1. ゲップの なかみは、おなかの なかの びせいぶつが つくる
1. ゲップのメタンは、胃の中の微生物が草を分けたあとの「おまけ」
1. 反すう動物の第一胃で、微生物が草を発酵させるとメタンが生じる
牛の おなかには、いくつもの 胃が あります。いちばん はじめの 胃には、たくさんの 微生物が すんで います[1]。
草は とても かたくて、ふつうの どうぶつは こなせません。牛は、びせいぶつに 草を こまかく わけて もらいます。そのとき、メタンと いう ガスも できて、おもに ゲップと して 外に でます[1]。
メタンは、牛が わるい ことを して いる わけでは ありません。草を たべる しくみの、おまけ なのです[2]。
2. 1日に どれくらい? なぜ ちきゅうに ひびくの?
2. 1日に出るメタンは数百リットル規模。温室効果は二酸化炭素の約28倍
2. 1頭あたりの概算量と、温室効果の強さ ── 100年で約28倍という見方
1ぴきの 牛が 1日に だす メタンは、牛の しゅるいや えさの りょうで、ずいぶん かわります。たくさん たべる 牛では、1日に 数百リットルに なることも あります[1]。2リットルの ペットボトルに すると、100本より おおい ぶんです。
ただし これは おおよその 数で、1ぴきごとに ちがいます。
メタンは、二酸化炭素より 地球を あたためる ちからが 強い ガスです。100ねん で くらべると、やく 28ばいと いわれます[5]。だから ゲップは、おんだんかと かんけいが あるのです。
では、牛1頭はどのくらいのメタンを出すのでしょうか。環境省の算定資料には、牛が1日に食べる乾物(水分を除いた餌)の重さから、メタンの体積を見積もる式があります。食べる量が多い牛では、1日に数百Lになりうると見積もられています[1]。2Lのペットボトルなら100本を超える量です。
ただしこれは式に代入した概算で、牛の種類や乳量、餌の内容でかなり変わります。1頭の数字として覚えるより、「数百リットル規模になりうる」と受け止めるのがよいでしょう。
これだけの量が問題になるのは、メタンの温室効果が強いからです。100年の期間で比べると、メタンは二酸化炭素の約28倍の熱を閉じこめるとされています(IPCCは27〜30倍の値を示しています)[5]。期間を20年に短くすると約80倍とされ、何年先で見るかによって倍数は変わります。
つまり「牛のゲップが温暖化に関わる」というのは本当です。ただし関わり方の大きさは、世界と日本でまったくちがいます。
牛1頭の排出量は、環境省の算定方法で、乾物摂取量から見積もる式が使われている。食べる量が多い牛では1日に数百Lになりうるが[1]、牛の種類・乳量・飼料で大きく変わる概算にすぎない。2Lのペットボトルなら100本を超える量である。
この体積が気候に効くのは、メタンの温室効果が強いからである。100年で見た地球温暖化係数(GWP)は、IPCC第6次評価報告書で化石起源でない場合に27.0、化石起源で29.8とされる。ゲップ由来は前者にあたる。米国環境保護庁(EPA)は「28倍以上」と説明している[5]。期間を20年にとれば約80倍といわれ、どの時間幅で見るかによって倍数は変わる。
したがって、牛のゲップが温暖化に関わるのは確かである。残る問いは、それが全体のどのくらいの大きさなのか、という点だ。
3. 世界では、どれくらいの わりあいなの?
