1. ちいさな サメが、どうして 「トラ」なの?
1. 小さなサメの「トラ」は、体の模様から
1. 全長50cmの小型種に「トラ」がつく理由 ── 雲状斑紋としま模様
トラザメは、うみの そこに すむ サメです。おおきく なっても、からだの ながさは 50センチぐらいです[3]。
では、どうして 「トラ」なのでしょう。辞典には、こう かいて あります。からだに くもの ような もようが あり、それが トラの 縞もように にて いるから、と いう ことです[1]。
トラのように つよいから、ではありません。もようが にて いる、と いうのが わけです。
ただし、これは 辞典の せつめいです。なまえを つけた 人が じぶんで かいた ことば では ありません。それでも、トラザメの 「トラ」の わけとして、まず この せつめいを しると よいと おもいます。
じつは、この 「トラ」は、せかいで つかう なまえにも はいって います。
トラザメは、北海道南部より南の日本各地の海岸近くから東シナ海にいる、小さなサメです。日本大百科全書は、大きくなっても全長50cmにしかならない、と書いています[2]。名古屋港水族館も、50cmほどまで成長する、海底で暮らすサメとして紹介しています[3]。
その名前の由来を、世界大百科事典は次のように説明します。体に雲のような形の斑紋があり、それがトラのしま模様に似ていることによる、という説明です[1]。強さや大きさではなく、模様がトラに重ねられた名前だということです。
ここで気をつけたいのは、これが辞典の解説であって、名づけた人本人の言葉ではない点です。この記事では「辞典によれば」「とされる」という強さで読みます。
ところで、「トラ」を名前に持つのは、日本の呼び名だけなのでしょうか。実は、この呼び名は学名にまで入りこんでいます。
トラザメは、日本大百科全書によれば大きくても全長50cmにしかならない小型種で、北海道南部以南の日本各地の沿岸と台湾、東シナ海に分布する[2]。名古屋港水族館も、50cm程度まで育つ底生性のサメとして紹介している[3]。
では、なぜこの小さなサメに「トラ」がつくのか。世界大百科事典は、体に雲状の斑紋があり、それがトラの縞模様に似ることによる、と説明する[1]。サメの大きさや凶暴さではなく、体表の模様を獣の模様に見立てた名づけということになる。
ただし、この由来は辞典の解説であって、命名者本人の言葉ではない。名前を付けた時点の意図を示す一次の記録は、今回あたれた範囲には含まれていない。したがって「雲状斑紋がトラの縞に似ることによる」と、辞典の説明として読むのが妥当である。
この見立てが日本語の呼び名にとどまらず、学名にまで残っているのが興味深い点だ。それを次の章で見る。
2. 「トラザメ」は、せかいの なまえにも はいって いるの?
2. 日本語の「トラザメ」は、学名にも入っている
2. 和名が種小名になる ── Scyliorhinus torazame と1908年の記載
どうぶつには、せかいの 人が いっしょに つかう 学名と いう なまえが あります。トラザメの 学名は、スキリオリヌス・トラザメ(Scyliorhinus torazame)です。
うしろの 「torazame」は、日本ごの 「トラザメ」を ローマじで かいた ものです。日本の よびかたが、そのまま 学名に なって いるのです[4]。
この 学名は、1908ねんに たなかしげほ という 人が 学名を つけて 発表した、と されて います[4]。
せかいの 人が よぶ なまえの 中に、日本の なまえが ある。ちいさな サメですが、ちょっと うれしく なります。
さて、トラザメには、おとなの すがた いがいにも、ふしぎな ものが あります。それは たまごです。
動物には、世界の人が共通で使う学名があります。トラザメの学名は Scyliorhinus torazame です。このうち torazame の部分は「種小名」といって、日本語の呼び名の「虎鮫」にもとづいてつけられたものです。英語版ウィキペディアの記述では、学名は田中茂穂が1908年に記載したとされています[4]。
世界共通の名前の中に、日本の呼び名がそのまま入っているわけです。小さなサメが、日本で名づけられ、研究されてきたことを思わせます。
ただし、この年や記載者は二次資料による情報です。原記載の論文そのものは、この記事では読んでいません。
では、このサメの暮らしの中で、一番ふしぎな部分はどこでしょうか。日本の水族館の説明に、その手がかりがあります。トラザメの卵です。
トラザメの学名は Scyliorhinus torazame である。英語版ウィキペディアの Cloudy catshark の項によれば、種小名 torazame は日本語の呼び名(虎鮫)そのもので、記載者は田中茂穂、年は1908年、当初は別の属 Catulus に置かれていたという[4]。つまり、和名がそのまま学名の一部として世界共通の名前に残った例になる。
この事実の扱いには限界がある。記載年と記載者は二次資料に頼っていて、原記載論文は確認していない。さらに、田中が「トラ」を種小名に選んだ理由も、辞典の由来説明の域を出ない。それでも、辞典が述べる由来(斑紋がトラの縞に似る)と、学名に和名が使われているという事実を並べると、日本の呼び名が世界共通の名前にまで残ったことは確かに言える。
名前の話から、このサメの暮らしへ視点を移そう。外見よりも手がかりが多いのは、卵の構造である。
3. たまごの かどの 「つる」は、なんの ため?
