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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

クマも 食べない トチの 実を、なぜ 20日も かけて もちに したの?

熊も食べない苦いトチの実を、なぜ人は約20日かけて餅にしたのか

熊も食べない苦いトチの実を、なぜ約20日かけて餅にしたのか ── 保存・灰の働き・共有林の共同採取

分野:歴史・文化

やまがた県の しょうないでは、トチの 実で「とちもち」を つくります。かわを むいてから あくぬきが おわるまで、およそ 20日も かかります[3]。そのうえ トチの 実は、クマも 食べないほど にがい 実です。でも、よく かわかせば 何年も とっておけると いいます。

どうして そこまで して、人は この 実を 食べたのでしょう。この メモを 読むと、トチの 実が 山の くらしで たいせつだった わけと、灰はいの はたらき、みんなで ひろう 森の しくみが 分かります。

山形県庄内のとちもちは、皮むきからアク抜きが終わるまで、約20日もかかるそうです[3]。材料のトチの実は、熊も食べないほど苦い実ですが、乾かせば何年も置けるといいます[2]。

それほど手間のかかるものを、なぜ人は食べ物にしてきたのでしょうか。この記事を読むと、トチの実が山の暮らしで頼りにされた理由と、灰がしている働き、そして実を拾う森を集落で守ってきた様子が分かります。

山形県庄内の「とちもち」は、皮むきからアク抜きの完了まで約20日を要する[3]。原料のトチの実は、熊も食べないほど苦いが、乾燥させれば何年も保存できるという[2]。これほどの手間をかけてまで、人はなぜこの実を食料にしたのか。

この記事を読むと、保存性と凶作時の頼もしさ、アルカリ(灰)が苦味成分にしている働きと、灰を使わない例の報告、縄文時代にさかのぼる技術の古さ、そして共有林での共同採取と「口で教えにくい技」の伝わり方が分かる。

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1. 20日も かけて、なぜ ひろうの?

1. 手間は20日。それでも拾うのは、何年も置けるから

1. 手間は約20日 ── それでも拾う理由は「保存」と「安定した収穫」

トチの 実は、そのままでは 食べられません。クマも さけると、ふくしま県の ただみ町の 人は 話します[2]。

けれども、ひろった 実を 4〜5日 ほして、カランカランと 音が する ほど かわかすと、何年も とっておけると いいます[2]。ゆきぐにの 冬の 食べ物や、ききんの ときの たすけに なりました[2]。

しらみねと いう 土地では、ある 秋の 朝、2人で 2時間 ひろって 50キロの 実が とれた という 話も あります[4]。お米の 5キロの ふくろで 10ふくろ ぶんです。ただし これは、実が たくさん なった 年の 一つの たとえです。

この 年は 短い 時間で たくさん ひろえました。しかも、かわかせば 何年も とっておけます。では 20日の あいだ、人は 何を して いたのでしょう。

熊も避ける実を、わざわざ拾う

福島県只見町の聞き書きによると、トチの実は熊でさえアクが強くて食べないそうです。ところが拾った実を一晩水に浸けて虫を出し、4〜5日、カランカランと音がするほど干すと、カビも生えず何年も置けるといいます[2]。

国の天然記念物「太田の大トチノキ」(石川県白山市)の指定文書にも、アク抜きをすればデンプンを効率よく取れ、乾燥後は長期の貯蔵に耐えるので、山間部で古くから保存食として広く使われてきたとあります[1]。雪国の冬の食料、飢饉を救う非常食として重宝されたとも伝えられています[2]。

実がよくなった年には、短時間でたくさん拾えた

石川県の白峰では、焼き畑の跡のそばのトチ林で、ある秋の朝に2人が2時間で約50kgを拾ったという聞き取りが報告されています[4]。1人1時間あたりにすると12.5kg、5kg入りのお米の袋なら10袋分です。実がよくなった年の一例なので、毎年こうとは限りません。

短い時間でたくさん拾えて、乾かせば置いておける。では、約20日の手間の中身は何なのでしょうか。

庄内のとちもちは、皮むきからアク抜き完了まで約20日かかる[3]。それでも作られ続けたのは、手間を上回る利点があったからだ。第一に保存性である。只見町の聞き書きでは、拾った実を一晩水に浸けて虫を出し、4〜5日、カランカランと音がするほど干すと、カビずに何年も保存できるという。熊もアクが強くて食べない実が、乾燥させれば長期貯蔵に耐える食料になる[2]。

