このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ラッコは、どうして おなかの 上で いしを つかうの?

手のないおなかが「台」になる ── ラッコが石で貝を割る理由

ラッコの石器使用 ── 胸を台にする採餌行動、歯の損耗と獲物の変化、貝殻の割れ方(2007〜2024年の研究)

分野:生きもの

うみに ぷかぷか うかんで、おなかの 上に いしを のせ、かいを こつん、こつんと うちつける ラッコが います。

どうして そんな ことを するのか、しらべた 人たちの 話を たどって みましょう。

仰向けに海に浮かび、胸の上でコツコツと貝を打ちつけるラッコがいます。テーブルも金づちもない海の上で、体そのものを作業台にしているのです。

なぜこんな食べ方が生まれたのか。歯の傷みを調べた研究、貝殻の割れ方から遺跡と見分ける話、そして有名な「お気に入りの石」説をめぐる食い違いを見ていきます。

野生のラッコは、日常的に石を道具として使うことが知られている唯一の海の哺乳類とされる[1]。水面に浮かび、胸の上を台にして貝を打ちつける姿はよく知られている。

このメモでは、その行動がなぜ必要になるのかという2024年の研究[2]、貝殻の割れ方という痕跡[1]、そして「お気に入りの石」説に対する研究者の否定[6]を、複数の資料で突き合わせて整理する。

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1. おなかの 上で、なにを して いるの?

1. 浮かびながら、胸の上で貝を打つ

1. 石の3つの使い方 ── 水中・胸の上・岩への打ちつけ

ラッコは、うみの 上に あおむけで うかびます。かいを りょうほうの 手で もって、いしや いわに うちつけて、からを わります[1]。

おなかや むねの 上が、そのまま つくえ みたいに なります。

うみの どうぶつで、ふだんから いしを どうぐに するのは、ラッコだけと いわれます[1]。

石の使い方は3通り

研究者の整理によると、ラッコの石の使い方は大きく3つあります。水の中で石を使ってアワビをはがす、水面に浮かんで胸の上に石をのせ、台や金づちにして食べ物を打ちつける、そして貝を持って岩に直接打ちつける、の3つです[1]。

海の哺乳類では唯一

野生のラッコは、日常的に石の道具を使うことが知られている唯一の海の哺乳類とされています[1]。「唯一の動物」ではなく、海の哺乳類の中では、という点に注意が必要です。

貝は両方の前足でつかみ、上を向いて浮かんだまま、下向きや横向きに岩へ素早く何度も打ちつけると報告されています[1]。

Fujiiらの報告によれば、野生のラッコが石を使う場面は3つに分けられる。石を水中で使ってアワビを岩からはがす、水面に浮かんで胸の上で石を台または金づちにして食物を打ちつける、岩に貝を直接打ちつける、である[1]。

貝を両前足でつかんで岩に素早く繰り返し打ちつける動作も、同じ論文に記録されている[1]。野生のラッコは、日常的に石器を使うことが知られている唯一の海棲哺乳類とされる。「唯一の動物」ではない点に注意する。

2. すきな 食べものが へると、どう なるの?

2. 好物が減った海で、歯を守る道具になる

2. 好物の枯渇と道具使用 ── 歯の損耗を減らす(Law ほか 2024)

ラッコの すきな 食べものは、大きな アワビや ウニです。これは いしが なくても 食べられます[3]。

でも、ラッコが 食べつくして へって くると、カニや かたい からの 小さな かいへ、食べものを ひろげます[3]。

かたい ものを そのまま かじると、歯が いたみます。いしを つかう ラッコは、歯の いたみが すくなかった、と ほうこくされて います[2]。

好物が消えると、食べ物を広げる

南カリフォルニアのラッコは、大きなアワビやウニといった好物なら、道具なしでも食べられます。ところがそれらがラッコに食べ尽くされて減ると、カニ、二枚貝、イガイ、殻の硬い小さな巻貝へと食べ物を広げます[3]。

歯の傷みが少なかった

電波発信機をつけた196頭の長期データを調べた2024年の研究では、道具を使う個体、とくにメスは、より大きい、あるいは殻の硬い獲物を食べられ、歯の傷みが少なかったと報告されました[2]。メスは、道具を使うオスと比べ、最大35%硬い獲物を食べられたともいいます[3]。

研究では、好物が減った環境では、道具の使用が生き残るために必要な個体もいる行動かもしれない、と考えられています。「全員に必須」と決まったわけではありません[2]。

南カリフォルニアでは、大型のアワビやウニといった好物は道具なしでも食べられるが、捕食圧で減少すると、カニ・二枚貝・イガイ・殻の硬い小型の巻貝へと食性が広がる[3]。

Law ほか(2024, Science 384: 798–802)は、196頭の電波発信機つき南方ラッコの長期データから、道具を使う個体(特にメス)がより大きい・硬い殻の獲物を食べられ、歯の損耗が少なかったことを示した[2]。大学の解説は、メスが道具を使うオスと比べ最大35%硬い獲物を食べられたと述べる[3]。著者らはこの結果から、道具使用が好物の減った環境で生き残るのに必要な個体もいる行動だと示唆している[2]。「必ず必要」とまでは読めない。

3. ラッコは みんな おなじ ように つかうの?

