1. 春の 川を くだった さけは、まず どこへ むかうの?
1. 春の川を下った稚魚は、日本の沿岸からオホーツク海へ向かう
1. 川を下った稚魚はまず沿岸にとどまり、オホーツク海を経て北西太平洋で最初の冬を越す
さけは、秋から冬に、川の そこの 石の あいだに たまごを うみます。たまごは 2か月ほどで かえり、ちいさな 稚魚は 石の あいだで そだちます[1]。
3〜5がつごろに なると、稚魚は 川を くだって 海に はいります。すぐに とおくへ いくのでは ありません。しばらくは、きしに ちかい あさい 海で すごします。
それから、北海道の きしを 北へ のぼって、オホーツク海へ はいります。そして 流氷を さけて、もう すこし 南の 北太平洋の にしがわへ うつり、はじめての 冬を こします[2]。
ちいさな さけは、うまれて はじめての 冬を、氷の ない 海で こします。
シロザケは、秋から初冬に川底の湧き水のある場所へ産卵します。卵は水温しだいで約2か月でふ化し、稚魚は砂利の中で育ちます。そして3〜5月ごろ、体長が3.5cmほどになると、川を下って海に入ります[1]。
海に入っても、すぐ遠くへ向かうわけではありません。日本系のシロザケの稚魚は、しばらく岸に近い浅い海で過ごし、大きくなるにつれて沖へ出ていくとされます[2]。
その後は北海道の沿岸を北へたどってオホーツク海に入り、流氷を避けるようにして北西太平洋へ移り、最初の冬を越します[2]。川の中で育った小さな稚魚が、1年目から氷の海に近い場所を通っていくのです。
これは日本系の標準的な経路の説明です。集団によって通る道は少しずつちがうと考えられています。
日本系シロザケの標準的な説明では、稚魚は翌春の3〜5月、体長がおよそ35mmになった時期に川を下る。川底の湧き水のある場所に産卵され、卵は水温によって約2か月でふ化し、稚魚になるまで砂利の中で育つ[1]。
降海後、稚魚はいきなり外洋へ出るのではない。しばらく沿岸の浅い海で過ごし、成長に応じて沖へ移る。そのあと北海道沿岸を北上してオホーツク海に達し、流氷を避けて北西太平洋に移動して越冬する[2]。
この経路からは、最初の冬を越す場所が、氷のあるオホーツク海から、氷のない北西太平洋へ移ることが読み取れる。
この経路は日本系の集団についての説明である。本州の川やロシアの川の集団では、通る海域が異なる。したがって、以下の話もすべて「日本系」という限定のもとで読む必要がある。
2. なつと ふゆで、さけは べつの 海へ ひっこすの?
2. 夏はベーリング海、冬はアラスカ湾:サケの「季節の引っ越し」
2. 夏のベーリング海と冬のアラスカ湾を、3〜4回往復して成長する
はじめての 冬の つぎの 年から、さけは 2つの 海を ゆきき します。
なつは、えさの おおい ベーリング海。ふゆが ちかづくと、アラスカ湾へ うつって 冬を こします。この ゆきかえりを、3〜4かい くりかえして 大きく なります[3]。
なつの ベーリング海の まんなかも、ふゆの アラスカ湾も、手を いれると つめたく かんじる 海です。
ただし、ロシアや アラスカの 川で うまれた さけより、日本の さけは、すこし あたたかい 海に おおいと いわれます。川が さけの すむ 場所の 南の はしに あるから かもしれない、と せつめいされて います[2]。
最初の冬を越した翌年からのサケは、夏にはベーリング海で餌を食べ、冬が近づくとアラスカ湾へ移って越冬します。この往復を3〜4回くり返しながら、体を大きくしていきます[3]。
水温で見ると、夏のベーリング海の中央部も、冬のアラスカ湾も、手を入れると冷たいと感じる海です。
日本系のサケは、夏も冬も、ロシア系やアラスカ系よりも水温の高い海域に多いとされます。その理由として、日本の川が分布域の南限にあたるからかもしれない、という見方が紹介されています[2]。ただし、これは理由の候補で、原因と決まったわけではありません。
夏の餌場と冬の避難場所。サケは二つの海を、まるで季節ごとの家のように使い分けています。ところで、塩からい海と真水の川は、からだにとってどれほどちがうのでしょうか。
最初の冬を越した翌年以降、サケは夏のベーリング海で餌を食べ、冬の接近とともにアラスカ湾へ移って越冬する。NPAFC(北太平洋溯河性魚類委員会)の技術報告は、この往復を3〜4回くり返して成長すると述べる[3]。
では、どのような海に多いのか。浦野(2020)によれば、日本系のサケは夏も冬も、ロシア系やアラスカ系より水温の高い海域に多い[2]。
注目されるのは、同じ北太平洋でも、日本系のほうが比較的あたたかい海域に偏る点だ。浦野はこれを、母川が分布域の南限にあたるためかもしれない、と推測している[2]。推測であって、実証された因果ではない。
ここまでで、サケは川から沿岸、オホーツク海、北西太平洋、ベーリング海とアラスカ湾の往復という順に住み場所を替えると分かる。では、塩分のまったくちがう川と海を、1匹の体はどう乗り切るのか。
3. かわの 水と 海の 水、さけの からだは どうして りょうほうで へいき なの?