3. 卵の四隅のつるは、何のためにあるのか
3. 卵殻の付着糸と孵化の条件 ── 巻きつけて固定する仕組みと、水温による期間の差
トラザメの 卵は、ながさが 4センチぐらいの、しかくい ふくろの かたちを して います。りょうはしの かどに、つるのような ほそい ひもが あります[3]。
この ひもを、かいそうや いわに まきつけます。そうして、たまごを うごかない ように とめて おくのです[3]。
うみは、しおの ながれが あります。ひもが なければ、たまごは ながされて しまうかも しれません。かいようピアの ずかんは、ひもを いわに からませて、しおに ながされないように する、と せつめい して います[5]。
たとえば、ふうせんを いとで ゆびに むすぶと、かぜが ふいても とばされません。トラザメの たまごも、ひもで うみの そこに つないで おく ような ものです。
こうして たまごは 10かげつほどで、ちいさな トラザメに なって うまれます[3]。ただ、うまれるまでの じかんは、みずの おんどで かわる、と する しりょうも あります。
では、その 小さな トラザメは、どんな ところで くらして いるのでしょう。
名古屋港水族館によると、トラザメの卵は長さ約4cmの四角い袋のような形で、両端につる状の付着糸があります。これを海藻や岩に巻きつけて、卵を固定します[3]。卵の大きさは、名古屋港水族館では約4cm、日本大百科全書では約6cmと、資料で差があります。「約」をつけて読みます。
海には潮の流れがあります。海洋ピア(マリンピア日本海)の魚図鑑は、殻の四隅(両端の角)にバネのように伸び縮みする付着糸があり、それを岩にからませて潮に流されないようにする、と説明しています[5]。沖縄美ら海水族館も、サメの卵殻の両端に、海藻に巻きつけて固定するための付着糸があると紹介しています[6]。ただし、この説明はサメの卵全般についてのもので、トラザメ専用とは限りません。
卵が育つ期間は一定ではありません。名古屋港水族館は約10か月で子が生まれる、と説明します[3]。日本語版ウィキペディアによれば、水温11.3℃では15か月、14.5℃では7〜9か月かかるとされます[7]。水温が低いほど、卵の中にいる時間は長くなるようです。これは卵の中の子が育つ速さと水温の関係を示す一つの記述で、水族館の約10か月とは条件が違います。
このように、卵は海藻や岩につなぎとめられます。では、そのあとに生まれたトラザメは、どんな場所で暮らすのでしょうか。
卵殻の構造は、固定の仕組みとして読み解ける。名古屋港水族館の説明では、卵は長さ約4cmの四角い袋状で、両端につる状の付着糸があり、海藻や岩に巻きつけて固定する[3]。海洋ピアの図鑑は、殻の四隅の付着糸がバネのように伸縮し、岩にからませて潮流に流されないようにすると述べる[5]。沖縄美ら海水族館の記述も、サメの卵殻の両端に海藻へ巻きつける付着糸があるというもので、ただしサメの卵全般の紹介であり、トラザメ専用とは限らない[6]。
数字の幅にも注意が要る。卵の大きさは、名古屋港水族館が約4cm、日本大百科全書が約6cmとし、資料で差がある。孵化までの期間も一定ではなく、名古屋港水族館は約10か月とする[3]。一方、日本語版ウィキペディアは、水温11.3℃で15か月、14.5℃で7〜9か月と記す[7]。同じ種でも飼育や観察の水温によって期間が変わるということだ。水族館の約10か月がどの水温での値かは、示されていない。このため、約10か月は目安として読み、水温が低いほど期間が長くなる傾向がある、という程度にとどめるのが妥当である。
日本語版ウィキペディアは、1回に2個の卵を産む(輸卵管1本に1個)とも記す[7]。一度に産む数が少ないぶん、2個の卵それぞれが付着糸で固定されて流されないことは、子が育つうえで大切だと考えられるが、これは資料の記述から導いた推測であり、資料自体がそう述べているわけではない。
では、こうして生まれたトラザメは、どんな海に暮らし、なぜ研究の対象になってきたのか。
4. トラザメは、どんな ところに すんで いるの?
