1. しまは、なんのために あるの?
1. 目立つ縞は、何のためにあるのか
1. 縞の機能をめぐる5つの仮説
草原で 白黒の しまを 見ると、とても 目立ちます。ライオンに 見つかりやすそうなのに、どうして こんな もようなのでしょう。
これまでに、考えが いくつも 出されて きました。まわりに とけこむため、てきを まどわせるため、体を ひやすため、なかまと 見分けるため、血を すう ハエを ふせぐため、などです。
まず、この 五つの 考えを、まとめて 調べた 研究から 見て いきます。
草原の緑や茶色の中で、白と黒の縞はよく目立ちます。「捕食者から隠れるための模様」だとすると、ずいぶん不利に見えます。
これまでに出された説は、大きく五つあります。まわりにとけこむ、捕食者をまどわせる、体温を調節する、仲間どうしの関わりに使う、血を吸うハエをよける、というものです[1]。
この五つを一度にまとめて検証した研究があります。次の章で見てみましょう。
縞の機能について提案されてきた仮説は、主に5つある。カムフラージュ、捕食者対策(群れの中で輪郭を乱す、など)、体温調節、社会的な交流(個体の識別など)、吸血バエよけである[1]。
これらは互いに排他的とは限らず、複数が同時に成り立つ可能性もある。2014年のCaroらの研究は、この5つを同じデータで同時に検証した点に特徴がある。
2. 五つの 考えを、ぜんぶ くらべると?
2. 五つの説を、まとめて調べた研究(2014年)
2. 5仮説の同時検証 ── Caro et al. 2014
2014ねんに、学者の チームが、うまの なかまの しまの 多さを 調べました。すんでいる ばしょの ようすと くらべて、五つの 考えの どれが 合うかを 見たのです[1]。
いちばん 合ったのは、血を すう ハエが 多い ところ でした。ライオンから かくれる 考えや、体を ひやす 考えには、はっきりした よりどころが 見つかりませんでした。
ただし、これは 「ようすが 合った」 という ことです。「それが 理由だと 決まった」 という ことでは ありません。
2014年、カロ博士らのチームは、ウマの仲間(ウマ属)の種や亜種ごとに縞の多さを調べ、それぞれが暮らす地域の環境と比べました。五つの説のうち、どれが縞の多さをよく説明するかを見る方法です[1]。
縞の多さといちばん関連が強かったのは、アブの仲間による吸血バエの悩まされ具合でした。ツェツェバエの分布とも関連がありました。一方、カムフラージュ、捕食者対策、体温調節、社会的な交流の説には、一貫した支持が見られなかったと報告されています[1]。
大学の発表では、この研究は7種のシマウマ・ウマ・ロバの仲間を扱い、シマウマの毛は血を吸う虫の口の長さより短いため、同じ地域の他の大型の草食動物より刺されやすいと説明されました[2]。ただし、これは「相関」を見た研究で、原因の証明ではありません。
そこで次の疑問が出ます。縞は本当にハエに何かをしているのでしょうか。
Caroらは、ウマ属の種・亜種について縞の程度を、生息域の環境要因(吸血バエの活動を示す指標を含む)と対応づけた。縞の多さは、アブ類(tabanid)による吸血バエの被害の指標と関連し、ツェツェバエの分布とも関連した。カムフラージュ・捕食者対策・体温調節・社会的交流には一貫した支持がなかった[1]。
この研究に付随した大学の発表では、7種のシマウマ・ウマ・ロバ類を対象とし、シマウマの毛が吸血バエの口器より短いため、同地域の他の大型草食獣より刺されやすいという説明が付けられた[2]。ただし発表の見出しは「謎を解いた」と広報的で、結果は分布の相関にもとづく検証である。原論文の本文は今回は参照できておらず、要旨と発表文による。
相関だけでは、縞がハエに何をしているのかは分からない。次の実験がこの点を調べた。
3. しまの ふくを きた 馬は?
