1. ゆきの いえは、どうして さむくないの?
1. 雪のブロックの家は、なぜ冬の寒さをしのげるのか
1. 雪のブロックの家は、冬の寒気をどう遮るのか
イヌイットは、「ひとびと」という いみの ことばです[1]。この ひとたちの ふゆの いえの ひとつが、イグルーと いう ゆきの いえです。「いえ」と いう いみの ことばだと いわれて います[3]。
ゆきの かたまりを まるく つみ あげて、ドームの かたちに します。ふゆに すむ いえは、でいりぐちが ひくく、とおり道が まがって います。そとの つめたい かぜが、そのまま はいって こないように するためです。
ゆかには けがわを しきます。では、この いえの 中を あたためるのは、なんでしょう。つぎの おはなしです。
ただし、むかしの イヌイットが みんな ゆきの いえに すんだ わけでは ありません。ながれ木などで つくった いえも、イグルーと よぶ ことが あります。
「イヌイット」は、イヌイットの言葉で「人びと」という意味です[1]。この人びとが冬に使った家の一つが、雪や氷のブロックを円形に積んでドーム状にしたイグルー(「家」という意味の言葉)です[3]。
冬に長く住む家には、工夫がいくつもあります。出入り口は低く作られ、通路は曲げてあって、外の冷たい空気がそのまま入りこまないようになっています。床には毛皮を敷き、室内を暖かく保ちました[3]。
ただし、昔のイヌイットが全員、雪の家に住んだわけではありません。流木などで作った家もイグルーと呼ばれます[3]。雪の家は、地域や季節に合わせた住まいの一つでした。
では、この家の中を暖めたのは何だったのでしょうか。
「イヌイット」は、イヌイット語で「人びと」を意味し、Inukの複数形にあたる。かつて外部の人が使った「エスキモー」はカナダでは否定的な響きがあるとされ、1977年のイヌイット極北会議のあと、「イヌイット」が好まれる呼び名になった[1]。本稿はカナダのイヌイットを中心に扱う。
イグルーは「家」を意味する言葉で、雪や氷のブロックを円形に積んでドーム状にした冬の住居を指す。冬の定住用の家は、出入り口を低くし、通路を曲げてあるので、外気が室内へ直接吹きこまない。床には毛皮を敷いた[3]。
ただし、これは全イヌイットの住まいではない。流木などで作った家もイグルーと呼ばれ、雪の家は地域と季節に応じた住居の一つだった。「イヌイットはみんな雪の家」と読める書き方は、資料の範囲を超えてしまう。
では、雪でできた家を、何がどの程度暖めていたのか。次の章で、その熱源と、モデル計算で示された数字を見る。
2. ゆきの いえに ひを ともす ひみつは?
2. 雪の家に火をともした、アザラシの脂のランプ
2. 熱源はアザラシの脂のランプと体の熱だった
ゆきの いえを あたためるのは、クドリクと よぶ ランプです。三日月の かたちを した、せっけんいしの ランプで、アザラシの あぶらを もやします[5]。
ひを つける しんには、ツンドラに はえる コケや、わたのような くさを つかいます。みかづきの ふちに そって ならべるのです[5]。あかりに なり、ごはんを つくり、ぬれた ふくを かわかすのにも つかわれました。
いえの 中は、ひとの からだの ねつも あたたかさの もとです。あるけんきゅうでは、ねつの 8から14パーセントを、ひとの からだが うけもつと けいさんされました[4]。
けがわを うちがわに はった ちいさな いえは、アザラシ 1とうぶんの あぶらで 6.3日。はらない 大きな いえは 3.7日ぶんです。これは けいさんで だした かずで、はかった かずでは ありません。
雪の家をおもに暖めたのは、qulliq(クドリク)というランプです。石けん石(ソープストーン)で作った三日月形のランプで、アザラシの脂を燃やします[5]。
芯は、ツンドラに生えるコケやワタスゲなどの植物で、三日月の縁にそって並べました。明かりと暖房だけでなく、調理や、ぬれた服を乾かすのにも使われ、ヌナブト準州の紋章にも描かれています[5]。
雪の家の暖房を調べたArctic誌の研究では、ランプの脂と、人の体から出る熱を暖房の元として計算しています。体の熱は、必要な熱全体の8〜14%を担うという結果です[4]。
脂の量も計算されています。カリブーの毛皮を内側に張った小さな家は、アザラシ1頭分の脂で約6.3日、毛皮を張らない大きな家は約3.7日分の暖房にあたるとされます。外の気温との差が最大45℃のときを想定した計算で、実測値ではありません[4]。
