1. ちくちくする ふくを、だれが かえたの?
1. 羊毛の練習着がちくちくする、と言い出したのは誰か
1. 羊毛のユニフォームを綿に替えた提案:ラッセル社の語る1926年
トレーナーは、なにで できて いるのでしょう。いまの トレーナーは、綿が ちゅうしんです。ポリエステルを まぜた ものも おおい、と いわれます。
ここで、むかしの はなしを します。アメリカの フットボールの れんしゅうでは、そのころ、羊毛の ふくを きて いました。ところが、羊毛は ちくちくして、はだに こすれると いたいのです。
そこで 1926ねん、アメリカの ラッセル・アスレチックと いう かいしゃの しゃちょうの むすこ、ベニーが、おとうさんに アイデアを はなしました。「ぜんぶ 綿で できた れんしゅうぎを つくっては どうかな」と いう ものです。
これは、ラッセルと いう かいしゃが じぶんたちの れきしとして つたえて いる はなしです。この はなしでは、トレーナーの もとの すがたは「ちくちくを さける ふく」だった ことに なります。
では、その 綿の ふくは、すぐに いまの かたちに なったのでしょうか。
トレーナーに近い服(スウェットシャツ)の成り立ちには、いくつかの説があります。その一つが、アメリカのラッセル・アスレチック社の公式な沿革です。それによると、1926年、創業者の息子ベニーが父に、全部綿の練習用フットボールジャージーを提案しました。当時使われていた羊毛のユニフォームが、ちくちくして肌にこすれたからです[1]。
首まわりが丸いクルーネックのスウェットシャツの生産は、同じ沿革では1930年に同社の工場で始まったと書かれています[1]。つまり、トレーナーの原型は、おしゃれ着ではなく、「着ていて痛くない練習着」として生まれたことになります。
ただし、これは会社自身の語りです。ほかの資料では、年を1920年とする説もあり、年は割れています。この記事では、「ラッセル社の記述では」という形で扱います。
では、羊毛をやめて綿にした服は、そのまま完成品になったのでしょうか。
アメリカのラッセル・アスレチック社の公式沿革によると、1926年に創業者ベン・ラッセルの息子ベニーが、当時のちくちくして肌をこする羊毛のユニフォームに代わるものとして、全部綿の練習用フットボールジャージーを父に提案した[1]。クルーネックのスウェットシャツの生産は、同じ沿革では1930年に同社の工場で始まったとされる[1]。トレーナーの原型は、着心地の悪い羊毛を避けるために、綿で作る練習着として始まったという筋書きである。
ただし、この「息子の提案」は会社自身の語りであり、独立した一次史料で確かめられているわけではない。ほかの資料では1920年とする説もあり、年は出典で割れる。したがって本記事では、年号と経緯を「同社の記述では」と限定して扱う。
では、綿に替えた練習着は、そのまま完成品になったのか。綿という素材には、羊毛とは別の弱点があった。次の章でそれを見る。
2. 綿の ふくは、洗濯で ちぢんで しまうの?
