1. 川の うなぎは、川で うまれたの?
1. 川にいるウナギは、川で生まれたのか
1. 川にいる個体の出身地:降河回遊魚という暮らし方
川で つかまえた うなぎを 見たら、「この子は 川で うまれたんだな」と おもいますよね。でも、ちがいます。
うなぎが うまれるのは、日本の 南の ほうの、マリアナしょとうの にしの 海だと されて います[1]。うまれた 子どもは、はっぱの かたちを した すきとおった すがたで、海の ながれに のって 旅を します。
やがて 5センチ ぐらいの シラスウナギに なって、日本の ちかくへ やって きます[1]。川や河口で 5ねんから 15ねんほど そだち、おとなに なると、また 海へ 出て いきます。
では、たまごは 海の どこに あったのでしょう。
2. 2000ねん わからなかった たまごを、どうやって?
2. 広い海で、小さな卵を探し当てる手がかり
2. 産卵場の特定:3つの仮説と、耳石から逆算した誕生日
うなぎの たまごが どこに あるのかは、むかしの ギリシャの 人の じだいから、ふしぎだったと いわれます[3]。海は ひろくて、たまごは ちいさいからです。
けんきゅうする 人たちは、手がかりを 3つ かんがえました。しんげつの ころに うむのでは。うみの 中の やまが ならぶ ところでは。しおの こさが かわる さかいめの ちかくでは[2]。
ちいさな 子どもの 耳の 中の ほねには、1日に 1本ずつ、わが ふえて いきます。その わを かぞえると、うまれた 日が わかります。しらべると、子どもが うまれたのは しんげつの 日でした[2]。
そして 2009ねん、しんげつの 2日まえ。とうとう たまごが 31こ、見つかりました[2]。
ここで 見つかったのは、自ぜんの 海で うまれた たまごで、おやが うむ ところを 見たわけでは ありません。
見当をつけた3つの仮説
古代ギリシャのアリストテレスの時代から、ウナギの産卵場は謎だったとされ、東京大学は2011年の発表で「2000年におよぶ謎」と表現しました[3]。海は広く、卵は小さく、手がかりが少なかったからです。
研究グループは、産卵場について3つの仮説を立てました。新月の頃に産む説、海山が並ぶ海域で産む説、塩分が変わる境目(塩分フロント)の近くで産む説です[2]。
耳の石が教えた誕生日
決め手の一つは、耳石でした。耳石は魚の頭にある小さな石で、1日に1本ずつ輪ができる性質があります。輪を数えて逆算すると、生まれた日が分かります。調べると、7月に採れた仔魚は、5月と6月の新月の日に生まれていました[2]。
こうして場所と日を絞り込み、2009年5月に、西マリアナ海嶺の南端部、水深150〜200mで、天然のウナギの卵31粒が世界で初めて採れました。新月の2日前で、海山の列と塩分フロントが交わるあたりだったと紹介されています[2]。
ただし、東京大学が「謎が解明された」と書いたのは、卵の場所が分かったという意味です。親が産卵する瞬間は、今も調査が続いています。
産卵場の探索は、古代ギリシャの時代から続く問いとされ、東京大学は2011年の発表で「2000年におよぶ謎」と表現した[3]。海洋の広さに対して卵は小さく、直接探す方法には限界があった。そこで研究グループは、産卵の条件を3つの仮説として整理した。新月の頃に産むという新月仮説、海山の並ぶ海域とみる海山仮説、塩分の急変する前線の近くとみるフロント仮説である[2]。
3つを結びつけたのが耳石だった。耳石の輪は日周輪と呼ばれ、日ごとに1本ずつ増えるため、輪を数えれば孵化日を推定できる。7月に採集された仔魚は、耳石の輪から生まれた日を逆算すると、5月と6月の新月の日ごろだった。仔魚は塩分フロントのすぐ南側で見つかった[2]。そこで、新月の頃にこの前線の近くで産むという仮説が、探す場所と日を絞る手がかりになった。
そして2009年5月、西マリアナ海嶺の南端部、水深150〜200mで、天然のウナギの卵31粒が世界で初めて採集された。新月の2日前で、場所は海山の列と塩分フロントの交点にあたる[2]。
ただし、この成果が示したのは、卵と産卵場の位置である。親魚が産卵する現場を直接観察したわけではなく、大学側のいう「完全に解明」も、産卵の瞬間や親の行動までは含まない[3]。
卵が見つかった場所は、日本から遠く離れた外洋の、海面よりずっと下の層である。川の魚だと思われがちなウナギは、一生の出発点を、川から見えない深い海に置いている。では、生まれた子どもは、日本の川でどんな一日を過ごすのか。
3. ひるは かくれて、よるに 出かける
