1. リスが うめた クルミは どうなるの?
1. リスが埋めたクルミ156個の行方
1. ニホンリスの貯食 ── 発信機つきクルミ156個の追跡
ニホンリスは、ふゆも とうみんしない。木の 上で くらして いる。だから あきの うちに、クルミなどを かくして おく。つちの 中や、えだの あいだに[2]。
けんきゅうの 人が、クルミに はっしんきを つけて しらべた。2ねん つづけて、あきに リスに わたした クルミは、ぜんぶで 156こ[1][17]。
- 4わりぐらいは、その場で たべた。
- のこりの 91こを、かくした。
かくした 91この、そのあと。
- リスが あとで たべたのは、61こ。
- ネズミ(アカネズミ)に とられたのは、19こ。
- はるまで のこったのは、11こ。
いちど うめた クルミを、べつの ところに うめなおす ことも あった[17]。
ぜんぶは たべつくされない。のこった クルミは、はるに めを 出すかも しれない。リスは 木を うえる つもりで うめて いるのでは ない。でも けっかとして、クルミの 木が ひろがる てつだいを して いる。ただし これは、2ねんぶんの かずだよ。
ニホンリスは、地面に穴を掘って冬眠するシマリスとちがい、冬も木の上で活動する。だから食べ物の少ない冬に備えて、秋のうちに木の実を埋めておく。この行動を貯食という[2]。
森林総合研究所の研究者たちは、多摩森林科学園の森で、クルミに小さな発信機をつけて給餌台に置き、リスが持ち去った先を受信機で探した。1992年の秋に100個、翌年の秋に56個で、合わせて156個。42%はすぐに食べられ、58%(91個)は落ち葉の下や木の枝のあいだに貯食された[1][17]。
貯食された91個のその後は、こうなった。リスが回収したのが61個、アカネズミに盗まれたのが19個、春まで放置されたのが11個(運んだ全体の7%)。リスが回収して食べるのは1週間以内が多かった。いちど埋めたクルミを、別の場所に埋めなおすこともあった[17]。全部が食べ尽くされたわけではない。
春まで残った数は年でちがい、比較的豊作だった1992年は9個、やや不作だった1993年は2個だった[17]。オニグルミにとってリスは、実を遠くへ運んでくれる相手でもある[2]。ただしリスが木を植えるつもりで埋めているわけではなく、食べ残しがたまたま芽を出す。この数字は、ある森の2年分の結果だ。
ニホンリスは、地面に穴を掘って冬眠するシマリスとちがい、冬も木の上で活動を続ける。食べ物の少ない冬に備えて、秋のうちに木の実を埋めておく行動を貯食という。貯食に最も都合のよい食べ物はオニグルミで、堅い殻に包まれて腐らず、殻を割れる動物も限られるため、ほかの木の実よりは盗まれる心配が少ないとされる[2]。それでも実際に追跡すると、盗まれたものもあった。
森林総合研究所の1994年度(平成6年度)の研究成果選集と、1995年の同研究所の解説「動物による森の再生」に、その行方を追った報告が載っている[1][17]。研究者たちは多摩森林科学園の森で、クルミに本体約2gの小型無線発信機をつけ、オニグルミの木の下の給餌台に置いた。リスが持ち去ると、受信機で運ばれた位置を探した。1992年の秋に100個、翌年の秋に56個、合計156個を春まで追った。65個(42%)はすぐに食べられ、91個(58%)は樹上の枝のあいだや地面の落ち葉の下に貯蔵された。
貯蔵された91個のその後は、リスが回収したのが61個(67%)、アカネズミに盗まれたのが19個(21%)、春まで放置されたのが11個(運んだ全体の7%)だった。リスが回収して食べるのは1週間以内が多く、その後の2か月間も、ときどき回収された。いちど貯蔵したものを別の場所に運びなおして貯蔵し、あとで回収する例もあった[17]。年ごとの差も大きく、比較的豊作だった1992年に春まで残ったのは9個(9.0%)、やや不作だった1993年は2個(3.6%)だった[17]。
春に芽生えた実生の調査では、160m×80mの範囲で52個体が見つかり、母樹から最大105mはなれた場所にも生えていた[1]。リスにとっては冬の食料、オニグルミにとっては、木から離れた場所で芽を出す機会になる[2]。ただしこれは、1つの森の2年分の数字だ。森や年が変われば、割合も変わるはずだ。
隠した食べ物を狙うのは、アカネズミだけではない。同じリスの仲間も盗む。盗まれたくないとき、リスはどうするのか。
2. ぬすまれない ために、どこに かくすの?
