1. どうして 1回では とじないの?
1. 雨つぶで閉じたら損。だからハエトリソウは「2回」待つ
1. 1回では閉じない ── 6本の感覚毛と、2回目までの「記憶」
ハエトリソウは、葉を かいがらの ように ひらいて、虫を まって います。葉の 中には、小さな 毛が 6ぽん あります[1]。
もし 雨つぶや ごみが ふれる たびに とじたら、むだに なりそうです。そこで ふしぎな ことが おきます。毛に 1回 ふれただけでは、葉は とじません。2回 ふれると、ぱくっと とじます[1]。
2回目が 15〜20びょう いない だと、葉は すぐ とじると する 研究が あります[3]。研究を しょうかいした 記事では、30びょうくらいと 書かれて います[2]。1回目を おぼえて いるように 見えます。ただし 時間の 長さは、しらべ方で かわります。
毛に1回ふれても、葉は動かない
ハエトリソウの葉の内側には、感覚毛という毛が6本あります。ここに虫の足などがふれると、葉が閉じます。ところが、1回ふれただけでは閉じません。2回ふれると、はじめて葉が閉じます[1]。
雨つぶが落ちたり、ごみがのったりするたびに閉じていたら、むだが多くなりそうです。2回という条件が、本物の虫を見分ける最初の関門になっていると考えられます。
1回目を「おぼえている」時間
基礎生物学研究所などの2020年の研究を紹介した記事では、1回目のあと約30秒以内に2回目があると、約0.3秒という速さで葉が閉じるとされています[2]。1回目の刺激を、30秒ほどおぼえている形です。
ただし、この秒数は条件で変わります。2016年の論文では、電気信号が2回起きる間隔が15〜20秒以内なら、葉は1秒もかからず閉じると書かれています[3]。30秒は研究紹介記事の数字なので、このメモでは「数十秒以内」という幅で読んでください。
ハエトリソウ(Dionaea muscipula)の葉の内側には6本の感覚毛があり、1回の接触では葉は閉じず、2回で閉じる[1]。雨粒や葉くずに毎回反応すれば、閉じる運動もその後の消化も無駄になる。そこで、「どれだけ続けて刺激されたか」が判断材料になっていると読める。
では、その「続けて」は何秒までか。Böhmらの2016年の論文は、感覚毛の刺激で生じる電気信号(活動電位)が15〜20秒以内に2回起きると、捕虫葉は1秒未満で閉じるとする[3]。2020年のNature論文を紹介した記事は、1回目のあと約30秒以内の2回目で葉が約0.3秒で閉じるとする[2]。
数字に幅があるのは、実験条件の差による可能性がある。15〜20秒と約30秒のどちらかが正しい、という読み方はしない。このメモでは、閉じるかどうかは「短い時間内の2回」で決まり、その時間は条件で数十秒の範囲で動く、と読む。後者の紹介記事は原論文を直接読んだものではないので、秒数を強く使わない。
2. とじた あと、なにを かぞえるの?
