1. ひを とおすと、むしは どう なるの?
1. 火を通すと、アニサキスは何度で死ぬのか
1. 加熱で死ぬ条件は、どの資料でもそろっているのか
アニサキスの 幼虫は、ひを とおすと しにます。めやすは、さかなの まんなかの おんどが 60ど いじょうで 1ぷん いじょう、または 70ど いじょうです[1]。
さいたま市の せつめいでは、70ど いじょうなら すぐに しぬと かかれて います[2]。ヨーロッパの しょくひんの あんぜんを しらべる きかん(EFSA)も、60ど より たかい ねつで 1ぷん いじょうと のべて います[4]。ちがう ところの せつめいが、おなじ めやすに なって いるのです。
では、むしが しんだら、それで ぜんぶ おわりなのでしょうか。
3つの自治体と海外の機関が、同じ目安を示している
愛知県の資料では、アニサキスは加熱で60℃に1分以上、あるいは70℃以上になると死ぬと説明されています[1]。さいたま市は「60度で1分、70度以上では瞬時に死滅」と書き、広島県は「70℃以上、または60℃で1分間以上」と書いています[2][3]。言い方は違いますが、目安は同じです。
海の向こうでも同じです。欧州食品安全機関(EFSA)は、幼虫を殺す方法として、60℃より高い温度で少なくとも1分の加熱を挙げています[4]。
数字が合っても、アレルギーの心配は残るのか
ここまでを読むと、「火を通せば解決」に見えます。たしかに、生きた幼虫を体に入れないという点では、加熱は確かな方法です。ただ、虫が死んだあとに何が残るかは、別の問いです。
愛知県は、60℃で1分以上、または70℃以上で幼虫が死滅すると説明する[1]。さいたま市は「60度で1分、70度以上では瞬時に死滅」と、広島県は「70℃以上、または60℃で1分間以上」と書く[2][3]。表現は違うが、数値の組は一致している。
注目したいのは、この目安が国内の資料だけのものではない点だ。EFSAも、幼虫を殺す方法として「60℃を超える温度で少なくとも1分」の加熱を挙げ、あわせて冷凍の条件を複数示している(−20℃で24時間、−15℃で96時間、−35℃で15時間)[4]。日本の目安は、国際的な評価と整合している。
ただし、数値がそろうことが示すのは、「どの条件で虫が死ぬか」までである。死んだ虫の体の成分が、人の体に対して何をするのかは、まったく別の問いになる。
2. しんだ むしなら、もう あんしんなの?
2. 虫が死んだら、アレルギーの心配もなくなるのか
2. 死んだ虫が残すもの:アレルゲンは熱でどう変わるのか
アニサキスの からだには、アレルギーの もとに なる せいぶんが あります。その なかには、ねつに つよい ものが ある と いう 研究が あります[6]。ひを とおして しんだ あとも、はんのうを おこす かのうせいが ある、と いうわけです。
ただ、ねつで アレルギーの もとが よわく なる ばあいも ある、と おなじ 研究は のべて います。ねつで あたらしい ものが できる かのうせいも あげられて います[6]。ねつの えいきょうは、よい ほうへ だけ、わるい ほうへ だけ、とは いえないのです。
EFSAは、いきた ようちゅうが いる さかなの ほうが、しんだ ようちゅうの いる さかなより、リスクが たかいと かんがえて います。でも、どのくらい アレルギーを おこすのかは、まだ ぜんぶは わかって いません[4]。
つぎは、ひを とおす とき、どこの おんどを みれば いいのかを、みて みましょう。
熱に強いアレルゲンがある
アニサキスの体には、アレルギー反応のもとになる物質(アレルゲン)がいくつかあります。2020年の総説論文は、そのなかに熱に強いものがあり、強く加工された食品でも過敏反応を起こしうると述べています[6]。愛知県の資料も、アニサキスによる症状として、じんましんやアナフィラキシーなどのアレルギー症状が出る場合があると説明しています[1]。
加熱の影響は、一方向ではない
同じ論文は、すべてのアレルゲンが熱に強いわけではないとも書いています。加熱によって、抗体が結びつく部分が壊れて、アレルギーを起こす力が下がる場合があります。反対に、加熱で新しい結びつき部分ができる可能性も紹介されています[6]。加熱は、アレルギーを必ず減らす操作とは言いきれません。
どこまで分かっているのか
