1. 「にぎらない」って、どういう こと?
1. 名店の技は「握らない」こと
1. 「握らない」コツと、店によって異なる握る回数
東京の おおつかに、いつも ながい 行れつが できる おにぎりやさんが あります。お店の 人は、コツは「にぎらない」ことだと はなして います[1]。
やさしく かるく、3回 おさえる くらいで よいそうです[1]。
ただ、べつの 本では、7回くらいを めやすに「ふんわり、やさしく」と しょうかい されて います[3]。回すうは、人に よって ちがいます。
そろって いるのは、「ぎゅっと つよく にぎらない」ところです。
2. かるく にぎると、なにが かわる?
2. 軽く握ると、粒のあいだに空気が残る
2. 米粒の間の空気 ── 冷ます時間と握る強さ
おにぎりの なかは、ごはんの つぶが あつまって できて います。つぶと つぶの あいだに すきまが あると、口に 入れたとき、ほろっと ほぐれます。
お店の 人は、たきたての ごはんを 5ふん ほど ひやして から にぎると いいと いいます。ごはんが 少し ちぢんで、すきまが できるからです[1]。
おこめの はなしに くわしい 人も、あつい うちに ふんわり にぎると、つぶの あいだに 空気が 入ると いいます。ひえても、つぶが つまりすぎません[2]。
つよく にぎると、この すきまが つぶれて、かたく なりやすい、という わけです。
冷ます時間と、握る強さ
店主は、炊きたてのごはんを約5分冷ます工夫も話しています。60度ほどに冷めると、米が程よく縮んで空気の入る隙間ができ、ホロホロとした口当たりになるそうです[1]。
お米マイスターの説明も、よく似た考え方です。熱いうちにふんわり握ると、米と米の間に空気が入り、冷めたあとも米同士が詰まりすぎずに形を保てるといいます[2]。
つまり、軽く握るとは、粒と粒のあいだの空気を残すことだと説明されています。強く握ると、その隙間がつぶれて、食感が固くなりやすいという筋道です。
ただし、これは店や専門家の説明であり、握る強さと食感の関係を直接測った研究の結果ではありません。「〜といわれる」という強さで読むのがよさそうです。
では、軽く握ると何が変わるのか。ぼんごの店主は、炊きたてを約5分、60℃ほどまで冷ますと米が程よく縮み、空気が入る隙間ができて、ホロホロとした口当たりになると説明する[1]。お米マイスターは、熱いうちにふんわり握ると米と米の間に空気が入り、冷めても米同士が詰まりすぎず形を保てるとする[2]。
二つの説明は、粒の間の空隙を残す点で一致する。握る力を強くすると空隙がつぶれ、固い食感になる、というのが背後の理屈である。冷ます工夫も、握る手加減も、同じ「空気」の話である。
ただし、これらは店や専門家の説明であり、握る強さや回数と食感の関係を直接測った実験の結果ではない。そのため本稿では、空気の話を「そう説明されている」という強さで扱う。
3. しおは、どれくらい つけるの?
3. 塩は、指1本分か、小さじ3分の1か
3. 塩の量 ── 店の目安に幅があること
しおの つけ方も、人に よって ちがいます。お米の せんもんかは、しおを ゆびの はらに かるく つける くらいで よいと いいます[2]。
おにぎりやさんは、つくって すぐ 食べるなら ゆび1ぽん ぶん、おべんとうなら ゆび2ほん ぶんを めやすに して います[1]。
べつの 記事では、あらじおを 1こに つき 小さじ3ぶんの1くらいと して います[3]。
これは お店の めやすで、「おべんとうは しおを おおく すれば だいじょうぶ」という やくそくでは ありません。
4. しおが あれば、いたまないの?