3. 昼は穴にかくれ、夜に動き出す暮らし
3. 昼夜の使い分け:隠れ場所の条件と、親魚の昼夜の水深
川に すんで いる うなぎは、ひるまは 岩の すきまや どろの 中に かくれて います[4]。よるに なると 出てきて、えびや かに、カエル、小さな さかなを たべます。
うなぎは、えらの ほかに ひふでも 少し 息が できる、と しょうかいされて います[6]。からだが しめって いれば、りくの 上も 少しなら すすめるそうです。
だから、かくれる あなが ある 川の きしは、うなぎに とって だいじな いえです[1]。
また 海へ 旅に 出る おやの うなぎも、ひると よるで ふかさが かわる ことが しらべられて います[5]。ひるは ふかい ところ、よるは あさい ところに いた、という れいが あります。
夜行性のウナギ
ウナギは夜行性です。日中は岩のすき間や泥の中に隠れ、夜になると動き出して、甲殻類やカエル、小魚などを食べます。主な生息域は川の中流から下流、河口、湖や沼で、海の内湾でも釣れます[4]。
鰓のほかに皮膚でも呼吸ができるため、体が湿っていれば陸上を移動できるとも紹介されています[6]。
隠れ場所を残す川づくり
昼の隠れ家になる岸のすき間や岩の穴は、ウナギの生息に欠かせないとされます。すき間のない護岸は、ウナギが暮らしにくいと説明されています。環境省は2017年3月に「ニホンウナギの生息地保全の考え方」をまとめました[1]。
産卵に向かう親も、昼夜で深さを変える
産卵のために海へ下った親ウナギを発信機で追った調査では、昼は深い層に、夜は浅い層に移る例があると紹介されています[5]。追跡できた個体の観察例なので、全てのウナギに当てはまるわけではありません。
川でも海でも、昼と夜で居場所を変えているようです。では、川に入らず海だけで過ごすウナギもいるのでしょうか。
川の中のウナギは、日中は岩のすき間や泥中に隠れ、夜に動き出して甲殻類・両生類・小魚を捕食する。生息域は中〜下流、河口、湖沼で、内湾の海でも釣れる[4]。
この暮らし方が成り立つ条件として、隠れ場所が必要になる。環境省は2017年3月に「ニホンウナギの生息地保全の考え方」をまとめ、河川や沿岸の環境の変化が個体数の減少要因の一つと整理した。護岸の側にすき間がない構造は、隠れ場所を減らすため生息に適さないとされる[1]。
ウナギは皮膚呼吸もできるとされる。九州大学の研究を紹介した記事では、鰓に加えて皮膚でも呼吸でき、体と周囲が湿っていれば陸上も移動できるとされ、2020年に滝を登る能力が示されたという[6]。
産卵回遊に入った親魚でも、昼夜の区別は残る。超音波発信機による追跡では、昼は深い層に移り、夜に浅い層へ上がる例が報告されている[5]。ただしこれは追跡できた個体の観察例で、全個体にあてはまる決まりとは読めない。
では、こうした「川で育つ」前提そのものが、すべての個体にあてはまるのか。
4. 川に はいらない うなぎも いる
4. 川に入らず、河口や海で育つウナギもいる
4. 耳石のストロンチウム:川に入らない個体を見分ける方法
うなぎは 川で そだつと おもわれて きました。でも、川に はいらず、うみや、川と うみが まざる 河口で 大きく なる うなぎも いる、と ほうこく されて います[7]。
どうやって わかるのでしょう。うなぎの 耳の 中に ある 小さな 石には、すごした 水の 中の ざいりょうが のこる、といわれます。しお水の 中で そだつと、あるざいりょうが 多くなります。
この 石を しらべると、うみ、川と うみの あいだ、川の どれで そだったかが わかるのです。
うなぎの くらす ばしょは、「川だけ」では ありません。
耳石に残る水の記録
耳石には、その魚が過ごした水の成分が少しずつ残ります。海水にはストロンチウムが多く含まれるため、耳石のストロンチウムとカルシウムの比(Sr/Ca)を調べると、海水・汽水・淡水のどこで育ったかを推定できます[7]。
ある研究では、各地で採ったウナギの耳石のSr/Ca比から海水域で過ごした履歴を推定し、一生のあいだ淡水に入らなかった「海ウナギ」がいることを確かめています[7]。
産卵に向かうウナギは、川育ちが多数派とは限らない
産卵のために海へ下る時期の銀ウナギ37匹を調べた研究では、河口で育った個体が多く、川育ちは少数だったと報告されています[8]。研究者は、河口や海で育った個体が、次の世代により多く貢献しているかもしれないと述べています。
ただしこれは37匹の例で、日本全体の割合を示す値ではありません。それでも、川以外で育つウナギが確かにいるという点は、この研究が示したことです。