EFSAは、生きた幼虫のいる魚のほうが、死んだ幼虫のいる魚よりリスクが高いと考えています。一方で、アニサキスのアレルゲンがどの程度アレルギー反応を起こすのかは、完全には分かっていないとも述べています[4]。加熱した魚で、どの量や条件なら反応が起きるのかは、まだ分かっていません。
火を通すことには意味があります。ただし「死んだのだから無害」と言いきれる段階ではありません。では、その加熱は、魚のどこで確かめればよいのでしょうか。
虫が死ねば問題は終わる、という見方には、留保がつく。2020年の総説は、アニサキスのアレルゲンには熱に強いものがあり、高度に加工された状態でも過敏反応を起こしうると述べている[6]。自治体資料も、アニサキスによる症状にじんましんやアナフィラキシーなどのアレルギー症状が含まれると説明する[1]。
とはいえ、「加熱してもアレルゲンは変わらない」と読むのは行き過ぎだ。同じ総説は、すべてのアレルゲンが熱に強いわけではないとし、加熱によってIgE(アレルギーに関わる抗体)が結合する部位が壊れ、アレルギーを起こす力が下がりうる可能性を紹介する。一方で、加熱によって新たな結合部位が生じうる可能性も挙げている[6]。つまり、加熱の影響は一方向ではない。また、熱に強いアレルゲンが実際に抗体と結合するかどうかは、今後の確認が必要とも述べられている。
EFSAの評価は、この不確かさをよく表している。生きた幼虫がいる魚のほうが、死んだ幼虫がいる魚よりリスクが高いと考える一方で、アニサキスのアレルゲンがどの程度アレルギー反応を起こしうるかは完全には明らかでないとする[4]。加熱した魚で、どの量や条件なら反応が起きるのかは、まだ分かっていない。
したがって、確かなことと不確かなことは次のように分けられる。加熱で幼虫が死ぬ条件は確かである。加熱後のアレルゲンの扱いは、研究段階の話である。次に、確かなほうの条件を実際に満たすための問題、つまり温度をどこで見るかを考える。
3. おんどは、どこで はかるの?
3. 温度は、表面でなく「中心」で見るのはなぜか
3. 測るのは表面でなく中心:大きな魚で何が問題になるのか
アニサキスの ようちゅうは、ながさが 2〜3センチ、はばが 1ミリ より ほそい、めで みえる むしです[5]。さかなの ないぞうに いる ことが おおいのですが、ないぞうから、たべる ぶぶんの 「み」へ うつる ことも あります[5]。
だから、ひを とおす ときは、さかなの ひょうめんでは なくて、まんなか、つまり ふかい ところの おんどが だいじです。
あいち県も、さかなが おおきい ときは、ふかい ところの むしにまで ひが とどいて いるか、ちゅういが ひつようだと のべて います[1]。おおきな さかなや あつい きりみは、なかまで あたたまるのに じかんが かかりますね。
虫は、身の深いところにもいる
幼虫は長さ2〜3cm、幅0.5〜1mmほどで、目で見える大きさです[5]。内臓にいることが多いのですが、内臓から身のほうへ移ることがあります[5]。そのため、加熱は身の表面だけでなく、深い部分まで届く必要があります。
数字は「中心」の温度のこと
60℃で1分、70℃以上という目安は、魚の中心の温度についての数字です[1]。表面が熱くなっても、厚みのある部分の真ん中がまだ温まっていなければ、条件を満たしたことになりません。愛知県の資料は、魚が大きい場合などに、深部にいる幼虫に対して加熱や冷凍ができているか注意が必要だと述べています[1]。
ここまでで、火を通せば虫は死ぬこと、そして温度は中心で見ることが分かりました。では、加熱ができない刺身や、酢でしめた魚はどう考えればよいのでしょうか。
加熱の条件を考えるとき、見落としやすいのは、数値がどこの温度を指すかである。愛知県は、60℃で1分以上または70℃以上に「達する」としており、これは魚の中心の温度を意味する[1]。表面が高温になっても、厚い身の中心が60℃に届いていなければ、目安は満たされない。
この点が問題になるのは、幼虫の位置が表面とは限らないからだ。幼虫は長さ2〜3cm、幅0.5〜1mmで肉眼で見え、内臓から身へ移ることがある[5]。身の深い部分にいる幼虫が加熱の条件を満たしているかは、魚体が大きいほど、注意が必要になる。愛知県も、魚体が大きい場合に、深部にいる幼虫への加熱・冷凍処理ができているか注意が必要だと述べている[1]。
なお、資料には、厚さが何cmなら何分、といった目安は載っていない。数値を作り出さず、「中心の温度で考える」という原則を覚えておくのが正確だ。では、加熱以外の手段はどう位置づけられるのか。
4. すや わさびと、れいとうは どう ちがうの?
