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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

サメの はだの みぞは、およぐ ときの 水の ていこうを へらすの?

サメの肌の細かい溝は、水の抵抗をどれだけ減らすのか ── 競泳水着と飛行機の実験から

サメ肌の溝(リブレット)は抵抗をどれだけ減らすか ── 実験値が語る、5〜12%の幅と水着の結果

分野:生きもの

サメの 皮かわを ちかくで 見ると、ちいさな 歯の ような ものが、びっしり ならんで います。しかも その 歯の 上には、頭から しっぽへ むかう 細い みぞが あります。

この みぞは、水の ていこうを へらすと いわれて きました。では、どれくらい へるのでしょうか。じっけんを 見ていくと、思ったより おもしろい 答えが 出て きました。

サメの皮膚を拡大すると、小さな歯のような鱗がすき間なく並び、その表面には体の前から後ろへ向かう細い溝が走っています。この溝は水の抵抗を減らすといわれ、競泳水着や飛行機の表面にも応用されてきました。

では、実際にどれだけ減るのでしょうか。実験の数字を追うと、「減る」という一言では片づかない、おもしろい事情が見えてきました。

サメの皮膚は、歯と同じ構造をもつ微小な鱗に覆われ、その表面には体軸方向の細い溝がある。この溝(リブレット)は乱流中の摩擦抵抗を減らすとされ、競泳水着や航空機の表面処理に応用されてきた。

だが、実験値は条件によって5%前後から10%前後まで幅があり、本物のサメの皮膚では別の効果も報告されている。何が分かっていて、何がまだ決まっていないのかを、論文の数字から整理する。

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1. サメの はだは、ちいさな 歯で できて いる

1. サメの肌は、小さな歯のような鱗でできている

1. 楯鱗(じゅんりん)には、前後に走る細い溝がある

サメの はだに ならんで いるのは、「楯鱗じゅんりん」と よばれる ちいさな うろこです。つくりが 歯に よく にて いて、歯と おなじ もとから できたと せつめいされます[5]。

この うろこには、頭から しっぽへ むかう 細い すじが 何本も 通って います。アオザメの 一つの うろこでは、すじと すじの あいだが 0.05ミリ ほど。1ミリの 20分の1くらいです。すじの 向きは、およぐ 向きと 同じです。

サメの皮膚を覆っているのは、楯鱗(じゅんりん)という小さな鱗です。構造が歯とよく似ていて、歯と同じ起源をもつと説明されます[5]。

楯鱗の表面には、体の前から後ろへ向かう細い隆起が何本か走っています。アオザメの楯鱗を測った研究では、隆起と隆起の間隔は46〜55マイクロメートル、つまり0.05ミリ前後でした[1]。この隆起のあいだが、水の流れにそった「溝」になります。

サメの皮膚を覆う楯鱗(placoid scale)は、歯と相同な構造をもつ小さな鱗で、サメが成長しても大きくならず、数が増える[5]。

楯鱗の冠部には、体軸方向(前後方向)に走る隆起がある。Oeffnerと Lauder(2012)が調べたアオザメの楯鱗では、隆起は1枚に3本ほどで、間隔は46〜55μmだった[1]。この隆起のあいだの溝が、流れに平行に並ぶ。流れに沿う微細な溝をリブレット(riblet)と呼ぶ。

2. みぞは、ていこうを 5〜10%ほど へらす

2. 溝は、水の抵抗を数%〜1割ほど減らす

2. 実験室では、リブレットが抵抗を5〜10%ほど減らした

水が はやく ながれると、はだの 近くで、小さな うずが たくさん できます。この うずが はだを こすると、ていこうが 大きく なります。サメの みぞは、その うずを はだから 少し はなす はたらきを すると 考えられて います。ただし、しくみは、まだ ぜんぶ 分かって いません[5]。

