1. きつねは、ねずみだけを たべるの?
1. キツネの食べ物は、ネズミだけではないのでしょうか
1. 主食はノネズミ類 ── ただし「ネズミ専門」ではない
きつねが なにを たべたかは、見ているだけでは わかりません。そこで、ほんしゅうの きつねの ふんを しらべます[2]。
ふんの なかからは、のねずみや のうさぎが でて きます。木の みや こくもつも たべて いる ことが わかります。
きたきつねで いちばん だいじなのは、のねずみの なかまです。ほかにも、うさぎ、とり、さかな、むし、くだものを たべます[1]。人の いえの のこりものを たべる ことも あります。
こたえは、「ねずみが ちゅうしんで、ほかにも いろいろ」です。では、いつも おなじ ものを たべて いるのでしょうか。
キツネが何を食べたのかは、食べているところを見ていても、なかなか分かりません。そこで手がかりになるのがフンです。本州以南のキツネのフンを調べると、ノネズミやノウサギなどの小動物のほか、木の実や穀類を食べていることが分かります[2]。
北海道のキタキツネでは、中心になる食べ物はノネズミの仲間です。ほかにウサギ、浜に打ち上げられた魚、鳥、爬虫類、昆虫、果実、農作物、人家の残飯なども食べるとされます[1]。
題名への答えを先に書くと、「ネズミが中心で、ほかにも驚くほど幅広く食べる」です。ここで気になるのは、これが一年中同じなのかどうかです。
キツネが何を食べているかは、観察だけでは決めにくい。そのため糞を集めて中身を調べる方法がとられる。本州以南のキツネでも、糞からはノネズミやノウサギなどの小動物のほか、木の実や穀類が確認されると、島根県の自然観察の解説は述べる[2]。
北海道のキタキツネについて、国立環境研究所の侵入生物データベースは、ノネズミ類を主要な食物とし、そのほかウサギ、浜や川辺に打ち上げられた魚類、鳥類、爬虫類、昆虫類、果実や農作物、人家の残飯などを挙げる[1]。つまり主食はあるが、それだけに頼る「ネズミ専門」ではない。
ここで注意したいのは、これが「食べる可能性のあるもの」の一覧であって、割合を示したものではないことだ。何が多く、何が少ないかは、次の問い、つまり季節や場所によってどう動くのかを見なければ分からない。
2. はると なつと あきで、たべものは かわるの?
2. 春と夏と秋で、キツネの食卓はどう変わるのでしょうか
2. 知床の春夏秋 ── 食べ物は季節で入れかわる
きたきつねの すむ しれとこでは、こんな ふうに かわると、かんきょうしょうの 人が しょうかいして います[3]。
はるは、ねずみや、しんだ えぞしかを たべます。なつは、こうちゅうなどの むしです。あきは、こくわや やまぶどうの 木の みと、さけや ますです。
はるから あきまで、まるで べつの どうぶつの ごはんのようです。ただし、これは しれとこの 一れいです。ほかの ところが ぜんぶ おなじとは かぎりません。
では、ねずみは どうやって つかまえるのでしょう。
北海道の知床で、環境省の自然保護官事務所の職員が紹介している例があります[3]。春はネズミの仲間やエゾシカの死体、夏は甲虫などの昆虫、秋はコクワやヤマブドウなどの木の実、そしてサケやマスです。
同じキツネが、春には肉、夏には虫、秋には木の実と魚を食べているわけです。ずっと同じ物を探し回るより、その季節にいちばん手に入りやすいものを選んでいる、と読めます。
これは知床での一例で、全国共通の割合ではありません。冬については、この資料には書かれていません。ただ日本各地のアカギツネの食べ物を集めて比べた2022年の研究でも、哺乳類、シカなどの死体、鳥、無脊椎動物が食べ物に現れる頻度は、季節によって有意に変わっていました[4]。
季節で食べ物を替えるにしても、主食のネズミは、小さくて速く、草や雪の下にかくれます。キツネはそれをどうやって捕まえるのでしょうか。
季節ごとの食べ物の変化は、知床の例がよく紹介される。環境省の自然保護官事務所の職員の記事によれば、春はネズミ類とエゾシカの死体、夏は甲虫などの昆虫、秋はコクワ(サルナシの実)やヤマブドウなどの木の実とサケ・マスが挙げられている[3]。この記事に冬の記述はなく、一年を通した食卓までは言えない。
では、これは知床だけの現象か。Hisanoほか(2022)は、日本各地のアカギツネの食べ物の研究を集めて統計的に比べるメタ解析を行い、哺乳類・シカなどの死体・鳥・無脊椎動物が食べ物に出てくる頻度が、季節で有意に変わったと報告した[4]。複数地域を束ねても季節差が見えることから、知床の例は季節で食べ物が動く傾向の一例と読める。ただし「頻度」は食べ物に現れた回数の話で、食べた量の割合ではない。
食べ物の選び方が季節で動くなら、主食のネズミ類を捕る場面はどうなのか。そこで、狩りの瞬間そのものに目を移す。
3. くさや ゆきに かくれた ねずみを、どうやって ねらうの?
