1. いしの 下で、ワラジムシは なにを して いるの?
1. 石の下は、ワラジムシにとってどんな場所か
1. 石の下は、ワラジムシにとって何を意味する環境か
いしを ひっくり返すと、ワラジムシが さっと にげて いく ことが あります。ワラジムシは、わらや おち葉の 間、いしや 木の 下など、しめった くらい ところに ふつうに います[1]。
さきに、この ページの こたえを 言います。ワラジムシは かわくのに 弱い 虫だと いわれます。だから、しめった すきまに かくれて いる ことが 多いのです。
それでも 世界中に いるのは、しめった すきまを えらぶ ことと、あつまる くふうが あること、人の 活動で はこばれて ひろがった ことが 大きいと 考えられて います。
森の おち葉の 中だけでは ありません。たいひおき場や 庭、人の 家の 地下室にも います[2]。ワラジムシにとって、人の くらしの まわりも、しめった すきまが ある ところなのです。
ふつうに出会う、湿った暗がりの住人
ワラジムシは、ダンゴムシに近い仲間の小さな陸の甲殻類で、世界中に広く分布しています。わらや枯れ葉、ごみの間、石や木材の下など、湿り気のある暗い所に、とてもふつうに見られます[1]。
すんでいる場所は、森の落ち葉の層だけではありません。堆肥置き場、庭、人家の地下室などでも見つかり、湿った小さな環境を好むとされています[2]。
この記事の答えを先に
石の下に多いのは、ワラジムシが水分を失いやすいからだと考えられます。そのため、湿り気を保てるすき間に身を寄せています。それでも広い範囲にいるのは、集まって水分を守る行動があることと、人の活動に乗って分布を広げたことで説明できそうです。
では、乾燥に弱いのに、なぜ家の中でも出会うのでしょうか。
ワラジムシは等脚目に属する小型の純陸生の甲殻類で、わらや枯れ葉、ごみの間、石や木材の下など、湿り気を含む暗所に極めて普通に見られる[1]。生息地は森林のリター(落ち葉の層)に限られず、堆肥置き場、庭、人家の地下室にも及び、湿った微小環境が好まれるとされる[2]。
この記事の見通しを先に述べる。分布を説明する要素は3つある。第一に、水分を失いやすい体であるため、湿り気を保てるすき間を選ぶこと。第二に、集まることで1個体あたりの水分損失を減らせること。第三に、人間活動によって運ばれて外来分布が生じたことである。
ただし、これらは出典ごとに裏付けの強さが異なる。体の構造に関する記述は百科事典類の要約が中心で、集合の効果は実験室の結果である。本稿は、そのつど出典の種類を示す。
では、湿った暗所を好む動物が、なぜ家の中でも最も見かけやすい種になるのか。
2. かわきに 弱いのに、家で よく 会うのは なぜ?
2. 乾燥に弱いのに、家の中でもよく見かけるワラジムシ
2. 近縁種との比較:家屋内で最も普通に見られる理由
イギリスの しりょうには、ワラジムシが いない ところは ほとんど ない、と 書かれて います[3]。かべや 木にも のぼります。
おなじ なかまの オニスクス・アセルスという 虫と くらべると、ワラジムシの ほうが、かわいた ところに たえられる そうです。だから、家の 中で いちばん 会いやすい ワラジムシの なかまだと されて います[3]。
ここで ちゅういです。「かわきに 強い」は、あくまで なかまとの くらべ です。ワラジムシが かわきに 強い、と いう ことでは ありません。
ほかの なかまも、にた ところに います。ホソワラジムシは、おち葉の 中、いしの 下、ゆかの 下などに すんで います[7]。
「少しだけ強い」の意味
イギリスの資料は、ワラジムシがいない環境はほとんどない、と述べています。さらに、同じ仲間のオニスクス・アセルスより乾燥した場所に耐えるため、家の中でもっとも見かけやすいワラジムシ類だとしています。壁や木にも登ります[3]。
ここで気をつけたいのは、「乾燥に強い」が仲間どうしの比べ方だという点です。ワラジムシ自体が乾燥に強い虫だ、という意味ではありません。
近い仲間の暮らし場所