人が つくった みぞで じっけんすると、ていこうは 3%から 10%くらい へりました。たとえば、つるつるの 板と くらべて、ていこうが 9.9%へった みぞも あります。サメの はだを まねして つくった ものでも、5%から 8%くらい へりました。

飛行機ひこうきでも ためされて います。エアバスA320の はねや 体の ひろい ところに みぞの シートを はって とばした じっけんでは、飛行機ひこうきぜんたいの ていこうが 2%より 少し へったと ほうこくされて います[4]。2%は 小さく 見えますが、ねんりょうの ちがいに つながる かもしれません。

水が速く流れると、肌の近くに小さな渦ができ、これが肌をこすって抵抗が大きくなります。サメの溝は、その渦を肌から少し遠ざけることで、摩擦を減らすと説明されます。ただし、仕組みは完全には理解されていないと書かれています[5]。

人工の溝を使った実験を整理した論文では、板に溝をつけたとき、つるつるの板より抵抗が9.9%減った例があります。サメの皮膚を型取りして作った複製では5.2〜8.3%、硬いプラスチックの複製では約3%でした[1]。条件によって、数%から1割ほどに分かれます。

飛行機でも試されました。エアバスA320の飛行試験で、機体の表面の約70%を溝つきのシートで覆ったところ、機体全体の抵抗が2%弱減ったと報告されています[4]。2%は小さく見えますが、燃料消費の差につながる可能性があります。

乱流境界層では、壁面近くの縦渦が壁面摩擦を大きくする。リブレットは、この渦を溝の先端より上に保ち、壁面との接触を減らすことで摩擦を下げるとされる[5]。ただし、機構は完全には解明されていないと記述されている[5]。

Oeffnerと Lauder(2012)の序論は、先行研究の抵抗低減を次のように整理している。調整可能な板状リブレットで9.9%、サメの楯鱗に似た扇形リブレットで約7%、サメ皮膚の銅型からつくったシリコン複製で5.2〜8.3%、硬質プラスチックの複製で約3%[1]。値は形状や素材、測り方で分かれ、おおむね3〜10%の範囲にある。

航空機については、エアバスA320の飛行試験では、機体表面の約70%をリブレットで覆い、燃料消費の測定から機体全体の抵抗が2%弱減ったと報告されている[4]。機体全体の値なので、実験室での壁面摩擦の低減率とは測っている量が違う。

3. みぞは、大きければ いい わけでは ない

3. 溝は、大きければよいわけではない

3. 溝が大きくなりすぎると、抵抗低減の効果が崩れる

それなら、みぞを もっと 大きく すれば、もっと へるのでしょうか。じつは そうでは ありません。

ある けんきゅうでは、みぞが 小さい うちは、大きく するほど ていこうが へりました。けれど、みぞが ある 大きさを こえると、へる 力が なくなり、むしろ ていこうが ふえて しまう ことも ありました[2]。ちょうど いい 大きさが あるのです。

溝をもっと大きくすれば、もっと減るのでしょうか。García-MayoralとJiménez(2011)は、溝が小さいうちは大きくするほど抵抗が減るものの、ある大きさを超えると効果が崩れ、抵抗がむしろ増えることがあると報告しました[2]。

この論文は、溝の「間隔」よりも「断面積」のほうが、効果が崩れる点をよく表すとしています[2]。つまり、溝には、流れの速さに合った大きさがあるということです。

García-Mayoral と Jiménez(2011)は、リブレットの抵抗低減が、小さいうちはリブレットの大きさに比例して増えるが、大きくなると崩れて、抵抗増加に転じることがあると整理した[2]。

崩れる点は、溝の間隔より断面積のほうがよく予測できるという。原因は溝に渦がはまり込むことではなく、壁近くに生じる、準二次元の横渦(ケルビン・ヘルムホルツ型の不安定に関係する)だと論じている[2]。溝の最適な大きさは流れの速さなどに依存するので、サメ以外の用途でも、寸法の設計が問題になる。

