1. ふつうは、なにを たべて いるの?
1. ふつうは木の葉。でも「何でも食べる」わけではない
1. 食べ物の幅:何でも食べる種と、1種類しか食べない種
しゃくとりむしは、ガの なかまの ようちゅうです[1]。この なかまは、世界に 24000しゅるいに ちかく いると いわれます。
たべるのは、おもに 木の 葉です[2]。でも、どの しゃくとりむしも おなじ ものを たべる わけでは ありません。
いろいろな 草や 木を たべる 子も います。ヨモギエダシャクは、草の なかまから 木の なかままで、たくさんの 植物を たべると いわれます[1]。はんたいに、1しゅるいの 植物しか たべない 子も います[1]。
葉を たべて そだつ。ここまでは、そうぞう どおりです。では、なにを たべるかで、虫の すがたが かわる ことは あるのでしょうか。
シャクトリムシは、シャクガ科のガの幼虫
シャクトリムシは、基本的にシャクガ科というガの仲間の幼虫を指します[1]。この科は世界で24000種近くが知られ、チョウやガのなかで2番目に大きい科とされます[1]。「近く」という概数なので、目安として読んでください。種がこれだけ多いと、食べ物も一通りではなさそうです。
食べるのは植物。食べ方は種ごとにちがう
幼虫が食べるのは植物で、典型的には木の葉です[2]。ただ、何を食べるかは種によってちがいます。いろいろな植物を食べる「広食性」の種もいれば、1種類の植物しか食べない「単食性」の種もいます[1]。
広食性の例が、ヨモギエダシャクです。キク科やマメ科の草から、バラ科やツバキ科の木まで食べ、果樹や茶の害虫としても扱われます[1]。
葉を食べて育つ。ここまでは想像どおりでしょう。では、何を食べるかによって、幼虫の姿が変わることはあるのでしょうか。
「シャクトリムシは何を食べるのか」と聞かれたら、まず「植物の葉」と答えられる。シャクトリムシは基本的にシャクガ科(鱗翅目)の幼虫を指し、この科は世界で24000種近くが知られ、鱗翅目ではヤガ科に次ぐ2番目の大きさとされる[1]。種数がこれだけ多いのだから、食べ物も一通りではないと予想できる。ただし24000は概数なので、目安にとどまる。
実際、幼虫は典型的には木本植物の葉を食べるが、種ごとに食べ物は異なり、裸子植物・被子植物・シダ植物のどれを食べる種もいる[2]。食べ物の幅は両極端で、さまざまな植物を食べる広食性の種と、単一の植物しか食べない単食性の種がいる[1]。広食性の例であるヨモギエダシャクは、キク科・マメ科の草からバラ科・ツバキ科の木まで食べるため、果樹や茶の農業害虫として扱われる[1]。
では、同じ葉を食べる仲間のあいだで、食べ物が体の形まで左右することはあるのか。
2. はるは 花、なつは 小えだに にる 子
2. 春生まれは花に、夏生まれは小枝に似る幼虫
2. 食べ物が姿を切りかえる引き金か:北米の一種での実験
北アメリカの カシの 木に いる、ある しゃくとりむしを しょうかい します。春に うまれた 子は、カシの 花を たべて、花に そっくりな すがたに なります。夏に うまれた 子は、花が おちた あとに 葉を たべて、小さな えだに そっくりに なります[3]。
花と 葉の どちらを たべるかで、すがたが かわるのでしょうか。しらべた 人が います。花だけで そだてると 花の すがたに、葉で そだてると えだの すがたに なりました[3]。
