2. クマの 歯の 根に、冬の すじが のこる?
2. クマは、冬眠のあとを歯の根に残している
2. クマの歯の根にあるセメント層は、冬眠と成長期を交互に記録する
クマは 冬の あいだ、冬眠を します。じつは その あとが、歯の 根に のこると 言われます。
クマの 年を いちばん 正しく しるには、歯の 根を 切った 断面の すじを 顕微鏡で 数えます。歯の 根には、まいとし 新しい かさなりが 1つ ふえます。その かさなりには、冬眠の ときに できる 細い 暗い 線と、あたたかい 時期に できる 明るい 部分が あります。
つまり、暗い 線が 1本 ふえると、冬を 1回 こえた と かぞえられるのです。
クマの年をいちばん正確に知るには、歯の根を切った断面にある、年輪のようなしるしを顕微鏡で数えます。この方法は、クマの研究者の団体が出している解説に載っています[3]。
歯の根の外側には、毎年新しい層(セメント層)が加わります。1つの層は2つの部分でできています。冬眠中にできる細く暗い線と、成長期にできる明るい部分です[3]。暗い線を数えれば、冬を何回こえたかが分かる計算です。木の年輪が、成長の速さのちがいを縞に残すのと似ています。
ただし、この方法には歯を抜く必要があります。クマを傷つけずに年を知る別の方法は、第6章で見ます。
ここまでは、「季節ごとの成長のちがい」が体の中にそのまま縞になる例でした。ほかの動物でも同じ考え方が使えるのでしょうか。
クマの年齢査定で最も正確とされるのは、歯根の断面に見えるセメント層の数を顕微鏡で数える方法である[3]。歯根の表面には毎年新しい層が加わり、その層は、冬眠中に形成される狭く暗い線と、成長期に形成される明るい領域の2部分からなる[3]。暗線が冬眠の回数、つまり越冬した回数を示すことになる。
この方法の前提は、成長が季節で規則的に止まり、再開することである。冬眠という明確な休止期があるクマでは、この前提が満たされやすい。一方、ここで紹介した資料は、種や個体による読みやすさの差、そして読み誤りの頻度までは示していない。
採取には歯の抜去が必要なので、生きた個体には使いにくい。そのための代替法は第6章で扱う。では、角や骨のように歯以外の部位は、どう記録するのか。
3. ヒツジの 角と ウミガメの うでの ほねにも 年の しるしが ある?
3. ヒツジの角とウミガメの腕の骨にも、年のしるしがある
3. 角と上腕骨:成長の停止と再開、年ごとの積み重ね
アラスカに いる ダールヒツジの 角には、横に ならんだ わの ような すじが あります。角が のびる 時期と、のびが とまる 時期が くり返されて、すじが できるのです。このすじを 数えると、年が わかると いわれます。
ウミガメは、うでの ほねを 切って、断面を 見ます。ほねの 外がわに、1年ごとに 新しい かさなりが ふえて いきます。この かさなりを 数える ほうほうを、スケレトクロノロジーと 言います。
角や ほねには、年の しるしが のこる ことが あります。
アラスカ州魚類野生生物局の資料によると、ダールヒツジの角には、年輪(annuli)が並んでいます。成長が止まったり再開したりする繰り返しが、角の長さ方向に間隔をあけた輪を作るのです[5]。輪の数を数えると、成長が止まった回数が分かります。
ウミガメでは、NOAAの研究室が、上腕骨の断面の成長層を数える「スケレトクロノロジー」を使っています。ウミガメの上腕骨は、骨の外側に年ごとの層を加えて成長していきます[6]。
角は外へ伸び、骨は外側に層を足す。どちらも、その動物が生きた時間を体に積み重ねていると言えます。ただ、ここまでの数え方は、「年に1本の線」という約束ごとが前提です。この前提から外れるほど古い動物は、どう扱えばよいのでしょうか。
ダールヒツジの角は、成長の停止と再開を繰り返し、その結果、長さ方向に間隔をあけて年輪(annuli)が並ぶ。アラスカ州魚類野生生物局の種紹介は、これが年齢推定に使えるとする[5]。輪は、成長が止まる時期の記録として角に残る。
ウミガメでは、NOAAのウミガメ個体群研究室が、上腕骨の断面にある成長層を数える骨年代学(skeletochronology)を用いる。上腕骨は骨の外縁に年ごとの層を加えて成長するので、層の数が年数に対応する[6]。
どちらも「周期的な成長の休止が、体の中に層として積み重なる」という点で共通している。ただし、層が必ず年に1本できるのかは、種ごとに確かめる必要がある。次の章のグリーンランドザメでは、縞を数える代わりに、別の物質が時計として使われた。
4. 392さいの サメは、どうやって 年を はかったの?