4. 塩があっても、増える菌がいる
4. 塩は菌を止めるのか ── 水分活性と、食塩16〜18%でも増える黄色ブドウ球菌
しおには、たしかに ちからが あります。しおが 水に とけると、たべものの 中の 水を つかいます。すると、きんが つかえる 水が へって、ふえにくく なります[4]。
ところが、しおに つよい きんも います。「おうしょくブドウきゅうきん」という きんは、しおが とても こい ところでも ふえます[5]。この きんが きっかけの しょくちゅうどくでは、おにぎりが げんいんの たべものに あげられて います[5]。
おにぎり1この しおは、すこしです。しおだけで いたみを ふせぐのは、むずかしいのです。
塩が菌を抑える理屈と、その限界
塩が菌の増え方を抑えるのは、塩が水に溶けて食品の中の水を使うため、微生物が使える水が減るからです[4]。これは広島県の食品衛生の資料にある説明で、魚肉ねり製品を例にしています。おにぎりの塩で十分に抑えられるとは書かれていません。
食品安全委員会の資料によると、黄色ブドウ球菌は食塩濃度16〜18%でも増殖します。ほかの条件が合えば、10%でも毒素(エンテロトキシン)をつくります[5]。日本のブドウ球菌食中毒の原因食品には、にぎりめしも挙がっています[5]。
おにぎりの塩は、少ない量でごはんにまぶすものです。10%や16%といった濃さの話とは、桁が違います。だからといって、塩に意味がないわけではありません。ただ、傷みを防ぐ主役は塩ではない、ということです。
塩による保存そのものの仕組みは、ほかのメモ「salt-preservation」でも扱っています。
塩が菌の発育を抑える理屈は、水分活性である。塩が水に溶けて食品中の水を使うと、微生物が利用できる水が減り、十分に発育できなくなる[4]。ただし、この説明は魚肉ねり製品の文脈で書かれており、おにぎりの塩分で足りるとは述べていない。
実際、食品安全委員会のファクトシートによれば、黄色ブドウ球菌は食塩濃度16〜18%でも増殖し、他の条件が合えば10%でも毒素エンテロトキシンを産生する。日本のブドウ球菌食中毒の原因食品には、にぎりめしが挙がる[5]。
店の目安は指の本数や小さじで示され、濃度とは単位が違うため、おにぎりの塩分を16〜18%と比べることはできない。ただ、食品安全委員会の資料は、食塩濃度が高くても増える菌がいることを示している。これは「塩が無意味」という主張ではなく、傷みを防ぐ役目を塩だけに負わせられない、という話である。では、実際に何が差をつくるのか。
5. いたみを ふせるのは なに?
5. ラップで握ると、菌の数がどう違ったか
5. 京都市の実験 ── 素手・手洗い・手袋・ラップの集落数
こうせいろうどうしょうの しりょうは、「おにぎりは、ラップで にぎりましょう」と すすめて います[6]。
京都市は、30どの へやで、にぎりかたを くらべる じっけんを しました。てを あらわずに にぎった おにぎりは、2じかん あとに きんの かずが 194.5、4じかん あとに 507 でした[7]。
ラップで にぎった おにぎりは、どの じかんも 0 でした[7]。
てを あらってから にぎった おにぎりは、2じかんで 38.5 と、すこし すくなく なりました[7]。てを あらうことも だいじです。
この じっけんは、しおの こうかを しらべた ものでは ありません。
素手・手洗い・手袋・ラップの比べ
厚生労働省の災害時の食事の資料は、おにぎりはラップで握りましょう、と案内しています[6]。その根拠に近い数字が、京都市の実験(平成27年度)にあります。
30℃で、握り方を変えたおにぎりの菌の集落数(培養で見える菌のかたまりの数)を比べています。手を洗わずに素手で握ると、2時間後は194.5、4時間後は507、6時間後は500以上でした。手を洗って握ると、38.5、114.5、500以上でした。ラップで握ったものは、どの時点も0でした。手袋は0〜7.5でした[7]。
6時間後には、手洗いの有無で差がなくなっています。手洗いは大切ですが、時間がたつと効きにくくなることが分かります。
ただし、これは塩の効果を調べた実験ではありません。数字は培養の目安で、実際の食中毒の起きやすさをそのまま表すものでもありません。
では、傷みを抑えるのは何か。厚生労働省の災害時の食事の資料は「おにぎりは、ラップで握りましょう」と案内する[6]。それを数字で見せるのが、京都市の実験(平成27年度)である。
30℃の条件で、握り方別に菌の集落数を調べている。手洗いなしの素手握りは、2時間後194.5、4時間後507、6時間後500以上。手洗いありの素手握りは、それぞれ38.5、114.5、500以上。ラップ握りは全時点で0、手袋は0〜7.5だった[7]。6時間後は手洗いの有無で差が見えなくなり、手洗いだけで安心できないことがうかがえる。
ここから、手洗いは初期の菌を減らすが、時間と温度の影響を受けること、ラップは手から菌が入る経路を断つことが、数字から読み取れる。ただし、この実験は塩の効果を調べたものではなく、集落数は培養上の目安である。実際の発症リスクをそのまま示すわけではない。
6. やよい時代の こめの かたまりと、とんじき
6. 弥生時代の米のかたまりと、源氏物語の屯食
6. 弥生時代の炭化米塊と、平安時代の屯食
いしかわけんの いせきから、「やよい時代」の おにぎりらしい ものが 見つかりました。1987ねんの ことです。手のひらに のる くらいの、まるい すいの かたちで、すみのように 黒くなった こめの かたまりでした[8]。
むかしの おにぎりは、むして、ささの はで まいて いたかも しれません。ささには きんを ふやしにくくする はたらきが あると いわれます[8]。
さらに あとの 「へいあん時代」の 本、『げんじものがたり』にも「とんじき」という ものが 出て きます[9]。むした こめを にぎった もので、えらい 人の ごちそうの ときに、みぶんの ひくい 人にも だされたと いわれます[9]。
