1. たくさん とれたら、ねだんは どうなるの?
1. たくさん採れると、どうして値段が下がるのか
1. 豊作が価格の低落を招く ── 供給過剰と農家の経営
おみせに、おなじ ものが あまりに たくさん ならんで いる ところを おもいうかべて ください。うりたい ひとが おおくて、かう ひとの かずが かわらないと、おみせは ねだんを さげて、はやく うろうと する ことが あります。
やさいも おなじです。てんきが よくて たくさん そだつと、いちばに おくられる りょうが ふえます。たべる ひとの かずは すぐには ふえませんから、ねだんが さがります[1]。
ねだんが さがりすぎると、のうかは つぎの やさいを つくる おかねが たりなく なる ことが あります[2]。きょねんの ほうさくが、らいねんの やさいづくりを むずかしく して しまうのです。
それなら、うれのこりは しばらく とっておけば いいのでは ないでしょうか。
野菜は、天候に恵まれて一度にたくさん育つことがあります。好天が続いて供給が多すぎる状態になると、価格が下がり、野菜農家の経営に大きな影響が出ます[1]。
買う人は、野菜が安いからといって、急にたくさん食べるわけではありません。売りたい人が多く、買う人の数や量があまり変わらないと、売る側は値段を下げてでも売ろうとします。そのため市場では値段が下がりやすくなります。
値段が下がりすぎると、農家にはもう一つの問題が生まれます。費用を割りこむほどの安値になると、次の作付けに必要なお金が足りなくなる、と国の機関の資料は説明しています[2]。今年の豊作が、来年の野菜づくりを難しくしかねないのです。
では、売れ残りはしばらく取っておけばよいのではないでしょうか。
野菜が豊作になると、出荷量が増える一方で、消費量はほとんど変わらない。この需給の不均衡が、価格を押し下げる。農林水産省近畿農政局の資料は、好天が続いて供給が過剰な状況になると価格が低落し、野菜農家の経営に著しい影響が及ぶと説明している[1]。
問題は、その年の収入だけにとどまらない。農畜産業振興機構の資料によれば、コストを割りこむ安値になると、農家は次期作に必要な資金を確保できなくなる[2]。つまり、価格の低落は翌年以降の供給を細らせる危険をはらみ、消費者にとっても無関係ではない。
ここまでは理屈として分かりやすい。では、なぜ値下がりを待つのではなく、市場に出す量そのものを減らす必要があるのか。そこには野菜という商品の性質がある。
2. やさいは、とっておけないの?
2. 野菜を取っておけない事情と、土に戻すという選択
2. 保存がきかない商品 ── 出荷量を減らす手立てとしての土壌還元
お米は ながく とっておけますが、なま の やさいの おおくは、そうは いきません[2]。しばらく おくと いたんで、たべられなく なります。
そのため、ある じきに たくさん とれると、いちばに おくる りょうが、たべる りょうより おおく なる ことが あります。そう なると、ねだんが ぐっと さがって しまいます[2]。
そこで、いちばに だす りょうを へらす ほうほうが ひつよう になります。その ひとつが、はたけの やさいを つちに もどす ことです[3]。ねだんが さがりすぎるのを おさえる ことを ねらった ほうほうです。
ただし、ほかの ほうほうも あります。つぎの しょうで みて みましょう。
生の野菜の多くは、長く保存できません。そのため、一時期に消費量を上回る出荷が重なると、価格が大きく下がってしまいます[2]。売れ残りを倉庫に積んでおいても、いたんでしまえば商品になりません。
そこで必要になるのが、市場に出る量そのものを減らす調整です。農畜産業振興機構の資料には、価格が下がったときの方法として、出荷を後ろにずらす、加工用に売る、フードバンクなどに提供する、冷蔵施設に一時的に保管する、畑で土に戻す(土壌還元)といった例が並んでいます[3]。
畑で土に戻すのは、そのうちの一つです。市場に出る量を減らして、値段が下がりすぎるのを抑えることをねらった方法です。
では、土に戻す以外の道には、どんなものがあるのでしょうか。
野菜、とくに生鮮のものは長期の保存がきかない。このため、一時期に消費量を上回る出荷が重なると、価格が大幅に低落する[2]。穀物のように倉庫で価格の回復を待てないことが、野菜の需給調整を難しくしている。
だから、価格の下落を抑えるには、市場に出る量を前もって絞る手が要る。農畜産業振興機構の整理では、価格低落時の手立てとして、出荷の後送り、加工用販売、フードバンクなどへの提供、冷蔵施設での一時保管、土壌還元が挙げられている[3]。土壌還元は、これらの中で、収穫物を畑で土に戻して市場から外す方法で、価格の下落を抑えることをねらう。土壌や環境への影響は、この資料では扱われておらず、ここでは選択肢の一つとして制度に位置づけられている、という範囲で読む。
では、制度全体は、どのような種類の手立てで組まれているのか。
3. ほかの やり方は あるの? いつ はじまるの?