2. 綿の服は洗うと縮む:生地を90度回す工夫
2. 洗濯で縮む問題に、生地の向きを90度回して応えた
こんどは、ふくを 洗濯する ときの こまりごとです。むかしの スウェットでは、あらうと ちぢむ ことが もんだいに なりました。
この もんだいを へらすために、チャンピオンと いう アメリカの かいしゃが、ぬのの むきを 90ど まわして きる、リバースウィーブと いう つくりかたを つかったと いわれます。
ぬのの むきを かえて きる ことで、ちぢみを おさえた、と つたえられて います。
いつ とっきょが とられたかは、しりょうに よって ちがいます。1930ねんだい、と おぼえて おけば じゅうぶんです。
綿の練習着が広まると、今度は洗濯が問題になりました。当時のスウェットは、洗うと縮むことがあったのです。この問題に取り組んだのが、アメリカのチャンピオン社です。生地を90度回して裁断し、縦と横の向きを入れかえる「リバースウィーブ」で、縮みを抑えたと伝えられます[2]。
この方法の特許は、サミュエル・フリードランドに1938年8月9日付で交付されたと、業界誌のTextile Worldは書いています[2]。ただし、同社の自社ページでは発明を1934年、特許を1938年・1952年と書いていて、年は出典によって割れます。この記事では、「1930年代に特許が出た」という幅のある書き方にとどめます。
羊毛から綿へ、そして縮みを抑える工夫へ。練習着は、使う人の困りごとに合わせて少しずつ形を変えていったことが分かります。ところで、この服は日本では、いつ「トレーナー」と呼ばれるようになったのでしょうか。
綿への切り替えは、新しい課題を生んだ。洗濯による縮みである。チャンピオン社が使ったリバースウィーブは、生地を90度回して裁断し、生地の流れる向きを縦から横へ入れかえて、縮みの問題を抑えたとされる[2]。資料は、生地を回して使うことで縮みの問題が抑えられたと述べており、縮みの細かな仕組みまでは書いていない。
特許について、Textile Worldは、サミュエル・フリードランドに1938年8月9日付で特許が交付されたと記す[2]。一方、チャンピオン社の自社ページは、発明を1934年、特許を1938年・1952年と記述しており、記述は割れている。そのため、本記事は特許年を断定せず、1930年代の出来事として扱う。
ここまでで、素材が羊毛から綿へ、そして縮みを抑える裁断へと進んだ筋が見えた。では、日本ではこの服は、いつ、なぜ「トレーナー」と呼ばれたのか。
3. なぜ「トレーナー」と いう なまえに なったの?
3. 「トレーナー」は日本で広まった呼び名
3. 「トレーナー」は和製英語:命名の経緯と由来の説
アメリカでは、この ふくを「スウェットシャツ」と よびます。汗を とる シャツ、と いう いみです。
「トレーナー」は、にほんで うまれた ことばで、もとの えいごの いみとは ちがいます。えいごの トレーナーは、くんれんする ひと、つまり コーチの ことです。
にほんで あらわれたのは 1956ねんと いわれます。1960ねんだいの はじめに、ヴァンヂャケットの しゃちょうだった 石津謙介さんが、なまえを つけたと されて います。「汗とり」では あまり このまれなかった から、と いう はなしです。
ほかにも、訓練の ときに きて、汗を よく すう から そう よばれた、と いう せつも あります。どちらも「と される」と いう はなしです。
アメリカでは、この服を「スウェットシャツ」と呼びます。直訳すると「汗取り用のシャツ」で、あまり好まれない名前だったとされます。日本で使われる「トレーナー」は和製英語で、スウェットシャツを指す言葉です[4]。
英語のtrainerは、訓練をする人(トレーナー)を指すので、服の名前としては別の意味になります。日本での初登場は1956年とされ、1960年代の初めに、ヴァンヂャケットの石津謙介(いしづけんすけ)が命名したとされます[4][5]。
由来には別の説もあります。スポーツの訓練(トレーニング)のときに着られ、汗を吸いやすいことからその名で呼ばれるようになった、という説明です。当時の男性誌が紹介して広まったとも伝えられています[5]。
どの説も「とされる」という形でしか言えません。ただ、名前の由来をたどると、この服が「運動の練習のときに着るもの」だったことが、日本でも引き継がれたと読めます。では、いまのトレーナーは、実際に何でできているのでしょうか。
アメリカでは、この服は「スウェットシャツ」と呼ばれる。直訳は「汗取り用のシャツ」で、好まれにくい名前だったとされる。日本の「トレーナー」は和製英語(わせいえいご)で、スウェットシャツを指す[4]。英語のtrainerは訓練士であり、服の意味はない[5]。
FASHIONSNAPの用語辞典は、日本での初登場を1956年とし、1960年代初頭に、ヴァンヂャケット社長の石津謙介が命名したとされると説明する[4]。OCEANSの解説も、アメリカで「スウェットシャツ」と呼ばれた服を石津謙介が命名したと書く[5]。
一方でOCEANSは、スポーツの訓練に着られ、吸汗性に優れることに由来する、という見方も紹介する。当時の男性誌が取り上げて広まったともいう[5]。命名者・由来はいずれも「とされる」であって、複数の説が併存している。
では、いまのトレーナーは何でできているのか。呼び名の問題から、次は素材そのものへ移る。
4. いまの トレーナーは、綿だけ なの?
