1. ハチドリの 体は、どれくらい ひえるの?
1. アンデスの夜、体温3.26℃のハチドリ
1. 体温3.26℃ ── アンデス高地のハチドリの夜(2020年の測定)
ペルーの アンデスの 山で、けんきゅうする 人たちが、ハチドリを ひとばんだけ しらべました。6しゅるい、26わです。つかまえた ハチドリを、かごに 入れて、山の よるの きおんの ままの ばしょに おいて、体の おんどを はかりました[1]。
しらべた すべての しゅるいで、ハチドリは 体を ひやして ねむる「トーパー」に 入りました。いちばん ひえた 1わは、3.26℃。ふだんは 36℃ぐらいの 体が、3℃ちょっとです[1]。
トーパーは、日内休眠とも いいます。1日の うちで 数時間 ほど つづく ねむりの ことです。なん日も つづく 冬眠とは、つづく じかんが 大きく ちがいます。
あたたかい ばしょの ハチドリは、夜に 12℃から 20℃ぐらいで とどめる ことが ふつうと されて いました[2]。山の うえの ハチドリは、それより ずっと ふかく ひやします。ただし、3.26℃は 26わの うちの 1わの いちばん ひくい あたいです。ぜんぶの ハチドリが ここまで さがる わけでは ありません。
どうして そんなに ひやすのでしょう。つぎの しょうで こたえます。
2020年に発表された調査です。ペルーのアンデス山地、標高およそ3,800mで、研究者たちは6種のハチドリ26羽を、夜の冷えこみをそのまま受ける場所に一晩置いて、体温を測りました。夜の気温は2.4〜5.9℃でした[1]。
調べたすべての種が、深い休眠に入りました。いちばん下がったのは Metallura phoebe という種の1羽で、3.26℃でした。鳥と、冬眠をしない哺乳類のなかで、それまでに報告された最低の体温でした。ふだんの安静時の体温は種により35.8〜37.0℃なので、30℃以上も下がったことになります[1]。
この、数時間から24時間未満だけ続く休眠を、日内休眠(トーパー)といいます。熱帯の低地のハチドリでは、夜の体温はふつう12〜20℃に保たれるとされてきました[2]。アンデスの結果は、それよりずっと深いものです。ただし、3.26℃は26羽のうちの1羽の最低値です。すべての個体がここまで下がったわけではありません。
なぜ、毎晩のように体を冷やすのでしょうか。次の章で答えを探します。
Wolf らは、ペルーのアンデス(標高約3,800 m)で、6種26羽のハチドリを一晩、自然の気温の下に置いて体温を測った。夜間の気温は2.4〜5.9℃。すべての種が深い休眠を使い、Metallura phoebe の1羽は、最低体温3.26℃を記録した。鳥と、冬眠しない哺乳類のなかで、当時の最低記録だった[1]。
ふだんの安静時の体温は種により35.8〜37.0℃なので、休眠中の最低値との差は約33℃になる(35.8−3.26=32.54、37.0−3.26=33.74)。ただし3.26℃は1羽の最低値で、同じ種の平均は約5.1℃だ。しかも、捕らえた鳥を一晩、屋外の気温の下に置く測定であり、自由に飛ぶ個体を追ったものではない[1]。
それまでの常識は、もっと浅かった。熱帯のハチドリは、夜の休眠でふつう体温を12〜20℃に保つとされ、標高2,900 mで抱卵中の個体に6.5℃という記録がある程度だった[2]。休眠の深さは、場所と種でずいぶん違う。
では、なぜ鳥が毎晩、これほど体を冷やすのか。まず体の小ささから見ていく。
2. どうして よるに ひやすの?
