1. いその いわの うえで、なにを して いるの?
1. 潮が引いた磯で、岩に付いて待っている
1. 潮間帯の岩礁 ── 足盤で付着し、潮だまりで触手を広げる
しおが ひいた いそへ いくと、いわの あいだに 水が のこった ところ(しおだまり)が あります。のぞくと、しょくしゅを ひろげた イソギンチャクが みつかる ことが あります[1]。
イソギンチャクの ほとんどは、いわの うえで くらして います。からだの そこから ねばねばした ものを だして、いわに ぴったり くっつくのです[3]。にほんでは、ほんしゅうや きゅうしゅうの いその いわの あいだで、ふつうに みられます[3]。
うみに すむ いきもので、かわや みずうみには いません[2]。世界には、900しゅるい ぐらいが いると いわれます[2]。
では、いわに くっついた イソギンチャクは、ずっと その ばしょから うごかないのでしょうか。
潮が引いた磯の岩場には、岩と岩のあいだに海水が残る潮だまり(タイドプール)ができます。のぞくと、触手を広げたイソギンチャクの仲間に出会えることがあります[1]。
イソギンチャクのほとんどは、岩の上に定着して暮らします。体の底にあたる足盤から粘着性の物質を出し、岩などに吸いつくのです[3]。日本では本州や九州など中央部の岩礁の潮間帯で、ふつうに見られます[3]。
全部が海の生きもので、一部は河口近くの汽水域にもいますが、川や湖などの淡水にはいません[2]。種の数は資料によって幅があり、日本大百科全書は約200属900種、UCMP(カリフォルニア大学古生物学博物館)は約1000種としています[2][4]。
岩にしっかり吸いついたイソギンチャクは、そこから一歩も動かないのでしょうか。
日本の本州・九州など中央部では、岩礁の潮間帯でふつうに見られる[3]。潮が引くと岩のあいだに潮だまり(タイドプール)ができ、その中で触手を広げたイソギンチャク類が観察できる[1]。磯に付く生物の多くは、潮が満ちて海水に浸っている時間に活動するため、触手を広げた姿を見られるのは、水が残る潮だまりに限られがちである[1]。
多くの種は、足盤から粘着性の物質を分泌して岩などに吸着し、そこに定着して暮らす[3]。分布を大きく見ると、すべて海産で、一部が汽水域に進出するが、淡水域からは知られていない[2]。種数は、日本大百科全書が約200属900種、UCMPが約1000種とし、資料により約800〜1000と幅がある[2][4]。分類や記載の進み方で数が変わるため、一つの数字を断定しないほうがよい。
では、吸着して定着するという説明どおり、足盤は固定の道具にすぎないのか。
2. うごかない はずなのに、あるくって ほんとう?
2. 動かないはずが、1時間に数cm歩く
2. 足盤による緩慢な移動 ── 速い種でも時速数cm
イソギンチャクの そこの ぶぶんには、きんにくが あります。この きんにくを ちぢめたり のばしたり して、ごくゆっくり うごく ことが できる しゅるいが います[4]。
はやい ものでも、1じかんに すうセンチです[2]。たとえば 3センチなら、1じかんで ゆびの はばくらい。ずっと やすまず すすんだと しても、1日で 70センチ ぐらいです。いつも そんなに うごく わけでは ありません。
うごかないのは、すむ ところが きらいなのでは ありません。いごこちの わるい ばしょから、ゆっくり ひっこす ことも できる、という ことです。
ところで、いわの ない ばしょでは、どうやって くらすのでしょう。
足盤は、固定するだけの道具ではありません。その筋肉を収縮させて、ごくゆっくり動く種がいます[4]。速さは小さく、速い種でも1時間に数cmほどです[2]。
たとえば1時間に3cmだとして、休まず一日中進み続けたと仮定すると、3×24で約72cmです。実際にずっと動き続けるわけではないので、これは上限を想像するための計算です。それでも、岩に付いたまま少しずつ場所を変えられることは、潮だまりの中で暮らしやすい位置を選び直せる、ということでもあります。
UCMPの説明では、足盤の収縮でごくゆっくり動く種もあれば、ほとんど動かない種もあり、一部は砂に潜ります[4]。動き方も、種によって違うのです。
では、固定できる岩がない砂の海底では、どう暮らすのでしょうか。
足盤は固定器官であると同時に、筋肉の収縮によってごくゆっくり動くことを可能にする。その速度は小さく、速いものでも1時間に数cmとされる[2]。UCMPも、足盤の収縮でごくゆっくり動く種、ほとんど動かない種、砂に潜る種がいると述べ、運動様式が種ごとに異なることを示している[4]。
速度を現実の距離に直すと、仮に1時間3cmを休まず24時間続けた場合で約72cmである。これは連続移動を仮定した上限の見積もりであり、実際の移動量そのものではない。岩礁の潮間帯のように、水位や波、日なたと日かげが短い距離で変わる環境では、数cmから数十cmの移動でも条件の違う場所を選べる可能性がある。ただしこの点を直接調べた資料は、今回の材料にはない。
ここまでは足場が岩であることを前提にしてきた。岩のない場所では、同じ体のつくりでどう暮らすのか。
3. いわが ない すなの うえや、かいがらの うえでは?
