1. うまれた ばかりの ひよこは、おなかが すいて いないの?
1. 生まれたてのひよこは、お弁当を持って出てくる
1. 卵黄の残りは、ふ化後の最初の栄養源になる
たまごを わると、まんなかに きいろい「きみ」が あります。ひよこは、この きみを たべて そだちます。
うまれる ときには、きみが すべて なくなる わけでは ありません。のこった きみを、おなかの なかに しまって、うまれて きます[1]。
だから うまれた ばかりの ひよこは、えさを たべなくても、さいしょの すうじつは いきて いけると いわれます[1]。きみは、ひよこの「さいしょの おべんとう」です。
ただし、なんにち もつかは、ひよこの ようすや まわりの ようすで ちがいます。ここでは「さいしょの すうじつ」と おぼえて おきましょう。
では、えさを たべた ひよこと、たべなかった ひよこでは、おべんとうの へりかたは おなじでしょうか。
卵を割ると、黄身が真ん中にあります。ひよこは卵の中で、この黄身を栄養にして育ちます。そして生まれるときには、使いきれなかった黄身が、おなかの中に取りこまれて残っています。
家畜の初期の餌やりを調べた研究を整理した解説によると、この残った黄身は、外から餌がとれるようになるまでのひよこにとって、大切な栄養源として使われます。生まれて最初の数日は、これで体を保てるといわれます[1]。つまり答えの一つは、「生まれたばかりのひよこは、まず自分のおなかのお弁当を食べている」ということです。
何日もつかは研究や条件によって幅があるので、ここでは「最初の数日」としておきます。
お弁当があるのなら、ひよこはいつから餌をつつけば足りるのでしょうか。じつは、早めに餌を食べるひよこのお弁当の減り方は、少し変わるようです。
卵黄は胚の栄養として卵の中で使われ、ふ化の時点で使いきれなかった分が卵黄のうとして腹腔内に残る。Noyらの1996年の研究にもとづく整理では、この残存卵黄は外部から餌が与えられるまでのひなの栄養に使われ、ふ化後の最初の数日は維持に使える[1]。
ここで「何日もつか」を数字で言い切らないのは、解説によって3〜4日、5日などと幅があるためである。条件(品種・温度・給餌の有無)によって変わるとみるのが妥当だろう。ここでは、ふ化直後のひなは外から餌をとらなくても最初の数日は体を保てる、と考えておく。
では、その卵黄は、餌を食べたかどうかでどう使われ方が変わるのか。
2. えさを たべると、きみの おべんとうは どう なるの?
2. 餌を食べたひよこは、黄身を早く使い切る
2. 給餌と卵黄の利用 ── 腸への経路は72時間まで続く
イスラエルの けんきゅうしゃが しらべた けっかが あります[2]。うまれた ひよこを、えさを たべる ぐんと、たべない ぐんに わけて くらべました。
えさを たべた ひよこの ほうが、きみを はやく つかい きりました[2]。えさが はいると、きみを つかう しくみも、はやく うごき だす のかも しれません。
きみの なかみは、おなかの ふくろ から、ちょうへ おくられて いきます。この はこびは、うまれてから 72じかん、つまり 3にちの あいだ つづきました。72じかんごろには、みちの いちぶが ふさがって いきます[2]。
つまり、えさを たべる ことと、きみを つかう ことは、いっしょに すすんで いくのです。この けんきゅうは、にくを とる ための にわとりの ひよこで しらべた ものです。
では、ひよこは えさを たべる のに、どれくらいの じかんを つかって いるのでしょう。
生まれたあと、餌を食べたひよことそうでないひよこを比べた研究があります。肉用の鶏のひよこで調べた報告の要旨では、餌を食べたひよこのほうが、絶食させたひよこよりも黄身を速く使っていました[2]。
黄身の成分は、卵黄のうと呼ばれる袋から腸へ送られていきます。この移動は、ふ化後72時間(3日間)まで続き、72時間のころには、通り道の一部がリンパ系の細胞でふさがれていた、と報告されています[2]。
ここから分かるのは、餌とお弁当は「どちらか一方」ではなく、入れかわりながら使われるということです。最初の3日間ほどが、お弁当から餌へ主役が移る時期にあたるようです。
では、ひよこは実際に、1日のどれくらいを餌をつつくのに使うのでしょうか。
卵黄の利用は、給餌の有無に影響される。肉用鶏のひなを給餌群と絶食群に分けた研究の要旨によれば、卵黄は給餌群のほうが速く使われた。卵黄成分の腸への移行は、ふ化後72時間まで続き、主要な経路だった卵黄柄は、72時間の時点でリンパ系の細胞により一部が閉塞されていた[2]。
この結果は、外から入る餌が、卵黄の消化・吸収を促す方向に働いたと読める。ただし資料は要旨であり、速さの差の大きさや、その仕組みの詳細は書かれていない。また対象は肉用鶏のひなで、採卵用の品種で同じ結果になるとは言えない。
72時間という値も、「3日たつと卵黄が尽きる」という意味ではない。移行の経路が変化する時期を示すだけである。では、その3日前後に、ひなの採食行動そのものはどう変わるのか。
3. ひよこは、1にちの どれくらいを たべて すごすの?
