1. 1円玉と ボールを ならべると
1. 平らな1円玉と、立体のボールは、同じ「まるい」でいいのか
1. 平面の円と立体の球を、日常語は区別しない
つくえの 上に、1円玉と ボールを おいて みましょう。どちらも 「まるい」と 言えます。
でも 算数では、1円玉の 表の 形は 「円」、ボールの 形は 「球」と、べつの 名前で よびます。
1円玉は 平らで、ボールは ころころ ころがる 立体です。「まるい」と いう ひとつの ことばで 言うと、この ちがいが かくれて しまいます。
そもそも 「丸」とは、どんな ことばなのでしょうか。
机の上に1円玉とボールを並べてみてください。どちらも「まるい」と言えます。ところが算数では、1円玉の表の面の形は「円」、ボールの形は「球」と、別の名前で呼びます。
1円玉は平らで、ボールは転がる立体です。日本語の「まるい」は、この二つをひとくくりにできる便利な言葉ですが、便利なぶん、平面か立体かというちがいは見えなくなります。
では、その「まるい」のもとになっている「丸」は、そもそも何を指す言葉だったのでしょうか。
机に1円玉とボールを置く。どちらも「まるい」と言って困らない。厚みのある1円玉も、表の面の形に注目すれば円だ。しかし算数では、この面の形を「円」、ボールの形を「球」と呼び分ける。
日常語の「まるい」は、平面か立体かを区別しなくても通じる。だからこそ、数学のように形を正確に言いたい場面では、その広さがかえって邪魔になる。ここで、「丸」という言葉の守備範囲を、辞典で確かめるところから始めたい。
2. 「丸」は もともと どちらの ことば?
2. 「丸」は、もともと立体を指す言葉だったのか
2. 辞典の語誌:「丸」は立体の形を指すことが多かった
国語の じてんには、「丸」は 「まるい 形。円。また、球の 形」と のって います[1]。つまり 「丸」は、1円玉の ような 平らな 形も、ボールの ような 立体も、りょうほうを 言える ことばです。
昔の 読みかたは 「まろ」で、そのあと 「まる」に なりました。もともとは、ボールのような 立体の 形を 言う ことが 多く、あとから 平らな 「円」の 形も 言うように なった、と 書いて ある じてんが あります[1]。
「丸」は、はじめから 広い ことばだったのです。
では、算数の 「円」は、どんな 形の ことを 言うのでしょうか。
辞典には、「丸」は「まるい形。円形。また、球形」とあります[1]。平面の円も立体の球も、一つの言葉で言えるわけです。
読み方は、中世までは「まろ」で、中世後期以降に「まる」が一般的になったとされます。さらに、精選版日本国語大辞典の語誌(言葉の移り変わりの説明)には、「丸」は本来、球状という立体の形を指すことが多く、のちに円形も表すようになったと書かれています[1]。
平らなものにも立体にも使える広さは、言葉が育つ途中で身についたもののようです。
この広い「丸」に対して、算数の「円」は、とても狭く、はっきりした言葉です。次の章でそれを見ます。
デジタル大辞泉は「丸」を「まるい形。円形。また、球形」と説明する[1]。平面にも立体にも使える言葉である。読みは、「まろ」が音変化して「まる」になった。
精選版日本国語大辞典の語誌は、中世までは「まろ」と読み、中世後期以降に「まる」が一般化したと述べ、さらに「丸」は本来、球状のさまという立体の形を指すことが多く、のちに円形のさまも表すようになったとする[1]。ただし、この語誌は二次資料(辞典)の記述なので、「とされる」の強さで受けとめるのがよい。
だとすると、日常語の「丸」は、立体から出発して平面へ広がった言葉ということになる。ではその「広い丸」に対して、数学の「円」は、何をどこまで限っているのか。
3. 算数の 「円」は、どんな 形?
3. 算数の「円」は、中心からの長さで決まる
3. 数学の「円」は、中心からの距離がそろった点の集まり
算数の 「円」には、きまりが あります。ひとつの 点から、同じ 長さに なるように かいた まるい 形です[3]。
その ひとつの 点を 「中心」と いいます。中心から 円の まわりまで ひいた 直線が 「半径」です。中心を とおって、円の まわりから まわりまで ひいた 直線が 「直径」で、直径の 長さは 半径の 2ばいに なって います[3]。
「だいたい まるい」では なくて、「中心から どこまでも 同じ 長さ」と いう ところが、算数の 円の 大じな ところです。
では、立体の 「球」は、この 円と どう つながって いるのでしょうか。
4. 球は、どこから 見ても 円?