4. いまは綿が中心、ポリエステル混も多い
4. 綿が中心、ポリエステル混も多い:それぞれの傾向
いまの スウェットは、おもに 綿の あみものです。汗を よく すう と いわれます。ポリエステルの ふくや、綿に ポリエステルを まぜた ふくも おおく あります。
タグには、なんの いとを どれだけ つかって いるかが かいて あります。綿だけの ふくも、ポリエステルが まざった ふくも あります。
おなじ トレーナーでも、いとの ふとさや あみかたで、さわりごこちは ふくごとに ちがいます。
スウェットは、主に綿のニット生地で、吸汗性が特徴とされます。現在は、ポリエステル製のものや、綿との混紡も多く見られます[5]。
綿100%の服もあれば、ポリエステルを混ぜた服もあります。糸の太さや編み方、加工によっても着心地は変わるので、素材の名前だけで良し悪しは決められません。当時の練習着が綿で作られた理由は、第1章で見たとおりです。
また、この服の裏側には、タオルのようなループが並ぶ「裏毛(うらげ)」や、そのループを起こして空気をためる「裏起毛」があります[6]。ここでは構造の細部には立ち入らず、素材がラベルでどう表示されるかを見ていきます。
タグには「綿60%、ポリエステル40%」のような数字が書かれます。この数字は、何の割合なのでしょうか。
5. タグの「綿60パーセント」は、なんの 割合?
5. 「綿60%、ポリエステル40%」は、何の割合か
5. 混用率は質量の割合:公定水分率という計算の前提
タグには「綿 60パーセント、ポリエステル 40パーセント」のように、かずが かいて あります。これは、ぬのに つかった いとの おもさの 割合です。
にほんの きまりでは、まざって いる いとは、ぜんぶ なまえと 割合を ならべて かきます。「綿」は「コットン」と かいても よい とされて います。
「綿 100パーセント」の ときだけ、「正」や「本」の ような ことばを つけられます。
この わりあいの けいさんには、いとが ふくむ みずの わりあいを きめた かずが つかわれます。綿は 8.5パーセント、ポリエステルは 0.4パーセント。これは ひょうじを けいさんする ための かずで、じっさいに みずを すう りょうでは ありません。
綿の かずは、ポリエステルの おおよそ 20ばいです。
タグの「綿60%、ポリエステル40%」は、混用率(こんようりつ)と呼ばれ、日本では消費者庁が示す繊維製品品質表示規程で決められています。混用率は、全部の組成繊維の質量に対する割合です。すべての繊維名に、それぞれの混用率を並べて書く決まりで、例として綿60%、ポリエステル40%のような書き方が挙げられています[3]。
100%の場合に限り、「正」「純」「本」などの言葉を付記できます。名前は「綿」または「コットン」、ポリエステル系は「ポリエステル」と書く決まりです[3]。
この混用率の計算には、公定水分率(こうていすいぶんりつ)という数字が前提に使われます。同規程の別表では、綿は8.5%、ポリエステル系合成繊維は0.4%と定められています[3]。単純に割ると、綿のほうが約20倍(8.5÷0.4≒21)大きい値です。
ただし、これは表示を計算するための決まった値で、実際にその服がどれだけ水を吸うかを表す数字ではありません。数字を見て「綿は20倍水を吸う」と読むと、意味が変わってしまいます。
タグの混用率は、消費者庁が掲げる繊維製品品質表示規程(第三条第一号)で定められている。組成繊維となっているすべての繊維名に、それぞれの混用率を併記する。混用率は、全組成繊維の質量に対する割合であり、例として綿60%、ポリエステル40%のように書く[3]。100%の場合に限り「正」「純」「本」などの用語を付記でき(第十条第一号)、名称は綿・コットン、ポリエステル系はポリエステルを指定用語とする[3]。