3. 土に戻すだけではない ── 制度が用意する3つの手立て
3. 緊急需給調整事業は、どんな手立てをいつ使うのか
くにの せいどでは、ねだんが さがった ときの やり方が、おおきく 3つ あります。ひとつめは、いちばへ おくる りょうを へらす こと。ふたつめは、ジュースなどの かこうようとして うる こと。みっつめは、やさいを いちばから はなして あつかう こと(しじょう かくり)です[7]。
はたけで つちに もどす のは、この いちばから はなす やり方の ひとつです[3]。
この しくみは、ねだんが きめられた ところより さがった ときに うごきます。しりょうには、ふだんの ねだんの 8わり いかに さがった とき、と かかれて います[4]。
「やさいが ぜんぶ むだに なる」のでは ありません。のうかが つぎも つくれる ように、くにと さんちが いっしょに かんがえる しくみ なのです。
国の制度では、価格が下がったときの手立ては、おおまかに3種類に分けられています。出荷を抑える、加工用に売る、市場から離して扱う(市場隔離)の3つです[7]。畑で土に戻すのは、市場から離す仕組みの中に含まれます[3]。
この仕組みは「緊急需給調整事業」と呼ばれ、指定野菜のうち特に重要なものが対象です。価格が高いときは出荷を前倒しし、低いときは後ろにずらす、加工に回す、市場から離すなどを行い、かかった費用の一部を補います[8]。
動き出す目安も決まっています。農林水産省の資料には、価格が低落して基準の80%以下になったとき、供給の多い野菜を早く元の需給バランスに戻すため、出荷を抑えるなどの取り組みを行う、と書かれています[4]。
では、実際に使われたとき、野菜はどこへ行くのでしょう。
制度上の価格低落時の手立ては、出荷の抑制、加工用販売、市場隔離の3種類に整理される[7]。畑で土に戻す土壌還元は、前述のとおり、市場から野菜を外す側の手法に入る[3]。
この枠組みを担うのが緊急需給調整事業である。農畜産業振興機構の説明では、指定野菜のうち特に重要な品目を対象に、価格が高いときは出荷の前倒し、低いときは出荷の後送り・加工用販売・市場隔離などを行い、その経費の一部を補てんする[8]。発動の目安は、農林水産省の事業概要に「価格低落時(80%以下)」と示されている[4]。この80%が何に対する割合かは、当該資料の表記以上には読み取れないため、本稿では目安としてのみ扱う。
なお、これとは別に、指定野菜価格安定制度という仕組みがある。こちらは価格が著しく低落した場合に生産者補給金を交付するもので、緊急需給調整事業とは制度が分かれている。指定野菜は14品目とされる[9]。名前が似ているため混同しやすい点に注意したい。
さて、これらの手立てのうち、実際に野菜が人の手に渡るものはあるのか。次の事例が、その答えの一つになる。
4. こまった やさいは、だれかの ごはんに なるの?
