1. あなごは、ひるま どこに いるの?
1. 昼間のマアナゴは、どこにひそんでいるのか
1. 昼の砂泥底:「穴子」という名と分布域
あなごは、海の ふかい ところの、すなや どろの 中に すんでいます。ひるまは、そこに ある あなや、いわの すきまに かくれています。この くせから、「あなご」という 名まえが ついたと いわれています[3]。
すんでいる 場所は、とても ひろいです。北海道より 南の 日本の 海の、ほとんど どこにでも います。すなや どろの ところが すきで、水の ふかさは 三百メートルより あさい ところです[1][4]。
ひるまは かくれているのなら、夜には なにを しているのでしょう。
2. 夜の あなごは、なにを して いるの?
2. 夜になると、エサを探して動き出す
2. 夜の摂餌と、水深・水温による季節変化
日が しずむと、あなごは えさを さがして うごきはじめます。たべるのは、えびや かにの なかま、ゴカイの なかま、小さな 魚などです[2]。
いる 場所も きせつで かわります。春から 秋は 水の ふかさ 二十メートルあたり、冬は 四十メートルあたりが 中心だと いう しりょうが あります[2]。冬の ほうが、すこし ふかい ところに います。
水の あたたかさにも わけが あります。十四度から 二十三度くらいの ときに よく 食べ、九度より ひくい とき、二十五度より たかい ときには ほとんど 食べなく なると いう 研究の れいが あります[2]。
こんなふうに、あなごは 海の ふかい ところで、きせつに あわせて くらして います。では、あなごの この くせを つかう 人たちは、どんな やり方で とっているのでしょう。
夜、マアナゴはエサを探して動き出します。甲殻類、多毛類(ゴカイの仲間)、小魚、貝などを食べる肉食の魚です[2]。
いる深さは、季節で動きます。主な生息域は水深10〜60mで、春から秋は水深20m付近、冬は40m付近が中心だという資料があります。砂礫(砂利まじり)の海底より、砂泥の海底に多いとも書かれています[2]。冬に深いほうへ移る理由までは、資料には出ていません。
水温との関わりも調べられています。マアナゴが餌をよく食べるのは14〜23℃ほどで、約9℃以下や25℃以上ではほとんど食べなくなるそうです。7〜8月と1〜3月は成長が止まって体重が減り、9〜11月に急に育つ、という報告もあります。ただし水温の数字は、ある研究での一例として読むのがよいでしょう[2]。
穴にもぐって、夜に動く。この習性をうまく使った漁があります。
夜行性のマアナゴは、日没後に餌を探して活動を始める。食性は肉食で、甲殻類、多毛類、魚類、貝類などを食べる[2]。
分布する水深は10〜60mが主で、春〜秋は20m付近、冬は40m付近が中心とされる。砂礫域より砂泥域に多い[2]。茨城県の資料にある「300m以浅」は最大の範囲であり、10〜60mは主な範囲であって、両者は矛盾しない。
水温と摂餌も関係する。14〜23℃で甲殻類・多毛類・魚類を食べるのに対し、約9℃以下や25℃以上ではほとんど食べなくなる。7〜8月と1〜3月は成長が止まって体重が減る一方、9〜11月は日間成長率が1.1〜1.6%と急激に伸びる[2]。これらは特定の研究・水域の値で、固定値ではない。そのため、冬に深場へ移ることと、水温が低いと食べなくなることが因果でつながっているかは、この資料からは言えない。
昼に穴へ潜り、夜に動くという一日のリズムは、漁にも利用されている。
3. あなごの くせを つかった りょうとは?