2. 小さな体には、一晩の絶食が重い
2. 体重2〜8 gの恒温動物 ── 一晩の絶食で体重の約7%の脂肪を使う
ハチドリは、とても ちいさい とりです。しゅるいの 9わり いじょうが、8グラムより かるく、2グラムぐらいの しゅるいも います[2]。1円玉は 1グラムです。1円玉を 3まい、てのひらに のせて みましょう。アメリカに いる ルビーのどハチドリの、あさの おもさが、これに ちかい です[3]。
ちいさい 体は、あたたかさを たもつのに、たくさんの エネルギーが いります。ハチドリは ひるの あいだ ずっと、はなの みつを のんで います。よるの ぶんの脂肪を ためる ためです。でも よるは、ごはんを たべられません。
ルビーのどハチドリで はかった けんきゅうでは、体を ひやさない よるに、ひとばんで 0.2グラム(200ミリグラム)ぐらいの しぼうを つかいました。1円玉の 5ぶんの 1の おもさです。1円玉 3まいの おもさの うちの 7パーセント、つまり 100の うちの 7に あたります[3]。
ひとばん ごはんなしで、これだけ へります。だから ハチドリは、よるに 体を ひやして、つかう エネルギーを へらします。
ハチドリの9割以上の種は、体重が8g未満です。2g前後の種もいて、体温を保つ動物(恒温動物)のなかでは最小級です[2]。1円玉は1gなので、1円玉を2〜3枚、手のひらにのせてみると、体重の見当がつきます。
小さな体は、体温を保つための出費が大きく、エネルギーの収支が赤字になりやすいとされます[2]。ハチドリは日中ずっと花の蜜を食べ、夜の絶食に備えて脂肪をためます。それでも、夜は長いのです。
アメリカのルビーのどハチドリで、朝の体重が約2.77gの個体を調べた研究があります。体温を下げなかった夜には、脂肪の量が一晩に平均で約194mg減りました。1円玉の約5分の1の重さです。朝の体重(約2.77g)を基準にすると約7%になります。194÷2,770という、この記事での計算です[3]。
一晩の絶食で、体重の約7%分の脂肪が消えます。毎晩それを続けるのは大きな負担です。そこでハチドリは、夜に体を冷やして、使うエネルギーを減らします。これは、捕らえた個体で測った結果です。すべての種・季節にそのまま当てはまるとは限りません。
ハチドリの9割以上の種は体重8 g未満で、2 g程度の種もある。恒温動物のなかでも最小級の仲間だ[2]。体が小さいと、体温を保つための出費が大きく、エネルギー収支が赤字になりやすい[2]。
そのため日中は蜜を食べ続け、夜の絶食に備えて脂肪をためる。Eberts らが捕獲したルビーのどハチドリ(朝の体重約2.77 g)で測ると、体温を下げなかった夜には、繁殖期の平均で約194 mgの脂肪を失った[3]。194÷2,770≒0.07なので、体重の約7%にあたる(原文の数字ではなく、この記事の概算。夕方の体重はもっと重い)。1円玉は1 gだから、1円玉の約5分の1の重さの脂肪が、一晩で消える。
この結果は、捕獲した個体を測ったもので、全種・全季節にそのまま当てはまるわけではない。それでも、一晩の絶食が小さな鳥にとって大きな出費だと分かる。夜のあいだ体温を下げれば、その出費を減らせる。次に、この省エネが冬眠と同じものなのかを確かめる。
3. 「トーパー」と 冬眠は、どう ちがうの?
