1. にくも たべる のに、にくは すこし?
1. 「肉も食べる」はずが、胃の中は植物が中心だった
1. 胃内容調査が示す植物質中心の食性 ── 動物質は最大4.3%
いのししは、雑食です。キノコや タケノコ、やまいも、くりの 実のほか、ミミズや カニ、カエルも たべます[4]。
では、胃の 中には、なにが どれだけ はいって いるのでしょう。島根県で つかまえた 294とうの いのししの 胃を、きせつごとに しらべた ひとたちが います[1]。
わかった ことは、しょくぶつが ほとんどの きせつで おおい こと。どうぶつは、いちばん おおい なつでも、胃の 中身の 100こに わけた うちの 4こ ほどでした[1]。
ただし、これは 島根県の 1つの ちいきの、1ねん ぶんの しらべです。ほかの ところでも ぜんぶ おなじとは かぎりません。
雑食というのは、植物も動物も食べるという意味です。百科事典には、イノシシの食べ物として、キノコ、タケノコ、ユリの根、ヤマイモ、クリ・カシ・シイの実のほか、ミミズ、カニ、カエル、死んだ動物の肉まで並んでいます[4]。メニューはとても広いのです。
それなら、胃の中は何でいっぱいなのでしょうか。1998年4月から1999年3月に島根県の石見地方(浜田市が中心)で捕獲された294頭の胃を、季節ごとに調べた研究があります[1]。
結果は意外なほど植物に偏っていました。植物質は季節を問わず多く、動物質は、最も多い7〜9月でも、胃の中身に占める割合(占有率)が4.3%でした[1]。中身を100に分けたとき、動物質は4つ分ほどという計算です。
この数字は、1つの地域の1年間の調査です。世界の研究をまとめた報告でも、食べ物の約90%は植物質とされますが、測り方は研究ごとに違うので、目安として受け取るのがよさそうです[3]。では、その植物の中身は、1年を通して同じなのでしょうか。
雑食性のイノシシは、百科事典の記述でも、キノコ・タケノコ・ユリの根・ヤマイモ・クリ、カシ、シイの実などの植物質に加え、ミミズ、カニ、カエルなどの動物質、さらに死んだ動物の肉まで食べるとされる[4]。食べ物の幅は広い。それでは、実際の胃の中は何でできているのか。
小寺ほか(2013)は、1998年4月〜1999年3月に島根県石見地方(浜田市中心)で捕獲された294頭の胃内容を、季節別に分析した[1]。その結果、植物質は占有率(胃の中身に占める量の割合)も出現頻度(何頭の胃から見つかったか)も季節を問わず高く、動物質は最も高い7〜9月でも占有率4.3%にとどまった[1]。
ただし、この値は1地域・1年の結果である。世界の食性研究をまとめた総説は、植物質が食べ物の約90%を占めるとし、動物質と菌類の割合は、人が持ちこんだ地域(外来の生息域)のほうが大きいと整理している[3]。このため「植物が主」という大づかみな傾向は支えられるが、数値は測定方法(体積・乾燥重量・出現頻度)と場所で変わり、直接並べて比べるものではない。そこで次に問うべきは、植物質の中身が季節でどう入れかわるかである。
2. はるの ごはんは、タケノコ
2. 春の主食は、地面の下のタケノコ
2. 5〜6月はタケ類の地下部が57.9% ── 春の主食をどう読むか
はるの たけやぶを おもいうかべて ください。じめんから、タケノコが でて きます。
島根県の しらべでは、5月から 6月、いのししの 胃の 中身の 6わりちかくが、たけの なかまの、じめんの 下の ぶぶんでした[1]。
のうけんきこうの しりょうにも、「はるの しゅしょくは タケノコ」と あります。3月から 6月は、じめんの 下の ねや、いものような ものが 胃の 中身の 半ぶん いじょう、おおい 月は 8わりに なりました[2]。
はるの あいだ、いのししは タケノコを たくさん たべて いるようです。では、タケノコの きせつが おわったら、なにを たべるのでしょう。
春の竹やぶでは、地面から顔を出したタケノコが、イノシシの大きな食べ物になります。島根県の調査では、5〜6月の胃の中身のうち、タケ類の地下部が57.9%を占めていました[1]。胃のほぼ6割です。
農研機構の鳥獣害対策の資料にも「春の主食はタケノコ」という見出しがあります。胃の中身に占める根・塊茎(地面の下にあるいもなどの部分)は、3〜6月に全体の50%以上、多い月には80%に達し、この時期のそれはほとんどがタケノコだったと説明されています[2]。
2つの数字は、調べた場所も時期の区切りも違うので、同じ土俵で比べることはできません。それでも、春にタケノコが胃の大きな部分を占めるという点では、そろっています。
では、タケノコの季節が過ぎたあと、イノシシは何を食べているのでしょうか。
春の食べ物は、どの植物なのか。小寺ほかの調査では、第I期(5〜6月)の胃内容のうち、タケ類の地下部が占有率57.9%と最も大きな割合を占めた[1]。胃のほぼ6割が、地面の下の部分だったことになる。
これを別の資料で裏づけられるか。農研機構の資料は、胃内容に占める根・塊茎の割合が3〜6月に全食物の50%以上、多い月では80%に達し、この時期の根・塊茎はほとんどがタケノコだったとして、見出しを「春の主食はタケノコ」としている[2]。
ただし、両者は区切りが違う。小寺ほかは5〜6月の1期間、農研機構は3〜6月の月別であり、調査地や年も同じではない。農研機構の資料は、ここで使える形では調査地・年が読み取れないため、数字を重ねて平均することはせず、「春にはタケ類の地下部が胃の中身の過半を占める時期がある」という点だけで読むのが妥当だろう。
この春の主役は、いつまで続くのか。次は、調査の第II期以降の入れかわりを見る。
3. なつと ふゆは、なにを たべる?