4. ほんものの サメの はだは、みぞだけでは ない

4. 本物のサメの皮膚は、溝だけでは説明しきれない

4. サメの皮膚には、抵抗低減以外の効果もあるかもしれない

サメの はだを そのまま 使った じっけんも あります。羽ばたく ロボットの ひれに サメの かわを つけて、およぐ はやさを くらべました。

ほんものの サメの かわを つけた ほうが、うろこを けずった ものより 12.3%、はやく およぎました。人の つくった みぞの ある シリコンでは、7.2%でした[1]。

この ふたつの ちがいは、みぞだけでは ときあかせないかも しれません。研究者は、うろこが 水の ながれを かえて、前へ すすむ 力も 生んでいるかもしれないと 考えました[1]。サメの かわは やわらかく、うろこが 動けることも かかわって いそうです。かたい 板に した サメの かわでは、この ちがいは 出ませんでした[1]。

Oeffnerと Lauder(2012)は、羽ばたく板状のロボットにサメの皮膚をつけ、自力で泳ぐ速さを測りました。やわらかいサメの皮膚をつけたときは、鱗を削った皮膚より12.3%速く泳ぎました。人工のリブレットをもつシリコン素材では7.2%でした。硬い板にしたサメの皮膚では、この差は出ませんでした[1]。

研究者は、流れを見る実験から、鱗が前縁の近くで吸い込む力を強め、抵抗を減らすだけでなく前に進む力も生んでいる可能性を考えました[1]。ただし、これは今回の装置での結果で、サメが実際に泳ぐときにも同じ割合になるとは言い切れません。

Oeffnerと Lauder(2012)は、羽ばたく板状ロボットに皮膚試料を装着し、自力推進の泳速を比較した。柔軟なサメ皮膚膜は、鱗を削った対照より12.3%速かった。シリコン製リブレットは7.2%速かった。剛体の皮膚板では差が出なかった[1]。

可視化実験では、楯鱗が前縁吸引力(leading-edge suction)を強め、抵抗低減に加えて推力にも寄与する可能性が示された[1]。ただし、これは装置と条件を限った結果で、泳ぐ実際のサメで同じ割合が出るとは限らない。また、この数字は「泳速」の増加であり、前の章の抵抗低減率とは、測っている量が違うことにも注意が必要だ。

5. サメはだを まねした みずぎは、どうだった?

5. サメ肌をまねした水着は、どうだったのか

5. 競泳水着の評価は、研究によって割れた

サメの はだを まねした みずぎは、1999年に 売られ、2000年の シドニー オリンピックで 注目されました[3]。会社は、ていこうが 7.5%へると せつめいしました。けれど、あとで 人が はかった 研究では、ていこうが 2%ほど へったように 見えました。でも、数字の ゆらぎと くべつ できるほどの ちがいでは ありませんでした[3]。

アメリカの 研究者が ロボットで ためしたときも、この みずぎの ぬのだけでは、およぐ はやさは 一定して 上がりませんでした[1]。みずぎの 力は、体を ぎゅっと しめつける はたらきも 大きいと 考える 研究者も います[3]。

だからと いって、サメの みぞが 役に 立たないと いう わけでは ありません。水ぎの ぬのは、サメの はだと 形も やわらかさも ちがうからです。

サメ肌をうたった競泳水着は1999年に登場し、2000年のシドニー五輪で注目されました[3]。メーカーは抵抗が7.5%減ると説明しましたが、のちに人で測った研究(Toussaintら、2002)では約2%で、統計的に差があるとは言えませんでした[3]。

先ほどのロボット実験でも、水着の生地だけでは、泳ぐ速さが一定して上がることはありませんでした[1]。水着の効果は、体を締めつける力が主な理由だと考える研究者もいます[3]。ただし、論文によって結論が割れていて、はっきりした合意はありません[3]。