3. 穴にもぐるくせを使った「筒漁」
3. 潜る習性を利用した筒漁と、その研究
あなごは あなに もぐる くせが あります。この くせを つかった「あなごつつりょう」という りょうが あります。ながい つつを 海に しずめておくと、あなごが 中に もぐりこみます。
みやぎけんなどでは、この りょうが むかしから さかんです。あみで ひきずる やり方と ちがって、魚の からだが きずつきにくく、いきの よさが おちにくい ので、すしやさんや りょうていで たかく 見られています[3]。
東京わんの つつりょうでは、つつの まわりで あなごが どう うごくかを、小さな カメラで しらべる 研究も 発表されました[7]。
こんなに 身近な あなごなのに、うまれた ばしょだけは、ながい あいだ なぞでした。
穴にもぐるくせを逆手にとった漁が、アナゴ筒漁です。宮城県の資料では、古くから盛んな漁として紹介されています[3]。
魚が筒の中に入ってくる漁なので、底びき網のように魚体をこすって傷めることが少なく、鮮度が落ちにくいのが特徴です。そのため、寿司屋や料亭でも評価が高いと説明されています[3]。
東京湾では、この筒漁について、小型ビデオカメラで漁具に対するマアナゴの行動を観察する研究も発表されました。アナゴの研究会は1997年に発足し、大学や研究機関のほか、漁業者や飲食業の人も集まっているそうです[7]。
これほど身近で、研究も続いている魚なのに、どこで生まれて、どこで産卵するのかは長いあいだ分かっていませんでした。
4. うまれた ばしょは、どうして わからなかったの?
4. 2012年まで、産卵場が分からなかった理由
4. 成熟した親魚が捕まらず、小さい幼生もいなかった
二千十二ねんまで、おとなに なった あなごは、どこの りょうばでも つかまりませんでした。だから、いつ、どこで たまごを うむのかが わかりませんでした[5]。
冬から 春に 岸に くる 子どもは、「のれそれ」と よばれて、食べる ことも あります。長さは 十センチぐらいです。けれど、もっと 小さい 子は、どこに いるのか ながい あいだ わかりませんでした[5]。
大きい 子しか いない。小さい 子が いない。うまれた ばしょは、岸から もっと とおい 海のはずです。では、その 小さい 子は、どこで 見つかったのでしょう。
2012年の研究発表まで、成熟した親魚が捕獲されたことはありませんでした。産卵がいつ、どこで行われているのかも分かっていませんでした[5]。
日本のあなご類(大部分はマアナゴ)の漁獲量は、1995年から2008年にかけて、約1万3000トンから6300トンへと、半分ほどに減っていました[5]。計算すると、6300÷13000でおよそ0.48です。親が産卵する場所が分からないまま、とれる量だけが減っていたことになります。
手がかりはありました。冬から早春に沿岸へ来る全長10cmほどの幼生は「のれそれ」とよばれ、高知県などで食用にされます。ところが、見つかるのは10cm前後の大きなものばかりで、もっと小さな幼生がどこにいるのかは、長い間分かっていませんでした[5]。
大きな幼生しか岸にいないなら、生まれたのは岸よりずっと遠い海のはずです。では、小さな幼生はどこで見つかったのでしょうか。
2012年2月の発表まで、成熟した親魚が捕獲されたことはなく、産卵場所も産卵の時期も分かっていなかった。一方で、あなご類(大部分はマアナゴ)の漁獲量は、1995年から2008年に約1万3000トンから6300トンへ減っていた[5]。6300÷13000は約0.48で、半分弱である。ただし、この減少の原因が何かは資料に書かれておらず、産卵場が分からなかったことと因果があるとは言えない。
手がかりの一つが、全長10cm前後の大型のレプトセファルス(葉型仔魚)だった。冬〜早春に沿岸へ来るこの幼生は高知県などで「のれそれ」とよばれ、食用になる。ただ、小さいものがどこにいるのかは長く不明だった[5]。大きい幼生が岸に来るなら、小さいものは岸の近くではなく、産卵場に近い外洋にいると考えるのが自然だ。そこで、外洋でごく小さな仔魚を探す調査が意味を持つ。
5. 小さな あかちゃんは、どこで 見つかったの?