国の天然記念物「太田の大トチノキ」(石川県白山市、幹周13m・高さ25m)の指定文書も、サポニンを含む堅果はそのままでは食べられないが、アク抜きすれば効率よく澱粉が得られ、乾燥後は長期貯蔵に耐えるため、山間部で保存食料として古くから広く利用されてきたと述べる[1]。只見町の資料は、雪国の冬の食料、飢饉を救う非常食として重宝されたとする[2]。

第二の利点は、実のなりがよい年には短時間で多く拾えることである。石川県白峰の聞き取りには、焼き畑跡に隣接するトチ林で、ある秋の朝に2人が2時間で約50kgを拾った例がある。計算すると1人1時間あたり12.5kgだ。筆者は、トチは手間がかからず、寒冷期に農作物が不安定でも安定した食料源だったと述べる[4]。ただしこれは、実のなり具合のよい年の一例で、毎年・誰でも同じ量を拾えるわけではない。

白峰の例では短時間で多く拾え、乾燥させれば保存がきく。では、約20日という加工の中身は何なのか。

2. 20日の あいだ、人は 何を して いたの?

2. 水にさらし、灰をかけ、水を替える ── 20日の中身

2. アク抜きは「水さらし」と「アルカリ処理」の組み合わせ ── 約10〜20日の中身

ただみ町の ある 家の やりかたを 聞くと、こうです。かわいた 実を、流れる 水に 3日。かわを むいて、また 水に 2日[2]。

つぎに、おけに 実と、実と 同じ りょうから 2ばいの 灰はいを 入れて、あつい おゆを かけ、ひと ばん おきます。それから 灰はいを あらい ながして にます。にたつ 少し 前に 水を かえる ことを、水が すむまで 10回 ほど くりかえします[2]。

にがさが なくなったら、ぬので こして、もちに まぜます[2]。

これは 一つの 家の やりかたで、日にちも 灰はいの りょうも、土地や 家で ちがいます。ほかの ほんでは、いそいでも 1しゅうかん、ふつうは 2しゅうかん ほど かけたと あります[4]。

水に さらして、灰はいを 使う。この 灰はいは、いったい 何を して いるのでしょう。

ある家の手順

只見町の聞き書きに残る手順は、次のとおりです。乾いた実を流水に3日浸け、外皮をむいて、また流水に2日。それから桶に実を入れ、実と同じ量から2倍の灰をかけ、実が見えなくなるほどの熱湯を注いで一晩置きます。翌日、灰を洗い流して煮て、煮立つ寸前に水を替える作業を、水が澄むまで約10回くり返します。苦味が消えたら布でこし、餅に混ぜます[2]。

家ごとに、日数はちがう

これは一軒の家の手順なので、地域や家によって日数も灰の量も変わります。総合地球環境学研究所の紹介記事は、アク抜きを水さらしとアルカリ処理の2つの技術の組み合わせとし、急いでも約1週間、通常は2週間ほどかけていたと述べます[4]。庄内の約20日と合わせると、1週間から20日と幅があります。数え方や手順がそろっていないので、足し算にはできません。

水に浸けるだけではなく、灰を使うのはなぜでしょうか。

ここまでの「約20日」は、実際には何をしている時間なのか。只見町の聞き書きに残る一軒の手順は次のとおりである。乾燥したトチを流水に3日浸け、外皮をむいて再び流水に2日。次に桶に実を入れ、実と同量から2倍の灰をかけ、実が見えなくなるほどの熱湯を注いで一晩置く。翌日に灰を洗い流して煮、煮立つ寸前に水を替える作業を、水が澄むまで約10回繰り返す。苦味がなくなれば布でこし、餅に混ぜる[2]。

ただし、これは一軒の手順であり、日数も灰の量も地域・家で異なる。資料に出てくる日数は、工程の数え方や手順によって幅がある。総合地球環境学研究所の紹介記事は、アク抜きを水さらしとアルカリ処理の2つの技術の組み合わせと整理し、アルカリ源にはナラの灰が最良といわれ、超特急でも約1週間、通常は2週間ほどかけていたとする[4]。山形県庄内のとちもちは、熱湯と木灰を混ぜてアク抜きし、皮むきから完了まで約20日である[3]。資料により約1週間から約20日と幅がある。

水さらしだけで済ませず、灰を使うのはなぜか。

3. 灰はいを 入れると、にがい もとは どうなるの?