2. 閉じたあとも「数えて」いる ── 虫が動くほど、消化が進む
2. 閉じたあとの計数 ── 3回超で消化酵素、5回以上でナトリウム
葉が とじても、おわりでは ありません。つかまった 虫は、中で もがきます。もがくと、また 毛に ふれます。
ふれた 回数が ふえると、葉は ほんものの 虫だと かくにんする ように、消化の じゅんびを すすめます[3]。回数が 5回 くらいに なると、栄養を とり入れる しくみも はたらきます[4]。
ごみや 雨つぶは、中で もがきません。だから 回数は ふえず、消化は はじまりません。
虫がもがくほど、スイッチが増える
葉が閉じても、すぐ消化が始まるわけではありません。つかまった虫は中でもがき、そのたびに感覚毛にふれます。ふれるたびに電気信号が起き、その回数に応じて、葉の中で別々のはたらきが入っていきます。
2016年の論文では、電気信号が3回を超えると、獲物を分解する酵素をつくる遺伝子が動き始めるとされています。5回以上になると、獲物からナトリウムをとり入れる仕組みも動くようです[3]。
数字には少しずれがある
ヴュルツブルク大学の発表では、2回以上でけがやしげきのホルモンの経路が動き、5回以上で約3万7000個の腺が消化酵素の遺伝子を働かせるとされています。数えたふれ方は、最初のあと少なくとも4時間はおぼえているそうです[4]。
原論文は「3回超」、発表は「5回以上」と、言い方がちがいます。ここでは「3〜5回ほど」と幅をもたせて読むのが安全です。
葉の中の虫が動くと、感覚毛に繰り返しふれる。ここで回数が、第2の判断材料になる。Böhmらは、活動電位が3回を超えると、獲物を分解する加水分解酵素の遺伝子発現が起き、5回以上でナトリウム取り込みの仕組みも動くとした[3]。つまり、1つの「5回」ではなく、酵素は3回超、ナトリウムは5回以上と、段階ごとに別の回数が要る。
これは、葉が閉じたあとも「本当に動く獲物か」を確かめ続けていると読める。ふれる回数が少なければ、消化にかかる費用は払われない。ただし、こうした「費用対効果」の説明は報道的な解釈で、論文の主張そのものではない点に注意したい。
ヴュルツブルク大学の発表文は、2回以上で傷害・接触応答に関わるジャスモン酸の経路が動き、5回以上で約37,000個の腺すべてで消化酵素の遺伝子が働くと述べ、数えた接触は最初の刺激から少なくとも4時間は保持されるとする[4]。論文の「3回超」と発表文の「5回以上」は表現がちがうので、本文は「3〜5回前後」と幅をもたせて読む。
3. ふれた ことを、どこで かんじるの?
3. 「さわった」を感じる部品が、2025年に見つかった
3. 触覚センサーDmMSL10 ── 感覚毛の根元で、何がふれた力を電気に変えるか
では、毛に ふれた ことを、葉は どこで かんじるのでしょうか。
2025年に、日本の 大学などの 研究で、毛の 根もとに ある 「DmMSL10」という ぶっしつが 大切だと わかりました[1]。
この ぶっしつを はたらかなく した ハエトリソウでは、電気の 合図が 出ませんでした。アリを つかまえる 力も、へりました[1]。
毛の根元にある「センサー」
毛にふれたことを、葉は何で感じているのでしょうか。埼玉大学と基礎生物学研究所の研究では、感覚毛の根元にあるDmMSL10というタンパク質が見つかりました。2025年9月30日にNature Communicationsに掲載されています[1]。
この遺伝子を働かなくした株では、ふれても電気信号もカルシウムの信号も出ませんでした。アリをつかまえる成功率も下がりました[1]。細胞の膜がのばされると、イオンを通す仕組みだと考えられています[1]。
仕組みは、まだ全部は分かっていない
1回目の刺激で何が起きて、2回目を待てるのかについて、カルシウムの信号が「さわった記憶」のように働いている可能性が示されています[1]。ただし「可能性」の段階です。
ところで、毛にふれた力を電気信号に変えるのは何か。2025年9月30日付のNature Communicationsの報告(埼玉大学・基礎生物学研究所)は、感覚毛の根元に局在するタンパク質DmMSL10を挙げた[1]。DmMSL10の遺伝子を無効にした株では、接触しても活動電位もカルシウムシグナルも生じず、アリの捕獲成功率が大きく下がった[1]。
このタンパク質は、細胞膜が引き伸ばされるとイオンを通す機械受容チャネルとして働くと考えられている[1]。なお、研究紹介には、カルシウムシグナルが「触った記憶」のように働き、2回目の反応を可能にしている可能性も書かれる[1]。
「記憶」という語は比喩で、神経細胞のような記憶そのものを示すものではない。このメモも、「保持される刺激」というくらいの意味で使っている。DmMSL10がセンサーの全体なのか、一部なのかについては、この段階では言い切らない。
4. モウセンゴケは、水と 虫を どう 見わけるの?
