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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ゴリラは はっぱ ばかり 食べて いるの?

ゴリラは葉っぱばかり食べているのか ── 山の森と低地の森で変わる食事と、腐りかけの木をかじる理由

ゴリラの食事は葉だけなのか ── 山と低地で変わる食べ物と、腐りかけの木をかじる理由

分野:生きもの

ゴリラは、くさりかけの 木も 食べます。ウガンダの 山に すむ ゴリラでは、その木は 食べものの しめった おもさの 3.9%しか ないのに、食べものに ふくまれる ナトリウム(しおけの もと)の 95%いじょうを まかなって いたと いわれて います[2]。

はっぱ ばかり 食べて いる はずの ゴリラが、なぜ 木まで かじるのでしょう。ゴリラの 食べものが、山と ひくい 土地の 森で どう ちがうのかと、木を かじる わけが わかります。

ウガンダの山に暮らすマウンテンゴリラは、腐りかけの木を食べます。その木は食べ物の湿った重さの3.9%しかないのに、食事に含まれるナトリウムの95%以上をまかなっていたと報告されています[2]。

葉っぱが主食のはずのゴリラが、なぜ木までかじるのでしょうか。山の森と低地の森で食べ物がどう違うのか、そして木をかじる理由が分かります。

ウガンダ・ブウィンディのマウンテンゴリラが食べる腐りかけの木は、食べ物の湿重量では3.9%にすぎない。ところが、食事に含まれるナトリウムの95%以上を供給していたと報告されている[2]。

葉が中心とされるゴリラが、なぜ木まで食べるのか。山と低地の森で食べ物がどう違うのか、栄養成分や腸内微生物の面からどう説明されているのか、そして腐りかけの木をかじる理由が分かる。

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1. 山の ゴリラは、なにを いちばん 食べるの?

1. 山の森のゴリラは、草の葉をいちばんよく食べる

1. 山のマウンテンゴリラの食事 ── 中心は草の葉、ただし木の葉や果実もまじる

ゴリラの 大きな からだは、なにを 食べて できて いるのでしょう。ゴリラの 食べものの 中心は、植物です。

ウガンダの ブウィンディと、ルワンダなどの ヴィルンガ。この ふたつの 山の 森で、マウンテンゴリラの 食べものを 調査ちょうさした 研究けんきゅうが あります[1]。どちらの 森でも、いちばん 多かったのは 草の 葉でした。

ブウィンディの ゴリラは、ヴィルンガの ゴリラより、木の 葉や 果実かじつ、かわいた 木も よく 食べて いました。くきは すくなめでした。

ただし、調べたのは 12頭と 7頭の 小さな むれです。ゴリラ ぜんぶの ことでは ありません。

では、山を おりて ひくい 土地の 森へ 行くと、ゴリラの 食べものは 同じなのでしょうか。

ゴリラの食べ物といえば、葉をむしゃむしゃ食べる姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。山の森に暮らすマウンテンゴリラについては、実際にそれに近い結果が出ています。

ウガンダのブウィンディと、ルワンダなどにまたがるヴィルンガで、群れの食べ物を比べた研究があります。どちらの森でも、食べ物の中心は草の葉でした[1]。

細かく見ると、ブウィンディのゴリラは、木の葉、果実、茎の中心にある髄、乾いた木を多く食べ、茎は少なめでした[1]。同じ山の森でも、場所によって食卓の中身が少しずつ違うわけです。

ただし、この調査で見たのは12頭と7頭の、小さな群れです。マウンテンゴリラ全体の平均として読むことはできません[1]。

山のゴリラは葉が中心。それなら、同じゴリラでも、山ではなく低地の森に住むと食べ物は変わるのでしょうか。

ゴリラは葉を食べる動物だという印象は、どこから来たのか。まず山のマウンテンゴリラで確かめると、ウガンダのブウィンディとルワンダ等のヴィルンガで比較した研究では、どちらの調査地でも食べ物の中心は草本の葉だった[1]。

ただし内訳は同じではない。ブウィンディの群れは、木の葉、果実、茎の髄、乾いた木をヴィルンガの群れより多く食べ、茎は少なかった[1]。森の植物の種類が違えば、同じ種のゴリラでも食べ物は変わる。

この数字の読み方には限度がある。比べたのは12頭と7頭の小さな群れで、全個体の平均ではない[1]。「マウンテンゴリラは葉を食べる」という大づかみな理解は支えられるが、割合の細かな値を一般化することはできない。

山のゴリラは葉が中心だった。では、果実の多い低地の森にいるゴリラも、同じ食べ方をしているのか。

2. ひくい 土地の 森では、くだものが ごちそう?