3. 食べる時間は、3日目から日ごとに長くなる
3. 採食時間の増加 ── 3日齢で33%、10日齢以降は50〜60%
ひろしまだいがくの ひとたちが、しろい ひよこ(しろいろ レグホーン)を かんさつ しました[3]。ひよこは おすの 3わで 1つの ぐんです。あかりを つけて いるのは、1にちに 10じかんでした。
えさを たべるのに つかった じかんは、うまれて 3にちめで、10じかんの 33パーセントでした。およそ 3じかん 20ぷんです[3]。
4にちめは 42パーセントで、4じかんより すこし ながく なります。10にちめから 32にちめは、50から 60パーセントでした。つまり 5じかんから 6じかん、たべて いた ことに なります[3]。
はじめは すこしだけ。ひを おうごとに、えさを たべる じかんが のびて いきます。これは あかりが 10じかんの ばあいの はなしです。
でも、はの ない ひよこは、たべた えさを どうやって こなして いるのでしょう。
広島大学の研究者が、白色レグホーンの雄のひよこ3羽を1つの群として、毎日10時間の照明のもとで採食の様子を記録しました[3]。
餌つけをしたあと、採食に使った時間は、3日齢で10時間のうち33%、4日齢で42%でした。10日齢から32日齢では50〜60%になっています[3]。時間にすると、3日齢でおよそ3時間20分、10日齢以降は5〜6時間です。
お弁当を使いながら練習をはじめた最初の数日は、食べる時間が短く、そこから日ごとに伸びていく様子が見えます。ひよこの1日は、日がたつほど「食べて過ごす時間」が長くなるようです。
ただし、この数字は照明が10時間で、雄3羽の群での観察です。1日24時間に直した割合ではありません。飼い方が変われば数字も変わる点に注意が要ります。
これだけ餌をつつくひよこですが、鳥には歯がありません。どうやって餌をこなすのでしょうか。
採食行動の変化は、広島大学の報告が具体的な数字を示している。白色レグホーンの雄3羽1群を、1日10時間の照明下で観察したところ、餌つけ後に採食へ使った時間は、3日齢で10時間の33%、4日齢で42%、10〜32日齢では50〜60%だった[3]。
10時間に対する割合なので、時間に直すと3日齢が約3.3時間、4日齢が約4.2時間、10日齢以降は5〜6時間となる。前章の卵黄の利用が3日齢前後で一段落することと並べると、卵黄に頼る期間から餌に頼る期間へ移るころに、採食時間が急に伸びていく、という流れが読める。ただし両者は別々の研究であり、一方がもう一方の原因とは言えない。
この数字には、条件の限定が多い。照明10時間は実験の設定で、24時間の割合ではない。観察は雄3羽の1群であり、品種や飼い方が変われば値も変わりうる。それでも、この条件で観察したひなでは、日齢とともに採食時間が増える傾向が実測の数字で見られた点は重要である。では、増えた採食量を、歯のない鳥はどう処理するのか。
4. はの ない ひよこは、えさを どうやって こなすの?
