけ大きく出るのか
かくし方が よわいと、本当に ちがいが 出るのでしょうか。
250の 試験を まとめて しらべた 研究が あります。それによると、わけ方の かくし方が たりない 試験は、しっかり かくした 試験より、くすりの ききめが 大きく 出ました[6]。
ただし、この数字は さんか(赤ちゃんを うむ ときの 医学)の 試験が 中心で、あとの 研究では、ちがいが もっと 小さかったとも いわれて います。「かくす」ことが 大切だ、という ことは 分かりますが、数字を そのまま しんじすぎないように しましょう。
隠すことが本当に結果を変えるのか。250の試験(33のメタ分析)を調べたSchulzらの1995年の報告が、その手がかりになります。割り当ての隠し方が不十分な試験は、十分な試験よりも治療効果が大きく出ていました[6]。
数字で見ると、効果の大きさを表すオッズ比が、隠し方が不十分な試験で41%、隠し方が不明な試験で30%大きく見えました。また、二重盲検になっていない試験も、約17%大きく出ていました[6]。
ただし、この「41%」を、どんな薬でも効果が4割ふくらむ、と読むのは行きすぎです。この調査は産科の分野のオッズ比で、のちの研究では、客観的な指標を使う試験ほど差が小さい、とも報告されています。隠し方が結果に影響しうることは分かっても、その大きさは条件で変わると考えるのが安全です。
隠蔽の効果を量的に示したのが、Schulzらの1995年の研究(JAMA)である。250試験(33のメタ分析)を比較すると、割り当ての隠し方が不十分な試験では、十分な試験よりオッズ比が41%、不明な試験では30%誇張されていた。二重盲検になっていない試験でも、約17%の誇張がみられた[6]。
数値の読み方には注意がいる。オッズ比で41%大きいというのは、効果が4割増えるという意味ではない。比の比較であり、元の効果の大きさによって、実際の差の見え方は変わる。さらに、この結果は産科分野の試験が中心で、後の研究では、客観的な指標を使うときほど差が小さいと報告されている[6]。
したがって、この研究から言えるのは、隠蔽の質が結果の見かけを動かしうる、という方向性までだ。実際の大きさは、分野と評価指標に依存する。では、隠すべき相手は割り当て表だけなのか。次に、割り当てが決まった後の穴を見る。
5. 本人も お医者さんも、どちらか 分からない ように する
5. 患者にも医師にも、どちらの薬か分からなくする
5. 二重盲検とプラセボ ── 割り当てた後の穴
わけ方が 決まった あとにも、もう 1つ あなが あります。
「この くすりは 新しいから きっと よく きく」と 思うと、人は 体の ぐあいを よい ほうに 感じたり、見る 人が よい ほうに 見たり することが あるからです。
そこで、見た目は ほんものと 同じで、くすりの せいぶんが 入っていない「プラセボ」を 使い、どちらを もらったか 分からない ように する やり方が あります。お医者さんと 本人の 両方に かくす ものは「にじゅうもうけん」と よばれます[9]。
ただし、しゅじゅつや 運動などの 試験では、かくせない ことも あります。
グループ分けが終わっても、もう一つ穴があります。新しい薬だと知っていれば、患者は「きっとよくなる」と感じやすく、評価する医師も良い方向に見てしまうかもしれません。こうした先入観が評価をゆがめるのを防ぐ方法が、二重盲検です。
二重盲検では、患者や医療者など、あらかじめ決めた関係者に、どちらの治療か知らせません(だれに知らせないかは試験ごとに異なります)。比べる相手には、見た目が同じで有効成分を含まないプラセボ(偽薬)を使うことがあります[9]。
前の章の調査でも、二重盲検になっていない試験は効果が大きめに出る傾向がありました[6]。ただし、手術や運動のように、どちらを受けているかを隠しにくい治療もあります。そうした試験では、乱数による割り付けと、評価をする人にも分からないようにする工夫が、とくに大切になります。
割り当て後の偏りに対しては、盲検化が使われる。二重盲検は、患者と医療者など、あらかじめ定めた関係者にどちらの治療かを知らせず(対象者は試験ごとに異なる)、先入観による評価のゆがみを防ぐ方法で、比較対象にはプラセボ(見た目は同じで有効成分を含まない)が使われる[9]。
注意すべきは、盲検化の限界である。手術・運動療法など、介入そのものが見えるものは盲検化できない。前章のSchulzらの結果でも、二重盲検でない試験は約17%大きい傾向にあった[6]。盲検化できない試験では、割り当て表を隠すことと、結果を評価する人を治療内容から切り離すことの比重が高まる。
ここまでで設計の骨組みが出そろった。乱数で偏りを抑え、表を隠して選別を防ぎ、可能なら盲検化して評価のゆがみを防ぐ。だが、これらが実際に守られたかは、どう確かめるのか。
6. やり方を、あとから 見て たしかめられる ように 書く
6. 「どう分けて、どう隠したか」を報告に書く決まり
6. CONSORT ── 設計を検証できる形で報告する
くふうを したと 書いても、どう やったのかが 分からなければ、読む 人は しんじて いいか まよいます。
そこで、試験の ほうこくに 何を 書くかを まとめた「CONSORT(コンソート)」と いう ししんが あります。2025年ばんでは、チェックこうもくが 30こ あり、わけ方の じゅんばんを どう 作って、どう かくしたかも 書く ことに なって います[7]。
こうして 書いて あれば、ほかの 人が「あなは ふさがれて いるかな」と 見なおせます。
工夫をしても、それが報告に書かれていなければ、読む側は確かめようがありません。そこで、ランダム化試験の報告に最低限書くべきことをまとめたのが、CONSORT(コンソート)という指針です。2025年版は、30項目のチェックリストと、参加者の流れを示すフローチャートでできています[7]。
