1. モグラの 胃の 中には なにが 入って いたの?
1. 47頭の胃の中身を調べたら、ミミズは少なかった
1. 胃内容の出現頻度 ── 47頭の調査でミミズが4.3%だった
モグラは 土の 中で くらす 動物で、土の 中の 生きものを 食べます。むかしから「モグラの ごはんは ミミズ」と きく かも しれません。
かごしまでは、つかまえた コウベモグラ 47ひきの 胃の 中を しらべた 人たちが います。いちばん 多かったのは、カブトムシの なかまなどの 虫です。つぎに ムカデの なかま。ミミズは 47ひきの うち、2ひきぐらいにしか 入って いませんでした[1]。
ミミズが すきな はずなのに、どうして すくなかったのでしょう。
鹿児島県で捕まえたコウベモグラ47頭の消化管の中身を調べた研究があります。食べ物の種類ごとに、「何頭の胃や腸から見つかったか」を数えました。
結果は意外なものでした。甲虫の仲間(幼虫と成虫)が72%、ムカデの仲間が51%。ミミズは4.3%で、47頭のうち2頭ほどにあたります[1]。
足して100%を超えるのはなぜ?
72%と51%を足すと100%を超えますが、間違いではありません。これは「その食べ物が見つかった個体の割合」で、1頭が甲虫もムカデも食べていれば両方に数えられるからです。胃の中の量の割合ではない点に注意が必要です。
では、モグラはミミズをあまり食べていないのでしょうか。調べた人たちは、そう簡単には言えないと考えています。
調査したのは、鹿児島県で捕獲されたコウベモグラ47頭の消化管の内容である。食べ物の分類ごとに、その餌が見つかった個体の割合(出現頻度)を求めると、甲虫類(鞘翅目の幼虫・成虫)が72%、ムカデ類が51%、ミミズが4.3%だった[1]。47頭に直すと、甲虫類は約34頭、ムカデ類は約24頭、ミミズは2頭にあたる(計算)。
72%と51%の合計が100%を超えるのは、出現頻度が「個体ごとに、その餌を含んでいたか」を数える指標だからである。1頭が甲虫とムカデの両方を食べていれば、両方に数えられる。したがって、この数字は胃の中の量(重さ)の割合を表さない。
それでも、「モグラ=ミミズ」というイメージとの差は大きい。この差は、モグラがミミズを食べない証拠なのか。それとも、調べ方がつくった見かけなのか。ここで論文は、従来の胃内容分析との食いちがいに目を向けている。
2. ミミズは 食べないの? 胃から きえる ミミズ
2. それでも「ミミズを食べない」とは言い切れない
2. 従来の報告との食いちがい ── 検出率の低さをどう読むか
この ろんぶんを かいた 人たちは、「ミミズを 食べない」とは 言って いません。むかしの しらべでは、虫と ミミズが おおいと されて いるからです[1]。
ミミズは からだの 水分が 多くて、すぐ 消化されやすい のかも しれない、と 書かれて います。そうだとすると、つかまえた ときには もう 胃から きえて いて、見つけにくく なります[1]。
ミミズの すがたは なくても、ミミズを 食べて いない とは かぎらないのです。
この論文は、従来の胃の中身の調査では、昆虫(多くは幼虫)とミミズが大半を占めるとされてきたことを紹介しています。近い仲間のアズマモグラの食べ物も同じだったそうです[1]。
そこで考えられているのが、ミミズは消化が早く、胃に残りにくいため、見かけの割合が低くなったという可能性です。調べた人たちは、モグラを捕まえる罠の種類にも注目しています。縛るタイプやハサミのタイプの罠なら、罠にかかった時点で食べ物が胃に残りやすく、ミミズが見つかる割合は高くなると予想しています[1]。
つまり4.3%は、「ミミズが少ししか食べられていない」という意味なのか、「ミミズが見つかりにくかった」という意味なのか、この調査だけでは決められません。モグラの食べ物は、ミミズ、昆虫、ムカデのような土の中の小さな動物をまとめて考えたほうがよさそうです。
トンネルに落ちてくるごちそう
アズマモグラについて、福島大学と多摩動物公園は、トンネルの中に落ちてくるミミズや昆虫などを食べる肉食動物で、土の中の生きもののなかで頂点に位置すると説明しています[3]。
鹿児島の論文は、過去の胃内容分析(阿部1968、樫村ほか2010)では昆虫(多くは幼虫)とミミズが大半とされ、近縁のアズマモグラも同様だった(阿部1964)と述べる[1]。今回、ミミズが4.3%と低かったことについて、著者は2つの可能性を挙げる。
1つめは、ミミズは水分が多く消化が早いため、胃に残りにくく、検出される割合が低くなったという見方である。2つめは、捕獲方法の影響である。縛り型やハサミ型の罠であれば、捕獲時の胃に食物が残り、ミミズの検出率は上がると予想されている[1]。ただし、これは著者の予想であり、別の方法で確かめた結果ではない。
したがって、4.3%を「実際にミミズを食べる量が少ない」と断定することはできない。胃内容分析は、食べた物が胃に残る時間の差に左右される。これは野生動物の食性調査全般に共通する限界である。
では、モグラ全体のくらしの中では、ミミズはどう位置づけられるか。アズマモグラの飼育繁殖に関する福島大学・多摩動物公園の発表は、モグラをトンネルに落ちてくるミミズや昆虫などを食べる肉食動物とし、土壌生態系の頂点に位置づけている[3]。東京都の資料も、ミミズ、コガネムシの幼虫、カタツムリ、ナメクジ、クモ、ヤスデ、カエルなどを挙げる[2]。食べ物の幅の広さが目立つ。
これだけ多様なものを食べるなら、その量も気になる。
3. 1日に どれだけ 食べるの?