3. 数時間で終わる日内休眠と、何日も続く冬眠
3. 日内休眠と冬眠 ── 24時間未満で餌をとり続ける休眠と、数日〜数週間の休眠
ハチドリの ような、24じかんより みじかい ねむりを「トーパー」と いいます。ひとばんとか、数時間ぐらいで、また ごはんを さがしに いきます[4]。
冬眠は、なん日も、なん週かんも つづく ねむりです。そのあいだ、ごはんは あまり たべません。ためて おいた エネルギーで すごします[4]。
鳥と どうぶつ、あわせて 214しゅるいを くらべた けんきゅうが あります。トーパーと 冬眠は、なだらかに つながって いるのでは なく、ちがう グループに わかれて いました。冬眠の ほうが、ずっと ふかくて、ずっと 長い ねむりです[4]。
もう 1つ、ちがいが あります。トーパーに 入る ときと 出る ときは、まいにち とけいの ように きまって いる ようです。体の 中の とけいが きめて いると、研究する 人は 考えて います。冬眠は、そうでは ないらしい と いわれます[4]。
休眠は、長さで大きく2つに分けられます。日内休眠(トーパー)は24時間未満で、その後も餌を探し続けます。冬眠は数日から数週間続く休眠で、動物はあまり餌をとらず、蓄えたエネルギーに頼ります[4]。
Ruf と Geiser の2015年の論文は、鳥43種・哺乳類171種の計214種を比べました。休眠の深さと長さは、なだらかにつながるのではなく、日内休眠と冬眠の2つのグループに分かれました。体重30gの平均的な動物で比べると、冬眠のほうが、最長の休眠時間は30倍以上長く、最低体温は約13℃低くなります[4]。
休眠中のいちばん低い代謝は、じっと休んでいるときの最低限のエネルギー(基礎代謝)の、平均で約35%(日内休眠の種)と約6%(冬眠の種)でした[4]。日内休眠でも使うエネルギーは3分の1ほど、冬眠ではその10分の1もありません。これは基礎代謝を基準にした値で、あとの章に出てくる「1時間あたりの節約率」とは別の指標です。
2人は、入り口と出口を決める仕組みも違うと論じています。日内休眠は体内時計が決めていて、冬眠はそうではないらしい、という見方です[4]。冬眠のくわしい話は、冬眠のふしぎのメモにあります。
Ruf と Geiser(2015)の総説は、休眠を「24時間未満で、その後も採餌を続ける日内休眠」と、「数日〜数週間続く休眠である冬眠」に分けた[4]。日内休眠を「短い冬眠」「浅い冬眠」とだけ呼ぶのは正確でない。鳥43種・哺乳類171種の計214種の解析で、両者は連続ではなく、別のグループになったからだ。
体重30 gの平均的な動物で比べると、冬眠は最長の休眠時間が30倍以上長く、最低体温は約13℃低い。休眠中のいちばん低い代謝は、基礎代謝比で、日内休眠の種が平均約35%、冬眠の種が約6%だった(どちらも種ごとの平均値)[4]。この「基礎代謝比」は、あとの章の「通常の代謝に比べた節約率」とは基準が違うので、数字をそのまま並べてはいけない。
休眠する恒温動物は総じて小さく、冬眠する種は日内休眠の種より重い。分布の平均緯度も、冬眠の種が約35度、日内休眠の種が約25度と高い(平均の差であり、日内休眠が暖かい地方にしかないという意味ではない)[4]。
両者の最大の違いとして著者らが挙げるのは、休眠に入る・出るタイミングの制御だ。日内休眠では体内時計(概日時計)が決めるが、冬眠では、少なくともそうは見えない。原文は「そう論じることができる」という控えめな言い方で、著者らの見解にとどまる[4]。冬眠の側の話は、冬眠のふしぎのメモが詳しい。
4. どうやって 体を ひやすの?
4. 熱をつくるのをやめると、体は冷えていく
4. 休眠に入る仕組み ── 熱産生をやめる段階と、温度による代謝の低下
おふろの おゆを、ずっと おいだきして あたたかく して いる と しましょう。おいだきを やめると、おゆは だんだん さめます。ハチドリも、これに にて います。
ふだんの ハチドリは、体を ふるわせて ねつを つくり、あたたかく して います。トーパーの ときは、その ねつを つくるのを やめる ようです。ブラジルの ハチドリ 6しゅるいを はかった けんきゅうで わかりました[2]。
ただし ほんとうは、おふろと ちがう ところが あります。おゆは さめても、おゆの なかみは かわりません。でも 生きものの 体は、ひえると、体の なかの はたらきが ゆっくりに なります。だから ひえた だけで、エネルギーを つかう りょうが ぐっと へります[5]。