これは、サメの溝が役に立たないという意味ではありません。水着の生地は、サメの皮膚とは形も柔らかさも違うので、同じ効果が出るとは限らないということです。

サメ肌をうたう競泳水着(Speedo Fastskin)は1999年に登場し、2000年のシドニー五輪で注目された[3]。メーカーは抵抗が7.5%減ると主張したが、Toussaintら(2002)の測定では約2%で、統計的に有意でなかった(p=0.31)[3]。

Oeffnerと Lauder(2012)でも、水着生地は泳速を一貫して上げなかった[1]。総説は、研究間で抵抗低減の結論が割れていること、全身水着の効果の主因として体の圧迫が挙げられてきたことを記している[3]。2010年1月からは、FINAのルール変更で、全身を覆う水着は認められなくなった[3]。

生地の溝が、サメの皮膚と同じ寸法・柔らかさで、人の泳ぐ速さでも最適か。そこが論点になる。水着で効果が見えなかったことは、サメの溝そのものを否定する結果ではない。

6. 自分でも やって みよう

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

水ぞくかんで サメの かわの ひょうほんが あれば、さわれるか たずねて みましょう。さわれる ときは、頭から しっぽの 向きと、その ぎゃくで、さわりごこちが ちがうか たしかめて みてください。かならず、かかりの 人に きいてから さわります。

また、おうちの 人が そばに いる ときに、おふろで 手のひらを ひらいて 水の 中を すすめて みましょう(すべらないように 気を つけます)。手の 向きを かえると、手に かかる 水の 力が どう かわるでしょうか。

水族館や博物館で確かめる

さわってよいと書かれた、サメの皮膚の標本の展示があれば、係の人にたずねてから、前から後ろの向きと逆向きで、手ざわりを比べてみましょう。拡大写真があれば、溝の向きも探せます。

原典を読む

Oeffnerと Lauderの論文[1]は、序論に先行研究の数字がまとまっています。英語ですが、本文に出てきた数字が何を比べた結果なのかを、見てみましょう。

数字の意味をそろえる

この記事に出た数字は、「抵抗の減少率」「泳速の増加率」「燃料消費」など、測る量がそろっていない。論文の序論と結果を読み、何が何と比べられているかを、自分で表にしてみるとよい。

原典に当たる

García-Mayoralと Jiménez[2]は、溝の大きさと抵抗の関係を理論の側から整理している。Oeffnerと Lauder[1]の実験と合わせて読むと、同じ現象を別の角度で見られる。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

出典について:[1][2]は学術論文、[3][4]は総説論文、[5]はWikipediaです。数字は実験の条件によって変わります。

  1. Oeffner J, Lauder GV. The hydrodynamic function of shark skin and two biomimetic applications. Journal of Experimental Biology 215(5): 785–795 (2012). https://journals.biologists.com/jeb/article/215/5/785/11221/The-hydrodynamic-function-of-shark-skin-and-two (アオザメの楯鱗の寸法、先行研究の抵抗低減率、泳速の12.3%・7.2%、水着生地の結果)
  2. García-Mayoral R, Jiménez J. Drag reduction by riblets. Philosophical Transactions of the Royal Society A 369(1940): 1412–1427 (2011). https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsta.2010.0359 (小さい溝は大きさに比例して効果、大きいと崩れる。断面積との関係。要旨のみ確認)
  3. Morales AT, Tamayo Fajardo JA, González-García H. High-Speed Swimsuits and Their Historical Development in Competitive Swimming. Frontiers in Psychology 10: 2639 (2019). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6927279/ (Fastskinの登場、7.5%の主張と約2%の測定、圧迫、2010年のルール変更)
  4. Viswanath PR. Aircraft viscous drag reduction using riblets. Progress in Aerospace Sciences 38(6): 571–600 (2002). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0376042102000489 (A320の飛行試験:表面の約70%を覆い、機体全体の抵抗が2%弱減少)
  5. Wikipedia(英語版)「Placoid scale」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Placoid_scale (楯鱗は歯と相同、数が増える、渦をはなす仕組みは完全には未解明)

なおした ところ

更新履歴

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