1. なまこの くちは、どっち?
1. ナマコの口は、触手のある側にある
1. 口のまわりの触手:ウニやヒトデの管足が姿を変えたもの
なまこの からだは、ほそながく て、どちらが くちか、ぱっと みても わかりにくいかも しれません。
おきなわの すいぞくかんの せつめいでは、しょくしゅが ある ほうが くちです[2]。しょくしゅは、くちの まわりに はえた、たくさんの ほそい うでのような ものです。
なまこは、うにや ひとでの なかま です。なまこの からだの つくりは、うにを よこに たおした ような ものだと、きょうとの すいぞくかんでは せつめいして います[1]。うにや ひとでの あしのような ぶぶんが、なまこでは くちの まわりで しょくしゅに なって います。
では、この しょくしゅで、なにを して いるのでしょう。
2. しょくしゅで すなを いれて、なにを たべるの?
2. 砂を口に入れて、粒の表面についたものを食べる
2. 食べているのは砂粒ではなく、粒の表面の有機物
しょくしゅは、すなや どろを くちへ はこぶ てに なります。きょうとの すいぞくかんの しりょうでは、すなや どろを のみこんで、つぶの ひょうめんに ついて いる有機物などを たべる、と あります[1]。
ゆうきぶつとは、いきものに もとづく ものです。かれた かいそうの かけらや、どうぶつの ふん、ねばねばした えきなども、すなに まざって いると、おきなわの しんぶんは しょうかい して います[3]。
ほっかいどうの せつめいでは、なまこは どろと いっしょに、かいそうや とても ちいさな いきものなどの ゆうきぶつを しょうかして、えいように します[4]。
つまり、すなは ごはんを はこぶ おさらのような もの です。ただ、ほんとうの おさらと ちがって、おさらごと くちに はいって しまいます。
触手は、砂や泥を口へ運ぶ「手」の役目をしています。白浜水族館の資料では、砂や泥をのみこみ、粒の表面についている有機物などを食べる、と説明されています[1]。
有機物とは、生き物に由来するもののことです。琉球新報の記事は、砂には枯れた海藻のかけら、動物の糞や粘液などが混ざっていると紹介しています[3]。北海道の水産物解説も、マナマコは泥とともに海藻や微小な生き物などの有機物を消化して、栄養をとると述べています[4]。
砂を食べるといっても、栄養になるのは砂粒そのものではなく、粒の表面にくっついているものです。砂は、ごはんを運ぶお皿のようなもので、ただしお皿ごと口に入ってしまう、と考えると分かりやすいでしょう。
お皿ごと食べたなら、お皿はどこへ行くのでしょうか。
触手は砂や泥を口へ運ぶ。白浜水族館の資料は、のみこまれた砂や泥の粒の表面についた有機物などが食べられる、と説明する[1]。栄養源は無機物の粒ではなく、そこに付着したものだという点が、この食べ方の核心である。
付着物の中身は、資料ごとに書き方が少しずつ違う。琉球新報の記事は、砂には枯れた海藻の破片、動物の糞や粘液などの有機物が混ざると紹介する[3]。北海道の水産物解説は、マナマコが泥とともに海藻や微小な生物などの有機物を消化して栄養にすると述べる[4]。港区の子ども向け解説は、砂を食べて、そこについているプランクトンなどを食べると表現している[6]。
三つを並べると、「砂そのもの」ではなく「砂や泥に混じる生き物由来のもの」を食べている、という点は一致している。
粒の表面の有機物だけを消化するなら、残った砂粒は体の中を通り抜けることになる。その行き先が次の問いである。
3. たべた すなは、どこから でて くるの?
