1. のびるのに、どうして ながく ならないの?
1. 毎週2mm伸びる歯が、長くならない理由
1. 根のない歯の長さは、伸びる量と削れる量で決まる
ネズミの なかまの 前歯には、根が ありません。根が ない ので、歯は とまらずに のびつづけます[2]。
マウスの 目やすは、上の 歯で 一しゅうかんに やく2ミリ、下の 歯で やく2.8ミリです。1年に すると、上の 歯だけで 10センチを こえる ことに なります[1]。
でも、おとなの マウスの 歯は ながく なりません。かじって けずれる ぶんと、のびる ぶんが、おなじくらいだから です[1]。
たとえば、ろうそくを もやしながら、同じ はやさで ろうを つぎたして いく ところを 思いうかべて ください。ながさは かわりません。ただし 本当は、歯は もえるのでは なく、かじって すりへります。
ネズミやリスの仲間(齧歯類)の前歯には、根がありません。根がないので、歯は止まることなく伸びつづけます。多くの動物の体の器官が大人になると成長を止めるのに、この歯は一生伸びつづけます[2]。
マウスでは、伸びる速さの目安が上の前歯で週に約2mm、下の前歯で約2.8mmとされています。系統によって差があるので、おおまかな数字です[1]。もし削れなければ、上の歯だけで1年に約10cm伸びる計算です(2mm×52週)。
それでも大人のマウスの前歯は長くなりません。伸びる速さと削れる速さが同じだからです[1]。マウスでは、歯が生えてから入れ替わるまでに35〜45日ほどかかります。
歯の根もと側には、新しい細胞を生みだす幹細胞があり、組織の入れかえを支えています[6]。歯の先は、かじることで削れます。
齧歯類の切歯は歯根をもたない無根歯で、生涯伸びつづける[2]。成体の多くの器官が成長を止めるのとは対照的である。根もと側の頸ループには上皮幹細胞があり、組織の更新を支えるとされる[6]。
では、伸びつづける歯はなぜ長くならないのか。マウスでは、伸びる速さが削れる速さと等しく、成体の切歯の長さは一定に保たれる。目安は上顎切歯で週約2mm、下顎切歯で約2.8mmで、系統差がある[1]。削れなければ上顎切歯は1年で約104mm(2mm×52週)伸びる計算になり、この数字は削れが止まった場合の上限の試算であって、実際の伸びた量ではない。
マウスで歯が入れ替わるまでの期間は35〜45日とされる[1]。つまり、歯は「伸びるからかじる」のではなく、かじって削れる量と生えてくる量がつり合うことで、長さが保たれている。ただし、伸びる速さがどのように調節されているのかは、ここで使った資料からは分からない。
3. ビーバーの 歯は、もっと こまかく できている?
3. ビーバーでは、エナメル質の内側のほうが速く削れる
3. ビーバー切歯の二層構造と削れる速さの差
ビーバーは、木を かじって たおす どうぶつです。その 歯の エナメルしつを くわしく しらべた 研究が あります[4]。
エナメルしつは うすい そうですが、中は ふたつに わかれて いました。内がわの ほうが、そとがわより やく2.5ばいも はやく けずれる そうです[4]。
この ちがいが、はを するどく たもつ 手だすけを して いると かんがえられて います。ただし これは ビーバーの けっかで、ほかの どうぶつの 歯も 同じとは かぎりません。
木を切りたおすビーバーの前歯は、さらに細かい工夫をもっています。2023年の研究では、薄いエナメル質の中に二層の構造があり、内側のエナメル質は外側の約2.5倍の速さで削れることが示されました[4]。
この速さの差が、刃先を鋭く保つことにつながっていると考えられています。硬い部分と削れやすい部分を重ねることで、かじりつづけても刃が丸くならないのです。
ただし、これはビーバー1種の結果です。ネズミやリスの歯が同じ細かさで同じ仕組みを持つ、とまでは言えません。
ビーバー切歯では、エナメル質自体がさらに二層に分かれている。Hunt らの2023年の研究(Acta Biomaterialia)によれば、内側のエナメル質は外側の約2.5倍の速さで摩耗し、この微細構造が刃先の鋭さを維持する[4]。
前節の象牙質との差が刃の「大きな非対称」だとすれば、これはエナメル質の中の「小さな非対称」である。薄い層の内部でも、削れる速さに差をつけることで、先端が丸くならない形が保たれていると解釈できる。
ただし、この結果は1種(ビーバー)のものであり、ほかの齧歯類にそのまま一般化はできない。
4. 歯の オレンジ色は、鉄の せい?
4. ネズミの前歯の色は、何で決まるの?
