1. 「孫」は、だれの 孫の こと?
1. 「公孫樹」の「孫」は、だれの孫のことなのでしょうか
1. 「公孫樹」の「孫」は、だれの孫なのか
「公孫樹」は、イチョウの もう 1つの かき方です。辞書には、「孫の 代に なって 実が なる 木」と いう いみだと のって います[1]。
木を うえた 人の 孫の 代に なって、やっと 実が なる。それくらい 時間が かかる、と いう せつめいです。大学の コラムや、木の 団体の ページにも、おなじ せつめいが あります[2][3]。
どの ページも「そう せつめい されて います」と いう ところまでが、いえる ことです。
「公孫樹」と書いて「いちょう」と読みます。辞書は、これを「孫の代に実がなる木」という意味の、イチョウの別名として載せています[1]。同志社女子大学のコラムは、植えてから孫の代になってようやく実をつけることによる別名だと紹介し[2]、木材団体のページは、祖父が植えても実を食べるのは孫だから、と書いています[3]。
三つの説明は同じ向きです。ただ、どれも「そう説明される」という書き方で、この字を最初に使った中国の文献や、説明のもとになった記録までは示していません。言えるのは、辞書や解説が「孫の代」という理由を共通して述べている、というところまでです。「公」の字がだれを指すのかも、出典によって言い方が少し違うので、この記事では「植えた人の孫の代」という言い方にとどめます。
では、その「孫の代」は、ただの飾りの言葉なのでしょうか。それとも本当に、それだけ待つ木なのでしょうか。
「公孫樹」と書いて「いちょう」と読む。辞書は、この表記を「孫の代に実がなる木」の意で、イチョウの別名として載せる[1]。同志社女子大学のコラムは、植えてから孫の代になってようやく実をつけることによる別称だと紹介し[2]、木材団体のページは、祖父が植えても実を食べるのは孫だから、と書く[3]。説明の向きは三つとも同じである。
だが、読み返すと気づくことがある。三つとも「そう説明される」という書き方で、この字を最初に使った中国の文献や、説明の根拠になった記録は示していない。言えるのは、辞書や解説が「孫の代」という理由を共通して述べている、というところまでだ。なお「公」の字が祖父の尊称なのか長老の意なのかは、出典によって言い方が分かれるため、ここでは「植えた人の孫の代」という言い方にとどめる。
では、この「孫の代」は、言葉の飾りなのか。それとも実際に、それほど待つ木なのか。次の章で、実がなるまでの年数を見る。
2. ほんとうに 孫の 代まで まつの?
2. 孫の代まで待つ、というのは大げさなのでしょうか
2. 実がなるまで、イチョウは実際にどれくらい待つ木なのか
くだものの 木は、うえてから 実が なるまでの 年数が ちがいます。「モモ・クリ 三年 カキ 八年、ユズの 大ばか 十五年、イチョウの 三十年」と いう ことわざが あります[3]。イチョウは、ならべた 木の 中で いちばん まつ ほうです。
大学の コラムには、芽が 出てから 実が なるまでに 30年 いじょう かかる ことが ある、と 書いて あります[2]。だから「三十年」は めやすで、きまった 年数では ありません。
30年と いうと、いま 10さいの 人が 40さいに なる ころです。この 人が うえた 木の 実を、その 人の 子や 孫が たべる ころでも ふしぎでは ありません。
もうひとつ、実が なるには、おすの 木と めすの 木の りょうほうが いる そうです[2]。
果物の木が実をつけるまでの年数を並べた、昔からの諺があります。「モモ・クリ三年カキ八年、ユズの大馬鹿十五年、イチョウの三十年」。イチョウは、並べられた木の中でいちばん待たされる側に置かれています[3]。
実際の年数について、同志社女子大学のコラムは、芽が出てから実がなるまでに30年以上かかることがあると書いています[2]。諺の「三十年」は、おおよその目安として読むのがよさそうです。