3. 使う割合は、個体によってまるで違う

3. 個体差 ── 捕獲の0〜98%(Fujii ほか 2017)

いいえ。いしを よく つかう ラッコも いれば、あまり つかわない ラッコも います[4]。

食べにくい えものを 食べるのが とくいな ラッコほど、どうぐを よく つかう、という けっかも あります。

カリフォルニアの211頭を調べた2017年の研究では、道具を使う割合に大きな個体差がありました。獲物が豊富な地域では、捕まえた獲物のうち道具を使ったのは4〜38%でした。獲物が限られる地域では、0〜98%と幅がさらに広がりました[4]。

食べにくい獲物に特化した個体ほど、道具をよく使う傾向も報告されています。ラッコの中にも「石をよく使う個体」と「あまり使わない個体」がいるということです。

Fujii ほか(2017, Behavioral Ecology 28(5))は、カリフォルニアの211頭を調べ、道具を使う割合に大きな個体差があることを示した。数字は「捕獲のうち道具を使った割合」で、獲物が豊富な地域では4〜38%、限られる地域では0〜98%だった[4]。

食べにくい獲物に特化した個体ほど、道具を使う傾向が強い[4]。前章の「好物が減ると道具が要る」という説明とも矛盾しない。

4. かいがらの われかたで、なにが わかるの?

4. 貝殻の割れ方が残す「ラッコの跡」

4. 貝殻の破片の偏り ── 台の岩と貝塚(2007〜2017年観察)

カリフォルニアの ある うみべでは、おなじ 大きな いわを 何ども 「だい」に する ラッコが、10ねんかん かんさつ されました[8]。

いわには きずが つき、下には わった かいがらが たまります。

その かいがらは、あるほうの からは つながった まま、もうひとつの からは ななめに われて いました[1]。この われかたの くせは、ラッコが 食べた あとの めじるしに なります。

10年観察された「台の岩」

カリフォルニアのベネット・スラウという場所では、海岸の大きな岩を台として繰り返し使うラッコが、2007〜2017年の10年間観察されました。台にされた岩には特徴的な傷ができ、その下には割れた貝殻がたまります[8]。

割れ方に癖がある

ラッコが割ったイガイの殻では、左の殻が蝶番でつながったまま残り、右の殻は斜めに割れる、という一貫した割れ方が見られました。調べた29片のうち18片が左殻、11片が割れた右殻です。ただしこれは1地点で拾った29片で、ラッコ全体の数字ではありません[1]。

遺跡の貝塚を読む手がかり

この癖は、人間や他の動物が割ったものと見分ける手がかりになり、考古学者が遺跡の貝塚を読むのに役立つと考えられています。割れ方が片側にそろうことから、「この場所のラッコは右利きが多いと示唆される」とも伝えられています[5]。あくまで示唆で、確定ではありません。

Bennett Slough Culverts(カリフォルニア)では、海岸の大きな岩を台として繰り返し使うラッコが2007〜2017年の10年間観察され、台にされた岩には特徴的な傷が、下には割れた貝殻の堆積ができた[8]。

Fujii ほか(2019)は、ここで採取したイガイの殻を調べた。左殻が蝶番で右殻の断片とつながったまま残るものと、斜めの破断面をもつ右殻の断片が繰り返し現れた。29片のうち18片が左殻、11片が右殻だった。1地点の抽出であり、ラッコ全般の割合ではない[1]。

この破断パターンは、ヒトや他の動物による破砕と区別する手がかりとなり、考古学の貝塚解釈に応用しうる。ナショナルジオグラフィックは、割れ方が片側にそろうことから「このサイトのラッコは右利きが多いことが示唆される」と紹介している[5]。示唆にとどまる。

5. 「おきにいりの いし」は、ほんとうに いるの?