4. 歯の色を決めるのは鉄ではなく表面の層
ネズミや リスの 前歯は、オレンジいろや ちゃいろに 見えます。むかしは、この いろは 鉄の せいだと かんがえられて いました[5]。
ところが、2024年に 7しゅるいの ネズミの なかまを しらべた 研究では、いろを きめる おもな わけは 鉄では なく、表めんの 2まいの そうだと わかりました。そうが あつい ほど、歯は こい いろに なります[5]。
鉄は むだなのかと いうと、そうでは ありません。エナメルしつの ごく こまかい すきまに ある 鉄を ふくむ ものが、歯の つよさや、すっぱい ものへの つよさを きめて いるそうです[5]。
ネズミやリスの前歯がオレンジ色や茶色に見えるのは、エナメル質に含まれる鉄のせいだと、以前は考えられていました[5]。
2024年にマックス・プランク研究所が発表した、齧歯類7種を調べた研究で、色を決めるおもな理由は鉄ではなく、表面の重なった二つの層だとわかりました。表面の層が厚いほど、歯は濃い色になります[5]。
では鉄は関係ないのかというと、そうではありません。エナメル質の中のナノメートルの大きさのすきまには、鉄を含む物質(フェリハイドライトに似たもの)があります。体積は小さいのですが、歯の力学的な性質と、酸への強さを左右するとされています[5]。「鉄で色がつく」という思いこみが、実は歯の別の役割を見えにくくしていたわけです。
齧歯類の切歯が示すオレンジ〜茶色の色調は、従来、エナメル質中の鉄が原因だと説明されてきた。しかし、2024年のマックス・プランク協会の報告(調べた齧歯類7種)では、鉄を含むエナメル質は色の主要な原因ではなく、重なった2つの表層が色を決定し、表層が厚いほど歯は濃くなる[5]。
一方で、エナメル質のナノメートル規模の空隙にあるフェリハイドライト様の鉄含有物は、体積は小さいが、力学的性質と酸への抵抗性を左右すると報告されている[5]。鉄を含む物質は、色の主な原因ではなく、歯の力学的性質や酸への抵抗性に関わる、ということになる。
「鉄=色」という単純な説明が長く通用していたことは、観察と因果の対応づけに注意が要ることを教える。なお、鉄の体積は小さいため、硬さの倍率などの数値は資料から読みとれない。
5. つりあいが くずれると、どうなるの?
5. かみ合わせがずれると、つり合いがくずれる
5. 不正咬合:削れが止まると何が起きるか
上と下の 歯が うまく かみあわなく なる ことが あります。すると、歯が けずれず、のびすぎて しまいます[1]。
のびすぎると 食べにくく なって、やせる ことも あります。けんきゅうに つかう マウスでは、さきの まるい はさみで ときどき 歯を きって せわを します。いたみは ないと されて います[1]。
このように、のびる ことと けずれる ことは、いつも 二つで 一つに なって いるのです。
どうぶつえんや ペットショップで 前歯を さがして みよう
動物園やペットショップで、前歯の色を見てみる
観察と資料の入口
おでかけで できること
どうぶつえんや ペットショップで、リスや ハムスターの 前歯を 見て みましょう。オレンジ色の 歯が 見つかるかも しれません。動物に さわらず、はなれた ところから 見ます。
しらべる ヒント
見つけたら、ノートに 色と、かじる ようすを かいて おきます。また 見に いけたら、歯の 色や かじる ようすを くらべて みましょう。
出かけてできること
動物園やペットショップで、リスやハムスターなど齧歯類の前歯を観察してみましょう。オレンジ色や茶色に見えるか、かじる様子があるかを見ます。動物には触れず、飼育員の方の案内にしたがってください。
調べてみるヒント
見つけた動物が何をかじっているか、歯の色は種類によって違って見えるかを、メモしてみましょう。歯の先が使われていることを、自分の目で見る入り口になります。
観察
動物園やペットショップで、齧歯類の前歯の色と長さを記録する。動物には触れず、施設の指示にしたがう。複数の種を比べると、色の濃さに差があることに気づくかもしれない。
資料を読むなら
家にある日本語の図鑑や本で、齧歯類の歯の写真と説明を探し、この記事の内容(エナメル質の位置、歯の色)と比べてみるとよい。出典[3][5]は色とエナメル質の話を扱う英語の発表で、さらに調べたいときの入口になる。[4]のビーバーの論文は、削れる速さの差を数値で示すので、1種の結果である点に注意して読み、一般化できる範囲を考えてみるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
伸びる速さと不正咬合は研究用マウスの資料[1]、自己研磨は獣医学の解説[2]、7種の比較は研究所の発表[3]、ビーバーの削れ方は論文[4]、色と鉄は協会の発表[5]、幹細胞は論文[6]による。多くは英語の資料で、要約して使った。
- The Jackson Laboratory: How to spot and manage malocclusion in research mice https://resources.jax.org/jax-blog/how-to-spot-and-manage-malocclusion-in-research-mice (伸びる速さの目安・不正咬合)
- MSD/Merck Veterinary Manual: Overview of Rodents https://www.merckvetmanual.com/exotic-and-laboratory-animals/rodents/overview-of-rodents (根がないこと・エナメル質と象牙質・自己研磨)
- Max Planck Institute for Solid State Research: Rodent Teeth (ACS Nano 2024) https://fkf.mpg.de/8401030/rodent-teeth (7種の比較・前面だけのエナメル質)
- Hunt et al. 2023, Acta Biomaterialia 158:412-422 https://impact.ornl.gov/en/publications/microstructurally-driven-self-sharpening-mechanism-in-beaver-inci/ (ビーバーのエナメル質の二層構造)
- Max Planck Society: Rodents inspire dentistry (2024-06-07) https://www.mpg.de/22034748/rodents-dentistry (歯の色と鉄)
- Frontiers in Dental Medicine 2022: Rodent incisor as a model to study mesenchymal stem cells https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fdmed.2022.1068494 (根もと側の幹細胞)
なおした ところ
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