それなら、日本の中のどこに、ウナギは多いのでしょうか。
川に入らないウナギを見分ける手がかりが、耳石の微量元素である。海水ではストロンチウムが多いため、耳石のSr/Ca比は、育った水が海水か汽水か淡水かに応じて変わる。Sr/Ca比が高ければ海、中間なら河口(汽水)、低ければ川で過ごした履歴とみる区分が使われる[7]。区分の境目は研究によって異なるため、目安として扱う。
黄ウナギと銀ウナギの耳石を調べた研究では、一生を通して淡水に入らない海ウナギの存在が確認された[7]。では、そうした個体はどれほどの割合なのか。
産卵回遊期に採れた銀ウナギ37匹を調べた研究では、河口で育った個体が多く、川育ちは少数だったと報告されている[8]。この研究の37匹についての結果で、日本全体の割合を示すものではない。
研究者は、河口や海で育つ個体が、次世代により多く貢献する可能性を指摘している。それでも、数字そのものより大事なのは、川に入らず育つ経路が実在し、「ウナギは川の魚」という見方が全体を表さないという点である。
この見方を、日本列島の地図に落とすと、どう見えるのか。
5. にっぽんの どこに、うなぎは いる?
5. 日本のどこに、ウナギは多いのか
5. 分布の偏り:環境DNAと海流シミュレーション
うなぎは、日本の どこにでも いるわけでは ありません。京都だいがくの けんきゅうでは、ぜんこくの 265の 川の 365か所の 水を しらべました[9]。
すると、うなぎの くらす あとが 多かったのは、かんとうより 西の 本しゅうの たいへいよう がわ、せとない海、九州の 西がわでした。ほくりくや とうほくには、ほとんど 見つかりませんでした[9]。
海の ながれで、子どもが とどく ばしょと、うなぎの いる ばしょが よく にて いた、と いいます。ながれが、うなぎの すみかを きめる 手がかりに なるのかも しれません。
水の中の DNA を調べる
京都大学の研究グループは、全国265河川の365地点で、水に溶け出した生きものの DNA(環境 DNA)を調べました。ウナギは、関東より西の本州太平洋側、瀬戸内海、九州西岸の河川で多く検出され、北陸や東北ではほとんど検出されませんでした[9]。ただしこれは環境 DNA の結果で、「完全にいない」という意味ではありません。
仔魚を運ぶ海流との一致
海流による仔魚の輸送を再現したシミュレーションでは、仔魚が届く場所と、環境 DNA で生息が推定された場所がよく一致しました[9]。
別の研究では、耳石の分析から、ニホンウナギの自然分布の主要部は九州、瀬戸内海沿岸、青森県以南の太平洋沿岸、京都府以南の日本海沿岸と推定されています。福井県から青森県の日本海沿岸は、分布の縁辺部と推定されました[10]。
これらの調べ方は違っても、西日本から太平洋側に多いという方向は似ています。では、身近な川で、私たちに確かめられることはあるでしょうか。
分布を調べる方法は、環境DNAとシミュレーションの組み合わせが代表的である。京都大学の研究では、全国265河川365地点の環境DNAを解析した。その結果、ウナギは関東以西の本州太平洋側、瀬戸内海、九州西岸の河川に多く、北陸と東北ではほとんど検出されなかった[9]。ただし「ほとんど検出されない」は、環境DNAの検出結果であり、完全にいないという意味ではない。
さらに、海流にもとづく仔魚の輸送シミュレーションが、検出された分布とよく一致した[9]。つまり、ウナギが多い場所と少ない場所の違いは、仔魚が海流でどこに届くかと関係している可能性が高い。ただし、これは一致が示されたということで、他の要因を除いたわけではない。
別の方法でも、同じ傾向が読める。耳石の同位体分析にもとづく研究では、自然分布の主要部は九州、瀬戸内海沿岸、青森県以南の太平洋沿岸、京都府以南の日本海沿岸とされ、福井県から青森県の日本海沿岸は縁辺部と推定された[10]。2つの研究は手法が異なるのに、日本海北部で少なく、西日本の太平洋側で多いという方向がそろう。
では、生まれる場所、育つ場所、その途中の海流が、どう関わっているのかを、自分でも確かめるにはどうすればよいか。
6. ちかくの 川の きしを 見に いこう
6. 近所の川の岸で、ウナギの隠れ場所を探す
6. 川岸の構造を観察し、一次資料で産卵場の話を読む
おうちの 人と いっしょに、近くの 川の 橋の 上や、つつみの 上に 行って みましょう。水の 中には 入りません。