3. 世界では、人間が出すメタンの約3割が家畜から。ただし「12%」はゲップだけの数字ではない
3. 世界の割合 ── 32%・12%・5.5%は、何を数えた数字かがちがう
せかい じゅうの、にんげんの かつどうで でる メタンの うち、やく 3わりが かちくから きて います。かちくには 牛の ほかに ひつじや ヤギなども はいります[2]。
「かちくの ぶん、ぜんぶで 12パーセント」という 数字も あります。でも これは、えさを つくる ことや 土地の つかいかたまで ふくんだ 数です。ゲップだけの わりあいでは ありません[3]。
数字を 見たら、「なにを ぜんぶ たした 数かな?」と たしかめる ことが だいじです。
FAOによると、世界の人間活動で出るメタンのうち、約32%が家畜に由来します。主な出どころは、ゲップなど消化管内の発酵と、排せつ物の管理です[2]。
もう一つ有名な数字が、「家畜に関わる食料システム全体で、人間活動による温室効果ガスの約12%(2015年、約62億トンのCO2換算)。そのうち牛が約62%」というものです[3]。ここで気をつけたいのは、12%には飼料づくりや土地の利用も含まれ、ゲップだけの数字ではないことです。
ゲップに近い数字としては、反すう家畜の消化管内メタンが世界の温室効果ガスの約5.5%(約27億トンのCO2換算)で、その77%が牛、という報告もあります[4]。ただしこれは別の年・別の範囲の数字なので、12%と足し合わせたり並べて優劣をつけたりはできません。
牛は世界の家畜排出で大きな割合を占めます。しかし日本では、同じ見方で数字が変わります。
世界の数字は3つあり、数える範囲がそれぞれちがう。第一に、FAOは人為的メタン排出の約32%が家畜由来で、主に消化管内発酵と排せつ物管理だとする[2]。メタンだけの割合である。第二に、同じFAOの2023年報告は、家畜に関わる食料システム全体の排出を2015年に約62億トン(CO2換算)、人為的温室効果ガス全体の約12%とし、そのうち約62%が牛だとする[3]。こちらは飼料生産や土地利用を含み、ゲップ単独ではない。
第三に、FAOの資料を引くFeedipediaでは、反すう家畜の消化管内メタンが年約27億トン(CO2換算)、世界の温室効果ガスの約5.5%で、うち牛が77%、水牛が14%、残りが羊・ヤギとされる[4]。これは2005年前後のデータで、2015年を対象とする第二の数字とは年も範囲もちがうため、足したり直接比べたりしてはならない。
要するに、「牛は世界の家畜排出で最も大きな割合を占める」ことは複数の資料から言えるが、「ゲップだけで温暖化の12%」とは言えない。では、日本ではどう見えるのか。
4. 日本では、ゲップの メタンは どれくらい?
4. 日本では、ゲップ由来のメタンは全体の1%に満たない
4. 日本の算定 ── 農林水産分野の16.9%は、国全体では1%未満
日本では、牛などの ゲップから でる メタンは、2023ねんどで やく 864まん トンぶん(二酸化炭素に なおした 数)です[6]。
これは、のうりんすいさんぶんやの なかでは 17パーセントくらいに なります。でも 日本ぜんたいの はいしゅつは、やく 11おくトン あります。ですから ゲップは、ぜんたいの 1パーセントに みたない おおきさです。
せかいの 話と くらべると、日本の ゲップの わりあいは ずっと ちいさい のです。
日本の数字を見てみましょう。農林水産省の資料では、2023年度の農林水産分野の温室効果ガス排出量が約5,103万トン(CO2換算)で、そのうち家畜の消化管内発酵由来が約864万トン、16.9%です[6]。
環境省・国立環境研究所の温室効果ガスインベントリでは、牛・水牛・羊・山羊・馬・豚などの消化管内発酵によるメタンを、家畜排せつ物や稲作とは別の区分で計算しています。ただし、この区分の大きさは算定方法の改訂で少し変わります[7]。
16.9%は農林水産分野の中の割合です。日本全体の排出量は約11億トンですから、864万÷11億で、約0.8%(概算)。1%に満たない大きさです。世界を見たときの「家畜は大きい」と、日本を見たときの「1%に満たない」は、見ている範囲がちがうだけで、矛盾しません。
とはいえ、小さいからゼロでよい、とは限りません。では、減らす工夫はどこまで進んでいるのでしょうか。
日本の算定では、消化管内発酵は農林水産分野の排出の一部として計上される。農林水産省の資料では、2023年度の同分野の排出が約5,103万トン(CO2換算)で、家畜の消化管内発酵は約864万トン、すなわち16.9%にあたる[6]。環境省・国立環境研究所のインベントリは、牛・水牛・羊・山羊・馬・豚などの消化管内でのメタン発酵を、家畜排せつ物や稲作とは別区分で算定する。算定方法の改訂前後で値が変わる[7]。
16.9%は農林水産分野の中での割合であり、国全体では別の見え方をする。日本の総排出量を約11億トンとして概算すると、864万÷11億≒0.8%で、1%に満たない(総排出量は年度で変わるため、概算である)。したがって「農林水産分野で目立つ」ことと「日本全体で大きな割合を占める」ことは、分母がちがうため、切り分けて読む必要がある。
それでも、世界では家畜由来が大きな割合を占める以上、減らす技術には意味がある。では、どんな方法が試されているのか。
5. うみの そうを まぜると、メタンが へった
5. 海藻を0.25%まぜると、メタンが45%減った研究