3.7日と6.3日では、約1.7倍の差です。家の大きさと毛皮の有無は同時に変わっているので、どちらの効果か、この数字だけでは分けられません。
家の中を暖めても、外に出れば零下の世界です。外ではどんな服を着たのでしょうか。
雪の家の暖房は、アザラシの脂を燃やすqulliq(クドリク)と、人の体の熱で成り立つ。クドリクは、石けん石で作った三日月形のランプで、芯にはツンドラに生えるコケやワタスゲを、三日月の縁にそって並べた。灯り・暖房に加え、調理や服の乾燥にも使われ、ヌナブト準州の紋章にも描かれる[5]。
この組み合わせが暖房として足りるのかを、Arctic誌の論文がモデル計算で検討している。人の体の熱は、必要な熱量全体の8〜14%を担う。残りをランプが補うので、脂の消費量が問題になる。小さくカリブーの毛皮を内側に張った家は、アザラシ1頭分の脂で約6.3日、毛皮のない大きな家は約3.7日分の暖房にあたる。外気との差は最大45℃と想定されている[4]。
6.3÷3.7は約1.7で、小さな毛皮張りの家のほうが、脂を約1.7倍長くもたせる計算になる。ただし、家の大きさと毛皮の有無が同時に変わっているので、どちらの効果が大きいかはこの数字から分けられない。しかも値はモデル計算で、実測ではない。
熱源が分かれば、次の問いは外に出たときのことだ。家の外で、人は何を着て寒さを防いだのか。
3. そとに でる ときは、なにを きたの?
3. 外に出るときは、カリブーの毛皮を重ねて着た
3. 毛皮の重ね着は、何が断熱しているのか
そとに でる ときは、どうぶつの けがわで できた ふくを きます。カリブーの けがわは、とても あたたかいと されて います[6]。
ふくを 2まい かさねて きる ほうほうも ありました。1まいは けを うちがわに、もう 1まいは けを そとがわに します。ただし、どこでも いつでも そうだった わけでは ありません。ちいきに よって ちがいます。
はくぶつかんの きろくには、カリブーの けがわは、ホッキョクグマに つぐ あたたかさだと かかれて います。
4. うみに でる ふねは、ひっくりかえっても だいじょうぶ?
4. ひっくり返っても水が入らない舟、カヤック
4. カヤックは、どこで水の侵入を防ぐのか
うみで かりを する ときは、カヤックと いう ふねに のります。ながれ木の ほねぐみに、アザラシや カリブーの かわを はって つくります。ながさは 4から 7メートルです[7]。
うえが ふさがって いて、のる ひとが はいる あなが 1つだけ あります。ひっくりかえると、あなから みずが はいりそうです。
そこで、のる ひとは、パーカーの すそを あなの ふちに むすびつけました。こうすると、ふねが ひっくりかえっても、みずが はいらない ように なります[7]。
ふねと ひとを むすぶ くふうで、ひっくりかえっても みずが はいりにくく なります。
カヤックは、アザラシなどの狩りに使う舟です。甲板が閉じていて、流木で作った骨組みにアザラシやカリブーの皮(毛を取ったもの)を張ります。長さは4〜7メートルほどです[7]。
乗る人が入る穴(ハッチ)は小さく、ひっくり返れば水が入りそうに見えます。そこで乗り手は、着ているパーカーのすそを、ハッチの縁に結びつけました。これで、舟が転覆しても水が入りにくくなります[7]。
舟と人が、ひと続きの「袋」のようになる工夫です。1人乗りが多いとされますが、資料には1〜3人乗りの記述もあります。
では、雪の上や氷の上で、目を守るために何を使ったのでしょうか。
カヤックは、流木の骨組みに、毛を取ったアザラシやカリブーの皮を張った、甲板の閉じた狩猟舟で、長さは4〜7メートル程度とされる。1人乗りが基本とされるが、1〜3人乗りの記述もあり、言い切りは避けたい[7]。
水の侵入を防ぐ鍵は、舟本体より乗り手の服にある。乗り手はパーカーのすそをハッチの縁に結びつけた。そのため、ひっくり返っても、ハッチと服のすき間から水が入りにくくなる[7]。舟だけで防水するのでなく、人と舟を一つにつなぐことで、転覆を想定した設計になっている。
この設計は、乗り手が自分の服で舟の穴をふさぐ点が特徴で、転覆しても水を入れにくくすることを狙っている。
海の上の問題は水だった。では、陸と氷の上で、目を痛める原因は何か。次の章で見る。
5. ゆきの うえで、めを まもる どうぐは?