3. 縞の服を着せた馬の実験
3. シマウマ・ウマの比較と衣服実験 ── Caro et al. 2019
2019ねんの 研究では、シマウマと 馬を 見くらべました。すると、ハエが シマウマに とまる 回数は、馬より 少なくなりました。まわりを とぶ 回数は、ほとんど 同じでした[3]。
つぎに、馬に しま、黒、白の ふくを きせました。しまの ふくの 馬には、ハエが さわったり とまったり する 回数が、ぐっと 少なく なりました[4]。
ふくを きて いない 頭の ほうは、ねらわれる 回数が かわりませんでした。ハエは、しまが あるから 近づかない のでは なく、しまの ところに とまりにくい ようです。
2019年、カロ博士らはまず、シマウマとウマを観察して、ハエの動きを比べました。単位時間あたりにハエが着地する回数は、シマウマのほうが少なくなりました。一方、体の周りを飛ぶ回数や、軽く触れる回数には差がありませんでした[3]。
もう一つの実験では、ウマに縞・黒・白の布の服を着せました。縞の服を着たウマは、同じウマが黒や白の服を着たときに比べて、ハエに触れられる率も着地される率も大きく下がりました[4]。
面白いのは、服のない頭の部分です。頭に対するハエの攻撃率は、服の種類によって変わりませんでした。縞の服の上でだけハエの着地が減ったので、縞そのものに理由がありそうだ、と考えられます。ハエが縞を怖がって近づかないわけではありません。近づく数は同じで、止まれない、という結果です。
2019年のCaroらの研究は、シマウマとウマの観察と、ウマに縞・黒・白の布の衣服を着せる実験の二つから成る。観察では、単位時間あたりの着地はシマウマのほうが少なかったが、周囲を飛ぶ回数や軽く触れる回数(接触)には差がなかった[3]。
衣服実験では、縞の服を着たウマは、同じウマが黒または白の服を着た場合に比べ、服の上での接触・着地の率が大きく下がった。一方、服で覆われていない頭部への攻撃率は、服の種類による差がなかった[4]。同じ個体で頭部との対照がとれている点が、この実験の要になっている。
要点は、縞がハエを「寄せつけない」のではなく、着地の成功率を下げる、という点にある。ウマの頭数・実験地などの詳細は、今回は原文を参照できておらず記さない。
4. ハエは、どうして とまれないの?
4. ハエは、着地でつまずく
4. 減速失敗 ── 近距離での着地の妨害
シマウマに ちかづく シマウマに ちかづく ハエは、馬の ときと ちがって、とまる まえに スピードを うまく おとせない ことが わかりました[3]。
とおくに いる ときは、しまが あっても ハエの うごきは かわりませんでした。ちかくに 来た ときだけ、うまく とまれなくなる のです。
たとえば、ざっしの ページの 上に 小さな てんが たくさん あると、目が ちらちら して、ちゃんと 見えない ことが あります。ハエにも、しまが 同じような じゃまを して いるのかもしれません。ただし、ハエの目は 人とは ちがいます。
この研究では、ハエの飛び方も調べられました。ハエはウマの場合と違い、シマウマに対して速いまま近づき、体に触れる前にうまく減速できませんでした[3]。
縞は、近くでは着地をじゃましますが、遠くにいるハエの動きには影響しませんでした。つまり縞は、ハエに「見つからないため」の模様ではなさそうです。むしろ、見つけたあとの着地に失敗させる仕掛けだと考えられています[3]。
雑誌のページの細かい点をじっと見ると、目がちらちらすることがあります。縞がハエに、それに近い混乱を起こしているのかもしれません。ただし、ハエの目は人と同じではなく、これはあくまで想像を助けるたとえです。
同じ研究で、ハエはウマの場合と違い、シマウマに対して速い速度で接近し、接触前にうまく減速できなかった。縞のある表面は、ハエが制御された着地を行うことを妨げたが、遠距離でのハエの行動には影響しなかった[3]。
この結果は、縞が「発見を避ける」機能ではなく、「着地の段階で失敗させる」機能をもつという解釈と整合する。ハエは縞のあるウマにも近づく(3章の観察で周囲を飛ぶ回数に差がない)が、着地に至らない。
なお、この研究の結論は観察・実験にもとづく解釈であり、ハエ側の神経処理の仕組みまでを直接示したものではない。仕組みは次の2章で検討する。
5. ハエの目には、どう 見えるの?
