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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

セイウチには なぜ 耳たぶが ないの? ── なかまの アシカには あるのに

アシカの仲間なのに耳たぶがない ── セイウチの姿と血縁の食い違い

セイウチはなぜ外耳(耳介)をもたないのか ── アシカ上科という分子系統と、無耳の形質をめぐる問い

分野:生きもの

アシカには、あたまの よこに ちいさな 耳たぶが あります。ところが、なかまの はずの セイウチには、耳たぶが ありません[1]。

どうして でしょう。かぎは、セイウチの 「すがた」と 「なかま」が、ずれて いる ことに ありそうです。

アシカの頭の横には、小さな耳たぶがあります。同じ鰭(ひれ)をもつ動物のセイウチには、それがありません[1]。

ところが、DNAなどを使った研究では、セイウチは耳たぶのないアザラシより、耳たぶのあるアシカのほうに近いとされます[3]。姿と血のつながりが食い違っているのです。この食い違いから、耳たぶがなくなった道すじを考えてみます。

鰭脚類のうち、アシカ科には外耳(耳介)があり、アザラシ科とセイウチにはない[1]。ところが分子データと化石を合わせた解析では、セイウチ科はアシカ科とアシカ上科をつくり、無耳のアザラシ科とは約2010万年前に分かれたとされる[3]。

形は「無耳どうし」で並ぶのに、系統は「有耳のアシカ」に寄る。この食い違いを手がかりに、分類の議論、耳介を失った経緯と理由の説明、そして耳介なしの聴覚を、出どころを区別しながらたどる。

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1. 耳たぶで 見わけると、セイウチは どっち?

1. 耳たぶの有無で分けると、セイウチはどちらか

1. 鰭脚類3科を分ける外耳の有無

うみで くらす、ひれの ある どうぶつは、3つの グループに わかれます。アシカの グループ、アザラシの グループ、そして セイウチの グループです[1]。

アシカには、外に 出た 小さな 耳たぶが あります。アザラシにも、外に 出た 耳たぶは ありません[1]。

では、セイウチは。耳たぶは ありません[1]。しかも セイウチの グループは、いま 生きて いるのが セイウチ 1しゅだけです。

ここまでは、「セイウチは アザラシの なかまみたい」と 思えます。ところが、話は ここから ややこしく なります。

ひれで泳ぐ海の動物の鰭脚類(ききゃくるい)は、アシカ科・アザラシ科・セイウチ科の3つに分けられます。セイウチ科で今も生きているのは、セイウチ1種だけです[1]。

アシカ科には、外から見える小さな耳たぶがあります。アザラシ科とセイウチには、それがありません[1]。日本語の解説でも、アシカとアザラシは耳たぶの有無で見分けられると説明されています[7]。

耳たぶだけで分けるなら、セイウチはアザラシと同じ側に入ります。ところが、体のほかの部分と血縁を見ると、話が変わります。

鰭脚類はアシカ科・アザラシ科・セイウチ科の3科からなり、セイウチ科の現生種はセイウチ1種のみである[1]。外耳(耳介)は、アシカ科では外から見え、アザラシ科とセイウチでは見られない[1]。日本語の解説も、アシカ科とアザラシ科を耳介の有無で見分ける、と説明する[7]。

耳介の有無という1つの形質だけで3科を並べると、セイウチはアザラシ科側に入る。しかし形質を複数見ると、この整理は崩れる。次章でその食い違いを確かめる。

2. すがたは アザラシ、歩き方は アシカ?

2. 体つきは、アシカとアザラシのまざりもの

2. 形質のモザイク ── 後肢の向き、泳ぎ方、外耳

セイウチは、りくの 上で、うしろの ひれを 前に むけて、4ほんの あしのように 歩けます。これは アシカと おなじです[2]。

いっぽう、およぐ ときは、からだ ぜんたいを くねらせる アザラシの ほうに 近い、と いわれます。耳たぶが ないのも、アザラシと おなじです[2]。

つまり セイウチは、アシカの ところと アザラシの ところを、どちらも もって います。

ふたつの 学校の ふくを、上と 下で 1まいずつ 着て いる ような ものです。ただし ほんとうは、セイウチは セイウチで、だれかの まねを して いる わけでは ありません。

セイウチは、アシカと同じように、後ろのひれを前に向けて、4本足で動くことができます[2]。ここはアシカ型です。

一方で、泳ぐときは体全体をくねらせる、アザラシに近い泳ぎ方だとされます。耳たぶがないのも、アザラシと同じです[2]。

アシカ型とアザラシ型のところが、1匹の体に混ざっているのです。では、セイウチは血縁のうえで、どちらの仲間なのでしょうか。

セイウチは、アシカ科と同様に後肢を前方へ向けて四足で動ける。一方、遊泳は全身をくねらせるアザラシ科型に近く、外耳を欠く点もアザラシ科と共通する[2]。形質ごとに、近い相手が入れ替わっている。