30年といえば、いま10歳の人が40歳になる年月です。植えた人の孫の代、という言い方は、待つ長さを少し大きく言ったものとも読めますが、気の長い話であることは確かです。
もう一つ条件があります。実がなるには雄の木と雌の木の両方が必要だと、同じコラムは書いています[2]。年数だけでなく、木の組み合わせも関わっているわけです。
では、この木の名前は、中国の記録にいつごろ姿を見せるのでしょう。
果樹が実をつけるまでの年数を並べた諺がある。「モモ・クリ三年カキ八年、ユズの大馬鹿十五年、イチョウの三十年」。並べられた木のなかで、イチョウがいちばん長く待たされる側に置かれている[3]。
実際の年数はどうか。同志社女子大学のコラムは、芽が出てから実がなるまでに30年以上かかることがあると書く[2]。諺の「三十年」も、おおよその目安として読むのが妥当だろう。
芽が出てから30年なら、植えた人が生きているうちに実を見る可能性もある。ただし、植えてから実がなるまでの時間は、これより長くなることもある。そう考えると、「孫の代」という言い方は、実際の年数を少し大きく言ったものとも読める。ただし、芽が出てから実がなるまで何十年もかかる木であること自体は、諺とコラムの両方に共通している。
条件はもう一つある。同じコラムによると、実がなるには雄の木と雌の木の両方が必要である[2]。年数に加え、木の組み合わせという条件もあるため、植えれば必ず実を見られるわけではない。
では、この木の名前は、中国の記録にいつごろ姿を見せるのか。
3. 中国の 本に イチョウが 出て くるのは「鴨脚」の 名前が さいしょ
3. 中国の文献にイチョウが現れるのは11世紀、名前は「鴨脚」でした
3. 中国の文献に現れるイチョウは11世紀の「鴨脚」で、「公孫樹」の由来は示されない
イチョウは、もともと 中国に ある 木と いわれます。その 中国でさえ、本に 出て くるのは 1000年より あとに なってからだそうです[2]。
おもしろいのは、そのときの 名前が「公孫樹」では なく「鴨脚」だった ことです[2]。「孫」の はなしより、「カモの 足」の はなしの ほうが 先に 見えて くる のです。
「公孫樹」は、百科事典に 中国の 名前の 1つと して のって います。でも、なぜ そう かくのかは かいて ありません[6]。
イチョウは中国が原産とされますが、同志社女子大学のコラムによると、その中国でさえ、「鴨脚」として文献に登場するのは11世紀に入ってからでした[2]。つまり、記録に残る最初の名前は「公孫樹」ではなく、「鴨脚」です。
「孫の代」の話は、字の説明としては広く紹介されています。けれど、文献に先に姿を見せるのは、カモの脚という葉の見立てのほうです。同じ木の名前なのに、記録をたどる順番だと、孫の話より葉の話が先に見えてきます。
一方、「公孫樹」は、世界大百科事典が中国名の一つとして挙げていますが、由来までは書いていません[6]。では、日本語の「イチョウ」は、この鴨脚とどうつながるのでしょうか。
イチョウは中国原産とされるが、同志社女子大学のコラムによると、その中国でさえ、「鴨脚」として文献に登場するのは11世紀に入ってからだった[2]。記録に残る最初の名は「公孫樹」ではなく、「鴨脚」である。
「孫の代」の話は、字の説明として広く紹介されている。しかし、文献に先に姿を見せるのは、カモの脚という葉の見立てのほうだ。同じ木の名前でも、記録をたどる順に並べると、孫の話より葉の話が先に見えてくる。
一方の「公孫樹」は、世界大百科事典が中国名の一つとして挙げているが、由来の説明はない[6]。この資料の範囲では、「公孫樹」の由来を中国の側から裏づける材料は示されていない。
だとすれば、日本語の「イチョウ」という音は、この鴨脚とどう結びつくのか。
4. 「イチョウ」の 音は、どうして カモの 足なの?