5. ハエの目に映る縞を調べる
5. 視覚メカニズムの検討 ── 偏光・縞幅・エイリアシング
ハエの 目が、しまを どう 見るのかも、調べられて います。むかしの しけんでは、ハエの なかまの アブは、水めんの ような ひかりかたを する ものに ひかれる ことが わかりました。しまが 細いほど、ひかれにくく なりました[5]。
けれども 2016ねんの 研究では、10メートル いじょう はなれると、しまの ひかりかたの ちがいは、ハエの 目には 見わけられない ことも わかりました[6]。この 考えだけでは、ぜんぶは せつめいできません。
いま 出て いる ほかの 考えは、ちかくで しまが うごきの 見かたを みだす、と いう ものです。これは コンピューターの けいさんで 予想された 話で、まだ たしかめられた わけでは ありません[7]。
ハエの目に縞がどう映るかも、研究されています。2012年の実験では、アブは水面のように光が横にそろって反射する光(偏光)に引かれ、縞の幅が細いほど魅力が下がることが報告されました。シマウマの縞幅は、アブがもっとも引かれにくい範囲に入るとされています[5]。
ただし、2016年に野生のシマウマ21頭を撮影した研究では、白黒の縞のどちらも偏光を反射し(白い縞は偏光の程度が低い)、10m以上離れるとハエの目の解像度では縞の間の偏光の差は平均化されて見えないと報告されました。縞そのものは、それより遠く(最大20m)から見えるといいます[6]。偏光の説は、これだけで縞のすべてを説明できるわけではなさそうです。
2025年には、縞が近くにいるハエの「動きを見る仕組み」を乱す、という理論モデルも出ました。縞は、およそ20〜215cmの中距離で、ハエの動き検出を惑わすと予測され、現場の観察とも合います[7]。ただしこれは実測ではなく、モデルによる予測です。
Egriら(2012)は、アブが水平偏光に引かれる(偏光走性)ことを利用し、縞の幅が細いほど誘引性が低下すること、シマウマの縞幅がアブの誘引が最も小さくなる範囲にあることを報告した[5]。
Melinら(2016)は野生のシマウマ21頭を撮影し、白黒の縞がどちらも偏光を反射する(ただし白縞は偏光の程度が低い)こと、10m以上離れるとハエの視覚解像度では縞の間の偏光の差が平均化され識別できないことを示した。縞自体は最大20mから視認可能とされる[6]。この結果は、偏光説の適用範囲が近距離に限られることを示唆し、Egriらの結果と併せて読む必要がある。
Mouy(2025)は、縞が視覚運動の検出モデルにエイリアシング(空間サンプリングの限界による誤検出)を生じさせ、約20〜215cmの中距離でハエの動き検出が乱れると予測した。これは現場観察と整合するが、理論モデルによる予測であり、実測値ではない[7]。
6. 体を ひやす 考えは どうなった?
6. 「体を冷やす」説をめぐる論争
6. 体温調節説 ── 相関研究と実験の対立
「しまが 体を ひやす」という 考えも あります。黒い ところと 白い ところで 温度が ちがうので、体の ねつを にがしやすく なる、と いう 話です。
2015ねんには、気おんが しまの 多さと 一ばん よく つながる と 知らせる 研究も 出ました。ただ、これは ハエの ことも かんけい するかもしれず、けんかの ように 言い合いに なりました[8]。
2018ねんには、水を いれた ドラムかんに、しまの かわを かぶせて、屋外に 4か月 おく しけんも ありました。しまの かんと ねずみ色の かんの 中の 温度は、ほとんど かわりませんでした[9]。
2019ねんには、生きた シマウマ 二とうで、黒と白の ところの 温度が 12から15ど ちがう と 見つけた 人たちも います。ただ、この 人たち 自身が、「まだ 調べる ことが たくさん ある」と 言って います[10]。
「縞が体を冷やす」という説は、昔から有力な候補でした。2015年、ラリソン博士らは平原シマウマの16か所の環境を分析し、縞の程度を最もよく説明するのは気温(とくに最も寒い時期の最低気温など)だと報告しました。体温調節、吸血バエ、あるいはその両方が関わることを示すと主張し、カロ博士らとの議論になりました[8]。
2018年、ホルバート博士らは、水を入れたドラム缶にウマ・ウシ・シマウマの皮をかぶせ、4か月屋外に置いて温度を測りました。縞のドラム缶と灰色のドラム缶の内部の温度には、暑い日が55日あっても有意な差はなく、縞が体を冷やすとは言えないという結論でした[9]。表面の温度には7〜18℃の差が出ましたが、中の温度は同じだったという意味です。
一方、2019年のコブ夫妻は、ケニアの生きたシマウマ2頭と皮1枚で、黒い縞が白い縞より12〜15℃高かったと報告し、体温調節に関わる可能性を示しました。ただ、調べた数が少なく、本人たちも「さらに調べる必要がある」と述べています[10]。
いまのところ、体温調節説を支える結果と、否定的な結果が並んでいるのが実情です。
Larisonら(2015)は、平原シマウマ16地点で二十数個の環境要因を解析し、縞の程度を最もよく予測するのは気温(等温性と最寒四半期の最低気温)だと報告した。この結果は体温調節説、吸血バエ説、あるいはその両方の関与を示唆すると解釈され、Caroらとの間で議論になった[8]。なお16地点は平原シマウマの調査で、他のウマ科は含まない。
Horvathら(2018)は、水を満たしたドラム缶にウマ・ウシ・シマウマの皮をかぶせて4か月屋外に置き、内部温度を測った。縞と灰色のドラム缶に有意差はなく、暑い日が55日あっても差はなかった。縞の表面温度には7〜18℃の差が出るが、これは内部を冷やす効果には結びつかなかった[9]。
Cobb夫妻(2019)は、ケニアの生きたシマウマ2頭と皮1枚で、黒縞が白縞より12〜15℃高かったと報告し、体温調節に関わる可能性を述べた。しかし小規模であり、本人も追加の研究が必要だと述べている[10]。