葉には、花より しぶい せいぶん(タンニン)が 多いと いわれます。タンニンを たした えさで そだてると、ほとんどが えだの すがたに なりました[3]。
ただし、これは 1つの けんきゅうの けっかです。たべものが すがたを きめる、とまでは 言いきれません。
同じ種なのに、春と夏で姿がちがう
北アメリカのカシの木にすむある種では、春に生まれた世代はカシの花(尾状花序)を食べ、花そっくりの姿に育ちます。夏に生まれた世代は、花が落ちたあとに葉を食べ、小枝そっくりの姿に育ちます[3]。
季節か、食べ物か
姿を決めているのは季節なのか、食べ物なのか。1989年のグリーンの研究は、幼虫を花だけで育てる組と、葉で育てる組に分けて比べました[3]。花で育てるとすべてが花の姿に、葉で育てると小枝の姿になりました。花はタンニンが少なく、葉は多いとされます。さらに、タンニンを加えた人工の餌の花で育てると、ほとんどが小枝の姿になりました[3]。
この結果は、タンニンの量が姿を切りかえる引き金かもしれない、ということを示します。ただし「かもしれない」の段階で、1つの種の研究です。ほかのシャクトリムシにも当てはまる、とは言えません。
花や小枝に似た姿の幼虫は、ほかの種にもいるのでしょうか。
北米のカシの木で暮らす Nemoria arizonaria の幼虫は、同じ種でありながら、春に生まれた世代と夏に生まれた世代で姿が大きく異なる。春の世代はカシの花(尾状花序、垂れ下がる花の房)を食べて花にそっくりな姿に、夏の世代は花が落ちたあとに葉を食べて小枝にそっくりな姿に育つ[3]。
ここで、姿を決めるのは季節なのか食べ物なのかという疑問が生じる。Greene(1989)は、幼虫を花だけで育てる組と葉で育てる組に分けて比べた。花(タンニンが少ない)で育てた幼虫はすべて花型に、葉(タンニンが多い)で育てた幼虫は小枝型になり、タンニンを加えた人工飼料の花で育てるとほとんどが小枝型になった[3]。季節が同じでも食べ物を変えれば姿が変わったのだから、食べ物に含まれるタンニンの量が引き金になっている可能性がある。
ただし、示されたのは「引き金かもしれない」という候補までで、1種での結果である。ほかのシャクトリムシに一般化はできない。それでも、食べ物が単なる栄養ではなく、姿の切りかえにも関わりうるという点が、この研究の面白さだ。では、花や小枝に似るという現象は、どれくらい一般的なのか。
3. じっと して いる すがたは、えだに そっくり
3. 止まった姿が、枝や新芽に似ている種は多い
3. 枝に似た姿は特別ではない:似せ方と、似せない種
しゃくとりむしには、とまって じっと している すがたが、木の えだや 葉、あたらしい めに よく にて いる 子が たくさん います[1]。
アオシャクの なかまの ようちゅうには、せなかに、植物の かけらを のせて いる 子も います[1]。じぶんの からだに、まわりの ものを くっつけて いるのです。
ぜんぶの しゃくとりむしが えだに にる わけでは ありません。「たくさん いる」と いう 書きかたは、にて いない 子も いる、という ことです。
えだに にた からだで、どうやって すすむのでしょう。あしの ひみつを 見て みましょう。
4. あしが うしろに ない のに、どう あるくの?