4. 「イチョウ」の音は、なぜカモの脚に行き着くのでしょうか
4. 「イチョウ」の音が「鴨脚」に行き着く道すじ:ヤーチャオからイチョウへ
「鴨脚」は、葉の かたちが 水べの 鳥の 足に にて いるから、と いわれます[2]。ひろがった 葉を、水かきの ある 足に みたてた 名前です。
この 鴨脚を、中国の 宋と いう 時代には「ヤーチャオ」と よびました。それが 日本で「イーチャオ」に かわり、「イチョウ」に なったと せつめい されます[4]。林野庁の ページにも、おなじ ながれが のって います[5]。
つまり、字の「公孫樹」は 実の はなし、音の「イチョウ」は 葉の はなしと せつめい されます。ひとつの 木の 名前に、ふたつの はなしが 入って いるのです。
鴨脚という名は、葉が水かきのついた鴨(アヒル)の足に似ていることからの命名のようだ、と同志社女子大学のコラムは書いています[2]。扇のように開いた葉を、水鳥の足に見立てた名前です。
日本語の「イチョウ」は、鴨脚の宋代の発音「ヤーチャオ」が、日本でイーチャオに変わり、イチョウになったとされます。辞書も、鴨脚の宋音(宋の時代の発音にもとづく読み方)が変化した語としています[4]。林野庁・北海道森林管理局の解説も、「鴨脚(ヤーチャオ)→イーチャオ→イチョウ」という同じ道すじを示しています[5]。
音は、葉の形を見立てた中国の名前が日本語に入ったもの。字の「公孫樹」は、実がなるまでの長さを言い表したもの。どちらも「と説明される」ものですが、こう並べると、この木の名前には葉の話と実の話が一つずつ入っていることになります。
ところで、日本ではずっと、別の説明が信じられていた時期があります。
鴨脚という名は、葉が水かきのついた鴨(アヒル)の足に似ていることからの命名のようだ、と同志社女子大学のコラムは書く[2]。扇のように開いた葉を、水鳥の足に見立てた名前である。種子のほうは「銀杏(ぎんなん)」と呼ばれ、葉から付いた名と種子の名が、同じ木に並んで使われてきた。
日本語の「イチョウ」は、鴨脚の宋代の発音「ヤーチャオ」が日本でイーチャオに変わり、イチョウになったとされる。辞書も、鴨脚の宋音(唐宋音)の変化した語とする[4]。林野庁・北海道森林管理局の解説も、「鴨脚(ヤーチャオ)→イーチャオ→イチョウ」と同じ道すじを示す[5]。宋音とは、宋の時代の中国語の発音にもとづく読み方のことである。
整理すると、音の「イチョウ」は葉の形を見立てた中国の名前が日本語に入ったもの、字の「公孫樹」は結実までの長さを言い表したもの、と説明されている。どちらも「そう説明される」段階の話だが、複数の資料が同じ説明をしている点は共通しており、この木の名前には葉の話と実の話が一つずつ入っていることになる。
ところが、日本にはこの鴨脚説とは別の説明が、長く通用していた時期がある。
5. えどの 人は「一葉」と かんがえた
5. 江戸の人は「一葉」と考え、その説明はのちに書きかえられました
5. 江戸の「一葉」説が書きかえられた経緯と、日本への伝来の時期
江戸時代に、貝原益軒と いう 人が「葉が 1まいだから 一葉(いちよう)」と かんがえました。それで 名前の かんがえ方が そろった、と いわれます[3]。
あとで 言葉の 研究が すすむと、「いちゃう」と いう 読みが 正しい と されました。そして その 読みから、鴨脚が 名前の もとだと せつめい されるように なりました[3][4]。
イチョウが 日本に いつ 来たのかは、ひとつに きまって いません。平安から 鎌倉の ころに 来たと いう 説が 根強い 一方で、たしかめられる 資料は 室町時代 いこうの ものだけ、と 大学の コラムは 書いて います[2]。
江戸時代、貝原益軒が「葉が一枚だから一葉(いちょう)」と解釈し、名前の考え方が統一された、と紹介されます。歴史的仮名遣いも「いてふ」とされました[3]。葉が一枚の板のように広がる姿を思えば、もっともらしい説明です。
ところが、のちに語源の研究が進み、「いちゃう」が正しいとされました。それに合わせて、名前のもとは「一葉」ではなく「鴨脚」だという説明に改められたのです[3][4]。名前の由来の説明が、研究によって書きかえられた例です。
イチョウが日本に来た時期も、一つに決まっていません。中国原産とされますが、自生地は確認されていません。日本へは平安から鎌倉のころに伝わったという説が根強い一方で、同志社女子大学のコラムは、確認できる資料は室町時代以降のものだけで、1400年代に「銀杏」として日本に定着したことになる、と書いています[2]。年は、諸説あるということです。
