1. その なみだは、いつも 出て いるの?
1. 眠っていても流れる「涙」
1. 24時間続く排出 ── 「涙」に見える液の正体
水族館の 人の 話では、この 「なみだ」は、ウミガメにとって、二十四時間、一年じゅう 出て いる ふつうの ことだ そうです[2]。おなかが すいた ときも、ねて いる ときも、出て います。
ただし、水族館で いつも 目で 見える とは かぎりません。見える ときも あれば、見えない ときも あります。
では、あの ものは、なんなのでしょう。
水族館のトリーターの解説によると、この液が出るのは、上陸したときや産卵のときだけではありません。ウミガメにとっては、24時間365日起こっている普通の状態だそうです[2]。
悲しみや痛みで泣くとき、人の涙は感情と結びついています。ウミガメの場合は、そういう説明とは別の仕組みで出ている液だと考えられています。もちろん、いつも目で見えるとは限りません。
この液の正体は何なのでしょうか。
2. どうして しおが たまって しまうの?
2. 海の生きものが塩をためこむ理由
2. 塩の取りこみと、爬虫類の腎臓の限界
ウミガメは、海の 中で ごはんを たべます。ごはんに なる ものの 中には、体の 中より こい しおを ふくむ ものが ある、と いわれて います[5]。ごはんと いっしょに、よぶんな しおも のみこんで しまうのです。
ところが、ウミガメを ふくむ は虫るいの じんぞうは、おしっこだけで たくさんの しおを 出すのが にがて、と いわれて います[4]。
そこで、目の うしろに、しおを 出す とくべつな しくみが あるのです。
3. しおを 出す ところは、どこに あるの?
3. 目の後ろにある塩類腺
3. 塩類腺の位置と分泌液の組成
しおを 出す 「えんるいせん」は、目の うしろに あります。頭の ほねの 中でも、けっこう 大きな ばしょを しめて いる そうです[1]。
この えんるいせんから 出た 水は、目じりの ほうの 出口から 出ます。だから、なみだの ように 見えるのです[1]。
アオウミガメの 研究では、出て くる 水の 中身は、おもに 海水と にた しおの なかま(ナトリウムと クロール)で、ブドウとうは ほとんど ふくまれて いませんでした[3]。
4. なみだは、海水より こいの?
4. 海水の約2倍の濃さ
4. 濃縮のしくみ ── 最初の液から水を回収する
ウミガメの なみだ(しおの 水)は、海水の 二ばいぐらいの こさまで、こく なる ことが あると いわれます[2]。海水よりも こい しお水を 出せるから、体の 中の しおを 海に 出せるのです。
ただし、「二ばい」は、いちばん こく できた ときの 話です。いつでも その こさ、とは かぎりません。
ウミガメの涙は、浸透圧が血液の約6倍、海水の約2倍まで濃くなる、と新江ノ島水族館は説明しています[2]。日本ウミガメ協議会や名古屋港水族館も、海水の約2倍と紹介しています。海水より濃い塩水を出せるので、体の外の海水より塩分の高い液を出すことで、体内の塩を減らせるのです。
ただし、この2倍は最大の濃縮能力です。常にその濃さで出ているとは限りません。
アオウミガメの実験では、体重1kgあたり約4.5mmolの塩を負荷したあたりが、塩類腺が働き始める目安になっていました。分泌液は、最初は等浸透圧の液として作られ、あとから水が再吸収されて濃くなります。初めの液の約83%の水が回収される計算です[3]。この「約83%」は水の回収の割合で、上で見た「血液の約6倍」という濃さの比とは別の数字です。どちらも実験室の値で、野外のすべてのウミガメに当てはまる数字ではありません。
水族館や研究団体の解説では、涙は血液の約6倍、海水の約2倍の浸透圧まで濃縮できるとされる[2]。ただし2倍は最大の濃縮能力であり、常にこの濃さとは限らない。
J Exp Biol の研究は、アオウミガメで、体重1 kgあたり約4.5 mmolのイオン負荷が、塩類腺のオン・オフを分けるしきい値になると報告した。分泌液は、最初は等浸透圧の分泌液として作られ、水が再吸収されて濃くなる。初期液の約83%が回収されるという計算だ[3]。
100 ÷ (100 − 83) ≒ 5.9 で、液の体積が約6分の1になる計算になる(浸透圧の比とは別の指標だが、「血液の約6倍」という別資料の値とほぼ合う)。ただし、これは筆者が二つの資料を並べた確認にすぎず、研究者自身がそう述べているわけではない。しきい値も83%も、実験下のアオウミガメの値で、全種・野外の固定値ではない[3]。
5. ほかの 海の は虫るいは、どうして いるの?