2. 散らして埋めるか、巣にまとめるか
2. 分散して埋めるか、巣にまとめるか ── ハイイロリスとエゾシマリス
かくした たべものを ねらうのは、ネズミだけでは ない。ほかの リスも ぬすむ。
アメリカの ハイイロリスは、ほかの リスが ちかくに いる とき、あなを ほって、なにも いれずに 土を かぶせる ことが ある。うめた「ふり」だ[3]。ぬすむ ほうは、どこに ほんものが あるか わからなく なる。
ふつうの リスは、たべものを あちこちに 1こずつ ちらして うめる。おこづかいを ぜんぶ 1つの さいふに いれると、おとした ときに たいへん。あちこちの ポケットに わけて おくのと、にて いる。ただし ほんとうは、リスは ポケットでは なく、森の 土に うめる。
もう 1つの やりかたも ある。北海道の エゾシマリスは、じぶんの すの 中に ドングリを あつめる。すの 中に ドングリを つめて、上に かれはを のせて、そこで とうみんする[5]。
ちらして うめる リスと、すに まとめる シマリス。どちらも たべものを ためて いる。では、いつ ため はじめるの?
隠した食べ物は、ほかの動物にも見つかる。1章の調査でも、貯食した91個のうち19個はアカネズミの口に入った。リスの仲間の貯め方は、大きく2つに分けられる。あちこちに1個ずつ散らして埋める方法と、巣の中にまとめておく方法だ。
アメリカ東部のトウブハイイロリスは、ほかのリスが近くにいると、穴を掘って何も入れずに土をかぶせることがある。埋めた「ふり」だ。近くに仲間がいるほど増え、人が盗み役になって探す実験でも、ふりが混ざると見つけにくかった[3]。この論文の題名は「リスは行動でだましているのか?」という問いの形だ。
散らして埋めると、今度は自分が場所を覚えなければならない。北米のトウブキツネリスの研究では、木の実の種類ごとに埋める場所を分ける傾向が見られ、覚える負担を減らしているのではないかと考えられている[4]。
北海道のエゾシマリスは、もう1つのやり方をとる。斜里の海岸林で地下の巣を掘って調べた報告では、巣室が寝る部屋と食べ物の倉庫をかねていて、底のほうにドングリを中心とした食べ物が、その上に枯れ葉の層が詰まっていた[5]。冬眠中もときどき目を覚まして貯めた食べ物を食べる、という別の研究者の報告も紹介されている。冬眠のしくみは、冬眠のメモで詳しく書いた。
散らして埋めるリスと、巣にまとめるシマリス。どちらも秋のあいだに食べ物を集める。では、「いま貯めはじめる時だ」と、動物はどうやって知るのだろう。
貯めた食べ物は、ほかの動物にも見つかる。1章の調査でも、貯食した91個のうち19個はアカネズミに盗まれた[1]。貯め方は大きく2つに分けられる。あちこちに1個ずつ散らして埋める分散貯蔵(scatter-hoarding)[17]と、巣の中にまとめておく方法(larder-hoarding)だ。
散らす側の工夫の1つが、アメリカ東部のトウブハイイロリスの「ふり」の貯食だ。Steeleら(2008年)は野外の2つの集団を観察し、ほかのリスが近くにいるとき、穴を掘って何も入れずに土をかぶせる行動が見られたと報告した。全体の貯食のうち13.8%と13.2%(集団ごと)で、多くはない。ただ、近くに仲間がいるほど増え、人が盗み役になった実験では、ふりが混ざると盗まれにくかった[3]。論文の題名は「リスは行動でだましているのか?」という疑問の形をとっている。
散らして埋めると、今度は自分が場所を覚えなければならない。Delgado と Jacobs(2017年)は、カリフォルニア大学バークレー校の敷地で、野生のトウブキツネリス45頭に木の実を与えて、貯める場所を調べた。1か所で木の実を集める条件では、木の実の種類ごとに貯める場所が分かれた。複数の場所で集める条件では、この分け方は崩れ、すでに貯めた場所を避けるだけになった[4]。種類でまとめると覚える負担が減る、という考え方を支える結果だ。
もう1つのやり方が、エゾシマリスの巣への貯め込みだ。川道美枝子らは、北海道斜里の海岸林で1973〜79年にエゾシマリスを調べ、地下の巣を23個掘って構造を記録した。冬眠前後の巣室は、居室と食べ物の貯蔵庫をかねていた。底のほうにドングリを主にした貯蔵食物が置かれ、その上に枯れ葉の層があり、貯蔵された木の実の中には、すでに発芽しているものもあった。冬眠日数はオスで165〜219日、メスで172〜233日と報告されている[5]。