この質量の計算は、公定水分率を前提に行われる。同規程の別表第三は、綿を8.5%、ポリエステル系合成繊維を0.4%と定める[3]。両者の比は、8.5÷0.4=21.25で、約20倍となる。
ここで注意したいのは、公定水分率は混用率を表示するための計算上の値だという点である。実際の服が吸う水の量や、乾く速さそのものを示す数字ではない。「公定水分率が約20倍だから、綿は20倍水を吸う」と読むのは、出典が述べていない結論になる。
よって、タグの数字から言えるのは「質量でみた糸の割合」まで。着心地や乾きやすさは、第4章のように「傾向」として別に考える必要がある。
自分の トレーナーの タグを、ならべて みよう
家のトレーナーのタグで、素材の割合を読み比べる
手がかり:タグの混用率と、ラッセル社の沿革を原典で確かめる
おうちの トレーナーや パーカーの うらがわを みて、ちいさな タグを さがして みましょう。
「綿」と「ポリエステル」が、それぞれ なんパーセントか よめますか。タグの かずを くらべて みましょう。さわりごこちも くらべると、どんな ちがいが あるかな。
タグの かずは、いとの おもさの 割合です。きもち よさや かわきやすさは、じぶんの 肌で たしかめて みましょう。
家にあるトレーナーやパーカーの内側にある小さなタグを見てください。「綿」「ポリエステル」がそれぞれ何%かを読み、ふたつの服を比べてみます。
肌当たりや乾きやすさを、自分の感覚と比べてみるのも一つの方法です。傾向と、自分の服の感じが合うかどうかは、服ごとに違うはずです。
タグの数字は質量の割合であり、水の吸いやすさを表す数字ではない、という点だけは覚えておくとよいでしょう。ラッセル社の沿革や、消費者庁の規程は、出典欄から原典に当たれます。
家のトレーナー数枚について、タグの混用率を読み、肌当たりや乾く速さの感覚と並べてみる。これは、自分の服についての観察である。
原典に当たるなら、ラッセル・アスレチック社の公式沿革(英語)と、消費者庁の繊維製品品質表示規程(別表第三の公定水分率を含む)がある。後者は、表示の計算の前提を条文で確かめられる。
残る疑問は、公定水分率という計算上の数字と、実際の吸水・乾燥の速さとの関係である。この点は、公的な実測値を示す資料を探す必要がある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。創業時期や命名の経緯には複数の説があるため、「〜とされる」と書いた箇所があります。
- Russell Athletic「History」(公式沿革) http://www.russellathletic.com/history (1926年の提案・1930年の生産開始)
- Textile World「Champion Athleticwear Celebrates 100 Years」 https://www.textileworld.com/textile-world/features/2019/09/champion-athleticwear-celebrates-100-years/ (リバースウィーブと特許)
- 消費者庁「繊維製品品質表示規程」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/law/law_04.html (混用率・公定水分率・用語)
- FASHIONSNAP 用語辞典「トレーナー」 https://www.fashionsnap.com/dictionary/trainer/ (呼び名の由来)
- OCEANS スウェット解説 https://oceans.tokyo.jp/article/detail/41741 (素材と呼び名)
- アシストオール ライフスタイル記事 https://lifestyle.assist-all.co.jp/?p=68694 (綿とポリエステル混の傾向)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。