5. 長さ5.8mmの赤ちゃんが、産卵場の場所を教えてくれた
5. DNA鑑定と海流の逆算で産卵場を特定した(2008年採集、2012年発表)
二千八ねんの 九月、「かいようまる」という 船が、おきの とりしまの 南、三百八十キロぐらいの 海で、とても 小さな 魚の 子どもを とりました[5]。
長さは 5.8ミリメートル。うまれて 三日から 四日ぐらいと 考えられました。はも きばも まだ できていません。この 子が あなごの 子どもだと、DNAを しらべて たしかめました。
うまれて すぐの 子なので、海の ながれを さかのぼって 考えると、うまれた ばしょを しぼれます。それは、「九州・パラオかいれい」という、海の 中の 山の つらなりの 上でした[5]。
うむのは、六月から 九月ごろと 考えられています[6]。ただ、ここは 「うむ ばしょの 一つ」で、ほかにも あるかもしれません。
2008年9月、開洋丸という船が、沖ノ鳥島の約380km南の海で、ごく小さな仔魚を採集しました。全長は5.8mm。歯やあごもまだできておらず、孵化してわずか3〜4日と推定されました[5]。
この仔魚がマアナゴの子だとは、DNAを調べて確認されました。見た目では種類が分からないほど小さくても、DNAなら見分けられます。さらに、海流から逆算すると、孵化した場所は九州・パラオ海嶺の上と考えられました。海嶺とは、海底にのびる山脈のような地形です[5]。
ここが産卵場所の「一つ」であることには注意が必要です。産卵時期は少なくとも6〜9月とされています[6]。ウナギの産卵場も、西マリアナ海嶺という海嶺の近くです。海嶺を目印にするのはウナギの仲間に共通するのかもしれない、と研究者は述べていますが、まだ仮説です[6]。
こうして生まれた赤ちゃんは、どうやって東京湾の岸までやって来るのでしょうか。
決め手になったのは、2008年9月に開洋丸が沖ノ鳥島の約380km南(北緯17度・東経136度)で採集した、全長5.8mmのプレレプトセファルスだった。歯も顎も未形成で、孵化後3〜4日と推定された。DNA鑑定でマアナゴと確認され、海流から孵化の地点を逆算して、九州‐パラオ海嶺上の海域がマアナゴ産卵場の一つと特定された[5]。
この結論を読むときの条件は3つある。第一に、特定されたのは「一つ」で、全体ではない。第二に、産卵期は少なくとも6〜9月とされるだけで、全体の期間は分かっていない。第三に、親魚そのものは見つかっていない。なお、発表は水産総合研究センター、東京大学大気海洋研究所、九州大学の共同で、論文はFisheries Scienceの電子版に2012年2月23日に出た[6]。
海嶺が目印になるという見方もある。ウナギの産卵場所も西マリアナ海嶺で、海嶺を目印にするのはウナギ目に共通する可能性が指摘されている。ただし仮説の段階である[6]。
そこから残る問いは、遠い外洋で生まれた仔魚が、どうやって日本の沿岸まで来て、砂泥底の暮らしに入るのかである。
6. 海の ながれに のって、どうやって 岸まで くるの?
6. 葉っぱの形の幼生は、海流に乗って岸へ向かう
6. レプトセファルスの来遊から、底生生活への移行まで
うまれた 子どもは、はっぱのような かたちを しています。このかたちを 「レプトセファルス」と いいます。くろしおの ような あたたかい 海の ながれに のって、ゆっくり はこばれます[1]。
かながわけんの 岸には、二月から 三月ごろに やって きます。ここで からだの かたちが かわって、まるい 魚の すがたに なります[1]。
岸の しずかな ところで 海の ふかい ところの くらしを はじめ、少しずつ 広がります。小さい うちは ヨコエビの なかまを 食べ、大きく なると 魚を 食べます[4]。
うまれた つぎの 年の 四月ごろから、とる 大きさに なります[1]。ただ、二千十二ねんの 発表の ときは、おやの あなごは まだ つかまって いませんでした。
産卵場で生まれた仔魚は、レプトセファルスという葉っぱのような形の幼生になります。黒潮の仲間の暖かい海流に運ばれ、神奈川県の沿岸には2〜3月に来遊します。ここで体のつくりが変わり、魚らしい姿になります(変態)[1]。
変態は、静かな沿岸域で行われます。そのあとは底で暮らす生活に移り、沖合などに広がっていきます。幼魚はヨコエビ類を、成長すると魚類を主に食べます[4]。
神奈川県の資料では、生まれた翌年の4月ごろから漁獲の対象サイズになります[1]。夏に生まれた子が、冬から早春に岸へ着き、砂泥の穴にひそむ暮らしを始める、という順番です。
ただし、2012年の時点で、産卵のために外洋へ向かう親魚の時期や経路は分かっていませんでした。その後の研究は、この記事では扱っていません。
孵化した仔魚は、レプトセファルスという葉状の幼生となり、黒潮系の暖かい海流で運ばれる。神奈川県沿岸には2〜3月に来遊し、変態して成長する[1]。変態では、体のつくりが木の葉型から魚の形に変わる。