3. 岩のない砂地では、石や貝殻を足場にする
3. 砂泥底と貝殻 ── 足場を替えて分布を広げた種
イソギンチャクの ほとんどは いわに つきますが、すなや どろの そこに すむ しゅるいも います[2]。
スナイソギンチャクは、すなに うまった 石に からだを くっつけて、しょくしゅを すなの うえに ひろげます[3]。ムシモドキギンチャクなどは、すなの 中に うまり、しょくしゅだけを だします[3]。
もっと ふしぎな すみかが あります。ヤドカリの かいがらの うえです。かいがらに のった イソギンチャクは、ヤドカリと いっしょに うごいて、すなの うえにも ひろがれます[3]。ヤドカリは、おおきな てきから みを まもりやすく なります[3]。おたがいに たすけあう この かんけいを、「きょうせい」と いいます。
では、あたたかい サンゴの うみでは、だれと くらしているのでしょう。
ほとんどの種は岩に付きますが、砂や泥の底にすむ種もいます[2]。岩の代わりになるものを、うまく探しているのです。
スナイソギンチャクは、砂に埋まった石に体を固定し、砂の表面に触手を広げます[3]。ムシモドキギンチャクなどは、砂に埋まって触手だけを出します[3]。同じ砂地でも、「石を足場にする」「体ごと埋まる」と、やり方が分かれています。
いちばん意外な足場は、ヤドカリの貝殻です。貝殻に乗ったイソギンチャクは、ヤドカリと一緒に動き、砂地にまで進出できます。ヤドカリのほうも、大型の捕食者から身を守りやすくなります[3]。両方に得がある、こうした関係を相利共生といいます。
では、岩も砂も貝殻もそろうサンゴ礁では、どんな相棒がいるのでしょうか。
多くの種の着生基質は岩質だが、一部の種は砂泥底に生息する[2]。スナイソギンチャクは砂に埋まった石に体を固定して触手を砂の表面に広げ、ムシモドキギンチャクなどは砂に埋まって触手だけを出す[3]。前者は石を足場にして固定し、後者は体を砂に埋めて触手だけを出すという、対照的な方法である。いずれもWikipediaの記述による。
さらに、ヤドカリの貝殻に付く種では、ヤドカリとともに移動して砂地にまで分布を広げられる。ヤドカリ側も、大型の捕食者から身を守れる点で利益があるとされ、相利共生の例として説明される[3]。固着生活の動物が、動く相手の背中を足場にして移動能力を補うわけで、足盤の遅さを別の形で埋める方法といえる。ただし、この見方は、出典の記述から筆者が整理した解釈である。
次に、足場そのものが生きものの体でできている環境、サンゴ礁を見る。
4. サンゴの うみでは、だれと いっしょに くらすの?
