1. 水そうの そこの 歯を、どうして 数えるの?
1. 水槽の底に落ちた「ゴミ」から、何が分かるのか
1. 方法の工夫 ── 麻酔をせず、水槽の底の歯を回収する
サメの 歯は、1本 ぬけると、つぎの 歯が あらわれて、入れかわります。サメの なかまが ちがっても、どの サメも、いつも 新しい 歯と 入れかわって いく ことが 知られて います[1]。
では、どれくらい 入れかわるのかを、どうやって 調べるのでしょう。むかしの やり方は、サメに ますいを かけて、あごの 歯の 一部を 切り、毎週 たしかめる もの でした。サメの 体には ふたんが かかります[1]。
そこで しものせき水族館の 人たちは、べつの 道を えらびました。水そうの そこや、水を きれいに する そうちに 落ちて いる 歯を、10日から 20日に 1回 ひろって、数えたのです[1]。この 発表の 題は、「ゴミから わかった サメの こと」でした。
ただし、これは 水族館で かっている サメの 数です。海に いる サメが ぜんぶ 同じ とは かぎりません。
麻酔をかけずに数える
下関市立しものせき水族館の久志本鉄平さんの発表によると、先行研究の一例では、コモリザメは麻酔をかけて顎の歯の一部を切り、毎週個体を取り上げて歯列を確かめる方法でした。魚体に負担がかかるうえ、顎の場所によって歯列の数がちがい、全部の歯は数えられませんでした[1]。
そこで水族館は、水槽の底の掃除と濾過槽の掃除という簡単な方法を試しました。底や濾過槽にある抜け落ちた歯を、10〜20日に一度集めて数える方法です[1]。副題は「ゴミから分かったサメのこと」です。
すべてのサメが入れかわる
サメの歯は種類によって形や役割がちがいますが、どの種も絶えず新しい歯と入れかわっていくことが知られています[1]。ここまでが、この記事の前提です。
ただし、この資料は水族館の研究会の発表要旨で、査読をへた論文ではありません。数字は飼育されている個体の値として読みます。
先行研究の一例では、コモリザメは麻酔下で顎の歯の一部を切り、毎週個体を取り上げて歯列を確認する方法だった。魚体への負担が大きく、顎の場所で歯列数がちがうため、全部の歯は数えられない[1]。そこで下関市立しものせき水族館は、水槽の底と濾過槽に落ちた歯を10〜20日に一度回収して数える簡便な方法を試した[1]。副題は「ゴミから分かったサメのこと」である。
この方法の前提は、落ちた歯の数を、入れかわりの数の目安にすることだ。資料はJAA第1回水族館研究会(2021年)の発表要旨で、査読論文ではなく、値は飼育個体のものである。種を問わず絶えず入れかわることは、同じ資料が「知られている」と述べる[1]。
2. 1日に、なん本 おちるの?
2. 1日に何本落ちるのか ── ツマグロとネコザメを比べる
2. 脱落本数の種間差 ── ツマグロ2.05本/日とネコザメ0.82本/日
数えた 答えは、サメの なかまで ちがいました。
ツマグロと いう サメ(およそ 70センチ)では、239日の あいだに 489本が 落ちました。1日に 直すと、およそ 2本です[1]。
ネコザメ(およそ 72センチ)は、213日で 176本。1日に 直すと、1本に とどきません[1]。
大きさが ほとんど 同じ 2しゅるいでも、ツマグロの ほうが、およそ 2倍半 はやく 歯が 落ちて いた ことに なります。
「サメの 歯は 7日で 入れかわる」と 聞く ことも あります。これは 目安で、サメ ぜんぶに 同じ 数が あてはまる わけでは ありません[2]。
同じくらいの大きさでも、2倍以上ちがう
調べられたのは、約70cmのツマグロ(水温22.8〜24.1℃)と、約72cmのネコザメです。239日の調査でツマグロは489本、213日の調査でネコザメは176本の歯が脱落しました。1日あたりに直すと、ツマグロが2.05本、ネコザメが0.82本です[1]。
2.05÷0.82を計算すると約2.5倍です。体の大きさがほぼ同じでも、種がちがえば歯の落ちる速さは大きくちがいました。
「7日」という目安は何なのか
アメリカの古生物学会の解説は、現生のサメは約7日で歯を入れかえるという研究があると書きます。一方で、大型の成魚ではその速さが年に1〜2回まで遅くなりうるとも述べます[2]。
水族館の数字は「1日に何本落ちたか」で、「7日」は「入れかわる間隔」の話です。単位がちがうので、そのまま並べて比べることはできません。
調査の結果、ツマグロ(約70cm、水温22.8〜24.1℃)は239日間に489本、1日あたり2.05本が脱落した。ネコザメ(約72cm)は213日間に176本、1日あたり0.82本だった[1]。比を取ると2.05÷0.82≒2.5で、体長がほぼ同じでも種により約2.5倍の差がある。
では、この数字は、よく見かける「サメの歯はすぐ入れかわる」という説明と同じものを指しているのだろうか。米国古生物学会の解説は、現生のサメは約7日で歯を入れかえるとする研究を紹介しつつ、大型の成魚ではその速さが年1〜2回まで遅くなりうると書く[2]。水族館の値は「全体で毎日何本落ちたか」、解説の値は「歯が一本ずつ入れかわる間隔」であり、単位も対象もちがう。そのため、7日を種ごとの実測値として扱うことはできない。
3. おなじ サメでも、水が つめたいと おそいの?