どの形質を重く見るかで系統の推定は変わりうる。ここが、次章で見る分類の議論の出発点になる。

3. DNAと 化石を あわせて しらべると、アシカに 近かった

3. 分子データと化石を合わせると、アシカのほうが近い

3. 形態説と分子説 ── 約2010万年前の分岐と、残る議論

むかしは、すがたを くらべて、なかまわけを して いました。すると、セイウチは アザラシに 近い、と する 考えが ありました[4]。

いまは、DNAなどの データと 化石を 使います。129の なかま(ぶんるい)を、からだの かたちの データも ふくめて あわせて しらべた 研究では、セイウチは アシカの ほうに 近い、と なりました。アザラシとは、およそ 2010万年前に わかれたと 考えられて います[3]。

ただし、この 年は くわしい 見つもりで、かわる ことも あります。「アザラシが わかれたのは、セイウチより 前か あとか」は、まだ 話し合いが つづいて います[4]。

以前は、体の形を比べる方法が中心でした。その解析には、セイウチがアザラシ側に近いとするものもありました[4]。

今の主流は、DNAなどの分子データに基づく見方です。分子データと化石を合わせて129の分類群を調べた研究では、セイウチ科とアシカ科は「アシカ上科」としてまとまり、耳たぶのないアザラシ科とは約2010万年前に分かれたとされます[3]。ただしこの年代は推定値です。

ただし、議論が消えたわけではありません。アザラシ科がセイウチより先に分かれたのか、後なのかについては、今も意見が分かれているといわれます[4]。

形態に基づく解析には、セイウチをアザラシ側に近づけるもの(Phocomorpha)があった[4]。これに対し、分子データと化石を統合した解析(Evolution 2024、129分類群)は、セイウチ科とアシカ科をアシカ上科(Otarioidea)にまとめ、無耳のアザラシ科との分岐を約2010万年前(前期中新世)と推定した[3]。年代は推定値で、幅がある。

議論は終わっていない。アザラシ科の分岐がセイウチより前か後かについて、意見は割れたままだと解説される[4]。「分子説が決着させた」とは書けない。

4. 耳たぶは、なぜ なくなったの?

4. 耳たぶをなくしたのは、別々だったのか

4. 耳介の独立した喪失という解釈と、流線形仮説

セイウチが アシカに 近いなら、アシカの ほうは、耳たぶを のこして きた ことに なります。すると、アザラシと セイウチは、べつべつに 耳たぶを なくした のかも しれません[1]。

では、なぜ なくなったのでしょう。よく 言われるのは、水の 中で およぐ とき、耳たぶが でっぱって いると、水の ていこう(水に おされる 力)が 大きく なるから、という 考えです[1]。

ただし、これは「ありそうな 考え」で、セイウチで ちゃんと たしかめられた 話では ありません。

もしセイウチがアシカに近いなら、耳たぶをもつ状態が祖先的で、アザラシ科とセイウチがそれぞれ別々に耳たぶを失った、と解釈できます。これは分子系統に基づく解釈です[1]。

別々の系統で、同じような形になることを「収れん」といいます。水の中の暮らしに向いた形へ、似た変化が起きたのかもしれません。

なくなった理由としてよく挙げられるのは、水の抵抗です。耳たぶが出っぱっていると泳ぐときの抵抗が増えるので、なくすほうが海の暮らしに合う、という説明です[1]。

これは考え方のひとつで、セイウチで直接たしかめられた説明ではありません。

アシカ科が祖先的な耳介を保ち、アザラシ科とセイウチ科がそれぞれ独立に失った、という読みが可能である[1]。この「独立に失った」は分子系統に基づく解釈である。

別々の系統で似た形質が現れる現象は収れんと呼ばれる。耳介の喪失が収れんだったかどうかは、系統樹の形と、上で見た議論の行方しだいで変わる。

喪失の理由としては、耳介が流体抵抗を生むため、縮小・消失が海洋生活への適応になる、という説明がある[1]。ただしセイウチで直接検証された説明ではない。

5. 耳たぶが なくても、聞こえるの?