3. 夏は葉と稲、秋から冬はいもとドングリ
3. 葉・茎から塊茎・堅果類へ ── 夏と秋冬で主役が入れかわる
なつ(7月〜9月)に なると、いのししは、くさや きの はっぱ、くき、それに いねを たべて いました。はっぱや くきが 3わりちかく、いねは 1わりに たりない くらいです[1]。
あきから ふゆ(10月〜3月)は、また じめんの 下の いものような ものが、おおく なります。10月から 12月は、4わりちかくが それでした。そこに、ドングリなどの かたい 木の 実が 2わり ほど くわわります[1]。
はるは タケノコ、なつは はっぱ、あきと ふゆは いもと ドングリ。たべものが、きせつに あわせて かわる のです。
ところで、じめんの 下の たべものを、いのししは どうやって みつけるのでしょう。
7〜9月になると、主役は交代します。胃の中身は、双子葉植物(芽を出すとき最初の葉が2枚出る植物)など葉や茎が27.6%、水稲(イネ)が6.8%、果実が3.6%でした[1]。地面の下の食べ物は、この時期はあまり目立ちません。
秋が来ると、食卓はまた地面の下にもどります。10〜12月は塊茎が43.3%、堅果類(ドングリのような堅い実)が20.0%で、あわせて6割を超えます。1〜3月も塊茎が21.3%、堅果類が20.4%でした[1]。
こうして並べると、春はタケノコ、夏は葉や稲、秋冬はいもとドングリ類というように、1年のうちで食べ物の主役が入れかわっています。食べ物を、季節ごとに見つかる場所で選んでいるように見えます。
ただ、堅果類はドングリだけとは限りません。数字は年や場所でも変わります。では、土の下にかくれた塊茎を、イノシシはどうやって手に入れているのでしょうか。
春の主役は、夏には何に代わるのか。第II期(7〜9月)の占有率は、双子葉植物などの葉・茎が27.6%、水稲が6.8%、果実が3.6%で、地下部は春ほど目立たない[1]。地上の植物が増える季節に、胃の中身も地上へ移ったのである。
ところが秋以降は、再び地下部に戻る。第III期(10〜12月)は塊茎が43.3%、堅果類が20.0%、第IV期(1〜3月)は塊茎21.3%、堅果類20.4%だった[1]。10〜12月は2つで63.3%、1〜3月は41.7%を占める計算である。堅果類は、いわゆるドングリに限らず堅い殻の実を広く指す語で、数字を「ドングリの割合」と読むことはできない。
つまり、年間を通じて1種類の食べ物に頼るのではなく、時期ごとに量が増える植物へ軸足を移している。ただし、占有率は胃の中身の割合であって、栄養の割合ではない。また調査地は一地域で、年によって木の実の実り方も異なるため、同じ月に別の場所で同じ値になるとは限らない。
では、地中の塊茎やタケノコの地下部を、イノシシはどう掘り当てるのか。体のつくりを見る。
4. じめんの 下の たべものを、どう さがす?