2. 低地の森のゴリラは、大きな果実を分け合って食べる

2. 低地のゴリラと果実 ── 「葉を食べる動物」という印象は、どの森の研究にもとづくのか

アフリカの ガボンという 国の、ひくい 土地の 森に、ニシローランドゴリラが います。ここの ゴリラは、フットボールほどの 大きな 果実かじつを、なかまと 分け合って 食べます[4]。

京都大学の 研究者けんきゅうしゃたちは、この 分け合いを 18回 見ました。大人どうしでも 分け合って いました[4]。

「ゴリラは 葉や くきが 中心」と 言われて きた はいけいには、果実かじつが 少ない 山の 森の ゴリラを 中心に 調べて きた ことが あると、京都大学は せつめい して います[4]。

ひくい 土地の ゴリラも、いつも 果実かじつばかりでは ありません。ガボンの ロペでは、103しゅるいの 植物の 139の 部分を 食べて いました。果実かじつが 少ない 季節きせつには、くきや 葉、木の 皮を ふやして いました[5]。

コンゴの ゴリラを 調べた 研究では、果実かじつが あれば よく 食べる、葉が 中心の 動物と 考える ことが すすめられました[6]。

つまり ゴリラは、場所や 季節きせつに あわせて、食べものを かえる 動物です。ここまでが、「はっぱ ばかり?」と いう 問いの 答えです。

果実をよく食べるゴリラがいる

アフリカ中部のガボン、ムカラバ国立公園の低地熱帯雨林には、ニシローランドゴリラが暮らしています。京都大学の山極寿一さんたちは、ここでゴリラがフットボールほどの大きさの果実(Treculia africana)を分け合って食べる場面を、18例観察しました。大人どうしで分け合う場面もありました[4]。

京都大学の発表では、ゴリラは葉や茎を主に食べるとされてきたが、それは果実の少ない山地林のマウンテンゴリラしか研究対象になっていなかったためだ、と説明されています[4]。

果実が少ない時期は、葉や樹皮へ

ガボンのロペで野生のニシローランドゴリラを調べた研究では、103種の植物の139の部位(果実78を含む)が食べられていました。果実が少ない時期には、茎、葉、樹皮を増やし、質の低い繊維の多い果実を食べていました[5]。

コンゴ民主共和国のカフジ・ビエガ国立公園のヒガシローランドゴリラでも、果実が多い時期には果実を、少ない時期には葉や樹皮を多く食べていました。果実の有無にかかわらず一年中食べる葉や樹皮もあり、山極さんらは学会の大会で、ゴリラを「果実を好む葉食者」と見なすべきだと結論しました[6]。

ここまでで、「ゴリラは葉っぱばかりか」という問いの答えが見えます。ゴリラの食事は植物が中心で、山では葉が多く、低地では果実があれば果実をよく食べ、足りない季節には葉や樹皮で乗りきります。

でも、そうすると新しい問いが出てきます。果実ばかりの食事と、葉ばかりの食事。栄養の面では、大きく違うのでしょうか。

山のゴリラの結果だけで「ゴリラは葉食」と言ってよいのか。この疑問に答えるのが、低地の森での観察である。ガボンのムカラバ国立公園で、京都大学の山極寿一らは、ニシローランドゴリラが大きな果実(Treculia africana、フットボール大)を分け合う場面を18例観察し、大人どうしの分配も確認した[4]。

京都大学の発表は、ゴリラが葉や茎を主に食べるとされてきた理由を、果実の少ない山地林のマウンテンゴリラしか研究対象にならなかったためだと説明する[4]。つまり「葉食」という印象は、研究された場所が偏っていたことの影響を受けている可能性がある。