ホソワラジムシも、湿った落ち葉の中、石の下、朽ち木のすき間、ごみの下、家屋の床下などにすんでいます。世界の温暖な地域に広がった外来性の種で、日本では中部以南に分布するとされています[7]。似た場所を使う仲間がいることから、湿った暗いすき間が、この仲間の共通の住まいだと分かります。
では、そのすき間がなぜ必要なのか。体のつくりを見てみましょう。
英国の資料では、P. scaber が見られない環境はほとんどなく、同じ仲間の Oniscus asellus より乾燥地に耐えるため、住宅内でもっとも頻繁に遭遇するワラジムシ類とされる。壁や樹木にも登る[3]。
ここで読み違えやすいのは、「乾燥耐性が高い」という評価が同属他種との相対比較にすぎない点である。ワラジムシが絶対的に乾燥に強いわけではなく、後で見るように水分損失の大きい動物であることは変わらない。比較の基準を取り違えると、「乾燥に強いから家にもいる」という単純な理解になる。
近縁のホソワラジムシ(Porcellionides pruinosus)も、湿った落ち葉の中、石の下、朽ち木や倒木のすき間、ごみの下、家屋の床下などに生息する。この種は外来性で温暖な地域に広がり、日本では中部以南に分布するとされる[7]。ただし、これはホソワラジムシの分布であり、ワラジムシ自体の国内分布の範囲を示すものではない。
では、湿ったすき間を必要とする理由は、体のどこにあるのか。
3. からだは、水を 守るのが にがて
3. 陸で暮らすワラジムシの、湿り気を必要とする体
3. 擬気管と体表:水を守りにくい構造とその帰結
ワラジムシは、むかし 海に いた いきものから 来た なかまです[4]。えびや かにの なかまだと いわれます。
いまは りくで くらして います。でも、えらでは なく、空気で いきを して います。からだの 中に、えだの ような ほそい ぶぶんが あり、そこで 空気を とりこむと いわれます[1]。
それに、百科じてんの まとめでは、からだは 水を とおしやすく、虫の ような ろうの そうが ないと いわれます[10]。
だから、ワラジムシは せまい すきまを さがして、あかるい ところを さけます。水分を へらさない ための ふるまいだと 考えられて います。
えらの代わりの、空気を吸う器官
ワラジムシは、もとは海から来た生きものの仲間です[4]。ところが陸では、えらはあまり役に立たず、代わりに外皮が内側に落ちこんで細かく枝分かれした「擬気管」で空気呼吸をしています。腹の脚にある白い部分がそれです[1]。
水を通しやすい体
もう一つの事情は、水分の逃げやすさです。ワラジムシの体は水を通しやすく、昆虫にあるようなろうの層がないといわれます。そのため、小さなすき間や狭い場所を探して水分の損失を減らし、明るい所を避けるとされています[10]。この点は百科事典の要約をもとにした説明なので、「といわれる」にとどめます。
血液にも特徴があります。ワラジムシの血液には、銅を含む色素たんぱく質ヘモシアニンがあり、酸素の運搬に関わるとされます[9]。エビやカニの仲間とも共通する成分です。
体が水分を守りにくいのなら、ほかに頼れるものはあるのでしょうか。
ワラジムシ類は、もとは海にいた生物の子孫で、本来はえら呼吸をする系統だが、陸ではえらは役に立たない[4]。そこで、キチン質の外皮が二次的に内部へ陥入して細かく枝分かれした擬気管(ぎきかん)が発達し、腹肢(ふくし)の白い部分で空気呼吸をしている[1]。
体表については、水を通しやすく、昆虫のようなろうの層がないとされる。これが、小さなすき間に入り込んで水分損失を抑え、明るい場所を避ける行動と結びつく、と百科事典類では説明される[10]。ただし、これは百科事典の要約が出典で、原著論文での裏付けが望ましい。
血液にはヘモシアニンという銅を含む色素たんぱく質があり、酸素と結びつく働きをする。エビやカニなどの甲殻類や軟体動物にも含まれる[9]。2009年の研究では、ワラジムシのヘモシアニンが免疫反応でも活性化し、酵素(カテコールオキシダーゼ)の働きを示した。呼吸と免疫の両方に関わる型が提案されている[8]。ただし、これを昆虫の血液と同じものとして読んではならない。
水分を守りにくい体は、個体の工夫だけで補えるのか。次に、集まる行動を見る。
4. あつまると、水を へらしにくく なるの?