4. 福祉施設に届いた、千葉県の春キャベツ
4. 食べる人に届ける道 ── 千葉県の春キャベツ5トンの提供
2020ねんの 3がつ、あたたかい ふゆの えいきょうで、ちばけんの はるキャベツの ねだんが さがりました。その キャベツ やく 5トンが、フードバンクへ わたされました[3]。
フードバンクは、たべものを あつめて、ふくしの しせつなどへ とどける しくみです。5トンは、キャベツ 1こを 1キロと すると、5000こぶんです。
はたけで つちに もどす だけでは ありません。たべる ひとに とどける みちも、えらばれる ことが あるのです。
ただ、キャベツを うけとる がわにも、おく ばしょや はこぶ くるまが いります。くには、そのための そうこや くるまの かりる おかねを、たすけた ことが あります[10]。
2020年3月、暖冬の影響で値段が伸びなかった千葉県の春キャベツ、約5トンが、フードバンクに提供されました[3]。キャベツ1個を1キロと仮に考えると、およそ5000個分の重さです。
フードバンクは、食べものを集めて福祉施設などに届ける活動です。市場から離した野菜が、食べる人の手に渡った例といえます。
ただし、野菜は大きくて傷みやすいので、受け取る側にも倉庫や運ぶ車が必要です。農林水産省は、フードバンクが受け入れる力を高められるよう、一時保管用の倉庫や運搬用の車両の借り入れ費用を支援したことがあります[10]。届ける道は、届ける側だけで作れるものではなさそうです。
では、こうした調整は、どれくらいの頻度で行われるのでしょうか。
調整は、廃棄にとどまらない。2020年3月、暖冬の影響で価格が低迷した千葉県の春キャベツ約5トンが、フードバンクに提供された[3]。これは、市場から離す手立てのうち、食べものとして人に届く道を選んだ例である。
ただし、生鮮野菜は量が多く傷みやすい。受け取る側に保管と輸送の設備が要る。農林水産省は食品ロス削減の施策の一環として、フードバンクの受入能力の向上に必要な経費(一時保管用倉庫や運搬用車両の賃借料)を支援した[10]。この支援は、受け入れる側の設備に限界があることを前提にしている。
この事例は一つの例にすぎず、すべての調整でフードバンクが使われるわけではない。そこで、調整がどれほど珍しくないものか、頻度のデータを見る。
5. どれくらい、おきる ことなの?
5. 3年に1度という産地もある ── 近年の動き
5. 調整はどれほど珍しくないのか ── 嬬恋村のキャベツと近年の発動状況
ぐんまけんの つまごいむらは、キャベツの さんちとして しられて います。ここでは、37ねんの うち 13ねんで、つちに もどすなどの ちょうせいを しました。だいたい 3ねんに 1かいです[3]。
13を 37で わると、およそ 0.35。ですから 3ねんに 1かい ぐらい、という ことに なります。
いっぽうで、2024ねんどは、この しくみは うごきませんでした[5]。2025ねんどは、9がつの おわりまでに、レタスと はくさいで うごいています[6]。ことしは あるのか、ないのかは、てんきや その とし しだいです。
群馬県の嬬恋村は、キャベツの産地として知られます。農畜産業振興機構の調査では、昭和47年から令和元年までの37年間のうち13年で、土壌還元などの需給調整を行いました。おおむね3年に1度です[3]。13÷37は約0.35なので、「3年に1度」という言い方とも合います。
ただし、毎年必ず起きるわけではありません。2024年度は、緊急需給調整事業は発動されませんでした[5]。いっぽう2025年度は、9月末までの時点で、レタスとはくさいで実施されています[6]。
年ごとに差があるのは、天候で収穫量が変わるからだと考えられますが、どの年にどの野菜で起きるかを事前に決めることはできません。
だとすれば、収穫の時期を前もって読めれば、無駄を減らせるのではないでしょうか。
調整は、まれな事態ではない。農畜産業振興機構の調査では、群馬県嬬恋村のキャベツで、昭和47年から令和元年の37年間のうち13年に土壌還元などの需給調整が実施され、おおむね3年に1度の頻度になる[3]。13÷37≒0.35であり、記述と整合する。ただし、これは嬬恋村のキャベツ1例の頻度で、他の産地・品目に一般化はできない。
発動の有無は年によって大きく異なる。令和6年度は緊急需給調整事業の発動がなかった[5]。令和7年度は、9月末時点で、レタスとはくさいで実施されている[6]。こうした年ごとの差は、天候による収穫量の変動と無縁ではないが、資料からは気象条件と発動の関係までは読み取れない。
では、需給の変動を事前に読む技術は、無駄を減らす手助けになりうるのか。
6. スーパーの やさいの ねだんを みて みよう
6. 値段と天気をならべて見る
6. 価格と気象を並べて見る ── 予測技術と原典の読み方
おうちの 人と スーパーへ いって、キャベツや レタスの ねだんを みて みましょう。おなじ やさいの ねだんは、どのくらい ちがう でしょう。
ちらしを ためて おけば、ねだんが かわる ようすも わかります。その ころの てんきと、ならべて メモして みます。
やさいが たくさん とれて、ねだんが さがる とき、のうかは どんな きもちで はたけに いる のでしょう。かんがえる ことも、やさいを たいせつに する はじめの 一歩です。