低地のゴリラが果実ばかり食べているわけでもない。ガボン・ロペの野生ニシローランドゴリラは、103種の植物の139部位(果実78を含む)を食べた。果実が少ない時期には茎・葉・樹皮を増やし、質の低い繊維の多い果実を食べた[5]。果実が減ると、まず食べる部位を変え、それでも足りなければ果実の「質」を落として乗りきる、という順序が読み取れる。

コンゴ民主共和国のカフジ・ビエガ国立公園のヒガシローランドゴリラでも、果実が多い時期は果実を、少ない時期は葉や樹皮を多く食べた。果実の有無にかかわらず一年中食べる葉や樹皮もあるため、山極とカニュニは「ゴリラは果実を好む葉食者と見なすべき」と結論した[6]。ただしこれは学会大会の要旨であり、査読論文ではない点には注意したい。

山では葉、低地では果実。食べ物の「種類」がこれほど違うと、体に入る栄養も大きく違うはずだと考えたくなる。実際はどうか。

3. 食べものが ちがっても、栄養えいようは にて いるの?

3. 食べる植物が違っても、栄養の濃さはよく似ていた

3. 食べる植物の種類が違っても、栄養成分は近い ── 粗タンパク質18%と17%

ブウィンディと ヴィルンガの ゴリラは、食べる 植物の しゅるいも 部分も ちがって いました。ところが 食べものの 中の 栄養えいようの こさは、よく にて いました[1]。

たとえば 体を つくる もとに なる タンパクしつ。かわかして はかると、ブウィンディの 食べものでは 18%、ヴィルンガでは 17%でした[1]。

この 研究を した 人たちは、「果実かじつ食」や「葉食」という 大きな わけかただけでは、食事の よしあしは はかれないと いって います[1]。

もうひとつ、おもしろい ことが あります。葉が 中心の 時期の ゴリラは、タンパクしつを 多めに 食べて、エネルギーを とって いるように 見えました[3]。その わりあいは、人が タンパクしつを 多めに とる 食事と 同じ くらいでした[3]。

ところで、葉には かたい せんいが たくさん あります。これを、どうやって エネルギーに かえて いるのでしょう。

山の森のゴリラは葉、低地の森のゴリラは果実をよく食べます。見た目の食事はずいぶん違うので、栄養も大きく違うと思いがちです。ところが、山地にすむブウィンディとヴィルンガの2群を比べた研究では、食べる植物の種類や部位が違っても、栄養成分の濃さはよく似ていました[1]。

たとえば乾燥させた重さあたりで、粗タンパク質はブウィンディの食べ物で18%、ヴィルンガで17%でした[1]。研究した人たちは、「果実食」「葉食」という大きな分け方だけでは、食事の質は測れないと述べています[1]。

葉が中心の時期は、タンパク質を多めに食べる

ブウィンディのマウンテンゴリラを一年間追った別の研究では、果実が多い時期でもそうでない時期でも、タンパク質以外から得るエネルギーの量は、ほぼ一定でした。葉が中心の時期には、タンパク質を多めに食べることでエネルギーを確保しているように見えた、と報告されています[3]。

葉が中心の食事のタンパク質の割合は、人間が高タンパクをうたって選ぶ食事と同じくらいだったそうです[3]。

ただ、葉には硬い繊維が多く含まれます。ゴリラはどうやって、これをエネルギーに変えているのでしょうか。

種類が違えば栄養も違う、と考えるのが自然だが、データはそうなっていない。ブウィンディとヴィルンガのゴリラは、食べる植物の種類や部位が異なるにもかかわらず、乾燥重量あたりの粗タンパク質(CP)は18%と17%、繊維の目安である中性デタージェント繊維(NDF)は43%と41%、糖やデンプンなどの総非構造性炭水化物(TNC)は19%と18%と、近い値だった[1]。

著者らは、「果実食」「葉食」という大きな分け方だけでは、食事の質は測れないと述べる[1]。場所が変われば食べる植物は変わっても、結果として体に入る成分の組み合わせは似てくる、という見方である。

では、その組み合わせはどう決まるのか。ブウィンディのゴリラを追った2011年の研究は、果実が多い時期にも少ない時期にも、非タンパク質エネルギー(NPE。糖・脂質・繊維由来)の摂取量は年間を通じて一定で、葉が中心の時期にはタンパク質を多めに食べることでNPEを確保しているように見えた、と報告した[3]。このとき食事のタンパク質の割合は、人間の高タンパクなダイエット食と同程度だった[3]。

ここで新しい問いが出る。葉の中の繊維は、動物自身の酵素では分解しにくい。そのエネルギーは、誰が取り出しているのか。

4. かたい はっぱを、おなかの 中で こなして いるのは だれ?