4. 集まると、水分の損失は半分以下になった
4. 集合の効果:個体あたりの水分損失の変化と、その限界
ワラジムシは、なかまと あつまる ことが あります。しらべた 人たちは、1ぴきだけの ときと、たくさんで いる ときを くらべました。
すると、大きな あつまりでは、1ぴきあたりの 水分が へる はやさが、はんぶん いかに なりました[5]。この こうかは、50〜60ぴき ぐらいで ほぼ いっぱいに なったそうです。
ただし これは、じっけんしつの 中で しらべた けっかです。外で なんびきで あつまるのかを しめす ものでは ありません。
むかしの けんきゅうでは、かわいた ときに あつまる ことが ふえる、と しょうかいされて います[6]。
1匹より、みんなで
ワラジムシは、1匹でいるより集まったほうが、水分を失いにくいとされます。2014年の研究の抄録によると、1匹だけのときに比べ、大きな集団では1匹あたりの水分の損失が半分以下になりました。その効果は、50〜60匹ほどで頭打ちになるとされています[5]。
乾燥した条件では集まる
1968年のウォーバーグ(Warburg)の先行研究では、集まる行動は乾燥した条件で増え、集まった個体は蒸発する水分が約50%少なかった、と紹介されています[6]。
ここで注意したいのは、これが実験室の条件での結果だという点です。野外で何匹ほどが集まるのかを示すものではありません。
ところで、ここまでの工夫は、ワラジムシ自身が持つものです。では、そうして守られた虫が、どうやって遠い国に渡ったのでしょうか。
Broly ほか(2014)は、ワラジムシで集合が個体あたりの水分損失速度を下げることを示した。抄録の要約によれば、大きな集団では1個体あたりの損失速度が単独時の半分以下になり、効果は50〜60個体ほどで頭打ちになる[5]。つまり、集まれば集まるほど守られる、という単純な関係ではない。
先行研究のレビューでは、Warburg(1968)が、集合が乾燥した条件で増え、集合した個体は蒸発する水が約50%少ないと報告したと紹介されている[6]。水分を失いやすい動物ほど集まる行動に頼る、という筋書きと矛盾しない。
ただし限界がある。実験室での測定であり、野外で個体が実際に何匹で集まるのかではない。また、集まることがなぜ水分損失を減らすのか、その機構は今回の資料の範囲では書かれていない。数値は「半分以下」「50〜60個体で頭打ち」の範囲で読むのが妥当である。
個体と集団の工夫でも、広がった範囲は説明しきれない。ヨーロッパの虫が、なぜ他の大陸にいるのか。
5. ヨーロッパの 虫が、どうして 日本にも いるの?
5. ヨーロッパの虫が、人の活動で世界へ広がった
5. 外来分布:原産地と、人間活動による移動の手がかり
ワラジムシの ふるさとは、ヨーロッパだと されて います。オーストラリア、きたアメリカ、南アフリカなどでは、外から 来て すみついた 虫として しられて います[2]。
ふるさとから 遠くへ 行けたのは、人の 活動で はこばれたからだと 考えられて います。みなみの 海の マリオンとうでは、2001ねんに はじめて 見つかりました。たてものの ざいりょうと いっしょに 入った かのうせいが あると、2002ねんの ほうこくで いわれて います[2]。
日本の ワラジムシは、近ごろに なってから 入った 虫で、ヨーロッパが ふるさとらしい、と しょうかいされて います[7]。いつ、なにに のって 来たのかは、はっきり していません。
原産地と、定着した国々
ワラジムシの原産地はヨーロッパとされます。オーストラリア、北米、南アフリカなどには、外来種として定着しています[2]。
世界の外来分布は、人の活動で運ばれて広がったとされています。亜南極のマリオン島では2001年に初めて記録され、建築資材とともに入った可能性が、Slabber と Chown(2002)の報告で指摘されています[2]。
日本では
日本のワラジムシは近世になってから入った種で、原産地はヨーロッパらしいとされています[7]。ただし、日本大百科全書には「ユーラシア大陸原産といわれる」とあり、資料によって書き方が少し違います[1]。入った時期は「近世以降」としか分からず、何に乗ってきたかも、資料には書かれていません。
人家の庭や地下室が、ワラジムシにとって使いやすい湿った場所だったことは、広がりやすさと関係しているのかもしれません。ただし、これは資料に書かれた因果ではありません。
原産地はヨーロッパとされ、オーストラリア、北米、南アフリカなどで外来種として定着している[2]。外来分布の大部分は、人間活動を通じて拡大したとされる。亜南極のマリオン島では2001年に初めて記録され、建築資材に伴って侵入した可能性が、Slabber & Chown(2002, Polar Biology 25:855)で指摘されている[2]。ここは「可能性」であり、入り方が確定しているわけではない。
日本について、名古屋市衛生研究所の資料は、近世になってからの侵入種で原産地はヨーロッパらしい、と述べる[7]。一方、日本大百科全書では「ユーラシア大陸原産といわれる」と書かれており[1]、原産地の記述は資料で食いちがう。本稿は「ヨーロッパ原産とされる」と弱めて扱う。
侵入の時期は「近世以降」としか示されず、経路の資料はない。なお、オカダンゴムシについては明治以降に入ったと考えられており[7]、ワラジムシの「近世以降」とは別の記述である。
ここで、前の章までとの接点を考えたい。堆肥置き場、庭、地下室でも見つかること[2]は、人家の周辺にもワラジムシが使える湿った暗所があることを示す。それが分布拡大にどう寄与したかは資料の因果としては書かれておらず、本稿の推測にとどまる。
