1. クモは 高い ところから、糸を 出して 飛びます
1. 答えの骨組み ── 高いところで糸を出し、風にのる
1. バルーニングの手順 ── 登る・つま先立ち・糸を出す・離陸
クモの 子が 空を 飛ぶ ことを、バルーニングと いいます。風船の ように ふわふわ うかぶ からです。
まず、クモは 草の 先や ぼうの 先など、高い ところに のぼります。つぎに、足で つま先立ちを して、おしりを 上に 向けます。そして おしりから 糸を 出します。糸が 風に ひっぱられて、クモは ふわっと 空へ うかびます[2]。
ふつうの クモの巣の 糸とは ちがい、とても 細い 糸が 何本も 出て いました。それは どんな 糸なのでしょう。
バルーニングは、次のような順番で進みます。まず、クモは草の先や柵の上など、高い場所に登ります。次に、つま先立ちのように脚を伸ばして、おなかの先を空に向けます。そこから糸を出し、その糸が風や上昇気流に引かれると、クモは糸ごと持ち上がって飛び立ちます[2]。
ダーウィンが船で見たのは、体長約2.5mm(10分の1インチ)の小さなクモでした[1]。体の軽い小さなクモが、とくによくこの方法を使うといわれます。大きな疑問は、細い糸が1本あるだけで、どうしてクモの体が浮くのかということです。
手順は次のとおりである。クモは草の先や柵など高い場所に登り、脚を伸ばしてつま先立ち(tiptoe)の姿勢になり、腹部を上に向ける。そこから糸を出し、糸が空気の流れに引かれると、体ごと持ち上がって離陸する[2]。
ダーウィンの記録にあるクモは、体長が約10分の1インチ(約2.5mm)だった[1]。軽い小さなクモほど飛びやすいと考えられている。以下では、2018年の野外観察と風洞実験(Cho ら)で調べられた、体長3〜6mm・体重6〜25mgのカニグモ類(Xysticus 属)を主に見る[2]。
疑問は、糸1本の空気抵抗で、体重が数十mgのクモが浮くのかという点だ。ここで、飛び立つときの糸が効いてくる。
2. 飛ぶ ための 糸は、とても 細い たばでした
2. 飛ぶための糸は、極細の糸を50〜60本ほど束ねたもの
2. 飛行用の糸 ── 太さ約0.0002mmの繊維が50〜60本、長さ約3m
ドイツの けんきゅうの チームが、クモが 飛ぶ ときの 糸を しらべました。すると、1ぴきが 出す 糸は、1本では なく、50〜60本の たばでした[2]。
1本1本の 太さは、0.0002ミリほどです。かみの毛は 0.1ミリ 前後ですから、かみの毛よりも ずっと 細い 糸です。長さは 3メートルくらいでした[2]。
細い 糸が たくさん あると、空気に ふれる ところが ふえます。それで、糸が 空気の 動きを つかまえて、クモを 引っぱり上げる 力に なる、と 考えられて います。
ドイツの研究チームは、風洞の中でカニグモのバルーニングを調べました。クモが飛ぶために出した糸は、1本ではありませんでした。50〜60本ほどの細い繊維の束で、1本の太さは約0.0002mm、長さは平均3mほど、最大で6.2mありました[2]。髪の毛の太さが0.1mm前後ですから、その数百分の1の細さです。
研究チームは、このたくさんの細い糸が空気の抵抗を大きくして、クモを持ち上げているのではないかと考えています。細い糸のまわりでは、空気のねばりが強く働くので、糸が空気の動きにつかまりやすくなるからです[2]。
この論文は、見つけたことと、まだ仮説の部分を分けて書いています。仮説の中心は、次の章で出てくる「上昇気流」です。
Cho ら(2018年)は、野外観察と風洞実験で、Xysticus 属のクモ(16.4mgと18mgの個体で繊維を測定)が出す糸を調べた。飛行用の糸は、細い繊維48〜58本(直径121〜323nm、平均約212nm)と、やや太い繊維2本(約722nm)でできており、長さは平均約3.2m、最長6.2mだった。巣を張るときの牽引糸とは別物で、腹部の糸疣(出糸突起)から出る[2]。
この太さでは、糸のまわりの空気は慣性よりも粘性が支配的になる(低レイノルズ数の領域)。著者らは、極細の繊維を多数束ねることで、小さな体を支えるのに十分な抵抗が生まれると提案している。ただし、論文自身がこれらを「検証が必要な仮説」と位置づけている[2]。
では、必要な上昇気流はどれほどか。論文のモデルでは、10〜25mgの Xysticus 属が離陸するのに必要な上昇気流は、毎秒約0.04〜0.2mと推定された。これは従来の見積もりよりずっと小さい[2]。
3. クモは 風を たしかめて、いい ときを まちます
3. 飛ぶ前に、前脚で風をたしかめる