4. 岸の近くから水深300mまで、そして研究のなかへ
4. 生息域とゲノム解読 ── 浅瀬から約300mの海底、約67億塩基対
トラザメは、きしの ちかくの あさい ところから、ふかさ 300メートルぐらいの 海底まで、ひろく すんで います[8]。
300メートルは、25メートルの プールを 12こ、まっすぐ ならべた ぐらいの ながさです。それが うみの ふかさだと おもうと、かなり ふかい ところまで すんで います。
この トラザメは、日本の ちかくの うみに いて、まえから 日本の 研究に とりあげられて きました[8]。
2018ねん、りかがく けんきゅうしょ(りけん)は、イヌザメと トラザメの ゲノムを 解読したと 発表しました。ゲノムとは、からだの せっけいずのような ものです。トラザメの ゲノムは 67おくもの 文字(えんきの ならび)で できて いて、とても おおきい ことが わかりました[8]。
ちいさな からだですが、そのなかには、おおきな しりょうが ねむって いるのです。
理化学研究所の2018年10月9日の発表によれば、現在のトラザメは、浅瀬から水深300m程度の深い海まで広く生息しています[8]。名前の由来になった模様を持つこのサメは、岸から深い海の底までを暮らしの場にしていることになります。
水深300mを長さにたとえると、東京スカイツリーの高さ634mの半分に近い長さです(塔が海に立つわけではなく、長さの比べ方です)。そこまでの海底に、卵をつなぎとめて子が育つ場所があると考えると、四隅のつるのはたらきも、想像しやすくなります。ただし、卵がどの深さで見つかるかは、この記事の資料には書かれていません。
理化学研究所は同じ発表で、トラザメが日本近海に生息し、以前から国内で研究に用いられてきたと述べています。研究所は、卵を産むサメのイヌザメとトラザメの全ゲノムを解読し、トラザメのゲノムは約67億塩基対で大きいことが分かった、と報告しました[8]。
ゲノムとは、生き物の体を作るための情報の全体のことです。名前に「トラ」とつく小さなサメが、国内で長く研究に使われてきたことが、この発表からも読み取れます。
では、その小さなサメの名前と暮らしを、私たちは自分でも確かめられるのでしょうか。
理化学研究所の2018年10月9日付プレスリリースによれば、現生のトラザメは浅瀬から水深300m程度の深い海まで広く生息する[8]。資料により水深は320mまでとも書かれており、幅のある値として読むのがよい。
同じ発表は、トラザメが日本近海に生息し、以前から国内で研究に用いられてきたことを伝える。2018年、理研はイヌザメとトラザメの全ゲノムを解読し、トラザメのゲノムが約67億塩基対と大きいことを報告した[8]。この数字は発表の記述に基づくもので、他の動物との倍率は、この記事では扱わない。
この発表で重要なのは、日本近海に身近にいる小型のサメが、全ゲノム解読の対象に選ばれたという点だ。卵を産む種であること、日本で研究に使われてきたことが、選ばれた背景に挙げられている[8]。名前の由来の話に戻ると、模様に着目して「トラ」と呼ばれた小さなサメが、のちに塩基の並びのレベルで読まれる対象になった、という流れになる。
最後に、ここまで読んだ内容を、自分の目と手で確かめられるかを考える。
5. トラザメの もようを、じぶんの 目で たしかめるには?