体温調節説は、相関研究では一定の支持、実験では否定的結果、小規模観察では肯定的示唆と、結果が割れている。吸血バエ説と体温調節説が両立するかも含め、決着していない。
自分でも 調べて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること:白と黒の しまの かみを 作って みましょう。かべに はって、少しずつ はなれて みます。どの くらい はなれると、しまが 見えなくなって、ねずみ色に 見えるでしょうか。しまの 太さを かえて くらべると、おもしろいです。
出かけて できること:どうぶつえんで、シマウマを 見て みましょう。しまが 太い ところと 細い ところは どこでしょう。あしや かおは どう なって いるでしょう。
もっと 知りたい ときは、下の 出てんの 記事を、おうちの 人と 見て みましょう。
今日できること:白と黒の縞の紙を作って、壁に貼ってみましょう。少しずつ離れて、何メートルで縞が見えなくなり、灰色に見えるかを測ります。縞の太さを変えて比べると、遠くで縞が見分けにくくなることを体験できます。ただし、これは人の目での見え方です。ハエの目の話(偏光の差が10m以上で見えなくなるという研究)とは別のことなので、ハエの見え方を考えるきっかけにとどめてください。
出かけてできること:動物園でシマウマを観察して、縞の太さや向きが体の場所によってどう違うかを見てみましょう。顔、首、足で違いがあるでしょうか。
公式情報:この記事の出典にある論文や大学の発表は、インターネットで公開されているものがあります。論文の要旨だけでも、どんな実験だったかが分かります。
今日できること:白黒の縞の紙(縞の幅を数種類)を作り、離れた位置から見て、縞が識別できなくなる距離を測る。人の視力とハエの視力の違いを考える入口になる。ただし、ハエの視覚とは別物であることに注意する。
出かけてできること:動物園でシマウマ・ウマ・ロバの縞(体の場所ごとの太さ・向き)を観察し、写真や記録を残す。
公式情報:出典の[1][3][5][6]などは論文の要旨が公開されている。とくに図と、方法の節を読むと、何をどう測ったかが分かる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
論文は要旨の確認が中心です。原文の本文までは確認できていないものがあります。
- Caro et al. (2014) "The function of zebra stripes", Nature Communications. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2014NatCo...5.3535C/abstract (5つの説の検証・相関の結果)
- UC Davis "Scientists Solve the Riddle of Zebras' Stripes". https://www.ucdavis.edu/news/scientists-solve-riddle-zebras-stripes (毛の長さと吸血バエの口器の説明)
- Caro et al. (2019) "Benefits of zebra stripes: Behaviour of tabanid flies around zebras and horses", PLOS ONE. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0210831 (着地の観察・減速できない結果)
- Caro et al. (2019) 同論文の要旨、PubMed. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30785882/ (馬に服を着せた実験の要旨)
- Egri et al. (2012) Journal of Experimental Biology. https://journals.biologists.com/jeb/article/215/5/736/11213/Polarotactic-tabanids-find-striped-patterns-with (偏光と縞の幅)
- Melin et al. (2016) PLOS ONE. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0154504 (野生シマウマの偏光の撮影)
- Mouy (2025) "Zebra stripes induce aberrant motion analysis in flies through aliasing", Journal of Experimental Biology. https://journals.biologists.com/jeb/article/228/4/JEB249601/367249/Zebra-stripes-induce-aberrant-motion-analysis-in (理論モデル)
- Larison et al. (2015) 反論記事、Royal Society Open Science. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4593692/ (気温との関連と論争)
- Horvath et al. (2018) Scientific Reports. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6008466/ (ドラム缶の温度試験)
- Cobb & Cobb (2019) Journal of Natural History、紹介記事 ScienceDaily. https://www.sciencedaily.com/releases/2019/06/190613103126.htm (黒縞と白縞の温度差の小規模観察)
なおした ところ
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