冬眠中のようすは、ロシアの研究者Teleginの報告として紹介されている。冬眠中ときどき目を覚まして貯蔵食物を食べ、排泄すること、体温が活動中の37〜38℃から8〜10℃に下がることだ。ただし、巣室に貯えられた食物が冬眠期間中に食べつくされるかどうかは「不明」と書かれている[5]。冬眠のしくみそのものは、冬眠のメモにまとめた。
散らして埋めるリスと、巣にまとめるシマリス。どちらも秋のうちに食べ物を集める。その「時」を、動物は何で知るのか。
3. 「あきが きた」って、どうして わかるの?
3. 「秋だ」を知る手がかりは、気温より昼の長さ
3. 光周性 ── 季節を知らせるのは気温か、日長か
あつい 年も、さむい 年も ある。だから 気おんだけを たよりに すると、まちがえて しまうかも しれない。
どうぶつは「ひるの ながさ」を かんじて いる、と 考えられて いる。あきに なると、ひるが みじかく、よるが ながく なる。ひるの ながさは、まいとし おなじ ように かわる。どうして かわるのかは、ひの ながさの メモに かいた。
1924年の ふゆ、カナダで、ローワンさんが ユキヒメドリという 鳥を、そとの かごで かった。でんとうで よるまで あかるく して、ひるを 少しずつ ながく した。まふゆなのに、鳥は はるの ように さえずった[6]。
アメリカの ウサギ(カンジキウサギ)は、雪が おおい 年も すくない 年も、あきに しろく なりはじめる 日が ほとんど おなじ だった[7]。
体の 中には、ひるの ながさを はかる しかけが あるらしい。まいにち おなじ 時こくに なる チャイムみたいな ものだ。ただし ほんとうは、音では なく、ホルモンという 体の 中の あいずで はたらく。
木の実を埋めはじめる日、鳥が南へ向かう日、毛が生えかわる日。動物は、いつが「その時」だと知るのだろう。気温は年ごとにぶれる。気温だけを頼りにすると、暖かい年には準備が遅れてしまう。昼の長さがなぜ季節で変わるのかは、日の長さのメモで書いた。
1924年の冬、カナダのアルバータ大学で、ウィリアム・ローワンは屋外の鳥かごでユキヒメドリを飼い、電灯で夜まで明るくして、日を1日に5分ずつ延ばしていった。まだ真冬なのに、鳥の精巣は大きくなり、春のように求愛してさえずった。ローワンは、鳥の季節の変化を引き起こすのは、気温や気圧ではなく昼の長さだと考えた[6]。
秋の例もある。アメリカ・モンタナ州のカンジキウサギ(148頭)を2010〜2012年の3年間追った研究では、雪の量が大きくちがう年でも、茶色から白へ変わりはじめる日は同じだった。変わるのには毎年約40日かかった。研究者は、昼の長さが引き金になっている可能性があると考えた[7]。
昼の長さを測るしくみは、動物によってちがう。哺乳類では、目で受けた光の情報が、夜に松果体から出るホルモン(メラトニン)の分泌の長さに変わる。鳥では、目とは別に、脳の深いところにも光を感じるしくみがあり、日長の測定に働くと考えられている[8]。
木の実を埋めはじめる日、鳥が南へ向かう日、毛が生えかわる日。動物は、いつが「その時」だとわかるのか。気温は年ごとにぶれる。気温だけを手がかりにすれば、暖かい年には準備が遅れる。昼の長さ(日長)は、毎年ほぼ同じ変化をくり返す(その理由は日の長さのメモで書いた)。生物が日長の変化に示す反応を光周性という[8]。
ウィリアム・ローワンは1924年の冬、カナダ・アルバータ大学の敷地の屋外の鳥かごで、ユキヒメドリ(dark-eyed junco)を飼った。片方のかごには夜まで電灯をともし、日を1日に5分ずつ延ばして、春から初夏の日長を再現した。真冬の寒さのなか、鳥の生殖腺は大きくなり、春のように求愛してさえずった。ローワンは、季節の変化を引き起こす環境の要因は気温や気圧ではなく日長だと考えた。1925年にNature誌に発表された[6]。
秋の例では、Millsら(2013年)が、アメリカ・モンタナ州のカンジキウサギ148頭を2010〜2012年の3年間追跡した。3年の雪の量はここ数十年の範囲をほぼ網羅するほど大きくちがったが、秋の茶色から白への換毛(体毛の生えかわり)を始める日は、3年とも固定されていた。移り変わりには毎年約40日かかった。論文は、これを「日長が引き金になっていることと矛盾しない」と書いている[7]。
日長を測るしくみは、哺乳類と鳥で異なる。哺乳類では、目の網膜が受けた光の情報が視交叉上核を経て、松果体から夜に出るホルモン(メラトニン)の分泌時間として伝わる。鳥では、脳の深部にある光受容器が働く[8]。