いまの時期のスーパーで、キャベツやレタスの値段を見てみましょう。チラシを数週間ぶん取っておくと、値段の変わり方が分かります。買い物に行った日の天気は、窓の外を見て、チラシのすみにメモしておきます。数週間ぶん集まったら、値段と天気を並べてみます。
値段が下がる日は、その前に好天が続いていなかったでしょうか。必ず結びつくとは限りませんが、自分のメモから「そうかもしれない」と思える点を探すのが、この調べ方の面白いところです。
収穫の時期を予測する研究も進んでいます。農研機構の「露地野菜生育予測API」の開発者インタビューでは、収穫の適期を逃すと、収量の減少や廃棄が問題になると説明されています[11]。予測がうまく働けば、採れすぎや無駄を減らせるのではないか、と期待されています。
手元でできる確かめ方は、価格と気象を並べることだ。スーパーのチラシや公開されている価格情報から特定の野菜の価格を数週間分メモし、同じ期間の気象情報と並べる。相関が見えたとしても、価格は出荷量・天候・需要など複数の要因が重なって決まるため、因果までは断定できない。
技術面では、農研機構の「露地野菜生育予測API」の開発者インタビューが参考になる。適期を逃すことによる単収の減少や廃棄の発生が問題とされ、予測技術への期待が述べられている[11]。ただしこれは開発者による説明で、廃棄がどの程度減るかという効果の検証までは示されていない。
残る問いも整理しておく。土壌還元が土壌や環境に与える影響は、今回の資料では結論が示されていない。気候変動で価格変動が激しくなる中で、発動の基準や手法がどう変わるかも流動的である。原典として、農畜産業振興機構「野菜情報」や農林水産省の事業概要を直接読むと、本稿が触れなかった細部を確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
価格の低落と調整の考え方、制度の枠組み、フードバンクへの提供例、近年の発動状況は、農林水産省・農畜産業振興機構の公開資料による。収穫予測は農研機構のインタビュー記事による。
- 農林水産省近畿農政局「野菜の需給調整について」 https://www.maff.go.jp/kinki/seisan/engeitokusan/yasai/yasaijyukyu.html (豊作と価格低落の関係)
- 農畜産業振興機構「健康な生活を送る上で欠かせない野菜の安定供給のために~野菜価格安定制度~」 https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001260.html (保存がきかない性質、次期作への影響)
- 農畜産業振興機構「野菜価格安定制度と産地の取り組み(第6回)~指定野菜の計画生産・出荷と緊急需給調整事業~」 https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2010_chosa02.html (手立ての種類、キャベツの価格、フードバンク提供、嬬恋村の頻度)
- 農林水産省「緊急需給調整事業の概要」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/index-26.pdf (発動の目安)
- 農林水産省「緊急需給調整事業によるフードバンクへの無償提供」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/index-116.pdf (令和6年度の状況)
- 農畜産業振興機構「第40回野菜需給情報等交換会、開催報告」 https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/content/001277420.pdf (令和7年度の実施状況)
- 農林水産省九州農政局「野菜の価格安定・需給調整対策」 https://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/yasai/kakakuantei_jukyutyousei.html (3種類の手立て)
- 農畜産業振興機構「野菜価格安定制度について」 https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2408_chosa2.html (緊急需給調整事業の対象と内容)
- 農林水産省近畿農政局「野菜価格安定制度」 https://www.maff.go.jp/kinki/seisan/engeitokusan/yasai/yasaikakakuantei.html (指定野菜価格安定制度との違い)
- 農林水産省「補助事業等(食品ロス削減)」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_8.html (フードバンクの受入能力への支援)
- 農研機構 WAGRI「露地野菜生育予測API 開発者インタビュー」 https://wagri.naro.go.jp/interview/growth/ (収穫予測への期待)
なおした ところ
更新履歴
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- 初版を公開。
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