3. 反対側の穴から出てくるのは「きれいになった砂」
3. 肛門から出る砂:消化されなかった粒の行方
おきなわの すいぞくかんの せつめいでは、しょうかされなかった すなは、くちの はんたいがわの おしりの あな(肛門)から ふんとして でます[2]。
おきなわの しんぶんは、まざって いた ゆうきぶつを たべた あとの すなだから、なまこの ふんは「きれいに なった すな」と いえる、と かいて います[3]。
ごはんの ぶぶんだけ とって、のこりの すなを かえして くれる、と いう ことです。
ただし「きれい」は、「ごはんに なる ものが へった」と いう いみの ことばです。ぴかぴかに あらった、と いう わけでは ありません。
では、すなを たべない なまこは いないのでしょうか。
沖縄美ら海水族館の解説によると、消化されなかった砂は、口の反対側にある肛門から糞として出されます[2]。口から入った砂が、体の中を通り抜けて、反対側の端から出てくるわけです。
琉球新報の記事は、砂に混じっていた有機物を食べたあとの砂が出てくるので、ナマコの糞は「きれいになった砂」だ、という見方を紹介しています[3]。これは新聞の言い方で、ナマコが海をぴかぴかにするという意味ではありません。食べ物になる有機物が減った砂、という程度に受け取るのがよいでしょう。
砂を口から入れて、おしりから出す。この流れだけを見ると、ナマコは砂を食べる生き物の代表のようです。しかし、すべてのナマコが砂を食べているのでしょうか。
4. すなを たべない たべかたも あるの?
4. 触手を広げて、流れてくるものを捕まえる仲間もいる
4. 砂を食べない型:触手を水中に広げる食べ方
きょうとの すいぞくかんの しりょうには、しょくしゅを みずの なかに ひろげて、ながれて くる ゆうきぶつや ぷらんくとんを つかまえて たべる なまこも いる、と あります[1]。
ぷらんくとんとは、みずの なかを ただよう、とても ちいさな いきものです。
あみを ひろげて、とおりかかる えさを まつ ような ようすです。
ただし、この しりょうでは、どの なまこが どちらの たべかたを するのか、くわしい ことは かいて ありません。この ページでは「おおくの なまこは すなを たべる」と だけ して おきます。
白浜水族館の資料には、触手を水中に大きく広げて、流れてくる有機物やプランクトンを捕まえて食べるナマコもいる、と書かれています[1]。プランクトンとは、水中をただよう小さな生き物のことです。
砂や泥を口へ運ぶ型と、水の流れから食べ物を捕まえる型は、同じ触手の使い方が違うだけだともいえます。
この資料は、どの種類がどちらの型なのかまでは書いていません。そこで、この記事では「多くのナマコは砂や泥を食べる」とだけ書いて、先へ進みます。
砂を食べるナマコが多いのなら、その積み重ねは海底にどんな影響を与えているのでしょうか。
5. なまこは「うみの そうじやさん」って ほんとう?
5. 「海底の掃除屋」は、海をきれいにするという意味か
5. 「海底の掃除屋」という呼び名の中身と、その限界
かがわけんの すいさんしけんじょうは、あかなまこを「海底の掃除や」と よんで います。うみの そこの ゆうきぶつや、とても ちいさな いきものを えさに して いるからです[5]。みなとくの こどもむけの せつめいにも、「うみの そうじや」と あります[6]。
ただ、これは「やくわり」を あらわす たとえです。うみ ぜんぶを きれいに する、と いう いみでは ありません。
また、なまこの からだの ほねの かけらは とても ちいさい ので、かなり じゆうに かたちを かえられます。いしの したの すきまにも はいれる、と きょうとの しりょうに あります[1]。
うみの そこの いろいろな ばしょで、すなや どろを たべて いる ようすを、おもいうかべて みましょう。
香川県水産試験場の資料は、アカナマコが海底の有機物や微生物などを餌にすることで、「海底の掃除屋」の役割をしている、と述べています[5]。港区の子ども向け解説も、ナマコを「海のそうじ屋」と紹介しています[6]。
ここでの「掃除屋」は、海底に積もった有機物を食べる、という役割を表した比喩です。海全体をきれいにするという意味ではありません。
ナマコの体は、体の中の骨片がとても小さいため、かなり自由に形を変えられます。石の下などのすき間にも入れる、と白浜水族館の資料にあります[1]。
海底のさまざまな場所へ体を伸ばして、砂や泥を口へ運ぶ姿を想像すると、「掃除屋」という呼び名にも、少し納得がいくかもしれません。
では、砂の中身だけでなく、砂そのものにも、何か起きているのでしょうか。
香川県水産試験場の資料は、アカナマコが海底の有機物や微生物を食べることで、「海底の掃除屋」の役割を果たすと述べている[5]。港区の子ども向け解説にも「海のそうじ屋」という言い方がある[6]。香川の資料では、アカナマコ・アオナマコ・クロナマコは、以前まとめてマナマコと呼ばれていたとも説明される[5]。
ただし、「掃除屋」は役割を示す比喩で、海を丸ごときれいにするという主張ではない。資料が支えているのは、海底の有機物や微生物を食べる、というところまでである。
体の特徴も、この暮らしと無関係ではなさそうだ。白浜水族館の資料によれば、ナマコは骨片が非常に小さく、体の形をかなり自由に変えられるため、石の下などのすき間に入れる[1]。この資料は、その体の柔らかさが食べ物の探し方にどう効くのかまでは述べていないので、因果として結びつけることは控える。
有機物を減らす働きは、食べる側のナマコだけで完結するのか。次の章は、砂のほうに目を向けた水槽実験を扱う。
6. すなを たべた なまこの みずは、どう かわったの?