3. 灰を入れると、苦い成分はどう変わるのか

3. アルカリ処理でエスシンが別の形に変わる ── 毒が消えるわけではない

トチの 実には、サポニンと いう なかまの ものが 入って いて、にがさに かかわります。ある けんきゅうでは、灰はいなどで あくぬきを すると、にがい エスシンと いう ものが、べつの かたちに かわり、にがさが ぐっと へる と つたえて います[5]。

ここで 大事なのは、「どくが きえる」のでは ない ところです。にがい もとが、にがく ない 形に かわる のです[5]。

日本しょくぶつ せいり がっかいの Q&Aは、アルカリの 灰はいの 水が あくぬきに 役立つと せつめい して います[6]。

ただみ町の 人は、灰はいにも ちがいが あると 言います。ナラを もやした 重い 灰はいは よく きき、かるい 灰はいは きかないので 多めに 使うそうです[2]。

では、灰はいが なくては ぜったいに だめ なのでしょうか。

苦味は「消える」のではなく「変わる」

トチの実に含まれるサポニンの一種「エスシン」は、苦味に関係しています。トチノキ種子のサポニンを調べたある研究は、アルカリ処理のあく抜きでエスシンがデアセチルエスシンという形に変わり、苦味が大きく減ると報告しています[5]。ここでは、毒が消えるというより、苦い成分が別の形に変わる、と読むのが正確です。

なぜアルカリが効くのか

日本植物生理学会のQ&Aは、アルカリ性の灰汁がアク抜きに役立つと説明しています。水を替えながら長く浸ける方法もあるとされますが、このQ&Aは、アルカリ処理が有効だという説明にとどめています[6]。

灰の種類でも効きが違います。只見町の作り手は、ナラを燃やしたような重い灰はよく効き、軽い灰は効かないので量を増やすと言います[2]。

ところで、「灰が必須」と言い切ってよいのでしょうか。

トチの実に含まれるサポニンの一種エスシンは、苦味に関係する。トチノキ種子のサポニンに関するある研究は、アルカリ処理を伴うあく抜きでエスシンがデアセチルエスシンに変換され、苦味が大きく低減する一方、血糖値上昇の抑制作用は保持されると報告している[5]。ここでいう変化は「毒の消失」ではなく、苦味成分の化学形の変化である。なお、この研究は要旨の趣旨を引いたもので、書誌の細部は原典で確認してほしい。

では、なぜアルカリが効くのか。日本植物生理学会のQ&Aは、アルカリ性の灰汁がアク抜きに役立つと説明する。このQ&Aが述べるのは、アルカリ処理が有効だという点までで、成分ごとのくわしい仕組みは、この記事では断定しない[6]。

灰の質も効果を左右する。只見町の作り手は、ナラを燃やしたような重い灰はよく効き、軽い灰は効かないので量を増やすと述べる[2]。灰の質と量を調整するという行為自体が、化学的な知識を経験で補っていたことを示す。ただし、この点は資料から読み取れる推測にとどまる。

ここまでは「灰を使う」ことを前提に読んできた。では、灰を使わない例はないのか。

4. 灰はいを 使わない 食べ方も あったの?

4. 灰を使わずに抜いた例が、民俗の記録に残っている

4. 「灰は必須」は定説か ── 灰を使わない民俗例と、2つの食べ方

トチの 食べ方は、大きく 2つに 分けられます。一つは「とちもち」です。わって、水に さらし、灰はいと あわせて、むします。もう 一つは「コザワシ」です。にて つぶして 水に さらし、こなに して さらして、デンプンだけを とります[8]。

むかしの くらしの ものがたりには、灰はいを 使わず、にくずした トチや こなに した トチに 水を うつだけで アクを ぬいた 少ない れいも あります。ある 人が、それを じっけんで たしかめて います[7]。