こうして見ると、イチョウの名前は、江戸の人も、いまの私たちも、研究者の説明を重ねて受け取ってきたことが分かります。字も音も、辞書や葉を手がかりに、自分で見くらべることができます。
江戸時代には、貝原益軒が「葉が一枚だから一葉(いちょう)」と解釈し、名前の理解が統一されたとされる。歴史的仮名遣いも「いてふ」とされた[3]。葉が一枚の板のように広がる姿を思えば、もっともらしい説明である。
しかし、のちの語源研究で、「いちゃう」が正しいとされた。その結果、名前のもとは「一葉」ではなく「鴨脚」だという説明に改められた[3][4]。長く通用した説明が、仮名遣いの研究によって書きかえられた例といえる。
日本への伝来の時期にも、一つの答えはない。中国原産とされるが、自生地は確認されていない。日本へは平安から鎌倉のころに伝わったという説が根強い。一方、同志社女子大学のコラムによると、確認できる資料は室町時代以降のものだけで、それに従えば1400年代に「銀杏」として日本に定着したことになる[2]。伝来の年は諸説あるため、断定しない。
こうして見ると、イチョウの名前の説明は、一度で決まったものではなく、研究によって入れかわってきた。字の説明も音の説明も、辞書や葉を手がかりに、自分で見くらべられる。
6. イチョウの 葉を カモの 足と くらべて みよう
6. 葉を一枚、「カモの脚」と「一葉」の二通りに見くらべる
6. 国語辞典と近所の葉で、二つの名前の説明を見くらべる
きょう できる こと
イチョウの 葉が ついて いたら、おちて いる 葉を 1まい ひろって みましょう。ひろう ときは、くるまに ちゅういします。
よく みて、「カモの 足に にて いるかな」「1まいの 葉に みえるかな」と かんがえます。どちらに みえたか、かみに かいて おくと、あとで ふりかえれます。
しらべる とき
おうちの 国語辞典で「いちょう」を ひいて みましょう。どんな 字が のって いるか、おうちの 人と みて みます。のって いなくても だいじょうぶです。林野庁の ホームページにも、イチョウの 名前の せつめいが あります[5]。
今日できること
イチョウの葉がついているなら、落ちている葉を一枚拾ってみます。道ばたでは車に気をつけてください。じっくり見て、「カモの脚に似ているか」「一枚の葉らしく見えるか」を考えます。どちらに見えたか、紙に書いておくと、あとで見返せます。
資料を読むなら
家の国語辞典で「いちょう」を引き、どんな字が載っているかを見くらべます。載っていなくても問題ありません。林野庁・北海道森林管理局のイチョウの解説は、日本語で読めます[5]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- コトバンク「公孫樹」(デジタル大辞泉). https://kotobank.jp/word/%E5%85%AC%E5%AD%AB%E6%A8%B9-496378 (別名としての説明)
- 同志社女子大学「謎だらけの『イチョウ』」. https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/12049 (孫の代の説明、結実までの年数、鴨脚の名、伝来)
- 日本木材青壮年団体連合会「木のこと 散歩道」. https://wood.or.jp/information/wood/sanpomichi/entry-92.html (諺と一葉説)
- コトバンク「銀杏」(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典). https://kotobank.jp/word/%E9%8A%80%E6%9D%8F (鴨脚の宋音と語源研究)
- 林野庁 北海道森林管理局 駒ヶ岳森林センター「イチョウ」. https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/komagatake_fc/guide/07_ityou.html (ヤーチャオからイチョウへ)
- コトバンク「いちょう」(世界大百科事典). https://kotobank.jp/word/%E3%81%84%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%86-3143147 (中国名の一覧)
なおした ところ
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