4. モウセンゴケは、水滴にはほとんど反応しない
4. モウセンゴケ(Drosera capensis) ── 水滴と獲物を、ジャスモン酸の量で分ける
モウセンゴケの 葉には、ねばねばした つぶの ついた 毛が たくさん あります。虫が つくと、毛が まがって つつみます。
ところが、水の つぶでは 毛は うごきません。しらべると、水では 「ジャスモンさん」という 合図の もとが ほとんど ふえませんでした。虫では、数百ばいに ふえました[5]。
ハエトリソウと おなじ しくみかは、まだ わかって いません。ふれた 力や、虫の からだの 水に とけた ものに はんのうして、虫かどうかを 見わけて いる ようです。
水滴にだまされない
モウセンゴケの葉には、先に粘液のつぶをつけた触手がたくさん並んでいます。虫がつくと、触手が曲がって虫を包みます。ところが、ダーウィンの時代から、水滴では曲がらないことが知られています[5]。
Drosera capensisという種の研究では、水滴では消化を始める合図のジャスモン酸がほとんど増えませんでした。虫の場合は、少なくとも数百倍に増えるとされています[5]。この倍率は部位や物質で幅があり、1つの数字にはなりません。
水滴でも、少しは反応する
水滴で電気信号がまったく出ないわけではありません。ただ、曲がるには複数回の活動電位が必要とされ、機械的な刺激や虫の成分のときのほうが、はっきり多くなります[5]。
モウセンゴケ属の触手は、水滴では曲がらず、機械的刺激や溶けた化学物質で曲がることが、ダーウィン以来知られている[5]。曲がるには、複数回の活動電位が必要とされる[5]。
では、水滴と獲物を分けるものは何か。2023年のPlantsの論文は、Drosera capensisで、水滴が消化の過程を起動できない理由を、ジャスモン酸が閾値に達しないことに求めた。獲物(虫)では、ジャスモン酸は少なくとも数百倍に増える。倍率は部位・物質で220〜1100倍と幅があるので、1つの数字には絞らない[5]。
ただし、水滴で活動電位がまったく出ないわけではない。この論文の紹介には、水滴でも活動電位が出る(機械的刺激より少ない)例が出る[5]。したがって、「水には反応しない」は言い過ぎで、正しくは「回数とジャスモン酸の蓄積が、起動に必要な水準に届かない」ことになる。ハエトリソウの「回数による閾値」と、同じ型の仕組みと読めるが、同じ分子が働いているかどうかまでは、これらの資料からは言えない。
5. タヌキモは、どう 虫を すいこむの?
5. タヌキモは「扉の4本の毛」で小さな虫を吸いこむ
5. タヌキモ属の捕虫嚢 ── 4本の感覚毛と、1ミリ秒未満の吸引
みずの 中に いる タヌキモにも、虫を とる ふくろが あります。ふくろの 入り口には 小さな とびらが あり、毛が 4ほん あります[6]。
えさに なる のは、おもに 小さな 甲殻類です。毛に ふれると、とびらが ひらいて、水ごと すいこみます。この すいこみは、1ミリびょうより みじかい 時間で 終わります[6]。
1ミリびょうは、1びょうを 1000に わけた 1つぶんです。
水の中の、吸いこみの罠
タヌキモは水の中にすむ食虫植物で、捕虫嚢というふくろをもちます。ふくろの入り口は扉になっていて、扉の外に4本の感覚毛が出ています[6]。
獲物が毛にふれると扉が開き、水といっしょに獲物が吸いこまれます。この捕獲は1ミリ秒(1000分の1秒)未満で終わります。獲物は、おもに小さな甲殻類です[6]。
速さをくらべると
1ミリ秒未満というのは、ハエトリソウの約0.3秒(300ミリ秒)とくらべると、数字のうえでは300倍以上の速さです。ただし、はかり方がちがうので、あくまで目安です。どちらの場合も、「ふれたら動く」という仕組みで、虫を逃がさないようにしています。
タヌキモ属(Utricularia)の捕虫嚢は、水中で吸引式の罠として働く。入口の扉には4本の感覚毛(trigger hairs)が突き出し、獲物が触れると扉が開いて吸い込む。捕獲は1ミリ秒未満で、獲物は主に小さな甲殻類である[6]。
ここまでの3種を並べると、感知の方式はそれぞれちがう。ハエトリソウは、2回の接触と、その後の接触回数で段階的に進む。モウセンゴケは、水滴と獲物を、ジャスモン酸の蓄積量で分ける[5]。タヌキモは、扉の毛が触れた時点で吸引を引き起こす[6]。
また、捕虫方式には、粘液式(モウセンゴケ)、二枚貝式(ハエトリソウ)、落とし穴式(ウツボカズラ)、吸引式(タヌキモ)などがあり、やせた酸性の土壌で、獲物から窒素やリンを得る点は共通だ[7]。ウツボカズラのような落とし穴式は、接触を感知するというより獲物が滑り落ちる構造で、この記事の「感知」の比較からは外した。
「1ミリ秒未満」と「約0.3秒」は、種も定義もちがう数字なので、300倍以上という比は目安にとどめる。
6. 見に いったら、なにを さがす?