5. トラザメの模様を、自分の目で確かめるには
5. 由来の説明を、写真や実物で確かめる
トラザメの 水族館の ページには、しゃしんが ある ことが おおいです。おうちの 人と、パソコンや ほんで、トラザメの しゃしんを さがして みましょう。
からだの もようを じっと みて、くもの ように みえるか、トラの しまに みえるか、じぶんで きめて みます。「トラに にて いる」と おもうか どうかは、人に よって ちがって いて よいのです。
たまごの 絵も かいて みましょう。しかくい ふくろの かどから、つるが 4ほん のびて いる すがたです。
いつか 水族館に いったら、「トラザメは いますか」と きいて みても よいです。いるかどうかは、それぞれの 水族館の あんないで たしかめます。
辞典の説明が自分の目に合うかは、写真や実物で確かめられます。名古屋港水族館の「深海ギャラリー」や、海洋ピア(マリンピア日本海)の魚図鑑には、トラザメの紹介ページがあります。体の模様をじっと見て、雲のように見えるか、トラのしまのように見えるか、自分で考えてみましょう。
この記事で読んだ辞典の説明は、模様が「似ている」という見立てです。どう見えるかは、人によって違ってかまいません。
もう一つ、卵の形を紙に描いてみます。長さ約4cmの四角い袋を、定規で測って描き、四隅から長いつるがのびている絵にします。卵が流されないようにつるを何かに巻きつける様子を、絵に足してみると、固定の仕組みがよく分かります。
水族館に行くときは、トラザメが展示されているかを、それぞれの館の案内で確かめてください。
由来の説明は、写真や実物の観察で検証できる。ただし、体表の斑紋が実際にトラの縞に見えるかどうかは、今回使った水族館の本文には模様の記述がなく、写真などで各自が確かめる必要がある。見えるかどうかは主観に左右されるため、「雲状斑紋」という辞典の表現を手がかりに、自分の言葉で模様を描写してみるとよい。
卵殻は、長さ約4cmの四角い袋の四隅につるが伸びる形として描ける。付着糸の長さや本数、巻きつける対象(海藻か岩か)を図に描き込むと、資料ごとの記述の差が見えてくる。
資料の読み比べも手がかりになる。世界大百科事典(コトバンク)、日本大百科全書、名古屋港水族館、海洋ピア、理化学研究所の発表は、出典欄から開ける。種小名の由来を確かめるなら、英語版ウィキペディアの Cloudy catshark の項と、あわせて原記載論文を探すとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
名前の由来は辞典の解説、分布・卵・孵化は水族館と図鑑、ゲノム解読は理化学研究所の発表による。学名の記載年と記載者は二次資料に基づく。
- コトバンク「トラザメ」(改訂新版 世界大百科事典・平凡社) https://kotobank.jp/word/%E3%81%A8%E3%82%89%E3%81%96%E3%82%81-3160995 (名前の由来)
- コトバンク「トラザメ」(日本大百科全書・小学館) https://kotobank.jp/word/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%A1 (大きさと分布)
- 名古屋港水族館「深海ギャラリー トラザメ」 https://nagoyaaqua.jp/friends/south/11011/ (大きさ・卵・孵化まで)
- Wikipedia "Cloudy catshark" https://en.wikipedia.org/wiki/Cloudy_catshark (学名の種小名)
- 海洋ピア(マリンピア日本海)魚図鑑「トラザメ」 https://www.marinepia.or.jp/picturebook/fish/entry-11589.html (付着糸のはたらき)
- 沖縄美ら海水族館ブログ「サメの卵」 https://churaumi.okinawa/sp/blog/1498358858/ (サメの卵殻の付着糸)
- Wikipedia日本語版「トラザメ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%A1 (産卵数・水温と孵化の期間)
- 理化学研究所プレスリリース(2018-10-09) https://www.riken.jp/press/2018/20181009_1/index.html (生息域・ゲノム解読)
なおした ところ
更新履歴
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