1. シカは くさ だけ たべて いるの?
1. 「草食」のシカが、冬には木の皮を食べる
1. 食性の幅 ── 「草食」の中身は、季節と森で入れかわる
シカの たべものは、おもに くさです。でも 環境省の しりょうには、「しょくぶつなら たいてい なんでも たべる」と あります[1]。くさの ほかに、木の 葉、木の み、木の 皮、ササ、おち葉も たべます。
なにを たべるかは、すんで いる 場しょと きせつで かわります。冬、雪が ふかいと、ちめんの くさに とどきません。そこで 木の 皮などを たべます[2]。
一ねんじゅう 木の 葉が 青い 森に すむ シカは、一ねんじゅう 木の 葉を たべると いわれます[2]。
ただし、これは ニホンジカの はなしです。ほかの シカの ことまでは、ここでは いえません。
シカの食べ物は、主に草です。ただ、環境省の資料は、植物ならたいていのものを食べると説明しています。葉や実、樹皮、ササ、落ち葉まで食べます[1]。「草食」といっても、草だけを食べているわけではありません。
森がちがえば、食べ物もちがう
何を食べるかは、すんでいる森と季節で変わります。ウィキペディアの説明では、秋から冬に葉を落とす落葉広葉樹林では、イネ科の草、ササの葉、木の葉、どんぐりなどの堅果、樹皮などを食べます。一年中葉をつけている常緑広葉樹林にすむシカは、一年を通して木の葉を食べます[2]。
雪が深い場所では、地上の植物が雪の下になります。すると、手の届く樹皮などを食べるようになります[2]。北海道のエゾシカ(ニホンジカの亜種)も、夏は草や牧草、食べ物の少ない冬はササや樹皮と、幅広く食べると紹介されています[3]。
では、草や葉や木の皮ばかりで、どうして体がもつのでしょうか。その鍵は胃にあります。
ニホンジカの食べ物は主に草だが、環境省の資料によれば、植物ならたいていのものを食べ、葉・実・樹皮・ササ・落ち葉も含む[1]。ここでいう「草食」は、植物を主な食べ物とするという意味だ。食べる植物は草に限らない。
実際の組み合わせは、生息する森と季節で決まる。Wikipediaの説明では、落葉広葉樹林の個体群はイネ科草本・ササ類の葉・木の葉・堅果・樹皮などを食べ、常緑広葉樹林の個体は周年木の葉を食べる。積雪が深いところでは、地上の植物に代わって樹皮などを食べる[2]。つまり、季節による変化は好みの変化というより、そのとき手に入るものの変化だと読める。ただし資料はこの因果を直接には述べておらず、この読み方は筆者の解釈である。
札幌市円山動物園は、エゾシカの食べ物を、夏は草本や牧草、不足する冬はササ類や樹皮など幅広いと紹介している[3]。同園の給餌量は1頭1日あたり冬が約4kg、夏が約7kgだが、乾草やペレットを含む給餌量であり、野生の採食量ではない[3]。
繊維の多い食べ物を、なぜ消化できるのか。それは胃のつくりと関わる。
2. ならこうえんの シカは、なにを たべて いるの?
2. 奈良公園のシカの主食は、せんべいではなく芝
2. 奈良公園のシカの食べ物 ── 鹿せんべいは主食ではない
奈良こうえんの シカは、「しかせんべい」を もらう ようすで ゆうめいです。では、せんべいが ごはんなのでしょうか。
じつは ちがいます。しりょうでは、シカの しゅしょくは シバなどの しょくぶつで、せんべいは「おやつ」あつかいです[7]。せんべいは、こめぬかと こむぎこで つくられて います。
奈良県の パンフレットでは、はるは のびてくる シバを たべると しょうかいされて います[8]。
こうえんの 木の えだや 葉は たべつくされるので、かぜで おちた えだや 葉も たべると いいます[8]。
3. くさや 葉ばかりで、からだは だいじょうぶ?