3. 草や雪にかくれたネズミを、キツネはどう狙うのでしょうか
3. 隠れた獲物への跳躍は北向きに偏る ── 地磁気仮説の位置づけ
くさや ゆきの したに かくれた ねずみは、目で みえません。それでも きつねは、たかく とびあがって、ねずみの うえに おりて きます。
チェコの 研究で、84とうの きつねが 592かい とんだ ところを しらべました。すると、ねずみが かくれて いる とき、うまく つかまえた とびかたは、きたの ほうへ むいた ものが おおかったのです[7]。
きたに むかって とんだ ときは、10かいのうち 7かいくらい つかまえました。ほかの むきでは、10かいのうち 2かいも つかまえられませんでした。
けんきゅうする 人は、きつねが じしゃくのような ちからを つかって、きょりを はかって いるのでは、と かんがえて います。でも、まだ ほんとうかどうかは きまって いません。
ネズミの仲間は、草むらや雪の下にひそんでいると、見えません。それでもキツネは、跳びかかってネズミを捕まえることがあります。この「ネズミ捕りの跳躍」を、チェコの野生のアカギツネ84頭、592回で調べた研究があります[7]。
草や雪で獲物が隠れている場面では、跳ぶ向きは北から北東寄りに偏りました。そして、ほぼ北向き(340〜40度)に跳んだときの成功率は72.5%、ほかの向きは18%に届きませんでした。その差は4倍以上です。
研究者は、キツネが地磁気を、獲物までの距離を測る手がかりにしているのではないか、という仮説を出しています。ただし、これは仮説で、仕組みが確定したわけではありません。チェコでの観察であって、日本のキツネで確かめた研究は、ここでは取り上げていません。
見えない獲物との距離を、キツネがどう測っているのか。まだ答えは出ていません。キツネが何を食べるか、という問いは、いつの間にか「どうやって捕るか」という問いに広がっています。次は、土地が変わると食べ物がどう変わるのかを見ます。
草や雪に隠れた獲物を、キツネはどう捕るのか。Červenýほか(2011)は、チェコの野生アカギツネ84頭が行った592回のネズミ捕りの跳躍を記録し、跳ぶ向きと成功の関係を調べた[7]。
結果は、獲物が見えない条件で、成功した攻撃が北に強く集まるというものだった。ほぼ北向き(340〜40度)の攻撃は成功率72.5%、それ以外の方向は18%未満である。差は4倍を超える。なお、この数字は「跳ぶ向きごとの成功しやすさ」であって、どの向きでも等しい回数を跳んだという意味ではない。
著者らは、地磁気を獲物までの距離を測る手がかりにする仮説を挙げた。距離感の補助に使うという着想だが、確定した仕組みではない。さらに、これはチェコでの観察である。雪の下の音でネズミを探すという話も、日本の出典では示せないので、ここでは扱わない。
それでも、この例は「何を食べるか」の問いが「どう見つけ、どう捕るか」の問いにつながることを示す。見えない獲物を捕る腕前に、跳ぶ向きという手がかりが関わっているかもしれない。ではキツネは、気候や高さが違う土地では、食べ物自体をどう変えているのか。
4. あたたかい ところや たかい やまでは、なにを たべるの?