5. カギケノリ属の海藻の飼料試験 ── 45%と68%、そして試験の規模
アメリカの だいがくの けんきゅうです。肉を とる 牛 21とうに、「カギケノリ」と いう うみの そうを、ごはんの 0.25パーセントだけ まぜて、147日 そだてました[8]。
すると、メタンが 45パーセント へりました。0.5パーセント まぜた ときは 68パーセント へり、体が おおきく なる はやさは かわりませんでした[8]。
ただし、これは 21とうの 小さな しけんです。ほかの 牛や えさでも おなじに なるかは、これからの けんきゅうで わかります。
カリフォルニア大学デービス校の研究(2021年、PLOS ONE)では、肉用の去勢牛21頭に、カギケノリ属の海藻の一種を飼料の0.25%と0.5%の2通りの割合でまぜ、147日間育てました。メタンの排出量(食べた量あたり)は、それぞれ45%と68%減り、体重の増え方には差がありませんでした[8]。
飼料の重さのうち、0.25%といえば、1kgに2.5gほどです。ほんの少しまぜただけで、メタンが半分近く減りました。
報道では「80%減」という数字も見かけますが、これは餌の繊維が少ない特定の条件での結果で、この研究全体の結果は45%と68%です。また、試験は21頭の小規模なものですから、世界中の牛にそのまま当てはめられるとは言えません[8]。
海藻のほかにも、日本ではどんな工夫が試されているのでしょうか。
この結果は、肉用去勢牛21頭を対象に、カギケノリ属(Asparagopsis taxiformis)の海藻を飼料の0.25%(低)と0.5%(高)にして147日間給与した試験による。摂取量あたりの消化管内メタン排出(yield)は、低区で45%、高区で68%減少し、1日あたり増体には差が見られなかった[8]。
数字を読むときには条件を確かめたい。報道で紹介される「約80%減」は、低繊維の飼料条件での値であり、試験全体の結果ではない。また、供試頭数が21頭と少なく、1つの研究である。そのため、この値を牧場一般の削減率として扱うことはできない。
それでも、飼料の0.25〜0.5%という少量でこれだけの変化が起きたことは、削減の余地がどこにあるかを示している。余地は飼料だけなのか。日本の取り組みを見る。
6. 日本でも、ゲップを へらす くふうが すすんで いる
6. 日本でも、飼料添加物や「メタンの少ない牛選び」が進む
6. 飼料添加物と育種 ── 日本の削減策と、約20%という期待値の読み方
のうりんすいさんしょうは、メタンを へらす えさの くわえものと して、「3-ニトロオキシプロパノール」と、カシューナッツの からから とれる えきの 2つを あげて います[9]。
のうけんきこうと いう けんきゅうの きかんは、メタンの 少ない 牛を えらぶための、かんたんな はかりかたも つくりました[10]。
えさの くふうと、牛の えらびかたを あわせると、牛乳や 肉の 量を 落とさずに、やく 2わり へらせると きたいされて います。
日本では、農林水産省が、メタンを減らす飼料添加物として3-ニトロオキシプロパノール(3-NOP)とカシューナッツ殻液の2種を、温室効果ガスの削減に役立つものとして挙げています[9]。
もう一つの道が「牛選び」です。農研機構は、2017〜2021年度に、メタンの少ない牛を見つけるための簡易なメタン測定法などを開発しました[10]。測り方が簡単になれば、メタンの出やすさを牛の性質として調べ、育種に生かせます。
農研機構は、飼料の工夫と育種を組み合わせれば、生産性を落とさずに畜産由来の温室効果ガスを約20%減らせると期待しています(ライフサイクルアセスメントによる評価)[10]。「できる」と言い切るのでなく、「期待される」という段階です。
こうして見ると、ゲップのメタンは「牛を減らすしかない」話ではなく、飼料と育種と測定の工夫で減らせる余地がある話だと分かります。
日本の削減策は、飼料と育種の2系統にまとめられる。飼料側では、農林水産省が、メタン削減効果と安全性が認められた飼料添加物として、3-ニトロオキシプロパノール(3-NOP)とカシューナッツ殻液を挙げている[9]。
育種側では、農研機構が2017〜2021年度に簡易メタン測定法などを開発した。メタンの出やすさを多くの牛で測れれば、低メタンの個体を選べる。同機構は、育種と飼料の工夫によって、生産性を落とさずに畜産由来の温室効果ガスを約20%削減できると期待している(LCA評価)[10]。
この20%は期待値であり、実測された全国平均の削減率ではない。先の海藻の試験とあわせて読むと、方法ごとに条件も確からしさも異なる。ひとつの数字を「牛のメタンは○%減る」と一般化せず、どの資料が何を調べた値かを確かめる姿勢が要る。
7. でんたくで、ゲップの わりあいを けいさんして みよう
7. 電卓で、牛1頭ぶんと日本の割合を自分で計算してみる
7. 数字を自分で割ってみる ── 分母と期間をそろえて読む
でんたくを つかって みましょう。1日の メタンが 300リットルだと して、2リットルの ペットボトルに すると 何本ぶんか。300を 2で わって みます。
つぎは 日本の わりあいです。864まんを、11おくで わります。1パーセントより 小さい ことが わかります。
数字を 見たら、「なんの うちの わりあいかな」と ききかえして みて ください。かんきょうしょうや のうりんすいさんしょうの ホームページに、くわしい 数字が のって います。