ですから 「灰はいが いつも ひつよう」と まで は 言えません。ただ、じっけんの けっかは、ここでは つたえきれません。「灰はいを 使わない れいも ある」と おぼえて おきましょう。

こんな ぎじゅつは、いつごろ から あるのでしょう。

2つの食べ方

かながわ考古学財団の講座資料によると、民俗例でのトチの使い方は大きく2つです。トチモチは、荒く割って水にさらし、灰と合わせて蒸します。コザワシは、煮て潰して水にさらし、粉にしたものをさらしてデンプンだけを取る方法です[8]。

灰なしの少数例

栗島義明さんの論文(2023)は、トチのアク抜きと灰の関係を取り上げています。民俗例の中には、木灰を使わず、煮崩したり粉にしたりしたトチに打ち水をするだけでアクを抜いた事例が、少数ながら報告されています。栗島さんは再現実験でそれを検証しています[7]。

この実験の結論までは、ここで資料から述べられません。分かるのは、灰を使う方法が主流でも、唯一とは限らないということです。

こうした技術は、いつ頃から山の暮らしを支えていたのでしょうか。

民俗例でのトチの利用法は、大きく2系統ある。トチモチ(荒割り→水さらし→灰あわせ→蒸す)と、コザワシ(煮沸→つぶす→水さらし。粉末をさらしてデンプンだけを取る)である[8]。灰を使うのは前者で、後者は目的が異なる。

栗島義明(2023)は、民俗例の中に、木灰を使わず、煮崩すか粉末にしたトチに打ち水をするだけでアクを抜いた少数例が報告されていることを指摘し、再現実験で検証した[7]。この実験の結論は、本稿が参照した範囲では述べられない。したがって「灰は不要」とは書けないし、「灰が必須」とも言い切れない。

灰の働きに関する化学的説明(前章)と民俗例の幅は、矛盾というより、「どの食べ方をねらうか」「どの程度まで抜くか」で必要な処理が変わりうることを示唆する。ただし、これも資料から読み取った推測である。

こうした技術は、いつごろ山の暮らしに根づいたのか。

5. こんな わざは、いつごろ から あるの?

5. 縄文時代の遺跡にも、トチの実は出てくる

5. 縄文時代の遺跡とトチの半栽培 ── 古い技術と、昭和の山里の記録

トチの 実が 出る いせきは、縄文じょうもんから やよいの 時代に かけて、ほっかいどうから きゅうしゅうまで 80か所 いじょう あります。縄文じょうもんの まん中の ころに ふえ、そのころに ぎじゅつが できたと いわれます[4]。

あおもりの かめがおか いせきでは、あたたかい 時期は クリを、さむい 時期は トチノキを、森を 手入れして ふやして いた ことが わかって きました。花ふんの しらべで 分かった ことです[4]。

いわて県では、昭和しょうわの 30〜40年代、畑だけでは 食べものが たりず、木の 実で おぎなう 農家が 多く ありました。ある 農家は、1年の 食べものの 18%ほどを 木の 実で まかなったそうです[9]。これは その 農家だけの はなしで、トチだけの 数でも、みんなの ふつうの 数でも ありません。

では、ひろう 森は、だれの ものだったのでしょう。

縄文時代から

総合地球環境学研究所の紹介記事によると、トチの実が出る縄文〜弥生時代の遺跡は北海道から九州まで80か所を超え、縄文時代中期に増えて、そのころアク抜きの技術が確立したといわれます[4]。1984年には埼玉県の赤山陣屋遺跡の発掘でトチの実とアク抜き場が見つかり、のちに各地で同じような遺構が見つかっています[8]。

森を手入れしてトチを増やす

花粉の分析から、青森の亀ヶ岡遺跡では、縄文時代に温暖な時期はクリ、寒冷な時期はトチノキを「半栽培」していたことが分かってきました。半栽培とは畑で育てることではなく、森を手入れして実を確保することです。石川県の白山麓でも、天明の大飢饉の時代にトチノキの半栽培が始まったことが花粉分析で示されています[4]。