4. 球は円とどうつながっているのか
4. 学習指導要領は、球を円と「比べながら」教える
小学校の きょうざいでは、どこから 見ても 円に 見える 形を 「球」と いいます[3]。ボールを いろいろな 向きから 見ても、円に 見えますね。
ボールを 半分に 切った と 思って みましょう。切り口も 円の 形に なります[3]。
球にも 中心、半径、直径が あります。円と まぜないように、「球の 中心」「球の 半径」「球の 直径」と 言います[3]。
国が きめた 算数の 目当てでも、3年生で 円を 教えながら、球の 直径を 円と くらべて 教える ことに なって います[4]。円と 球は、いっしょに 習う なかまなのです。
小学3年の教材では、どこから見ても円に見える形を球といい、球の切り口も円の形になります。半分に切った切り口は、円と同じ形です[3]。球は、円を材料にして説明できる立体なのです。
球にも中心・半径・直径があります。円のものと区別するため、「球の中心」「球の半径」「球の直径」と言います[3]。
文部科学省の学習指導要領解説(算数編)も、第3学年で中心・半径・直径に着目して円を指導するとともに、球の直径などを平面図形の円と比べながら指導する、としています[4]。算数が円と球を同じ学年で並べて教えるのは、この二つが「円を基準に、立体へ広げた関係」だからだと読めます。
では、本物の球はこの世にあるのでしょうか。いちばん大きな「まるいもの」、地球で考えます。
東京都教育委員会の教材は、球を「どこから見ても円に見える形」と述べ、球の切り口も円であり、半分に切った切り口は円と同じだと説明する。円の中心・半径・直径と区別するため、「球の中心」「球の半径」「球の直径」と呼ぶ[3]。
文部科学省の学習指導要領(平成29年告示)解説は、第3学年で中心・半径・直径に着目して円を指導し、同時に球の直径などを平面図形の円と比べながら指導するとしている[4]。ここから、算数では円を土台にして球を理解させる構成だと読める。ただし、球の定義文そのものは今回、自治体教材1点で確かめたもので、複数の教材で同じ説明かどうかはさらに調べる余地がある。
定義がはっきりしているぶん、「現実のものは、定義どおりの球か」という問いが出てくる。いちばん大きく、身近な例が地球だ。
5. 地球は、ほんとうに 球?
5. 地球は球と言ってよいのか
5. 地球の形は、球よりわずかに押しつぶされた楕円体に近い
地球は、よく 球と して えがかれます。でも、ほんの 少しだけ、球とは ちがうと いわれて います。
しらべると、地球の 形は 球に 近いけれど、北と 南の 方向から ほんの 少し つぶれた ような 形の ほうが よく 合う そうです[5]。赤道の ほうが ふくらんで、北きょく・南きょくの ほうが 少し 短い、と いう ことです。
その ちがいを 計算して みました。地球の 赤道の 半径は 6378キロメートルほどで、北きょくまでの 半径とは 21キロメートルぐらい ちがう、と 計算できます[6]。
これを 半径10センチメートルの 地球ぎに すると、ちがいは 0.3ミリメートルほど。紙で 3まい ぶんくらいです。ほとんど 球ですね。
「球」は、きっちりした 算数の 形で、地球は それに とても 近い 形、と 考えると 分かりやすいです。
地球の形を考えるとき、現実の山や谷ではなく、海面をもとにした「ジオイド」という面が使われることがあります。ジオイドは球に近いのですが、球を南北の方向からほんの少し押し縮めた回転楕円体のほうが、よく一致するとされます[5]。測量では、この回転楕円体を地球の形の基準に使い、ジオイドとは区別します。
現在広く使われる地球楕円体の一つGRS80は、赤道半径が6,378,137m、扁平率(つぶれ具合)が約1/298.257です[6]。扁平率は「(赤道半径−極半径)÷赤道半径」なので、赤道半径と極半径の差は、6378.137÷298.257から約21.4kmと計算できます。地球の半径のおよそ0.3%です(この差は資料の数値から計算したもので、資料にそのまま書かれた数字ではありません)。
半径10cmの地球儀にあてはめると、赤道側と極側の半径の差は0.3mmほど。紙3枚分くらいです。
だから「地球は球」と言っても、日常ではほとんどずれません。ただし、定義どおりの「球」というよりは、「球に近い形」と言うほうが正確です。
地球の形を考えるとき、現実の地形そのものではなく、平均海面をもとにしたジオイドの形が使われることがある。ジオイドは球に近いが、球を南北方向からごくわずかに押し縮めた回転楕円体のほうがよく一致する[5]。測量では、この回転楕円体を地球の形の基準とし、ジオイドとは区別して扱う。
現在広く使われるGRS80は、赤道半径a=6,378,137m、扁平率f=1/298.257…である[6]。扁平率はf=(a−b)/aで定義されるから、極半径をbとすると、a−b=a×fとなり、6378.137km÷298.257≒21.4kmが差になる。これは地球の半径の約0.3%(21.4÷6378≒0.0034)にあたる。なお、この21.4kmはGRS80の数値からの自分の計算で、資料にそのまま載っている値ではない。