そのまま ひえつづけるわけでは ありません。まわりが もっと さむく なると、ハチドリは また ねつを つくって、これ いじょう ひえない ように まもります[2]。おふろが ぬるく なりすぎると、また おいだきが はじまるのと にて います。
人が まねを しては いけません。人の 体は、体温が 数℃ さがるだけで、きけんな「低体温症」に なる ことが あります[6]。
体を冷やすには、どうすればいいのでしょうか。ブラジルのハチドリ6種で、休眠に入るときの代謝を測った研究があります[2]。代謝は2段階で下がりました。最初は、体を震わせて熱を作るのをやめて、基礎代謝の高さまで一気に下がります。次に、体温が下がるにつれて、ゆっくり下がります。
この研究は、調べた種では、代謝を積極的に抑えなくても、体温が下がるだけで説明できると結論しました[2]。体温が下がると、体の中の化学反応が遅くなるからです。毎日休眠する種は、代謝を下げるのを主に体温の低下に頼り、冬眠する種は、代謝そのものを抑える仕組みも大きく使うとされます[5]。
お風呂を追いだきで温め続けているところを想像してください。追いだきをやめれば、お湯は自然に冷めます。ハチドリの「熱を作るのをやめる」段階は、これに似ています。ただし本当は、お湯は冷めても中身は変わりませんが、体は冷えると中の反応そのものが遅くなります。
休眠中も、体は何もしていないわけではありません。周りがさらに冷えこむと、ハチドリは代謝を上げ、ときには基礎代謝より高くして、体温の下限を守ります[2]。なお、人が真似できる話ではありません。人の体温が数℃下がると低体温症になり、命にかかわります[6]。
ブラジルのハチドリ6種で休眠への入り方を測ると、代謝の落ち方は2段階だった。まず、寒さに対する熱産生(震え)をやめて、基礎代謝の水準まで急降下する。次に、体温が下がるにつれて、ゆっくり下がっていく[2]。著者らは、温度が10℃下がるごとに反応の速さが2.5分の1になるという仮定(Q10=2.5)の計算でこの後半の低下を説明でき、少なくとも調べた種では、積極的な代謝の抑制は要らないと結論した[2]。
これは種によって違う。Geiser(2004)の総説の要旨では、毎日休眠する種は、代謝の低下を主に体温の低下に頼り、冬眠する種は、代謝そのものの抑制にも大きく頼るとされる[5]。ハチドリの結果は、前者の見方と合っている。ただし「ハチドリはスイッチを切るだけ」と単純化するのは、正しくない。
休眠中も、体温の下限は守られている。周囲がさらに冷えこむと、ハチドリは代謝を再び上げ、ときには基礎代謝を超える値まで上げる(調節された休眠)[2]。冷えすぎを避ける仕組みは、眠っている間も働いている。
人の体温が数℃下がると、低体温症になり、命にかかわることがある。動物は、この体温調節の仕組みを自分で回避できる。特別な能力であり、人が真似できる話ではない[6]。
5. あさは、どうやって おきるの?
5. 朝の目覚めの出費と、節約は「長さ」で決まること
5. 目覚めの出費 ── ホバリング並みの酸素消費と、節約を左右する休眠の長さ
あさに なると、ハチドリは 体を あたためて おきます。筋肉を ぶるぶる ふるわせて あたためる と いわれます。このとき つかう エネルギーは、そらで とまった まま はねを うごかす ホバリングの ときと、ほとんど おなじ です[2]。
ねむって いる あいだの せつやくが 大きくても、おきる ときに たくさん つかうのです。それでも、8しゅるいの ハチドリを そとで はかった けんきゅうでは、トーパーの あいだ、ふつうより エネルギーが へいきんで 8わりぐらい へって いました[7]。
おもしろい ことが あります。ひとばんの エネルギーの ぜんぶの りょうは、どこまで ひえたか より、ひえて いた 時間が どれだけ 長かったかの ほうが、大きく かんけい して いました[7]。アンデスの ハチドリでも、長く トーパーを した ハチドリほど、ひとばんで へる 体の おもさが すくなく なりました[1]。
体を冷やして眠るのは、いいことずくめではありません。朝、体を温め直すときにも、大きなエネルギーが必要です。ブラジルのハチドリの測定では、目覚めるときの酸素消費量の最大値は、ホバリング飛行中に測った値とほとんど同じ高さになりました[2]。