6. サンゴ礁の実験で、砂を食べると水に変化が起きた
6. ワンツリー礁の水槽実験:炭酸カルシウムの溶解などでアルカリ度が上がる
オーストラリアの さんごしょうの ちかくで、ひとつの じっけんが おこなわれました。2しゅるいの なまこに さんごしょうの すなを たべさせると、みずの せいしつが すこし かわった、と ほうこくされて います[7]。
みずの せいしつが かわった のは、すなの なかの、さんごや かいの もとに なる ざいりょうが とけた ことと、なまこが アンモニアを だした ことが かかわって います。この ざいりょうは「たんさんかるしうむ」と いいます。
この じっけんの けっかは、じっけんしつの 2しゅるいの なまこの はなしです。ほかの なまこや、せかいじゅうの うみに そのまま あてはめる ことは できません。
ただ、うみの みずが すこし さんせいに かたむく のを、やわらげる かもしれない、と かんがえる けんきゅうしゃも います[8]。
オーストラリアのワンツリー礁で行われた水槽実験では、2種のナマコがサンゴ礁の砂を食べると、水の全アルカリ度が上がったと報告されています[7]。全アルカリ度とは、海水が酸性に傾くのを防ぐ力の目安のようなものです。上がった理由には、砂に含まれる炭酸カルシウムが溶けたことと、ナマコがアンモニアを排出したことが関わっていると報告されています。炭酸カルシウムは、サンゴや貝殻の材料にもなっている物質です。
同じ研究では、調べた地点の一つでは、夜間に溶ける炭酸カルシウムの約50%に、2種のナマコが関わると推定されました[7]。ただし、これはサンゴ礁の一地点で、夜間だけの推定です。サンゴ礁全体の半分という意味ではありません。
この結果は、実験室の2種についての報告です。日本のマナマコや、世界のあらゆる海に、そのまま当てはめることはできません。
ナマコの食べ方についての総説論文は、アルカリ度の上昇が、海の酸性化に対する局所的な緩衝になりうる、と述べています[8]。「なりうる」とある通り、可能性の話です。
砂を食べて砂を出すだけに見えるナマコは、海底の上で、思いのほか多くのことをしているのかもしれません。
砂を食べるナマコは、砂そのものにも作用するのか。Schneiderらの水槽実験(2011年)は、オーストラリアのワンツリー礁で、Stichopus herrmanni と Holothuria leucospilota の2種のナマコにサンゴ礁の砂を食べさせた[7]。結果として、全アルカリ度が1kgあたりそれぞれ97±13、47±7マイクロモル上がった。この上昇には、炭酸カルシウムの溶解と、ナマコによるアンモニアの排出が寄与したと報告されている。
全アルカリ度は、海水が酸性に傾くのを抑える力の指標である。炭酸カルシウムが溶けると、この値が上がる。ただし数字は水槽の2種についての結果であり、マナマコを含む他のナマコや、他の海域の砂にそのまま当てはめることはできない。
同じ研究は、調べた地点の一つ(DK13)で、ナマコが夜間の炭酸カルシウムの溶解のうち約50%に関わると推定した[7]。サンゴ礁の一地点・夜間の推定であり、サンゴ礁全体の半分という意味ではない。
Purcellらの総説は、多くのナマコ(楯手目)は堆積物を食べる生き物で、有機物の量を減らし、海底表面の堆積物を動かすと整理している。排出する窒素やリンは、サンゴ礁のように栄養の少ない海で底生生物の生産を高めうるとされ、アルカリ度の上昇は酸性化に対する局所的な緩衝になりうる、とも述べる[8]。どちらも「〜しうる」という可能性の表現である。したがって、海の酸性化を止めるといった大きな話は、ここからは言えない。
砂を食べるという行いは、有機物をとる、砂を動かす、水の性質を変える、という複数の結果につながる。その全体像は、資料を読み比べるほど見えてくる。
7. なまこの くちと おしりを、さがしに いこう
7. 水族館で、ナマコの口とおしりを見つける
7. 観察の手がかりと、原典の読み方
すいぞくかんや、いその いきものを さわれる コーナーで なまこを みかけたら、おとなと いっしょに、ちかくで みて みましょう。
まず、しょくしゅが ある ほうを さがします。そこが くちです。はんたいの ほうに、おしりの あなが あります[2]。
つぎに、しょくしゅが すなや どろを かきこむ ところを、みられるか みて みましょう。みられなくても だいじょうぶです。