日が短くなったことを知った動物は、貯めるだけではない。貯める場所そのものを、離れる鳥もいる。
4. とりは どうして とおくへ とんで いくの?
4. 食べ物を体に貯めて、遠くへ移る鳥
4. 渡り ── 体に貯めて、食べ物のある土地へ移る
日本に くる 鳥は、3つに わけられる。ふゆに くる ふゆどり(ハクチョウなど)。なつに くる なつどり(ツバメなど)。はると あきに とおりすぎる たびどり[9]。
ツバメは、体の おもさが 20グラムほど。日本で あしわを つけた ツバメは、2000キロメートル いじょう はなれた 東南アジアの 国ぐにで みつかって いる[9]。
たべものや 気こうが きせつで かわる ので、べつの ところへ うつる 鳥も いる[10]。
とぶ まえに、鳥は たくさん 食べて、体に あぶらを ためる。アラスカの オオソリハシシギは、でかける まえの 体の 半分 いじょうが あぶらだった[12]。体が おべんとうばこ みたいだ。ただし ほんとうは、おべんとうでは なく あぶらで、おなかに ぎゅっと ためて いる。
この 鳥は、アラスカから 海の 上を、6日から 9日ぐらい おりずに とぶ と、きろくされて いる[13]。ながい たびの ために、あぶらを ためて いるんだね。とびかたの くわしい 話は、わたりどりの メモに かいた。
日本で見られる渡り鳥は、山階鳥類研究所の教材では3つに分けられている。秋から冬に日本で過ごす冬鳥(ハクチョウ、カモの仲間など)、春から夏に日本で子育てして秋に南へ向かう夏鳥(ツバメ、カッコウなど)、春と秋に日本を通りすぎる旅鳥(シギ・チドリの仲間など)だ[9]。
体重20gほどのツバメは、日本と東南アジアのあいだを毎年渡る。日本で足環をつけたツバメは、2000km以上はなれた東南アジアの国々で見つかっている[9]。世界の鳥の約15%が、季節で住む場所を変えるといわれる[10]。
なぜ渡るのか。研究者たちは、食べ物と気候が季節で変わる仮想の地球をコンピュータ上に作り、鳥は「エネルギーがいちばんうまく使える場所」にいるはずだと仮定して、現実の鳥の分布と比べた。その考え方では、その場にとどまるより、移動するほうが得なときにだけ鳥は渡る[11]。
出発前の鳥は、体に食べ物をためる。アラスカ半島から南へ出発する直前のオオソリハシシギの幼鳥は、体重の54.8%が脂肪だった。その消化器官(肝臓、腎臓、胃、腸)は、9月にまだ食べて太っている最中の幼鳥より小さかった。出発が近づくと、食べるための器官は小さくなる[12]。
この鳥がアラスカから太平洋を6〜9日ほど降りずに飛ぶことは、衛星発信機の追跡でわかっている[13]。飛び方の数字や、道をどうやって知るのかは、渡り鳥のメモで書いた。
日本で見られる渡り鳥は、山階鳥類研究所の教材で3つに分けられている。秋から冬を日本で過ごし春に北で繁殖する冬鳥(ハクチョウ、カモの仲間、ユリカモメなど)、春から夏に日本で繁殖して秋に南へ渡る夏鳥(ツバメ、カッコウ、オオルリなど)、春と秋に日本を通過する旅鳥(シギ・チドリの仲間など)だ[9]。
体重約20gのツバメも、体重5kgを超えるコハクチョウも渡る。日本で足環をつけて放されたツバメは、日本から2,000km以上はなれた東南アジアの国々で見つかっている[9]。世界では、鳥類の約15%が季節に応じて分布を移す[10]。
なぜ渡るのか。Somveilleら(2018年)は、食べ物と気候が季節で変動する仮想の地球をコンピュータ上に作り、鳥は「エネルギーの得と支出の釣り合いが最もよい場所」に分布すると仮定して、現実の鳥の分布と比べた。渡りは、その場にとどまるより、移動したほうが割に合うときに起きる、という見方だ[10][11]。
出発前の鳥は、体を貯蔵庫にする。Piersmaら(2021年)は、アラスカ半島で標本にされたオオソリハシシギの幼鳥を比べた。南へ向かう直前の9羽(1987年10月19日、コールドベイ)は体重の54.8%が脂肪で、肝臓・腎臓・胃・腸が、9月に食べて太っている最中の7羽(2005年9月17〜18日、エゲギクベイ)より小さかった。別々の鳥を比べた結果で、同じ個体の変化を追ったものではない[12]。
この鳥がアラスカからニュージーランドやオーストラリア東部まで、6〜9日ほど降りずに飛ぶことは、衛星発信機の追跡で示されている(Gillら、2009年)[13]。飛行の数字や、どうやって道を知るのかは、渡り鳥のメモで書いた。