6. 石の 下の しめりぐあいを 見て みよう
6. 庭やベランダで、湿り気と数を見てみる
6. 身近な場所で、湿り気と個体数の関係を観察する
おうちの 人と いっしょに、うえきばちや いしの 下を 見て みましょう。ワラジムシが いたら、その 下の つちが しめって いるか、ゆびで そっと さわって たしかめます。
ワラジムシは にげるので、やさしく 見て、おわったら もとの ばしょに もどします。さわった あとは、手を あらいます。
しめった ところと かわいた ところで、ワラジムシの かずは ちがうでしょうか。ほかの 日にも 見て、くらべて みても おもしろいです。
湿り気と数を、日を変えて比べる
土に触れられる庭の石の下や、土の入った植木鉢の下を、家の人と一緒に見てみましょう。ワラジムシがいたら、その下の土を指でそっと触って、湿っているかを確かめます。見つけた数と湿り気を、ノートに書きます。
雨の続いた日と晴れの続いた日で、同じ場所を比べるのもよい方法です。見終わったら、石や鉢は元の位置に戻し、手を洗います。
原典にあたるなら
集まる行動の実験は、Broly ほか(2014)の論文にあります。英語の抄録は、出典欄のDOIから探せます。
観察の案を示す。植木鉢の下や庭の石の下を、昼間に見て、ワラジムシの数と、その下の土の湿り気を記録する。雨が続いたあとと晴れが続いたあとで同じ場所を比べると、乾燥した時期ほど少数の場所に集中するか、確かめられるかもしれない。これは、本稿で紹介した集合の実験とは別の、野外での簡単な観察である。
観察のあとは、石や鉢を元の位置に戻し、手を洗う。虫を傷つけないよう、触るときはそっとする。
原典は、Broly ほか(2014, Physiological Entomology 39:165)、Jaenicke ほか(2009, Developmental & Comparative Immunology 33)である。ただし、出典欄の資料は抄録や二次資料の要約が多く、数値の細部は原論文で確かめる必要がある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。数値や分布は、資料によって書き方が少し異なることがあります。
- ワラジムシ(世界大百科事典・日本大百科全書、コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%82%8F%E3%82%89%E3%81%98%E3%82%80%E3%81%97-3176851 (分布・生息場所・擬気管・原産地の記述)
- IUCN Global Invasive Species Database: Porcellio scaber https://iucngisd.org/gisd/speciesname/Porcellio+scaber (生息場所・原産地・外来分布。マリオン島の記録は Slabber & Chown 2002, Polar Biology 25:855–858 による)
- British Myriapod & Isopod Group: Porcellio scaber https://bmig.org.uk/species/Porcellio-scaber (家の中での見かけやすさ・近縁種との比較)
- ホンダ「ダンゴムシ」(Honda Woods 活動紹介) https://global.honda/jp/philanthropy/hondawoods/forest/activity/038/ (海から来た祖先・呼吸の解説)
- Broly et al. 2014, Physiological Entomology 39:165 https://doi.org/10.1111/phen.12060 (集合と水分損失の実験。抄録の要約)
- Fialová & Tuf 2025, ZooKeys https://zookeys.pensoft.net/article_preview.php?id=125030 (Warburg 1968 の先行研究の紹介)
- 名古屋市衛生研究所「ダンゴムシ・ワラジムシ類」 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/eisei/1015269/1034848/1015298/1034491/1015373.html (日本への侵入・ホソワラジムシの生息場所)
- Jaenicke et al. 2009, Developmental & Comparative Immunology 33(10):1055–1063 https://www.rlp-forschung.de/public/publications/19268 (ヘモシアニンの呼吸と免疫の働き)
- ヘモシアニン(デジタル大辞泉、コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%83%98%E3%83%A2%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%B3-3168899 (ヘモシアニンの説明)
- Wikipedia (en): Porcellio scaber https://en.wikipedia.org/wiki/Porcellio_scaber (体表・行動の概要。要約のみのため弱めて使用)
なおした ところ
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