それでも、差し引きでは大きな得です。8種のハチドリを野外で測った研究では、休眠中は、ふつうの代謝より1時間あたり65〜92%、平均で約82%エネルギーを節約できました。しかも、夜の総エネルギーを左右したのは、休眠の深さより、休眠していた長さでした[7]。アンデスの調査でも、長く休眠した個体ほど、一晩の体重の減りが小さくなりました[1]。
冬眠にも、似た出費があります。北アメリカの洞窟で冬を越す小型のコウモリ(英名 little brown bat)22匹を追った調査では、1回の休眠は平均13.1日続きました。目覚めている時間はごく短いのに、その目覚めが、冬に使うエネルギーの約65%を占めていました[8]。長く眠るぶん、目覚めの出費も大きくなります。日内休眠では、その出費を毎日、1回ぶんずつ払うことになります。
目覚めるときにも、エネルギーを大量に使う。Bech らの測定では、目覚めるときの酸素消費量の最大値は、ホバリング飛行中の値とほぼ区別がつかない高さになった。しかもそのときの体温は32〜35℃で、飛んでいるとき(40℃超)より低い[2]。体を温めるだけで、飛ぶのと同じ規模の出費がいる。
それでも節約は大きい。Shankar らが野外で8種を測った結果(査読前の版〔bioRxiv〕の要旨による)では、休眠中は通常の代謝に比べて1時間あたり65〜92%のエネルギーを節約でき、平均は約82%だった。夜の総消費エネルギーには、体温の深さより、休眠していた時間の長さのほうが大きく効いた[7]。アンデスの調査でも、一晩の体重の減りは、最低体温と休眠の長さの両方と負の相関があり、長く冷えた個体ほど減りが小さかった[1]。
冬眠の側から見ると、対比がはっきりする。マニトバの洞窟で越冬する little brown bat 22匹の追跡では、休眠1回の長さは平均13.1日(6分〜48日超)で、目覚めはごく短いのに、冬のエネルギーの64.6%を占めた[8]。冬眠は長く眠るぶん起きるときの出費が大きく、日内休眠はその出費を1日ごとに払う形になる。
6. トーパーは、こまった ときだけ つかうの?
6. 「非常ブレーキ」から「貯金のための省エネ」へ
6. 使い方は季節で変わる ── 脂肪約5%の夜の緊急手段から、渡りの前の脂肪蓄積へ
ハチドリは、ごはんが なくなりそうな ときだけ、体を ひやすのでしょうか。アメリカの ルビーのどハチドリを しらべた けんきゅうでは、そうとも かぎりませんでした[3]。
なつの まんなかは、体の しぼうが 5パーセントぐらいまで へった 夜に、トーパーに 入りました。ごはんが たりない ときの「ひじょうブレーキ」です。
でも なつの おわり、とおくへ わたる じゅんびの ころは、体の 3ぶんの 1が しぼうの 夜でも、トーパーに 入りました。トーパーを たくさん した ハチドリほど、しぼうが ふえて いました[3]。ひやして エネルギーを ちょきん して いる みたいです。
ハチドリの休眠は、食べ物が足りなくなったときの「非常ブレーキ」なのでしょうか。ルビーのどハチドリを、捕らえて一晩ずつ実験室で調べた研究(Eberts ら、2021年)では、季節によって使い方が違いました[3]。
繁殖期は、体脂肪が約5.6%まで減った夜に休眠に入りました。夏の終わり、渡りに備える時期は、脂肪が約33%あっても休眠に入り、休眠の多い個体ほど脂肪が増えていました。渡りのはじめには、一晩の体温維持に必要な量の3〜5倍の脂肪を持つと報告されています[3]。
休眠の深さも、決まった1つではないようです。3種のハチドリを赤外線カメラで調べた研究では、すべての種が、深い休眠と浅い休眠の両方を使い、同じ夜に両方使うこともありました[9]。
ハチドリの休眠を「非常時のブレーキ」とだけ言うことはできない。Eberts らは、ルビーのどハチドリを捕獲して一晩ずつ実験室で調べた。休眠に入ったときの体脂肪は、繁殖期が約5.56%、渡りの期間が約32.94%。休眠が多いほど脂肪が増え、渡りの始まりには、一晩の体温維持に必要な量の3〜5倍の脂肪を持っていた[3]。繁殖期には緊急手段、渡りの準備では脂肪を増やすための省エネ、というふうに、使い道が変わって見える。
休眠の深さも選べる可能性がある。3種のハチドリを赤外線カメラで調べた研究では、すべての種が深い休眠と浅い休眠の両方を使い、同じ夜に両方を使う種もあった。深い休眠は、基礎代謝に対して平均約60%の節約だった(第5章の65〜92%とは基準が違う)。浅い休眠なら、深い休眠にともなうとされるリスクを減らせる、という見方がある[9]。
7. ほかの どうぶつも、まいにち ひやすの?