4. サンゴ礁では、クマノミやサンゴと同じ相棒がいる
4. サンゴ礁の共生系 ── 褐虫藻とクマノミ類、宿主選択
サンゴの うみには、イソギンチャクに ついて、ふしぎな はなしが あります。サンゴと おなじ ように、からだの 中に ちいさな そう(かっちゅうそう)を もつ イソギンチャクが いるのです[5]。ぜんぶの イソギンチャクでは ありません。
さらに、さかなの クマノミが、しょくしゅの あいだで まもられて くらします。サンゴの うみには、イソギンチャクの やわらかい ところを ついばむ さかなも います。クマノミは、たべに くる チョウチョウウオを おいはらいます[5]。
クマノミと くらせる イソギンチャクは、インド洋から にし太平洋の サンゴの うみで、10しゅ みつかって います[7]。クマノミにも えらび方が あり、ハマクマノミは バブルチップアネモネという イソギンチャクだけと くらします。ほとんどの しゅるいの イソギンチャクと くらせる クマノミも います[6]。
こうして、すむ ばしょごとに あいぼうが ちがいます。では、いちばん ふかい うみにも、イソギンチャクは いるのでしょうか。
サンゴ礁のイソギンチャクには、サンゴと同じく、体に褐虫藻をもつ種がいます[5]。ただし、褐虫藻をもたない種もいるので、全種に当てはまる話ではありません。
礁には、イソギンチャクのやわらかい部分をついばむ魚がいます。クマノミは触手のあいだで守られながら、食べに来るチョウチョウウオを追い払います[5]。守られる側と守る側が、おたがいを必要としている関係です。
クマノミ類と共生するイソギンチャクは、インド洋から西太平洋のサンゴ礁で、記載されているものが10種あります[7]。クマノミは、どれにでも入るわけではありません。ハマクマノミはバブルチップアネモネだけに共生します。ほとんどの宿主イソギンチャクに共生できるクマノミもいます[6]。沖縄科学技術大学院大学(OIST)と台湾の研究チームは、クマノミが同じ種の中の違う系統まで見分けていることを見つけ、バブルチップアネモネは遺伝的に4系統あったと伝えられています[6]。
浅いサンゴ礁の相棒を見てきました。では、光も届かない深い海にもイソギンチャクはいるのでしょうか。
サンゴ礁では、サンゴと同様に褐虫藻を体内にもつイソギンチャクがいる。ただし、もたない種もおり、一般化はできない[5]。また礁には、イソギンチャクの柔らかい部分をついばむ魚がいて、クマノミは触手の間で守られつつ、食べに来るチョウチョウウオを追い払うという[5]。守られる場所を得る代わりに、宿主を捕食者から守る役目も負っているとみなせる。
インド洋〜西太平洋のサンゴ礁には、クマノミ類の宿主として記載されたイソギンチャクが10種ある[7]。クマノミ側の選択は一様ではなく、ハマクマノミはバブルチップアネモネ(Entacmaea quadricolor)だけに共生し、ほとんどの宿主イソギンチャクに共生できるクマノミ類もいる[6]。OISTと台湾の研究チームは、クマノミ類が宿主の種の違いだけでなく、個体(系統)の違いも見分けていることを報告し、バブルチップアネモネは遺伝的に4系統あったとされる[6]。この研究は新聞報道を通じた確認であり、系統の分け方の詳細は原論文に当たる必要がある。
以上は光の届く浅い海の話である。分布の下限はどこまで下がるのか。
5. ひかりの とどかない ふかい うみにも いるの?
5. 水深9,462mの海溝にも、イソギンチャクはいる
5. 超深海のイソギンチャク ── マリアナ海溝9,462mの標本とその意味
います。にほんだいひゃっか じてんには、さいこうに ふかい きろくが 1まんメートルぐらい、と かかれて います[2]。
たしかな れいも あります。2020ねんに、マリアナ海こうの 9462メートルの ふかさから、ガラテアンセムムの なかまの イソギンチャクが とれました[8]。ふじ山の たかさ(3776メートル)の 2ばい半ほどです。
ちょうしんかいの イソギンチャクで、ミトコンドリアという ぶぶんの いでんし ぜんたいを しらべたのは、はじめてでした[8]。
いそから ふかい うみまで、イソギンチャクは すむ ところを かえながら、くらして います。
日本大百科全書には、イソギンチャクの分布の最深記録が約1万mと書かれています[2]。
確かな例もあります。ガラテアンセムム科は、水深5,900〜10,700mの超深海(ハダル帯)にだけいるとされるグループです[8]。2020年、有人潜水艇「奮闘者」で、マリアナ海溝の水深9,462mから、この仲間の標本が採られました[8]。富士山(3,776m)の約2.5倍の深さです。超深海イソギンチャクでミトコンドリアの全ゲノムが解読されたのは、このときが初めてでした[8]。
9,462mは、この標本の深さであり、イソギンチャクの最深の確定記録という意味ではありません。それでも、潮が引く磯の岩の上から、水深9,462mの海底まで、イソギンチャクの仲間が広く暮らしていることは分かります。
では、自分の目で確かめられるのは、どこまででしょうか。
日本大百科全書は、分布の最深記録を約1万mとする[2]。ただし、これは事典の記述であり、種名や一次資料までは確認できないため、本稿では参考値として扱う。
査読論文で確かめられる深度は、Galatheanthemum sp. の標本である。ガラテアンセムム科は水深5,900〜10,700mのハダル帯(超深海。おおむね6,000〜11,000mの海溝部)に限って見られるとされる[8]。この標本は2020年、有人潜水艇「奮闘者」でマリアナ海溝の水深9,462mから採集され、超深海のイソギンチャクとして初めてミトコンドリア全ゲノムが決定された[8]。9,462÷3,776≒2.5で、富士山の約2.5倍の深さに当たる。
この深度は標本の採集地点であり、最深記録ではない。それでも、岩に付く潮間帯の種から超深海の種まで、同じ目の動物が幅広い深度にいることは、複数の資料から読み取れる[2][8]。足場・共生相手・深度という3つの軸で見ると、動かないとされる動物が実は多様な暮らしを選んでいることが分かる。
では、このうち自分で確かめられるのはどこまでか。
6. しおだまりを のぞくとき、なにを みる?