5. 耳たぶがなくても、水の中で聞こえる

5. 無耳の聴覚 ── 水中聴力の測定と両生的聴覚の起源

耳たぶが なくても、セイウチは ちゃんと 聞こえます。水の 中で、ある セイウチ 1とうの 聞こえ方を はかった 研究が あります[5]。

その セイウチが いちばん 聞こえやすかった 音の 高さは、12キロヘルツの あたりでした[5]。

ただし これは、1とうだけの しらべです。セイウチ みんなが そうだとは、いえません。

また、2026ねんには、ひれの ある どうぶつが、水の 中でも りくの 上でも 聞ける ように なった みちすじを しらべた、せんもんかが たしかめずみの 研究が 発表されました[6]。まだ 新しい 研究です。

耳たぶがなくても、セイウチは水の中で聞くことができます。太平洋セイウチ1頭で水中の聴力を測った研究では、いちばん敏感な音の高さは12キロヘルツ付近で、よく聞こえる範囲は約1〜12キロヘルツでした[5]。測ったのは成獣1頭なので、セイウチ全体の性質とは言い切れません。

また、2026年には、空気中と水中の両方で聞く鰭脚類の「両生的な聴覚」がどう進化したかを調べた研究が、査読を経た論文として発表されました[6]。まだ新しい研究なので、くわしくは原論文で確かめてみてください。

ただし、耳たぶのない頭で、水の中の音がどう内耳に届くのかは、まだ研究の途中とされます。

Kastelein ほか(2002)は、太平洋セイウチ成獣1頭の水中聴力を測り、最大感度は12 kHz(67 dB re 1 µPa)、感度のよい範囲は1〜12 kHz だったと報告した[5]。個体数が1であるため、種全体の性質として一般化はできない。

系統的な文脈では、鰭脚類の両生的聴覚(気中と水中の双方での聴取)の起源と進化を扱った、2026年の査読済み論文がある[6]。

なお、音が耳介なしの頭部を通ってどう内耳へ届くかは研究途上であり、断定できない。

6. 写真で 見くらべて みよう

6. 3つの動物を、写真で見比べる

6. 出口 ── 頭部の見比べと、原典の読みどころ

ずかんや しゃしんで、アシカ、アザラシ、セイウチの 頭を 見くらべて みましょう。見る ところは、3つです。

ひとつめは、頭の よこに 耳たぶが あるか。ふたつめは、うしろの ひれが、前に むいて いるか。みっつめは、水に もぐる すがたを、おもに どんな ふうに 泳いで いるか。

水族館や どうぶつ園で 会えたら、そっと 見て みても いいですね。おうちの 人と いっしょに 行きましょう。

図鑑や写真で、アシカ、アザラシ、セイウチの頭と後ろのひれを比べてみましょう。「耳たぶ」「後ろのひれの向き」「泳ぎ方」の3つを、3種それぞれについて表にすると、どこが同じでどこが違うかが見えてきます。

水族館や動物園で会える場合は、ガラス越しや柵の外から、動物を驚かせないよう静かに見てください。

比べたあとで、「セイウチはどちらに近いのか」を自分で予想し、この記事の出典欄にある資料で確かめてみるのもよい方法です。

観察では、3種について「耳介の有無」「後肢の向き(前へ向けられるか)」「泳ぎ方」を、写真や図鑑から一覧にする。表にできれば、形質ごとに近い相手が入れ替わる様子が確認できる。水族館などで実物を見るときは、動物を驚かせない。

資料を読むなら、まず Evolution(2024)の論文で、129分類群のどの範囲を対象に分子データと化石を統合したのかを読みたい[3]。次に Kastelein ほか(2002)で、測定の対象が1頭であることの意味を考える[5]。最後に 2026年の Proc. B の論文で、両生的聴覚の進化をどんなデータから論じたかを確かめられる[6]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料は、出典欄の番号と対応している。年代や結論は推定・解釈を含むため、原典で確かめてほしい。

  1. 「Pinniped」Wikipedia。https://en.wikipedia.org/wiki/Pinniped (鰭脚類3科と外耳の有無、耳介喪失と流線形の説明)
  2. 「Walrus」Wikipedia。https://en.wikipedia.org/wiki/Walrus (セイウチの後肢の向き・泳ぎ方・外耳がないこと)
  3. 「Charting the course of pinniped evolution」Evolution 78(7) (2024)。https://academic.oup.com/evolut/article/78/7/1212/7655703 (アシカ上科と、アザラシ科との分岐年代の推定)
  4. 「Eared seal」Wikipedia。https://en.wikipedia.org/wiki/Eared_seal (分類をめぐる議論が残ること)
  5. Kastelein ほか (2002) J. Acoust. Soc. Am.。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12430829/ (太平洋セイウチ1頭の水中聴力の測定)
  6. 「The origin and evolution of amphibious hearing in pinnipeds」Proc. R. Soc. B (2026)。https://doi.org/10.1098/rspb.2026.0178 (両生的聴覚の進化についての査読済み論文)
  7. 「アシカとアザラシの見分け方」Marine Diving web。https://marinediving.com/marine_life/serial_marine_life/sealion_and_seal/ (日本語での、耳たぶの有無の説明)

なおした ところ

更新履歴

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