7. コウモリやマウスも、毎日体を冷やす
7. コウモリ・マウス・スンクス ── 小さな哺乳類の日内休眠
コウモリも、トーパーを よく つかいます。コウモリは 小さくて、ねつが にげやすく、たべものの りょうが かわりやすいからです[10]。
わたりを する コウモリは、ひるに やすむ あいだ ひやして、エネルギーを とっておきます[11]。
じっけんで つかう マウスも、ふだんは 体の おんどを たもちます。でも、ごはんを あげない ときは、体の おんどを 30℃より したに さげる トーパーに 入る ことが ありました[13]。冬眠は しない マウスも、トーパーは する のです。冬眠の ふしぎの つづきの おはなしです。
ハチドリだけではありません。小さな哺乳類でも、日内休眠はよく使われます。コウモリは、体が小さく、熱が逃げやすく、餌(虫や果実、蜜)の量が変わりやすいので、休眠をよく使うとされます。1年中使う種も多く、季節で強さが変わる温帯の種は、冬眠もします[10]。
渡りの途中で休む北アメリカのコウモリ(英名 silver-haired bat)を調べた研究では、昼に休む間に休眠すると、体を温めたままにする場合に比べて、必要なエネルギーの8〜91%を節約できました。ばらつきは大きいものの、調べたすべての個体が休眠を使いました[11]。
実験用のマウスは、飼育室(約22℃)で自由に食べられると体温を保ち、寒くしても30℃を下回りません。ところが、絶食させると、体温が30℃を下回る日内休眠が起きます[13]。冬眠しないマウスが、毎日型の休眠はするのです。冬眠のふしぎで紹介した、冬眠に似た状態を作る研究とは別の話です。これは実験室のマウスの結果で、野外のネズミにそのまま当てはめることはできません。
コウモリについて、Stawski らは要旨で、小さく、熱が逃げやすく、餌が不安定なため、多くの種が休眠を使うと述べる。1年中使う種も多く、季節で強さが変わる温帯の種は冬眠もする[10]。McGuire らは、渡りの途中の silver-haired bat が昼に休眠し、体温を保つ場合に比べて8〜91%のエネルギーを節約したと報告した。休眠中の皮膚温は、最低で気温より2.6±0.4℃高いだけで、すべての個体が休眠を使った。節約率は個体・日で大きくばらつく[11]。渡りの途中では、休眠が飛ぶためのエネルギーの節約に使われている。
体温を測るだけでは、休眠を見落とすこともある。パナマの低地にすむコウモリ Molossus molossus では、体温が32℃以上のままでも、心拍が毎分58〜75回まで下がる休眠状態があった[12]。暖かい場所では、体温が下がらないから休眠していない、とは限らない。
実験用のマウスは、飼育室(22±2℃)で自由に食べられれば体温を保ち、寒くしても30℃を下回らないが、絶食させると、一時的に30℃を下回る日内休眠が起きる[13]。Hrvatin らの研究では、この絶食で起きる休眠で、代謝が大きく下がり、体温は最低20℃ほどになる。視床下部の視索前野の神経細胞が入る・出るタイミングを決めており、すでに休眠を経験した神経細胞を再び刺激すると、食べている個体でも休眠状態になった[14]。冬眠のふしぎで扱った、低代謝が数日続く冬眠様状態を作る神経(Qニューロン)とは、別の研究である。
日本の研究室では、スンクス(ジャコウネズミ。ネズミの仲間ではなくトガリネズミ科で、体重約30〜70 g)が使われる。室温を20℃にすると、4日に約3回、8〜16℃では約5回、体温が30℃以下になる日内休眠をする。一度寒さを経験した個体は、24℃に戻しても休眠しやすくなり、総説はこれを、寒さの経験が、その後の休眠の起こりやすさに影響する可能性として示唆している[13]。同じ総説には、日内休眠中のマウスは触れるなどの刺激で動き出せること、最低体温は冬眠時より高く低体温は数時間続くこと、アカネズミやハツカネズミなどが日内休眠を行うとされることも書かれている(アカネズミは総説が引く文献による記述)[13]。実験室の飼育個体の結果であり、野外の動物の一般論ではない。
8. 何しゅう間も うごかない とりが いる?