3. 水の温度が変わると、速さはどうなるのか
3. 水温と年齢の影響 ── ネコザメの13℃と26℃
同じ ネコザメでも、いる 水の あたたかさで、歯の 入れかわりは 大きく ちがいました。
水の 温度が 13℃の とき、1日に 落ちた 歯は 0.26本。およそ 4日に 1本の ペースです。26℃では、1日に 1.52本でした[1]。
あたたかい ほうが、およそ 5倍 はやかった と、発表では 書かれて います[1]。
コモリザメの 話では、水が あたたかい 夏は 入れかわりが はやく、わかい サメは おとなより はやい と いわれて います[3]。
ただし、サメの 体の 中で なにが 起きて いるのかは、この 発表には 書かれて いません。
13℃と26℃で、約5倍
同じネコザメでも、飼育水温によって歯の入れかわる頻度は変わりました。13.0℃では1日0.26本、26.0℃では1日1.52本です。発表は、高い水温のほうが約5倍多いと書いています[1]。1.52÷0.26を計算すると約5.8ですが、ここでは原文のとおり「約5倍」と読みます。
13℃は、およそ4日に1本のペースです。26℃では、1日に1本以上落ちる計算になります。
季節と年齢
フロリダ自然史博物館の種の紹介は、コモリザメの歯の入れかわりは水温が高い夏に速く、若い個体は成体より速いと、1990年の論文を引いて書きます[3]。
水温や年齢で速さが変わるなら、「サメの歯は○日で入れかわる」と1つの数字で言い切るのは、むずかしくなります。
水温の影響は、同じ種の中でも大きい。ネコザメでは、13.0℃で0.26本/日、26.0℃で1.52本/日と、高水温ほど約5倍多かった[1]。比を計算すると約5.8になるが、原文は「約5倍」と記す。逆算すると、13℃では約4日に1本、26℃では約0.7日に1本が落ちる計算だ。
コモリザメについても、フロリダ自然史博物館の種の紹介は、Luer et al.(1990, Copeia)を引いて、入れかわりが水温の高い夏に速いこと、若い個体のほうが成体より速い傾向があることを述べる[3]。水温・年齢・種という複数の条件が重なるため、「ふつうは何日」という平均の数字は意味を持ちにくい。
なお、資料は水温と入れかわりの関係を示しているが、体の中の仕組み(代謝など)が原因かどうかまでは述べていない。そこは断定せずに読む。
4. 1つの あごの 中でも、はやさは ちがうの?
4. 同じ顎の中でも、場所で入れかわる速さがちがう
4. 顎の位置差と、待機歯の列の数
おどろく ことに、1ひきの サメの あごの 中でも、場所に よって 入れかわる はやさが ちがいました。
ネコザメを 調べると、あごの まん中の ほうの 歯は 3.89れつ、おくの ほうの 歯は 1.5れつ ぶん 入れかわって いました[1]。まん中の ほうが、およそ 2倍半 はやい のです。
もう 1つ、歯の ならび方にも 手がかりが あります。サメの 歯は、使われて いる 1本の 後ろに、5〜6本の 育って いる 歯が 列に なって います[2]。
この 列が 少ない サメは、入れかわりが おそいと 考えられて います。ある 小さな サメでは、そう 考えられて いますが、まだ たしかな ことでは ありません[5]。
顎の中央と奥で、約2.6倍
水族館の発表は、ネコザメの顎の正中付近では調査期間中に3.89列、顎関節に近い臼歯状の歯では1.5列が入れかわったと報告しています[1]。3.89÷1.5は約2.6倍です。歯列の場所によってもちがいがあります。
顎の場所で速さがちがうので、落ちた歯を全部数えて1匹ぶんの速さを出す方法には、意味があります。
順番を待つ歯の列
米国古生物学会の解説は、サメでは1本の使われる歯の後ろに、5〜6本の発達中の歯が列をなしていると書きます[2]。
この「待っている歯の列」の数も手がかりになります。ある小型のサメでは、入れかわり待ちの歯の列が少ないことから、入れかわりが遅いと推定されました。ただし食べものや代謝との関係は仮説の段階です[5]。
同じ個体の顎の中でも、速さは一様ではない。ネコザメでは、正中付近の歯は期間中に3.89列、顎関節に近い臼歯状の歯は1.5列が入れかわった[1]。比は約2.6である。そのため、全体で集計した脱落本数だけでは、顎の位置ごとの速さは分からない。
入れかわりの速さの手がかりは、機能している歯の後ろに控える歯の列数にもある。米国古生物学会の解説は、1本の使われる歯の後ろに5〜6本の発達中の歯が並ぶと書く[2]。SICBの要旨は、Heptranchias perlo(英名sharpnose sevengill shark)で待機歯の列が少なく、入れかわりが遅いと推定した[5]。食べものや代謝との関連は仮説で、ここでは「列が少ない種は遅い傾向が示唆された」にとどめる。
5. 一生では、なん本ぐらい 入れかわるの?