3. 草の繊維を、胃の中の微生物がほぐす
3. 反芻胃の4室 ── セルロースを分解するのは共生微生物
くさや 葉には、かたい せんいが たくさん あります。人の おなかでは、ほとんど こなれません。
シカの 胃は、4つの へやに わかれて います。ウシと おなじ なかまの つくりです[4]。まえの 2つの へやには、微生物が すんで いて、たべた ものの せんいを こなして くれます[4]。
シカは、じぶんの 力だけで せんいを こなして いる わけでは ありません。ちいさな なかまの 力を かりて いるのです。
たとえば、ひとりでは もちあげられない おもい にもつを、みんなで はこぶ ところを おもいうかべて ください。ただし ほんとうは、微生物は はこぶのでは なく、せんいを こまかく わける しごとを して います。
草や葉には、セルロースという硬い繊維がたくさん含まれています。シカやウシのなかま(反芻動物)の胃は、ふつう4つの部屋に分かれています。こぶ胃、蜂の巣胃、重弁胃、皺胃です[4]。
辞典の説明では、飲み込んだ食べ物は、まず前の2つの部屋(こぶ胃・蜂の巣胃)にためられ、そこにすむ共生微生物がセルロースを分解します[4]。つまり、シカは繊維の消化を、胃の中の微生物に助けてもらっています。
人のおなかとのちがい
人の胃は1つで、セルロースはほとんど消化できません。シカの胃は、微生物が働くための部屋を前にそなえているといえます。
ただし、シカの胃にすむ微生物の種類や数までは、今回の資料には出ていません。反芻動物一般の説明として読んでください。
草や葉の細胞壁は、セルロースなどの繊維が主成分である。ニホンジカを含む反芻動物の胃は、ふつう4室、すなわちこぶ胃(第1胃)・蜂の巣胃(第2胃)・重弁胃(第3胃)・皺胃(第4胃)に分かれる。飲み込まれた食物は第1胃・第2胃に一時蓄えられ、そこにすむ微生物がセルロースを分解する[4]。
この点を理解すると、1章の幅広い食性にもつじつまが合う。繊維の多い葉や樹皮でも、微生物が分解してくれる部分があるから、食べ物として成り立つ。ただし、樹皮の消化に微生物がどこまで働くのかは、今回の資料には書かれていない。
ここで使った説明は、辞典(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)にある反芻動物一般のものである。
4. たべたあとの もぐもぐは、なに?
4. 食べたあと、もう一度かみ直す ── 反芻
4. 反芻のリズムと、1日に食べる量の幅
シカが すわって、くちを もぐもぐ うごかして いる ところを 見た ことが ありますか。あれは、たべた ものを いちど 口に もどして、もう いちど かんで いるのです。
これを「はんすう」と いいます。たべた ものが ちいさく なると、微生物が はたらきやすく なり、しょうかが すすむと されます。
シカは 2〜3じかん たべて、2〜4じかん はんすうする くりかえしだと、しりょうでは されて います[5]。
1日に たべる りょうは、しりょうに よって ちがいます。3キロと する ものも、5キロ いじょうと する ものも あります[6]。
シカが座って、口をもぐもぐ動かしているのを見たことはありませんか。あれは反芻といって、いったん飲み込んだ食べ物を胃から口に戻し、かみ直しているところです。
食べ物が細かくなるほど、微生物が働く表面が増えて、消化が進みます。環境省の尾瀬国立公園の資料などでは、シカは昼夜を問わず2〜3時間食べて、2〜4時間反芻するリズムを繰り返すとされています[5]。この時間は、資料が示すおおよその目安です。
1日にどれくらい食べるのか
環境省の資料は、メスで1日5kg以上という報告があるとしています。一方、群馬県の資料は約3kgとしています[6]。資料によって数字がちがうのは、体の大きさや季節、地域で変わるからだと思われます。固定した数字として覚えるよりも、資料によって約3kgから5kg以上まで幅があるものとして見るほうが安全です。
反芻は、いったん飲み込んだ食物を胃から口に戻して咀嚼し直す行動である。細かくなることで表面積が増え、微生物による分解が進むと説明される。尾瀬国立公園の資料などは、シカは昼夜を問わず2〜3時間の採食と2〜4時間の反芻を繰り返すとする[5]。この時間は資料が示す目安である。
1日の採食量は、資料でばらつく。環境省の資料はメスで5kg以上という報告に触れ、群馬県の資料は約3kgとする[6]。資料によって約3kgから5kg以上まで幅があり、これは体の大きさ、季節、地域、測り方がそろっていないためと考えられる。そのため、「シカは1日○kg食べる」と一つの数字で言い切らないほうがよい。
反芻のリズムが示すのは、シカが一日の大半を、食べるか反芻するかに使っているということだ。そのぶん、食べられる側の植物にとっては、採食圧が長く続く。
5. たくさん たべると、森は どう なるの?