8. 日内休眠と冬眠のあいだにいる鳥、プアーウィルヨタカ
8. 冬眠との境目 ── プアーウィルヨタカと、45日不活発だった1羽
アメリカに いる プアーウィルヨタカという とりは、トーパーより ずっと 長く、なん日も じっと して いる ことが あります。ひかげに おいた 7わを しらべた けんきゅうでは、ひとつの ねむりが へいきんで 5日ぐらい つづきました[16]。トーパーと 冬眠の あいだに いる ような とりです。
日内休眠と冬眠のあいだにいるような鳥がいます。北アメリカのプアーウィルヨタカ(common poorwill)は、鳥のなかでも、冬眠に近い長い休眠をする例として知られています。1946年にジェーガー(Jaeger)が、カリフォルニアの岩の割れ目で休眠中の個体を見つけ、1948年に The Condor という雑誌に「プアーウィルは冬眠するのか?」という題で報告しました[15]。
アリゾナの冬に、日光で自然に温まれないよう日陰を作った7羽を追った研究があります。3日以上続く休眠のあと、自分で体を温めました。休眠時間の平均は約122時間(約5日)でした。1羽は45日間にわたって不活発なままで、その間に自力で8回、体温を上げました[16]。日陰に置いた7羽の結果で、自然状態の平均ではありません。
日内休眠と冬眠の「つなぎ目」に見える鳥がいる。北アメリカのプアーウィルヨタカ(common poorwill)は、鳥のなかでも、冬眠に近い長い休眠をする例として知られる。1946年にジェーガー(E. Jaeger)がカリフォルニアの岩の割れ目で休眠中の個体を見つけ、1948年に The Condor 誌へ「Does the Poor-will “Hibernate”?」という題で報告した[15]。
Woods らは、アリゾナの冬のプアーウィルヨタカを追跡した。日光で自然に温まれないよう日陰を作った7羽は、連続3日以上の休眠のあとに、自分で体を温めた。休眠時間の平均は約122時間で、1羽は45日間にわたって不活発なままで、その間に自力で8回体温を上げた[16]。7羽を日陰に置いた実験の結果で、自然状態の平均ではない。それでも、日内休眠の「数時間」と冬眠の「数週間」のあいだに、こういう鳥がいることが分かる。
9. まだ わからない ことを さがして みよう
9. 自分でも調べてみたくなったら
9. 自分でも調べてみたくなったら
おなじ ハチドリなのに、3℃ちょっとまで ひやす ばしょと、12℃ぐらいで とめる ばしょが あります。この ちがいは、なにが きめて いるのでしょう。この きじだけでは、こたえを きめられません。
「しらべた ところ」の 1ばんは、むりょうで よめる けんきゅうです。おとなと いっしょに ひらいて、3.26 という すうじが どこに でて くるか、さがして みてください。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:ハチドリの休眠を調べた研究(アンデスの野外測定、代謝の測定、体脂肪、節約率)、日内休眠と冬眠を比べた総説、コウモリ・マウス・ヨタカの研究、日本語の総説を突き合わせて使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Wolf BO, et al. "Extreme and variable torpor among high-elevation Andean hummingbird species", Biology Letters 16:20200428 (2020). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7532710 (アンデスのハチドリの最低体温3.26℃、夜の気温、休眠の長さと体重の減りについて)
- Bech C, et al. "Metabolic aspects of torpor in hummingbirds", Acta Zoologica Sinica 52 (Suppl):397-400 (2006). https://www.mbl.ku.dk/jfsteffensen/Publications/ActaZoolSinica%202006%20CB.pdf (ハチドリの体重、熱帯の休眠の体温、休眠に入る仕組み、目覚めの酸素消費について)
- Eberts ER, Guglielmo CG, Welch KC. "Reversal of the adipostat control of torpor during migration in hummingbirds", eLife 10:e70062 (2021). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8719877/ (ルビーのどハチドリの一晩の脂肪の使用量と、季節による休眠の使い方について)
- Ruf T, Geiser F. "Daily torpor and hibernation in birds and mammals", Biological Reviews 90(3):891-926 (2015). https://zenodo.org/records/13523989 (日内休眠と冬眠の定義、214種の比較、体内時計による制御について。要旨による)
- Geiser F. "Metabolic rate and body temperature reduction during hibernation and daily torpor", Annual Review of Physiology 66:239-274 (2004). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14977403/ (日内休眠が主に体温の低下に頼ることについて。要旨による)