5. 一生では何本になるのか ── 推計の読み方
5. 一生の本数の推計と、その前提
1日に 落ちる 本数が わかると、一生の 本数も 計算できます。ツマグロは 1日 2.05本です。1年では、およそ 748本に なります[1]。
ツマグロが 生きる 年数を、オスで 10年と すると、およそ 7500本です。メスの 15年なら、およそ 11000本に なります[1]。
ネコザメは、水の 温度を 17.8℃と すると、およそ 2200本と 見つもられました[1]。
「何万本」と よく 言われますが、この 研究が 数えた 2しゅるいでは、数千本から 1万本あまりでした。ただし、かって いる 場所と、生きる 年数を 決めて 計算した 見つもりです。
1日の本数から一生を計算する
ツマグロは1日2.05本なので、1年で約748.3本です。寿命を10年とされるオスなら約7483本、15年とされるメスなら約11224本になります[1]。
ネコザメは、水温を17.8℃と仮定して1日0.5本とすると、1年で約182.5本です。近い仲間から寿命を12年と推定すると、一生で約2190本になります[1]。
この数字をどう読むか
これは実測値そのものではなく、飼育条件と寿命の仮定をおいた「示唆」です。水温や年齢で速さが変わることを思い出すと、海にいるサメで同じになるとは言えません。
それでも、この研究が出した2種の数字は「数千本から1万本あまり」で、よく見かける「何万本」とは桁がちがいます。
1日あたりの脱落本数を寿命にかけると、一生の本数の見積もりになる。ツマグロは2.05本/日×365日≒748.3本/年で、寿命10年とされるオスで約7483本、15年とされるメスで約11224.5本である。ネコザメは水温17.8℃・0.5本/日と仮定して年182.5本、近縁種から推定した寿命12年で約2190本となる[1]。
この計算には前提が3つある。(1)飼育下の値であること、(2)水温を1つの値に仮定していること、(3)寿命を別の資料や近縁種から推定していること。顎の位置・年齢・季節で速さが変わることは前の章で見たとおりで、一生の本数は「条件をそろえたときの目安」として読むべきだ。
桁の話をすると、この研究の2種は数千〜1万本あまりで、「何万本」とは桁がちがう。「何万本」という数字は、今回確かめた実測資料には見つからなかった。
6. 歯は、どうして なくならないの?
6. 歯が尽きないのは、なぜか ── 歯の「もと」の細胞
6. 歯堤と幹細胞 ── 連続的な後継歯形成の研究
歯が 何度も 入れかわるのに、どうして なくならないのでしょう。
小さな ある サメを 調べた 研究が あります。歯の 家族は、歯ぐきの 中の「もと」に なる ところに うまって います。新しい 歯は、その はしの ところで つくられます[4]。
そこには、ゆっくり 分れつする、「もとに なる さいぼう」らしい ものが ありました。研究した 人は、これを「ベルトコンベアのような、つづけて 作る しくみ」と 言って います[4]。
ただし、これは 小さな ある サメでの 話です。ほかの サメで 同じかは、この 研究から 言えません。
歯の家族と「歯堤」
小型のサメの一種(英名 small-spotted catshark)を調べた研究によると、歯の家族は、恒久的に残る歯の芽の組織(歯堤)に埋まっています。新しい歯は、歯堤の端の「後継歯堤」でつくられます[4]。
ゆっくり分裂する細胞
後継歯堤には、ゆっくり分裂する幹細胞らしい細胞(sox2という目印を持つ細胞)の居場所がありました。研究者はこの様子を、「ベルトコンベア式の連続した再生」と表現しています[4]。
つまり、サメの歯は1本ずつ作り直されるのではなく、歯のもとになる組織が絶えず新しい歯を送り出している、という見方です。ただしこの研究は1種の小型のサメの結果で、すべてのサメで同じかどうかは、この資料だけでは言えません。
この仕組みを調べた研究によれば、小型のサメの一種(Scyliorhinus canicula、英名small-spotted catshark)では、歯の家族は恒久的な上皮性の歯堤に埋まり、新しい歯は歯堤の端の後継歯堤で形成される[4]。そこには、ゆっくり分裂する、幹細胞とみられる細胞(sox2陽性)のニッチ(居場所)がある。著者は、これを「ベルトコンベア式の連続した再生」と表現した[4]。
つまり、サメの歯が尽きないのは、歯そのものが再生するからではなく、歯を作り出す組織が一生残り、幹細胞とみられる細胞が新しい歯を供給し続けるからだと考えられている。ただし、これはこの一つの種を観察した研究で、サメ全体に一般化はできない。
7. 1日に 2本なら、1年で なん本?