3. 離陸の条件 ── 前脚で風を探る行動と、風速3m/s以下の上昇気流
クモは、いつでも すぐに 飛ぶ わけでは ありません。飛ぶ 前に、まえ足を 1本 上げて、風が どうかを たしかめて いました[2]。
つま先立ちを しても、じっさいに 飛んだのは 10回に 1回くらいでした。クモは、いい 風が くるのを まって いるようです[2]。
よく 飛ぶのは、風が 1秒に 3メートル より よわい ときです[2]。強い 風の 日では なく、そよ風の 日が 多い のです。
クモは、準備ができるまで飛びません。研究では、クモが前脚を1本上げて風を探るような動きをしてから、つま先立ちになる様子が観察されました。つま先立ちの試みのうち、実際に飛び立ったのは約10%でした[2]。
飛ぶのは、風が毎秒3m以下の、そよ風のときが中心です。強い風ではなく、弱い風のときに飛ぶのはなぜでしょう。研究チームは、地面に近いところでは、空気が乱れながら小さな上昇気流を作っていて、それが弱い風のときに起こりやすいからではないかと考えています[2]。野外で測った上昇気流は、毎秒0〜0.7mほどでした。
これも、論文が「検証が必要」としている仮説です。クモは、風や上昇気流の「ちょうどいいとき」を選んで糸を出していると考えると、飛び立つ前の長い準備に意味が出てきます。
Cho らの観察では、クモは脚Iを持ち上げて風を感じ取るような行動を取ってから、つま先立ちに移った。つま先立ち離陸が成功したのは約9.8%、水面に乗った場合(rafting)では約37.5%だった。成功しない試みも多い[2]。
バルーニングは、おおむね風速3m/s以下で起こる。野外では、平均風速1.99m/sで0〜0.5m/s、3.07m/sで0〜0.7m/sの上昇気流が測られた。著者らは、地表付近の乱流構造から生じる上昇気流(ejection)が、水平風速の低い時に起きやすいことと結びつけ、クモがそれを利用する可能性を挙げている[2]。
ただし、これは観察から導いた仮説で、論文自身が追加の検証を求めている。次の章では、風や上昇気流とは別の力が示された実験を見る。
4. 風の ない へやで、電気の 力を かけた じっけん
4. 風のない部屋で、電場をかけた実験
4. 風のない室内で電場をかけた実験 ── Morley & Robert(2018)
2018ねんに、イギリスの けんきゅうの チームが、おどろく じっけんを しました。風の ない へやで、空の 電気を 手がかりに した 電気の 力(電場)を かけると、クモが 糸を 出して 上へ うかんだのです。電気の 力を 切ると、クモは 下へ おりました[3]。
クモの 足の 毛が、電気の 力で 動く ことも わかりました[3]。
ただし、これは へやの 中の じっけんです。ほんとうに 自然でも 電気で 飛んでいるのかは、これから しらべる ところです。
2018年、イギリスのブリストル大学のチームは、風のない部屋で、大気中の電場を手がかりにした電場をクモにかける実験をしました。電場をつけるとクモは糸を出して上へ移動し、切ると下へ移動しました。クモの感覚毛が電場で動くことも観察されました[3]。
電場は、糸にもクモにも電気の力を及ぼします。この実験は、風がなくても電場の力だけでクモが浮くことがあるという意味です。ただし、研究者自身も、電場が自然のバルーニングに必要なのかどうかは、まだ分からないとしています。ほかの研究者は、離陸には電場以外の何かも必要かもしれないと指摘しています[3]。
ダーウィンは、クモが上がる理由を、暖められた空気が上へ昇る流れではないかと考えました[1]。風、上昇気流、電場。どれが主役なのかは、いまも調べられています。
Morley & Robert(2018)は、サラグモ科(Linyphiidae)のクモを使い、無風の室内で、大気中の電位勾配に相当する鉛直方向の電場を印加した。電場をオンにするとバルーニングと離陸が誘発され、オフにするとクモは下降した[3]。
また、クモの機械感覚毛が電場によって動くことも観察された[3]。この結果から、電場は少なくともバルーニングを引き起こす「十分条件」になりうることが示された。一方、著者は、電場が自然下で必須かどうかはまだ分かっていないとしている。外部の研究者(Cho 氏)は、つま先立ちは電場と結びつくが、離陸にはそれ以外の要素も必要かもしれないと述べている[3]。
ダーウィンは、クモが上昇する原因を、暖められた空気の上昇気流で説明した[1]。糸の抵抗(Cho ら)、上昇気流、電場。それぞれが、飛び立ちのどの段階を担うのかは、まだ整理の途中である。
5. クモは、どれくらい とおくまで いくの?