6. 潮だまりをのぞくとき、見てみたいこと
6. 潮だまりで確かめられること、読める資料
うみに いく ひは、おとなと いっしょに、しおが ひいている じかんに いそへ いきます。いわは ぬれて すべります。なみが たかい ひや、しおが みちて くる ときは、すぐ はなれましょう。
しおだまりで イソギンチャクを みつけたら、さわらずに みます。しょくしゅを ひっぱったり、いわから はがしたり しては いけません。どんな ところに くっついて いるか、まわりに ヤドカリが いるか、みて みましょう。
おうちでは、ゆかに テープで はじめの しるしと、3センチ さきの しるしを つけて、じょうぎで あいだを たしかめる ことも できます。
家族と一緒に、潮が引いている時間に磯へ行けるなら、潮だまりをのぞいてみましょう[1]。足もとは濡れて滑ります。波が高い日や、潮が満ちてくるときは、すぐに離れてください。
イソギンチャクが見つかったら、触らずに眺めます。触手を引っぱったり、岩から剥がしたりはしません。どんな足場に付いているか(岩か、石か、貝殻か)、近くにヤドカリはいないかを見るだけで、この記事の1〜4章の続きが確かめられます。
家でできることもあります。床にテープで始点と3cm先の印をつけ、定規でその間を確かめます。1時間でこれだけ、と思うと、動きがどれほどゆっくりかが実感できます。
紙に「岩・砂・貝殻・深海」の足場を4つ並べて描き、それぞれにどんな相棒がいそうかを描き込んでみるのもおすすめです。この記事の1〜5章と見比べると、描き分けた違いが確かめられます。
確かめられることは、足場の種類(岩・石・貝殻・砂)、ヤドカリや魚との位置関係、潮が引いた潮だまりでの触手の広がり方である[1]。足盤の速度は、1時間3cmの目安を、床の印と定規で体感できる。ただし磯の観察は、足もとが滑ること、波や満ちてくる潮に注意が要ることから、大人と一緒に行く。
資料としては、環境省の磯の生物の解説(出典1)が入りやすい。深度の話は、Frontiers in Genetics 2022 の論文(出典8、英語)で、標本の採集深度とハダル帯の定義を確かめられる。クマノミ類の宿主は、Titus et al. 2024(Zootaxa 5506)が10種を整理している(出典7)。種数や系統数の数字は、資料によって幅があることを念頭に読むとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
磯の観察、種数と分布、足場、サンゴ礁の共生、超深海の標本は、いずれも次の資料による。
- 環境省 瀬戸内海ネット「磯の生物」 https://www.env.go.jp/water/heisa/heisa_net/setouchiNet/seto/g1/g1chapter4/g1chapter4-2/iso.html (潮だまりでの観察)
- コトバンク「イソギンチャク」(日本大百科全書) https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%AF-759233 (分布・足場・移動速度・種数)
- Wikipedia「イソギンチャク目」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%AF%E7%9B%AE (岩への吸着・砂地の種・ヤドカリとの関係)
- UCMP「Introduction to the Actinaria」 https://ucmp.berkeley.edu/cnidaria/actinaria.html (足盤による移動・種数)
- 琉球新報(沖縄の海・サンゴ礁の話) https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1618216.html (褐虫藻・クマノミ)
- 琉球新報「クマノミ、共生先のイソギンチャクを識別」 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-2895688.html (クマノミの宿主選び)
- Titus et al. 2024, Zootaxa 5506(1):1-34 https://par.nsf.gov/biblio/10575794 (クマノミ類の宿主イソギンチャク10種)
- Frontiers in Genetics 2022, Galatheanthemum sp. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fgene.2022.854009/full (マリアナ海溝9,462mの標本)
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