半径10cmの地球儀に直すと、差は0.3mm台で、コピー用紙3枚分ほどだ。これほどわずかなので、算数で習う「球」を地球にあてはめても、日常の感覚ではほとんど誤差が出ない。ただし、地図を作るときに基準とする楕円体は国や時代で異なり、同じ地球でも採用する楕円体が違えば細かな数値は変わる。
球は数学上の理想の形で、地球の形は、球よりわずかに扁平な回転楕円体で近似される。この少しの差をつきとめるために、測量の世界が精度を磨いてきたのである。
6. まわりの 「まるい もの」を 円と 球で 言いわけよう
6. 身のまわりの「まるい」を、円と球で言いわけてみる
6. 身のまわりの「まるい」を、定義で言いわけてみる
おうちの 中の 「まるい もの」を、円と 球で 分けて みましょう。たとえば、1円玉の 表の 形、おなべの ふたの 形、ボール、ビー玉。
見分け方は 2つです。「平らな 形か、ころころ ころがる 立体か」と、「どこで 切っても 切り口が 円に なるか」です。切るのは 頭の 中で かんがえるだけに して、ほんとうに 切らないで ください。
もうひとつ。ひもの 一方を 指で おさえて、もう一方に えんぴつを むすび、ひもを ぴんと はりながら 紙に 線を かいて みましょう。ひもの 長さが 半径に なって、円が かけます。おとなの 人に ひもを おさえて もらっても いいです。
家の中の「まるいもの」を、円と球に言いわけてみてください。1円玉の表の面、鍋のふた、ボール、ビー玉などです。
見分けのポイントは、「平面か立体か」と「頭の中でどこで切っても切り口が円になるか」の二つです。実際に切るのではなく、想像するだけにしてください。ボールの代わりにほかの立体を想像して、切り口を考えてみるのもおもしろいです。
ひもと鉛筆と紙があれば、円もかけます。ひもの一端を指で押さえ、もう一端に鉛筆を結んで、ひもをぴんと張ったまま回します。ひもの長さが半径になります。「中心から同じ長さ」という条件が、そのまま円の形になるのが分かります。
資料を読むなら、東京都教育委員会の教材「円と球」と、文部科学省の学習指導要領解説(算数編)を見てください。どちらも出典欄にあります。
身のまわりのものを、「円か、球か、それ以外か」で言いわけてみる。1円玉は厚みがあるので、表の面の形は円だが、ものとしては球ではない。ビー玉はほぼ球で、球を平面で切ると、切り口は円になる。この考え方を使うと、「まるい」という日常語が、どれだけ多くの形を一つにまとめていたかが見えてくる。
ひもと鉛筆で円をかけば、「中心から等距離の点の集まり」が、手の動きとして体験できる。ひもの長さを変えて、半径と直径の関係(直径は半径の2倍)も確かめられる。
一次資料としては、文部科学省の学習指導要領解説(算数編)[4]が、円と球を同じ学年で比べて扱う根拠を示している。地球の形に興味が出たら、国土地理院など測地を扱う公的機関の資料で、地球楕円体の最新の値を確かめられる。この記事のGRS80の数値は辞典・解説サイトの抜粋に頼っているため、公的な一次資料で再確認する価値がある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。辞典の語誌と地球楕円体の数値は二次資料のため、「とされる」の強さで書いています。
- コトバンク「丸」(デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典の語誌) https://kotobank.jp/word/%E4%B8%B8 (「丸」の意味と、立体から円形へ広がった語誌)
- コトバンク「円」 https://kotobank.jp/word/%E5%86%86 (数学の円の定義と、日常の意味)
- 東京都教育委員会 東京ベーシック・ドリル 3年 解説15「円と球」 https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kyoiku/3nen_kaisetu_15 (円・球・半径・直径の説明)
- 文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編 https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf (第3学年で円と球を比べて指導すること)
- コトバンク「地球楕円体」(世界大百科事典) https://kotobank.jp/word/%E5%9C%B0%E7%90%83%E6%A5%95%E5%86%86%E4%BD%93 (地球の形とジオイド、扁平率の式)
- Weblio辞書「GRS80」 https://www.weblio.jp/content/GRS80 (赤道半径と扁平率の数値)
なおした ところ
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