4. 暖かい土地や高い山では、食べ物が変わるのでしょうか
4. 気温や標高が変わると、キツネの食べ物はどう変わるか
にほんの いろいろな ところの きつねを くらべた けんきゅうが あります[4]。あたたかい ところほど、けものを たべる ことは へって、むしを たべる ことが ふえます。
せかい じゅうの 217の けんきゅう、276の ばしょを あつめて くらべた ものも あります[5]。どこでも、ちいさな けものと むしが よく でて きます。たかい やまほど、ふんに むしと くだものが あらわれる ひんどが ふえます。
まるで、まわりに ある ものを じょうずに えらんで いるようです。
では、人が すむ ところの ちかくでは、どうなるのでしょう。
日本各地のアカギツネの食べ物を集めて比べた2022年の研究は、気温との関係も見つけました。年平均気温が高い地域ほど、食べ物に哺乳類が現れる頻度は下がり、無脊椎動物は上がります[4]。暖かいところでは、ネズミなどより昆虫が目立つ、という傾向です。
世界に目を向けると、217の研究、276の調査地点を集めた解析があります[5]。もっともよく食べ物に出てくるのは、小型の哺乳類と無脊椎動物でした。標高が高い場所ほど、無脊椎動物と果実が増えます。
どちらも「傾向」の話です。個々のキツネの好みや、食べ物の割合を示す数字ではありません。それでも、日本でも世界でも、キツネが手近な食べ物に合わせて食卓を変えていることは、読み取れます。
この解析は、もうひとつ手がかりを残しています。人の影響が強い地域ほど、鳥と果実が増え、大型の哺乳類が減るというのです[5]。人の暮らしは、キツネの食べ物にも関わります。
季節に加えて、土地の条件でも食べ物は変わる。Hisanoほか(2022)によれば、年平均気温が高い地域ほど、哺乳類が食べ物に出てくる頻度は有意に下がり、無脊椎動物は上がる[4]。この結果は各地の研究を集めた相関であり、気温が直接食べ物を決めると言い切るものではない。
世界規模では、217の研究・276地点を集めた解析がある。キツネの食べ物に最もよく現れるのは小型の哺乳類と無脊椎動物であり、標高が高いほど無脊椎動物と果実が増える[5]。ここでは件数と傾向だけを使う。
2つの解析が示すのは、「何でも食べる」というより、「その場で手に入りやすいものに食べ物を寄せていく」という柔軟さである。この柔軟さは、広い分布を支えると考えられる。ただし、これは食べ物の変化から読み取った推論である。
さらに、人の影響が強い地域では、鳥と果実が増えて大型哺乳類が減る[5]。日本でも、人口密度が高い地域ほど、人由来の食べ物の利用が増える[4]。人の暮らしが、キツネの食べ物の選択肢を変えている。
5. 人の たべものを あげては、どうして いけないの?
5. 人の食べ物を食べるキツネに、何が起きるのでしょうか
5. エキノコックスの循環と、キツネに餌を与えない理由
かんこうちでは、みちで かんこうきゃくに えさを ねだる きたきつねや、ごみを あさる きたきつねも います[6]。
でも、人が たべものを あげては いけません。きたきつねは、エキノコックスと いう 小さな むしを もって いる ことが あるからです[8]。
むしの たまごは、きつねの ふんに まじって でて きます。それを、人が 手や たべもの、みずを とおして 口に いれると、びょうきに なる ことが あります。
だから こうせいろうどうしょうは、きつねを 人の いえに ちかづけないよう、えさを あげないでと よびかけて います。きつねが わるいのでは ありません。きつねと 人が、はなれて くらす ための、やくそくです。
観光地では、路上で観光客に餌をねだったり、ゴミや残飯を食べたりするキタキツネもいます[6]。かわいらしい姿に、つい食べ物をあげたくなるかもしれません。
けれども厚生労働省は、日本ではキタキツネがエキノコックスの主な感染源だとして、感染源のキツネを人家に近づけないように、エサを与えないよう呼びかけています[8]。エキノコックスは寄生虫で、キツネのフンに虫卵が出ます。人はその卵を、手指や食べ物、水を介して口に入れると感染します。ネズミを食べて感染するのではありません。
この寄生虫は、キツネの小腸で育った成虫が卵を出し、ネズミが卵を食べると肝臓で幼虫になり、その感染したネズミをキツネが食べると、また成虫に育つ、という循環をしています[9]。キツネの駆除は根本の解決にならないとされ、駆虫薬を入れた餌を一部の地域で使う試みもあります。
キツネを悪者にする話ではありません。人の食べ物で人家に近づくほど、寄生虫の循環と人の暮らしが重なりやすくなる、という話です。野生のキツネには、野生の食べ物を。それが、キツネにも人にも安心な距離です。
人の食べ物に慣れたキツネは、観光地で路上の観光客に餌をねだったり、ゴミや残飯をあさったりする[6]。ここまでの章で見たとおり、キツネの食性は柔軟だ。その柔軟さが、人の食べ物という新しい選択肢にも向かう。
問題は、そこからエキノコックス症に結びつく点にある。厚生労働省によれば、日本ではキタキツネが主な感染源で、糞に出た虫卵を人が手指・食物・水を介して口に入れると感染する。そのため、感染源のキツネを人家に近づけないよう、エサを与えないことが呼びかけられている[8]。
この寄生虫の循環は、食べ物の話と直結している。キツネの小腸にいる成虫が卵を糞に出し、ネズミが卵を口にすると肝臓で幼虫になる。その感染ネズミをキツネが捕食すると、キツネの小腸で成虫に育つ[9]。つまり、キツネの主食がネズミであることが、この循環を回す一部になっている。人はネズミを食べて感染するのではなく、卵を口に入れて感染するので、混同しないようにしたい。
同じ北海道大学の記事は、キツネの駆除は根本的な解決にならず、駆虫薬入りの餌(ベイト)が一部の地域で使われていると説明する[9]。ここでは厚生労働省の呼びかけの範囲にとどめる。