3. 体重の半分を毎日食べるって、どういうこと?
3. 摂食量 ── 体重の約半分という推定と、餌の種類による差
モグラは 1日に、自分の 体重の 半分ぐらいを 食べると いわれます[1][2]。
体重 30キロの 子どもなら、半分は 15キロです。10キロの おこめの ふくろ 1つと、その 半分の 5キロを、まい日 食べる ようなものです。ただし これは、モグラの 大きさに あわせた たとえです。
ミミズだけを あげた しいくの きろくでは、1日に 60グラムぐらい 食べました。ミミズは 水が 多くて、おなかの 足しに なる 力が 小さいからです[1]。
なんども 食べないと、すぐに おなかが すいて しまうのですね。
ヨーロッパモグラ(体重約90g)では、野外で見つかった胃の中身の重さから、1日に40〜60gを食べると計算されました。体重の半分前後にあたります[1]。東京都の資料にも、モグラは1日に自分の体重の半分から同量以上の餌が必要といわれる、という記述があります[2]。「同量以上」は「といわれる」という程度の話なので、ここでは「約半分」を軸に考えます。
体重30kgの子どもにあてはめると、半分は15kgです。お米の10kg袋が1.5袋ぶん、毎日食べることになります。これは大きさを比べるための計算で、モグラと人の体の仕組みが同じという意味ではありません。
餌によって量が変わる
鹿児島の論文は、飼育されたアズマモグラの記録(菊池2005)として、ミミズだけを与えると1日に60g前後食べたと紹介しています。ミールワーム(昆虫の幼虫)だけだと15g前後、コオロギなどだと30g前後です[1]。ミミズは水分が多くて、同じ重さあたりのカロリーが少ないため、必要なエネルギーをまかなうには多く食べなければならないと考えられています。
この60gは、体重が50〜130gと個体差が大きいアズマモグラの記録の一例です[1]。体重が80gの個体なら4分の3に当たる計算ですが、これは例として計算しただけです。
摂食量の推定値は、ヨーロッパモグラ(約90g)の野外の胃内容物の重量から算出された、1日40〜60gである。体重の約44〜67%にあたり、「約半分」とされる[1]。東京都の資料は「自分の体重の半分から同量以上」と書くが、「必要といわれる」という表現にとどまる[2]。複数の資料を合わせると、軸にできるのは「約半分」である。
餌の種類で量が変わる点は、飼育下のアズマモグラの記録として、論文が菊池(2005)などを引用して紹介している。ミミズのみで60g前後、ミールワームのみで15g前後、コオロギとピンクマウスで30g前後だった[1]。これは飼育下の観察値であり、先の「体重の約半分」は野外のヨーロッパモグラの胃内容物からの推定値で、別々のデータである。ミミズは水分が多く単位重量あたりのカロリーが小さいため、主食にする場合は必要なエネルギーを満たすのに体重の約半分が必要になる、と論文は解釈している[1]。ミミズだけだと60gが必要で、ミールワームだと15gで足りるという差は、餌のエネルギーの濃さを反映していると読める。
注意したいのは、アズマモグラの体重が50〜130gと幅広い点である[1]。60gは、体重が80gの個体なら4分の3(60÷80=0.75)にあたるが、これは仮定した体重での計算で、実測の割合ではない。
これほど食べるなら、餌をどうやって切らさず確保するのか、という疑問が出てくる。ヨーロッパのモグラには、その答えのひとつが報告されている。
4. ヨーロッパの モグラは、ミミズを 生きたまま ためるの?