4. 繊維をエネルギーに変えているのは、腸の中の微生物

4. 繊維の発酵 ── 腸内細菌の違いは、採食の違いと結びついていた

はっぱや 木の 皮に ある せんいは、ゴリラの からだの 力だけでは、かんたんに こなせません。

そこで はたらくのが、おなかの 中に すむ 微生物びせいぶつです。せんいを 発酵はっこうさせて、エネルギーに なる ものを 作って くれます[7]。

アフリカの 中ほどに ある 国の、野生の ニシローランドゴリラ 4つの むれを 調べた 研究では、腸ちょうの 中の さいきんと、それが 作る ものの ちがいが、食べものの ちがいと むすびついて いました[7]。

果実かじつを 多く 食べるか、せんいの 多い 食べものを 発酵はっこうさせるかで、おなかの 中の なかまが ちがって いたのです。

ゴリラは、食べものと いっしょに、おなかの 中の 小さな 生きものにも 助けられて います。では、食べものの 中で いちばん ふしぎな「木」は、どうして 食べるのでしょう。

植物の繊維は、動物自身の酵素では分解しにくい物質です。ゴリラの場合、腸の中にすむ微生物が繊維を発酵させ、短鎖脂肪酸などのエネルギー源を取り出していると説明されます[7]。

中央アフリカ共和国の野生ニシローランドゴリラ4群を調べた研究では、腸内細菌とその代謝物の違いが、果実を多く食べるか、繊維の多い食べ物を発酵させるかという採食の違いと結びついていました[7]。

前の章で見たように、ゴリラは果実が少ない時期に、葉や樹皮を多く食べます。腸の中の微生物は、そうした食べ物の違いと並んで変わっていました。ただし、見られたのは「食べ物の違いと腸内細菌の違いが結びついている」という関係で、どちらが原因かまでは言えません。

葉も果実も、ゴリラは腸の助けを借りて食べています。その食卓の中で、研究者たちが特に注目した食べ物があります。腐りかけの木です。

葉や樹皮に多い繊維は、動物自身の酵素では分解しにくい。ゴリラでは、腸の中の微生物が繊維を発酵させ、短鎖脂肪酸などのエネルギー源を作り出す。これが葉を主要な食べ物にできる土台と考えられる[7]。

中央アフリカ共和国の野生ニシローランドゴリラ4群を調べた研究(Gomezら、2015年)では、腸内細菌の組成と代謝物の違いが、果実を多く食べるか、繊維の多い食物を発酵させるかという採食の違いと結びついていた[7]。ここで読み取れるのは「関係」であって、「果実を食べる量が腸内細菌の違いの原因である」とまでは言えない。

前の章で、果実が少ない時期にゴリラが葉・樹皮・繊維の多い果実へ切りかえることを見た。腸内微生物の違いは、そうした食べ物の違いと並んで見られたものである[7]。

ここまでで、栄養・エネルギーの面から見る限り、ゴリラの食事は「果実か葉か」ではなく「何をどれだけ組み合わせるか」の問題だと分かる。それでも説明のつかない食べ物がある。腐りかけの木である。

5. どうして、くさりかけの 木まで 食べるの?