3. 真水の川と塩からい海、どちらでも暮らせるのはなぜか
3. 淡水と海水のあいだで、体の水分と塩分をどう調節するのか
かわの 水には しおが ほとんど ありません。海の 水は しおからいです。多くの さかなは、川か 海の どちらかに あった からだの しくみを もって います。さけの なかまには、川と 海を うつる ものが います。
ほねの ある さかなの からだの 中の みずは、海の 水より うすい しおけです。だから 海に いると、からだの みずが そとへ にげやすく なります。そこで 海の さかなは 海の 水を のんで、よぶんな しおを えらから だします[6]。
かわの さかなは、はんたいです。水が からだの 中へ はいりやすいので、えらから しおを とり入れ、うすい おしっこを たくさん だします。
さけの なかまは、川を くだる まえに、海で くらす ための へんかが すすむと いわれます。この とき、水と しおを ととのえる しくみも 海むきに かわると せつめいされて います[7]。
硬骨魚の体液は、海水よりもずっと薄い塩分濃度です。海水中では体から水が奪われやすいため、海にすむ魚は海水を飲み、余分な塩分をえらの塩類細胞から出します[6]。
淡水では、逆のことが起きます。水が体に入りやすいので、えらから塩類を取り込み、薄い尿をたくさん出して水を外へ捨てます[6]。これは硬骨魚についての一般的な説明で、サケだけの話ではありません。
サケのような海へ下る仲間は、川を下る前に「銀化(スモルト化)」と呼ばれる変化を起こします。この変化にともなって、水分と塩分を調節するしくみが、淡水向けから海水向けに切りかわるといわれます[7]。川の中で、すでに海に出る準備が進んでいるのです。
種類や時期によって細かいちがいはあるとされ、どの段階から海水に強くなるかは、研究の途中です。
硬骨魚の体液は海水よりはるかに低張である。このため海水中では水が体外へ失われやすく、海水魚は海水を飲み、えらの塩類細胞から余分な塩類を分泌して調節する。淡水中では逆に水が体内へ入りやすく、えらから塩類を取り込み、薄い尿を多く出す[6]。ただしこれは硬骨魚全般の説明で、サケ個別の記述ではない。
サケが両方の環境で暮らせるのは、川を下る前に準備があるからだ。降海型のサケ科魚類は、銀化(スモルト化)と呼ばれる変態を起こし、その際に浸透圧調節の機能が淡水型から海水型へ切りかわる。この切りかえができていないうちに海水へ入ると、血中のナトリウム濃度が上がるという[7]。
この変化は、サクラマスなどで調べられた例が多い。海水への強さがいつ、どの程度できあがるかは種類や時期によって差があるとされ、ここでは、川と海をまたぐ仲間に準備の段階がある、という範囲にとどめる。
こうして川にいる間に海向けの体へ変わっても、数年後には再び川へ戻る。広い海の中で、どうやって自分の生まれた川を見つけるのか。
4. ひろい 海から、さけは どうやって うまれた 川を えらぶの?