弥生の炭化米塊と、源氏物語の屯食
石川県中能登町の杉谷チャノバタケ遺跡(弥生時代)から、1987年11月に、手のひらにのる円錐形の炭化した米のかたまりが出土しました。和楽の記事では、蒸した米のおにぎりとされています[8]。当時は、殺菌効果のある笹の葉で巻いて加熱したと推測され、粽(ちまき)に近いものだったかもしれないといいます[8]。炭化米塊をおにぎりと見るのは推定で、塩を使ったかどうかは資料に出てきません。
農林水産省の記事によると、平安時代の『源氏物語』に出る「屯食(とんじき)」は、貴族の屋敷の宴で、庭の台などで身分の低い人に出した、蒸した強飯(こわいい)を握ったものといわれます[9]。
昔の人が塩を保存のために使ったとまでは、これらの資料からは言えません。ただ、人が米を握って持ち運ぶ工夫は、とても古くからあったことが分かります。
それでは、昔のおにぎりはどうだったのか。石川県中能登町の杉谷チャノバタケ遺跡(弥生時代)から、1987年11月、手のひらにのる円錐形の炭化した米の塊が出土し、和楽の記事は蒸した米のおにぎりとする。当時は殺菌効果のある笹の葉で巻いて加熱したと推測され、粽に近いかもしれない[8]。炭化米塊をおにぎりとするのは推定であり、塩の使用は資料に記されていない。
農林水産省の記事は、平安時代の『源氏物語』の「屯食」を、貴族の屋敷の宴席で庭上の台などから身分の低い者に出した、蒸した強飯を握ったものと説明する[9]。ここでも、握る目的は持ち運びと配膳の都合であり、塩による保存を語る記述は資料にない。
これらは、現代の「ふんわり握る」とは別の文脈にある。ただ、米を蒸して手でまとめる行為が古くから続いてきたことは、現代の握り方を考える背景になる。
7. 3つの にぎりかたで たべくらべよう
7. 握る回数を変えて、自分の舌で比べる
7. 出口 ── 自分の舌で比べる実験と、資料の読みどころ
おうちの 人と いっしょに、おにぎりを 3つ つくって みましょう。てを よく あらって、ラップを つかいます。
1つめは、ぎゅっと 5回 つよく にぎります。2つめは、ふんわり 3回だけ。3つめは、その まん中の つよさで にぎります。
すぐに たべて、口の 中で どう ほぐれるか くらべます。つくった おにぎりは、すぐに たべて、のこさないで くださいね。
家でも、握り方を変えて食べ比べができます。手をよく洗い、ラップを使います。同じ量のごはんを3つに分け、塩も同じ量にして、3つ作ってみます。
強く5回、ふんわり3回、その中間の強さで握り、すぐに食べて、口の中でほぐれ方を比べます。ごはんの冷まし具合も同じにそろえると、握り方の違いが分かりやすくなります。
この比べ方は、専門家の説明が自分の舌に合うかどうかを確かめる方法です。結果が人によって違っても、不思議ではありません。作ったおにぎりは、その場で食べきります。
確かめ方の一つは、家で食べ比べることだ。手を洗い、ラップで握る。同じ量のごはんを3つに分け、塩も各同量にして、強く5回、軽く3回、その中間の3通りで握り、すぐ食べて比べる。炊きたてを冷ます時間も合わせれば、握る強さの影響を見やすくなる。
資料を当たるなら、店の説明は[1][2][3]、塩と菌の関係は広島県の食品衛生Q&A[4]と食品安全委員会のファクトシート[5]、握り方の衛生は京都市の資料[7]が出発点になる。握る強さと食感の関係を直接測った報告は、今回当たった資料の範囲では見当たらず、ここは調べがいのある余白だ。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
店の説明と専門家の見解は、一つの記事に依らず、複数の資料を比べて使っています。
- Precious.jp「専門店に聞いた究極のおにぎりの作り方」(2018) https://precious.jp/articles/-/6971 (店主の握り方・冷まし方・塩の目安)
- 東京ガス うちごと「おにぎりの正しい握り方のコツ」 https://uchi.tokyo-gas.co.jp/topics/4666 (お米マイスターの説明)
- nippon.com「おにぎりの作り方」 https://www.nippon.com/ja/views/b08212/ (握る回数・塩の量の別の目安)
- 広島県 食品衛生Q&A https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/26/foodfaq6-5.html (塩と水分活性の説明)
- 食品安全委員会 ファクトシート「黄色ブドウ球菌」 https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/09staphylococcal.pdf (食塩濃度と増殖)
- 厚生労働省「災害時の食事」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/2a.pdf (ラップで握る案内)
- 京都市 食中毒予防・減塩の啓発(東山区資料) https://www.city.kyoto.lg.jp/higasiyama/cmsfiles/contents/0000205/205329/2016slide.pdf (握り方別の菌の集落数)
- Into Japan 和楽「おにぎり」の記事 https://intojapanwaraku.com/travel/33717/ (弥生時代の炭化米塊)
- 農林水産省 和ごはん https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/wagohan/articles/2209/spe9_02.html (屯食)
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