木の実を森に貯めるリス、体に脂肪を貯めて飛ぶ鳥。冬には、食べ物のほかにも困ることがある。
5. 雪の 中で、ライチョウや ウサギは どうして しろく なるの?
5. 冬は「目立つ季節」でもある ── 白くなるライチョウとノウサギ
5. 換羽と換毛 ── 雪に合わせて白くなる動物と、ならない動物
ふゆは、たべものが すくない だけでは ない。雪の 中では、ちゃいろい 体は 目だって しまう。
日本の 高い 山に すむ ライチョウは、なつは しろ・くろ・ちゃの まだらもよう。ふゆは、おの さきを のぞいて まっしろに なる[14]。
ノウサギも、雪の おおい 日本海がわでは、ふゆに しろく なる。雪の すくない 太平洋がわでは、いちねんじゅう ちゃいろの まま[15]。
しろく なる 時きには、ひるの ながさが かんけい して いる と 考えられて いる。雪が すくない 年でも おなじ ころに しろく なるので、しろい 体が ちゃいろい 土の 上で 目だって しまう ことが ある[7]。
冬は、食べ物が少ないだけでなく、雪の中で目立ちやすい季節でもある。日本アルプスなどの高山にすむニホンライチョウは、夏は白・黒・茶のまだら模様で、冬は尾を除いて全身が白くなる。羽が生えかわることを換羽という[14]。ライチョウは数が減っていて、国内の動物園での飼育・繁殖もはじまっている[14]。
ニホンノウサギは、雪の多い日本海側では冬に白くなり、雪のまれな太平洋側では一年中茶色だ。2020年の学会の講演要旨によると、北米のカンジキウサギやユーラシアのユキウサギでは、白くなる原因としてAsipという遺伝子が知られているが、ニホンノウサギはそれとは別の遺伝子の変化で白くなる性質を得たという[15]。
白くなる時期には昼の長さが関わると考えられているが、雪が積もるかどうかは年によって、これから先の冬でもちがう。3章のカンジキウサギの研究では、モンタナ州の調査地で雪の積もる期間が今世紀の終わりまでに40〜69日短くなると予測された。毛色の時期が進化で変わらなければ、白い体が雪のない地面で目立つ日数は4〜8倍に増える、という試算だ[7]。
冬は、食べ物が減るだけでなく、雪の中で目立ちやすい季節でもある。ニホンライチョウは、主に本州中部の標高2,200〜2,400m以上の高山帯で繁殖する。環境省の解説では、夏羽は白・黒・茶のまだら模様で、冬羽は尾を除き全身が白い。羽が生えかわることを換羽という。個体数は1980年代に約3,000羽、2000年代に2,000羽弱と推定され、保護増殖事業と、国内の動物園での飼育・繁殖が進められている[14]。
ノウサギでも、住む場所で冬の姿がちがう。日本生態学会第67回全国大会(2020年3月)で木下らが発表した要旨によると、本州以南のニホンノウサギは、積雪の多い日本海側では冬に白化し、積雪のまれな太平洋側では年中褐色だ。北米のカンジキウサギとユーラシアのユキウサギでは、Asip遺伝子が冬の白化の原因遺伝子とされている。要旨は、ニホンノウサギの毛色二型はAsipとは別の毛色関連遺伝子の変異で獲得されたとし、長く列島に隔離されて独自の遺伝的変異で積雪量の地域差に適応してきたことを示す、と述べる[15]。
換毛の時期が日長で決まるなら、雪の量が変わったときに問題が起きる。Millsら(2013年)によると、モンタナ州の調査地で雪が積もる期間は、今世紀なかばまでに29〜35日、世紀末までに40〜69日短くなると予測されている。換毛の時期が進化で変わらなければ、白いウサギが雪のない地面の上で目立つ日数は、世紀末までに4〜8倍に増える、という試算だ。なお、春に白から茶へ戻る速さは、雪の量に応じて調整できた[7]。
昼の長さの時計は毎年同じ時刻を指すが、雪は毎年ちがう。
6. ならべて みると、どうなるの?
6. 4つの冬支度を並べてみる
6. 貯める・移る・眠る・姿を変える ── 冬支度の組み合わせ
- ニホンリス:木の実を 森に かくす。
- エゾシマリス:すに ためて、とうみんする。
- オオソリハシシギ:体に あぶらを ためて、とおくへ うつる。
- ライチョウと ノウサギ:雪に あわせて、しろく なる。
1つだけ えらぶ のでは なく、まぜて つかう どうぶつも いる。エゾシマリスは、ためて、そして ねむる。
ためる ばしょは、森の 土、すの 中、じぶんの 体と、どうぶつに よって ちがう。クマなどの とうみんは、とうみんの メモに かいて ある。