4. 392歳と推定されたサメは、どこで年を測られたのか
4. グリーンランドザメの392±120歳:水晶体の核の放射性炭素
グリーンランドザメは、目の 中の 水晶体という ところを 使いました。水晶体は、ものを 見る ための レンズです。
その まんなかに ふくまれる 炭素の ようすを しらべて、年を 計算する ほうほうです。すじを 数える ほうほうとは、ちがいます。
けんきゅうでは、メスの サメ 28とうを しらべました。いちばん 大きい 1とう(502センチ)は、392さいで、まえうしろに 120さいの はばが あると 考えられました。つまり 272さいから 512さいの あいだ、という ことです。
この 数字は、たしかな 一つの 年では なく、「このくらい」という 見つもりです。それでも、せぼねの ある 生きものの 中で、わかって いる かぎり いちばん 長生きとして 知られて います。
研究チームは、グリーンランドザメの、メス28頭について、目の水晶体の核に含まれる放射性炭素を測定しました[7]。
その結果、最大の1頭(体長502cm)は392±120歳と推定されました。誤差の幅を引くと272歳、足すと512歳です[7]。研究チームは、これを既知の脊椎動物の最長寿だと述べています。
ここで大事なのは、これが「年輪を数えた」結果ではないことです。ここでは、縞を数える方法と、物質の中の炭素の量から年を計算する方法は別物だ、とだけ押さえておきます。
では、縞を数える方法は信用できるのでしょうか。数え方が合っているかは、どうやって確かめるのでしょうか。
この研究は、28頭のメスのグリーンランドザメの水晶体の核について放射性炭素年代測定を行い、最大個体(体長502cm)を392±120歳と推定した[7]。誤差を含めれば272〜512歳となり、推定値の幅は決して小さくない。それでも研究チームは、これを既知の脊椎動物で最も長寿だと位置づける。
ここで使われた方法は、これまでの章の「層を数える」方法とは原理が異なる。縞が年に1本できるという前提は使わず、炭素の測定値から年を求める。なぜ水晶体の核が使えるのか、測定値をどう年に直すのかといった詳しい手順は、原典(論文)で確かめたい。
こうした推定値は、一つの研究が出した結果であり、確定した事実とは区別する必要がある。では、縞を数える従来法は、どうやって検証されてきたのか。
5. かぞえた 年は、本当に 合っているの?
5. 数えた年が合っているかを、どう確かめるのか
5. 年輪読みの検証:縁の成長量、核実験の目印、ジンベエザメの例
すじを 数えただけでは、本当に 1年に 1本か、わかりません。年に 2本 できて いる どうぶつも あるかもしれないからです。
ジンベエザメの せぼねの すじは、「1年に 1本か、2本か」で、研究者の 意見が 分かれて いました。2とうの せぼねを、炭素の ようすで しらべた けんきゅうで、すじは 年に 1本 できて いた と たしかめられました。ただし しらべた 2とうは、さかなとりで なくなった どうぶつです。
ほかにも、すじの はしの のびかたが、きせつで かわるかを 見る ほうほうが、いちばん 広く 使われて います。
むかしの かくの じっけんで、空気の 中の 炭素14という 目じるしが ふえました。それが 海にも 取りこまれたので、「この 年ごろの 目じるし」として、数え方の 答え合わせに 使われます。
耳石の年輪の読み方は簡単ではなく、読み誤りが系統的に生じることがあります。カナダ水産海洋省の資料は、輪の解釈は「簡単とはほど遠い」と述べています[8]。だから、数えた結果を別の方法で確かめる作業(検証)が欠かせません。
よく使われる検証は、縁の成長量が季節で変わるかを見る方法です。最も広く使われている方法とされます[8]。縁の新しい部分が季節に合わせて伸びたり止まったりするなら、「輪は年周期でできる」と裏づけられます。
もう一つは、核実験の影響を使う方法です。核実験で大気中の放射性炭素が大きく増え、それが海にすばやく取りこまれました。その時期の記録を日付つきの目印にして、数えた年が合うかを確かめます[8]。標識をつけて放流する方法は、標識をつけてからの経過時間は確かめられても、魚の本当の年齢そのものは確かめられません[8]。
ジンベエザメでは、脊椎の成長帯が年に1本か2本かで、研究が一致していませんでした。2頭の脊椎を放射性炭素で調べた研究により、帯は年に1本できていたと確かめられました。ただし調べたのは、漁で死んだ個体の2頭だけです[9]。
つまり、年のしるしは「数えて終わり」ではありません。数え方が合っていることまで確かめて、はじめて信頼できる年齢になります。
耳石の年輪の解釈は決して自明ではなく、重大かつ系統的な年齢の読み誤りを生みうる、とカナダ水産海洋省の資料は述べる[8]。そこで、読んだ年齢が正しいことを別の独立した方法で示す検証が必要になる。
最も広く使われているのは、縁(最も外側の成長部分)の増分が季節で変化するかを調べる縁辺増分解析である[8]。季節ごとに縁の伸びが規則的に変わるなら、輪の形成に年周期があると推論できる。標識放流は、標識後の経過時間を検証できる一方で、魚の絶対年齢は検証できない[8]。
核実験由来の放射性炭素は、より強い検証手段になる。大気中の放射性炭素が増加し、それが速やかに海に取りこまれたので、年ごとに異なる値が組織に記録される。それを基準年代として、輪読みの年齢と対応するかを確かめる[8]。