4. 酢や冷凍と、加熱はどう使い分けるのか
4. 調味料では死なない。加熱と冷凍で幼虫を死なせる条件
すを つかった しめさばや、わさび、しょうゆ、しお。ふつうの りょうりで つかう くらいでは、アニサキスは しにません[1][3]。
むしが しぬ ほうほうは、おもに ふたつです。ひとつは かねつで、60ど 1ぷん いじょう、または 70ど いじょうです。もうひとつは れいとうで、マイナス20どで 24じかん いじょうです[3]。
れいとうは、なまの まま たべたい とき の ほうほうです。かねつは、ひを とおす りょうりの ほうほうです。どちらも、おんどと じかんを まもる ことが だいじです。
調味料では死なない
一般的な料理で使う程度の酢締め、塩漬け、しょうゆ、わさびでは、アニサキスは死にません[1]。広島県の資料も、食酢での処理や塩漬け、しょうゆやわさびを付けても幼虫は死なないと説明しています[3]。
効く手段は2つ
決まった条件で効くのは、加熱と冷凍です。冷凍の目安は、−20℃で24時間以上です[3]。広島県の資料は「24時間以上」、EFSAは「24時間」と書いています。EFSAはほかに、−15℃で96時間、−35℃で15時間という条件も挙げています[4]。冷凍は、生のまま食べる魚のための手段で、加熱は火を通す料理のための手段、と考えると整理しやすくなります。
ただし、どちらの手段も「幼虫を死なせる」ところまでの話です。死んだあとのアレルゲンについては、前の章で見たとおり、まだ分かっていないことがあります。
調味料と加熱・冷凍は、効き方が根本的に違う。一般的な料理で使う程度の酢締め、塩漬け、しょうゆ、わさびでは幼虫は死なない[1][3]。決まった条件で効くのは、加熱と冷凍である。
冷凍については、広島県は−20℃で24時間以上を示し[3]、EFSAは「−20℃で24時間」(「以上」とは書いていない)、−15℃で96時間、−35℃で15時間と、温度ごとの時間を示す[4]。温度が高いほど必要な時間が長くなる関係であり、「冷凍すればよい」ではなく、温度と時間の組で考える必要がある。
用途の違いも押さえておきたい。冷凍は生のまま食べるための手段で、加熱は火を通す料理のための手段である。いずれも、対象は生きた幼虫を死なせることで、死んだあとの成分が残すアレルゲンの問題までは解決しない。これは前章のとおり、研究段階の話である[6]。
この記事を、手元で確かめられる形に置きかえてみる。
5. だいどころで、たしかめて みよう
5. 台所で、火の通り方を見てみる
5. 自治体・EFSA・論文の資料を読み比べる
おうちの ひとが さかなを やく ときに、いっしょに みて みましょう。あつい ところを おはしで わって、まんなかまで ひが とおって いるか、みます。ひょうめんだけ やけて いても、なかが ちがう ことが あります。
やけどを しないように、かならず おうちの ひとと いっしょに やって ください。さかなの パックに、どんな ことが かいて あるかも、さがして みましょう。
厚い身を割って、中を見る
家の人が魚を焼いたり蒸したりするときに、一緒に見てみます。いちばん厚い部分を箸で割って、真ん中まで火が通っているかを見ます。表面と真ん中で、火の通り方がどう違うかが分かります。やけどに注意して、必ず大人と一緒にやってください。
原典を読み比べる
愛知県、さいたま市、広島県のページを読み比べると、60℃と70℃という同じ目安が、それぞれ別の言い回しで書かれています。どのページにも、加熱の目安のほかに、冷凍や酢などの注意が書かれているかを探してみると、資料ごとの書き方のちがいが分かります。
出発点は、愛知県「アニサキスについて」[1]、さいたま市[2]、広島県[3]の3つの自治体資料である。加熱の目安の言い回しがどう揃っているかを見比べるとよい。海外の目安は、EFSAの解説[4]に、冷凍の複数の条件とあわせて載っている。
注意したいのは、資料によっては75℃で5分という数字も見かける点だ。これは別の寄生虫(クドア)についての数値で、アニサキスの目安とは別である[5]。数字を借りるときは、どの生きものの話かを確かめたい。
加熱後のアレルゲンについては、2020年の総説[6]が出発点になる。この記事は、書かれた内容を整理したもので、診断や治療の助言ではない。体調に不安があるときは、医療機関の判断による。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。数字や条件は、資料によって細部が異なることがあります。
- 愛知県「アニサキスについて」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/konan-hc/anisakis.html (加熱の目安、中心温度、調味料、症状)
- さいたま市 サイエンスナビ「アニサキス」 https://www.city.saitama.lg.jp/sciencenavi/kenkou/001/p011554.html (加熱の目安の別の表現)
- 広島県「アニサキス」 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/58/anisakisu.html (調味料で死なないこと、冷凍の目安)
- EFSA "EFSA evaluates parasites in fish" https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/biohaz100414 (海外の加熱・冷凍の条件、アレルゲンの不確かさ)
- 神戸市「寄生虫による食中毒」 https://www.city.kobe.lg.jp/a99427/kenko/health/hygiene/food/food_poisoning/parasite.html (幼虫の大きさ、内臓から身への移動)
- Kochanowski et al. 2020, Biomolecules 10(7):1066 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7407331/ (熱に強いアレルゲン、加熱の影響が一方向でないこと)
なおした ところ
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