4つの冬支度を、食べ物をどこに置くかで並べてみる。ニホンリスは森のあちこちに、エゾシマリスは巣の中に、渡り鳥は自分の体の中に貯める。ライチョウやノウサギは、食べ物ではなく「雪の中で見つかりやすい」問題への備えだ。
1つの動物が作戦を1つだけ使うわけではない。エゾシマリスは貯めて、そのうえで冬眠する。渡り鳥は体に貯めて、そのうえで移る。
同じ地域でも、留まる鳥もいれば、去る鳥もいる。この選びわけを、食べ物とエネルギーの収支で説明しようとする研究が、4章で紹介したものだ[10]。クマなどの冬眠は、冬眠のメモにある。
| 動物 | 冬の問題 | 冬支度 | 貯める場所 |
|---|---|---|---|
| ニホンリス | 食べ物 | 木の実を貯食する。冬も活動する[2] | 地面・樹上のあちこち |
| エゾシマリス | 食べ物・寒さ | 巣に貯めて冬眠する[5] | 巣の中 |
| オオソリハシシギ | 食べ物 | 脂肪を貯めて長距離を渡る[12][13] | 自分の体 |
| ニホンライチョウ・ニホンノウサギ(雪の多い地域) | 雪の中で見つかりやすいこと | 換羽・換毛で白くなる[14][15] | (貯めない) |
表の左から3つは、秋のうちに食べ物を集めるところが共通で、貯める場所だけがちがう。森の地面、巣の中、自分の体だ。この並べ方は、ここにあげた4つの例を見比べた整理で、ほかの動物すべてに当てはまるわけではない。
1つの動物が作戦を1つだけ使うわけでもない。エゾシマリスは貯めて、そのうえで冬眠する。渡り鳥は体に貯めて、そのうえで移る。
同じ地域でも、留まる鳥もいれば、去る鳥もいる。この選びわけを、食べ物とエネルギーの収支で説明しようとする試みが、4章のSomveilleらの研究だ[10]。クマなど、貯食せずに脂肪だけで冬を越す動物は、冬眠のメモで書いた。
7. じぶんでも しらべて みよう
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
1しゅうかん、まいにちの ひの いりの じこくを、おうちの 人と いっしょに ノートに かいて みよう。国立天文台の ホームページで しらべられる[16]。まいにち どのくらい はやく なるかな。どうぶつたちは、この へんかを かんじて いる、と 考えられて いる。
もう 1つ。ツバメが いつも いた でんせんや のきしたで、「いなく なった 日」を きろく して みよう。とおくへ いったのか、たまたま みえなかった だけか、1日では わからない。なん日か みて みよう。もう みかけなければ、らいねんの 秋に きろくして みよう。あたたかい 土地では、冬も のこる ツバメが いる ことも ある。
そとで みる ときは、どうろに きを つけて、どうぶつには ちかづきすぎず、さわらないで ね。エサも あげないで ね。
もっと しりたい 人は、鳥の けんきゅうを して いる ところの、子ども むけの しりょう[9]や、リスの ページ[2]を みて みよう。
ローワンは、日を1日に5分ずつ延ばした。では、実際の秋には、日の入りが1日に何分ずつ早まっているのだろう。国立天文台の暦計算室で、自分の住む場所の日の出・日の入りを調べて[16]、1週間ぶんを書き出し、昼の長さの変化を計算してみよう。動物が感じているのは、この変化だと考えられている。
ツバメがいつも止まっていた電線や軒先で、「見なくなった日」を記録するのもいい。旅の途中の群れが通りすぎるだけの場合もあるので、1日では決められない。数日ようすを見て、おおよその日を書いておく。もう見かけなくなっていたら、来年の秋に記録してみよう。暖かい地方には冬も残るツバメがいるので、見なくなる日がない場所もある。
外で観察するときは、道路に気をつけて、動物には近づきすぎず、さわらない。エサはやらない。
資料も読める。山階鳥類研究所の子ども向けの教材[9]や、森林総合研究所のニホンリスのページ[2]は、やさしい日本語で書かれている。
ローワンは、日を1日に5分ずつ延ばした。実際の秋の日の入りは、1日に何分ずつ早まっているのだろう。国立天文台の暦計算室で、自分の住む場所の日の出・日の入りを調べて[16]、1週間ぶんの昼の長さを書き出し、1日あたりの変化を計算する。これは、動物が感じているとされる「日長の変化」を数字で見る練習になる。緯度がちがう場所や、春の同じ期間と比べると、変化の速さの季節差も見える。