4. 脚が尾の近くにしかない体は、どう歩くのか
4. 腹脚が尾端に偏った体の歩き方と、名前の由来
ふつうの チョウや ガの ようちゅうは、おなかに 5くみの あしが あります。しゃくとりむしは、おしりの ちかくに 2〜3くみ しか ありません[2]。
そこで、まず 前の あしで えだに つかまり、体を のばします。つぎに、うしろの あしを 前へ ひきよせます。すると 体が、Uの 字に なります[1]。
これを くりかえして すすみます。「しゃくとりむし」の 名前は、おやゆびと ひとさしゆびで ものの 長さを はかる ときの すがたに にて いる ことから ついたと されます[1]。
ここまで、はっぱを たべる しゃくとりむしの はなしでした。では、はっぱを たべない しゃくとりむしは いるのでしょうか。
脚が少ない体
多くのチョウやガの幼虫は、腹に5対の腹脚(はらの脚)を持っています。ところがシャクトリムシは、尾に近いところに2〜3対しかありません[2]。日本語の資料では、例外を除いて後ろの2対(第6・第10腹節)だけ残るとされています[1]。数え方が資料でちがうのは、種によって差があるためと考えられますが、ここでは「ほとんどは2対」としておきます。
のばして、引き寄せて、U字になる
胸の脚でつかまって体をのばし、腹脚を胸脚のすぐ後ろまで引き寄せると、体がU字(アーチ)になります[2][1]。この動きをくり返して進みます。「尺取り虫」の名前は、この姿が、親指と人差し指で長さを測るしぐさに似ていることに由来するとされます[1]。
ここまでは、葉を食べる幼虫の話でした。では、葉を食べないシャクトリムシはいるのでしょうか。
枝に似た体は、細長いだけでなく、脚の付き方にも特徴がある。多くのチョウ・ガの幼虫は腹に5対の腹脚を持つが、シャクトリムシは尾端近くに2〜3対しかない[2]。日本語の資料は、例外を除いて第6・第10腹節の2対だけが残り、ほかは退化するとしている[1]。英語と日本語の資料で対数が異なるのは、後者が「例外を除く」と断っているためと読めるので、本稿は「ほとんどは2対」とする。
脚が後ろにしかないと、前に進むために体の使い方が変わる。胸の脚で掴まって体をのばし、腹脚を胸脚のすぐ後ろまで引き寄せると、体はU字(アーチ)になる。これをくり返す[2][1]。「尺取り虫」の名は、この姿が、親指と人差し指で長さを測る様子を連想させることに由来するとされる[1]。
ここまでの話は、すべて葉を食べる幼虫の話だった。では、葉を食べないシャクトリムシはいるのか。
5. はっぱを たべない しゃくとりむし
5. ハエを待ち伏せして捕まえる、ハワイの種
5. 植物を食べない例外:ハワイ諸島の待ち伏せ捕食種
ハワイの しまじまには、ハエを つかまえて たべる しゃくとりむしが います。「ハエトリナミシャク」と よばれる なかまです[1]。
えだや シダの 葉に まぎれて、じっと まちぶせを します。おしりの ちかくの けに ハエが さわると、体を うしろへ そらせて、とげの ある 前あしで つかまえます[4]。
こうした まちぶせを する 子は、2002ねんの 記事で、少なくとも 18しゅるい いると しょうかい されました[4]。ガや チョウの ようちゅうで、まちぶせを して えものを とる 子は、とても めずらしいと されます[1]。
ハワイの しまじまでしか しられて いない、という ところも、ふしぎです[1]。
ハエトリナミシャクという仲間
カバナミシャク属には、待ち伏せして虫を捕らえて食べる「ハエトリナミシャク」が複数知られていて、ハワイ諸島からしか知られていません[1]。チョウやガの幼虫で待ち伏せをして獲物を捕らえる例は、非常にまれとされます[1]。
じっと待って、体を反らせる
この幼虫は、枝やシダの葉にまぎれて待ちます。尾に近い感覚毛に獲物が触れると、体の前のほうを後ろへ反らせ、とげのある前脚でハエなどを捕まえるとされます[4]。2002年の記事では、少なくとも18種がいると紹介されています[4]。
枝にまぎれて動かずにいる点は、3章の「枝のふり」と似て見えます。ただ、同じ体の使い方がつながっているかどうかは、ここで挙げた資料からは言えません。
原典を探すなら
この研究の中心にいるのは、スティーブン・モンゴメリーです。1983年にGeoJournalという雑誌に、ハワイのカバナミシャク属の行動や分布、保全を論じた論文を出したと紹介されています[5]。
シャクトリムシの食性が「葉」だけでないことは、ハワイ諸島の例が示す。カバナミシャク属(Eupithecia)には、待ち伏せして虫を捕らえる「ハエトリナミシャク」が複数知られ、ハワイ諸島からしか知られていない。鱗翅目で待ち伏せ捕食者は非常にまれである[1]。
この幼虫は枝やシダの葉にまぎれて待ち、尾に近い感覚毛に獲物が触れると、上体を後ろへ反らせ、棘のある前脚でハエなどを捕らえるという[4]。枝にまぎれて動かない点は3章の枝に似た種と重なって見えるが、体の使い方が進化の上でつながっているかどうかは、挙げた資料からは言えない。2002年の一般向け雑誌の記事は、少なくとも18種がいると紹介している[4]。種数は研究で変わりうるので、当時の目安として読む。