4. 地面の下の食べ物を、鼻で掘り出す
4. 吻鼻骨と掘り起こし ── 地中の食べ物に届く体のつくり
いのししの はなは、ながくて、ちから づよく できて います。はなの ほねは ほそ ながく、先に、「ふんびこつ」と いう ほねが はったつして います[4]。
この はなの おかげで、じめんの 中の えさを ほり出すのに むいて いると いわれます[4]。ちばけんの しりょうでも、いのししは じめんを ほりおこして ドングリや タケノコを さがすと 書かれて います[5]。
たいじゅうは 40キロから 200キロほど。日本の いのししは すこし 小さめで、いちばん おおきくても 190キロくらいです[4]。
じめんの 下には、みえない ごはんが ねむって います。それを はなで ほり出す のが、いのししの くらしです。
地面の下の食べ物は、見ただけでは分かりません。イノシシは、掘って探します。千葉県の資料は、イノシシが地表や地中を掘り起こして、ドングリ、タケノコ、クズの根、山芋などを探して食べると説明しています[5]。
それを支えているのが鼻のつくりです。日本大百科全書によると、イノシシの鼻の骨は細長く、先に吻鼻骨という骨が発達していて、地中の餌を掘り出すのに適しています[4]。道具を持たない動物が、鼻先を道具のように使って土をひらく、と考えると分かりやすいかもしれません。
体の大きさも、掘る暮らしに合っているのかもしれません。体重は40〜200kgで、日本産はやや小型の最大約190kgとされます[4]。ただし、体の大きさと掘る力の関係は、ここで使った資料には書かれていません。
鼻のおかげで、イノシシは地面の下という広い食べ物の場所を手に入れました。では、その土の中で、ほかに何に出会うのでしょうか。
地面の下の塊茎やタケノコを、見えないまま見つけて取り出すには、何が必要か。千葉県の資料は、イノシシが地表や地中を掘り起こして、ドングリ、タケノコ、クズの根、山芋などを探して食べると述べる[5]。
体の側から見ると、日本大百科全書は、鼻骨が細長く、その先に吻鼻骨が発達するので地中の餌を掘り出すのに適する、と書く[4]。鼻の骨は、地中の餌を掘り出すのに適したつくりだと説明されている。ただし、においで地中の餌を探すという嗅覚の働きは、ここで使った資料には書かれていないので、掘る行動と鼻の骨のつながりのみを根拠とする。
体重は40〜200kg、日本産はやや小型で最大約190kgとされる[4]。体の大きさと掘る力の関係を述べた資料はここにはなく、数字は体の規模を知るための補足にとどめる。
こうして季節の主役を手に入れる仕組みが分かると、残った疑問は、掘り起こす土の中で出会うもう一つの食べ物、つまり動物質の位置づけである。
5. どうぶつは、どのくらい たべる?
5. ミミズやカエルも食べる ── 量は少なくても、メニューに入っている
5. 動物質の位置づけ ── 少量でも献立に入る理由を、資料から読む
それでも、いのししは どうぶつも たべます。千葉けんの しりょうには、こん虫、ミミズ、タニシ、カエル、ザリガニ、ヘビなどが のって います[5]。しまねけんの しりょうには、サワガニや カエル、は虫るいが あります[7]。
とっとりけんの しりょうは、「雑食で、しょくぶつの ねや くき、ドングリ、こん虫、ミミズなどを たべる」と 書いて います[6]。
つちを ほれば、ミミズや 虫に であいます。りょうは すくなくても、こうした いきものも、ちゃんと こんだてに はいって いるのです。
島根県では、動物質は最も多い時期でも胃の中身の4.3%でした。でも、ゼロではありません。千葉県の資料は、昆虫、ミミズ、タニシ、カエル、ザリガニ、ヘビなどの名前を並べています[5]。島根県の別の資料にも、サワガニ、カエル、は虫類、昆虫類が出てきます[7]。
鳥取県中部総合事務所の資料は、イノシシを雑食とし、植物の根や茎、ドングリ、昆虫、ミミズなどを食べると述べています[6]。土を掘れば、ミミズや虫に出会います。量は少なくても、動物質も献立の一部なのです。
場所によっても割合は変わるようです。先ほどの総説は、人が持ちこんだ地域では、動物質と菌類の割合のほうが大きいと整理しています[3]。イノシシは、その土地にある食べ物に合わせて、中身を変えられる動物だと言えそうです。
胃の中身から見えてくるのは、「何でも食べる」というより、「季節と場所で手に入るものを、うまく選んでいる」暮らしです。
動物質は、少量でも献立から外れないのか。千葉県の資料は昆虫、ミミズ、タニシ、カエル、ザリガニ、ヘビなど[5]、島根県の別の資料はサワガニ、カエル、は虫類、昆虫類を挙げる[7]。鳥取県中部総合事務所も、植物の根や茎、ドングリのほか昆虫、ミミズを食べる雑食と述べる[6]。
これらは食べる種類を示す記述であり、量を示す数値は小寺ほかの調査(最大4.3%)が受け持っている[1]。だから「種類は多いが、量は植物質に比べて少ない」と整理できる。ここで、量と種類を混同しないことが読み取りの要点になる。