ツバメがいつも止まっていた電線や軒先で、「見なくなった日」を記録するのも、季節の進みを自分の目で確かめる方法だ。旅の途中の群れが通りすぎるだけの場合もあり、1日では決められない。数日かけて、おおよその日を書いておく。すでに見かけなくなっていたら、来年の秋に記録するとよい。西日本や九州の暖かい地域には冬も残る越冬ツバメがいるため、「見なくなる日」がない場所もある。
外で観察するときは、道路の安全に気をつけ、動物には近づきすぎず、さわらない。エサはやらない。
読み比べるなら、森林総合研究所の成果選集(1章)は1ページで、表の数字を自分でたどれる[1]。Steeleら(2008年)のハイイロリスの論文は、題名で検索すると要旨が出版社のページで読める[3]。山階鳥類研究所の教材は、足環をつけて渡りを調べる仕事を、写真つきで紹介している[9]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:森林総合研究所・環境省・山階鳥類研究所・国立天文台は公的機関の資料、Steeleら・Delgadoら・Millsら・Somveilleら・Piersmaら・Gillらは査読つきの学術論文、木下らは学会の講演要旨、川道らは博物館の研究報告、吉村は脳科学辞典の解説、バードリサーチは研究団体のニュース記事です。
- 森林総合研究所 平成6年度研究成果選集(1994)「ニホンリスの貯食行動によるオニグルミの更新」。 https://www.ffpri.go.jp/pubs/seikasenshu/1994/p04.html (発信機をつけたクルミ156個の行方の数字、実生の調査)
- 森林総合研究所 自然探訪(2012年11月)「ニホンリスとオニグルミ」。 https://www.ffpri.go.jp/snap/2012/11-risu-kurumi.html (ニホンリスが冬眠しないこと、貯食にオニグルミが向く理由)
- Steele, M.A., Halkin, S.L., Smallwood, P.D., McKenna, T.J., Mitsopoulos, K., Beam, M. (2008) “Cache protection strategies of a scatter-hoarding rodent: do tree squirrels engage in behavioural deception?” Animal Behaviour 75(2): 705–714. https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2007.07.026 (トウブハイイロリスの「ふり」の貯食)
- Delgado, M.M., Jacobs, L.F. (2017) “Caching for where and what: evidence for a mnemonic strategy in a scatter-hoarder.” Royal Society Open Science 4(9): 170958. https://doi.org/10.1098/rsos.170958 (トウブキツネリスが木の実の種類ごとに貯める場所を分ける傾向)
- 川道美枝子ほか「シマリスの巣の構造とその利用」知床博物館研究報告 第5集(1983)。 https://shiretoko-museum.jpn.org/media/shuppan/kempo/sm05_02.pdf (エゾシマリスの巣室の貯蔵食物、冬眠日数、冬眠中の目覚めと体温の紹介)
- Indiana University「Ordinary Extraordinary Junco」プロジェクト 第1章「Pioneers in Science: Rowan and the Junco」。 https://juncoproject.org/view-download/chapter1/index.html (ローワンの1924年の実験。原論文は Rowan, W. (1925) “Relation of light to bird migration and developmental changes.” Nature 115: 494–495)