4. ヨーロッパモグラは、ミミズを生きたまま貯める
4. ヨーロッパモグラの貯蔵 ── 動けなくしたミミズを巣穴にためる
ここからは 日本の モグラでは なく、ヨーロッパに すむ モグラの はなしです。
この モグラは、ミミズの 頭の あたりを かんで、動けなく します。そして 生きたまま、すあなの 中の へやに ためて おくと いわれます。ほごを して いる 団体の せつめいに よると、ためた ミミズが 数百ひき、1000ぴきを こえた れいも あるそうです[4]。
だえきに、ミミズを しびれさせる 力が あると されて います[4]。ただし 人に とって あぶない ものとは 書かれて いません。
日本の モグラも ためるのかは、ここで 使った しりょうには 書かれて いませんでした。
ヨーロッパモグラについて、野生動物の保護団体の解説では、ミミズの頭の部分をかんで動けなくし、生きたまま巣穴の特別な部屋に集めると紹介されています[4]。唾液にミミズをしびれさせる毒があるとされ、この解説によると、貯蔵庫に数百匹、1000匹を超えた例もあるそうです[4]。
ミミズを動けなくしておけば、逃げられず、新鮮なまま蓄えられるわけです。1日に体重の約半分を食べるモグラにとって、貯め置きは暮らしを支える工夫の1つに見えます。ただし、ここでは「そう考えられる」というだけで、貯蔵の目的を調べた資料は使っていません。
注意したいのは、これがヨーロッパモグラの話だという点です。日本のアズマモグラやコウベモグラで同じ貯蔵が確認されているとは、この記事では書きません。毒の成分も、今回の資料からは分かりません。
ヨーロッパモグラは、ミミズの頭部の節をかんで動けなくし、生きたまま巣穴の貯蔵室に集めると報告される。唾液にミミズをしびれさせる毒があるとされ、貯蔵庫の中身は数百匹、1000匹を超えた例もある[4]。
ここでの「毒」は、ミミズを麻痺させる作用を指す。成分や仕組みを調べた研究は、今回の資料には含まれていない。また、これは野生動物の保護団体の解説に基づく二次的な情報であり、貯蔵数の元データまでは本記事では確認していない。数字は「報告がある」という強さで読むのが適切である。
もう1つの重要な限定は、これがヨーロッパモグラの記録であることだ。日本のアズマモグラやコウベモグラで同様の貯蔵が確認されているかは、使った資料には書かれていない。種が違えば習性も違いうるので、「モグラは皆ミミズを貯める」と一般化はしない。
体重の約半分を毎日食べ、トンネルに落ちてくる餌を食べる。そんな暮らしを人の手で再現するのは、どれほど難しいのだろうか。
5. モグラを かうのは むずかしいの?
5. 飼育の難しさから分かる、食事の大変さ
5. 飼育下の食事 ── 乾燥ドッグフードで20か月以上生きた研究
モグラを かうのは、とても むずかしいと されて います。たくさんの えさと、水分が いるからです[3]。
ひろしまの 大学の けんきゅうでは、かんそうした ドッグフードと 水だけで、コウベモグラと ヒミズを 20か月 いじょう 育てる ことが できました[5]。けんきゅうの ための くふうであって、おうちで かえる という 意味ではありません。
2024年8月の ときてんで、日本で モグラを かっている どうぶつえんは、たまどうぶつ公園 だけでした。ここで 大学と いっしょに けんきゅうが すすんで います[3]。
モグラは水分もたくさん必要で、飼っても餌不足で死なせてしまうことが多い動物だとされます[3]。国内の動物園でモグラを飼っているのは、2024年8月時点で多摩動物公園だけでした。福島大学と多摩動物公園は、アズマモグラを飼育下で繁殖させた例を発表しています。飼育下の繁殖は世界で初めてといわれています[3]。
一方、広島大学の研究グループは、コウベモグラとヒミズを乾燥ドッグフードと水だけで20か月以上飼育できたと報告しています[5]。ただし、これは飼育条件を開発するための研究で、家庭で飼えるという意味ではありません。
モグラの食事を再現することが難しいのは、量が多く、種類も幅広く、水分も要るからでしょう。胃の中身を調べる研究と、飼育して餌を試す研究は、別の方向から同じ疑問に近づいています。
モグラの飼育は、餌と水分の要求が高く、餌不足で死なせることが多いとされる。国内の動物園で飼育しているのは、2024年8月時点で多摩動物公園のみで、福島大学との共同研究で飼育下繁殖が確認された。飼育下の繁殖例は世界的にもまだなかったと発表されている[3]。
一方、広島大学総合科学部の研究は、コウベモグラ(Mogera wogura)とヒミズを、乾燥ドッグフードと水のみで20か月以上生存させる飼育条件を開発した[5]。これは、野外のモグラの餌をまるごと再現できるという意味ではない。人為環境下で生存させるために、栄養的に足りる餌を見つけたという報告であり、家庭での飼育を勧める資料でもない。