さらに、場所による差の可能性がある。総説は、植物質が約90%という点は在来地・外来地を通じて共通するが、動物質と菌類の割合は外来の生息域のほうが大きいと整理した[3]。同じイノシシでも、手に入る食べ物の違いによって食性が変わり得る、という読み方ができる。
稲や芋類を好んで食べることは知られるが、ここでは簡単に触れるにとどめる。この記事が示すのは、胃の中身の数字から、季節と場所で選ぶ柔軟な食性が読み取れる、ということである。
6. もっと しりたく なったら
6. 胃の中身の数字から、次に調べたくなること
6. 次に読みたい資料と、自分で試せる見方
きょう できること:きょうの ごはんを おもいだして、しょくぶつ(やさい・こめ・くだもの)と、どうぶつ(にく・さかな・たまご)に わけて みましょう。いのししの 胃の 中身と くらべると、どちらが おおいでしょうか。
おでかけで:やまや たけやぶの ちかくで、じめんが ほりかえされて いる ところを みつけたら、ちかづかないで とおくから みるだけに します。おとなに おしえましょう。
しりたい とき:すんでいる けんの ホームページで、「いのしし」の しりょうを さがして みましょう。
今日できること
今日食べたものを思い出して、植物由来(野菜・米・果物など)と動物由来(肉・魚・卵など)に分けて、数を数えてみましょう。イノシシの調査は、胃の中身をこうして「何割か」に分けて数えたものです。自分のごはんはどちらが多いでしょうか。
出かけてできること
山や竹やぶの近くで、地面が掘り返されているのを見かけたら、近づきすぎず、遠くから見るだけにしましょう。掘ったのがイノシシとは限りませんが、大きな野生動物に出会う可能性があるので、見つけたら大人に伝えてください。
公式情報
住んでいる都道府県の「鳥獣対策」や「イノシシ」の資料は、地域のイノシシの暮らしを知る手がかりになります。論文の抄録は、J-STAGEで公開されているものがあります[1]。
手元でできる見方
イノシシの調査にならって、自分の1日の食事が植物由来と動物由来のどちらが多いか、重さの目安で分けて見てみるのもおもしろい。ただし、これは食事の割合であって、胃の中身の占有率とは別のものである。
外で気をつけること
野外で掘り返された地面を見たら、近づかず遠くから確認するだけにする。掘った動物がイノシシとは限らず、野生動物との距離を保つことが大切である。
資料の読み方
小寺ほか(2013)の抄録はJ-STAGEで公開されている[1]。調査地・年・測り方が書かれているので、「占有率」と「出現頻度」の違いに注目するとよい。農研機構や都道府県の資料は、同じイノシシでも見出しの強さが資料ごとに違うため、複数を読み比べると気づくことが多い。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。数字は調査地・年・測り方で変わります。
- 小寺ほか「島根県石見地方におけるイノシシの胃内容物」『哺乳類科学』53(2)(2013)抄録 J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/53/2/53_279/_article/-char/ja/ (294頭の胃内容の季節別の占有率)
- 農研機構 鳥獣害対策資料 1-6 https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/chougai/wildlife/project/ino-HP/materials/1-6.pdf (春の主食はタケノコ、根・塊茎の割合)
- A review of wild boar Sus scrofa diet… Mammal Review 44(2) https://repositoriosdigitales.mincyt.gob.ar/vufind/Record/CONICETDig_002bab702fbf20f8858a9f7d3ffb6cc8 (世界の研究のまとめ。英語。要約をもとに記述)
- 日本大百科全書・世界大百科事典「イノシシ」コトバンク https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%82%B7 (食べ物の種類、鼻の骨、体重)
- 千葉県 イノシシ対策資料 https://www.pref.chiba.lg.jp/noushin/choujuu/yuugai/documents/240327inosisima3.pdf (掘り起こして探す食べ物の例)
- 鳥取県中部総合事務所 イノシシの資料 https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1375779.htm (雑食としての食べ物の例)
- 島根県 自然観察(哺乳類) https://www.pref.shimane.lg.jp/tourism/nature/shizen/shimane/sizennkansatu/senjoukei/senjo-honyu.html (動物質の食べ物の例)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。