5. 「お気に入りの石」説と、研究者の否定

5. 定説の再検討 ── 「お気に入りの石を持ち歩く」説とHakai Magazineの記事

ラッコの わきの 下には、ふくろの ように たるんだ ひふが あります[7]。ここに 食べものを いれて はこぶ すがたが 知られて います。

そこから、「おきにいりの いしを、ずっと もちあるく」と いう 話が ひろまりました。でも、ラッコを しらべる ジェシカ・フジイさんは「ラッコは いしを つかったら おとす」と 話して います[6]。

「ずっと もちあるく」と いう 話と、けんきゅうしゃの 話が ちがって います。もとの 文しょうを 自分で 読んで、たしかめて みましょう。

脇の下のたるみ

ラッコの脇の下(前足の付け根)には、皮膚のたるみが袋のようになっている部分があり、海で集めた餌をここに入れて運ぶと日本の資料は説明しています[7]。石をしまえるという紹介も見かけます。

広まった話と、研究者の言葉

「お気に入りの石を、何か月も何年も持ち歩く」という説明は、広く流布しています。ところがラッコの研究者ジェシカ・フジイさんは、Hakai Magazineの記事で「ラッコは石を使ったら落とす。海底にある数ある石の1つに戻る」と述べ、決まった石を持ち歩くという説明を否定しています[6]。

このメモではどちらか一方を事実として書かず、食い違いがあることを並べておきます。

ラッコの脇の下には皮膚のたるみがあり、日本の資料は「わきの下の皮膚がたるんでいてちょうど袋状になっている」と説明し、海中で集めた餌もここに入れて運ぶとされる[7]。

「お気に入りの石を何か月も何年も持ち歩く」という説は広く流布する。一方、ラッコ研究者のジェシカ・フジイは Hakai Magazine で、ラッコは石を使ったら落とし、海底にある多くの石の1つに戻ると述べ、この説に否定的である[6]。

説と研究者の観察が食い違うときは、原典に当たるほど、何が確かで何が言い伝えかが見えてくる。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

きょう できること

あおむけで うかぶ ラッコの えを、かいて みましょう。手は どこに あるか、おなかの 上に なにが のって いるか、かんがえながら かくと、たのしいです。

おでかけで できること

ラッコの いる すいぞくかんに 行けたら、ごはんの じかんを しらべて みましょう。どんな ふうに 食べるか、ゆっくり みて みましょう。

今日できること

仰向けに浮かんで貝を割るラッコの姿を、絵に描いてみましょう。前足はどこにあり、胸の上には何がのっているのか。図鑑や写真を見ながら描くと、体の使い方が見えてきます。

出かけてできること

ラッコのいる水族館があれば、食事の時間を調べて見に行ってみましょう。飼育下の行動が野生と同じかどうかは分かりませんが、貝をどう扱うかは観察のヒントになります。

もっと知りたくなったら

出典[2]のScience論文の要旨と、出典[6]のHakai Magazineの記事は、道具を使う理由と、石を持ち歩くという説への見方を、それぞれ別の側から伝えています。読み比べると、同じラッコでも見え方が変わります。

今日できること

出典[2]のScience論文の要旨と、出典[6]のHakai Magazineの記事を読み比べ、「ラッコと道具」について道具使用と歯の傷みの研究、石を持ち歩く説への研究者の見解を、それぞれ整理してみる。

出かけてできること

ラッコのいる水族館があれば、給餌の時間に飼育下の行動を観察できる。飼育下の行動と野生の行動が同じかは、本メモの資料では確認できていない。

公式情報

各出典のURLは下の出典欄にある。論文はDOIまたは公開版を確認できる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の[ ]の番号は、下の出典と対応しています。英語の資料は、要旨や紹介記事をもとに日本語で説明しています。

  1. Fujii ほか (2019) Scientific Reports, 野生ラッコの石器使用と貝殻の破片。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6418163/ (石の3つの使い方・貝殻の割れ方・29片)
  2. Law ほか (2024) Science 384:798-802(要旨)。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj6608 (道具使用と歯の傷み)
  3. UC Santa Cruz News (2024) Sea otters and tools。 https://news.ucsc.edu/2024/05/sea-otters-tools/ (好物の減少・メスの35%)
  4. Fujii ほか (2017) Behavioral Ecology 28(5)(要旨)。 https://academic.oup.com/beheco/article-abstract/28/5/1206/4001444 (道具を使う割合の個体差)
  5. National Geographic, sea otters archaeology tool use California。 https://www.nationalgeographic.com/animals/article/sea-otters-archaeology-tool-use-california (右利き・遺跡との見分け)
  6. Hakai Magazine, The Quest for Archaeology of Sea Otter Tool Use。 https://hakaimagazine.com/features/quest-archaeology-sea-otter-tool-use/ (フジイの「石は落とす」発言)
  7. レファレンス協同データベース(『ラッコのいる海』ほか)。 https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000290972 (脇の下の袋状の皮膚)
  8. Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology, sea otters tool use。 https://www.shh.mpg.de/1230807/sea-otters-tool-use (10年間の台の岩の観察)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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