原典に近づくには、モンゴメリーの研究が手がかりになる。1983年にGeoJournalへ「Carnivorous caterpillars: the behavior, biogeography and conservation of Eupithecia (Lepidoptera: Geometridae) in the Hawaiian Islands」を発表したと紹介されている[5]。ここで挙げた書誌は百科事典の参考文献表記に基づくので、実際に読むときは論文のデータベースで確かめるとよい。
6. ゆびと 目で ためして みよう
6. 指の動きと近所の枝で、確かめる道すじ
6. 自分で確かめる道すじ:指・近所の枝・原典
まず、手で まねして みましょう。おやゆびと ひとさしゆびを ひろげて、ちぢめて、また ひろげます。この 手の うごきが、しゃくとりむしの なまえの もとだと されます。
つぎに、葉の ある 木の ところで、えだを じっくり 見て みましょう。えだの 一ぶに 見える 虫が、いるかも しれません。見つけても、さわらずに 目で 見るだけに します。毛の ある 虫には、手で さわらない ように します。
見つからなくても、ふつうです。小えだに そっくりな 虫は、見つけにくい ものだからです。
今日できること:指で歩き方をまねる
親指と人差し指を広げて、縮めて、また広げてみてください。指が「U字」になる動きが、尺取り虫の名前のもとだと考えられています[1]。
出かけてできること:枝を目で探す
葉のある木の枝を、そっと見てみます。枝の一部のように見える虫がいないか、触らずに探します。毛のある虫には手で触れないようにします。枝そっくりの姿は見つけにくいので、見つからなくても不思議ではありません。
もっと知りたくなったら
家にある図鑑や昆虫の本で、気になる幼虫の食べ物を調べてみると、葉のほかに何を食べる種がいるかが見えてきます。論文にも当たりたい人は、花から小枝に切りかわる幼虫の話をグリーン(1989)が、ハワイの待ち伏せ捕食をモンゴメリーが書いています(どちらも英語)。
確かめる道すじは3つある。第一に、親指と人差し指を広げては縮めて、「尺取り虫」の名前のもとになった動きをまねる[1]。第二に、葉のある木の枝を、触れずに目で探す。枝の一部に見える虫がいるか確かめる。毛のある虫には手で触れない。枝に似た幼虫は見つけにくいので、見つからないほうがふつうだ。
第三に、原典を読む。グリーン(1989)「A diet-induced developmental polymorphism in a caterpillar」(Science)の要旨は、PubMedで読める[3]。ハワイの待ち伏せ捕食は、モンゴメリー(1983)が原典になる[5]。いずれも英語の資料なので、日本語の本文だけで済ませたい人は、まず「引き金かもしれない」という言い方がどこまでを意味するかに注目するとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。種や体の特徴の細部は、資料によって数え方や書き方が異なることがあります。
- Wikipedia(日本語)「シャクガ科」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%AC (種数、食性、脚、名前の由来、ハワイの種。二次資料)
- Animal Diversity Web, Geometridae https://animaldiversity.org/accounts/Geometridae/ (典型的な食べ物、脚の数、歩き方)
- Greene (1989) A diet-induced developmental polymorphism in a caterpillar, Science(PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17834231/ (花型・小枝型と食べ物の実験)
- National Wildlife Federation, Of Killer Caterpillars and Vampire Bugs (2002) https://www.nwf.org/Magazines/National-Wildlife/2002/Of-Killer-Caterpillars-and-Vampire-Bugs (ハワイの待ち伏せ捕食の様子と種数。一般向け記事)
- Wikipedia, Eupithecia orichloris https://en.wikipedia.org/wiki/Eupithecia_orichloris (モンゴメリーの論文の書誌。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
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