4. 歯のないひよこは、砂肝で餌をすりつぶす
4. 筋胃と砂礫 ── 歯のない鳥の「すりつぶす」仕組みと、その限界
にわとりには はが ありません。たべた ものは、すなぎも(きんい)と いう ところで すりつぶされると いわれます。
すなぎもの かべは、つよい きんにくで できて います。のみこんだ すなや こいしが、えさを こまかく する てつだいを して いると いわれて います。
むかしの けんきゅうに、しろい にわとりの ひよこ 100わを、すなや こいしを あげる ぐんと、あげない ぐんに わけて、10しゅうかん かって くらべた ものが あります[4]。
こいしを あげた ぐんは、すなぎもが はっきりと おおきく、おもく なりました[4]。ただし、4しゅうかんめまでは、はっきりした ちがいは みられませんでした。
だから「こいしが ないと そだたない」とは いえません。それでも こいしは、すなぎもが しっかり そだつ ための たすけに なる ようです。
鳥は歯をもたない代わりに、筋胃(砂肝)で食べたものをすりつぶします。筋胃の壁は強い筋肉でできています。飲みこんだ砂や小石も、餌を細かくする助けになっているといわれます。
この小石の役割を調べた、1960年代の研究があります。白色レグホーンの雄のひよこ100羽を、10週齢になるまで砂礫(砂や小石)を与える群と与えない群で飼ったところ、与えた群では筋胃の横径と重さが著しく大きくなりました[4]。
ところが、4週齢までは、筋胃に残る砂礫の量が筋胃の発達に影響するとは認められませんでした[4]。小石の効果は、育ちはじめの数週間ではなく、もう少したってから目立ってくる、と読めます。
この研究から「小石がないとひよこは育たない」とまでは言えません。分かるのは、小石があると筋胃がより大きく丈夫に育つ傾向がある、という範囲です。
ニワトリは歯をもたず、摂取した餌は筋胃(砂肝)で機械的に粉砕される。筋胃壁は厚い筋層からなり、飲みこんだ砂礫も餌の粉砕を助けるとされる。砂礫の有無と筋胃の発達の関係を実験的に調べたのが、大谷(1967年、広島大学水畜産学部紀要)の報告である。
白色レグホーンの雄の初生雛100羽を10週齢まで、砂礫を給与する群としない群で飼育したところ、給与群の筋胃は横径と重量が著しく増した[4]。ただし4週齢までは、筋胃内に残る砂礫の量が筋胃の発達に及ぼす影響は認められなかった。
この結果の読み方には限界がある。第一に、半世紀以上前の1種類の品種での実験であり、現在の肉用鶏や、野外で自由に餌を探すニワトリにそのまま当てはめられない。第二に、「砂礫がなくては発達しない」という意味ではなく、与えた群で大きくなる傾向があった、という報告である。第三に、孵化直後のひなが自分から小石をついばむ行動を直接調べた資料は、今回の材料に含まれない。
以上から、歯のない体の工夫は、「小石を使う仕組み」と「筋胃そのものを育てる過程」の両方に分けて考える必要がある。では、こうした孵化直後の餌が、飼育の現場でどう扱われているのか。
5. さいしょの えさは、どのくらい だいじだと かんがえられて いるの?
5. オランダは、ふ化後36時間以内の餌と水を求めている
5. 初期給餌の制度化 ── オランダの事例とその読み方
おおくの ひよこが うまれる にわとりの ようけい では、うまれてから えさを あげる までの じかんが もんだいに なりました。
オランダでは、ひなが うまれてから 36じかん いないに、えさと みずを つかえる ように する きまりが、ほうどうされて います。まえは 60じかんまで ゆるされて いました[5]。
これは にほんの きまりでは ありません。「ひなが はやく えさや みずを つかえる ように しよう」と いう、ひなを だいじに する かんがえ から きまった ものだと されて います。
うまれた ばかりの えさが、それだけ たいせつだと かんがえる ひとが いる、と いう はなしです。
生まれたあとの餌が、どれくらい大事だと考えられているのか。その一例がオランダです。
養鶏の業界紙によると、オランダでは、最初のひなのふ化から36時間以内に、すべてのひなが餌と水を利用できるようにする規則が報じられています。それまでは60時間まで許されていました[5]。
ここで気をつけたいのは、これが日本の基準ではないことと、「ひなが早く餌や水を使えるようにすべきだ」という動物福祉の考えから決まった規則だという点です。なぜ36時間なのかという数字の科学的な根拠までは、この資料から決められません。
ただ、「ふ化直後にも餌が要る」という考えが、研究室の中だけでなく、決まりとして形になった例とは言えそうです。
初期給餌の重要性は、制度面にも表れている。業界紙によれば、オランダでは、最初のひなのふ化から36時間以内に、すべてのひなが餌と水を利用できるようにする規則が報じられている。従来は60時間まで許されていた[5]。
読み方の注意点は3つある。一つは、これが日本の基準ではなく、オランダの事例であること。二つ目は、理由が「ひなが早く餌や水を使えるようにすべきだ」という動物福祉の主張であり、36時間という具体的な数値の科学的根拠を、この資料は示していないこと。三つ目は、前章までの研究(卵黄の利用速度や採食時間)と、この規則とのあいだに、直接の因果が示されているわけではないことである。