茨城県の資料では、静穏域で変態して底生生活に移行し、沖合等に分散・移動する。幼魚はヨコエビ類、成長後は魚類を主に捕食する。常磐海域では1歳で全長30〜55cmとなり、13歳魚も確認されている[4]。ただしこの全長・年齢は常磐海域の値で、全国一律ではない。
産卵期(少なくとも6〜9月)と来遊期(2〜3月)を並べると、夏に生まれた子が冬から早春に岸に着き、生まれた翌年の4月ごろから漁獲対象サイズになる[1]、という順番になる。昼は砂泥の穴にいる一匹の背後に、外洋から海流で運ばれた長い旅がある。
一方で、産卵のために外洋へ向かう親魚の時期や経路は、2012年の発表時点で不明だった。その後の研究は、この記事の調べの範囲に入っていない。
7. あなごを 見かけたら、たしかめて みよう
7. 穴子のパックで、遠い海を思い浮かべるには
7. 穴子の産地表示と、一次資料の読み方
きょう できること
お店で あなごの パックを 見る ときは、どこの 海で とれたか 書いて あるか 見て みましょう。おとなの 人と いっしょに 行きます。日本の 海の 地図で、その 場所と、この メモの 九州・パラオかいれいを くらべると、とおさが 考えられます。
じょうぎで やって みよう
じょうぎを 出して、5.8ミリメートルを はかって みましょう。うまれて 三日から 四日の あなごの 子どもは、そのくらいの 長さです。
こうしきの じょうほう
かながわけんの「おさかな ずかん」や、いばらきけんの しりょうで、あなごに ついて もっと 読めます。いちばん 下の 「しりょう」の ところに のっています。
今日できること
スーパーや魚屋で穴子のパックを見かけたら、産地の表示を見てみましょう。家の人と一緒に確かめてください。そのうえで、地図で産地と、この記事の産卵場(九州・パラオ海嶺)の位置を見比べると、生まれた場所からの距離が考えられます。
定規で大きさを確かめる
定規で5.8mmをはかってみてください。産卵場で見つかった仔魚の大きさです。1cmの定規の半分より、少し大きいくらいです。
公式の情報
神奈川県のおさかな図鑑や、茨城県のマアナゴの資料は、日本語で読めます。リンクは出典欄にあります。
確かめる道すじ
最初に読むなら、2012年の共同プレスリリース(出典[5])がよい。5.8mmの仔魚の採集日時と場所、DNA鑑定、海流からの逆算が具体的に書かれている。次に、JSTサイエンスポータルの記事(出典[6])と読み比べ、どこまでが測定結果で、どこからが仮説(海嶺が目印かもしれない、など)かを分けて線を引くとよい。
身近な確かめ方
スーパーなどの穴子の産地表示は、成魚を水揚げした場所であって、産卵場ではない。この違いを、表示と地図を見比べて考えてみるとよい。定規で5.8mmを測ると、産卵場で採集された仔魚の大きさが実感できる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。数字や名前は、各機関の発表にもとづいています。
- 神奈川県「おさかな図鑑(マアナゴ)」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/mx7/cnt/f430693/zukan-maanago.html (分布・幼生の来遊・漁獲サイズ)
- ダイワ「水産学(マアナゴ)」 https://www.daiwa.com/dyfc/manabu/suisangaku/maanago (水深・水温・季節・食べもの。企業の解説サイト)
- 宮城県「水産情報(アナゴ)令和6年8月」 https://www.pref.miyagi.jp/documents/16731/r6_august_conger.pdf (夜行性・名前の由来・筒漁)
- 茨城県「マアナゴ(資源の動き)令和7年」 https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/suishi/teichaku/documents/r7maanago.pdf (生息域・変態後の暮らし・常磐海域の成長)
- 水産総合研究センター・東京大学大気海洋研究所・九州大学 プレスリリース(2012年2月23日) https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2012/files/Congermyriaster_20120223.pdf (産卵場の特定・のれそれ・漁獲量)
- JST サイエンスポータル(2012年2月24日) https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20120224_01/index.html (産卵時期・海嶺についての見方)
- 神奈川県水産技術センター「第15回アナゴ漁業資源研究会」の記事 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/25020/571381.pdf (筒漁の観察研究・研究会)
なおした ところ
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