1. はなが おわった あとも、すみれは なにを して いるの?
1. 春の花が散ったあと、スミレは何をしているのか
1. 春の花のあとにも続く種づくり ── 開放花と閉鎖花
すみれは、春に こい むらさき色の 花を さかせます[1]。みちばたや 草はらで 見かける、あの 花です。
花が おわると、すみれは やすむ のでしょうか。そうでは ありません。すみれは、花びらを ひらかない 花も つけます。ひらかない まま、つぼみの 中で たねの もとを つくるのです[2]。
この 花は 小さくて、みどり色で、目立ちません。だから 気づかない 人が 多いのです。けれど、すみれの 実の 多くは、この 花から できると いわれます[2]。
ある 大学の せつめいでは、10月の おわりごろにも、すみれは たねを みのらせて いました[3]。
スミレは春に、5〜15cmほどの花柄の先に、直径2cmほどの濃い紅紫色の花を咲かせます。日当たりのよい草地や道端、河川敷で見られる多年草です[1]。花の時期は、資料によって3〜5月と少しずれがあるので、ここでは春とだけ言っておきます。
この花が散ると、スミレの一年は終わりに近づく気がします。ところが、スミレは同じ株に、もう一種類の花をつけます。花びらが開かず、つぼみのまま自分の花粉で受粉する「閉鎖花」です。小さくて緑色で、目立ちません[2]。スミレの果実の多くは、じつはこの閉鎖花からできるそうです[2]。
しかも、この種づくりは長く続きます。武蔵大学の解説は、10月の末になってもスミレが種を実らせていると述べています[3]。ある中学生の観察でも、6〜10月末ごろまで閉鎖花をつけて種を弾き飛ばし続けたと報告されています[7]。
では、花びらを開かないで、どうやって実になるのでしょうか。
スミレは春、花柄の先に直径2cm程度の濃紅紫色の花を1個つける。日当たりのよい草地、道端、河川敷に普通に生える多年草で、花期は資料により3〜5月、4〜5月と幅があるため、ここでは春とする[1]。
ところが、種づくりは春の花で終わらない。同じ個体は、花弁や一部の雄しべが退化し、開かないまま自家受粉する小さな緑色の花、すなわち閉鎖花をつける。果実の多くはこの閉鎖花に由来する[2]。つまり、人が「スミレの花」と呼ぶ紫の花は、種づくりの一部にすぎない。スミレ属は、他家受粉の可能性がある開放花と、自家受粉だけの閉鎖花を同じ個体につけて、種子繁殖を行うとされる[4]。
種づくりの期間も長い。武蔵大学の解説は10月末でも種が実っていることを記し[3]、中学生の観察要旨は6〜10月末ごろまで閉鎖花をつけて種を弾き飛ばし続けたとする[7]。ただし後者は研究論文ではなく、1つの観察であり、日本産スミレ属は種が多いので、結果をスミレ全般に広げることは避けたい。
では、なぜ開かない花で実ができ、それは植物にとって何の得になるのか。
2. ひらかない 花で、どうして みが できるの?