さわれる ときは、やさしく さわります。いその ばしょでは、かならず おとなと いっしょに いきましょう。みずの そばは あぶない ので、あしもとに きを つけて ください。
水族館の展示で見てみる
水族館や、生き物にふれられるコーナーでナマコを見かけたら、大人と一緒に近くで観察してみましょう。触手のある側が口で、反対側に肛門があります[2]。触手が砂や泥を口へ運ぶところが見えるかもしれません。見えないときも、あわてなくて大丈夫です。
水に近い場所なので、足元に気をつけ、生き物にはやさしくふれます。海辺の観察は、必ず大人と一緒に行いましょう。
原典を読むなら
この記事の下敷きになった、白浜水族館の「ナマコのからだ」と、沖縄美ら海水族館の解説は、どちらも日本語のPDFで公開されています[1][2]。短い資料なので、読み比べて、触手の説明がどう違うか探してみるのも面白いでしょう。
観察では、触手のある側が口、その反対側が肛門という位置関係を確かめる[2]。水族館の展示で、触手が砂や泥を口へ運ぶかどうか、体の形がどのくらい変わるかを見る。動きが見えない場合も多いので、見えたことと見えなかったことを分けて記録するのがよい。水辺での観察は、足元と潮の状態に注意し、大人と一緒に行う。
原典は、読み比べると理解が深まる。まず、白浜水族館の「ナマコのからだ」[1]と沖縄美ら海水族館の解説[2]は、日本語で、体のつくりと食べ方を短く説明している。次に、香川県水産試験場の資料[5]と北海道の解説[4]は、種類と食べ物の記述が少し違うので、どこが違うかを探す手がかりになる。
さらに踏みこむなら、Schneiderらの論文[7]は、実験の条件と数字の不確かさ(±)を確かめられる。Purcellらの総説[8]は、ナマコ全体の役割が「〜しうる」という言い方で整理されている点が読みどころである。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。ナマコの種類や海域によって食べ方や量は異なります。
- 京都大学白浜水族館「ナマコのからだ」(PDF) https://www.seto.kyoto-u.ac.jp/shirahama_aqua/wp-content/uploads/2023/03/namako-karada.pdf (触手・管足・砂を食べる型と水中の餌を捕る型・体の柔らかさ)
- 沖縄美ら海水族館「海のふしぎ発見シート 中級編解説」(PDF) https://churaumi.okinawa/userfiles/files/topics/uminofushigi/chu_a_1.pdf (口と肛門の位置・砂の通り道)
- 琉球新報「沖縄・海の生き物たち Vol.4」 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-756333.html (砂に混じる有機物・「きれいになった砂」という見方)
- 北海道「水産物解説 ナマコ」 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/gid/fis085.html (マナマコの食べ物)
- 香川県水産試験場「稚ナマコ放流」(PDF) https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/19778/tp072namako.pdf (「海底の掃除屋」・種類のよび分け)
- 港区教育センター「海の生き物」 https://www.city.minato.tokyo.jp/kyouikucenter/kodomo/kids/shizen/umi/kaichu.html (子ども向けの「海のそうじ屋」の説明)
- Schneider et al. (2011) J. Geophys. Res. https://researchonline.jcu.edu.au/19506/ (ワンツリー礁の水槽実験・アルカリ度)
- Purcell et al. (2016) Ecological roles of exploited sea cucumbers https://researchportal.scu.edu.au/esploro/outputs/journalArticle/Ecological-roles-of-exploited-sea-cucumbers/991012820548202368 (ナマコの生態的な役割の総説)
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