実例がジンベエザメである。脊椎の成長帯が年1本か年2本かは、従来の成長研究が一致していなかった。Frontiers in Marine Science(2020)の研究は、2頭の脊椎の放射性炭素から、帯は年1本形成されるという結論を示した[9]。ただし調べた個体は2頭で、いずれも漁で死亡した個体だった。つまり、この結論は限られた標本に基づく。
検証は、数える方法の信頼性を高めるが、検証自体にも標本数や条件という限界がある。この点が、次の章の問題につながる。生きた個体を傷つけずに年を知るには、どうすればよいのか。
6. 生きたままの どうぶつの 年は、どう しらべるの?
6. 傷つけずに年を知るには、何を見ればよいのか
6. 生きた個体の年齢推定:歯の摩耗と、ヒレの軟条を採取する限界
ここまで 見た ほうほうは、歯を ぬいたり、ほねを 切ったり する ものが 多く、生きた どうぶつには 使いにくいです。
クマでは、生きた ままの とき、歯の すりへり 具合や、とがった 歯(犬歯)の 形、歯の 中の まだらな 点の あるなしを 見て、年の くぶん(わかい、おとななど)を 考えます。アメリカの ヨセミテ国立公園の 記事にも、書かれて います。
チョウザメという さかなでは、むねびれの すじを 取って 年を しらべる ほうほうが あります。でも、すじを 取る えいきょうは、けんきゅうで 意見が 分かれて いて、かんりする 人は ためらって います。取っても えいきょうが 小さい 2ばんめの すじは、おとなの レイクスタージョンでは 正しい 年が 出せず、わかい さかなだけに 使える かもしれないと されます。
ここまでの方法の多くは、歯を抜く、骨を切る、棘を取るなど、動物を傷つけることを前提にしています。調査している個体を生かしたままにしたいとき、別の方法が必要になります。
生きたクマの場合は、歯の摩耗の度合い、犬歯の形、象牙質の斑点の有無などから、年齢の区分を推定します。アメリカのヨセミテ国立公園の記事が、この考え方を紹介しています[4]。第2章の歯の根の縞に比べると精度は下がりますが、その差が具体的にどれだけかは、この記事で使った資料には書かれていません。
チョウザメ類では、胸びれの軟条を使う年齢推定があります。ただし、軟条を取る影響について研究結果が分かれており、管理者はためらっています。負担の小さい第2軟条は、おとなのレイクスタージョンでは信頼できる年齢が出ず、若い個体にだけ使える可能性があるとされます[10]。
正確さと傷つけないことは、しばしば両立しません。では、私たちが手元で「年のしるしを数える」体験をするには、どうしたらよいでしょう。
第2・3章の方法は、歯の抜去、骨の切断、棘の採取など、侵襲を伴う。生存個体を調べる場面では、非致死的な代替法が必要になる。
生きたクマでは、歯の摩耗度合い、犬歯の形状、象牙質の斑点の有無を指標にして、年齢の区分を推定する。ヨセミテ国立公園の資料がこの方法を紹介している[4]。第2章の歯根セメント層に比べて精度が劣る可能性が高いが、その差を数値で比較した資料は、今回の調査では得られていない。
チョウザメ類では、胸びれの軟条(fin ray)が年齢査定に使われるが、取り除く影響についての研究結果は割れており、管理者は採取をためらう。USGSの研究(Lake Sturgeon)は、侵襲が小さい第2軟条は、成魚では信頼できる年齢を与えず、若齢魚にだけ有望である、と示した[10]。
非致死的な方法は、動物への負担を減らす一方で、年齢範囲や種によって使えないことがある。精度と動物の負担のあいだの折り合いは、種ごとに探されている途中である。
7. 木の 年輪を、かぞえて みよう
7. 切り株の年輪で、数える体験をしてみよう
7. 年輪を数える体験と、資料の読み方
きょう できる こと
公園や 山で、木を 切った あとの きりかぶを さがして みましょう。おとなの 人と いっしょに 行きます。きりかぶの 上に ある 年輪を、中心から 外へ 1本ずつ 数えます。ゆびで 軽く なぞると、数えやすく なります。木は きずつけません。
年輪の はばが ひろい ところと せまい ところが あるかも 見て みましょう。木に とって「のびの よい とし」と「わるい とし」が あったのかも、と そうぞうできます。
しらべる とき
生きている 木の 年は、ほそい くだで、ほそい ぼうの ような ものを 取り出す ほうほうで しらべます。アメリカの 国立公園の 記事に のって います。でも、かってに 木に あなを あけては いけません。
切り株を数える
公園や山の切り株を探して、おとなといっしょに見に行きます。中心から外へ、輪を1本ずつ数えてください。数え間違えやすい場合は、鉛筆で数えた輪に点をつけると便利です。数えた数が、切った場所までの年数の目安になります。
次に、輪の間隔が広いところと狭いところを探します。広い年と狭い年があるのは、その年ごとの育ちやすさのちがいが記録されているのかもしれません。木は傷つけず、見るだけにしましょう。
資料を読むなら
生きた木の年齢は、鉛筆ほどの太さの切断管(成長錐)で、木の「コア」と呼ばれる細い棒を取って調べます。アメリカ国立公園局の記事「Tree Rings and the Tales They Tell」が、この方法を紹介しています[11]。