5. クモはどれほど遠くまで運ばれるのか
5. クモが運ばれる距離 ── ビーグル号の記録と日本の「雪迎え」
ダーウィンが 見たのは、陸から 100キロ くらい はなれた 船の 上の クモでした[1]。風に のると、そんなに とおくまで 行ける ことが あるのです。
日本でも、山形県の 南陽市では、秋の おわりに 子グモが 糸で 飛ぶのを 「雪迎え」と 呼んで、初雪の 前ぶれと していた、と 紹介されて います[4]。
6. じぶんでも しらべて みたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
風の よわい 晴れた 日に、公園の 草の 先や さくの 上を よく 見て みましょう。おしりを 上げて、じっと して いる 小さな クモが いるかも しれません。
クモに さわったり、つかんだり しないで、はなれて 見ます。いつ 飛ぶのか、どんな 風の ときか、気になった ことを メモして みましょう。
風の弱い晴れた日に、公園の草の先や柵の上を観察してみましょう。おなかの先を持ち上げて立っている小さなクモがいたら、バルーニングの前の姿かもしれません。クモにはさわらず、少し離れて見ます。
前脚を上げるか、糸を出すかも、離れて見てみましょう。見えたことをそのまま記録します。クモが見つからなかった日も、その日の風の強さといっしょに書いておくと、あとで比べられます。
風速計がなくても、風の強さの目安は木の葉の揺れ方などで分かる。風の弱い日に、草の先で脚を伸ばして腹部を上げるクモを探し、前脚を上げる動作や、つま先立ちから実際に飛び立つまでの様子を記録してみるとよい。観察するときはクモにふれず、離れて見る。
観察では、前脚を上げる動作や糸を出す動作の有無を、風の強さとあわせて記録する。クモが見つからなかった日も、そのまま記録に残す。糸と風の観察は[2]、電場の実験は[3]が中心になる資料だ。両者の仮説を比べながら読むと、「どの現象を、どの条件で確かめたのか」が分かりやすい。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:[2]と[3]は、研究論文と大学の発表で、中心になる資料です。[1]は、ダーウィンの記録を引用した1873年の記事で、原本の本文そのものではありません。[4]の「雪迎え」は、ほかに確かめられる資料が見つからなかったので、紹介された話としてあつかっています。
- Darwin Online「Aeronaut spiders」(Gardeners' Chronicle, 1873年10月4日号。ビーグル号の航海記の一節の引用)。 https://darwin-online.org.uk/converted/published/1873_Aeronaut_F1765.html (陸から約60マイル、小さなクモが数千匹、暖められた空気の上昇気流による説明)
- Cho M., Neubauer P., Fahrenson C., Rechenberg I. (2018) "An observational study of ballooning in large spiders: Nanoscale multifibers enable large spiders' soaring flight." PLOS Biology 16(6): e2004405. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.2004405 (糸の本数・太さ・長さ、前脚で風を探る行動、つま先立ちの成功率、風速3m/s以下、上昇気流の測定)
- Morley E.L., Robert D. (2018) "Electric fields elicit ballooning in spiders." Current Biology 28(14): 2324–2330。ブリストル大学の発表も参照。 https://www.bristol.ac.uk/news/2018/july/spiders-electric-fields-.html (無風の室内で電場をオン・オフ、感覚毛が電場で動く、「十分だが必要かは不明」。論文本体は DOI 10.1016/j.cub.2018.05.057)
- ギズモード・ジャパン「how spiders fly」(2018年7月)。 https://www.gizmodo.jp/2018/07/how-spiders-fly.html (山形県南陽市の「雪迎え」の紹介、Cho らの研究の紹介)
なおした ところ
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