5. 腐りかけの木は、重さでは4%弱なのに、塩分の大半をまかなう

5. 腐りかけの木とナトリウム ── 重さ3.9%で、ナトリウムの95%以上

ウガンダの ブウィンディの マウンテンゴリラが 食べる くさりかけの 木は、食べものの しめった おもさの 3.9%でした。100キロ 食べるなら、4キロ ぐらいの 木です。

それなのに、食べものの 中の ナトリウムの 95%いじょうを、この 木が まかなって いました[2]。

ナトリウムは、体が はたらく ために ひつような、しおけの もとです。研究した 人たちは、木は ほかの 食べものより ナトリウムが 多い こと、ゴリラが 食べた 木は 食べなかった 木より ナトリウムが 多かった ことを 調べました[2]。

この 研究の 人たちは、ゴリラは しおけを とる ために 木を 食べて いると 考えて います。木には、ほかの 栄養えいようが ほとんど ないと いわれます[2]。

葉と 果実かじつと 木。ゴリラは、足りない ものを おぎなう ように 食べものを えらんで いるように 見えます。

シロアリも そうかも しれません。カメルーンの 研究では、果実かじつを 多く 食べる ときほど、シロアリも 食べて いました。鉄分を おぎなう ためか、おなかを こわさない ための ものかも しれないと、研究した 人は 考えて います[9]。まだ 分かって いない ことです。

ブウィンディのマウンテンゴリラが食べる腐りかけの木は、食べ物の湿った重さでは3.9%にすぎません。100kg食べるなら、4kg弱です。ところが、食事に含まれるナトリウムの95%以上は、この木からきていました[2]。

研究した人たちは、木が他の食べ物よりナトリウムを多く含むこと、ゴリラが食べた木のほうが避けた木よりナトリウムが多いことを確かめています[2]。ナトリウムは、体の働きに必要な塩分の元です。著者らの結論は、ゴリラは塩分を補うために腐りかけの木を食べている、というものです。木には、ほかの栄養はほとんどないとされます[2]。

ゴリラは「ふつうの食事」だけでは足りないものを、少量の別の食べ物で補っているように見えます。シロアリを食べるのも、その一つかもしれません。南東カメルーンの研究では、シロアリを食べる量が果実を食べる量と並んで増えていました。著者は、タンニンの多い果実を食べるときの鉄分補給か、下す果実を食べすぎたときの下痢止めの効果ではないかと推測しています[9]。これは理由の推測で、確かな答えではありません。

では、ゴリラが食べるのは、体を作る材料と、足りない塩分だけなのでしょうか。食べたものが、森に何かを返しているとしたらどうでしょう。

ここまでの説明では、腐りかけの木だけが浮いている。ブウィンディのマウンテンゴリラが食べる腐りかけの木は、食べ物の湿重量では3.9%にすぎない。ところがこの木は、食事に含まれるナトリウムの95%以上をまかなっていた[2]。

数字の裏づけも示されている。木に含まれるナトリウムは537mg/kgで、木以外の食べ物の平均19.3mg/kgより多く、食べた木は避けた木よりナトリウムが多かった[2]。ゴリラは手近な木をかじっているのではなく、ナトリウムの多い木を選んでいることになる。著者らの結論は、塩分(ナトリウム)の補給が目的だというものである。木にはほかの栄養がほとんどない点も、この解釈と矛盾しない[2]。

ほかの食べ物のナトリウムが少なく、木が最大の供給源になっていた、という筋道である。ただし、ここで示されているのは一つの調査地のデータであり、ほかの場所のゴリラにそのまま当てはまるとは限らない。

足りないものを別の食べ物で補う例は、ほかにもある。南東カメルーンの研究では、ゴリラのシロアリ採食は果実を食べる量と正の相関があった。著者は、タンニンの多い果実を食べるときの鉄分補給、あるいは下す果実を食べすぎたときの下痢止めの効果と推測する[9]。推測の段階であり、どちらが当たっているかは決まっていない。

ゴリラは食べ物から何を得ているのかが、ここまでで見えてきた。では、ゴリラが食べたものは、その後どうなるのか。

6. ゴリラの うんちから、めが 出るって ほんとう?