昭和の山里の食卓

岩手県の農業科学博物館の展示解説は、昭和30〜40年代の農家の多くが、畑だけでは足りない食料を木の実で補い、ある農家は年間食料の約18%を木の実でまかなったと紹介します。冷害で畑の作物が実らない年でも採れるので、救荒食にも行事食にもなりました[9]。約18%はある農家の例で、平均でも、トチだけの割合でもありません。

このように、実を拾う森は暮らしの大事な土台でした。では、その森はだれが守り、技はどう伝わったのでしょうか。

この技術はいつから山の暮らしを支えたのか。総合地球環境学研究所の紹介記事によれば、トチの実が出る縄文〜弥生時代の遺跡は北海道から九州まで80か所を超え、縄文時代中期に増える。このころにアク抜き技術が確立したといわれるが、他の資料では表現に揺れがあるため、本稿では「縄文時代から」と幅をもたせて読む[4]。1984年の赤山陣屋遺跡(埼玉県)の発掘でトチの実とアク抜き場が検出されたことは、規模の大きな関連遺構が見つかる先駆けになった[8]。

人はトチを拾うだけでなく、増やしてもいた。花粉分析から、亀ヶ岡遺跡(青森県)では縄文時代に温暖期はクリ、寒冷期はトチノキを半栽培していたことが分かってきた。ここでいう半栽培は、畑で育てることではなく、森を手入れして実を確保することだ。白山麓では、天明の大飢饉の時代にトチノキの半栽培が始まったことも、花粉分析で明らかになった[4]。時代の食料事情と森の手入れが結びついていた例といえる。

昭和でも事情は似ていた。岩手県の農業科学博物館の展示解説によると、畠山剛の調査で、昭和30〜40年代の農家の多くが畑だけでは食料が足りず、不足分を木の実で補っていた。ある農家は年間食料の約18%を木の実でまかなった。木の実は冷害の年でも採れ、救荒食・行事食にもなった[9]。約18%は一例で、トチ単独の割合ではなく、平均値でもない。

実を拾う森は、暮らしの土台だった。ではその森と技は、どう受け継がれるのか。

6. ひろう 森は だれの もの? わざは どう つたわるの?

6. 解禁日を決めて共同で拾う森と、「一緒に作って覚える」技

6. 共有林・解禁日・技術事例集 ── 口で教えにくい技をどう伝えるか

やまがた県の ぎょうざわ ちくには、むかし 先ぞが トチノキを 植えたと いわれる、みんなの 森が あります。9月に、ひろって よい 日を きめて います[3]。

この あくぬきの 作りかたは、ことばで つたえるのが むずかしいと、作り手は 言います。いちばん よいのは、いっしょに 作って おぼえる ことだそうです[2]。

いま、県の 人たちは、おゆの おんどや 灰はいの 強さを しらべて、「ぎじゅつじれいしゅう」に まとめ、わかい 人たちに つたえて います[3]。

手で おぼえる ぎじゅつを、数字と 手を つかって つぎの 世だいへ。トチもちには、そんな 力も 入って います。

みんなで管理する森

山形県庄内の資料によると、朝日地域の行沢地区には、江戸時代に先祖がトチノキを造林したといわれる共有林があり、今も集落で管理しています。9月に採取の解禁日を決め、とちの実を共同で採ります[3]。拾う日をそろえることで、実を取り尽くさないようにしているのかもしれませんが、資料にその理由は書かれていません。

言葉にしにくい技を、数字で支える

只見町の作り手は、アク抜きの作り方は説明が難しく、一緒に作って覚えるのがいちばんだと言います[2]。

庄内では、県の普及課が熱湯の温度や木灰のpHを調べて技術事例集にまとめ、若い世代に伝えています[3]。手で覚える技に、数字の目印を足す試みです。

森は集落で守られ、技は一緒に作って覚える形で伝わり、今は数字の目印も加わっています。資料から見えるのは、そうした工夫です。

実を拾う場と技の継承には、集落ぐるみの仕組みがある。山形県庄内の朝日地域・行沢地区には、江戸時代に先祖がトチノキを造林したといわれる共有林が今も集落で管理されており、9月に採取解禁日を定めて共同採取が行われる[3]。解禁日をそろえる意図は資料に書かれていないが、採取の時期を集落で合わせる仕組みが続いているのは事実である。