きしを 見て、石や コンクリートの すきまが あるか、つるつるの かべに なって いるか、くらべて みます。ここに うなぎが かくれる かどうかは、わかりません。でも、どんな ところなら かくれやすいか、かんがえる きっかけに なります。
うなぎの たまごが見つかった はなしは、東京だいがくの ウェブサイトで 読めます[2]。
橋の上から川岸を見る
安全のため、大人と一緒に、橋や堤防の上から川岸を見てみましょう。水には入りません。岸が石組みなのか、すき間のないコンクリートなのか、草や岩があるのかを記録します。
ウナギがそこに隠れているかどうかは見えません。それでも、「すき間のある岸は隠れ家になりうる」という環境省の説明[1]と、目の前の川を比べることができます。
もっと知りたくなったら
2009年の卵の発見は、東京大学の UTokyo Focus と2011年の発表に詳しく書かれています[2][3]。海流と分布の研究は、京都大学の研究ニュースから読めます[9]。
川岸の観察は、教科書の説明を自分の目で確かめる手がかりになる。安全のため、大人と一緒に橋や堤防の上から岸を見て、石組み・すき間のないコンクリート・草や岩の有無を記録するとよい。環境省の資料では、河岸のすき間や穴が隠れ場所として重要とされる[1]。ウナギの姿が見えなくても、岸の構造と説明を照らし合わせることはできる。
原典にあたるなら、産卵場の話は東京大学のUTokyo Focusと2011年のプレスリリース[2][3]、海流と分布は京都大学の研究ニュース[9]が出発点になる。耳石の微量元素による海ウナギの判別は、MEPS誌の論文の要旨[7]から確かめられる。
ここまで読むと、「ウナギはどこで暮らすか」の答えは1つではない。生まれる外洋、育つ川・河口・海、そして産卵の旅の途中の深い海、と場面ごとに違う。だから問いも「川か海か」ではなく、「いつ、どの段階で、どこにいるのか」へと変わっていく。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
調べた資料です。本文の[ ]の番号と対応しています。
- 環境省「ニホンウナギの生息地保全の考え方」報道発表(2017年) https://www.env.go.jp/press/103864.html (生活史、生息地、隠れ場所)
- 東京大学 UTokyo Focus「ウナギ産卵場」 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00009.html (卵の発見、3つの仮説、耳石)
- 東京大学 プレスリリース https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_230202_01.html (2000年の謎という表現)
- 本田技研工業「釣り図鑑 ウナギ」 https://www.honda.co.jp/fishing/picture-book/unagi/ (昼夜の暮らし、生息域)
- nippon.com 塚本勝巳インタビュー https://www.nippon.com/ja/currents/d00329/ (親ウナギの昼夜の動き)
- ナゾロジー「ウナギ」九州大学の研究紹介 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/64333 (皮膚呼吸、陸上移動の紹介)
- Inter-Research, Marine Ecology Progress Series 220 https://int-res.com/abstracts/meps/v220/p265-276 (耳石による海ウナギの確認)
- Inter-Research, Marine Ecology Progress Series 245 https://int-res.com/abstracts/meps/v245/p213-221 (銀ウナギの育ち方の内訳)
- 京都大学 研究ニュース(2021年) https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-03-03-0 (環境DNAと海流による分布)
- 日本水産学会誌 85巻2号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/85/2/85_18-00038/_article/-char/ja/ (自然分布域)
なおした ところ
更新履歴
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