2. 開かない花でなぜ実ができ、何の得があるのか
2. 自家受粉の利点と限界 ── 虫を待たない種づくり
ふつう、花の みが できる ためには、かふんが めしべに つく ひつようが あります。この ことを、じゅふんと いいます。
ひらかない 花は、つぼみの 中で、自分の かふんを 自分の めしべに つけます[2]。虫が 来るのを またなくて いいのです。
だから、天気が わるくて 虫が 来ない 日でも、たねを つくりやすいと いわれて います[4]。
この たねは、親と おなじ せいしつを もつと されます[4]。うごけない 草が、いま すんで いる 場所で そだった 親と にた 子を、ふやす ようなものです。
ふつうの花は、虫などが花粉を運んでくれないと実になりません。閉鎖花は、つぼみの中で自分の花粉が自分のめしべにつくので、虫を待つ必要がありません[2]。天気が悪くて虫が飛ばない日でも、種をつくりやすい、と高尾山の自然講座の記事は説明しています[4]。
得があるなら、損もあります。閉鎖花でできる種の遺伝子の組み合わせは、親と同じとされます[4]。つまり、親と違う性質の子は生まれにくくなります。
けれども、スミレのように動けない植物にとっては、親が生きている場所は、少なくとも1回は育つことができた場所です。同じ性質の子を大量に残すことは、その場所に合った種を増やす工夫の一つだと説明されます[4]。
一方、春の紫の花は、虫を呼んで花粉を運んでもらえます。同じ株が2つのやり方を使い分けているわけです[4]。では、できた実は、どうやって種を外へ出すのでしょうか。
他の株の花粉を受け取るには、虫が訪れる必要がある。閉鎖花は自家受粉するため、虫が来なくても種子をつくれる。多くの種子を生産できるとされる[4]。
その代償は、遺伝的な多様性である。閉鎖花の種子の遺伝子の組み合わせは、親と同じとされる[3][4]。環境が変わったとき、親と異なる性質の子がまじっていた方が有利になる場面は考えられる。そこで同じ株は、虫を介して他の株の花粉を受け取りうる開放花も併せて持ち、2通りの手段を使い分ける[4]。
閉鎖花の利点を、動けない植物が生息に適した場所を探す工夫の一つとして説明する資料もある[4]。ただし、閉鎖花の種が量や質で上回るとまで言える資料は、今回は見ていない。
こうして大量に作られた種は、次に実の中から外へ出る。その出し方が、この草のもう一つの見どころである。
3. みは どうやって たねを とばすの?
3. 熟した実は、種をどうやって弾き飛ばすのか
3. 蒴果の裂開と弾き飛ばし ── 乾燥だけでは飛ばない
できた 実は、はじめ 下を 向いて います[5]。たねが じゅくすと、上を 向いて、3つに わかれて ひらきます[5]。
中には、茶色の たねが たくさん はいって います[5]。1つぶは、2mmにも ならない 小ささです[1]。
ひらいた 実の 白っぽい ふねの ような みの かわは、そこの ほうから、じわじわ つぶれて いきます。すると、たねが ぱーんと とびだします。高尾山の せつめいでは、2〜5mほど とぶ そうです[4]。
ある 中学生の じっけんでは、かわいた だけでは たねは とびませんでした。ふねの ような みの かわが、そこから つぶれる ことで、たねを おし出して いました[4]。
スミレの果実は、はじめ下を向いています。熟すと上向きになり、3つに裂けて、褐色の種子が現れます。Wikipediaには、種子は30〜50個ほどとあります[5]。種子の長さは1.5mmほどで、資料によって少し差がありますが、2mmには届かない小ささです[1][5]。
裂けた実の、舟のような形をした莢は、底のほうから少しずつつぶれていきます。すると、中の種子が勢いよく押し出されて飛びます。高尾山の解説では、飛距離は約2〜5mとされています[4]。1.5mmの種が数メートル飛ぶというのは、体の大きさの千倍以上にあたります。計算すると、2mは1.5mmの約1300倍です。
この仕組みを調べた中学生の実験では、乾燥しただけでは種は飛ばず、舟形の莢が底からつぶれて種を押し出していることが確かめられたそうです[4]。ただし、飛ぶ距離は種類によって違い、2〜5mという数字はスミレ類の一つの目安にとどまります。
弾き飛ばされた種は、地面に落ちて終わりではありません。そこへ、小さな運び手がやってきます。
果実は蒴果で、はじめ下を向き、熟すと上を向いて3裂し、褐色の種子が露出する。Wikipediaは種子を30〜50個とする[5]。種子の大きさは約1.5mmとされるが、資料により1.5〜1.8mmと差がある[1][5]。
種子の放出は受動的な乾燥落下ではない。高尾山の自然講座の記事は、莢が底の方から徐々につぶれ、種子を勢いよく弾き飛ばすと述べ、飛距離を約2〜5mとする[4]。2mを1.5mmで割ると約1300倍だから、種子の長さに対しては、かなり遠くまで飛ぶ。
この仕組みを調べた中学生の実験では、乾燥だけでは種子は飛ばず、舟形の莢が底からつぶれて種子を押し出していた[4]。なお、飛距離は種によって異なると考えられ、2〜5mは目安であって、すべてのスミレ属に当てはまる値とは考えない方がよい。
だが、数メートルは植物にとって「遠く」とは言いにくい。弾き飛ばしで終わりなら、種は親株のまわりに落ちる。実際には、その先に別の運び手が関わるとされる。
4. とんだ たねを、アリが はこぶって ほんとう?