胃内容調査では何を食べたかが分かり、飼育実験では餌の種類ごとに必要な量が分かる。方法が違えば、見える面も違う。2つを合わせて読むと、モグラは多様な餌を大量に食べる動物だという像が、少しずつ確かになる。
では、身近な土にどんな生きものがいるか、どう観察すればよいか。
6. 土の 中の ごはんを さがして みよう
6. 庭や公園で、モグラのごはんになりそうな生きものを探す
6. 身近な土で観察し、原典を読んでみる
こうえんや 庭で、おちばの したや おいて ある 石の 下を、そっと のぞいて みましょう。ミミズや 小さな 虫が いるかも しれません。
見つけたら、さわらずに 目で 見るだけに します。ムカデが いる ことも あるので、すででは さわらないで ください。見おわったら、石や おちばは もとの ところに もどして おきます。
モグラは、こうした 土の 中の 生きものを、まいにち たくさん 食べて いるのですね。
公園や庭で、落ち葉や置いてある石を、そっとめくってみましょう。ミミズ、ダンゴムシ、ムカデなど、モグラの胃の中から見つかった仲間に近い生きものが隠れているかもしれません。ムカデは素手でさわらず、観察したら元の位置に戻します。
もう1つ、数字で試せます。自分の体重の半分は何kgか、計算してみてください(体重が分からなければ30kgで計算します)。その量を毎日食べるとしたら、食卓がどうなるかを想像してみると、モグラの食事量が少し実感できます。
もっと詳しく読みたい人は、鹿児島の論文(日本語のPDFで公開されています)[1]に、胃の中身を調べた方法と、ミミズが少なかったことについての考察が載っています。
まず、公園や庭の落ち葉の下や石の下を観察すると、ミミズ、ダンゴムシ、ムカデなど、論文で餌として挙がる分類群に近い生きものを見ることができる。ムカデは素手でさわらず、観察後は元に戻す。
数字としては、自分の体重の半分の値を計算し(体重が分からなければ30kgで計算する)、さらに「ミミズだけだと60g、ミールワームだと15g」という差を使って、餌のエネルギー密度と必要量の関係を考えてみるのがよい。
原典にあたるなら、鹿児島の論文[1]で、出現頻度の定義、捕獲方法、ミミズが少なかった理由についての考察の部分を読むとよい。日本語で読める。さらに、福島大学・多摩動物公園の発表[3]と広島大学の紀要[5]を合わせると、胃内容調査と飼育実験という、方法の違う研究がどう補い合うかが見える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:日本の論文、東京都と大学の発表、保護団体の解説を使いました。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いています。
- 船越公威・山下慎吾「鹿児島県産コウベモグラの食性と活動パターン」Nature of Kagoshima 49(2023年)。https://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_049/049-039.pdf (胃の中身の調査、ミミズが少なかった理由の考察、1日の食事量、餌による量の違いについて)
- 東京都産業労働局「ネズミ・モグラ防除資料」。https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/sangyo-rodo/09_681-683_1 (食べるものの種類と、1日に必要な量について)
- 福島大学・多摩動物公園「アズマモグラの飼育下繁殖」報道資料(2024年9月)。https://www.fukushima-u.ac.jp/news/Files/2024/09/mogura240902_1.pdf (モグラの生態、飼育の難しさ、国内の飼育状況について)
- Wildlife Aid「European Mole Facts」。https://wildlifeaid.org.uk/wildlife-facts/european-mole-facts/ (ヨーロッパモグラのミミズの貯蔵について。保護団体の解説)
- 「モグラとヒミズの人為環境下での飼育条件の開発」広島大学総合科学部紀要。https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2030209 (乾燥ドッグフードと水での飼育について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
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