それでも、卵黄の残りが最初の数日の栄養源になることと、餌を食べたひなが卵黄を速く使うことを合わせれば、「孵化直後の数日に餌をいつ与えるか」が実務上の関心事になる理由は、読み取れる。ひなは自分の中にある弁当と、外から入る餌の両方を使って、最初の数日を乗りこえている。
6. ゆで たまごの きみを みて、ひよこの おべんとうを そうぞう しよう
6. ゆで卵の黄身を見て、ひよこのお弁当を想像する
6. 数字を自分の生活に引きつけ、資料を読み比べる
ゆで たまごを おとなに つくって もらい、はんぶんに きって みましょう。まんなかの きいろい ところが「きみ」です。
おみせで うって いる たまごからは、ひよこは うまれて きません。それでも、ひよこの さいしょの おべんとうは、この きみが もとに なって いる のだと おもうと、みえかたが かわります。
もう ひとつ。1にちの ごはんの じかんを、とけいで はかって みましょう。ひよこが 5じかんから 6じかん たべて いたのと、くらべて みると おもしろい です。
ひよこの すがたを おもいうかべたら、かぞくに「ひよこは うまれて すぐ なにを たべるのか しってる?」と きいて みるのも いいですね。
家にあるゆで卵を、大人に作ってもらって半分に切ってみましょう。真ん中の黄色い部分が黄身です。スーパーで売られている卵からはひよこは生まれませんが、ひよこの最初のお弁当は、この黄身をもとにしたものです。
もう一つ、時計を使う方法があります。自分が1日に食事をしている時間を合計して、ひよこの採食時間(照明10時間の条件で観察した、10日齢以降の5〜6時間)と比べてみてください。ひよこが「食べて過ごす」時間の長さが、実感できるかもしれません。
もっと知りたくなったら、広島大学の学術情報リポジトリ(出典欄の[3][4])で、日本語の研究報告を読むことができます。数字がどんな条件で出てきたのか、原文で確かめられます。
数字を目で確かめるなら、ゆで卵の黄身を見て、これが卵の中でどのように使われるのかを想像するとよい。市販の卵は無精卵なので、ひなは生まれない。それでも、黄身が胚の栄養源であり、一部がふ化後も体内に残るという話に、実物が結びつく。
資料の読み比べも手がかりになる。Noyらの整理[1]は卵黄を最初の栄養源としており、要旨[2]は給餌で卵黄の利用が速まることを、広島大学の報告[3]は採食時間の伸びを示す。この3つは別々の研究で、条件も品種も異なるため、並べて読むときは「同じ場面の別の側面」と注意して扱う必要がある。
残る課題として、ふ化直後のひなが自分から小石をついばむ行動を直接扱った資料が見つかっていない点がある。1967年の砂礫給与の実験[4]の次の問いとして、自分で原典を当たって確かめるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:研究報告と学術機関の資料を主に使い、英語の資料は要旨と解説の範囲で補助的に使った。何に使ったかは、それぞれの項目に書いている。
- Wikipedia「Early feeding」(Noy et al. 1996 などを引用した解説)。https://en.wikipedia.org/wiki/Early_feeding (残った卵黄が最初の栄養源になることの整理。英語の二次資料)
- Routes of yolk utilisation in the newly hatched chick(British Poultry Science 要旨)。https://cris.huji.ac.il/en/publications/routes-of-yolk-utilisation-in-the-newly-hatched-chick/ (給餌と卵黄の利用速度、72時間までの移行について。英語の要旨)
- 広島大学学術情報リポジトリ「ひなの採食行動」。https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2038131 (日齢ごとの採食時間の割合について。照明10時間・雄3羽群の観察)
- 大谷勲「鶏の消化に関する基礎的研究Ⅲ」広島大学水畜産学部紀要(1967)。https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2038079 (砂礫の有無と筋胃の発達について)
- Poultry World「Early feeding to become mandatory」。https://www.foodagribusiness.world/poultry/early-feeding-to-become-mandatory (オランダの36時間規則について。業界紙の報道)
なおした ところ
更新履歴
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