4. 飛んだ種を、アリはなぜ巣まで運ぶのか
4. アリ散布 ── エライオソームという報酬と、運搬後の種子
すみれの たねの はしには、白い 小さな かたまりが ついて います[6]。この かたまりは、あぶらなどを ふくんで いて、アリが すきな ものです[6]。
アリは、この かたまりを つけた まま、たねを すに はこびます[6]。たねの 大きさは、アリの 体の 半分より 大きい ことも あります[6]。大きな にもつを かついで いるのです。
すの 中で アリが 白い かたまりを たべおわると、たねは すの 外に 出されます[4]。たねは、もとの 草から はなれた ところに ちらばります。そこで め を 出す ことも あります。
アリは ごはんを はこんだ つもり です。すみれは、たねを はこんで もらった ことに なります。
スミレの種の端には、白いかたまりがついています。エライオソームと呼ばれ、アリが好む脂肪などを含むそうです[6]。アリはこれを目当てに、種ごと巣へ運び込みます[6]。種の大きさがアリの体の半分以上あるというのですから、かなりの荷物です[6]。
巣の中でアリはエライオソームを食べ、食べ終わった種は、巣の外に出されます[4]。その結果、種は元の株から離れた場所に散らばります[4]。そこで芽を出すこともあります。
アリにとっては食べ物の運搬、スミレにとっては種の引っ越しで、どちらにも都合のよい取引です。弾き飛ばしと、アリによる運搬。スミレの種は、二段構えで広がります。
ただし、どのアリでも運ぶとは限りません。では、そもそもなぜ、これほど手間をかけて種を散らすのでしょうか。
種子の端には、脂肪などを含む付属物、エライオソームがついている。アリはそれを求めて種子を巣へ運び込む。種子の大きさはアリの体の半分以上あるとされる[6]。巣の中でエライオソームが食べられたあとの種子は、巣の外に出され、結果として元の株から離れた場所に散らばる[4]。
この過程で、アリは餌を得て、植物は種子の運搬を得る。弾き飛ばしを第一段、アリによる運搬を第二段とする二段階の散布として、説明されることがある[4]。
ただし、アリの種類により反応は異なると考えられ、すべてのアリが運ぶわけではないと思われる。種子は巣の外に出され、元の株から離れた場所に散らばることがある。
では、手間をかけて種を散らす理由は何か。親のそばに落ちた種は、何に困るのか。
5. たねは、どうして とおくへ いく ひつようが あるの?