5. 細い切れ目から見る、雪めがね
5. 視野をせばめる雪めがねが、役に立つ理由
ゆきの 上は、ひかりが はねかえって まぶしいです。ずっと みて いると、めが いたく なる ことが あります。「ゆきめ」と いいます。ゆきの ひやけの ような ものです[8]。
そこで イヌイットは、ほねや ぞうげ、きに、ほそい きれめを あけた ゆきめがねを つくりました。きれめから のぞくと、めに はいる ひかりが へります[8]。
ただし、きれめから みると、みえる はんいは せまく なります。それでも ひかりを へらす ほうが、たいせつだったのでしょう。
いまは、へんこうレンズの サングラスを つかう ひとも いると いいます。
雪の上では、太陽の光が雪に反射して、とてもまぶしくなります。長い時間見ていると、雪目(雪の日焼け)になることがあります[8]。
これを防ぐ道具が雪めがねです。骨、象牙、木などに細い切れ目(スリット)をあけて、目にかけます。切れ目から見ると、目に入る反射光と紫外線が減ります[8]。
切れ目が細いと、見える範囲はせまくなります。それでも、まぶしさと目の痛みを減らすほうを選んだ道具です。
いまは、偏光レンズのサングラスを使う人もいるといいます。道具は変わっても、「雪の反射光を減らす」目的は同じです。
ここまでで、家、灯り、服、舟、めがねと、困りごとごとに答えが見えてきました。この工夫を作った人びとは、いまどこに暮らしているのでしょうか。
雪めがねは、骨・象牙・木などに細い切れ目(スリット)をあけた道具で、雪面に反射する太陽光を減らし、雪目を防ぐ。切れ目は視野をせばめるが、目に届く紫外線の量も減らす[8]。
ここには、見える範囲という代償がある。したがって、この道具が役に立つのは、雪原のように反射光が強く、狩りで見る範囲より目の保護が優先される場面だと考えられる。ただし、この点は資料が明言しているのではなく、読み取りにすぎない。
偏光レンズのサングラスを使うイヌイットもいるという。道具の素材は変わっても、反射光を減らすという目的は引き継がれている。
ここまでで、家・灯り・服・舟・めがねの各道具が、それぞれ別の困りごとに答えていた。次は、これらを受けついだ人びとの、いまの暮らしを見る。
6. イヌイットの ひとは、いま どこに すんで いるの?
6. 2021年、イヌイットは約7万人。多くは故郷の4地域に住む
6. 2021年のカナダ国勢調査が示す、イヌイットの居住地
カナダの 2021ねんの しらべでは、イヌイットは およそ 7まん人です[2]。
その うち、およそ 10人に 7人が、むかしからの ふるさとの ちいきに すんで います。ほかの およそ 3わりは、その そとに すんで います。いちばん おおくの ひとが すむのは、ヌナブトです[2]。
ゆきの いえや カヤックは、いまの くらしの すべてでは ありません。それでも、こまりごとに どうぐで こたえる くふうは、いまの くらしにも つながって います。
2021年のカナダ国勢調査では、イヌイットは約7万人でした。約69%(約4万8700人)が、故郷の地域「イヌイット・ヌナンガト」に住み、約31%(約2万1800人)がその外に住んでいます。69%は、地域別の人数から割った計算で、合計は約7万520人です[2]。
地域別では、ヌナブト準州が3万865人で最多です。ほかに、ヌナヴィク(1万2590人)、イヌヴィアルイト(3145人)、ヌナツィアウト(2095人)の各地域があります[2]。この数字はカナダのイヌイットだけで、グリーンランドやアラスカ、ロシアは含みません。
雪の家やカヤックは、いまのくらしのすべてではありません。それでも、「その土地の素材で、その土地の困りごとに答える」工夫は、道具を見るときの視点として残ります。
2021年のカナダ国勢調査によると、イヌイットは約7万人(合計約7万520人)。約69%(約4万8700人)がイヌイット・ヌナンガト(故郷の地域)に、約31%(約2万1800人)がその外に住む。69%はこの記事で人数から割った計算で、公表値ではない。外に住む人の数は増えている[2]。
地域別では、ヌナブト準州が3万865人で最多。ほかにヌナヴィクが1万2590人、イヌヴィアルイトが3145人、ヌナツィアウトが2095人。ここで扱った数字は、カナダのイヌイットに限る。グリーンランド、アラスカ、ロシアのイヌイットは含まれない[2]。
したがって、本稿で紹介した道具は、特定の時代・地域の工夫として読むべきで、現代のイヌイット全体の暮らしを代表するわけではない。「その土地の素材で、その土地の困りごとに答える」という視点だけが、ほかの土地の道具を見るときにも持ち出せる。
7. ほそい きれめで、のぞいて みよう