- Harvard Gazette "Neurons that control hibernation-like behavior are discovered" (2020). https://news.harvard.edu/gazette/story/2020/06/neurons-that-control-hibernation-like-behavior-are-discovered (人の体温が数℃下がると低体温症になることについて)
- Shankar A, et al. "Hummingbird torpor in context: duration, more than temperature, is the key to nighttime energy savings", J Avian Biol (2020)、bioRxiv版。 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/383679v2.full (休眠中の1時間あたりの節約率と、休眠の長さの効果について。要旨による)
- "Hibernation energetics of free-ranging little brown bats", Journal of Experimental Biology 215:2141 (2012). https://journals.biologists.com/jeb/article/215/12/2141/10822/Hibernation-energetics-of-free-ranging-little (冬眠中のコウモリの休眠1回の長さと、目覚めのエネルギー費について。要旨による)
- "A heterothermic spectrum in hummingbirds", Journal of Experimental Biology 225(2):jeb243208 (2022). https://journals.biologists.com/jeb/article/225/2/jeb243208/274119/A-heterothermic-spectrum-in-hummingbirds (深い休眠と浅い休眠の使い分けについて)
- Stawski C, Willis CKR, Geiser F. "The importance of temporal heterothermy in bats", Journal of Zoology 292:86-100 (2014). https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jzo.12105 (コウモリが休眠を使う理由について。要旨による)
- McGuire LP, Jonasson KA, Guglielmo CG. "Bats on a budget: torpor-assisted migration saves time and energy", PLoS ONE 9:e115724 (2014). https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0115724 (渡りの途中のコウモリの休眠と節約率について)
- O'Mara MT, et al. "Heart rate reveals torpor at high body temperatures in lowland tropical free-tailed bats", Royal Society Open Science 4:171359 (2017). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5750026/ (体温が高いままでも心拍が下がる休眠について)
- 堀井有希・椎名貴彦・志水泰武「実験室における哺乳動物の冬眠・休眠誘導」、低温科学 81:131-139 (2023)。 https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/repo/huscap/all/89103/14_p131-139_LT81.pdf (マウスの絶食による日内休眠、スンクスの休眠、日内休眠の特徴について)
- Hrvatin S, et al. "Neurons that regulate mouse torpor", Nature 583:115-121 (2020). https://www.nature.com/articles/s41586-020-2387-5 (マウスの休眠のタイミングを決める神経細胞について。要旨による)
- Jaeger EC. "Does the Poor-will “Hibernate”?", The Condor 50(1):45-46 (1948). https://academic.oup.com/condor/article/50/1/45/5252634 (プアーウィルヨタカの休眠の報告について)
- Woods CP, Czenze ZJ, Brigham RM. "The avian “hibernation” enigma: thermoregulatory patterns and roost choice of the common poorwill", Oecologia 189 (2019). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30460539/ (冬のプアーウィルヨタカの休眠時間について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 1章の低学年むけで、「『日内』は24時間より短いという意味」という言葉の説明が不自然だったため、「1日のうちで数時間ほど続く眠りのこと。何日も続く冬眠とは、続く時間が大きく違う」という説明に直した。
- 初版を公開。
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