5. 種を散らさないと、何に困るのか
5. 散布の意味と発芽 ── 共倒れと、乾燥という壁
たねが いっせいに め を 出すと、きょうだいどうしで、日なたや 水を うばい あう ことに なります。みんなで だめに なる ことも あると されます[4]。
たねが ばらばらに ちらばる りゆうの 一つは、親の ちかくでの きょうそうを へらす ことだと いわれます。
ある 中学生は、たねを まいて めが 出るか しらべました。じゅくした たね 10こ のうち、7こが め を 出しました[7]。庭の 土では、32こ のうち 16こが め を 出しました[7]。
けれど、夏の 日ざしで すぐに かれて しまいました[7]。この 中学生の じっけんで、1か月 かわかした たねは、め を 出しませんでした[7]。
種が親のすぐそばに落ちると、一斉に芽生えた兄弟姉妹のあいだで、光や水の取り合いが起こり、共倒れになる場合もあるとされます[4]。種を散らす理由の一つとして、親の近くでの競争を減らすことが挙げられます。
ある中学生の実験では、閉鎖花のできたての種10個のうち7個が発芽しました。庭の土に蒔いた32個のうち16個は芽を出しましたが、夏の日差しですぐに干からびてしまいました[7]。割合にすると、前者は7割、後者はちょうど半分です。
この実験では、1か月ほど乾燥させておいた種は発芽しませんでした[7]。種が出た先で芽を出すには、乾きすぎないことが関わっていそうです。ただし、これは1人の自由研究の結果で、野外のスミレにそのまま当てはまると決めることはできません。
種を作り、飛ばし、運んでもらう。その一つ一つに、動けない草の工夫があります。この様子は、身近な場所で、自分の目でも見られます。
種子を散らす利点の一つは、競争の回避である。種子が一斉に芽生えると、兄弟姉妹のあいだで光や水をめぐる争いが起こり、共倒れになる場合がある[4]。弾き飛ばしとアリ散布は、この問題を和らげる手段として説明される。
発芽の条件について、中学生の自由研究が数字を報告している。閉鎖花の完熟種子10個のうち7個(70%)が発芽した。庭の土に蒔いた32個では16個(50%)が発芽したが、夏の日差しですぐに干からびた。さらに、1か月乾燥させた種子は発芽しなかった[7]。
この数字の意味は限られる。例数が少なく、1か所での結果であり、野外の一般則とは言えない。種によっても違うと考えられる。冬越しや、芽生えから開花までの年数についても、今回使えた資料には書かれていない。一方で、種子が乾燥に弱い可能性があり、散布先の環境が重要になりうる、という手がかりは得られる。
このように、スミレの種づくりは、閉鎖花による確実な生産、弾き飛ばしによる拡散、アリによる運搬が重なっている。次の章では、読者が自分で確かめる方法を挙げる。
6. すみれの 実を、さがして みよう
6. 近所で、スミレの実と種の旅を探す
6. 野外で確かめられること
春に すみれを 見つけたら、どこに あったか おぼえて おきましょう。花が おわった あとも、同じ 場所を ときどき 見に いきます。
まず、葉の 下に かくれて いる 小さな 実を さがします。上を 向いて 3つに わかれて いる 実が あれば、たねが とぶ ころの 実かも しれません。
草を ぬいたり、実を もぎとったり しないで、見るだけにします。道の 近くでは、車に 気を つけます。
春にスミレを見つけたら、場所を覚えておきます。花が終わってからも、ときどき同じ場所を見に行ってみましょう。
葉のかげに、緑色の細長い実が見つかるかもしれません。下向きなら熟す前、上向きに3つに裂けていれば、種が飛ぶころの実です。その株の近くの地面で、アリが何か運んでいないかも見られます。
草を抜いたり実を摘んだりせず、観察だけにします。道端や河川敷では、車や水辺に気をつけます。見つからないこともありますが、場所によってスミレの種類も違うので、見つけたものの様子をそのままノートに書いておくと、あとで比べられます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
スミレの花と実、種の飛ばし方、アリによる運搬、発芽実験は、次の資料による。
- 福岡県生物多様性「スミレ」 https://biodiversity.pref.fukuoka.lg.jp/futsushu/picturebook/sumire.html (花の形・生育場所・種子の大きさ)
- コトバンク(世界大百科事典ほか)「スミレ」 https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%83%AC-717616 (閉鎖花と自家受粉)
- 武蔵大学「スミレの閉鎖花」 https://www.musashi.ac.jp/seminar_blog/lasec/20121102_03.html (10月末でも種ができること・閉鎖花の種の遺伝子)
- 高尾山 自然講座「スミレ」 https://mttakaomagazine.com/blog/19882 (閉鎖花の利点・弾き飛ばし・アリ散布・共倒れ)
- Wikipedia「スミレ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%83%AC (果実の向き・裂け方・種子の数)
- 武蔵大学「スミレの種はアリ散布」 https://www.musashi.ac.jp/seminar_blog/lasec/20130702_04.html (エライオソームとアリ)
- しずおか環境コンクール「スミレの繁殖戦略」(中学生の観察・実験の要旨) https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=649 (閉鎖花の期間・発芽実験。研究論文ではない)
なおした ところ
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