6. 食べた果実の種は、ゴリラの糞と寝床の跡から森へ広がる

6. 種子の行方 ── 糞に混じった種子と、寝床の跡で育つ芽

ゴリラは、果実かじつの たねを かまずに のみこみます。たねは きずつかないまま、うんちと いっしょに 出て きます[8]。

カメルーンの ある 場所では、うんちの 中から、少なくとも 58しゅるいの たねが 見つかりました。そのうち 44しゅるいは 木の たねでした[8]。

ゴリラは、夜の ねどこの あとに、うんちを 半分いじょう おとします。ねどこは、木の 上が ひらけて 明るい 場所に 作られます[8]。だから ガボンで しらべると、ねどこの あとで、めの 育ちが はやかったと いわれます[8]。

ガボンの ある 木の たねでは、ゴリラの うんちから 出た たねが めを 出す わりあいは、だいたい 68%、果実かじつから とった たねは 73%で、大きな ちがいは ありませんでした[8]。1つの 木の 場合の 話なので、ぜんぶの たねに 言える わけでは ありません。

ゴリラは 食べる だけでなく、森に たねを まく 役目も して いるようです。

ゴリラは果実の種子を飲みこみ、傷つけずに糞として出します。カメルーンのある調査地では、糞から少なくとも58種の種子(うち44種は木)が見つかりました[8]。

面白いのは、糞を落とす場所です。糞の半分以上は、ゴリラの寝床(巣)の跡にあります。巣は、林冠が開けた明るい場所に作られます。そのため、ガボンの調査では、巣の跡では芽の成長が速かったと報告されています[8]。

ゴリラの腸を通ると、種子は発芽しにくくなるのでしょうか。ガボンの Dacryodes normandii という木では、ゴリラの糞から出た種子の発芽率は平均68%、果実から取り出した種子は73%で、有意な差はありませんでした[8]。ただしこれは1種の例で、すべての種子に当てはまるわけではありません。

数字はいずれも特定の調査地のもので、ゴリラ全体の数字ではありません。それでも、ゴリラが食べるだけでなく、森に種を運ぶ役目も果たしている様子が見えてきます。

食べ物は、食べて終わりではない。ゴリラは種子を飲みこみ、傷つけずに糞として出す。カメルーンのある調査地では、糞に少なくとも58種の種子(うち44種が木)が含まれていた[8]。

種子の行き先にも偏りがある。糞の半分以上は寝床(巣)の跡に落ちる。巣は林冠の開けた明るい場所に作られるため、ガボンの調査では、巣の跡で芽の成長が速かった[8]。光が届く場所に種子が落ちることが、芽の成長の速さに関係していると考えられる。

では、ゴリラの腸を通ると発芽率は下がるのか。ガボンのDacryodes normandiiでは、糞から出た種子の発芽率は平均68%、果実からの種子は73%で、有意な差はなかった[8]。ただしこれは1種の結果で、すべての種子で同じとは言えない。数字は特定の調査地のものであり、ゴリラ全体の値でもない。

葉や果実を食べる量、木から得るナトリウム、腸内微生物、種子の行方。ゴリラの食事は、一つの調査地・一つの種のデータでは語りきれない。だからこそ、どの森の、どの群れの話なのかを確かめる読み方が大切になる。

7. ゴリラの せつめいを 読む とき、たしかめたい ことは?

7. 「ゴリラは葉を食べる」の説明は、どの森のゴリラの話だろう

7. 「ゴリラは葉を食べる」という説明の、どの森・どの群れの話かを読む

まず、数の 計算を して みましょう。木は 食べものの しめった おもさの 3.9%でした。ゴリラが 1日に 食べるのを、たとえば 10キロと すると、木は 390gです。ペットボトル(500ml)より、すこし かるい くらいです。家に はかりが あれば、お米を 390g はかって、くらべて みて ください。

つぎに、図鑑ずかんや どうぶつえんの せつめいを 見るとき、「どこの 森の ゴリラの 話かな?」と 見て みましょう。山の ゴリラの 話か、ひくい 土地の 森の ゴリラの 話かで、食べものが ちがうかも しれません。

もっと 知りたい 人は、京都大学の ページを 読んで みて ください[4]。日本語で 読めます。

まず、計算で確かめてみましょう。腐りかけの木は、食べ物の湿った重さの3.9%でした。仮にゴリラが一度に10kgを食べたとすると、木は約390gです。ペットボトル(500mL)より少し軽いくらいです。家の台所のはかりで、米や砂糖を390g量ってみると、この重さの感じがつかめます。これは重さの例で、1日の食事量を示す数字ではありません。