切り株で確かめる
切り株の年輪を中心から外へ数える。その上で、輪の幅の変化を観察する。幅の広狭が何を反映しているかは、アメリカ国立公園局の記事のように、年輪の幅やパターンを分析する年輪年代学が扱う[11]。木は傷つけず、観察にとどめる。
資料を読むなら
生きた木の年輪は、鉛筆ほどの切断管(成長錐、incremental borer)で細い「コア」を取り、そのパターンを分析する[11]。この記事で扱った各資料を順に読むと、部位ごとの数え方を原典で確かめられる。NOAAの査定の概説[1]と底魚の実例[2]、クマ[3][4]、ヒツジ[5]、ウミガメ[6]、グリーンランドザメ[7]、検証[8][9]、チョウザメ[10]である。いずれも英語の資料なので、日本語で全文を読めるものはない。気になる点を一つ選び、その節だけ辞書を使って読むとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- NOAA Fisheries. Age and Growth. https://www.fisheries.noaa.gov/national/science-data/age-and-growth (耳石以外の部位、うろこ)
- NOAA Fisheries. Ageing Groundfish on the West Coast. https://www.fisheries.noaa.gov/west-coast/population-assessments/ageing-groundfish-west-coast (リンコード・トゲザメ・ビッグスケートの例)
- North American Bear Center. How to Age a Bear. https://bear.org/bear-facts/how-to-age-a-bear/ (クマの歯のセメント層)
- National Park Service (Yosemite). How Old is that Bear? https://www.nps.gov/yose/blogs/how-old-is-that-bear.htm (生きたクマの年齢の見方)
- Alaska Department of Fish and Game. Dall Sheep Species Profile. https://newsrelease.adfg.alaska.gov/index.cfm?adfg=dallsheep.printerfriendly (ヒツジの角の輪)
- NOAA Fisheries. Marine Turtle Demography Laboratory. https://www.fisheries.noaa.gov/west-coast/science-data/marine-turtle-demography-laboratory (ウミガメの上腕骨の層)
- Nielsen, J. et al. Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark (Somniosus microcephalus). https://researchprofiles.ku.dk/da/publications/eye-lens-radiocarbon-reveals-centuries-of-longevity-in-the-greenl/ (392±120歳の推定)
- Fisheries and Oceans Canada. Bomb radiocarbon otolith ageing. https://dfo-mpo.gc.ca/science/species-especes/otoliths/scientists/bomb-eng.html (年輪読みの検証方法)
- Frontiers in Marine Science (2020). Whale shark vertebrae and bomb radiocarbon. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2020.00188/full (ジンベエザメの成長帯の検証)
- USGS. Second fin ray shows promise for estimating ages of juvenile but not adult Lake Sturgeon. https://www.usgs.gov/publications/second-fin-ray-shows-promise-estimating-ages-juvenile-not-adult-lake-sturgeon (チョウザメの軟条による年齢推定)
- National Park Service. Tree Rings and the Tales They Tell. https://www.nps.gov/articles/000/tree-rings.htm (木の年輪の調べ方)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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