電卓があれば、記事の数字を確かめられます。まず、1日に300Lだとして2Lで割ると150本。次に、864万を11億で割ると約0.008、つまり0.8%です。式を自分で解くと、「1日に数百リットル」と「日本全体の1%未満」が、同時に成り立つ理由が実感できます。
もう一つの問いは「分母は何か」です。12%は家畜に関わる食料システム全体、16.9%は農林水産分野、0.8%は日本全体。同じ「牛のゲップ」の話でも、分母が変わると大きさの印象はずいぶん変わります。
数字の原典は、環境省と農林水産省のサイトで、日本の温室効果ガスの算定や畜産の取り組みとして読めます。
検算してみる。1日300Lなら2Lボトル150本、864万÷11億≒0.008(0.8%)。ただし後者の総排出量は約11億トンという概算で、年度ごとに変わる。
数字を読むときの確認点は3つある。分母が何か(メタンだけか、温室効果ガス全体か、農林水産分野か)、対象の年と範囲がそろっているか、期間を何年で見たGWPか。3つが変わると、32%、12%、5.5%、16.9%、0.8%は、同じ土俵では比べられない。
原典に当たるなら、FAO(家畜の排出)、環境省・国立環境研究所(算定方法とインベントリ)、農林水産省(畜産のGHGと飼料添加物)、PLOS ONEのRoque et al.(2021、海藻)が入口になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:国際機関・日本の省庁・研究機関の資料と学術論文を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。数字の一部は、資料の検索結果の抜粋にもとづくため、年度や算定方法の版は各資料で確かめてほしい。
- 環境省「温室効果ガス排出量算定方法(家畜の消化管内発酵)」。https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/methodology/material/methodology_3A4_2018.pdf (第一胃での発酵とメタン、1頭あたりの算定式について)
- FAO「Cutting livestock methane emissions for stronger climate action」。https://www.fao.org/in-action/enteric-methane/countries/highlight-detail/cutting-livestock-methane-emissions-for-stronger-climate-action/en (メタンが反すう動物の消化の副産物であること、人為的メタンに占める家畜の割合について)
- FAO「New FAO report maps pathways towards lower livestock emissions」。https://www.fao.org/newsroom/detail/new-fao-report-maps-pathways-towards-lower-livestock-emissions/en (家畜に関わる食料システム全体の排出量と、牛の占める割合について)
- Feedipedia / FAO「Livestock and greenhouse gas emissions」。https://feedipedia.org/content/livestock-and-greenhouse-gas-emissions (反すう家畜の消化管内メタンの世界の割合について。古い年のデータ)
- US EPA Global Methane Initiative「Importance of Methane」。https://www.epa.gov/gmi/importance-methane (メタンの温室効果の強さについて)
- 農林水産省「畜産のGHG関連パンフレット(見える化)」。https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/attach/pdf/mieruka_chikusan-1.pdf (日本の農林水産分野の排出と、消化管内発酵由来の量について)
- 環境省 温室効果ガス排出量算定方法検討資料。https://www.env.go.jp/content/000408517.pdf (インベントリでの消化管内発酵の区分と、算定方法の版による値のちがいについて)
- Roque et al. (2021), PLOS ONE(カギケノリ属の海藻を肉用去勢牛の飼料にまぜた試験)。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0247820 (海藻を飼料にまぜた牛の試験について。論文の条件を確かめるために使った)
- 農林水産省 東北農政局「みどりの食料システム」パンフレット。https://www.maff.go.jp/tohoku/kihon/attach/pdf/midori_pamphlet-12.pdf (メタンを減らす飼料添加物について)
- 農林水産技術会議「研究成果集」。https://www.affrc.maff.go.jp/docs/project/pdf/seika/2022/r4_seikashu_01.pdf (簡易メタン測定法と、育種・飼料による削減の期待について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。