6. 食虫植物を見に行くなら、葉の内側の「毛」を探そう
6. 資料と観察のてびき ── 原論文と、実物の感覚毛
しょくぶつ園や 花やさんで、ハエトリソウを 見つけたら、葉の 中の 小さな 毛を さがして みましょう。6ぽん あるか かぞえて みます。
さわって いいか どうかは、まず お店や 園の 人に たずねます。見るだけでも、ふしぎは たくさん 見つかります。
おうちでは、とけいを 見ないで 心の 中で 30びょうを かぞえ、おわったら とけいと くらべて みましょう。葉が 1回目を まって くれる 時間は、数十びょうくらいと いわれます。それが どのくらいの 長さか、からだで たしかめられます[2]。
見て、数えて、時間をはかる
植物園や園芸店で、ハエトリソウを見かけたら、葉の内側に毛が何本あるか数えてみてください。6本ならば、この記事の話と同じです。さわってよいかどうかは、まず園や店の人にたずねます。
数十秒の長さを、自分で体験する
家では、時計を見ずに心の中で30秒を数え、終わったら秒針と比べてみましょう。葉が1回目のあと2回目を待つ時間は、研究紹介記事では約30秒とされ、条件で幅があります[2]。葉の記憶そのものは確かめられませんが、数十秒がどのくらいの長さかは体で分かります。
もっと知りたくなったら
モウセンゴケやタヌキモも、園や店で見られることがあります。同じ「虫を見分ける」でも、毛のしくみや水のなかの動きなど、見分け方がまったくちがうところを、見比べてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号は、この一覧の番号に対応します。英語の資料の内容は、日本語にして書いています。
- 科学技術振興機構 Science Japan「ハエトリソウの触覚センサー(埼玉大学・基礎生物学研究所)」 https://sj.jst.go.jp/stories/2025/s1224-02p.html (感覚毛6本・2回で閉じる・DmMSL10)
- Nazology「ハエトリソウの記憶(基礎生物学研究所の2020年Nature論文の紹介)」 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/70809 (約30秒・約0.3秒)
- Böhm J. ほか (2016) Current Biology(PMC版). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4751343 (15〜20秒・3回超・5回以上)
- ヴュルツブルク大学ニュース「Plants can do maths」 https://www.biozentrum.uni-wuerzburg.de/en/news/archive/news-single/news/plants-can-do-maths-2/ (2回以上・5回以上・約37,000の腺・4時間)
- Plants (2023) “Water Cannot Activate Traps of Drosera capensis”(PMC版). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10181276/ (水滴とジャスモン酸)
- フライブルク大学プレスリリース (2011). https://www.pr.uni-freiburg.de/pm-en/2011/pm.2011-02-16.38-en (タヌキモの4本の毛・1ミリ秒未満)
- コトバンク「食虫植物」(世界大百科事典ほか) https://kotobank.jp/word/%E9%A3%9F%E8%99%AB%E6%A4%8D%E7%89%A9-80162 (捕虫方式の分類)
なおした ところ
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