4. 広い海から、サケはどうやって生まれた川を選ぶのか
4. サケは数年後、何を手がかりに生まれた川へ戻るのか:においの記憶と、母川へ戻る割合
さけは、うまれて 3〜6年で、もどって きます。いちばん おおいのは、4年めの さけです[1]。
もどる とし、春に なると、さけは アラスカ湾から ベーリング海を とおって、うまれた 川へ むかいます。川に つくのは 秋から 冬の はじめです[2]。
そして、もどった さけの 9わり いじょうが、うまれた 川へ はいると いわれます。ほかの 川に はいった さけも、ほとんどは うまれた 川の ちかくの 川です[5]。
どうして わかるのでしょう。いま ゆうりょくな 考えは、川の 水の においです。稚魚が 川を くだる とき、川の 水の においを おぼえて いて、おとなに なって、はなで おもいだす、と いう 考えです[4]。
ただし、これは まだ「かせつ」で、どの においを どう おぼえて いるのかは、けんきゅうの とちゅうです。
サケは3〜6年魚で成熟して産卵しますが、もっとも多いのは4年魚です[1]。数年のあいだに、体長3.5cmほどの稚魚が、大きな魚に育って戻ってくるのです。
戻る年の春になると、アラスカ湾からベーリング海を経て母川へ向かい、秋から初冬に川へ回帰して産卵します[2]。
海に出て戻ったサケのうち、平均で90%以上が生まれた川へ帰るとされます。ほかの川へ入る個体も、多くは母川の近くの川です。幼いころ別の川へ移すと、その川が母川になるとも説明されます[5]。つまり「100%」ではありません。
有力な説明は嗅覚です。稚魚が川を下るとき、川の水に含まれる遊離アミノ酸の組成をにおいとして記憶し、数年後、成熟してから嗅覚で識別して母川を選ぶ、という考え方です。シロザケ、サクラマス、ヒメマスでは確認されましたが、カラフトマスでは確認されませんでした[4]。
どの成分を、どのように記憶するかは、研究の途中です。
日本のサケは3〜6年魚で成熟し、産卵に戻る。もっとも多いのは4年魚である[1]。体長35mmほどで川を下った稚魚が、この数年間の海での生活を経て、親魚になって戻ってくる。成熟を控えた年の春、サケはアラスカ湾からベーリング海を経て母川へ向かい、秋から初冬に回帰して産卵する[2]。
では、どれほど正確に戻るのか。海洋生活を経て川へ戻ったサケの平均90%以上が母川へ帰り、ほかの川へ入る個体も多くは母川の近くの川へ遡上する。幼いころ別の川へ移すと、その川が母川になる[5]。つまり母川には、幼いころにどの川にいたかが関わっていると読める。ただし約9割以上であり、「100%」ではない。
この選択を支える有力な仮説が、嗅覚仮説である。稚魚が川を下るときに、母川の水に固有の溶存遊離アミノ酸(DFAA)の組成を記憶し、数年後に成熟した際、嗅覚でその組成を識別して母川を選ぶ。北海道大学の研究では、シロザケ、サクラマス、ヒメマスでこの現象が確認された一方、カラフトマスでは確認されなかった[4]。
どのにおい成分を、いつ、どのように記憶するのかは、研究が続いている段階である。なお、本稿の出典は、川を選ぶ段階のにおいを扱っており、広い海での方角の見つけ方は扱っていない。
5. ちずちょうで、さけの たびを なぞって みよう
5. 地図帳の上で、サケの1年をなぞってみる
5. 地図帳と原典で、サケの回遊を確かめる
きょう できる こと
ちずちょうを ひらいて、日本、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾を さがします。ゆびで、川から オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾と なぞって みましょう。きょりが ながくて、びっくりするはずです。
しらべる とき
うまれた 川への もどりかたは、ほかの さかなでも しらべられて います。つぎは、においを つかう さかなの はなしを さがして みましょう。
今日できること
地図帳で、日本、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾を探します。川から順に指でなぞり、夏と冬で行く海を色えんぴつで分けてみると、サケの1年の距離を実感できます。
資料を読むなら
においの話は、日本語の公的な研究課題の紹介[4]から読めます。経路や水温は、笹川平和財団の海洋政策研究所のニュースレター[2]が日本語で読めます。
今日できること
地図帳で、川、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾を順にたどり、夏と冬の海を色分けして、おおよその距離を測るとよい。ものさしと縮尺で、1回の往復で何千kmになるかを自分で見積もれる。
資料を読むなら
経路と水温は、笹川平和財団海洋政策研究所のOcean Newsletter[2]が日本語で読める。母川回帰の仮説は、KAKENの研究課題の記述[4]を一次に近い資料として読める。母川へ戻る割合は[5]にある。[4]を読んでから本文の第4章に戻り、においの記憶の説明が対応しているかを比べてみるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 日本大百科全書(ニッポニカ)「サケ」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E3%81%95%E3%81%91-3152890 (産卵・降海の時期、帰る年齢)
- 浦野明央「サケの母川回帰と海水温の変動」Ocean Newsletter 第477号(笹川平和財団 海洋政策研究所、2020年6月20日). https://www.spf.org/opri/newsletter/477_2.html (回遊経路と水温)
- Karasawa et al. NPAFC Technical Report 17(2021). https://www.npafc.org/tr17-43/ (ベーリング海とアラスカ湾の往復)
- KAKEN 研究課題 18208017(上田宏、北海道大学). https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-18208017 (においによる母川回帰の仮説)
- 日本大百科全書「母川回帰」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E6%AF%8D%E5%B7%9D%E5%9B%9E%E5%B8%B0-630214 (母川へ戻る割合)
- 世界大百科事典「浸透圧調節」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E6%B5%B8%E9%80%8F%E5%9C%A7%E8%AA%BF%E7%AF%80-1573640 (硬骨魚の水分・塩分の調節)
- 北海道立総合研究機構の資料(スモルト化の説明). https://www.hro.or.jp/upload/41256/ima828.pdf (降海前の体の切りかえ)
なおした ところ
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