- Mills, L.S. ほか(2013) “Camouflage mismatch in seasonal coat color due to decreased snow duration.” PNAS 110(18): 7360–7365. https://doi.org/10.1073/pnas.1222724110 (カンジキウサギの換毛の時期、雪の期間の予測と毛色のずれ)
- 吉村崇「光周性」脳科学辞典(2013)。 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/光周性 (光周性の定義、哺乳類と鳥の日長を測るしくみ)
- 山階鳥類研究所「渡り鳥の不思議を調べてみよう! 鳥類標識調査の世界」(2023)。 https://www.yamashina.or.jp/hp/ashiwa/images/202301wataridorinofushigi.pdf (冬鳥・夏鳥・旅鳥、ツバメの足環の再確認)
- Somveille, M., Rodrigues, A.S.L., Manica, A. (2018) “Energy efficiency drives the global seasonal distribution of birds.” Nature Ecology & Evolution 2: 962–969。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29735990/ (鳥の約15%が季節で移動すること、エネルギーの収支で分布を説明するモデル)
- バードリサーチ「鳥の渡りは“コスパ”で決まる」バードリサーチニュース(2018)。 https://db3.bird-research.jp/news/201806-no2/ (Somveilleらの論文の日本語での紹介)
- Piersma, T., Gill, R.E. Jr., Ruthrauff, D.R. (2021) “Physiomorphic transformation in extreme endurance migrants: revisiting the case of bar-tailed godwits preparing for trans-Pacific flights.” Frontiers in Ecology and Evolution 9: 685764. https://doi.org/10.3389/fevo.2021.685764 (出発前のオオソリハシシギの脂肪の割合と消化器官の縮小)
- Gill, R.E. Jr. ほか(2009) “Extreme endurance flights by landbirds crossing the Pacific Ocean: ecological corridor rather than barrier?” Proceedings of the Royal Society B 276: 447–457. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2664343/ (衛星発信機による、アラスカからの8,117〜11,680kmの連続飛行の記録)
- 環境省「ライチョウ」。 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/raicho.html (夏羽と冬羽、生息地、個体数の推定と保護の取り組み)
- 木下豪太ほか「全ゲノム解析によるニホンノウサギの冬季毛色二型に関わる遺伝子の特定」日本生態学会第67回全国大会 講演要旨(2020年3月)。 https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/67/L02-06.html (ニホンノウサギの冬毛の地域差、白化に関わる遺伝子)
- 国立天文台 暦計算室。 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/ (日の出・日の入りの時刻を調べられる)
- 森林総合研究所「もり」No.38(1995年7月25日)「動物による森の再生 〜リスとオニグルミ〜」。 https://www.ffpri.go.jp/pubs/mori/documents/mori-38.pdf (発信機つきクルミの追跡の方法と2年分の結果、リスが回収する時期、埋めなおし、分散貯蔵という呼び方)
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