5. 塩の出口は、動物によってちがう
5. 塩類腺の場所のちがいと収れん進化
海に すむ は虫るいは、ウミガメだけでは ありません。ウミヘビや ワニのなかまも、しおを 出す えんるいせんを もって います。ただし、場所は ちがいます[6]。
えんるいせんは、目や はな、口の まわりに ある、と しょうかい されて います。ウミガメは 目の うしろに ありました。
おなじ 「しおを 出す」しごとを、どうぶつに よって、ちがう ばしょで やって いるのです。
塩類腺があるのは、ウミガメだけではありません。Wikipediaの解説によると、爬虫類や鳥類の塩類腺は、頭の中や表面の、目・鼻・口のまわりにあると紹介されています[6]。動物によって、出口の場所がちがうのです。
爬虫類・鳥類の塩類腺とサメなどの軟骨魚類の腺は、別々に似た役目を持つようになったもの(収れん進化)だと説明されています[6]。塩分の多い暮らしをする動物が、それぞれ塩の出口を持つようになったのです。この記事で確認できたのは出口の位置までで、個々の動物でどの器官がもとになったのかは、ここでは扱いません。
塩類腺の位置は動物ごとに異なる。爬虫類・鳥類の塩類腺は頭蓋の内外の、目・鼻・口の周辺にあると紹介されている[6]。爬虫類・鳥類の腺と軟骨魚類の腺は、別々に似た機能を獲得した収れん進化の例とされる。今回確認できたのは出口の位置までで、個々の動物でどの器官がもとになったのかは、ここでは扱わない。
では、この腺は、いつ知られたのか。
6. この しくみは、いつ わかったの?
6. 1958年の報告
6. 1958年の Nature 論文
1958ねんに、二人の 研究者が、「ネイチャー」と いう ざっしに、海の は虫るいの しおを 出す えんるいせんの ことを のせた、と いう きろくが あります[7]。この ろんぶんの 中身は、ここでは あつかいません。
海の爬虫類の塩類腺は、1958年に、Schmidt-Nielsen と Fänge が、科学雑誌『Nature』に「Salt Glands in Marine Reptiles」という題名で報告した、という書誌情報が確認できます[7]。
報告の中身は、ここでは扱いません。
Schmidt-Nielsen と Fänge による「Salt Glands in Marine Reptiles」が、Nature 182: 783–785(1958)に載っている、という書誌は確認できる[7]。海の爬虫類の塩類腺に関する初期の報告の一つと考えられるが、内容と、これが最初の報告かどうかは、ここでは扱わない。
原典(英語)は、図書館や大学のデータベースで本文を探せる場合がある。まずは日本語の解説で、塩類腺がいつごろから知られているのかを調べてみるのもよい。
7. じぶんでも しらべて みたく なったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
水族館に 行く ことが あれば、ウミガメの 目の ところを 見て みましょう。ちかづいて おどかしたり、水そうを たたいたり しては いけません。見えなくても ふつうです。
おうちでは、ずかんや 本で、ウミガメ、ワニ、ウミヘビの 三つの どうぶつの、しおを 出す ばしょを しらべて、かみに かいて くらべて みましょう。
水族館では、ウミガメの目元をそっと観察してみましょう。眠っている個体の目元に、一筋の液が見えることがあるそうです[2]。水槽をたたいたり、大きな声を出したりはしないでください。見えなくても、それは普通のことです。
家では、ウミガメ、ワニ、ウミヘビの塩類腺の場所を、図鑑や資料で調べて、体の絵に印をつけてみるのも面白そうです。塩類腺の場所のちがいを、絵で比べられます。
公式の情報としては、日本ウミガメ協議会のサイトの解説「カメの涙」が読めます[1]。
日本ウミガメ協議会「カメの涙」[1]を読み、名古屋港水族館の「涙の正体は??」[5]や新江ノ島水族館の日誌[2]と見比べて、説明がそろっている点とちがう点を探してみる。
資料を読むなら:数値の根拠になっている J Exp Biol の Salt Gland Function in the Green Sea Turtle の要旨[3](英語)がある。
次のような問いも立てられる。
- 「約2倍」は最大値だが、実際に野外の個体がどの程度の濃さで出しているか、資料は何と述べているか。
- 収れん進化とは、別々の系統の生きもので、似た機能がそれぞれ独立して進化することを指す。ウミガメ・ウミヘビ・ワニで、塩類腺のもとになった器官が何か、日本語で読める図鑑や資料でどこまで調べられるか、試してみる。
水族館で観察するときは、水槽をたたく、大きな音を出すなどの行為は避ける。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:日本ウミガメ協議会・水族館の解説、論文の書誌情報や要旨、百科事典を突き合わせて使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 日本ウミガメ協議会「カメの涙」. https://www.umigame.org/umigamenitsuite/cn11/kyoukasho_namida.html (塩類腺が目の後ろにあることと、出口が目尻にあることについて)
- 新江ノ島水族館 トリーター日誌「涙と鼻水」. https://www.enosui.com/diaryentry.php?eid=04856 (24時間続く排出と、海水の約2倍という濃縮について)
- Salt Gland Function in the Green Sea Turtle. Journal of Experimental Biology 144:171. https://journals.biologists.com/jeb/article/144/1/171/5563/Salt-Gland-Function-in-the-Green-Sea-Turtle (分泌液の組成としきい値、水の再吸収による濃縮について)
- Olive Ridley Project "Why do sea turtles cry?". https://oliveridleyproject.org/ufaqs/why-do-sea-turtles-cry/ (爬虫類の腎臓が大量の塩を尿で出しにくいことについて)
- 名古屋港水族館「涙の正体は??」. https://nagoyaaqua.jp/study/column/26163/ (餌と一緒に塩を取りこむことについて)
- Wikipedia "Salt gland". https://en.wikipedia.org/wiki/Salt_gland (動物ごとの塩類腺の場所と収れん進化について)
- Schmidt-Nielsen K, Fänge R (1958) Salt Glands in Marine Reptiles. Nature 182:783-785(書誌情報). https://www.nature.com/articles/182783a0 (海の爬虫類の塩類腺の報告について。本文は未確認)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。