次に、図鑑や動物園の説明を読むときに、「これは山の森のゴリラの話か、低地の森のゴリラの話か」を探してみてください。「ゴリラは葉や茎を食べる」と書かれた説明が、どの森のゴリラの観察からきているのかを意識すると、食べ物の違いが説明のどこに表れているかが見えてきます。

京都大学の発表[4]は日本語で読めます。ほかの出典は英語が中心ですが、どれも出典欄から開けます。

次の問いは、ゴリラの子どもが、どこで何を食べ始めるのか。食べ物を選ぶ力が、群れの中でどう伝わるのか。調べてみる価値のある問いです。

この題材で一番役に立つのは、「ゴリラの食事はこうだ」という言い切りを疑い、調査地・群れの数・季節・出典の種類を読む習慣である。たとえば本文で見た数字の確かめ方を挙げる。

①3.9%の重さの感覚をつかむ。ゴリラが一度に10kgを食べたと仮定すれば、木は約390g。これは重さの例で、1日の食事量を示すものではない。②日本語の図鑑や動物園の説明で、「どの森のゴリラの話か」を探してみる。台所のはかりで390gを量って、重さの感覚をつかむのもよい。③Rothmanら(2006)の抄録で、ナトリウムの数字がどの食べ物の平均なのかを確かめる[2]。④山極らの学会要旨[6]が査読論文ではない点を踏まえ、結論の強さを読み取る。

資料の読みどころは三つある。京都大学の発表[4]は日本語で読め、低地のゴリラの果実の分配を扱う。Rothmanらの二つの論文[1][2]は、同じ調査地で食べ物の内訳とナトリウムの両方を見ている。Berggorillaの記事[8]は、種子散布の研究を概説する二次資料なので、数字を使うときは原典の確認が望ましい。

ここから先の問いは、ゴリラの個体や群れによって、食べ物の選び方がどう受け継がれるのか。食の文化と言えるものがあるのか。それを調べるには、観察記録を読み比べるのがよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:学術論文の抄録、大学の発表、国際団体の記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Rothman et al. (2007) 「Nutritional quality of gorilla diets」Journal of Tropical Ecology(抄録)。https://www.cambridge.org/core/product/identifier/S0266467407004555/type/journal_article (ブウィンディとヴィルンガのゴリラの食べ物と栄養成分について)
  2. Rothman, Van Soest & Pell (2006) Biology Letters。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1686189 (腐りかけの木とナトリウムについて)
  3. Rothman, Raubenheimer & Chapman (2011) Biology Letters。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3210651 (葉が中心の時期のタンパク質の食べ方について)
  4. 京都大学 研究成果「ゴリラの食物分配」(2014年6月23日)。https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2014-06-23-0 (低地のゴリラの果実の分け合いと、葉食という印象の背景について)
  5. Williamson (1988) 博士論文(スターリング大学)。https://storre.stir.ac.uk/handle/1893/1314 (ガボン・ロペのニシローランドゴリラの食べ物と、果実が少ない時期の変化について)
  6. 山極寿一・カニュニ「ゴリラは葉食者か果実食者か?」霊長類研究 Supplement 21(2005年、学会大会の要旨)。https://www.jstage.jst.go.jp/article/primate/21/0/21_0_46/_article/-char/ja/ (ヒガシローランドゴリラの季節ごとの食べ物について)
  7. Gomez et al. (2015) Molecular Ecology(JCVI 掲載ページ)。https://www.jcvi.org/publications/gut-microbiome-composition-and-metabolomic-profiles-wild-western-lowland-gorillas (腸内細菌と食べ物の違いについて)
  8. Berggorilla & Regenwald Direkthilfe「Seed Dispersal by Western Lowland Gorillas」。https://www.berggorilla.org/en/home/news-archive/article-view/seed-dispersal-by-western-lowland-gorillas-from-fruits-to-seedlings/ (種子の運ばれ方と発芽について。団体の解説記事)
  9. Deblauwe (2009) International Journal of Primatology。https://research.itg.be/en/publications/temporal-variation-in-insect-eating-by-chimpanzees-and-gorillas-i/ (シロアリを食べることについて)

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