この指針には、割り当ての順序をどう作ったか、そしてそれをどう隠したかを書く項目も入っています。1948年の試験の報告が詳しく書いた点が、いまは報告の標準的な項目として整えられている、とも言えるでしょう。ただし、項目の番号は版によって違うため、読むときは版を確かめる必要があります。
7. 紙の カードで「つぎが 分かる」を ためして みよう
7. 紙のカードで「次が分かる」を体験する
7. 設計の穴を自分で探す ── 体験と、ニュースの読み方
紙を 8まいに 切って、4まいに「A」、4まいに「B」と 書きます。家の 人に たのんで、まず A、B、A、B…と じゅんばんに ならべて もらい、1まいずつ 見ます。つぎが 当たってしまいますね。
つぎに、8まいを うらがえしにして よく まぜ、1まいずつ めくります。つぎが 何か、分かりますか。
ニュースで「くすりが きいた」と 聞いたら、「だれが、どうやって わけたのかな」と 考えて みて ください。
紙を8枚に切り、4枚に「A」、4枚に「B」と書きます。まず家の人に頼んで、A、B、A、B…と交互に並べてもらい、1枚ずつ見ていきましょう。次の1枚が、いつも当てられるはずです。
次に、8枚を裏返しにしてよく混ぜ、1枚ずつ順にめくります。今度は、最初の1枚は当てにくいはずです。ただ、カードが少なくなる終盤は、残りから分かることもあります。くじで分けることと、表を隠すことの違いが、手元で分かります。
薬のニュースや広告で「効果があった」と見かけたら、「何人を、どう分けて、比べたのか」を探してみるのもおすすめです。割り当てをどう決め、どう隠したかが書かれているかどうかで、その比較の細かさが見えてきます。
手元で試すには、紙を8枚用意し、AとBを4枚ずつ書く。交互に並べて1枚ずつ見る場合と、裏返して混ぜてから1枚ずつめくる場合とで、次の1枚を予測できる程度を比べる。前者では完全に当たり、後者では、4枚ずつと決めてあるため終盤だけ予測しやすくなることも観察できる。ランダム化しても、条件の置き方しだいで予測の余地が残りうる、という手がかりになる。
ニュースや論文を読むときは、①何人を、②どう分け、③その表をどう隠し、④誰に治療内容を伏せたか、の4点が書かれているかを探す。書かれていない場合、それは設計が悪い証拠ではないが、判断材料が不足していることを意味する。
原典に当たるなら、MRCの1948年の報告(BMJ)と、James Lind Libraryが公開する解説が、手順の記述を直接読める資料である。1747年の比較から1948年の手順まで約200年あいだがあく。そのあいだに何が足され、何が議論されたのかは、これらの資料の先にある問いとして残る。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
この記事で使った資料です。本文の[ ]の番号は、下の番号に対応します。
- 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「ランダム化比較試験」 http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/randomized_controlled_trial.html (ランダム化比較試験の定義)
- リンドの壊血病の比較実験の解説 (PubMed Central) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1276007 (1747年の実験の内容と限界)
- James Lind Library「Medical Research Council (1948)」 https://www.jameslindlibrary.org/records/medical-research-council-1948b/ (1948年の結核の試験の位置づけ)
- Cambridge University Press『Dicing with Death』の該当章 https://www.cambridge.org/core/books/dicing-with-death/trials-of-life/98141B19C516C5259A27AD5B7D0B7050 (試験報告を引く二次資料。封筒の手順について)
- James Lind Library「Scadding and the move from alternation to randomization」 https://www.jameslindlibrary.org/articles/j-guy-scadding-and-the-move-from-alternation-to-randomization/ (交互割り付けから乱数への移行と、割り当て表を隠す大切さ)
- Schulz KF ほか, JAMA 1995 (PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7823387/ (隠し方・盲検化の質と効果の大きさ)
- CONSORT 2025 https://www.consort-spirit.org/ (試験報告の指針)
- Chalmers I, J R Soc Med (PubMed Central) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3164257
- 国立病院機構災害医療センター 治験管理室便り https://saigai.hosp.go.jp/tiken/pdf/letter15.pdf
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