7. 電卓で、自分で「一生の本数」を計算してみる
7. 数字の読み方を確かめる ── 計算と、資料の読みどころ
電たくか、かみと えんぴつで、計算して みましょう。
ツマグロは 1日に 2.05本でした。およそ 2本 として、365日を かけると、1年では 730本ぐらいに なります。ほんとうの 数は 748本でした。
つぎに、ネコザメの 0.26本と 1.52本を 365日に して みてください。水の 温度で、1年の 数が どれだけ ちがうかが 見えて きます。
水族館に 行ったら、サメの 水そうの そこを 見て、水族館の 人に 聞いて みても いいかも しれません。「この 水そうの サメは、どんな 歯が 落ちますか」と。
この 記事の 数は、かって いる サメの 数です。海の サメが どうなのかは、まだ 調べる 人が たくさん います。
電卓があれば、本文の数字を自分で確かめられます。ツマグロの2.05本に365日をかけると約748本です。ネコザメの水温13℃(0.26本)と26℃(1.52本)で同じ計算をして、1年あたりの本数がどれだけちがうかも見てみましょう。
計算をしてみると、「1日に何本」という小さな数字が、一年たつと大きな数字になることが分かります。同時に、水温のちがいが一年の本数に大きく効くことも分かります。
水族館に行く機会があれば、サメの水槽の底や展示の説明を見て、飼育している種や水温がどう書かれているかを見てみるのもよいでしょう。この記事の数字は水族館での値なので、海のサメの速さを知るには、別の研究を読む必要があります。
もっと読みたくなったら、下関市立しものせき水族館の発表[1]や、米国古生物学会の解説[2]の本文に当たってみてください。
数字を自分で確かめるなら、2.05本/日×365日≒748本、0.26本/日と1.52本/日の年換算(約95本と約555本)を計算してみるとよい。毎日のわずかな差が、一年では数百本の差になる。
資料を読むときは、それぞれがどんな種類の資料なのかにも気をつけたい。まず、JAA水族館研究会の発表は発表要旨で、査読論文ではない[1]。次に、「約7日」は米国古生物学会の解説にある一般的な目安で、種ごとの実測値ではない[2]。最後に、幹細胞の研究は小型のサメの一種だけを観察したものである[4]。
残る問いは、ホホジロザメなど大型種で、毎日落ちる本数や、歯の列が入れかわる日数がどう測られているかだ。コモリザメの水温の研究(Luer et al. 1990)や、レモンザメの古い研究(Moss 1967)が、さらに調べる手がかりになる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:水族館の発表要旨、米国古生物学会の解説、博物館の種の紹介、研究論文、学会の要旨を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 久志本鉄平「サメは一生で何本歯が生え変わる?~ゴミから分かったサメのこと~」JAA第1回水族館研究会(2021年3月、下関市立しものせき水族館)。しものせき水族館の発表要旨(PDF) (数え方、種・水温・顎の位置ごとの本数、一生の本数の推計について。発表要旨)
- Purdy, Fossil Shark Teeth (The Paleontological Society)。https://www.paleosoc.org/assets/docs/Fossil_Shark_Teeth.pdf (入れかわりの一般的な目安と、歯の列について)
- Florida Museum, Nurse Shark species profile。https://www.floridamuseum.ufl.edu/discover-fish/species-profiles/nurse-shark/ (コモリザメの季節・年齢による入れかわりの速さについて)
- PMC5187730、サメの歯の幹細胞に関する論文。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5187730 (歯堤と幹細胞の居場所について)
- SICB abstract: sharpnose sevengill shark teeth。https://sicb.org/abstracts/tooth-microstructure-development-and-replacement-in-the-sharpnose-sevengill-shark-heptranchias-perlo/ (入れかわり待ちの歯の列と速さの関係について。学会要旨)
なおした ところ
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