要するに、餌を与えないのは、キツネを遠ざけるためではなく、人家と野生の食卓を分けておくための、いちばん手軽な方法である。
6. みぢかな どうぶつの 「きせつの しょくたく」を しらべよう
6. 身近な動物の「季節の食卓」を表にしてみる
6. 食べ物の調べ方 ── 文献から季節の表をつくる
みぢかな どうぶつを 1しゅるい えらびます。すずめでも、すずむしでも、いぬの なかまの きつねでも かまいません。
はる・なつ・あき・ふゆの 4つの らんを かいた 表を つくり、ほんや としょかんの 図かんで、なにを たべるか しらべて かきこみます。わからない ところは、空らんで だいじょうぶです。
のはらで どうぶつの ふんを みつけても、さわっては いけません。とくに きつねの ふんは、びょうきの もとに なる ことが あります[8]。とおくから 見るだけに しましょう。
身近にいる動物を1種類選び、春・夏・秋・冬の4つの欄を作った表に、食べ物を書き込んでみます。図鑑や図書館の本、自治体の自然観察のページが手がかりになります。空欄があってもかまいません。この記事で見たように、季節ごとの食べ物は、研究でも「知床での一例」といった形で語られることが多いからです。
野外でフンを見つけても、触らないでください。キタキツネのフンの虫卵が口に入ることで感染するエキノコックスがあるため[8]、観察は離れた場所から、写真や目で行いましょう。
表ができたら、キツネの春夏秋の例[3]と見比べてください。同じ「雑食」でも、季節の変わり方には動物ごとに特徴があるはずです。そこから、新しい問いが生まれます。
食べ物の調べ方には、いくつかの層がある。糞や胃の内容物の分析、季節ごとの観察、そして各地の研究を集めた比較だ。島根県の自然観察ページ[2]は糞の分析の入口になり、Hisanoほか[4]は日本各地の食べ物を統計的に束ねる。世界規模の解析[5]は、英語の要旨で読める。
身近な動物を1種選び、季節ごとの食べ物を表にまとめて、出典ごとに「どの季節・どの場所の話か」を併記してみるとよい。キツネの例では、知床の春夏秋[3]は「一例」にすぎず、冬は空欄になる。空欄は調べ残しではなく、次に調べるべき問いである。
野外調査では、糞に触れないこと。エキノコックスの虫卵が口に入ると感染するため[8]、観察は離れた場所から行うのが基本になる。残る問いは、冬のキタキツネの食卓と、日本のキツネでも北向きの跳躍の偏りが見られるのか、の2つである。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:国や研究機関の資料、大学の記事、研究論文の要旨を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 国立環境研究所 侵入生物DB「キタキツネ」。https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10300.html (キタキツネの食べ物について。公的機関)
- 島根県 自然観察「ほ乳類」。https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/nature/shizen/shimane/sizennkansatu/doubutu_kaisetu/honyuurui.html (本州以南のキツネのフンから分かる食べ物について。自治体)
- 環境省 アクティブ・レンジャー日記(北海道地区)2010年5月26日。https://hokkaido.env.go.jp/blog/2010/05/26/ (知床の春夏秋の食べ物について。公的機関の職員の記事)
- Hisano et al. 2022, Ecological Research 37(2):197-214。https://researchportalplus.anu.edu.au/en/publications/red-foxes-in-japan-show-adaptability-in-prey-resource-according-t/ (日本各地のアカギツネの食べ物の季節・気温・人口密度による変化について。論文の要旨)
- Variation in red fox Vulpes vulpes diet in five continents。https://agris.fao.org/search/ar/records/66743d61eb5a381a3380e340 (世界の217研究の食べ物の比較について。論文の要旨)
- 九州大学演習林「07 キタキツネ」。https://www.forest.kyushu-u.ac.jp/2020/256 (観光地のキタキツネの食べ物について。大学)
- Červený et al. 2011, Frontiers in Zoology。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3097881 (チェコのキツネのネズミ捕りの跳躍と地磁気の仮説について。研究論文)
- 厚生労働省「エキノコックス症について」。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154886.html (感染の経路とエサを与えない呼びかけについて。公的機関)
- 北海道大学 Like Hokudai 記事。https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/10118 (エキノコックスの循環と対策について。大学)
なおした ところ
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