一方、技術の側には「言葉にしにくさ」がある。只見町の作り手は、アク抜きの手順は説明が難しく、一緒に作って覚えるのがいちばんだと言う。灰の質(重い灰か軽い灰か)で量を変える判断も、経験に頼る部分が大きい[2]。

そこで庄内では、県の普及課が熱湯の温度や木灰のpHを測り、技術事例集にまとめて若い世代に伝えている[3]。実を拾う森は共有林と解禁日で支え、加工の技は共同作業と測定値で支える。森の共同管理と、作り方を伝える工夫が、今も続いている。

7. とちもちの ふくろを うらがえして みよう

7. 栃餅の包みを裏返して、手間を数えてみる

7. 出口 ── 原材料の表示と、日本語で読める原典

おうちの 人と おみせに 行ったら、とちもちを さがして みましょう。買わなくても だいじょうぶです。ふくろを うらがえして、かいてある ことを 読んで みます。

しょうないの 20日を 思い出しながら 見て みましょう。ただし、ひょうじ だけでは、作りかたや 日数は 分かりません。

ひろった トチの 実は、なまで 食べては いけません。そのままでは にがくて、食べられません。

お店でとちもちを見かけたら、買わなくてもいいので、包みを裏返して原材料の表示を読んでみてください。庄内の約20日を思い出しながら見てみましょう。ただし、表示だけでは作り方や日数は分かりません。

拾ったトチの実を、生で食べるのはやめましょう。そのままでは食べられません。

もっと知りたくなったら、只見町ブナセンターだよりの聞き書き[2]で、手順を語る言葉そのものに触れられます。庄内の旬だより[3]には、共有林の話があります。灰を使わない例の手順は、栗島さんの論文[7]が、民俗例と実験から紹介しています。

店でとちもちを見かけたら、原材料の表示を確かめ、庄内の約20日の例と見比べるとよい。表示だけでは作り方や日数は分からない。拾ったトチの実を生で食べるのは避ける。

資料を読むなら、灰を使う手順の聞き書きは只見町ブナセンターだより[2]、共有林と共同採取は山形県庄内総合支庁の旬だより[3]、灰なしの事例と再現実験は栗島義明の論文[7]が日本語で読める。論文では、灰を使わない例でどんな手順が紹介されているかを、民俗例と再現実験の説明から読める。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:国の文化遺産データベース、自治体・研究機関の資料、学会のQ&A、論文を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. 文化遺産オンライン「太田の大トチノキ」。https://online.bunka.go.jp/db/heritages/detail/138224 (天然記念物の指定文書、保存食料としての利用について)
  2. 只見町ブナセンターだより No.7(2010年)。https://www.tadami-buna.jp/img/no.7.pdf (乾燥・保存、アク抜きの手順、灰の種類、技の伝え方の聞き書きについて)
  3. 山形県庄内総合支庁「食の都庄内」旬だより(2025年1月)。https://www.pref.yamagata.jp/documents/40694/syunndayori_202501_tochimoti.pdf (約20日の工程、共有林と共同採取、技術事例集について)
  4. 総合地球環境学研究所 里プロジェクト Pre-News Letter No.14(北川淳子)。https://www.chikyu.ac.jp/sato-project/news_letter/news_letter_14.pdf (アク抜きの2つの技術、縄文時代の遺跡、半栽培、採取量の聞き取りについて)
  5. J-STAGE 日本食品科学工学会誌系論文(トチノキ種子のサポニン)。https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/53/1/53_1_31/_article/-char/ja/ (エスシンの変化と苦味の低減について)
  6. 日本植物生理学会 植物Q&A「トチノミのアク抜き」。https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1612 (アルカリが効く理由について)
  7. 栗島義明「トチのアク抜きに関する問題」駿台史学180号(2023)。https://meiji.repo.nii.ac.jp/record/2000207/files/sundaishigaku_180_113.pdf (灰を使わない民俗例と再現実験について)
  8. かながわ考古学財団 考古学入門講座資料(2009)。https://www.kaf.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2012/02/H212youkososiryou.pdf (トチモチとコザワシ、赤山陣屋遺跡について)
  9. 岩手県立農業ふれあい公園 農業科学博物館 展示解説。https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/296/90th_press.pdf (昭和の農家と木の実について)

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