5. 食べる量が多いと、森の景色が変わる
5. 採食が植生を変える ── 公園の芝とシカライン
シカが たくさん いると、くさや 木の 葉は へって いきます。
奈良こうえんの シバは、かりとりを しなくても きれいだと いわれます。奈良市の しりょうは、シカが シバを たべて くれるからと せつめいして います[9]。
けれど、シカが ふえすぎた 森では ようすが ちがいます。ひくい ところの くさや 葉が たべつくされて、地めんから 1.5メートルくらいまで、しょくぶつが なくなって しまいます[10]。その さかいめの せんを、「シカライン」と よびます。
シカの たべる りょうは、おなじでも、森の ようすによって、いいほうにも わるいほうにも かわる のです。
シカがよく食べることは、景色を変えます。奈良市の資料は、奈良公園の芝が芝刈りをしなくても美しいのは、シカが芝を食べているからだと説明しています[9]。シカが芝を食べることで、芝刈りをしなくても景観が保たれているというわけです。
シカが増えすぎた森には、線ができる
ところが、シカが増えすぎた森では、同じ食べ方が別の結果になります。林野庁の九州森林管理局によれば、低い位置の草や枝葉が食べ尽くされて、地上約1.5m以下の植生がなくなった状態が見られます。その境目の線を「シカライン」と呼びます[10]。
ススキやワラビなど、シカが食べない植物(不嗜好性植物)が残りやすいとも紹介されています。ただし、この例は別の研究にもとづくものです。
芝が整う公園と、下草の消えた森。どちらも食べる量が植物の生え方を決めている点では同じです。食べ物の幅の広さと食べる量の多さが、そのまま景色に表れます。
採食は、植物にとって圧力となり、植生の姿を変える。奈良市の資料は、奈良公園の芝が芝刈りなしでも美しいのは、シカが芝を食べていることを理由に挙げている[9]。
密度が高くなりすぎると、同じ採食が森の構造を変える。林野庁九州森林管理局は、下層植生と枝葉の採食により、地上約1.5m以下の植生が皆無になった状態を示し、その境目を「シカライン」と呼んでいる[10]。シカの口が届く高さを基準にした線であり、シカが食べない植物(不嗜好性植物)、たとえばススキやワラビが残りやすいことも、別の研究から報告されている。
この2つの例は、同じ「採食」でも結果が逆になりうることを示す。芝は食べられても成長するため、公園では結果として景観が保たれる。一方、森の低木や稚樹は食べ尽くされると次の世代が育たない。ただし、この対比は資料の事例を並べた筆者の整理であり、どの植物がなぜ耐えられるのかは、資料からは分からない。
6. シカを 見かけたら、なにを 見る?
6. シカを見かけたら、口と足もとを見てみる
6. 観察の手がかり ── 口の動き・食べ跡の高さ・どんぐりの落ちる季節
シカを 見かけたら、とおくから しずかに 見て みましょう。えさを あげたり、さわったり しては いけません。
見る ところは、3つ あります。1つめは 口。すわって もぐもぐ して いたら、はんすうかも しれません。2つめは 足もと。くさや 木の 葉が、地めんから 1.5メートルくらいより ひくい ところだけ なくなって いませんか。3つめは きせつ。はる、あき、ふゆで、たべて いる ものが ちがうか、見て みましょう。
動物園や公園でシカを見かけたら、まず離れたところから観察してみましょう。野生のシカにはえさを与えず、近づいたり触ったりしないのが約束です。
見るポイントは3つです。1つめは口の動き。座って口をもぐもぐさせていたら、反芻かもしれません。2つめは食べ跡。草や木の葉が、地上1.5mくらいより低いところだけなくなっていないでしょうか。3つめは季節。春・秋・冬で、食べているものが変わるかを見てみましょう。
同じ場所を季節をかえて見ると、「何でも食べる」の中身が少しずつ入れかわるのが分かるかもしれません。
観察では、野生動物に近づきすぎないこと、えさを与えないことが前提になる。そのうえで、次の3点を手がかりにできる。
第1は口の動きである。食後に座って口を動かしているなら、反芻の可能性がある。第2は食べ跡の高さで、地上約1.5m以下だけ植生がなくなっているなら、シカラインと関係があるかもしれない。第3は季節で、春・秋・冬で食べているものが変わるかを見る。
本文は、環境省・林野庁・奈良県など公的機関の資料と辞典、動物園の紹介にもとづく。食べ物の割合や1日の採食量は、資料によって数字が異なっていた。原典を読むときは、季節・地域・調査方法の違いも見るとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った事実は、次の資料にもとづく。
- 環境省「国立公園向けニホンジカ資料」 https://www.env.go.jp/park/content/000345169.pdf (食べ物の幅)
- Wikipedia「ニホンジカ」(食性の節) https://ja.wikipedia.org/wiki/ニホンジカ (森と季節による食べ物の変化)
- 札幌市円山動物園「エゾシカ」 https://www.city.sapporo.jp/zoo/020-c.html (エゾシカの季節ごとの食べ物・給餌量)
- コトバンク「反芻胃」(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉) https://kotobank.jp/word/%E5%8F%8D%E8%8A%BB%E8%83%83-606670 (4室の胃と微生物)
- 環境省 尾瀬国立公園「ニホンジカ」 https://www.env.go.jp/park/oze/files/oze_nationalpark_deer.pdf (採食と反芻のリズム)
- 群馬県「シカ」資料 https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/46111.pdf (1日に食べる量の幅)
- nippon.com Japan Data「奈良のシカ生息調査」 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02496/ (奈良のシカの主食と鹿せんべい)
- 奈良県「NARA DEER」パンフレット https://www.pref.nara.jp/secure/242649/NARA%20DEER.pdf (奈良公園のシカの季節ごとの食べ物)
- 奈良市の資料 https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/15195.pdf (芝とシカの関係)
- 林野庁 九州森林管理局「シカによる森林への被害状況」 https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/fukyu/shika/shikahigai.html (シカライン)
なおした ところ
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