7. 厚紙に細い切れ目をあけて、視野の変化を体験する
7. 雪めがねの代償を、家で確かめる
おうちの 人と いっしょに、ゆきめがねの まねを して みましょう。あつがみを つくえに おき、おうちの 人に みて もらいながら、よこむきの ほそい きれめを はさみで あけます。
きれめを めの まえに あてて、へやの 中を みて みます。みえる はんいが せまく なるのが わかります。
たいようは、ぜったいに みないで ください。ゆきめがねの まねは、へやの 中だけで します。
雪めがねが「視野をせばめる」ことは、家の中でも体験できます。厚紙を机に置き、大人にそばで見てもらいながら、横向きの細い切れ目をはさみで一つあけます。
切れ目を目の前に当てて、部屋の中を見てみましょう。見える範囲がせまくなるのが分かります。ふつうに見たときと比べて、どこまで見えるかを、ひとさし指を左右に動かして調べても面白いはずです。
太陽は絶対に見ません。雪の上の「まぶしさを減らす」効果は部屋の中では体験できないので、ここでは視野がせまくなる部分だけを確かめます。
道具には、役に立つことと、あきらめることがあります。ほかの土地の道具でも、どんな困りごとに答えているのかを考えてみると、見え方が変わるかもしれません。
雪めがねの特徴は、視野を犠牲にして反射光を減らす点にある。この「引きかえ」は、家で厚紙に細い切れ目をあけてのぞくだけで確かめられる。ただし、まぶしさを減らす効果は、部屋の中では再現できない。確かめられるのは、視野がせばまる部分だけだ。太陽は絶対に見ないこと。はさみを使うときは、大人にそばで見てもらう。
資料の読み方にも課題がある。毛皮の服の重ね着のように、一つの所蔵品に基づく情報には、細部の確認が必要なものがある。気になったら、Canadian EncyclopediaやCanada's Historyの原文を確かめてみてほしい。
一次資料にあたるなら、Statistics CanadaのDailyの2021年国勢調査のページが、イヌイットの人数と居住地域を、統計表で示している。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。ウェブサイトは2026年10月16日に確認しました。
- Dictionary of Canadianisms on Historical Principles (DCHP-3)「Inuit」 https://dchp.arts.ubc.ca/entries/Inuit (呼び名の意味と変遷)
- Statistics Canada, The Daily, 2022-09-21 https://www150.statcan.gc.ca/n1/daily-quotidien/220921/mc-a003-eng.htm (2021年国勢調査の人数)
- コトバンク「イグルー」 https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC-30249 (イグルーの意味と作り)
- Arctic誌「The Shelter Characteristics of Traditional-styled Inuit Snow Houses」 https://journalhosting.ucalgary.ca/index.php/arctic/article/view/64263 (雪の家の暖房のモデル計算)
- Dictionary of Canadianisms on Historical Principles (DCHP-3)「qulliq」 https://dchp.arts.ubc.ca/entries/qulliq (クドリクの材料と使いみち)
- Hood Museum of Art, Arctic and Subarctic Clothing https://naaer.hoodmuseum.dartmouth.edu/arctic-subarctic/clothing/work-1 (毛皮の服の所蔵品記録)
- The Canadian Encyclopedia「Kayak」 https://thecanadianencyclopedia.ca/en/article/kayak (カヤックの作りと使い方)
- Canada's History「Inuit Snow Goggles」 https://canadashistory.ca/explore/first-nations-inuit-metis/inuit-snow-goggles (雪めがねの作りと効果)
なおした ところ
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